著者
酒井 厚
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.63-80, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
126

2020年7月から2021年6月までの1年間に,日本人研究者が発表したパーソナリティに関する研究の概観を通して,わが国のパーソナリティに関する研究の動向を捉え,今後の研究の在り方の展望を論じた。諸研究は,パーソナリティを総合的に捉えた観点からの研究,特定の構成概念や特性の個人差を扱った研究,社会的態度に関する研究,パーソナリティの形成・発達と適応に関する研究の4つの枠組みから整理された。それぞれの研究動向と展望については,メタ分析や大規模データの二次利用からの特性理解の進展とさらなる展開への期待,多様な構成概念や特性を多角的な視点から検討する研究の蓄積とそれらを統合することの必要性,様々な社会的問題に対する態度を扱った研究の重要性,社会的適応や精神的健康に関して今後の発展が予想される研究テーマの萌芽としてまとめられた。
著者
針生 悦子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.349-357, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9

According to Markman and Wachtel (1988), children assume that words stand for mutually exclusive object categories, and so each object must have only one category label. This study examined whether children suspended their use of this assumption and interpreted a given novel label as referring to a familiar object; that is, an object whose name they already knew in their mother tongue (Japanese), when they were informed that the label came from a foreign language (English). The result showed that five-year-olds accepted the novel English label for a familiar object, while the three-year-olds and four-year-olds were not willing to accept it. To explain such result, the following hypotheses were considered. Children younger than 5 used mutual exclusivity to interpret a novel English label:(1) because the limitation of their capacity (Case, 1972) did not allow them to suspend the use of mutual exclusivity effectively, even if they knew English;(2) simply because only a few of them knew English. As a result, four-year-olds who knew English were found to suspend their use of mutual exclusivity when interpreting English labels. The second hypothesis was thus supported.
著者
松岡 弥玲 加藤 美和 神戸 美香 澤本 陽子 菅野 真智子 詫間 里嘉子 野瀬 早織 森 ゆき絵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.522-533, 2006-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
42

本研究では, 成人期を対象に, 複数の他者 (子ども, 配偶者, 両親, 友人, 職場の人) から望まれている自己 (他者視点の理想自己) と現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響について, 性, 性役割観, 世代, 就業形態との関連から検討した。調査参加者は就学前もしくは大学生の子どもを持つ成人期 (子育て期, 巣立ち期) の男女計404名。自尊感情を基準変数, 5つの他者視点の理想-現実自己のズレを説明変数とした重回帰分析を行った結果, 際立った性差がみられ, 全体的に男性は職場のみ, 女性は複数の他者 (子ども, 友人, 両親のうち2者) の視点からの理想-現実自己のズレが自尊感情に影響していた。また, 性役割観の違いによってどの他者視点から影響を受けるのかが異なり, 子育て期の男性では伝統主義の場合は職場が影響していたが, 平等主義群では子どもが影響していた。女性においては性役割観の違いが両親と友人の影響の差として現れ, 世代差は子どもと職場の影響の違いにみられた。就業形態別では, 専業主婦は両親のみが影響していた。以上のことから他者視点の理想-現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響は性, 性役割観, 世代, 就業形態によって異なることが示された。
著者
林 昭志 竹内 謙彰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.129-137, 1994-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
1

In this study, two experiments were conducted in order to reexamine Borke's task, based on the degeneration theory. The aim of Experiment 1 was to clarify the relationship among the three mountains task, Borke's turntable task and some subordinate abilities tasks. The result of this experiment suggested that Borke's turntable task was at the same level as the topological abilities tasks, but it differed from the three mountains task. In Experiment 2, which makes the turntable task easy, the object familiarity or the marker-object nearness were examined. Though all 19 children, aged 4-5, could solve the “near” tasks, some made errors on the “distant” task. The result of these two experiments proved that Borke's task did not measure the true perspective-taking ability.
著者
佐伯 胖
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.153-160, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
1
著者
黒田 祐二 有年 恵一 桜井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.24-32, 2004-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
7 3

本研究の目的は, 大学生の親友関係における関係性高揚と精神的健康との関係について検討すること, 及び, その関係に相互協調的-相互独立的自己観が及ぼす影響について検討することであった。結果から, 日本の大学生において, 自分たちの親友関係を他の親友関係より良いものであると評価する「積極的関係性高揚」と, 悪くはないと評価する「消極的関係性高揚」は, 相対的幸福感・自尊感情・充実感と正の関係を示し, 抑うつと負の関係を示すことが見出された。さらに, この関係性高揚と精神的健康との関係は, 相互協調的自己観ないし相互独立的自己観が自己に内在化されている程度によって異なることが示された。すなわち, 相互協調的自己観の低い者より高い者において, そして, 相互独立的自己観の高い者より低い者において, 関係性高揚 (積極的関係性高揚及び消極的関係性高揚) と精神的健康との関係が強くなることが示された。
著者
藤野 京子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.26-37, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
36

自身の行為が謝罪に値するかもしれない状況下,どのようなコーピング方略を用い,それらが謝罪するかどうかにどう影響するか,さらに,ソーシャルサポートの有無やエゴ・レジリエンシー(ER)が,それらにどのような影響を及ぼすかを検討するため,20代(N=834)を対象にウェブ調査を実施した。研究協力者は自身のERについて自己評定し,さらに人に暴言を吐いたというシナリオを提示され,自身がその人だと想定して,いかにその状況で反応するかを回答するよう教示された。研究協力者は周りからサポートを提供される支援群,提供されない静観群にランダムに割り振られた。 ソーシャルサポートの有無によって,とられるコーピング方略の多寡や謝罪の程度に違いが見られた。また,コーピング方略のうち,計画立案方略は謝罪を促進させ,放棄・諦め方略は抑止させることが明らかになった。加えて,支援群では,放棄・諦め方略が少なくなり,謝罪が促進されるのに対して,静観群では,計画立案方略が少なくなり,謝罪が抑止される等の結果が得られた。加えて,ERは肯定的解釈に正の,放棄・諦め方略に負の影響を与えることが示された。
著者
奈田 哲也
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1-12, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
23

本研究の目的は,奈田他(2012)を踏まえ,ネガティブ感情を含め,感情が,如何に個の知識獲得を促すのかを検討することであった。そのため,実験参加者(小学3年生)が示した考えを前半は否定するものの,後半は賞賛していくNP条件,その逆のPN条件,終始賞賛するPP条件というように,感情の生起のさせ方が異なる3条件を設定し,奈田他(2012)と同様の手続きで実験を行った。その結果,PP条件,NP条件,PN条件の順で,知識獲得が促されやすくなることが判明した。加えて,やりとりにおける思考上の積極性を示す指標に関しても,PP条件が最も高く,やりとりを通した知識獲得においては,相手の考えを賞賛することで,個の中に自他の考えに対する柔軟な姿勢を作っていくことが重要であることが判明した。ただし,ネガティブ感情にも,自身の考えを振り返り,見直させる働きがあり,NP条件のように,こういった働きを強化していくことで,知識獲得をある程度は促すことができることも判明し,ポジティブ感情による知識獲得の促しとは異なった過程で,知識獲得が促される過程があることも明らかになった。