著者
林 麻子 早坂 格 鈴木 秀久 小林 徳雄 佐々木 聡
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.82-87, 2013-04-15 (Released:2013-10-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1

漢方薬の関与が考えられた薬剤性膀胱炎の2例を経験した。症例1は6歳女児。原因不明の肉眼的血尿と頻尿にて当科受診,検尿にて高度蛋白尿が認められた。MRIを含む画像検査にて一部隆起性の膀胱壁肥厚,粘膜肥厚がみられ腫瘍性病変との鑑別を要した。症例2は11歳女児で,2か月間続く血尿と蛋白尿,無菌性膿尿のため当科紹介受診となった。超音波検査にて膀胱壁肥厚を認めた。症例1は柴胡加竜骨牡蠣湯エキスを約3年前から,症例2は温清飲を約1年前から内服しており,両者とも薬剤中止により膀胱炎症状が徐々に改善し,画像検査所見も正常化した。薬剤性膀胱炎は多彩な臨床症状を呈し得る疾患であり,時に画像検査上,腫瘍病変と類似した膀胱の形態異常を示すことがあり,その診断,治療に際して十分に留意すべきであると思われた。
著者
井上 なつみ 山宮 麻里 田崎 優子 石川 さやか 篠崎 絵里 上野 和之 横山 忠史 前田 文恵 千田 裕美 井上 巳香 清水 正樹 前馬 秀昭 酒詰 忍 太田 和秀
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.137-140, 2014 (Released:2015-05-11)
参考文献数
10

シクロスポリンA(Cyclosporine A; CyA)の内服法の変更を徹底することで寛解維持が可能となったネフローゼ症候群(巣状糸球体硬化症)の症例を経験した。症例は12歳女児,7 歳時にネフローゼ症候群を発症し,他院でプレドニゾロン,CyA にて治療されていたが,再発を繰り返し完全寛解に至らず当院へ紹介された。CyA は,前医でも血中濃度を定期的に測定され,7.7 mg/kg 分2 でC0 70 ng/mℓ,C2 500 ng/mℓ程度であったが血中濃度は安定せず,上昇しにくいとのことであった。当院紹介後,前医での内服方法が食後投与で,食事時間や内服時間も不定であったことが判明した。そこで,当院では規則正しく食事をし,さらに食前30 分前(空腹時)の内服を徹底するよう指導した。その結果,5.5 mg/kg 分2 でC0 60~100 ng/mℓ,C2 600~1000 ng/mℓと血中濃度が上昇しCyA の投与量も減量できた。さらに,安定した血中濃度が得られ寛解を維持することも可能となった。CyA を投与する際には,定期的な血中濃度測定だけでなく,内服状況の確認とその指導が非常に大切だと思われた。
著者
大原 信一郎 川崎 幸彦 陶山 和秀 小野 敦史 菅野 修人 鈴木 重雄 鈴木 順造 細矢 光亮
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.55-59, 2015 (Released:2015-10-15)
参考文献数
12

要旨 Wunderlich 症候群は重複子宮,片側子宮膣部閉鎖,同側の腎無形成を伴う稀な疾患である。患側子宮膣内に経血が貯留する月経困難症を契機として,10代前半以降に診断されることが多い。症例は11歳,女児。日齢3,初期嘔吐症の診断で近医に入院した際の腹部超音波検査(ultrasonography: US)で右腎無形成を指摘され,定期的にフォローされた。3 歳時の腹部US にて膀胱背部に囊胞性病変が確認されていた。11 歳時に腎機能および腎尿路・生殖器の形態評価目的に当科受診した。MRI 画像で右腎無形成,重複子宮,右側子宮頸部の囊胞状拡張を認め,膣鏡診にて右膣の閉鎖を確認し,Wunderlich 症候群と診断した。自覚症状は認めなかったが,月経発来後の12歳時,待機的に膣中隔切除・開窓術を施行した。自験例は,片側腎無形成に合併するWunderlich症候群を念頭におき,二次性徴発来時期にMRI による合併奇形の評価を行うことで早期診断し,待機的に手術し得た貴重な症例であると思われた。
著者
佐藤 忠司 山村 由華 古賀 広幸 宮崎 澄雄
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.29-32, 1999-04-30 (Released:2008-11-05)
参考文献数
6

TLS (Tumor lysis syndrome) は化学療法により,またはまれに自然に悪性腫瘍が急速崩壊し,高UA (尿酸) 血症などの代謝障害に引き続きARF (急性腎不全) に至る症候群である。私たちはALL (急性リンパ性白血病) の8歳女児例に抗腫瘍剤VCR (Vincristine),DNR (Daunorubicin),MTX (Methotrexate) の投与を開始したところ翌日までに麻痺性イレウス (腸閉塞) を発症した。その後3日間で高UA血症,高りん血症などが進行し,急性腎不全となった。低Ca血症,低Na血症,肺水腫などを合併したが腹膜透析療法を含む集中治療を行い救命した。
著者
平沢 光明 元吉 八重子 小野 静香 北川 達士 横田 俊介 亀井 宏一 横井 匡 古川 晋 山口 明日香 宮田 理英 清原 鋼二
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.9-15, 2023 (Released:2023-02-02)
参考文献数
15

小児ネフローゼ症候群の治療に用いられるステロイド薬には,複数の副作用があり,緑内障はその一つである.しかし,ステロイド緑内障は点眼薬による治療で改善することも多く,手術まで要する症例は少ない.我々は,初発のネフローゼ症候群に対してステロイド治療開始後早期に眼圧上昇を認め,両眼に線維柱帯切開術を施行するも,ネフローゼ症候群再発の際にもステロイド治療に伴い,眼圧上昇を認めた症例を経験した.本症例は,一般的なステロイドレスポンダーの要素に加え,隅角形成不全も伴っていた.そのことによりステロイド治療開始早期に急激な眼圧上昇を来し,緊急の緑内障手術が必要になったと思われる.ステロイド治療による緑内障の発症は,本症例のように急速かつ重度な経過をたどる可能性もあるため,ステロイド使用時には可及的速やかな眼圧の確認・管理が重要である.
著者
中崎 公隆 諸橋 環 清水 翔一 河村 研吾 高橋 昌里 森岡 一朗
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
pp.cr.2019.0164, (Released:2020-07-17)
参考文献数
11

症例は 9 歳男子.腹痛発作を主訴に受診し,左腎に高度の水腎症を認めた.当初無機能腎として腎摘出術も検討されたが,腎実質障害は可逆性と判断し腎盂形成術を実施したところ,著明な腎機能の改善が得られた.高度な水腎症で検査上無機能と判断される場合でも,不可逆性の組織変化を来す病態以外では腎温存術を検討する必要がある.
著者
杉本 圭相
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.112-118, 2017 (Released:2017-11-15)
参考文献数
41

ネフロン癆(nephronophthisis: NPH)は,腎髄質に囊胞形成を認める進行性の囊胞性腎疾患の代表であり,小児期の末期腎不全の約5%を占める。組織学的には,進行性の硬化,硝子化糸球体を伴う尿細管間質性腎炎像を呈する。遺伝形式は主として常染色体劣性遺伝を示す。NPH の初期症状は,多飲,多尿,尿最大濃縮能の低下,二次性の遺尿や成長障害であるが,病勢がかなり進行した末期腎不全の状態で発見されることも少なくない。低比重尿や低分子蛋白尿は特徴的な検査所見である。また,NPH は眼や顔貌・骨格異常といった腎外症状を合併するため,診断の手がかりとなる。NPH 発症に関与する責任遺伝子はNPHP であるが,その同定率は約30%にすぎない。近年,全エクソーム解析の進歩により原因遺伝子が増加している。本邦ではNPH の診断基準が作成され,今後,NPH 未確定診断例の確定診断への指針となると思われる。
著者
中溝 智也 多田 憲正 宇田川 智宏 菊池 絵梨子 亀井 宏一 森 崇寧 蘇原 映誠 松岡 健太郎 白井 謙太朗 渡辺 章充
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
pp.cr.2022.0206, (Released:2022-10-26)
参考文献数
34

Galloway-Mowat症候群(GAMOS)は小頭症を伴う精神発達遅滞とステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(SRNS)などの腎症を呈する疾患である.GAMOSにおける腎症は,治療抵抗性のため生命予後を規定する.今回シクロスポリン(CsA)で長期間の寛解を維持しているGAMOSの1例を報告する.1歳健診で精神発達遅滞,小頭症を指摘された.2歳時に蛋白尿を認め,5歳時にSRNSの基準を満たし,腎生検で巣状分節性糸球体硬化症を認めた.以上よりGAMOSと診断した.SRNSに対してCsAを導入したところ尿蛋白は減少し,7歳時に不完全寛解した.寛解維持した後にCsAの中止を試みたところ蛋白尿が増悪したため,CsAが尿蛋白減少に寄与していると判断した.腎毒性軽減のため8歳時から1日1回の投与へ変更し,14歳時の腎生検で明らかな腎毒性は認めなかった.CsAの単回投与は腎毒性を抑制し,GAMOS腎症のような遺伝性SRNSの予後改善に有効な可能性がある.
著者
中西 浩一
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
pp.op.2022.2004, (Released:2022-10-28)
参考文献数
60

第57回学術集会を担当し,テーマは「小児腎臓病のエビデンスを紡ぐ」とした.「紡ぐ」とは綿や繭を錘にかけて繊維を引き出し,縒りをかけて糸にすることで,比喩的に言葉をつなげて文章を作るといった使い方がされる.エビデンスをつないでいく,また,ひとつひとつのエビデンスを組み合わせて実臨床を形作る,そのような思いを込めて本学術集会のテーマとした.私は実臨床・臨床試験・研究は一連のものだと考えている.これらが有機的につながることにより推進力が生まれ,より良い医療に結びつく.物事を進めるためには,能力,努力,環境,運のいずれもが必要である.環境においては人々の支えが大きい要素の一つである.私はこれまで30年以上にわたり多くの腎臓病をもつこどもの診療にあたってきた.本稿ではこれまでを振り返り,実臨床・臨床試験・研究におけるさまざまな内容を記載し,自らのさらなる尽力を目指しつつ,若手医師にメッセージを伝えたいと思う.
著者
菅原 典子 山村 菜絵子 高橋 安佳里 田澤 星一 久保田 由紀 小澤 恭子 浅田 洋司 田中 佳子 永野 千代子
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.30-36, 2018 (Released:2018-04-15)
参考文献数
15

マイコプラズマ肺炎を疑われ,小児における用法・用量の範囲内のトスフロキサシン(tosufloxacin: TFLX)を内服中に血清クレアチニン(creatinine: Cr)値上昇を来した7 例(4~13 歳)の臨床経過を検討した。4~7 回の内服後に血清Cr 値上昇に気づき,内服中止にて回復傾向を認めた。4 例が急性腎障害の診断基準を満たした。4 例で腹部症状を合併したが,内服中止2 日以内に症状は消失した。1 例は腹痛時にコンピューター断層撮影法での小腸壁の肥厚と磁気共鳴画像での腹水貯留を呈した。既報においても腹部症状を合併する例が多いが,その機序や血清Cr 値上昇との関連は不明である。TFLX による血清Cr 値上昇はcast nephropathy がその成因と想定されており,既報では小児における用法・用量を逸脱した内服が行われていたが,本検討の7 例は規定の範囲内での内服にも関わらず血清Cr 値上昇を来した。今後血清Cr 値上昇や腹部症状の発症機序が明らかとなり,より有効かつ安全にTFLX が使用されることが期待される。
著者
藤村 順也 石森 真吾 神岡 一郎 沖田 空 親里 嘉展 西山 敦史 米谷 昌彦
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.35-40, 2017 (Released:2017-04-14)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

インフルエンザウイルス (flu)ワクチン接種,flu 感染は小児特発性ネフローゼ症候群 (NS)再発の誘因となるがその詳細を検討した報告はない。今回,flu ワクチン接種または感染を契機としてNS 再発に至った小児6 例を報告する。flu ワクチン接種によるNS 再発が3 例 (以下,ワクチン再発例),flu 感染によるNS 再発が3 例 (以下,感染再発例)で全例が男児であった。flu ワクチン,感染後に全く再発のないNS 例を対象とし,その背景を検討した。ワクチン再発例では,ワクチン接種3 回全てをNS 初発または最終再発から6 か月未満の時期に行っており対照群 (15 回中3 回)よりも多かった。感染再発例においても,flu 感染3 回全てがNS 初発または最終再発から6 か月未満の時期で対照群 (5 回中0 回)よりも多かった。flu ワクチン,感染に伴ったNS 再発には,背景に症例毎の病勢の影響が存在するかもしれない。本検討は症例数が少なく,今後大規模な多施設共同研究が望まれる。
著者
熊谷 直憲 工藤 宏紀 力石 健 中山 真紀子 高橋 俊成 松木 琢磨 木越 隆晶 内田 奈生 呉 繁夫
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.68-72, 2017 (Released:2017-04-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

血清Na-Cl=36 からの乖離を契機に酸塩基平衡異常が疑われ,血液ガス分析を施行し臨床上有用であった症例を経験した。症例1:3 歳女児。3 か月時に脳腫瘍を発症し集学的治療を受けた。3 歳時に胃腸炎罹患時に低リン血症,低分子蛋白尿,代謝性アシドーシス,くる病から薬剤性Fanconi 症候群と診断された。血清Na-Cl は常に30 以下であり,長期間の代謝性アシドーシスの存在が示唆された。症例2:19 歳女性。9 か月時に横紋筋肉腫を発症し,集学的治療を受けた。治療終了後より血清マグネシウムは緩徐に低下し,19 歳時に低カルシウム血症,低カリウム血症,代謝性アルカローシスと診断された。血清マグネシウムの低下とともに血清Na-Cl は常に40以上であり,長期間の代謝性アルカローシスの存在が示唆された。血液ガス分析を行っていない場合,血清Na-Cl=36 からの乖離により酸塩基平衡異常を推測することは臨床上有用である。
著者
山川 聡
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.114-121, 2016 (Released:2016-11-15)
参考文献数
14

重症浮腫を伴うネフローゼ症候群の中で,急性腎障害を来すNSAKI 症例をしばしば経験する。当院で経験したNSAKI の4 例においては,FENa やFEUN は異常低値であり,Na/K exchange index やレニン活性の上昇を認めた。加えて,高血圧や下大静脈径,hANP/BNP の増加があった。腎実質の浮腫に伴う腎虚血からレニンアンギオテンシン系の亢進が起こった結果, “腎血管の虚血” と“体血管の溢水” とが同時に存在するアンバランスな病態が引き起こされたと考えた。腎不全状態が半年以上続いたにも関わらず回復したNSAKI 症例の検討では,FENa の異常低値の持続から「腎前性腎不全とそれに反応できる尿細管機能の残存」,腎病理からは「尿細管の血流障害により急性尿細管壊死を呈している可逆的な状態」が想定された。NSAKI の治療としては腎実質の浮腫をとることが重要であり,濃厚アルブミン投与と利尿剤併用が考慮されるべきである。
著者
清水 正樹
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.86-94, 2019 (Released:2019-11-22)
参考文献数
31

生体内においてサイトカインは,細胞の増殖,分化,遊走,代謝など多彩な機能的役割を有し,生体の恒常性が保たれるように炎症を制御する役割を果たしている.小児の炎症性疾患では,過剰な免疫応答によりサイトカインネットワークによる生体の恒常性維持機構が破綻し,様々な炎症性サイトカインの産生が異常に亢進することにより,重症化病態が引き起こされると考えられている.したがって複数のサイトカインを同時に測定するサイトカインプロファイル解析は,患者の免疫応答,炎症病態を反映する,様々な小児の炎症性疾患の病態理解,病勢および重症度評価,そして臨床症状の類似した疾患の鑑別に非常に有用な検査法である.今後さらに幅広く臨床へ応用されることが期待される.
著者
藤田 直也 山田 拓司 野村 孝泰 牧野 泰子 村田 水紀 竹中 学 村田 浩章 竹内 幸 長崎 理香 金子 幸栄 伊藤 剛 柴田 麻千子 小山 典久 鈴木 賀巳
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.27-31, 2004 (Released:2006-12-15)
参考文献数
12

新生児の急性腎不全に対する腹膜透析 (PD) ではしばしば除水が困難である。我々は過去に, 腹腔内に少量の腹膜灌流液を貯留した状態を維持しつつ持続的に注排液を行う手法で, 新生児の急性腎不全例を良好に管理できる可能性があることを報告してきた。しかし注液側も排液側も流量を機械的に調節する手法では, 腹腔内に常時適当な量の腹膜灌流液を貯留しておくことが困難であった。今回は新たな試みとして, 排液側の回路をやや挙上することによって腹腔内に常時一定量の腹膜灌流液を貯留した状態を維持しつつ, 持続的に灌流する方法でPDを施行した。すべて既存の物品を用いて実施が可能であり, より簡便に一定の貯留液量を保ちながら持続灌流が可能で, しかも大量の透析液を灌流しても, 全く問題なく治療が可能であった。新生児のPDは, その手法にまだ改善の余地があり, 改良することで, より良好な治療ができる可能性があるものと考えられた。
著者
井庭 慶典 杉本 圭相 柳田 英彦 岡田 満 竹村 司
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.54-59, 2011-04-15 (Released:2011-12-07)
参考文献数
41

血栓発症の背景にはさまざまな基礎疾患が存在し,さらに動脈血栓と静脈血栓ではその基礎疾患や発症病態も異なる。臨床的には単一因子ではなく,多くのリスク因子が混在し血栓が発症すると考えられる。ネフローゼ症候群は血栓形成の基礎疾患として重要であり,合併症として静脈血栓症はよく知られており,その発症には血液粘稠度の亢進に加え,凝固阻止因子の低下が発症の原因と考えられている。今回,ネフローゼ症候群の再発時に2臓器にわたり動脈血栓をきたした症例を経験したので,その血栓発症における病態と治療法を含めた今後の問題点について述べる。
著者
菊池 絵梨子 下田 益弘
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.85-91, 2010-11-15 (Released:2011-05-25)
参考文献数
5
被引用文献数
2 4

超音波断層法 (US) は,腎形態を評価する上で静脈性腎盂造影 (IP) に替わるファーストラインの検査となった。腎疾患には低形成腎を始めとして腎サイズの異常を呈する疾患が少なからず認められる。腎長径には年齢ごとの正常値が存在するが,静脈性腎盂造影 (IP) が汎用された時代には簡便な方法として同時に撮影される椎体の厚さとの比が用いられていた。今回われわれは,195名の腎尿路奇形を有さない児に対しUSを施行し,腎長径と身体的パラメータの関係を明らかとするとともに,USで同時に撮影したL4~5の棘突起間距離を用いた腎長径の評価法について検討した。結果,腎長径は身長と最も高い相関を示した。また,腎長径はおおむねL4~5棘突起間距離の4~6倍となることが示された。L4~5棘突起間距離はUSで容易に測定でき,変換式や身長別正常値表も必要としないことから,腎サイズを簡易的にスクリーニングする上で有用な評価法となる可能性がある。
著者
漆原 康子 原 太一 山田 哲史 藤永 周一郎
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.155-160, 2016 (Released:2016-11-15)
参考文献数
11

小児のステロイド依存性微小変化型ネフローゼ症候群(SDNS)において,シクロスポリン(CsA)は非常に有効な免疫抑制薬であり,1 日2 回の食前内服が推奨されている。今回,SDNS 患児においてシクロスポリン1 日1回投与法による初回治療(以下1 回法,目標内服2 時間濃度600~800 ng/ml)を試みた23 例について有効性と安全性について,後方視的に検討を行った。1 回法はSDNS からの脱却率が65%,2 年間の無再発率は34.8%であった。さらに,1 回法におけるCsA 投与量は平均2.6 mg/kg であり,通常の2 回法より明らかに減量することが可能であった。しかし,1 回法も1 例(8.3%)に間質線維化を認めたため,2 回法と同様プロトコール腎生検は必要であると考えられた。SDNS 患児に対して,1回法はアドヒアランスの向上とCsA 投与量の削減が可能な有効な治療と思われた。
著者
忍頂寺 毅史 貝藤 裕史 野津 寛大 飯島 一誠
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.109-113, 2016 (Released:2016-11-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1

紫斑病性腎炎(HSPN) はHenoch-Schönlein 紫斑病(HSP)に伴う腎炎で,小児腎臓科医が診療する最も頻度の高い疾患の一つである。数%が末期腎不全に至るとされる一方で,腎炎を発症しても自然治癒する例があることも知られている。治療方針に確固たるエビデンスがないため,施設や症例ごとに治療法や治療開始のタイミングが異なるのが現状である。当院ではこれまで一貫して,血清アルブミン値と病理組織学的所見に基づき治療方針を決定し,免疫抑制剤などによる濃厚な治療の対象をできるだけ限定するよう努めてきた。その後方視的解析の結果,アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)あるいはアンギオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB)を使用することで,比較的重度なHSPN 症例でも良好な予後であることを明らかにした。ACE-I/ARB は,その効果と限界を理解したうえであればHSPN に対しても使用が可能である。
著者
金田 由美 岡本 恭明 尾迫 貴章 前田 浩 徳山 正徳 竹中 義昭 服部 益治 谷澤 隆邦
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.49-54, 2002-04-30 (Released:2008-02-29)
参考文献数
14

症例は12歳男児。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対し,シクロスポリンを併用し症状の改善をみたが,白血球減少症という稀な副作用を認めたため減量を余儀なくされた。追加治療としてLDL吸着療法を試み,血中コレステロール値,LDL値が吸着療法前値に戻った約2ヵ月後,ステロイドを再開したところ著効し,完全寛解を得ることができた。LDL吸着療法の効果発現機序は明らかでないが,難治性ネフローゼ症候群において薬剤感受性の改善や吸着療法による未知の物質を吸着除去することによる臨床的改善効果の可能性が示唆されたので,若干の考察を加え報告する。