著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.321-328, 2020-11-30 (Released:2020-11-26)
参考文献数
15

学習者が明確な目的を持ち,仮説を立てて観察・実験が行われるには,その実験で確かめようとする理論だけでなく,その理論が含まれる理論体系全体が観察・実験に先だって概観されている必要がある(遠西・福田・佐野,2018)。本研究はこの視点に立って,このような「先行的了解」を保証し,明確な目的を持ち仮説を設定して実験に臨ませる小学校第5学年「電流がつくる磁力」の実践的研究である。本実践では,短文や教科書の先読みによる「テクストの通読」とより基本的な「基礎実験」の導入による「先行的了解」の形成によって,探究活動過程全体と探究活動を構成する個々の観察・実験を見通すことができた。その結果,児童は解決すべき問題を科学的な文脈の中に発見して目的を明確にし,さらに実験に方法的根拠を与えている理論を生成して仮説を設定することができた。仮説は実験を有意味なものにし,児童自身による実験の成否の評価を可能にして理解を確かなものにした。この確かな理解はそれを可能にした基礎実験に対するコミットメントを強化し,「短文」や教科書の記述の理解をさらに深めるという循環的理解を生じて,電磁石理論の体系全体への深い理解を可能にした。
著者
向井 大喜 村上 忠幸 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.455-464, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究では,高校生の探索的な科学的問題解決における,仮説形成の到達段階を評価する指標の開発を目指した。そこで,仮説形成プロセスのモデルを設定して評価指標を作成し,高校生に実践された探索的な科学的問題解決を実際に評価した。その結果,活動が進展している学習グループには以下の(1)~(3)が認められた。(1)実験素材への「操作」を通して「要素の抽出」が生じた。(2)要素に説明付けすることで「説明仮説の生成」が生じた。(3)説明仮説から演繹することで「作業仮説の生成」が生じた。しかし,停滞している学習グループでは,「要素の抽出」が繰り返され「説明仮説の形成」へ進まず,演繹的探究への移行が起こらなかった。このことより,本研究で提案する指標には,仮説形成の段階を評価できる可能性があることが明らかになった。
著者
志田 正訓 野添 生 磯﨑 哲夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.133-142, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
33
被引用文献数
2 3

本研究では,わが国の小学校理科カリキュラムに,新しい科学観を学習内容とする「科学の本質」を取り入れる際の具体的な手立てや示唆について明らかにすることを目的とした。まず,イギリスの先行研究から,「科学の本質」に関する検討を行い,本研究における「科学の本質」の概念を規定した。次に,その概念を踏まえ,イギリスのナショナル・カリキュラム科学に「科学の本質」が具体的にどのように取り入れられているのかを分析した。最後に,わが国の理科教育が抱える問題を踏まえ,「科学の本質」を導入するための具体的な手立てについて論究した。分析の結果,わが国の小学校理科に対して以下のような提案ができた。①西洋諸国とは異なる文脈を有するわが国の理科教育の性格を熟慮した上で,「科学の本質」に関する概念領域を明確に規定・分類し,カリキュラム編成においては,それらの異なる領域に合わせながら,記述の仕方に違いをもたせる必要があること。②わが国の小学生でも理解可能な科学者の業績を取り扱うといった科学史の視座に基づく新たな授業方略を導入することにより,「科学の本質」,とりわけ,社会的な営為としての科学(科学と社会との関係や科学・技術が発展してきた経緯)について,より深く学ぶことが期待できること。
著者
佐伯 英人 今村 大志 松永 武 水野 晃秀
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.27-36, 2013-07-17 (Released:2013-08-09)
参考文献数
14

チリメンモンスターとはチリメンジャコの混獲物のことである。これまで,中学校の理科の授業においてチリメンモンスターを教材として用い,授業実践を通して,その教育効果を検証した事例はみあたらなかった。そこで,本研究では,中学校理科第2学年の単元「動物の仲間」にチリメンモンスターを教材とした分類活動を単元の導入時と単元末に取り入れ,実践をそれぞれ行い,生徒の意識の変容と理解の程度を調べ,その教育効果を検証した。その結果,明らかになったことは次の①~⑤である。① 単元の導入時に行った分類活動は,生徒の興味を高めるのに有効であった。② 単元末に行った分類活動は,「脊椎動物の特徴を知っている」という意識を高めるのに有効であった。③ 単元末に行った分類活動を通して,「無脊椎動物の特徴を知っている」という意識に天井効果がみられた。④ 単元を通して,「生物を大切にしたい」という意識をもち続けていた。⑤ 単元末に行った分類活動の方が,単元の導入時に行った分類活動よりも,分類に関する理解が高いことが分かった。これらのことは,単元の導入時の分類活動は,生徒の興味を高めるのに有効であり,一方,単元末に行う分類活動は,生徒の理解を深めることに有効であることを示唆している。
著者
遠西 昭寿 福田 恒康 佐野 嘉昭
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-86, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
27
被引用文献数
4

「主体的な学習」においては, 行為や具体的操作よりも心的・認知的な意味での主体性が問われなければならない。本研究の目的は, 観察・実験における主体的探究者としての科学者と授業における学習者の認知的活動を比較して, その差異から授業を改善することである。その結果, 観察や実験の結果の考察においては, 観察・実験が確証をめざす当該の理論のみならず, その理論を含む理論体系の全体が学習に先行して概観されていなければならないことを示した。さらにアプリオリな理論体系の存在は, 問題の発見から仮説設定, 観察・実験の方法の決定といった一連の過程においても必然であることを示した。すなわち, 観察や実験で演繹されるべき理論(仮説)のみならず, 学習の成果として期待される理論の体系的全体の概観が, 当の学習の前提であるという循環論である。本論文ではこの問題を解決する具体策として, 教科書記述の改善と現在の教科書を使用した対応の方法を提案した。
著者
西内 舞 川崎 弘作 雲財 寛 稲田 結美 角屋 重樹
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.615-626, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
25

本研究では,学習者の理科学習の動機づけ向上のために「科学的能力」から「理科学習の意義」を認識する学習指導法を考案し,その効果を検証することを目的とした。そして,「科学的能力」について直接教授する学習と,普段の理科の学習の中で科学的能力を身に付けていると学習者自身に意識させる学習の二つからなる学習指導法を考案し,高校1年生を対象に,その効果を検証した。その結果,学習者が「科学的能力」を「理科学習の意義の認識」として認識すると,自律性の高い動機づけのうち「内発的調整」,「同一化・将来」,「同一化・成長」を向上させる指導法として有効であった。
著者
齋藤 惠介 原田 勇希 草場 実
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.107-117, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

近年,興味をポジティブ感情(強度)と価値の認知(深さ)から捉える理論的枠組みが提唱されており,強度と深さを望ましい状態に導くことが重要である。また,これまでの大規模調査より,我が国の生徒は理科全般に対する興味の強度に課題があることが示唆されているが,観察・実験に対する興味の強度は比較的良好に保たれていることが明らかになっている。そのため興味に介入する場合,観察・実験を足掛かりにすることが考えられるが,強度と深さのどちらを先行して育成すべきであるかについて未検討な点が多い。そこで,本研究では観察・実験に対する興味の強度と深さに注目し,理科全般に対する興味の強度との関連を検討することを目的とした。結果より,“理科学習に対するポジティブ感情”と“観察・実験に対するポジティブ感情”は別因子として抽出できたため,両興味は並存しえる構成概念であるといえる。また,生徒の観察・実験に対するポジティブ感情が低い状態で深い価値の認知に介入することは,理科全般に対するポジティブ感情をより低減させてしまう可能性が示唆された。このことから,教師は生徒の観察・実験に対するポジティブ感情の強度に応じて,興味の深さに介入していく必要があるだろう。
著者
猪口 達也 後藤 大二郎 和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.229-242, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
12

本研究では, 主体的な学習を高める鍵となり得るメタ認知概念について, 社会性を加味した概念へと拡張し, それらの機能によって理科における資質・能力の育成に関わる問題解決活動の充実を図ることを目指した。具体的には, メタ認知概念の拡張に関して, Chiu & Kuo(2009)が提起した「社会的メタ認知(social metacognition)」の機能によってもたらされる5つの利益を援用し, 理科学習における問題解決活動の質の向上に関わる利益として捉え直した。その上で, それらの機能が問題解決活動にもたらす利益と併せて促進すると考えられる, 個人内メタ認知の活性化と科学概念構築の成立過程について, 小学校理科を事例に検討した。事例的分析の結果から, 社会的メタ認知の機能によってもたらされる5つの利益から, 問題解決活動の質の向上を捉えることが可能になった。さらに, 社会的メタ認知を通じた個人内メタ認知の機能の活性化が, 科学概念構築に寄与することが明らかになった。
著者
西内 舞 川崎 弘作 後藤 顕一
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.113-123, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究では, 自己決定理論から動機づけを捉え「理科学習の意義の認識」が「相互評価表を活用する学習活動(以下, 相互評価活動と略す)への動機づけ」にどのような影響を与えているかについて明らかにすることを目的とした。本目的を達成するために, まず, 学習者が認識している「理科学習の意義の認識」と「相互評価活動への動機づけ」を測定するための質問紙を検討, 作成した。次に, 高校生を対象にこれらの質問紙による調査を実施し, 調査結果を基に「理科学習の意義の認識」が「相互評価活動への動機づけ」にどのような影響を与えているかについて共分散構造分析により明らかにした。その結果, 理科学習を通して, 学習者自身が, 「理科学習の意義の認識」を「科学的能力」が身に付くと捉えると, 「相互評価活動への動機づけ」のうち, 自律性の高い「同一化・成長」の動機づけに正の影響を与え, 自律性の低い「外的調整」には負の影響を与えていることが明かになった。また, 「理科学習の意義の認識」を「科学と身近な自然や日常生活の理解」と捉えると, 「相互評価活動への動機づけ」のうち, 自律性の高い「内発的調整」, 「同一化・成長」, 「同一化・将来」の動機づけに加え, 自律性の低い動機づけである「取り入れ・他者」にも正の影響を与えていることが明らかになった。つまり, 「理科学習の意義の認識」を「科学と身近な自然や日常生活の理解」と捉えると, 自律性の低い動機づけまで高めてしまう危険性が示唆されたと考えられる。
著者
原田 勇希 中尾 友紀 鈴木 達也 草場 実
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.409-424, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
27
被引用文献数
5

本研究は,中学生の観察・実験に対する興味の構造を明らかにすることと,興味と学習方略との関連性について検討することを目的とした。確証的因子分析の結果,興味の構造として階層因子モデルが採択された。すなわち,観察・実験に対する興味は,“ポジティブな感情”の程度と,“観察・実験に対する価値の認知”の直交する2つの次元から捉えられることが示されたといえる。また,ポジティブな感情の程度と“思考活性志向”には観察・実験における深い学習方略(関連付け方略など)の使用を促進する効果が見出された。一方,“体験志向”は深い学習方略の使用を抑制する効果が見出された。さらに,本尺度の因子構造を反映した尺度得点の算出方法が検証され,分析用プログラムが作成された。
著者
濱保 和治 山崎 敬人 岡田 大爾
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.467-475, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
11

近年,教科を学ぶ意義や有用性についての意識の欠如とキャリア教育の重要性が指摘されている。平成20年9月「中学校学習指導要領解説理科編」においても,「日常生活や社会との関連」について理科で学習することが示され,理科学習でも教科内容との関連において,キャリア教育との関連を意識した指導を行うようになった。しかし,生徒の「日常生活との関連」についての意識は向上しているものの,理科学習の有用性を生徒自身に理解させることはできていない。そこで,大学との連携によって研究者が単元の学習内容に直接関わる授業を行い,社会貢献や職業選択のきっかけや夢などの話題を提供するといった教科学習に組み込んだキャリア教育を行うことで,教科学習の有用性を生徒が実感し,学習内容の深化を図るとともに将来の職業選択の可能性を広げることができると考えて,授業を計画・実施し,その効果を検証した。その結果,理科学習の有用性のうち職業生活への有用性や日常生活への有用性,及び日常生活との関連,学習意欲の向上に効果があることがわかった。
著者
髙山 真記子 大貫 麻美
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.363-369, 2014-11-17 (Released:2014-12-04)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

高等学校「生物Ⅰ」で単元「動物の生殖と発生」の学習終了時に, 「生命の連続性」概念系に関する理解を深めることを目的としたコンセプトマップ法の導入を行った。この実践は, 2010年から2012年にかけて3回行った。実践Ⅰでは, 異なる学習区分で扱った内容の関連に気づき1つのマップを作ることができなかった学習者(レベル1)が18.1%存在した。そのため, 実践Ⅱ及び実践Ⅲでは, 教師から予め, すべての概念ラベルがとぎれることなくつながるようコンセプトマップを作成するよう指示をした。その結果, 実践Ⅱでは96.3%が, 実践Ⅲでは100%の学習者が異なる学習区分で扱った内容間に「受精」という関連事項を見出し, 一つのマップを作ることができていた(レベル2)。循環する「生命の連続性」概念系を示す学習者(レベル3)も, 実践Ⅰでは1%であったが, 実践Ⅱでは約80%に増加し, 実践Ⅲも同様の結果であった。感想文の分析からは, 生命の連続性に関する情意面をも含む学びの成果や, コンセプトマップ法の有意味性に関する記述があることが分かった。
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.293-293, 2013 (Released:2013-12-12)

戸倉則正・藤岡達也(2013)「津波に起因する河川災害の取扱いについての一考察―東日本大震災をふまえた津波に対する防災教育の観点から―」『理科教育学研究』第54巻,第1号,51–59.におきまして,DOIの命名規則の変更がございましたので,下記の通り訂正いたします。誌面につきましては次頁のようになりますので,ご利用下さい。なお,J-STAGE上の当訂正記事では,該当論文の全頁のPDFをご利用頂けます。著者ならびに関係者の皆様にお詫びを申し上げるとともに,訂正いたします。p.51<誤> doi:10.11639/JRSE12032<正> doi:10.11639/sjst.12032日本理科教育学会「理科教育学研究」編集委員会
著者
高橋 多美子 高橋 敏之
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.51-61, 2007-07-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
76
被引用文献数
6 1

本論は, 自然体験の幼少期における重要性を再検討し,子どもの成長における意義を明らかにする。16 世紀より欧米の教育思想家が,幼少期の自然体験の重要性を唱え,実践してきた。日本では教育研究者が,その影響を受け,独自の教育論を展開し,教育界に貢献した。今日では様々な研究者が,幼少期における自然体験の重要性や意義を指摘している。その意義とは,知・徳・体のバランスのとれた人格形成に繋がり,多面的な教育的効果が期待できることである。近年自然体験は,子どもを取り巻く環境の変化から減少傾向にある。このような現状を危惧し,教育行政は,子どもの自然体験を促す取り組みを実施しているが,効果が十分に表れているとは言えない。今後の課題として,大人が子どもの成長に自然体験が有用なことを認識し,意図的に体験を促す必要があり,豊かな自然環境の整備や地域や家庭に定着した活動の推進が考えられる。
著者
松森 靖夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.27-39, 1999-11-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
20
被引用文献数
4

本研究の主目的は,以下の3点である。(1)命題の科学的真偽を判断する際に,子どもが用いる命題論理について把握する。(2)子どもなりの命題論理に適合した真偽法による評価シートについて提案する。(3)提案した真偽法(評価シート)の活用可能性などについて検討を加える。そして,以下のような知見を得たので報告する。(1)自然の事物現象に言及する命題の真偽を判断する際,子どもなりの多様な命題論理(真・偽以外の新たな真理値を設定する“子どもの多値論理学”)の適用が想定されること。(2)コメット法(“子どもの命題論理学”に適合した“多値真偽法” )による評価シートを開発したこと。具体的には,(「そう思う」・「そう思わない」・「分からない」・「ほかの考え( )」という四つの真理値で構成される評価シートである。(3)提案した評価シートは,理科教育実践において活用可能であると考えられるが,解決すべき課題(命題文の表記の問題など)も想定されること。
著者
大髙 泉
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-24, 2000-07-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
61
被引用文献数
1 1

科学教育における近代科学の基本的自然観の再生産の問題はこれまで全くといってよいほど扱われてこなかった。しかし近代科学を生み出しえなかった非西欧に属するわが国の理科教育の特質を理解するうえでも,また理科の学習を進めるうえでも,近代科学の基本的自然観の再生産という問題は,看過できない重要な問題であることを指摘した。そしてこの問題を研究する基本的視点として,理科教育史的視点,理科教育の目的論的視点,及び比較理科教育学的視点をも含めた包括的な理科教育論的視点の3つを提案した。さらに, ドイツの著名な実践家であるヴァーゲンシャインによる「落下の法則」の範例的教授過程を事例として取り上げ,「自然の数学化可能性」観の伝達の意味と方法を分析し,近代科学の誕生を見た西欧の科学教育論における近代科学の基本的自然観の再生産の様相の一端を解明した。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.155-162, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
20

本研究は,小学校第6学年「燃焼の仕組み」に,『ロウソクの科学』(ファラデー,2012)のテクストの一部を用い,三読法(石山,1973)による解釈的読みによって,「炭素と酸素の結合による二酸化炭素の生成」を理解させることを試みた実践的研究である。児童はテクストに科学的な問題を発見し,理論,実験方法,得られる結果を読み取りながら有意味に実験を行うことができた。また,実験の成功から理論を確証することでテクストの読みを確かにすることができた。ここでは,粒子モデルを導入して「炭素と酸素の結合」をイメージさせる指導がテクストの読解を支援した。また,テクストの中心的な内容を児童実験で,補足的な内容を演示実験で行うことで,燃焼単元の標準時間内に本実践を組み込むことができた。児童は科学のテクスト読解により「炭素と酸素の結合」を理解することができた。
著者
和田 一郎 森本 信也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.117-127, 2010-07-07 (Released:2021-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
11

子どもは理科学習において,認識の源泉といえる様々な様態の表象(活動的表象→映像的表象→記号的表象)を有機的に関連付けることによって科学概念を構築している。この際,子どもはこれらの表象を複合的に操作し,相互変換を繰り返しながら事象を把握する表象の変換過程の確立を要求される。このため,そうした学習過程を確立するための教授論的展開に関する検討が強く要請されることになる。そこで本研究では,子どもの表象の高度化を志向した具体的な教授論の構想と授業実践による検証を施すことを主な目的とした。教授論の構想にあたり,筆者らは表象の変換過程において,子どもに内在する表象内容の視詑化の直要性に着目した。これに関わり,まずCheng.M (2008) らが提起する化学の学習における表象の視覚化原理に基づき.表象に関わる視覚化の諸要素.すなわち動作過程,変換過程,分類過程.分析過程.精緻化過程の5つを同定した。その上で,これら5つの視覚化要素を踏まえた教授論的視点を構築し,高校化学(単元:化学反応と熱)を事例に授業実践を施し,子どもの科学概念構築に関わる表象の変換過程の分析を通じて,その視点の有用性を検証した。結果として,子どもの表象内容を教師が適切に視覚化し,デイジタル化を施すことによって,子どもの様々な形式やレベルの表象の結合および表象の相互変換が円滑なものになることが明らかとなった。
著者
小長谷 幸史 小田島 大 山家 真奈美 高橋 悠斗 古俣 真夕 重松 亨
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.425-435, 2022-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
21

分子生物学など幅広い分野で用いられているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は,現在では高等学校の生物の教科書にも記載され,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査で用いられていることにより社会にもPCRが広く認知されるようになった。高等学校の生徒に対してPCRの原理と応用に関する質問紙調査を行った結果,ほぼ全員PCRという言葉を知っていたが,SRAS-CoV2の検査に関すること以外の記述はほとんどなかった。この生徒に対し大学と連携によるPCRの実験を伴った授業を行った。授業は通常の授業時間のなかで説明,PCRの操作,電気泳動を含めて2校時内に行うものとし,PCRは3台の温度の異なるウォーターバスを用いて生徒が反応液の入ったPCRチューブを移動させる“手動PCR”の方法で行った。PCRは原核細胞の16SリボソームRNA遺伝子のほぼ全域の約1500 bpの部分を標的とし,試料は納豆から分離したBacillus subtilisの菌体およびそのDNA,納豆の粘りを用いた。1校時目に全体の説明とPCRの反応操作を行った。PCRの条件は初期変性2分間の後,94°C 20秒間56°C 20秒間72°C 20秒間の25サイクルで行った。2校時目にPCR後の反応溶液を電気泳動に供した結果,9班中2班で目的のPCR産物が得られていた。本実践では感染症対策を十分にとって行うことができた。授業後の課題の設問への解答にはPCRの原理や検査以外の応用の記述がみられるようになった。本実践により通常の授業時間の2校時と課題による時間外学習によりPCRについて学ぶことができる生徒実験が構築できる可能性が見出された。
著者
松橋 博美 菊地 友佳子 伊藤 崇由 林 昭宏
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.293-300, 2017-03-18 (Released:2017-04-12)
参考文献数
12

エチレンの生成について高校化学の教科書では, 加熱した濃硫酸にエタノールを滴下するという実験方法が紹介されている。しかし, 濃硫酸の扱いや実験に危険が伴うため, あまり普及していない。エチレンの生成と脂肪族炭化水素の性質に関する実験について, 酸化アルミニウムやYゼオライトならびにベータゼオライトを触媒として用いる方法が報告されている。ゼオライトは一般には入手が難しいことを考慮し, これらに代わりホームセンターなどで購入可能なゼオライトの適用について検討した。その結果, 園芸用や調理用として市販されているゼオライトが使用可能であることが明らかとなった。また, 高校での実践により, 実験教材としての有効性が確認された。