著者
平賀 岳彦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.379-390, 2017-06-15 (Released:2017-07-25)
参考文献数
37
被引用文献数
2

ファインセラミックス合成とその物性を参考にした,岩石を模擬した人工ファイン岩石を用いた研究を総括する.まず,天然の岩石とファインセラミックスの粒界において,共通な構造と偏析が存在していることが示される.また,その粒界の移動した結果(粒成長)生じる,相(鉱物)間の粒径の関係,ゼナー則が成り立っていることが分かった.初期条件(化学組成等)や形成条件(時間,圧力等)が極めて異なる両者において,その微細構造は相似の関係が成り立っている.人工ファイン岩石の超塑性の発現とその変形微細構造が,マイロナイトやマントル岩を含む変成岩の構造と比較され,粒界すべりに伴う,同相粒子集合化構造,変形誘起粒成長および結晶軸選択配向が議論される.ファインセラミックスと岩石のアナロジーの本質は,「共通な」粒界による「共通な」粒界現象にある.決定的に知るのが困難な岩石形成プロセスの理解において,今後も人工ファイン岩石を用いた実験的研究の重要性は増すだろう.
著者
井村 隆介 石川 徹
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.120, no.Supplement, pp.S155-S164, 2014-08-31 (Released:2014-12-26)
参考文献数
16

霧島山は,南九州の鹿児島・宮崎の県境に位置する,第四紀の複成火山である.本コースでは,2010年に日本ジオパークネットワークに登録された霧島ジオパークのジオサイトを巡りながら,霧島山の噴火史や2011年1月に始まった新燃岳(しんもえだけ)噴火について紹介する.巡検では,まず,麓から霧島火山全体の地形や生い立ちを学び,その後,高千穂河原(たかちほがわら)や新湯(しんゆ)付近にて,2011年の噴出物や噴火による地形の変化などを観察する.噴出物に覆われた地域の植生回復の様子も見どころのひとつである.
著者
小林 真生子 齊藤 毅 沖津 進
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.632-636, 2011-11-15 (Released:2012-03-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

埼玉県の松山層群に属する中新世の楊井層は大型植物化石を多く産出する.楊井層の年代を明らかにすることは,同時代の植物化石フロラを比較し,日本の中新世の古植生を復元するうえで重要である.そこで,楊井層の2つの凝灰岩の中に含まれるジルコンでフィッショントラック年代を測定した.その結果,楊井層の最下部凝灰岩(Y-1凝灰岩)のフィッショントラック年代は9.1±0.7 Ma,最上部凝灰岩(Y-9凝灰岩)のフィッショントラック年代は9.6±1.3 Maであった.これらの結果から,楊井層は後期中新世の地層であると考えられる.楊井層の植物化石フロラは群馬県の上部板鼻層の植物化石フロラに年代が近いと考えられる.両植物化石フロラを比較すると,楊井層には山地に生育する植物種の化石は含まれていなかったが,上部板鼻層の植物化石群には山地の植生を構成する種が含まれていた.楊井層の植物化石は板鼻層よりも山地から遠い場所で堆積したと考えられる.
著者
小林 貞一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.38, no.459, pp.629-640, 1931-12-20 (Released:2008-04-11)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

Lately Mr., C., Kato, teacher of Kishiwada Middle School, informed me with a findeing of new fosseillocalities in the Izumi sandstone series to the south of City Osaka; so I made with him a short trip to those localities., What follow are the chief points ascertained by this trip., 1) Nothing has been known before of the base of the Izumi sandstone series in the Izumi sandstone belt., According to the previous work, it is said that the series is intruded by granite in its western portion and cut by a fault in its eastern portion., But I found at Akiyama a good exposure of the base of the Izumi sandstone series., There the series overlies, uncon formably upon a granitic rock mass., The basal congolmerate bed dipping about 30 degrees to the south, consists mainly of granitic pibbles and arkose cement, both of which must have been derived from the basement rock., Dr., S., Yehara's assumption of the fault-contact between the Izumi sandstone series and the granite mass is not correct, so far as my observation goes., (See the unconformity at Akiyama on Plate IX., ) 2) The Izumi sandstone sereis can be divided into the following (in the ascending order):- 1., Kasaya conglomerate., 2., Asenotani shale., 3., Kinyuji sandstone and conglomerate., 4., Warazuhata shale and sandstone., 5., Tsuzurahata sandstone and conglomerate., The series forms a syncline, running parallel to the Median Dislocation Line, which separates the series from the crystalline schist group in the Outer Zone of Southwestern Japan., 3) The fossile have been never found from this type-locality of the Izumi sandstone series, in contrast to their abandant occurrence at Anaga on the Awaji Island., I found however that the Asenotani shale contain many fossils and serves as a key-bed in the series., The fossils collected form the shale are shown in the table in the Japanese text, of which more important are Gaudryceras tenuiliratum Yabe (Plate X) and Parapachydiscus aff., Egertoni Forbes (Plate XI), the former being known from the Upper., Ammonite Bed of Hokkaido and Sachalin while the latter from the Upper Senonian of India and Europe., As summarized by Professor H., Yabe, the Urakawa, or Japanese Senonian, series overlies unconformably on the Palaeozoic rocks in the Abukuma mountainland and gneiss and crystalline schist in Kyushu., In connection with these facts, the unconformity relation between granite mass and the Izumi sandstone series treated in the present paper may be of significance for the consideration of the Senonian transgression in Japan.,
著者
中村 庄八 藤本 光一郎 中山 俊雄 方違 重治
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.8, pp.397-412, 2016-08-15 (Released:2016-09-02)
参考文献数
42

群馬県北西部の吾妻地域は日本海拡大時に形成された関東北部のリフト帯の縁辺部に位置し,中新世から現在に至る断続的な火山活動で特徴づけられている.日本海拡大以降の本州中央部の地質構造形成や火成活動を考えるうえで重要な地域と考えられる.本見学コースの吾妻川中・上流域では,中新世にはバイモーダルな海底火山活動が中心だが,鮮新世以降陸上の環境となって安山岩質からデイサイト質の火山活動が主体となった.しかし,地層の連続性が乏しく層理も明瞭でなく,変質作用を広汎に受けていることによって進まなかった地層の分布や層序の解明は近年になってようやく前進するに至った.また,本地域は長年にわたって議論されてきた八ッ場ダム建設地を含み,応用地質的にも興味深い地域である.本巡検においては,開析された火山体を構成する塊状の溶岩や火山砕屑岩を特徴づける鮮新世の八ッ場層と同時期ないしその一連の火山活動に関連した岩脈・貫入岩体および酸性変質帯を,また,前期更新世に新たに活動を開始した菅峰火山を構成する火山岩,さらに,後期更新世に浅間火山の活動により流下した応桑岩屑なだれ堆積物,草津白根火山の熱水活動により形成された殺生河原の変質帯の見学を行う.
著者
山元 孝広
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.109-126, 2016-03-15 (Released:2016-06-21)
参考文献数
62
被引用文献数
8

赤城火山,新期成層火山の軽石流堆積物と降下軽石堆積物の対比と噴出物のマグマ体積の計測を行い,マグマ噴出量時間階段図を作成した.火山体形成期(約22-15万年前)に続く軽石噴火期には,5.8万年前の赤城カルデラ形成噴火前に,マグマ噴出率の低下期が起きている.軽石の微量元素成分組成の特徴は,K2O量の高い珪長質マグマほど下部地殻部分溶融メルトの関与が大きいことを示しており,下部地殻へのマグマの大量貫入を契機にマグマ噴出率などの活動様式の変化が起きたことを示唆している.
著者
細井 淳 天野 一男
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.493-498, 2012-08-15 (Released:2012-12-19)
参考文献数
23
被引用文献数
1

海底噴火に伴う巨大軽石の種類は,海底火山活動の種類や形成環境に左右される.そのため巨大軽石の解析は過去の海底火山活動や噴火環境の推定に役立つ.今回,奥羽脊梁山脈に分布するグリーンタフ中から発見した巨大軽石は気泡が伸長した跡が残されており,グリーンタフ中で初めて材木状軽石と認定できた.材木状軽石は水深約1000 m以深で形成される気泡がパイプ状に伸長した巨大軽石である.本発見は本研究地域のグリーンタフを噴出した古海底火山活動の場を制約する重要な鍵になる.材木状軽石は琉球弧や伊豆・小笠原弧の背弧リフト帯から発見されている.現在の背弧リフト帯における材木状軽石と海底熱水鉱床の存在は,本研究地域の材木状軽石と黒鉱鉱床の存在という点で類似する.この事実は本研究地域が背弧リフト帯と同様のテクトニクスや火山活動下にあった可能性を示唆している.
著者
池田 安隆 岡田 真介 田力 正好
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.294-312, 2012-05-15 (Released:2012-10-05)
参考文献数
100
被引用文献数
10 22 5

東北日本弧においては,測地学的観測で検出された水平短縮歪み速度が地質学的に観測される歪み速度よりおよそ一桁大きい.同様の不一致は垂直変動速度に関しても存在する;太平洋岸で急速な沈降が観測される一方で,第四紀後期の旧汀線高度は緩慢な隆起を示す.これは現在急速に蓄積している地殻歪みの大部分が弾性歪みであり,プレート境界の固着部分がすべることで解消されるということを示している.しかし,過去100年間に起こったMw 708級の海溝型地震は歪み解放に寄与していない.したがって,プレート境界の固着面全体がすべる巨大歪み解放イベントが存在するはずであり,2011年東北地方太平洋沖地震はこのような固着解放イベントであると考えられる.東北日本では幅広い固着領域の浅部のみが地震時にすべり,割れ残った深部固着域で余効すべりが起こるらしい.このような深部固着は,他の超巨大地震発生帯には存在しない可能性が高い.日本海溝に沈み込んでいるプレートの年齢は極めて古く従って低温であるから,このように深い固着域が存在するのは熱的な原因によると考えられる.
著者
鈴木 寿志 石田 志朗
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.9, pp.565-568, 2005 (Released:2006-01-01)
参考文献数
29

The geochronologic units of Palaeogene and Neogene have long been described in Japanese as "Kodaisanki" and "Shindaisanki", which mean old and young Tertiary, respectively. The International Commission on Stratigraphy, however, recently proposes the revised geochronologic chart, demonstrating the subdivision of the Cenozoic Era into the Palaeogene and Neogene Periods instead of the Tertiary and Quaternary. The Japanese wording "Kodaisanki" and "Shindaisanki", therefore, should be reconsidered in terms of derivatio nominis of Palaeogene and Neogene. Here we review the Japanese usages of Palaeogene and Neogene in previous textbooks back to the end of the nineteenth century. It is concluded that the words "Koseiki", "Shiseiki" or "Kyuseiki" for Palaeogene and "Shinseiki" or "Kinseiki" for Neogene have already been proposed and described by Prof. Matajiro Yokoyama. These Japanese terms for Palaeogene and Neogene would be taken into consideration to write geological reports and papers in Japanese.
著者
草川 遥 髙嶋 礼詩
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.389-404, 2023-08-09 (Released:2023-08-09)
参考文献数
52

鮮新統の仙台層群・向山層の岩相層序を検討した結果,同層からは対比可能な6つの凝灰岩が認められ,下位より,大堤沢凝灰岩,広瀬川凝灰岩,蒲沢凝灰岩,鹿落坂凝灰岩I,鹿落坂凝灰岩II,塩野沢凝灰岩と名付けた.これらの凝灰岩はアパタイト微量元素組成により明瞭に識別可能で,仙台地域で広く対比可能であることが明らかになった.ただし広瀬川凝灰岩に関しては,一部の地域でアパタイトや斜方輝石・角閃石の有無に大きな違いがみられ,同一の噴火によるものか,堆積後の風化・続成作用によるものかについては今後さらなる検討が必要と考えられる.向山層の凝灰岩のジルコンのU-Pb年代によると向山層の年代は3.7~3.5 Maと推定される.
著者
松岡 敬二 井上 恵介 川瀬 基弘
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.333-344, 2021-06-15 (Released:2021-09-30)
参考文献数
71

鮮新-更新統古琵琶湖層群は,三重県から滋賀県にかけて分布する湖沼および河川堆積物からなる.古琵琶湖層群からの哺乳類や貝類化石は,江戸時代の弄石(ろうせき)仲間では広く知られる存在であった.今回の巡検地である伊賀盆地(上野盆地)東方の大山田地域は,古琵琶湖層群の下部が分布し,日本の鮮新世を代表する化石を産出している.その熱帯~亜熱帯要素を含む淡水生動物化石は,伊賀非海生動物群としてまとめられている.この巡検では,それらが産出した地層を案内し,露頭の現地保全とその重要性について論議するものである.
著者
青矢 睦月 平島 崇男 高須 晃 榎並 正樹 Simon Wallis 榊原 正幸
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.107, no.12, pp.XXI-XXII, 2001 (Released:2010-11-26)
参考文献数
2
被引用文献数
1 2

2001年の9月1日から7日に渡り, 愛媛県の新居浜市, 土居町, 別子山村を舞台に開催された国際エクロジャイト会議(IEC)の記念碑が別子山村の瀬場に建立された(Fig.1).材料となった重量10トンにも及ぶエクロジャイトの転石(Fig.2)は1998年, 京都大学の岩石学グループが別子巡検を行った際に瀬場谷川下流域で見つけたものである. 極めて保存の良い美しいエクロジャイトであったため(Figs.3-5), 昨年11月, IEC記念碑の建立を計画していた別子山の村長らにその転石を紹介したところ, 村側も大変気に入り, 即, 採用の運びとなった.
著者
小西 拓海 宇都宮 正志 岡田 誠 田村 糸子
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.469-487, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
50

本研究では下部更新統上総層群下部(前弧海盆堆積物)と千倉層群畑層(海溝陸側斜面堆積物)について古地磁気層序とテフラ層序に基づく時間面対比を行った.上総層群勝浦層最上部と大原層上部~黄和田層にFeni(Réunion)正磁極亜帯とOlduvai正磁極亜帯に相当する正磁極性がそれぞれ確認され,それ以外の層準でMatuyama逆磁極帯に相当する逆磁極性が確認された.千倉層群畑層のテフラ層Kmj-3,Kmj-10,Kmj-18,Kmj-29,Kmj-41,Kmj-53,Kmj-68,およびKmj-71が上総層群のテフラ層Kr31,KRm,KH2,IW2,OFN2,KB,HS C,およびHS Aにそれぞれ対比された.これらのテフラ対比は古地磁気層序と調和的であり,上総層群のテフラ層IW2はFeni正磁極亜帯内,HS CはOlduvai正磁極亜下部境界の直下,HS Aは同境界直上にそれぞれ位置することが示された.
著者
藤本 幸雄 林 信太郎 渡部 晟 栗山 知士 西村 隆 渡部 均 阿部 雅彦 小田嶋 博
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.114, no.Supplement, pp.S51-S74, 2008-09-18 (Released:2011-12-22)
参考文献数
130
被引用文献数
2 1

男鹿半島には白亜紀後期の基盤花崗岩類から古第三紀火山岩類,新第三紀火山岩類・海成層,第四紀層と海成段丘,火山岩及び火山地形,砂丘などが整然と分布している.そのため男鹿半島は,東北地方日本海側の9000 万年ないし6500 万年前からの地史を考える上で重要な地域になっている.風光明媚にして男性的な景観には,このような地質体の形成過程・多彩な地史が刻み込まれており,自然界の営みの中に歴史を作る人々の営為も垣間見ることができる.災害・産業・環境問題・自然認識などをはじめとして,地学は教育の重要な柱として一層の活用が求められている.ここでは近年得られた新知見を加え,地質体の形成過程・地史について解説し,合わせて地学教育上の要点を挙げてみる.
著者
三重県大型化石発掘調査団
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.IX-X, 1997 (Released:2010-12-14)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

松尾層群は, 志摩半島東部の秩父累帯中帯にあって, 中帯の主体をなすジュラ紀付加体青峰層群を傾斜不整合で覆う前弧海盆堆積物とされている. 本層群は以前から汽水生の前期白亜紀貝化石を多産する地質体として, 広く知られていた(山際, 1955, 1957; 山際・坂, 1967).このたび, 標記調査団の一員である金子, 高田, 谷本, 藤本が本層群から大型恐竜の骨格の一部である脛骨の化石を発見した. その連絡を受けた三重県教育委員会は亀井および山際に調査を依頼し, その結果, 発掘調査団が組織された. 調査団は, 関係当局の協力を得て, 1996年9月6日から23日まで発掘・調査を行った. 詳細は, 化石の発掘, 剖出および古生物学的な記載の完了を待って報告される予定であるが, ここに発掘の概要を速報する.化石を含む地層は, 鳥羽市安楽島の秩父累帯中帯で, 蛇紋岩を伴う断層を介して青峰層群とくり返し帯をなして分布する松尾層群の分布域の1つ(坂ほか, 1988の加茂帯)に属している. 化石は, 北方に面した海崖をなす泥質岩卓越相中の, 厚さ約50cm, 走向E―W, 傾斜90°の泥岩層に密集して含まれている. 折から来日中の中国科学院董枝明博士をまじえた発掘開始前の調査では, 西から東に向かって, 脛骨, 上腕骨, 肩甲骨, 大腿骨と同定される骨化石が発見された(発掘後, 脛骨を包むマトリックスから腓骨が剖出された). これらの骨化石は, その産状や位置関係から本来の部位関係をほぼ保っているとみなされ, 1個体の恐竜遺体が汀線付近から沖合に運ばれて水底に沈み, そのまま埋没するか, あるいは, 軟体部の腐乱後, その躯体骨がほとんど乱されることなく埋没したものと判断される. したがって, その西側に頭骨が存在していた可能性がある. ただ, 露頭面が埋没した恐竜骨格のほぼ正中面に当たると思われ, 侵食によって頭骨部分はすでに失われた可能性が大きいと推定される. 運搬営力としては, 化石を含む泥岩層の上・下位層中にストーム起源を示唆する堆積構造が卓越していることから, ストーム時の沖合に向かう流れが考えられる.これまでに確認された骨化石と地層中におけるその産状から判断すると, 体長22m前後の竜脚類のものと考えられる.
著者
池田 倫治 後藤 秀昭 堤 浩之
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.445-470, 2017-07-15 (Released:2017-08-03)
参考文献数
118
被引用文献数
4 3

西南日本の地体構造を考える上で中央構造線は欠くことのできない地質要素のひとつである(以下では,便宜的に地質境界の中央構造線を表現する場合には「中央構造線」を,活断層としての中央構造線を表現する場合には「中央構造線活断層系」を,また両方の断層を包括して表現する場合には「中央構造線断層帯」を用いる).中央構造線断層帯は長い活動史を持ち,白亜紀に西南日本内帯/外帯の地質境界として形成されてから,現在もその一部が活断層として活動している.しかし中央構造線と中央構造線活断層系の地下深部構造については現在も議論の分かれているところである.一方で,全長400km以上にわたる横ずれ活断層の破壊過程には不明な点が多いため,地震防災上も注目され地質学的のみならず地震学的にも研究が進められている.特に1995年兵庫県南部地震以降,正確な断層分布の把握,最新活動時期,活動間隔あるいは変位量といった断層活動性評価に資する情報が急速に蓄積されてきた.さらには,その様な活動性情報の収集は,長大横ずれ断層である中央構造線活断層系の断層セグメンテーションの検討を促進し,その結果,断層破壊過程あるいは発生する地震の規模予測の議論へと展開されている.本巡検では,四国西部の中央構造線と中央構造線活断層系を時空間的に意識しながら断層露頭を訪れ,地質境界の産状および活断層地形を観察する.また,中央構造線の活動で形成された第二瀬戸内層群である郡中層の産状についても観察し,様々なフェーズにおける中央構造線断層帯の運動像に迫る.
著者
三田村 宗樹
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.405-413, 2023-08-09 (Released:2023-08-09)
参考文献数
21

琵琶湖より下流の淀川流域は,これまで幾度も氾濫を繰り返してきた.1885年(明治18年)の氾濫は,淀川流域の水害の中でも最大規模であった.この水害をきっかけとして,本格的な淀川の河川改修がなされた.この改修では,大阪平野域の淀川の蛇行が和らげられ,現在の淀川本流となる直線的な排水路としての新淀川が開削された.大阪市内中心部を流れる大川(旧淀川)は,毛馬洗堰によって新淀川と分離され,大川への流量制御が行われるようになる.この毛馬洗堰には,水準測量の基準点である水準基標が設置されていた.しかし,1946年昭和南海地震に伴う地殻変動,第二次世界大戦後の復興期の過剰な地下水揚水に伴う地盤沈下によって,基標の変動が生じ,水準基標は茨木市福井に移設された.現在の毛馬には,改築された洗堰や大規模排水機場があり,大阪市内の洪水防止を担う重要な箇所となっている.本巡検では,毛馬から大川沿いを歩き,災害履歴や河川改修をもとに地域の水害リスクを考える素材としての明治18年淀川大洪水や淀川改修工事にかかわる石碑や遺構などを見学する.