著者
磯﨑 哲夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.267-278, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
65
被引用文献数
1 1

本小論は,理科カリキュラムの内容構成論について,比較教育史的アプローチに基づき知識論を援用しながら,19世紀から現在までの3つの時代区分により,日本とイギリスを比較しながら論じた。そして,誰が学習内容を決定し,何を基準として学習内容が選定されるかについて考察した。その結果,両国の科学(理科)教育の史的展開を比較すると,まず,科学(理科)教育を完成した所与のものと見なすのではなく,社会的・歴史的産物と見なすべきことを指摘した。重要なのは,目的・目標論,別の表現をすれば,理科教育を通してどのような資質・能力を備えた人間を形成するかという前提条件のもとで,学習内容(科学(そのもの)の)知識と科学についての知識)を選択し決定するべきであり,そのためには社会や学界を十分に巻き込んだ議論を踏まえて,目標や内容等を決定する“noosphere”における議論が必要である,ということである。理科は自然科学を基盤としている教科である,という分離教科カリキュラムや学問中心カリキュラムの定義を,グローバル化の視点と現代的文脈で再解釈する必要に迫られていることを指摘した。
著者
吉田 美穂 川崎 弘作
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.675-685, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
15
被引用文献数
4

本研究は小学校理科の問題設定場面における,「なぜ」という探究の見通しを持たない疑問を「何が」や「どのように」といった探究の見通しを含む問いに変換する際の思考力に着目し,その育成を目指している。このような疑問から問いへの変換における思考力を育成するにあたり,その変換過程は「疑問を認識した後に仮説を形成し,形成された仮説を踏まえて問いを設定する」(「疑問の認識→仮説の形成→問いの生成」)というように先行研究により整理されているが,これを基にした小学生を対象とする実態調査は行われていない。このため,本研究は疑問から問いへの変換過程の中でもとりわけ「仮説から問いへの変換」(「仮説の形成→問いの生成」)に着目して評価問題及び質問紙を作成し,小学生の実態調査を行った。その結果,小学生は仮説から問いへ変換することができないということ,また,その原因として,問いの形式に関する知識や問いへの変換に関する知識が不足しているということが実態として明らかになった。
著者
板橋 克美
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.539-544, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
4

多くの中学生が持つ「運動する方向に力が働く」という力学誤概念の解消を目的としたアクティブラーニング(AL)型の授業を提案し,熊本県内の公立中学校において実施した。伝統的な教え込み型の授業を行ったクラスとAL型授業を行ったクラスの知識の定着度を比較するため,それぞれ,事前と授業の一週間後にテストを行い,結果を評価した。その結果,AL型の授業を行ったクラスでは,伝統的な教え込み型の授業に比べて,事前・事後での点数の伸びに顕著な上昇が見られ,AL型授業の有効性を確認することができた。
著者
松本 榮次 建部 昇 安部 洋一郎 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.183-191, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
17
被引用文献数
2

「月の満ち欠け」を科学的に理解するには地球視点と宇宙視点を交互に視点移動させる能力が必要であり,その指導は容易でない。本研究では,地球視点と宇宙視点の両方から活用できる三球儀風「月の動きと形しらべ盤」を開発した。小学校では,地球視点を中心にして「月の満ち欠け」の理解を指導するが,開発した三球儀風「月の動きと形しらべ盤」を活用することで,地球視点と宇宙視点の両方の視点から月の満ち欠けを考えることができる。平面的な教材として開発したことで,児童自身が作成することが可能となった。このクラフトを利用することで,月の動きや形についての子供たちの学習を支援することができることが示唆された。
著者
山根 悠平 雲財 寛 稲田 結美 角屋 重樹
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.139-152, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究の目的は,理科における実験結果の捏造や書き替え,書き写しなどの研究倫理・研究不正に関する問題に着目し,これまでどのような不正行為が,どのくらい行なわれたのかという大学生の経験と,不正行為に対してどのように考えているのかという大学生の認識の実態を明らかにすることである。この目的を達成するため,理科における不正行為に関する質問紙を作成し,136名の大学生を対象に調査を実施した。その結果,教科書や黒板,他の人の実験結果を写す行為や実験結果を消したり書き替えたりする行為が,他の不正行為よりも頻繁に行われてきたことが明らかとなった。その一方で,大学生はこれまでの理科授業において,不正行為が悪い行為であると認識していたことが明らかとなった。
著者
石井 健作 本間 均
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.23-32, 2009-03-13 (Released:2022-06-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究では,小学校の理科学習における教授過程で,学習者が電流概念の獲得を行う際の,「粒子傾斜モデル」の有効性についての研究を行った。今までに用いられてきた「アナロジー型モデル」の特徴を踏まえ,新しい「粒子傾斜モデル」の開発を行った。開発した「粒子傾斜モデル」は,学習者に視覚的にわかりやすく,操作しながら直感的に理解しやすいことを考慮した。また,この「粒子傾斜モデル」を用いて小学校4年生を対象とした実践授業を行い,電流の「流れ」や「向きや強さ」についての概念獲得の様子を分析した。その結果以下の3点から,「粒子傾斜モデル」の有効性が明らかになった。①新しい内容を学習する時に学習者自らが「粒子傾斜モデル」を活用しながら考えるようになる。②電流の「流れ」を意識した概念をより強固にもつことができるようになる。③電流の「向きや強さ」についての科学的に妥当な概念を獲得することができる。
著者
矢崎 貴紀 小林 慎一 後藤 芳文 森 研堂 今井 航 渡辺 康孝 中村 大輝
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.669-675, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
16

平成14年度より文部科学省が推進しているスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業では,学習者が主体的に探究活動に取り組むことが期待されている。本研究では,SSHにおける主体的な探究活動に影響する要因を明らかにすることを目的とした調査を実施した。中学3年生と高校生の計714名を対象とした質問紙調査を分析した結果,SSHにおける主体的な探究活動に影響する要因として「他者からの受容」「達成経験」「自己効力感」の3点が明らかになった。本研究の結果を踏まえれば,受容的な他者に支えられて達成経験を重ねる中で自己効力感を高めていくことが,SSHにおける生徒の主体的な探究活動の生起につながると考えられる。
著者
山野井 貴浩 横内 健太
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.485-495, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
32

カブトムシは人気のある昆虫であるが,児童,教員志望学生,小学校教員の多くはその体のつくりを正しく理解できていないことが報告されている。そこで,本研究は昆虫の体節構造の進化を扱うことで,カブトムシの体のつくりを理解させる授業を開発した。また,本授業の副次的な効果として,節足動物の体のつくりや進化についての理解も深められることを期待した。中学生対象の授業実践の結果,授業後にはカブトムシの体のつくりに関して適切なイラストを選択する生徒の割合が有意に増加した。また,節足動物の体のつくりの特徴に関して,授業を通して「1つの節から1対のあしが生えていること」や「(進化の過程で)体節が融合したものがいること」の理解が深まったことが示唆された。一方で,授業後には「頭・胸・腹に分かれた体」や「胸からあし」などの昆虫の特徴を,節足動物の特徴として記述する生徒が増加した。地球上の既知種の約半分を占める節足動物を題材とした進化や分類に関する教材の開発が今後も期待される。
著者
中村 麻利子 南条 真佐人
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.621-630, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
22

温泉水中に放射性のラドンガスが含まれていれば簡単に取り出すことができるため,そのような温泉水は放射線教育の教材として容易に活用可能である。しかし,どの温泉水に教材として利用可能なラドンガスが含まれているかを調査研究した例はない。本研究では,全国に点在している温泉の源泉を入手し,霧箱の線源として利用可能かどうかを確認した。霧箱の線源として容易に採取できる温泉の所在マップはこれまでになく,放射線教育の普及のためその作成は重要である。温泉水は採水後ただちに霧箱に活用するのが良いが,採水後数週間経ても利用可能なものも存在するため,教員にとっても取り扱いやすい線源であることが示唆される。
著者
丹沢 哲郎 熊野 善介 土田 理 片平 克弘 今村 哲史 長洲 南海男
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-12, 2003-09-01 (Released:2022-06-30)
参考文献数
20
被引用文献数
7 1

本研究では, 日本人の科学観・技術観の特徴を明らかにすると同時に,子どもたちの科学観・技術観に直接的な影響をもつ理科教師の科学観・技術観の特徴を示し,理科授業と子どもの科学観・技術観との関連について考察を行った。したがって調査対象は高校生,大学生,中・高の教師,そして一般社会人とし,調査の結果以下の7点が明らかになった。1) 科学知識の発展プロセスの連続性と転換性について,多くの一般社会人が両者を併存的に捉えていたが,科学知識の転換を肯定する理科教師の割合は低かった。2) 観察の理論負荷性については,回答者の半数以上が認めているが,同時に,分析方法や実験方法など方法に関する要因によって異なる結論が得られるとするものが多く見られた。3) 多くの回答者は,たとえ思いつきであっても,論理的に正しければ科学理論の正当性を認めた。4) 回答者の全体的な傾向としては,理論の一形態であるモデルの役割に関しての理解度は低いが,理科教師の理解度は高かった。5) 科学を没価値的で真理追究の学問であるとするものが,理科教師の約7割はこの考えを肯定した。6) 科学と技術の密接な関連性を認識している者は回答者全体に多く見られたが, この点に関する高校生の認識割合は圧倒的に低かった。7) 理科教師の科学観・技術観と,高校生のそれとの間には大きな違いが何点か見られた。すなわち,理科教師の捉え方が授業を通して高校生に直接影響を与えているとは考えにくかった。
著者
宮城 利佳子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.645-656, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
16

本研究では,植物栽培に関する保育者と子どものやり取りを6ヶ月観察し,子どもが他者との関わりの中で,植物に親しみ,植物に関する知識を学習する中で,擬人化がどのように機能しているかを明らかにすることを目的とした。その結果,年長児と保育者の使用する擬人化の機能は4つあり,①植物に対して,感情移入的な親しみや思いやりを持つ事を促す機能,②人間についての知識を類推する事を促す機能,③他の植物の知識を類推する事を促す機能,④植物の状態を説明する機能がある事が明らかになった。このような擬人化を用いたやり取りの中で,子どもは,栽培対象の植物に親しみ,栽培方法を類推する事を学習すると考えられる。また,保育者の信念や経験による影響で,保育者により擬人化の使用する機能が異なる可能性がある。
著者
長谷川 隼也 小倉 康
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.603-612, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
20

本研究では,中学校における理科と総合的な学習の時間との共同により,理科や科学技術と職業との関係を認識させる指導法を開発した。その方法は,理科の学習内容と様々な職業との関連づけを行い(手立てⅠ),その後,総合的な学習の時間で様々な職種の企業による理科や科学技術を活用した取組について生徒が調べたり発表したりする活動を行う(手立てⅡ)ものである。この方法により,理科や科学技術に関係する職業 1)の認識を深めさせることができるとの仮説を設定した。中学校第1学年で検証授業を行った結果,この仮説が支持された。これにより,本研究は,理科や科学技術に関係する職業の認識を深めさせるための指導法として有効であることが示唆された。
著者
金井 大季 小倉 康
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.527-536, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
17

本研究では,理科における「学びに向かう力・人間性等」を科学的リテラシーに関わる意識に主体性・協調性を加えた7項目の意識で捉え,それらが全体的に高まるように,児童自身に行動目標を自己決定させた上で問題解決の過程に取り組ませると共に,学習内容と日常生活との関連を活用として扱う指導法を設計し,その有効性を実践的に検証することを目的とした。手立てⅠとして,学習者にその授業で達成する目標を自己決定させることで主体性,協調性を喚起し自己効力感を高める指導,手立てⅡとして,学習内容の日常生活への有用性,重要性,職業との関連性を意識させ興味・関心を高める指導を設計した。小学校第6学年「てこ」の単元で指導法を検証した結果,開発した指導法を用いた実験群が,従来の指導法による統制群に比較して,7項目中6項目で学びに向かう力・人間性等の意識が有意に高く,学習理解度についても有意差が確認された。このことから,本指導法は理科における「学びに向かう力・人間性等」を育むために有効であることが示唆された。
著者
大貫 麻美 鈴木 誠
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.513-526, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
27

自然科学に関する幼児期からの継続的なコンピテンス基盤型教育の重要性は近年,国際的に周知されている。一方で,日本では,生命科学を科目として扱う幼児教育はなされていない。本論文では,日本の幼児教育において実施可能な生命科学に関するコンピテンス基盤型教育の検討のために,幼児期に育成が期待される生命科学に関する資質・能力の整理を試みた。まず,幼児期の生命科学教育が設定されている米国,オーストラリア,フィリピンの幼児教育スタンダードを調査し,先行研究に依拠しながら整理した。また,日本と同様に生命科学に関する科目設置のないフィンランドのコンピテンス基盤型幼児教育についても調査,分析を行った。これらの知見を基に,幼児期に育成が期待される生命科学に関する資質・能力について,日本の幼稚園教育要領を参照しながら考察を行った結果,日本の幼児教育で扱われる5領域全体を横断する形での学びが期待されることが分かった。
著者
福井 智紀 鶴岡 義彦
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-12, 2001-10-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

Darwin の自然選択説やLamarck の用不用・獲得形質遺伝説などの主要な進化学説が提示された際に,それを生徒がどのように捉えるかを調査した。調査は,中学生・高校生・大学生に対して実施した。捉え方について,学校段階による差異が見られるかにも着目した。調査は質問紙法で行った。まず,ある進化事象の例を提示した。次に, この進化事象がどのように説明されるべきかについて, 4つの主要な進化学説(自然選択説,用不用・獲得形質遺伝説,定向進化説,大突然変異説)に基づく4人の答えを提示した。被験者に, この4人の説それぞれに対する賛成・反対を, 4段階尺度で回答させた(賛否得点として得点化した)。さらに問題毎に,誰に一番賛成できるかも回答させた。問題は3題で, 1題は退化の事象を提示した。調査の結果,以下の点が明らかになった。1) 現在科学的に妥当とされる自然選択説は,学校段階の上昇とともに支持が増加している。特に,大学生ではこの説の支持が高い。ただし退化の事象についてのみは(実際にはこれも進化の事象であるにも関わらず)学校段階による差異が見られず,大学生による支持も高くない。2) 用不用・獲得形質遺伝説は,現在は科学的に妥当とはされていないにも関わらず,支持は比較的高い。特に,高校生における支持が中学生・大学生と比べて高い。3) 定向進化説は,中学生の支持か高校生・大学生と比べて高い。4) 大突然変異説については,中学生・高校生・大学生の全てで,支持は非常に低い。5) 一番賛成できる説について,およそ3~4割の者は3問題に一貫した回答をした。自然選択説を一貫して選択した者は,大学生では24.1 %と比較的多数存在した。一方で,用不用・獲得形質遺伝説を一貫して選択した者は,中学生・高校生・大学生いずれにおいても1割以上いた。
著者
中島 雅子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.411-421, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿の目的は,理科教育における授業改善のための教師の自己評価に必要な要素とその構造を明らかにすることにある。自己評価に注目したのは次の理由による。学習・授業の改善が適切に行われるためには,学習者や教師が自身の問題点を自覚する,つまり,自己評価が行われなければ,真の意味での改善は難しいと考えられるからである。さらに,それはどこにどのような問題があるのかが,具体的に把握できなければ日々の実践に生かすのは難しい。本稿では,先行研究を基に,次の3点を中心に議論した。1つは,適切な自己評価が行われるための教師の評価観の問題である。2つめは,育成が難しいとされる自己評価能力の問題である。3つめは,教育評価で資質・能力を育成するという考え方である。これらについて,形成的評価において自己評価を重視する「一枚ポートフォリオ評価(OPPA:One Page Portfolio Assessment)論,以下OPPA論と記す」を提案した堀哲夫の言説を基に検証した。その結果,要素として次の4点を抽出した。第一に,メタ認知を促すための自己評価における問いである。これまで自己評価の問いについてはほとんど議論されてこなかった。第二に,その問いに対する学習者の記述への教師のコメントによるフィードバックの効果である。第三に,その前提としての「学習や指導の機能を持つ評価」という考え方である。第四に,これらの前提にある概念やその形成過程の自覚化という視点である。構造は次の通りである。学習者が「問い」により自身の概念や考え方の形成・変容過程を自覚することで,メタ認知といった資質・能力の育成が促される。それと同時にそれらを教師が確認し,フィードバックすることで授業の何が問題だったのかを具体的に把握できることになることが教師の授業改善,さらには,教育観の変容を促すことになる。学習者の自己評価と教師の自己評価は,この概念形成の自覚化という視点により結びつくことが可能になる。
著者
河本 康介 山田 健人 小林 辰至 山田 貴之
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.585-598, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1

本研究の第一の目的は,「理科と数学の教科等横断的な学習」が「理数の関連性の意識化」,「学習方略」および「自己効力感」を媒介し,「理数学習の有用性」に影響を及ぼすと仮定した因果モデルに基づいた質問紙を作成し,「理科と数学の教科等横断的な学習の意義」を構成している諸要因の因果モデルを明らかにすることであった。さらに,理科と数学の好き嫌いと各要因の関連性を明らかにすることが第二の目的であった。質問紙調査を行った結果,第一の目的については,「問題解決への意識」,「関数的な見方・考え方」,「理数学習の有用性」,「理科における学習方略」,「理科学習での数学の必要性」,「数式化・数値化の意識」の6つの因子が理科と数学の教科等横断的な学習の意義として抽出された。また,重回帰分析とパス解析を行った結果,「関数的な見方・考え方」が,4因子(「問題解決への意識」,「理科における学習方略」,「理科学習での数学の必要性」,「数式化・数値化の意識」)を経由しながら「理数学習の有用性」に間接的に影響を及ぼしていることが明らかになった。さらに,第二の目的については,理科と数学の好き嫌いと各因子得点の比較検討から,「数式化・数値化の意識」において,Ⅱ群(数学は好きだが,理科はあまり好きではない)とⅢ群(理科は好きだが,数学はあまり好きではない)との間で有意な差が見られた。理科学習において,「数式化・数値化の意識」を高めるために,自然の事物・現象や実験結果を数学的な知識・技能を活用しながら定量的に分析・解釈し,グラフ化したり公式や規則性を導いたりする活動の必要性が示唆された。
著者
中村 大輝
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.197-204, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
39
被引用文献数
5

問題発見から仮説設定に至るまでの過程は発見の文脈と呼ばれ, 従来, その指導や評価があまり重視されてこなかった。そこで本研究は, 理科教育の「発見の文脈」における評価の必要性や, 当該過程における評価方法の問題点を明らかにすることを目的とし, 先行研究における評価方法を分析した。その結果, 発見の文脈においても評価の必要性が主張できること, 先行研究における発見の文脈の評価は, ①想起数の評価, ②論理性の評価, ③検証可能性の評価, ④能力の評価の4種類に分類できることが明らかになった。また, 各評価方法には, 指導方法に還元されない評価である(①), 思考過程を考慮していない(②), 正当化の文脈へ方向付けられた評価方法を発見の文脈に適用している(②③), 学習者が検証可能性を判断することが困難である(③), 発見の文脈において必要となる能力が明らかになっていない(④), 能力と実際のパフォーマンスの関係性が明らかになっていない(④)といった問題が存在することが明らかになった。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.53-60, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1

自然科学においては,実際に実験ができないような状況ではシミュレーションが行われる。観察結果がよく一致するシミュレーションを選択することで「どのようになっているか」を理解しようとする。本研究は,「月は日光を受けて輝き,私たちの周りを公転しているので日光の当たる角度が変わり,形が変化して見える」という理論からなる理論モデルに基づくシミュレーションを行い,実際の観察事実と理論モデルとの一致によって,この理論モデルを成立させた理論にコミットさせることを試みた,小学校第6学年における実践的研究である。児童は,観察事実がこの理論モデルによく一致することから,上述した理論に対するコミットメントを形成できた。実際の観察と中心に地球をおいた一般的な月の公転モデルの間では,視点移動・空間認識の困難性が生じることが報告されているが,公転する月の中心に地球ではなく,観察者である「私」を直接に置くことで,その困難性から逃れることができた。また,このモデルでは,太陽を我々の周りを回る24時間時計として認識すると夜間の太陽の方位を推定できるので,夜間でも「太陽と月の関係」を知ることができた。さらに,月齢がわかれば,月の観察が可能な「時刻と方位」を決定できるので,月の観察を計画的・予測的に行うことが可能になった。
著者
畑 宗平
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.457-465, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
10

高校化学の授業で加熱操作を必要とする有機化学反応をマイクロスケール実験で行うことは有意義である。しかし,マイクロスケール実験専用のガラス器具と加熱器具の配備は経済的に困難である。そこで,教員がハサミとペンチを用いて短時間で作成できる,液体の加熱を伴うマイクロスケール実験等で使用が可能な,「簡易加熱器具」の開発を検討した。開発に当たっては,①加熱動作が安全で製作費が安価であること。②多種多様な市販のガラス器具に対応できること。③製作工程が簡略であることの3点に留意した。その結果,市販の小型ガラス実験器具を用いた溶液等の加熱実験を安全に行うことができて多様な小型ガラス器具の形状に対応が可能な簡易加熱器具を安価で容易に作製できる方法を開発した。