著者
金綱 祐香 濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.87-102, 2019-06-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
43
被引用文献数
5 6

中学生のいじめ問題は深刻であり,学校現場における道徳的判断力の育成が求められている。本研究では,中学生に攻撃動機や形態の異なる四つの攻撃場面を提示し,場面の違いによって,加害者の悪さの程度の判断及びその判断理由がどのように異なるかをTurielの社会的領域理論に基づいて検討した。また,そうした善悪判断に影響を与えると考えられる個人要因・環境要因を取り上げ,善悪判断への影響を調査した。はじめに,中学生410名への予備調査をもとに判断理由尺度を作成し,その後,中学生1,022名を対象に,作成した判断理由尺度を用いて本調査を実施した。その結果,仕返しを動機とした攻撃は,慣習領域や個人領域の理由から加害行為が許容されやすいこと,言語的攻撃よりも関係性攻撃の方が道徳領域の理由が多く用いられ,より悪いと判断されることが明らかとなった。また,個人要因では,特に女子における罪悪感特性の高さが,環境要因では,教師の自信のある客観的な態度が,望ましい善悪判断を促進することが明らかとなった。以上の結果から,いじめ抑止に向けた指導や学級運営について議論された。
著者
中西 良文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.127-138, 2004-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
17 1

本研究では, 方略帰属が方略を介して動機づけに影響を与えるという過程を想定し, 成功/失敗の方略帰属が自己効力感にどのような変化をもたらすのか, さらに, そのような変化はどのような方略を介してもたらされるのかについて検討した。被験者は高校生80名であった。そのうち60名を対象に面接を行い, 自ら考えさせる形で失敗の方略帰属 (SAF) もしくは成功の方略帰属 (SAS) を促し, 面接前後の自己効力感の変化, および, 面接での方略帰属を通じて思いつく「今後用いようとする方略」の特徴について検討した。その結果, 面接後においてSAS群の自己効力感がSAF群よりも有意に上昇していることが見いだされた。また, 今後用いようとする方略について質的分析を行った結果, SAS群はSAF群に比べ, 直接的に学習に関わるような方略を挙げる傾向があることが見いだされた。
著者
杉本 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.347-361, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
57

本研究は,小学校教員に対する質問紙調査により,(1)日本語のディスレクシア児の書字に関する特徴的な認知障害を包括的に検討すること,(2)それらの認知障害を測定する尺度を作成し,その信頼性・妥当性を検討すること,(3)日本語のディスレクシアの書字障害にはどのようなサブタイプが存在するのかを明らかにすること,(4)各々のサブタイプは読み書き能力とどのように関係しているのかを検討することを目的とした。書字特性の因子分析の結果から,日本語のディスレクシア児では書字に関して4つの主要な認知障害――心的辞書障害,視覚性障害,音韻性障害,書字運動障害――が存在すること,および,これらの認知障害を測定する「ディスレクシア児の書字障害尺度」(WDS-DC)は,信頼性・妥当性が高いことが示唆された。さらに,クラスタ分析により発達性書字障害のサブタイプを分析したところ,重度多重障害群,中度多重障害群,視覚処理障害群が存在することが示唆され,重度多重障害群と中度多重障害群は全ての文字種の読み書き能力において,視覚処理障害群,ボーダー群,障害なし群より低いことが示された。
著者
柴 里実
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.231-245, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
30
被引用文献数
2

問題解決の失敗後に自分の思考過程を振り返り,次の問題解決に役立つ知識を獲得することは,効果的に学習を進めていくために必要である。一方,先行研究では,振り返りを通して自分の間違いから適切に学ぶことができない学習者の存在も指摘されている。そこで本研究では,問題解決の失敗後の振り返りにおいて,学習者がどのような知識を学んでいるのかという振り返りの質を検討するために,メタ認知的方略「教訓帰納」に焦点を当て,学習者が引き出した教訓の質を評価した。教訓の質を評価するために新たな評価基準を作成し,中学2年生を対象に,文章題を題材とした教訓帰納課題と質問紙調査を実施した。評価された教訓の質得点と数学の学業成績との関連の検討と,数学教師による評価結果との比較検討から,本研究で作成した評価基準が教訓の質を捉えるために有用といえることが示された。また,参加者が引き出した教訓の質の評価から,自分の間違いを的確に分析することや,問題解決の転移に役立つ汎用的な知識を抽出することが困難であるという実態が示された。さらに,教訓の質と学習者特性との関連を検討した結果,意味理解志向や失敗活用志向などの深い認知処理を重視する学習観が,質の高い教訓の引き出しにかかわっている可能性が示唆された。
著者
遠藤 久美 橋本 宰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.86-94, 1998-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
3 2

This study aimed at clarifying the relationship between sex-role identity and self-actualization in terms of mental health. Subjects consisted of 86 male and 128 female undergraduate students, and they answered Self Actualization Scale (SEAS) and Bern Sex Role Inventory (BSRI). Our results suggested that female were more self-actualized than male, and that Androgynous and/or Masculine group were more self-actualized than Feminine and/or Undifferentiated group. The results of multiple regression analyses indicated that high masculinity was conductive and high femininity was detrimental to self-actualization. It was also suggested that masculinity was necessary for male to accept themselves and their weaknesses, and that femininity gave a positive effect on male only in company with masculinity. In contrast, for female, masculinity would provide some difficulties to accept themselves. Moreover, female would be required efforts to integrate the demands out of social values and sex-role that they possess.
著者
内田 伸子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.327-336, 1989-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27

The purpose of this study was to examine the role of “deficit-complement” schema played in a semantic integration of narrative sequences and the development of the same schema. Eighty-four 4-year-old and 5-year-old children were divided into three homogeneous groups, and assigned to one of three conditions: a non-restricted information with an undetermined deficit, a restricted information, or a non-information. The children were shown an abstract drawing story and were asked to describe each picture and perform a free-recall of the story and comprehension tasks. The results showed that the hypothesis,“the deficit information facilitating semantic integration of narrative sequences” was supported. It also showed that for the 4 year-old, influenced by the perceptual feature of each picture, in order to reconstruct interpretation the restricted infomation was difficult to utilize, while the 5 year-old could utilize the information and construct coherent interpretation. As a result, qualitative differences of cognitive basis for story production between the two age groups were shown.
著者
生田目 光 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.131-144, 2023-06-30 (Released:2023-06-14)
参考文献数
61

本研究ではポジティブボディイメージの一種であるボディ・アプリシエーションを高める心理教育的支援の開発に向けた基礎的な研究を行うこととした。具体的には,ボディ・アプリシエーションを促進すると考えられる感謝,セルフ・コンパッションおよびメディアの影響を扱い,適応的調和食行動や人生満足度への影響を含めて,統合的支援モデルを検討することを目的とした。264名の大学生を対象に構造方程式モデリングをおこなった結果,仮説モデルがおおむね支持された。感謝はセルフ・コンパッションを促進し,セルフ・コンパッションはボディ・アプリシエーションを促進した。また,感謝はボディ・アプリシエーションを直接的にも促進していた。メディアの影響は,ボディ・アプリシエーションを促進しなかったが,適応的調和食行動を促進した。さらに,ボディ・アプリシエーションは適応的調和食行動と人生満足度を促進していた。これらの結果は,ボディ・アプリシエーションの発達と介入ターゲットの理解の促進に貢献しうる。
著者
直原 康光 安藤 智子 菅原 ますみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.117-130, 2023-06-30 (Released:2023-06-14)
参考文献数
66

本研究の目的は,第1に,離婚後の父母コペアレンティングと子どもの適応の相互関係,第2に,子どもの適応のうち「外在化問題行動」,「内在化問題行動」,「向社会的な行動」の相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて,経時的な相互関係について検討することであった。離婚して2年未満で2―17歳の子どもと同居する母親500名に,3か月後,6か月後に追跡調査を行った。3時点のデータを用いて,交差遅延効果モデルによる分析を行った結果,「葛藤的なコペアレンティング」は,「外在化問題行動」に正の影響を及ぼし,「外在化問題行動」は「内在化問題行動」に正の影響を及ぼし,「内在化問題行動」は「向社会的な行動」に負の影響を及ぼすことが明らかになった。また,「内在化問題行動」と「向社会的な行動」の間には,互いに負の影響関係が認められた。変数相互間の関係性については,発達カスケードを踏まえて考察を行った。本研究の結果を踏まえた介入や支援への示唆として,離婚後の「葛藤的なコペアレンティング」を抑制することの重要性および子どもの「外在化問題行動」に着目することの重要性が示された。
著者
大平 勝馬
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.34-36,57, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
被引用文献数
1 1

The present paper is a report on the study of the correlation between the degree of physical maturation, determined by the planimetric method of carpal bones, and personal character which is appraised by using Kraepelin numeral addition test, adjustment test and moral judgment test. The research and experiment were made during the period from May, 1952 to October, 1952. The number of subjects is 102-from 4th grade to 6th grade of elementary school children.The abstract of the result is as follows:1) the author found that there is correlation coefficient. 311 between the degree of physical maturation (indicated by growth quotient=G. Q) and the result of Kraepelin numeral addition test (indicated by Standard Score) and the γ is significant at 1 percent level.2) The γ between physical maturation degree and the result of adjustment test is. 195 and the γ is insignificant at the 5 percent level. But there is correlation ratio. 423 and the difference between r and n is significant at the 5 percent level.3) The result of moral judgment test indicates γ. 228 orη. 505 between the result and the physical maturation degree; then the γ and the difference between γ and η are respectively significant at the 5 percent level.4) There are deeper correlations between the result of three tests of personal character which were used in this study and the intelligence than the correlation between the test results and bodily maturation degree. Furthermore, the author studied last year that there is the low correlation between the physical maturation degree and intelligence. So if we recognize the common factor of intelligence between personal character and physical maturation degree, and remove the common intelligence factor, there is no correlation between personal character and bodily maturation degree. However if we do not consider about the intelligence factor, the author may conclude that there is actually a low but considarable correlation between personal character and physical maturation degree.
著者
数井 みゆき
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.208-217, 2011-03-30 (Released:2011-11-25)
参考文献数
57

被虐待児の特徴として, 情動調節がうまくいかないことや社会的な関係で不利益を受けやすいこと, また, 学力の低下や常習的な学校のさぼり, 暴力行為や犯罪などへの加担など, 学業や学校生活の問題だけではなく人生そのものが破壊されてしまうこともある。また, 早期に通告されて, 親からの分離という措置によって里親家庭や児童養護施設に移ることが, 学力の低下をもたらし, 学校適応を阻害することも報告されている。すでに北米では, 学校(や地域)で予防教育が 1970 年代から多数行われているが, 被虐待児の家庭背景は多くの場合, 片親家庭で貧困や人種問題, 地域の危険性など複雑である。そのため, 子どもや家庭, 学校を含む包括的な介入の実践が行われてきた。特に, 1991 年から準備が始まり, 現在も追跡が行われているカナダ, オンタリオ州政府の全面援助と協力による地域全体のつながりの構築を含むプロジェクトは不利な条件にいる子どもの発達に対して大きな効力を生み出している。子どものいる家族だけではなく, 様々な立場にある近隣住民を引き込みながら行った予防的介入プロジェクトから, 学ぶことは非常に大きい。対症療法では, 子どもは救われないのである。