著者
名取 洋典
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.244-254, 2007-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
8 3

本研究では, 指導者のことばがけが少年サッカー競技者の「やる気」におよぼす影響について, ことばがけに対する「理由認知」と「感情」という認知的側面との関連から検討した。特に, 技術指導のための, 目標と合致した基準に沿ったことばがけが, 高い競技水準にある競技者の動機づけを高めるためにも有効であることを明らかにすることを目的とした。14の強豪チームに所属する267名の小学5, 6年生を対象に, 成功場面・失敗場面×肯定的な言語的フィードバック・否定的な言語的フィードバックの4つの練習状況を描いた図版とシナリオ文を提示し,「やる気」の変化量および認知的側面の測定を行った。分散分析の結果, 否定的なフィードバックに比べ肯定的なフィードバックにより「やる気」が高まることが示された。認知的側面との関連では, ことばがけに対して「教授的理由」と捉えることで「安堵感情」が高まり,「やる気」が高まることが示された一方で, 失敗した際の肯定的なフィードバックについてはこの関連がみられなかった。以上の結果から, 競技者の動機づけを高めるのに, 指導者が目標に合致した基準に従ったフィードバックを行うことの有効性が示唆された。
著者
木村 優
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.464-479, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
28
被引用文献数
12 2

本研究の目的は, 授業における教師の感情経験と, 教職の専門性として説明されてきた認知や行動, さらに動機づけとの関連を検討することであった。高校教師10名に面接調査を実施し, グラウンデッド・セオリー・アプローチによるデータ分析を行った。その結果, 《感情の生起》という現象の中心概念が抽出され, (1) 教師は生徒の行為と自らが用いる授業方略に対して感情を経験し, (2) 状況により教師は異なる感情を混在して経験することが示された。そして, (3)教師が経験する感情の種類, 強さ, 対象によって, 《感情の生起》現象には, 心的報酬の即時的獲得, 認知の柔軟化・創造性の高まり, 悪循環, 反省と改善, 省察と軌道修正, という5つの過程が見出された。喜びや楽しさなどの快感情は教師の活力・動機づけを高めることで実践の改善に寄与し, さらに授業中では教師の集中を高めることで瞬間的な意識決定と創造的思考の展開を促進していた。一方, いらだちなどの不快感情は教師の身体的消耗や認知能力の低下を導くが, 苦しみや悔しさなどの自己意識感情は授業後の反省と授業中の省察に結びつき, 教師が実践を改善し, 即興的に授業を展開するのを可能にしていた。
著者
清水 由紀 内田 伸子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.314-325, 2001-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
5 2

本研究では, 小学校に入学した児童が, 一対多のコミュニケーションにおける言語形態 (二次的ことば) やきまりの習得を含む教室ディスコースへとどのように適応していくのかについて検討した。1年生の4月と7月の朝の会において観察された相互作用を, カテゴリー分析と事例分析により比較した。その結果, 入学直後の教師による発話の指導は, 発話形態によって異なっていた。入学直後, 言い方や発話形式が完全に決まっている発話は, 教師が丁寧に説明や指示を行い, 児童がそれをそのまま繰り返していた。一方, 考えを伝える発話は, 教師が発話形式のモデルを示し, 児童がそれを積極的に取り込むという習得過程が見られた。そして7月になると, きまりに沿いながらも内容豊かで活発な児童主導の活動が行われるようになっていた。また仲間関係調査, 親に対するアンケート, 教師に対するインタビューより, このような適応過程は, 児童を取り巻く教師, 仲間との対人関係の成立と共に, 朝の会への関心の増加や, 教師による児童の状態の適切な認知により支えられていることが示唆された。
著者
田島 充士 茂呂 雄二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.12-24, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
6 1

本研究は日常経験知と矛盾する科学的概念を学習した中学生を対象に, 両者の矛盾関係の解消を目指した説明を求める半構造化面接を実施し, この中で対立する日常経験知をどのように関連づけるのかという視点から, 概念理解の実態を検討したものである。予備調査の質問紙で科学的概念を支持した被験者 (科学群) に対しては日常経験知に基づいた情報を, また素朴概念を選択した被験者 (素朴群) に対しては, 科学的概念に基づいた情報を提示して, それぞれの矛盾を解消するよう求める対話に参加してもらった。その結果, 矛盾を解消できた者 (解消群) とできなかった者 (不解消群) に分かれた。科学解消群では論理的な解釈によって両者の矛盾情報を統合するような説明を, 科学不解消群では日常経験知を無視するような説明を, また素朴不解消群においては科学的概念と日常経験知を適用する文脈を分離させるような説明を行う傾向にあった。本研究ではこれらの傾向を, 日常経験知の「調整」「圧殺」「すみわけ」と名づけ, パフチン理論の立場から「調整」を, 学校教育において目指されるべき概念理解活動として位置づけた。
著者
植阪 友理 内田 奈緒 佐宗 駿 柴 里実 太田 絵梨子 劉 夢思 水野 木綿 坂口 卓也 冨田 真永
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.404-418, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

自立的に深く学ぶ力の育成は,新教育課程において強調されている重要な教育目標である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により,家庭で自ら学習する時間が増加したことから,以前にもましてこの力の重要性か゛高まっている。一方で,学習者はこうした力を十分に身につけていないという実態か゛ある。本研究て゛は,大学関係者と高校教員か゛連携し,新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけて休校中であった公立高校において,公立高校1年生33名を対象に,自学自習を支援する「オンライン学習法講座(全6回)」を実践した。本実践を開発するにあたり,オンラインならではの指導上の工夫を導入するとともに,オンラインを前提としない従来の指導法上の工夫をどのように統合すべきかについても検討した。講座を実施した結果,オンラインて゛の実施ではあったが,生徒に講座の趣旨か゛十分に伝わっている様子が確認されるとともに,高い満足度が得られた。また,一部の生徒ではあるものの複数の講座を統合的に利用する様子や,学校現場の指導法の変化も確認された。
著者
新井 雅 余川 茉祐
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.389-403, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
47

本研究では,小学生を対象に,自殺予防の保護因子としての援助要請に焦点をあて,それらに関わる態度やスキルの向上をねらいとする心理教育プログラム(SOS の出し方・受け止め方に関する教育)の効果を検討し,今後の自殺予防教育への示唆を得ることを目的とした。計2回の授業から構成されるプログラムを学級単位で実施し,友人・教師に対する被援助志向性,援助要請スキル,友人に対する援助スキルを測定する尺度を用いた自記式質問紙により効果検討を行った。対象となった小学5, 6年生111名のデータを用いて解析を行った結果,援助要請スキルや友人に対する援助スキルなどにおいてプログラムの肯定的な効果が示された一方,友人に対する被援助志向性の一部の下位尺度では男子児童と女子児童で効果の及び方に違いが生じていた。また,プログラムの実施前後における援助・被援助のスキル(援助要請スキルと友人に対する援助スキル)と友人・教師に対する被援助志向性の変化の関連について,部分的に有意な結果が示され,これらの関連は特に女子児童において特徴的であった可能性が推察された。以上の結果を踏まえて,今後の小学生を対象とした自殺予防教育に関する実践および研究の発展可能性について考察した。
著者
榊原 彩子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.92-101, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

According to previous theories, effects of repeated exposure of music on pleasingness depend on uncertainty of the music. In this study,“redundancy of rhythm pattern” and “prototypicality of harmony” were manipulated as the factors of uncertainty. The purpose of the following study is to examine effects of repeated exposure on pleasingness determined by the two above mentioned factors. Subjects heard tone sequences that represented four levels of redundancy and four levels of prototypicality, nd rated them on 7-point scales of “complexity” and “pleasingness”. Pleasingness was shown to be an inverted U-function of redundancy and prototypicality. And then, each tone sequence was repeated and rated pleasingness after each repetition. In a case of sequence whose redundancy caused most pleasingness before repetition, pleasingness of that sequence was decreased by repetition. But, in a case of sequence whose redundancy was too low to cause pleasingness before repetition, pleasingness was seen increased by repetition. On the other hand, pleasingness determined by prototypicality was not affected by repetition, and kept initial pleasingness during repetition.
著者
内田 奈緒
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.366-381, 2021-12-30 (Released:2021-12-28)
参考文献数
45
被引用文献数
7

本研究の目的は,英語語彙学習において効果的な方略は学年により違いがあるのではないか,また,実態としてはどのような方略がとられているのか,その既定要因は何かを検討することであった。中学1―3年生233名,高校生1―3年生304名を対象に,学習目標,学習観,方略使用に関する質問紙調査および語彙サイズテストを実施した。分析の結果,方略使用については,反復方略は一貫して多く使われる一方,より深い処理を伴う関連づけ方略および表現・活用方略の使用は停滞するか減少する傾向が示された。しかし,語彙サイズと関連づけ方略の間には中3以降で正の相関が見られ,ある程度学習が進んだ段階で関連づけながら学習することの有効性が示唆された。さらに,多母集団同時分析を行った結果,高校生では,学習方略と学習目標から語彙サイズへの影響が見られたのに対し,中学生では語彙サイズへの有意なパスは確認されなかった。特に関連づけ方略が有効となる高校においてその使用が増えていかない実態が明らかになり,そのことを考慮した上で指導する必要性が示唆された。
著者
清河 幸子 伊澤 太郎 植田 一博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.255-265, 2007-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
10 3

本研究では, 他者との協同の中で頻繁に生じると考えられる, 自分自身での課題への取り組み (試行) と他者の取り組みの観察 (他者観察) の交替が, 洞察問題解決に及ぼす影響を実験的に検討した。具体的には, Tパズルを使用し,(1) 1人で課題に取り組む条件 (個人条件),(2) 20秒ごとに試行と他者観察の交替を行いながら2人で課題に取り組む条件 (試行・他者観察ペア条件),(3) 1人で課題に取り組むが, 20秒ごとに試行と自らの直前の試行の観察を交互に行う条件 (試行・自己観察条件) の3条件を設定し, 遂行成績を比較した。また, 制約の動的緩和理論 (開・鈴木1998) に基づいて, 解決プロセスへの影響も検討した。その結果, 試行と他者の取り組みの観察を交互に行うことによって, 言語的なやりとりがなくても, 解決を阻害する不適切な制約の緩和が促進され, 結果として, 洞察問題解決が促進されることが示された。その一方で, 試行と観察の交替という手続きは同一であっても, 観察対象が自分の直前の試行である場合には, 制約の緩和を促進せず, ひいては洞察問題解決を促進することにはならないことが明らかとなった。