著者
羽白 誠
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1237-1244, 2017 (Released:2017-12-01)
参考文献数
4

皮膚科における心身症では, 皮膚科治療に加えて心身医学療法を行う. その中には向精神薬を用いた精神科的な薬物療法が含まれる. 狭義の皮膚科心身症に用いるほかに, 一次性精神疾患や二次性精神疾患, 皮膚粘膜感覚異常症などにも薬物療法は行われる. それ以外にも皮膚科的な治療で難治性のかゆみや搔破にも用いることができる. 主に用いられる向精神薬は, 抗不安薬と睡眠薬と抗うつ薬であるが, 抗精神病薬や抗てんかん薬も用いることがある. 薬物療法は心理療法と違って, 特殊な技術は必要とせず, 診療時間もあまりとられることがないために, 皮膚科医でも簡便にできるものが少なくない. 皮膚科医にもっと普及すべき治療法である.
著者
二瓶 正登 北條 大樹
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.701-707, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
21

多様な領域においてベイズ的な統計手法を使った研究が増えている一方で,心身医学やその関連領域である精神医学や心理学において,そうした研究は多くない.この理由として,ベイズ統計を用いることによって,どのような知見を得ることが可能かを解説した文献が少ないことが考えられる.そこで本稿においては心身医学領域においてベイズ的手法が重要な知見を与えられることをネットワーク解析と統計モデリングという2つの観点から述べたうえで,先行研究の概説を行った.また,ベイズ統計を心身医学領域の研究者が行う際に留意すべきことについての議論も行った.
著者
仙波 恵美子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.419-426, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
32
被引用文献数
1

線維筋痛症 (FM) の発症や維持における脳の役割, すなわち脳の過剰興奮と抑制系の減弱ということが注目されている. FM患者の脳画像の特徴として, ①脳の過剰興奮, 痛み刺激に強く反応, ②疼痛にかかわる脳領域の萎縮, ③安静時の脳内ネットワークの変化, が挙げられている. 安静時fMRIによるFM患者の脳内ネットワークの特徴として, ①前帯状回 (ACC), 島皮質 (IC) など情動に関連した領域間の結合が増強し, ②ACCと中脳中心灰白質 (PAG), 吻側延髄腹内側部 (RVM) などの下行性抑制系との結合が減弱していることが報告されている. FM患者における鍼治療や認知行動療法により, 症状の改善とともに脳内ネットワーク結合が変化したとの報告がある. また, FM患者の日常の活動量と脳内ネットワークおよび痛みの程度に相関がみられている. これらの結果は, FMの病態解明と有効な治療法の確立に向けて重要な示唆を与えるものである.
著者
松林 直
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.409-416, 2023 (Released:2023-09-01)
参考文献数
28

背景:低コルチゾール血症をきたすストレス関連疾患の身体症状(疲労,食欲不振,体重減少,過度の眠気,嘔気や下痢,関節痛や筋肉痛,めまい,微熱など)は低コルチゾール血症をきたす代表的な身体疾患である副腎皮質機能低下症と類似した症状がみられる. 方法と結果:長引く疲労を主訴に心療内科を受診した患者に副腎皮質機能低下症診断アルゴリズムに従い検査した.1/5の症例が中枢性副腎皮質機能低下症と診断し得た.これらの2/3はうつ病を併発し,1/3は何らかの心的外傷体験を有し,既往症に気管支喘息などのため外因性ステロイド使用歴が2/5にみられた. 結論:低コルチゾール血症を伴うストレス関連疾患を診療する際に自己免疫疾患やアレルギー疾患などの身体併存症と過去の外因性ステロイド使用歴に注目し,中枢性副腎皮質機能低下症の鑑別も念頭に置くことが肝要である.
著者
大崎 園生 林 吉夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.60-69, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
10

児童期に虐待を受けた成人患者は心的外傷後症状に加え対人不信や関係の打ち切り, 他者への攻撃的感情などの人間関係上の問題を抱える. これらは外傷的人間関係の再演となり, さらなる心的外傷後症状を発生させるため, 外傷的人間関係を変化させ肯定的な対人関係を形成・維持するための介入が重要である. 本研究では虐待既往のある成人患者の臨床心理面接症例を検討した. 再体験や解離エピソードおよび希死念慮などの心的外傷後症状が認められ, あわせて外傷的人間関係の再演および自他についての否定的信念が顕著であった. ソクラテス式質問法による内省の促進および患者の外傷的人間関係のケースフォーミュレーションの共有によって, 肯定的な対人関係の形成・維持が可能になり, 心的外傷後症状も緩和されるとともに自他についての否定的信念も変化した. 虐待既往のある成人患者の心理面接において現在の生活における人間関係を扱う意義が示された.
著者
針間 克己
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.583-587, 2004-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

パラフィリアとは典型的でない性嗜好に対する医学的疾患概念である.典型的でない性嗜好の何が医学的な異常で何が正常なのか,何をもって医学的疾患とするのか.その境界線は,文化,時代の影響を受ける古典的には生殖に結びつかない性行動が異常とされた.その後, 1970年代のゲイムーブメントの影響を受けて,本人に苦悩があることをもって精神疾患とするようになった.しかし,2000年に出されたDSM-IV-TRにおいては,その行動が性犯罪となるものは,苦悩がなくても行動をもって精神疾患とされるように変更となった.すなわち現在では,パラフィリアは性犯罪グループと非性犯罪グループで診断基準が異なっだものとなっている.
著者
平井 啓
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.231-236, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
8

サイコオンコロジーはがん患者の全人的医療, すなわちBio-Psycho-Social Modelに基づく実践と研究を行う分野として発展してきた. Bio-Psycho-Social Modelの一つの具体的な実践例として, がん医療における包括的アセスメントが挙げられる. 包括的アセスメントは, 患者の問題を, ①身体症状, ②精神症状, ③社会・経済的問題, ④心理的問題, ⑤実存的問題の順番にアセスメントしていくフレームワークである. 本稿では, この包括的アセスメントの考え方についてBio-Psycho-Social Modelの観点から解説し, さらにこの中でも特に心の問題を扱う専門家が役割を担うことになる精神症状のアセスメントと心理的問題のアセスメントの具体的な方法について示した. 最後に, 今後のBio-Psycho-Social Modelを発展させるための課題についてその方向性の提示を行った.
著者
吉川 徹
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.429-435, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
5

近年, 発達障害のある成人に対する就労支援のニーズが飛躍的に高まっている. しかし彼らの就労支援において, どのような支援が必要とされているかという点については, いまだ十分なコンセンサスが得られていない. 自閉スペクトラム症においては, 社会的動機づけの障害が中心的な役割を果たしていると考えられるようになってきている. また注意欠如・多動症においても遅延報酬障害が実行機能障害と並んで, 重要な役割を果たしていると考えられている. 本稿では成人発達障害者への就労支援の領域における, 動機づけの支援の必要性について考察する.
著者
西原 智恵 菊地 裕絵 安藤 哲也 岩永 知秋 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.264-271, 2017 (Released:2017-03-01)
参考文献数
7

食物アレルギーは多様な症状をきたしうるが, 心理的要因や併存しうる身体表現性障害を考慮した診療が行われなければ, 症状が遷延し重篤となりうる. 今回, 食物アレルギーと身体表現性障害を併存し, 身体的介入のみを受けたため多彩な症状が遷延し, 高度な生活障害に至った症例を経験した. 心身医学的介入が症状の改善に有効であったため報告する. 症例 : 40代, 女性. 2年前よりさまざまな食品を摂取した後に発疹, 腹部膨満, 四肢脱力, 情緒不安定などの症状が出現するようになった. 複数の医療機関で食物アレルギーが疑われ, 穀物・果物全般の除去を指導されたが症状は持続. 精査を希望しアレルギー科を受診した際, 四肢脱力をきたし緊急入院となった. 評価では, 食物アレルギー症状以外の症状を説明できる器質的異常を認めず, 身体表現性障害の合併が疑われた. 入院下の行動制限, 外来での情動への対処や自己主張の指導により, 身体表現性障害症状は改善し, 食物アレルギー症状も自制内となった.
著者
岡島 義
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.616-621, 2018 (Released:2018-10-01)
参考文献数
28

慢性不眠障害には睡眠薬による治療が一般的であり, 心理療法はほとんど実施されていない. 不眠症に対する認知行動療法 (CBT-I) は, 不眠症状の軽減効果が高く, 現在では慢性不眠障害に対する標準治療および第一選択と位置づけられている. 最近では, うつ病やPTSDなどの精神疾患やがんや慢性疼痛などの身体疾患に伴う併存不眠に対しても有効性が明らかにされている. 本稿では, CBT-Iの治療要素, ならびに原発性不眠症, 併存不眠に対する有効性について論じた.
著者
石川 哲
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.95-102, 1998-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

不定愁訴と環境中の有害微量化学物質との関係は, 特に慢性中毒で研究されている.その一つに, 最近本邦でも研究が開始されたばかりの化学物質過敏症(multiple chemical sensitivity ; MCS)がある.その定義は, Cullenによれば「過去にかなり大量の化学物質に一度接触し急性中毒症状が発現した後, 次の機会にかなり少量の同種の化学物質に再接触した場合にみられる臨床症状」であるとしている.原因の一つとして, 室内空気汚染と化学物質との関係が現在では研究も一番進歩している.原因物質と考えられるものとして, フォルムアルデヒド, トルエン, 白蟻駆除に使われる有機燐, カルバメート殺虫剤などが考えられている.今回は, 厚生省アレルギー研究班の援助で1997年に作成した診断基準を中心に, 解説を加えてみた.
著者
岡田 宏基
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.991-1000, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)

日常臨床で一般医を悩ませるのが,医学的に説明できない愁訴や症状である.わが国ではかつて不定愁訴と呼ばれていたが,国際的には近年MUS(medically unexplained symptoms)と表現されるようになった.これらのうち,機能的症状という側面からFSS(functional somatic syndromes)という概念も使われる.しかし,わが国ではこれらの概念の浸透はいまだ不十分である.DSM-IVでの身体表現性障害は精神科的病名であり,心身相関を中心に据えたわが国の「心身症」とはまた別の概念である.これらの概念の中では,MUSが症候単位の概念であるため最も広い病態を含んでおり,FSSと身体表現性障害も含んでいる.本稿では「心身症」を含めたこれら概念の整理を試み,またこれらの患者が多くの一般医を悩ませている欧州で開発された,一般医向けの対応トレーニングプログラムについても概説する.
著者
永田 勝太郎 島田 雅司 長谷川 拓也 真木 修一 秦 忠世 大槻 千佳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1151-1156, 2010-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

酸化バランス防御系は,生体調節機構の1つと考えられる.そのゆがみは生活習慣病の発症に関与する.疼痛性疾患である,慢性腰痛,線維筋痛症,関節リウマチ患者について,酸化ストレス(d-ROM test),抗酸化力(BAP test),潜在的抗酸化能(修正BAP/d-ROM比:修正比)をFRAS4(Free Radical Analytical System 4)により,測定した.健常者群に比し,線維筋痛症の酸化ストレス,修正比は悪化していたが,関節リウマチほどではなかった.酸化バランス防御系の是正のため,抗酸化剤である還元型coenzyme Q10を3ヵ月間投与した.その結果,疼痛VASの改善,酸化バランス防御系の改善がみられた.線維筋痛症の診断・治療に酸化バランス防御系の評価は重要であると考えられた.
著者
河西 ひとみ 辻内 琢也 藤井 靖 野村 忍
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.59-68, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
14

本研究は, 過敏性腸症候群 (IBS) の軽快・治癒プロセスを明らかにすることを目的とし, 主観的に軽快・治癒に至った7名のIBS患者にインタビューを行った. 分析には質的研究法の複線径路等至性モデル (Trajectory Equifinality Model : TEM) を使用した. 結果, プロセスは3型に分けられ, すべての型が 「IBS症状の発現」 から 「とらわれ」, 次に 「対処行動」 と 「IBS症状の一部軽快」 に至るまでは同じ径路をたどったが, 以降の径路は 「環境調整」 と 「心理的葛藤に直面」 に分岐した. 分岐後は, いずれの径路を選択した型も, サポート資源を受け取ることによって, すべての型において 「受容的諦め」, 「人生観の変化」, 「IBS体験への肯定的意味づけ」 という認知的変容体験を経て, 主観的な軽快・治癒に至った. また, 7例中3例において, 他者からの受容・共感と, 変化への圧力の相補的な働きがプロセスを推し進めた可能性が示唆された.
著者
張 賢徳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.781-788, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
13

自殺既遂者の90%以上が自殺時に何らかの精神科診断がつく状態であったことが見い出されている. したがって, 精神疾患の治療においては, 自殺予防への配慮が必要になる. 自殺に最も関係の深い病態はうつ病・うつ状態である. 日本では, 重症自殺未遂者の精神科診断の調査によって, 約20%に適応障害レベルの人が見い出されていることから, 疾患自体の重症度が軽症であっても自殺のリスクが低いとはいえず, 心療内科を含め, 精神疾患の治療を担当する医療従事者はすべて, 自殺のリスクを念頭に置く必要がある. 自殺のハイリスク者を把握するためには, 希死念慮の確認とその強度の査定が必要になる. ハイリスク者への対応では, 狭義の医学的治療だけではなく, 希死念慮の背後にある悲観や絶望に目を向け, それらをどう支えるかを考えねばならない. 多職種による積極的な関与が必要だという認識が求められる.
著者
城下 彰宏 片岡 裕貴
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.694-700, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
2
被引用文献数
1

メタアナリシスとは,各研究の効果から普遍的な集団(母集団)での効果を推定するために各研究の効果を統合する統計学的手法である.メタアナリシスでは,サンプルサイズによらず各研究の結果を比較可能な形に変換した効果量(エフェクトサイズ)と呼ばれる指標を用いる.エフェクトサイズの統合は,各研究がどの程度確からしいか(標準誤差)に応じて重み付けをしてから平均する.重み付けの方法は「真の値はただ1つである」と仮定するfixed effect modelと,「真の値は幅があるもの」と考えるrandom-effects modelに分けられる.一般的にはrandom-effects modelのほうが保守的な結果になるため推奨される.本稿では,Yangらの論文を例として,エフェクトサイズの代表であるmean differenceとstandardized mean differenceの算出方法,結果の統合方法(fixed effect modelとrandom-effects model),統計学的異質性について解説する.
著者
林 果林 端 こず恵 神前 裕子 土川 怜 浅海 敬子 齋木 厚人 龍野 一郎 白井 厚治 藤井 悠 黒木 宣夫 桂川 修一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.920-930, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
39

目的 : 肥満症患者において心理的側面は病態と大きく関与している. その重要性を明らかにするため, 肥満症患者群とコントロール群で, ロールシャッハテストの変数を比較分析した. またその結果から, 肥満症患者の心理的側面について, 7クラスターに分類し検討した.  方法 : 肥満症患者群103名 (男性52名, 31.8±6.7歳/女性51名, 32.1±5.9歳) およびコントロール群160名 (男性61名, 30.8±9.7歳/女性99名, 30.4±9.7歳) のロールシャッハ変数を比較検討した.  結果 : コントロール群と比較したロールシャッハ変数109のうち, EA, EB, Lambda, DQ+, DQv, DQo, DQv/+, Populars, X+%, X−%, M, a, WsumC, CF, SumT, SumV, SumY, Afr, All H Cont, COP, FDを含む47で変数に有意差が認められた.  結語 : 肥満症患者は, 社会生活上求められる資質不足から, 物事の意思決定や行動選択において対処困難を伴いやすく, 自身の感情を把握し調節・表出する力が未熟な傾向にある. そのため自己防衛として, ①刺激を単純化して受け取ることで心理的な距離をとり安定をはかる, ②感情コントロール不全を避けるため, 感情そのものを否認する, ③対人場面では可能な範囲で他者とのかかわりを回避するという3点に集約できる. このような特性を治療者が認識し, 心身の状況を踏まえたうえで集学的治療を行うことが重要である.
著者
武藤 崇 三田村 仰
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1105-1110, 2011-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22
被引用文献数
4

本稿の目的は,「第3世代」の代表的な認知/行動療法である「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」(Acceptance and Commitment Therapy:ACT)」を概観することである.そのため,本稿は,(1)マインドフルネスやアクセプタンスなどが認知/行動療法に組み込まれるようになった背景を「臨床行動分析」に基づいて概観する,(2)「臨床行動分析」(Clinical Behavior Analysis)に基づいて開発されたACTのトリートメント・モデルを紹介する,(3)ACTのエビデンスとその特徴を概観する,(4)その特徴に含まれるACTの新たな提言や展開を明示する,という内容で構成されている.
著者
今井 正司 今井 千鶴子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1098-1104, 2011-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17

本論では,Wellsが開発したメタ認知療法(Metacognitive Therapy:MCT)の理論的背景とその技法について概観した.はじめに,MCTの中核的な理論である自己調節実行(Self-Regulatory Executive Function:S-REF)モデルについて論じた.S-REFモデルは,メタシステム(metasystem unit),下位処理ユニット(low-level processing unit),S-REFユニット(S-REF unit)で構成されており,すべての感情障害に関連してみられる認知注意症候群(Cognitive Attention Syndrome:CAS)と呼ばれる非適応的な認知処理様式について説明するモデルである.CASへの主要な介入としては,メタ認知的信念を変容させる方法と,注意の柔軟性を向上させる方法がある.メタ認知的信念に介入する方法については,全般性不安障害の患者さんを例に,「心配の内容」ではなく「心配の機能」に着目する必要があることを論じた.注意の柔軟性に介入する方法としては,注意訓練(Attention Training:ATT)の理論的背景とその技法について,S-REFモデルを用いて論じた.最後に,MCTの効果的な適用とその基礎モデルの発展に関して考察がなされた.