著者
樋町 美華
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1245-1251, 2017 (Released:2017-12-01)
参考文献数
36

皮膚科における心理士の役割はさまざま考えられるが, 通常行われなければならない皮膚科治療や日常生活の妨げになりうる心理的問題へのサポートが重要と考えられる. 皮膚科において心理面からのサポートが必要な疾患は種々あるとされているが, 心身医学の側面からみた場合, 心身相関を伴う皮膚疾患に対する心理的サポートについて考える必要があるだろう. そこで本稿では, 最初に心と身体のつながりが密接であるとされているアトピー性皮膚炎およびざ瘡患者が抱える心理的問題について概観する. そして, 心理士の立場からアトピー性皮膚炎およびざ瘡患者への心理的サポートの必要性および具体的内容について解説する.
著者
町田 英世 長瀬 信子 内藤 ゆみ 木場 律志 永岡 三穂 吉川 悟
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.1055-1063, 2015-09-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

近年,成人期まで障害が気づかれずに経過してきたと考えられる成人期の発達障害への関心が高まっている.発達障害は社会性や対人関係での困難さを伴うため,精神および身体問題を起こしやすい.今回,学生時代から過敏性腸症候群症状が認められ,成長とともに症状の悪化をみた発達障害例を経験した.当初は心身症においてしばしば観察されるアレキシサイミアの特徴を有すると症例と考えていたが,途中で発達障害の診断に至ったことで大きな治療変化をみた.特に,精神症候が目立たずに長期または難治化している身体症候例では,幼少期からの発達歴を含めた縦断的な考察が必要である.
著者
松永 昌宏 金子 宏 坪井 宏仁 川西 陽子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.135-140, 2011-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本研究では「幸福感」に着目し,幸福感の脳神経基盤および幸福感が脳と身体の機能的関連に及ぼす影響を明らかにすることを試みた.実験の結果,高幸福群では低幸福群に比べて,ポジティブ感情喚起時の内側前頭前野・腹側線条体(脳内報酬系)活動が有意に高く,報酬系活動を抑制する末梢炎症性サイトカイン濃度が低いことが明らかとなった.また,カンナビノイド受容体遺伝子多型と幸福感との関連を解析した結果,カンナビノイドの受容体に対する結合能が高いCC/CT遺伝子型群では,TT群よりも主観的幸福感が高いこと,末梢炎症性サイトカイン濃度が低いこと,そして内側前頭前野活性が高いことが示された.本研究から,幸福感を維持するメカニズムとして脳内報酬系機能,炎症性サイトカイン,内因性カンナビノイドの関連が示唆された.本研究の研究成果から,今後心身の健康を維持するための予防医学的アプローチなどが展開されていくことが期待される.
著者
臼田 謙太郎 西 大輔 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.849-855, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

妊娠うつ病はおよそ10%の有病率があるとされ,決してまれな疾患ではない.しかし妊婦の多くは,薬物治療を希望しないため,より安全性が担保されている非薬物療法の開発の必要性は高いと考えられる.そしてうつ病の補完代替療法の中でもこれまでに最もエビデンスが蓄積されてきたものの一つにω3系脂肪酸がある.本稿ではω3系脂肪酸とうつ病に関する疫学研究の知見,ランダム化比較試験とそのメタ解析の結果,妊娠うつ病に対するω3系脂肪酸のこれまでのエビデンスをまとめた.ω3系脂肪酸は魚に多く含まれ,日常の食生活の影響を多く受ける可能性があり,今後はわが国での実証的な研究が望まれる.
著者
篠永 正道
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1026-1033, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

脳脊髄液減少症と心身症には3つのかかわりがある.第一に心身症と診断されている脳脊髄液減少症患者が少なくないこと,第二に脳脊髄液減少症の症状に心身症的な症状が含まれていること,第三に脳脊髄液減少症の治療には心身症的な治療が必要であること,である.脳脊髄液減少症は主として脳脊髄液が漏出して脳脊髄液が減少することにより頭痛,めまい,視覚障害,記憶力低下,倦怠など多彩な症状が持続する疾患である.原因が不明の特発性と外傷性があるが,心身症的症状を呈するのは外傷性に多い.診断は体位により変化する多彩な症状とMRIや放射性同位元素(RI)脳槽シンチグラフィー・CTミエログラフィーなどの画像診断によってなされる.治療は減少した脳脊髄液量を増やすことであるが,漏れを止めるためには自家血を脊髄硬膜外に注入するブラッドパッチ治療が効果的である.
著者
小林 伸行 高野 正博 金澤 嘉昭 濱川 文彦 中島 みどり 霜村 歩 西尾 幸博 山田 一隆
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1018-1024, 2013-11-01 (Released:2017-08-01)

肛門からガスが漏れていると信じる自己臭症(自臭)患者に対して,肛門括約筋を強化するバイオフィードバック(BF)訓練を行った.対象と方法:大腸肛門科を受診した自臭患者でBF治療に同意した20名(男性9名,女性11名,平均年齢36.4±12.9歳)を対象とした. BF前後にWexnerスコアの算定,肛門内圧検査を行った.患者の自己申告をもとに総合改善度を評価した.結果:13.4±8.6回のBFを行い,自覚的漏れはWexnerスコアで8.1±3.7点から5.8±3.2へと有意に改善した(p<0.01).最大肛門静止圧は治療前後で差はなく,最大随意圧(MSP)は男性では325.2±57.6cmH_2Oから424.4±105.8へと有意に増加したが(p<0.05),女性では差はなかった.総合改善度は消失5名,改善11名,不変4名であったが, MSPの増加量とは相関しなかった.結語:自臭患者にBFを行い80%に有効であった. BFの直接的効果ではなく治療構造自体が治療的と考えられた.妄想が強くても適応可能な新しい試みである.
著者
気賀沢 一輝
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.467-472, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
国里 愛彦 遠山 朝子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.689-693, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
9

科学における再現性の危機に対して,Goodmanらによる方法・結果・推論の再現可能性の観点から,問題点と解決法について整理した.再現可能性問題への解決法としては,仮説検証を適切に行うために研究者の自由度を低める事前登録,データ・解析コード・マテリアルなどを公開するオープンサイエンス実践がある.本稿では,これらの研究実践が『BioPsychoSocial Medicine』誌においてどの程度行われているか調査を行った.その結果,臨床試験は事前登録されているが,それ以外の研究デザインでは少ないこと,データやコードを外部リポジトリや雑誌サイトで公開することは少ないことが示された.オープンサイエンス実践は研究公正に必要であり,今後の普及が期待される.
著者
島田 章 高野 正博 松尾 雄三
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.41-47, 1990-01-08 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
4

Takano Hospital is a coloproctological surgical center in Kumamoto, Japan. The department of psychosomatic medicine was started in April 1986 to approach to psychosomatic problems in the field. Psychosomatic aspects of adolescents with irritable bowel syndrome were studied in twenty-two patients aged 13-19 yrs, who visited the department of psychosomatic medicine during a two year period of April, 1986-March, 1988. During the same period, the numbers of the whole patients who visited our department were 167. The results are summarized as follows : 1) Twenty-two adolescent patients, 3 males and 19 females with irritable bowel syndrome took up 77.3% of the whole adolescent patients in the department of psychosomatic medicine. 2) In the clinical patterns of adolescent patients with irritable bowel syndrome the "gas" pattern was dominant (59.1%). Patients with the gas pattern have mainly severe symptoms of flatus, fullness, rumbling sound and abdominal pain as well as bowel dysfunction, diarrhea and constipation. A decline in the incidence of the gas pattern of irritable bowel syndrome was evident for other generations as there were none in childhood, 15.0% in 20-39yrs, 11.1% in 40-59yrs, 33.3% in 60yrs-. 3) School-maladjustment (53.8%) and anthropophobia (53.8%) were found in the adolescent patients with the gas pattern. The results indicate the presence of an adolescent crisis caused by gas symptoms. 4) Gas symptoms in irritable bowel syndrome could easily be distinguished from a phobia associated with self-odor by the absence of paranoid conditions. 5) It is concluded that the irritable bowel syndrome in adolescence is mainly characterized by "gas". We need a new recognition of gas in the irritable bowel syndrome in adolescence.
著者
荒井 弘和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.15-21, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
27

2020年に東京でオリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるなど, わが国のスポーツは最盛期を迎えている. しかし, その主役であるアスリートについては, 心身医学的な問題を抱えていることも少なくない. そのため, アスリートには心身医学的支援が必要である. わが国では, 日本スポーツ心理学会が認定しているスポーツメンタルトレーニング指導士が活躍している. そこで, 心身医学の専門家とスポーツメンタルトレーニング指導士との緊密で継続的な連携・協働が期待される. そのために, わが国の臨床スポーツ心理学の土台を広げる必要がある. 2020年以降も見据えた, 心身医学とスポーツ心理学の連携・協働が期待される.
著者
芦原 睦 荒木 登茂子 松野 俊夫 江花 昭一 坂野 雄二 鈴木 理俊 菊池 浩光
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.745-753, 2004-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

医療における心理士の資格について議論されて久しい. 本学会においても, 1995年の第36回日本心身医学会総会(末松弘行会長)の際にワークショップ「臨床心理の現状と今後の課題」で取り上げられて以来, ほぼ毎年議論が続けられている. さらに, 2000年6月にはコメディカルスタッフ認定制度委員会が発足し, 具体的な医療心理士(仮称)制度の制定と運用に関する議論を重ねてきた. 同委員会の2001年12月までの活動報告は, 本誌42巻8号「医療における心理士の資格-現状と現実的問題点を含めて」に記載したので参考にされたい. 今回は, その後の議論を含め, 第44回日本心身医学会総会(石津宏会長)での, パネルディスカッションにおける各パネリストの発表をもとにした総説としたい. まず, 医療心理士の現状と研修という点から, 心理士と医師の各々の立場から述べた松野論文と江花論文を掲載したい.
著者
富岡 光直
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.1025-1031, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
8

ストレス関連疾患あるいは心身症では, 心理社会的要因により否定的な情動や身体的緊張が持続するため, 持続, 増悪するメカニズムが存在する. リラクセーション法はストレス刺激による心理・生理的反応を緩和・緩衝する技法である. 広義には心身医学領域で用いられている心理療法全般が含まれることになるが, ここでは身体的緊張を改善する目的で用いられている技法に焦点を絞る.心身医学領域で用いられている主な技法には, 漸進的筋弛緩法, 自律訓練法, バイオフィードバック法, 呼吸法などがある. これらの技法がストレス関連疾患の治療に用いられる場合には, リラックス状態を得ることに加え, 心身の状態への気づきを高めること, セルフコントロール力を身につけること, 再発を防止することまでを視野に入れて指導が行われる (松岡, 2006).講習会では, 代表的な技法の概略を示し, 治療の中でどのように用いられているのかを解説した.
著者
小柳 憲司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.625-628, 1998-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

鉄欠乏性貧血による異食症の影響が大きいと考えられた抜毛癖の症例を経験した.患児は毛髪を抜いては口に入れる行為を繰り返していたが, 経過中, 抜毛できないように髪を短くカットしたところ, 飼い犬の毛を切ってまで口に入れる行為が出現したため, 鉄欠乏性貧血の存在が疑われた.そして, 鉄剤の投与によって, 抜毛および(毛髪)異食症は急速に改善した.一般に, 抜毛癖は体毛を抜くという行為自体が快感であると考えられているが, 本症例の場合には, 抜く時の感覚そのものより, 抜いた体毛を口に入れる行為を快感に感じていたと思われる点で, 抜毛癖としてはやや特異なカテゴリーに入るといえるだろう.
著者
清水 夏恵 村松 芳幸 成田 一衛
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.29-35, 2013-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
40
被引用文献数
1

糖尿病患者では高血糖や神経障害などが不眠を認める原因と考えられており,一方で睡眠時間の低下や質の低下が糖尿病を引き起こす可能性も指摘され,相互に影響を及ぼしあっていると考えられている.また睡眠時無呼吸症候群や,抑うつや不安など精神症状を合併しやすいため睡眠障害をきたしやすいとも指摘されている.糖尿病患者の多くは矢感情症,失体感症の存在が明らかであることも指摘されており,不眠を自覚せず訴えがないため医療者側は治療対象にしていない場合もあると考えられる.糖尿病患者の睡眠障害を医療者側が意識的に診断し,良好な血糖コントロール管理に加え併存する症状に対しても,心身医学的な視点をもって適切な治療を行うことが重要である.
著者
千々岩 武陽 伊藤 隆 須藤 信行 金光 芳郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.1056-1062, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
14

心身医学の臨床では, 薬物療法や心理療法を用いても十分な治療効果が得られにくい, 抑うつ状態を呈した症例に遭遇することが少なくない. しかし, これらに対して 「温補」 という漢方医学的アプローチを用いることで, 奏効するケースが存在する. 今回, 抑うつ症状に対して漢方薬による温補療法が奏効した3症例について報告する.症例1は66歳, 女性. ストーマ造設術後から気分が落ち込むようになり, 吐き気, 食欲低下を主訴に外来を受診した. 「全身が冷える」 という訴えを重視して, 真武湯と人参湯エキスの併用を開始した結果, 内服2週間後には全身が温まる感覚とともに, 食欲と気分の著明な改善がみられた. 症例2は33歳, 女性. 微熱, 下痢, 抑うつを主訴に外来を受診した. 電気温鍼の結果を参考に通脈四逆湯 (煎薬) を処方した結果, 手足が温まるとともに, 心理テストのスコアは大きく改善した. 症例3は35歳, 女性. 4年前からうつ病と診断され, 各種抗うつ薬, 漢方薬に効果がみられないため, 筆者の外来を受診した. 通脈四逆湯を処方したところ, 内服2日後から外出が可能となり, 2週後には食欲と冷えが改善, 6週後には睡眠薬を必要とせずに良眠が得られるようになった.現代医学的に治療抵抗性がみられる抑うつや精神不穏を呈するケースの中には, 裏寒すなわち 「臓腑の冷え」 が病態を修飾しているものがある. その場合, 漢方薬による温補療法は心身医学領域においても有効な治療手段であることが示唆された.
著者
舘野 歩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1224-1229, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
7

神経因性頻尿に対する精神療法の中では, 森田的志向のカウンセリングが基本であると笠原は述べている. しかし神経因性頻尿に対する森田療法を実施した報告は今までにない. そこで今回入院森田療法により軽快した広場恐怖を伴う神経因性頻尿の1症例を報告した. 入院後約1カ月間は尿意を感じつつ生活に必要な行動を優先して動ける体験ができた. 次に患者自身に作業の負担が増えると自己決断ができず頻尿や身体症状が出現した. 入院後出現した身体症状の心性は, 頻尿の背後の対人恐怖心性と共通していると理解された. 今までは頻尿と身体症状の背後にある対人恐怖心性からさまざまな場面を回避してきたが, 入院森田療法の中で対人緊張がありつつその場面を避けずに自分の意見を言えるようになっていったことが退院後良好な経過をたどったと考えられる.
著者
中村 和弘
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.203-209, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
22

心理ストレスは脳の交感神経調節系に作用してさまざまな生理反応を生じさせる. 体温の上昇は顕著な生理反応の1つであり, 強い心理ストレスが心因性発熱と呼ばれる高体温症状を引き起こすこともある. こうしたストレス反応は基本的な生理反応だが, その中枢神経機序は研究途上である. ストレス性体温上昇とよく似た体温上昇である感染性発熱の神経回路機序と比較すると, どちらも視床下部背内側部から吻側延髄縫線核を介した交感神経駆動経路を通じて褐色脂肪熱産生が亢進することで生じる. しかし, 視床下部背内側部を興奮させる仕組みがストレス性体温上昇と感染性発熱とでは異なる. 感染性発熱は, 視索前野でのプロスタグランジンE2作用を介した神経伝達変化が視床下部背内側部を興奮させることで惹起される一方, ストレス性体温上昇は, 皮質辺縁系から視床下部背内側部へのストレス信号入力によって視床下部背内側部ニューロンが興奮することで惹起される.
著者
吉野 槇一 中村 洋 判治 直人 黄田 道信
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.559-564, 1996-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

RA患者と健常者の笑いによる神経内分泌-免疫系の変化を, 落語観賞前後で調査した。その結果, RA患者の血漿中メチオニン-エンケファリン, ACTH, IL-6,IFN-γが, また健常者の血漿中メチオニン-エンケファリン, サブスタンスP, ノルエピネフリン, ACTH, CD4/CD8,%CD57,IFN-γが落語後に変化した。特に, RA患者で疾患の活動性に相関するIL-6値が, 落語後には落語前の1/3に低下し, 健常者の値に近づいた。これらより, 楽しい笑いは神経内分泌-免疫系に作用し, RAの活動性を改善させうることが示唆された。