著者
金田 茂裕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.212-222, 2009 (Released:2012-02-22)
参考文献数
33
被引用文献数
3 2 1

本研究の目的は, 減法の求残・求補・求差の場面理解の認知過程について, 先行研究で使用された文章題に加え, 新たに作問課題を用いて調べ, それらの場面理解の難しさの程度と理由を明らかにすることであった。研究1(N=110)では, 式(6-2)と絵(求残・求補・求差の場面)を併せて提示し, 両方を考慮して適切な話を文章で記述することを小学1年生に求めた。その結果, 求残より求補, 求差の場面で正答率が低いことが示され, これらの場面理解は難しいという従来の研究の知見が確認された。さらに, 誤答内容を分析した結果, 場面間でその傾向が異なることが示され, 求補の場面では絵と対応しない誤答が多く, 一方, 求差の場面ではそれに加え, 式と対応しない誤答も多くみられた。同様の結果は, その4ヶ月後に実施した研究2(N=109)でも得られた。以上の結果から, 求補の場面では絵に表わされた全体集合と部分集合の包含関係を理解することが難しいこと, 求差の場面では式と絵の対応関係を考えることが求められる点が難しいことが示唆された。
著者
柴田 玲子 高橋 惠子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.37-47, 2015 (Released:2015-08-22)
参考文献数
41
被引用文献数
2

人間関係をソーシャル・ネットワークとしてとらえて, 小学生の人間関係についての母子の報告のズレを検討するとともに, 母子の報告のズレと子どもの適応との関連を検討した。研究協力者は小学2~6年生(女児が47%)とその母親337組である。子どもの人間関係は集団式絵画愛情の関係テストで測定することにし, 子どもとその母親から独立に回答を得て母子の報告のズレを検討した。子どもの適応は小学生版QOL尺度によった。その結果, (1) 母子ともに愛情の要求の対象とする重要な他者を複数種あげたが, 子どもより母親の方があげた種類が多かった, (2) 子どもが報告した以上に母親は子どもにとって母親が重要だとし, 特に, 生存や安心を支える中核的な心理的機能を果たしているであろうとした, (3) もっとも頻繁に挙げられた対象が誰であるかを指標にして親しい人間関係を類型化すると, 類型についても母子の報告のズレは大きく, 母親の58%が子どもは母親型であろうとしたが, 子どもは24%にすぎなかった, (4) 母子の報告のズレの大きさは子どものQOLの低さと関連した。これらの結果にもとづいて, 子どもの人間関係における母子のズレの意味について論じた。
著者
進藤 聡彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.57-69, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本稿では,この1年間に公表された教授・学習に関する論文を学校実践との関連の観点から論評した。また,10年前と比較した最近の研究の特徴を明らかにしようとした。教授・学習研究を概観したところ,それらは2つのタイプに分類できるものであった。1つは教科の特定の単元に関わる教授方略を開発しようとするものであり,もう1つは教育実践に関わる一般的な要因や,それらの要因間の関係を特定しようとするものであった。10年前との比較では,いくつかの研究テーマが変化していた。例えば,協同学習や自己調整学習に関する研究が増えていた。そして研究者が教育実践の場に直接関与する臨床的な研究が増加していた。最後にいかに研究が行われるべきかに関して,筆者の考えが述べられた。
著者
林 創
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.14-24, 2014-03-30 (Released:2014-12-24)
参考文献数
63
被引用文献数
1 3

本稿は,2012年7月から2013年6月までの期間において,日本における児童期と青年期を対象とした発達的研究を概観したものである。この1年の研究を,「認知発達」,「社会的認知」,「対人関係」,「自己」,「精神的健康と適応」,「その他」に分類して,レビューを行った。認知発達に関する研究では,情報処理に関する研究から,身体運動を含む研究,現実との関連を重視した研究まで多様なものが報告されていた。社会的認知では,嘘の認識から罪悪感の理解まで多様な研究が検討されていた。対人関係では,青年期の友人関係や評価懸念を扱った研究などが見受けられた。自己では,アイデンティティにかかわる研究が多く報告されていた。精神的健康と適応では,震災等を中心としたレジリエンスの研究が数多く存在した。その他では,読書活動など教育的視点を重視した研究が多様に報告されていた。最後に,これらの研究から現実を意識した社会的貢献度の高い研究の重要性を述べるとともに,研究方法の問題や学際的研究の必要性などを論じた。
著者
藤原 健志 村上 達也 西村 多久磨 濱口 佳和 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.187-196, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
38
被引用文献数
4 4

本研究の目的は, 小学生を対象とした対人的感謝尺度を開発し, その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生から6年生までの1,068名を対象とし, 対人的感謝, ポジティブ感情, ネガティブ感情, 共感性, 自己価値, 友人関係認知, 攻撃性を含む質問紙調査を実施した。主成分分析と確認的因子分析の結果, 1因子8項目から成る対人的感謝尺度が構成された。対人的感謝尺度は高いα係数を示し, 十分な内的一貫性が認められた。また, 対人的感謝尺度は当初の想定通り, ポジティブ感情や共感性, 友人関係の良好さと正の関連を, 攻撃性と負の関連を有していた。以上より, 対人的感謝尺度の併存的妥当性が確認された。さらに, 尺度得点については, 男女差が認められ, 女子の得点が男子の得点よりも有意に高かった。最後に, 本尺度の利用可能性について考察されるとともに, 今後の感謝研究に関して議論された。
著者
伊藤 美奈子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.293-301, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

Two concepts: social orientedness and individual orientedness, relating to two-dimensionality of self-consiousness, were proposed in order to grasp personality traits and adjustmental level and developmental level. Three questionnaires: an orientedness scale, a SD self-concept scale, and a self-esteem scale were administered to adolescent and adult subjects. The results showed that orientedness scores rose with increasing age, but a difference between males and females on both changing phase and process was found. Each orientedness changed in content, such as social orientedness following the next process: from dependency and others-direction to coexistence; on the other hand, individual orientedness followed the next process: from egocentrism to autonomy. These orientednesses mean the content of horizontal axis and vertical axis of two-dimensional developmental schema. From the relation with self-esteem, and discrepancy scores between real self image and two ideal-images: ‘social ideal self’,‘individual ideal self’, by SD self-concept scale, it was clear that the individuation process on emotional aspect, and the socialization process on the cognitive one could be observed.
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ 伊藤 由美 SHARON VAUGHN
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.534-547, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
65
被引用文献数
2 10

Response to Intervention/Instruction (RTI) を基にした, 通常の学級における多層指導モデル (Multilayer Instruction Model: MIM〔ミム〕) の開発を行った。MIMを用いて小学1年生7クラス計208名に行った特殊音節の指導の効果が, 学習につまずく危険性のある子どもをはじめ, その他の異なる学力層の子どもにおいてもみられるかを統制群小学1年生31クラス計790名との比較により行った。まず, 参加群, 統制群を教研式標準学力検査CRT-IIの算数の得点でマッチングし, 25, 50, 75パーセンタイルで区切った4つの群に分けた。次に, パーセンタイルで分けた群内で, 教研式全国標準読書力診断検査A形式, MIM-Progress Monitoring (MIM-PM), 特殊音節の聴写課題の得点について, 参加群と統制群との間で比較した。t検定の結果, 4つ全てのパーセンタイルの群で, 読み書きに関する諸検査では, 参加群が高く, 有意差がみられた。参加群の担任教員が行った授業の変容を複数観察者により評価・分析した結果, MIM導入後では, 指導形態の柔軟化や指導内容, 教材の多様化がみられ, クラス内で約90% の子どもが取り組んでいると評定された割合が2倍近くにまで上昇していた。
著者
落合 良行
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.332-336, 1983-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
3 7

孤独感の構造を解明した研究に基づいて, 孤独感の類型判別を行う手がかりとして, 2下位尺度からなる孤独感尺度 (LSO) が作成された。尺度項目の選出は, 因子分析の結果に基づいて行われ, 16項目 (LSO-U 9項目, LSO-E 7項目) がLSOの尺度項目として選定された。妥当性の検討は, 孤独感研究の現状から, 今後検討されるべき点も残されているが, LSOはかなり妥当性のある尺度であることが明らかにされた。また信頼性の検討は, 安定性の観点から行われ, LSOの信頼性は高いことが明らかにされた。以上の検討を経て作成された孤独感尺度LSOは, 孤独感 (とくに青年期の孤独感) の類型を判別する上でひとつの有効な手がかりとなるであろう。
著者
堀田 香織
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.73-84, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
66

本稿では, 2010年7月からの1年間に発表された臨床心理学領域の論文を概観し, 今後の課題を探索した。まず, 2011年3月東日本大震災が人々の心身に甚大な傷を残したことを受けて, 被災体験, 喪失体験, 心的外傷に関する心理学的研究を概観した。今後, 被災者支援のために長期に渡る実践と研究が必要である。次に, 様々な精神症状・心理的不適応の心理治療・援助に関する論文を概観した。子どもに関しては, 不登校, いじめ, 攻撃行動に関する論文が数多く掲載された一方, 虐待は我が国の喫緊の課題であるにもかかわらず, 論文数が少なかった。今後の研究が期待される。また抑うつや社会不安・無気力の心理的症状が低年齢化し, 小中学生を対象にした研究も見られる。より早期の治療援助, 予防が必要だろう。青年期では人格障害・摂食障害など困難な事例の治療に関する研究が多かった。一般学生を対象にした質問紙調査では, 不安, 抑うつ, 攻撃, アパシー, ひきこもりなどが取り上げられた。また, 実践研究, 面接調査の質的分析による研究は, 臨床領域ではまだまだ数が少なく, 今後より一層の発展が期待される。
著者
中川 恵正 新谷 敬介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.23-33, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

The present study investigated which factors facilitated solving arithmetic word problems in fifth graders by comparing five training techniques: (1) Self controlinterpretation training(SCI) that was to acquire both the self regulated uses of solving skill and strategy and the self control ability of evaluating one's own solving process, correcting it and interpretating it to others; (2) Blind training(BT) expected to enhance the awareness of solving skill and strategy; (3) Error finding training (EF) that was to monitor the other's solving process; (4) Ordinary teaching training(C) used in a public elementary school, and (5) 30-SCI training(30-SCI) that children had been given the SCI training for 30 hours before the basic learning had begun. In Experiment 1, fifth graders were trained under a given condition for three hours and then given four posttests. Group 30-SCI did better performance on each posttest than the 4 other groups. Group SCI also did better performance on posttests 1, 2, and 3 than Group BT. Experiment 2 using four training techniques confirmed the superiority of the SCI technique to the others found in Experiment 1 in third graders.
著者
原田 杏子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.344-355, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 法律相談を題材として,「専門的相談がどのように遂行されるのか」を, 実践現場からのデータに基づいて明らかにすることである。データ収集においては, 弁護士及び相談者 (クライエント) の同意を得て, 12件の法律相談場面の会話を録音した。データ分析においては, 質的研究法の1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用い, 分析の途中段階で法律家によるメンバー・チェックを受けた。分析の結果, 15の弁護士発言カテゴリーが見出され, それらはさらに【I問題共有】【II共鳴】【III判断伝達】【IV説得・対抗】【V理解促進】【VI終了】という6つの上位カテゴリーにまとめられた。分析結果からみるに, 専門的相談は, 問題をめぐる様々な情報を相談者との間で共有し, 専門的立場から判断を伝えることを中心として遂行される。加えて, かかわりの基本的態度としての共鳴, 相談者の不適切な解決目標や思い込みに対する対抗, 相談者の理解を促進する働きかけ, 相談の終了を導く働きかけなどが見出された。法律相談の実践現場から導かれた本研究のカテゴリーは, 既存の援助モデルで十分扱われていない専門的相談の特徴を明らかにしている。
著者
安永 和央 石井 秀宗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.296-309, 2012 (Released:2013-02-08)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本研究では, 国語読解テストにおける設問の問い方を操作し, 設問設定の違いが受検者の能力評価にどのような影響を及ぼすかを比較検討した。具体的には, 1)一文抜き出し問題に対して, 多枝選択式問題と記述式問題を設定し, 2)会話文中の空所の形及び数を操作し, また, 図の空所の関係を表す「=」の有無を操作し, 3)空所前における単語の説明の有無を操作したものを中学3年生703名に実施した。項目分析の結果, 1)では, 設問形式は評価に影響を及ぼさないことがわかった。2)では, 図に空所の関係性を提示しない場合, 空所の形は同一にしない方が, 得点率及び識別力の値を高くすることがわかった。また, 空所の形が異なる場合, あるいは, 空所の形が同一で空所数が少ない場合, 図に空所の関係性を提示しないことが, 前者では得点率を高くし, 後者では識別力の値を高くすることがわかった。さらに, 空所の数が多く, 形が同一に表記されているなど, テキストが複雑な構成となる場合には, 図に関係性を示す「=」を添えることが, 受検者にとって正答を導く手がかりとなる可能性が示された。3)では, 性別及び群別の検討において, 低群と高群で性差が確認された。これらの結果から, わずかな設問の操作によって受検者の回答傾向に変化が生じることが示された。このことは, 設問などテストの構造的性質について実証的検討を行うことの意義を示している。
著者
小川 一美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.187-198, 2011-03-30 (Released:2011-11-25)
参考文献数
82

本稿では, 対人コミュニケーションに関する最近の日本の実験的研究を中心に概観し, 取り組むべき課題について言及した。言語的コミュニケーションおよび非言語的コミュニケーションに関する研究をいくつか挙げ, 言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの融合も含めたマルチ・チャネル・アプローチによる研究の必要性についても研究例を挙げながら論じた。続いて, 3者間コミュニケーションや観察者という立場から捉えた対人コミュニケーション研究など, 2者間コミュニケーション以外の対人コミュニケーションの捉え方についても紹介した。また, 対人コミュニケーション研究にも社会的スキルという概念が近年多く組み込まれるようになってきたが, 構成概念も含めこの両者の関係性については十分な吟味が必要ではないかという問題提起を行った。最後に, 対人コミュニケーション研究の今後の課題として, 会話者の内的プロセスの解明, 文化的背景の考慮, 他分野の研究への関心, well-beingとの関係を検討する必要性などについて指摘した。
著者
宮下 一博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.214-218, 1991-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
2

The purposes of the present study were to explore the possibility of typing need for uniqueness proposed by Snyder and Fromkin, and to examine the characteristics of these types. New items measuring need for uniqueness, the Japanese version of the need for uniqueness scale developed by Snyder and Fromkin, and the mental set scale for creativity by Mishima et al. were administered to 224 university students. By means of various statistical analyses, a new reliable and valid scale for measuring need for uniqueness (Uniqueness Scale) was constructed. In accordance with this scale, need for uniqueness was divided into four types: (a) going my way (calm) type; (b) repressed type; (c) self-exhibited type, and (d) self-centered type. Among these types, going my way and self-exhibited types were seen showing higher scores in mental set scale for creativity.