著者
荻原 毅 上原 信吾 佐々木 宏子 菊池 重忠 佐藤 アイコ 高見沢 将 井出 晴子 中田 未和子 畠山 敏雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.73-78, 2009-07-30 (Released:2009-09-18)
参考文献数
16
被引用文献数
1

当院脳ドックでは検査項目のひとつである頸動脈超音波検査のときに,同時に甲状腺の超音波スクリーニングを実施してきた。今回我々は,この甲状腺超音波スクリーニングの有用性について検討した。対象は1992年12月から2007年3月までの当院脳ドック受診者で複数回受診者を除く,実質受診者4,338名である。腫瘤性病変では100例の要精検者のうち79例が精検を受診し (精検受診率79%),このなかから17例 (発見率0.39%) の乳頭癌が発見された。このうち当院で治療 (切除術) が行なわれた13例につき検討すると,平均腫瘤径11mmと小さなものが多く,病期分類のn分類でもn0が8例,n1が5例と早期のものが多かった。び慢性疾患では101例の要精検者のうち45例 (精検受診率44.6%) が精検を受診し,バセドー病5例,慢性甲状腺炎15例 (0.35%) が発見された。バセドー病の5例は全例に機能亢進を認め,慢性甲状腺炎15例のうち9例には機能低下を認めた。また,甲状腺外の腫瘤として副甲状腺腺腫1例,中咽頭癌の転移性リンパ節1例,悪性リンパ腫1例が発見された。甲状腺超音波スクリーニングは癌の早期発見だけでなく,甲状腺機能異常のスクリーニングとしても有用な検査と考えられた。
著者
髙橋 祥
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.15-24, 2016-05-31 (Released:2016-07-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

“めまい”の原因疾患を検討するため,15か月で1,000例のめまい患者を集めretrospectiveに解析した。めまい患者で最多の診断は,頚性めまいで89%を占めた。頚性めまいと診断し,頚部MRIを施行し得た症例の中で最も多い頚椎・頚髄病変は脊柱管狭窄症であり,脊柱管前後径の正確な測定とその診断基準に沿った判定が重要であると考えられた。また頚椎・頚髄病変が根底にあり,さらにめまいを誘発した頚の姿勢への負荷では,その原因が性別や年代により異なっていた。特に,高齢女性の場合,農作業や草取りなどの庭仕事で長時間の前傾姿勢を取ることが誘因となっていたことは特徴的であった。頚性めまいの患者において,頚・肩筋群の過緊張や緊張型頭痛を伴う場合には,筋弛緩薬による是正が最も重要であり,治療により1週間以内にめまいが消失あるいは明らかに改善した症例は90%であった。本研究では,頚椎・頚髄病変が根底にあり,さらに頚に過度の負荷をかけることでめまいが誘発される頚性めまいの重要性について述べた。
著者
石井 政嗣 大杉 頌子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.192-197, 2019 (Released:2019-09-26)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

症例は70代女性。来院2日前からの嘔気嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した。炎症反応の軽度上昇と腹部造影CT検査にて少量の腹水,腸閉塞,回腸に隆起性病変を伴う腸重積と思われる所見を認めた。血流障害を伴う小腸腫瘍による腸重積と診断し,同日腹腔鏡下イレウス解除術を施行した。回盲部より約40cmの漿膜面に充血を伴った小腸腫瘍と考えられる部位を認めたが,重積,重積の跡は認めなかった。病変部位を臍部創より体外に出し,腫瘍を露出しないように小腸部分切除術を施行した。術後に小腸を切開したところ,内部より椎茸が検出された。術後経過は良好であり,術後14日目に退院した。 小腸腫瘍に伴う腸重積と術前診断したが,結果的に食餌性イレウスであった症例であり,鑑別診断を考えるうえで有用であると思われたので報告する。
著者
塚田 俊郎
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.42-65, 1960-06-30 (Released:2011-02-17)
参考文献数
76

During the period from July, 1957, to September, 1958, epidemiological studies were carried out, with the specific object of investigating familial prevalence, on Ascaris and hookworm infection among the inhabitants of 10 agricultural communities and 1 residential area (the control) in and around Chiba City. The rural areas where the investigation was carried out had been so selected that they included lands with different geographical features-the reclaimed land, the land where paddy-fields predominte, and the land where fields prodominate. With over 90 per cent of the inhabitants participating in the program, tests for infection with Ascarides and hookworms were conducted by means of smear method, suspension method and culture method.1. The smear method proved superior to the suspension method in detecting unfertilized Ascaris eggs, whereas the culture method was better than the suspension method in detecting hookworm eggs.2. Farmers and part-time farmers had a higher incidence of positive reactions to tests for Ascaris and hookworm infection than did non-farmers. The farmers cultivating fields ranging in area from 0.1 to 2.0 tan (1 tan corresponds to 0.245 acre) had the highest rate of Ascaris infection.Hookworm infection had no relation to the area of land cultivated. Both Ascaris and hookworm infection rates were low among the farmers using night soils fertilizer by mixing it with manure, than among the farmers employing other methods of night soil disposal.3. Among adults, those who were engaged in agriculture had the highest incidence of both Ascaris and hookworm infection. Among those engaged in agriculture, males had a higher incidence of infection with Ancylostoma duodenale, and females with Ascarides and Necator americanus.4. A. duodenale' showed the highest familial prevalence, followed by Ascarides and N. americanus in the indicated order. The prevalence of A. duodenale and N.americanus among those members of the family who were engaged in agriculture was as high as the familial prevalence, but the prevalence of Ascarides among those members of the family who were engaged in agriculture was lower than familial prevalence. Familial infection of these parasite worms in terms of the relations between husband and wife and parent and child gave the following picture: husband had a close relation with wife in infection with Ascarides; parent and husband had a close relation with child and wife, respectively, in infection with A. duodenale; and husband had a close relation with wife in infection with N.americanus.5. The following picture of mixed infection was obtained: Ascarides were closely related to A. duodenale in infecting children; Ascarides and A. duodenale were closely related to A. duodenale and N. americanus, respectively, in infecting adults. No close relation was found between Ascarides and N. americanus.6. In the light of the result of present investigation, it would seem that A. duodenale has larger possibilities of invading the human body by mouth than N. americanus.
著者
高橋 友明 畑 幸彦 石垣 範雄 雫田 研輔 田島 泰裕 三村 遼子 前田 翔子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.804-808, 2016 (Released:2017-01-13)
参考文献数
5

我々は,先行研究で腱板機能不全患者は僧帽筋上部線維の過剰な収縮と下部線維の活動低下が肩甲帯筋のアンバランスを生み,それによって腱板の機能不全を引き起こすと述べた。本研究の目的は,我々が行なっている肩甲骨周囲筋のアンバランスを矯正するための『肩甲帯筋トレーニング』の効果を明らかにすることである。対象は肩関節に愁訴のない健常人50例100肩で,下垂位最大外旋位(棘下筋テストの肢位)で男性は5kg負荷,女性は3kg負荷で3秒間保持を3回実施し,同時に僧帽筋の筋活動を計測した。次に肩甲帯筋トレーニングを5秒間2回実施後に前述と同様の方法で筋活動を計測し,トレーニング前後での筋活動量と利き手・非利き手側間での筋活動量を比較した。なお,測定筋は僧帽筋上部・中部および下部線維であり,表面筋電計Noraxon 社製MyoSystem 1400Aを用いて得られた波形を筋活動量として,3秒間の筋活動量積分値を最大随意収縮で正規化した活動量%MVCを算出した.僧帽筋上部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に抑制されており(p<0.05),僧帽筋中部・下部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に多かった(p<0.05)。今回の結果から,我々が行なっている肩甲帯筋トレーニングは,肩甲骨周囲筋のアンバランスを改善し,肩甲骨の安定化に寄与している可能性が示唆された。
著者
永美 大志 前島 文夫 西垣 良夫 夏川 周介
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.14-22, 2015 (Released:2015-07-10)
参考文献数
45
被引用文献数
3

農薬は第二次大戦後急速に使用量が増加し, 農薬中毒が農村医学の主たる課題になって久しい。本学会はこの課題に長年取り組んできており, 特別研究プロジェクト・農薬中毒部会では全国の関連医療施設の協力のもと臨床例調査を行なってきた。2010~12年分について報告する。 農薬中毒 (障害) の症例が, 37施設から137例報告された。性別では男女ほぼ同数で, 世代別では, 70歳代 (22%) が最も多く, 60, 80歳代 (各18%) が続いていた。中毒に関わる農薬曝露状況は, 自殺が71%を占め, 誤飲誤食 (13%), 散布中等 (12%) が続いていた。月別に見ると, 5月が16%で最も多かった。 診断名としては, 急性中毒 (83%) が大部分で, 皮膚障害 (6%), 眼障害 (5%) もあった。散布中などの曝露では, 急性中毒の割合が42%に低下し, 皮膚障害 (47%) が上回った。 原因農薬としては, アミノ酸系除草剤 (29%) が最も多く, 有機リン系殺虫剤 (25%), ビピリジリウム系除草剤 (8%) が続いていた。成分別にみると, グリホサート (38例) が多く, スミチオン (18例), パラコート (12例) が続いていた。 死亡例が23例報告された。うち8例がパラコートによるものであり, 3例がスミチオンによるものであった。 パラコートは, 致死率 (80%) において, 他の農薬成分を大きく引き離していた。死亡数は減少の傾向にあるが, このことは同剤の国内流通量の減少と相関していた。
著者
岡田 晴恵 田代 眞人
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.775-782, 2005 (Released:2005-04-05)

2004年1, 2月には山口県や京都府などの養鶏場を高病原性鳥インフルエンザの流行が襲い, 夥しい鶏が死に, また周囲の多くの鳥が殺処分された。感染の拡大を防止するために, 感染死した鳥や感染の疑いのある鳥を殺処分し, 半径30キロメートル以内でのニワトリや卵の移動禁止措置がひかれた。白い作業着にゴーグル, マスク, 長靴, 手袋を装着した作業員が, 大きな穴に多くの鶏を埋め立て, 養鶏場を徹底的に消毒する姿は未だに印象に強く残っていることであろう。この鳥インフルエンザ問題はとかくマスコミ等では, 食の安全という観点から取り上げられる傾向にあった。もちろん, 食生活において, 鶏卵や鶏肉の需要は大きく, 日本の食文化や食生活を担う上でも非常に重要である。また, 通年の人のインフルエンザワクチンも鶏卵を使って, 種ウイルスを増殖させて製造される。インフルエンザワクチンの安定的供給を得るためにも, 鳥インフルエンザの流行は是が非にもくい止めなければならない。 しかしながら鳥インフルエンザの問題の核心的部分は, 鳥インフルエンザウイルスが遺伝子変異や遺伝子交雑を起こして, 人のインフルエンザウイルスに変身して, 人の世界で流行する新しいインフルエンザウイルスとなって大流行を起こすことにある。 過去における, スペインかぜやアジアかぜ, 香港かぜ等の新型インフルエンザウイルスは, このように鳥インフルエンザウイルスが基となり, 遺伝子交雑や変異を起こして人の新型ウイルスとなって人の世界に侵入してきたのである。このため, 多くの人々が犠牲となり, 社会に大きな影響を与えてきたのだ。これらの新型インフルエンザはいままで平均して27年の周期で起こり, 世界的流行を起こしてきた。前回の新型インフルエンザ出現は1968年の香港かぜにさかのぼる。 さらに現在では火種となる鳥インフルエンザが, 東南アジアではすでに蔓延の様相を見せている。昨年の春以来, 一旦は流行の終息宣言が出されたタイやベトナムでも, 今年に入って鳥インフルエンザの再流行の報告がなされ, 人への感染も報告されている。しかも人に感染すれば7割にもおよぶ高い致死率を示している。さらに悪いことに, 現在流行中の鳥インフルエンザは鶏に全身感染を起こし, 1, 2日で死に到らしめる高病原性鳥インフルエンザとされる強毒型のウイルスである。このH5N1という高病原性鳥インフルエンザウイルスが, 人の世界に入ってくる可能性は高く, さらに時間の問題であると多くのインフルエンザウイルスの専門家は心配している。 このような背景の中で, 今回の鳥インフルエンザウイルス問題の本質は, なんであろうか, 新型インフルエンザはどうやって鳥インフルエンザウイルスから誕生するのであろうか, 新型インフルエンザウイルスが発生した場合にはどのようなことが想定されるのであろうか, という内容を解説したい。新型インフルエンザを正しく理解することによって, 過去に猖獗を極め, 多くの被害を残した新型インフルエンザの事例を教訓とし, 被害を最小限度に抑えることを目的としたい。
著者
高山 義浩 西島 健 小林 智子 小澤 幸子 岡田 邦彦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.66, 2007

【緒言】佐久総合病院は長野県東部の農村地域に位置するエイズ治療拠点病院である。1986年から2006年までに85人の新規HIV感染者の受診があったが、とくに最近5年間では39人と急速に増大傾向となっている。そもそも長野県は新規HIV感染が人口10万人あたり1.26人/年(2002-2006年)であり、これは東京都の3.02人/年に次いで第2位と重点的に対策すべき地域に国により指定されている。ところが、佐久総合病院の診療圏については人口10万人あたり3.90人/年となることから、実は長野県のなかでも都市部ではなく、とりわけ農村部においてHIV感染が拡大している実態が浮き彫りとなる。こうした状況を受けて、長野県では『信州ストップエイズ作戦』が2006年より展開しており、県民へのエイズ危機への周知とHIV検査への誘導が一定の成果を収めつつある。しかし、全県的なHIV予防と診療の取り組みにもかかわらず、そのフレームによって救われない人々がいる。それは、外国人、とくに無資格滞在外国人である。農村地域におけるHIV感染の拡大を止めるためには、日本人のみならず外国人へも公平に保健医療サービスを提供してゆくことが重要であると我々は考えている。第1報では、まず具体的症例からその実態を紹介する。<BR>【症例】42歳、タイ人男性。約10年前に来日し、肉体労働に従事している無資格滞在外国人。2005年10月より倦怠感と咳を自覚。11月中旬、近医受診したところ、肺に結節影を指摘され、結核を疑われると同時にHIV抗体検査を施行された。同陽性のため、翌22日、当院紹介受診となる。精査により、脳結核腫を含む播種性結核により発症したエイズ(CD4 43/μL)と診断し、4剤による抗結核療法を開始した。約3ヶ月の治療経過で結核は軽快したが、抗HIV療法を含むこれ以上の治療継続は医療費の面からも困難と判断し、2006年4月に現地医療機関への紹介状を持たせてタイへ帰国させた。しかし、現地では医療機関を受診しないまま経過しており、東北部出身の村において2007年1月に永眠されたことを確認した。<BR>【考察】佐久総合病院の診療圏には、長野オリンピックをきっかけとした出稼ぎ目的の流入により無資格滞在の無保険外国人が多く、最近は親族不明の経済困窮者が目立つようになってきた。こうした人々のなかには、HIV感染者もいるが、エイズ発症ぎりぎりまで受診行動につながらない者が多い。本症例もまた、医学的・社会的に困難なエイズ発症例であったが、佐久総合病院で結核を含む日和見感染症の急性期治療をおこなった。その後は帰国支援により治療継続を期待したが、現地の医療につなげることができなかった。本症例のように、エイズ発症で医療機関を受診しても結局は死亡させてしまう経験を繰り返していると、「病院へ行ってもエイズは死ぬ病気」というイメージを外国人らに定着させてしまい、さらに受診行動を鈍くしてしまう結果となる。これは、本人の救命のみならず、感染拡大防止のための介入チャンスをも失わせるものである。よって、さらに現地の医療事情を把握し、現地の適切な医療機関、また経験豊富なNGOと密に連携してゆくことが求められている。しかし同時に、増加している無資格滞在外国人の健康問題について、国もしくは自治体行政による包括的対応も期待したい。
著者
森本 直樹 倉田 秀一 沖津 恒一郎 砂田 富美子 赤池 康
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.146-150, 2013 (Released:2013-10-09)
参考文献数
22

Collagenous colitis (CC) は,従来比較的まれな疾患と考えられてきたが,疾患概念の浸透とともに報告例が増加している。本邦では特にランソプラゾール (LPZ) に関連した症例の報告が多く,当院でも直近の1年間で3例を経験した。代表的な1例を提示する。症例は84歳,女性。他院処方のLPZを内服中。3か月間持続する水様性下痢の精査のために全大腸内視鏡検査を施行した。大腸粘膜は下行結腸近位部にわずかな毛細血管増生を認める以外に異常所見は認められなかったが,大腸各部位から生検を施行しCCと診断した。LPZを中止したところ2週間後には下痢は改善した。他の2例も慢性下痢症で受診され,内視鏡を施行して組織学的にCCと診断,内服中のLPZを中止することで比較的速やかに症状の改善が得られた。慢性下痢症の鑑別診断においては,本疾患も念頭にいれて,薬剤服用歴など詳細な病歴の聴取や,生検検査を含めた内視鏡精査を行なうことが重要と考えられた。
著者
中田 実 渡部 真也
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.1023-1029, 1990-01-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
14

1983年, 滋賀県草津市内で水田作業を行なった農民のなかから, 作業後の手や足に今まで経験したことのない痒みの強い皮疹の発症する者が多発した。皮疹の症状, 発症の経過などから鳥類住血吸虫性セルカリア皮膚炎が強く疑われたので, 草津市内の全農家の1,621名および近江八幡・能登川地区の農民174名を対象としてアンケート調査を実施した。裸足あるいは短靴で水田作業を行なった農民のうち, 192名の四肢に水田作業後, 皮疹発症がみられ, その皮疹の症状, 発症の経過などから108名(58.1%)の皮疹は鳥類住血吸虫によるセルカリア皮膚炎が疑われた。このうち草津市内の発症者に対して電話による聴き取り調査を行ない詳細に確認したところ, 電話で回答した83名中の約90%はほぼセルカリア皮膚炎に間違いないものと考えられた。またこれらのセルカリア皮膚炎と考えられた者のうち6名について間接蛍光抗体法による血中抗体価測定を行なった結果, いずれもセルカリア皮膚炎と診断された。問題になった水田に棲息する貝類の99.3%はカモ類住血吸虫の中間宿主になりうるヒメモノアラガイで, 貝類からはセルカリアは検出されなかったが, この地区の水田にはカモの飛来が確認されている。以上より今回草津市の水田作業者に多発した皮疹はカモ類住血吸虫によるセルカリア皮膚炎であろうと考えられた。
著者
後藤 亮吉 佐々木 ゆき 花井 望佐子 永井 雄太 田上 裕記 中井 智博
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.836-842, 2016 (Released:2017-01-13)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

自主グループの発足要因と自主グループへの参加及び継続に関連する要因を明らかにすることを目的とした。対象は設楽町の自主グループ参加者とし,自主グループへ参加したきっかけ(以下:参加要因),自主グループを発足した要因(以下:発足要因),自主グループを継続している要因(以下:継続要因)を調査した。自記式質問紙法にて行い自由記述の内容をKJ法に準じて整理した。類似した内容のラベルをまとめ,サブカテゴリーを生成し,類似したサブカテゴリーからカテゴリーを生成した。 96名(男性7名,女性89名)から回答を得た結果,自主グループの参加要因は,6つのカテゴリーが得られ「他者からの勧め」が最も多かった。次に,自主グループの発足要因として,7つのカテゴリーが得られ「仲間の存在」が最も多かった。自主グループの継続要因としては,7つのカテゴリーが得られ「自身の健康」が最も多かった。自主グループの参加・発足要因として「仲間の存在」など他者の存在が大きく影響していると考えられた。また,継続要因は「自身の健康」であり,主体的に参加することにより,さらに参加継続に繋がっていると考えられた。以上のことから,地域の実情と人々のつながりを考慮し,住民の健康意識を高め,住民を主体とした自助・共助の関係性を築くことが重要であると考えられた。
著者
増子 寛子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第56回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.215, 2007 (Released:2007-12-01)

<はじめに>マゴットセラピーは治癒しにくい四肢潰瘍に対し無菌マゴット(ハエ幼虫・ウジ)を用い治癒を促す治療方法であり今回、当整形外科においてはじめてマゴットセラピーを受けた患者の心理面の変化を振り返り精神的援助のあり方を考える機会を得たので報告する。 <事例> 73歳 男性 職業:無職 一人暮らし。平成18年12月8日駅で転倒し左脛骨腓骨骨折で入院。平成9年より糖尿病の既往あり。12月14日非観血的骨接合術施行されるも、術後創感染見られ、下肢切断が必要な状態となった。 本人より「足は切りたくない」と要望あり、本人と息子の同意のもと、平成19年1月26日より1クール3週間のマゴットセラピーを2クール施行された。 <心理面での変化の過程>一1クール目、いざ治療が開始されると創部からの悪臭もあり、食欲低下・嘔吐・仮面様顔貌と無口・下肢に対する否定的な言葉・治療の部分を見ようとしない等の心身両面の変化を来たした。治療が終了してから一旦症状が消失したが、7週間後、再度治療を行うと告げられた時点で再び嘔吐、食欲低下等が現れた。 看護介入としては、患者と頻繁に接触して肯定的な態度で対応し、その治療の経過及び予後に対する感情を分かち合い、話し合うようにした。又、創状態が徐々に良くなっていることを細かく伝えるとともに励ますことに努めた。プライバシー保護の為、マゴット使用中は個室対応とした。臭気対策には、部屋の換気回数を多くし、芳香剤を使用した。2クール目にはリハビリ・車椅子散歩・入浴等の介助等積極的に行った。これらにより、2クール目の途中より、徐々に食事量が増加し否定的な言葉が聞かれなくなり表情も和らぎ、処置に対しても協力的になり治療部分に目を向けたり、脱走したマゴットを直視し、つまむ場面も見られるようになった。 <考察>今回の事例は、マゴットセラピーによりボディイメージの混乱を来たし一時的にショックを受け、否定、無関心、抑うつ状態を経て治療終了までに自己のボディイメージの修正が出来たと考える。その経過において看護師自身初めての経験であり、計画的に十分なケアが出来なかった部分もあったが、患者の感情や思いを受容し、認め、励まし、暖かく寄り添う看護の基本的な態度が適応過程での助けになったのではないかと考える。 マゴットセラピー施行患者の看護においては、このよう心理的な反応があることも予測し、感情の変化の過程を注意深く観察し、その過程に応じた有効な援助を行なう必要があることを学んだ。今後も安心して治療を行ってもらえるための有効な援助を追及していきたい。
著者
関口 瞳 長谷川 幸子 君崎 文代
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第59回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.176, 2010 (Released:2010-12-01)

はじめに 災害はいつどこで起こってもおかしくない。災害時、入院中の子供達の避難は勤務している看護師、医師に委ねられている。2010年2月から災害時の備えとして既成の小児一般病棟用の災害時避難シュミレーションを実施している。しかし、一般病棟に対してのシュミレーションが主であり小児集中治療室(以下PICU )を併設する当病棟において、PICUの避難が的確にできるか不安を感じた。また他のスタッフはPICUでの対応を理解しているのか、理解していなければ対応策を考えたいと思い、今回重症患児の避難方法について看護師に聞き取り調査を行った。 研究目的 PICUにおける災害時の避難方法について今後の課題を見出す。 研究期間:2010年2月~5月 対象:小児科病棟のPICUに勤務する看護師10名 データ収集法:聞き取り調査 災害時のPICUにおける避難に対する気持ち,優先順位,必要物品は何かを聞き取る。 倫理的配慮 聞き取り調査を実施の際、プライバシーの保護をし研究以外で使用しないことを保証した。 結果 以下の3項目の質問をした。_丸1_PICUでの避難に対する気持ちは4名が『人手が足りないことが困る』と、全員が『避難させる自信がない』と答えた。_丸2_優先順位は6名が『わからない』、4名が『人工呼吸器装着児は最後に』と答えた。しかし人工呼吸器装着児が複数いたら誰から避難させるかわからないと答えていた。_丸3_必要物品は全員が『アンビューバック』と答えた。複数回答で酸素ボンベや吸引器,救命セットなどあがってきた。 考察 スタッフもPICUの避難方法について自信がないことがわかった。また,スタッフの意見にもばらつきがあった。今後,話し合う機会を設け避難方法を統一していく必要がある。必要物品も明確にし,スタッフ間で確認しあう機会が必要である。
著者
櫻井 綾子 大河内 昌弘 山本 陽一 加地 謙太 田村 泰弘 浅田 馨 服部 孝平 後藤 章友 神谷 泰隆 大野 恒夫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第59回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.65, 2010 (Released:2010-12-01)

症例は、70才男性。20年前より、糖尿病(2型)、高血圧、胃潰瘍を指摘され、内服治療を継続され、glimepiride 2mg、pioglitazone 15mg, Voglibose0.9mg最近1年のHbA1cは、6.1~6.8%で推移していた。H21年6/14に、急に、複視を認めるようになり、救急外来を受診された。来院時、意識清明で、瞳孔・対光反射に異常なく、右方視による複視(右眼内転障害)を認めた(pupillary sparing)。眼瞼下垂、舌偏位、顔面神経麻痺、四肢の麻痺は全て認めず、Barre sig、Finger-nose testに異常を認めなかった。頭部CT&MRI&MRAでは、lacunar infarctionを認めるのみで、内頸動脈・後交通動脈分岐郡脳動脈瘤や海綿静脈洞血栓症は認めなかった。加えて、両下肢の感覚神経障害を認め、アキレス腱、膝蓋腱反射の低下を認めた。眼科的にも眼球運動異常を認めるのみで、眼底異常、視野異常は認めなかった。以上より、脳の器質的な疾患による動眼神経麻痺は考えにくく、糖尿病性動眼神経麻痺と診断した。治療としては、リハビリ治療に加え、血糖コントロールの強化、血小板凝集抑制薬、血管拡張薬、アルドース還元酵素阻害薬、ビタミンB12製剤を併用したところ、1ヶ月程度で右眼内転障害および、複視は消失し、以後症状の再発は認めなかった。糖尿病性合併症としての動眼神経、外転神経麻痺は比較的まれな疾患であるため、脳梗塞の一症状と間違われやすいと考えられる。しかし、急性発症し、高齢者に多く、糖尿病の罹病期間・コントロール状態・眼底所見とは無関係に発症すること、一側の動眼神経、外転神経麻痺が多く、 瞳孔機能は保たれる(pupillary sparing)特徴的な所見から、比較的鑑別は容易であること、加えて、多くは数か月以内に回復する予後の良さから、その疾患を知ることは、疾患の迅速な鑑別・治療および患者指導に役立つと考えられ、典型的な自験例をここに報告する。
著者
北川 寛 古谷 元康 王 正貫 櫛渕 大策
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.933-936, 1987-11-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
11

当院においては農協検診を推進しており, この際, しばしば子宮筋腫がみつかり, これに対して子宮全摘出術が行なわれているが, 女性にとって特有な臓器である子宮を摘出することは, 肉体的, 精神的苦痛が大きいと考えられる。そこで子宮摘出を受けた128名の婦人に対し, 手術前後に性生活において, どのような影響を受けているかを, アンケート調査するとともに考察を行なった。1) 子宮筋腫の診断を受けると, 46.1%の人が性生活に変化を来たすが, 手術後は23.5%が手術前の性生活に戻る。2) 術後の性生活開始時期は, 31~61日が最も多く44.5%, 次いで61日以後27.3%, 30日以内22.7%であった。3) 性交時の症状として, 疹痛9.4%, 出血5.5%, 分泌物減少19.5%があり, 30%に性欲低下がみられた。日常生活では月経が無くなり, 快適になった者が多いが (57.8%), 術後頭重感, 疲労感, 体力低下を訴える者もみられた。4) 術後の性障害を軽減するために, 心因的なものには術前術後に, 患者および夫への指導を十分行ない, 時には漢方療法やバリ治療も試みるべきである。5) 今後高令化社会を迎え, 子宮全摘女性も増加することから, 心身医学的カウンセリングや一般社会への啓蒙的なアプローチも必要である。
著者
平松 靖史 品川 晃二 高畑 統臣 佐藤 俊雄 水田 玲美 権守 邦夫 宮崎 哲次 小嶋 亨
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.145-149, 1998-07-20 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

アマニタトキシン (キノコ毒) 中毒による劇症肝炎を報告する。71歳, 男性, 下痢を主訴にして来院。入院時の血液生化学検査でGOT518U/L, GPT333IU/L, BUN77.3mg, Cre 7.0mgと急性の肝腎障害を認めた。意識レベルは清明であったが, 入院後, 劇症肝炎を来たし血漿交換等の治療に抵抗し死亡した。又一緒に毒キノコ中毒になり死亡した妻は司法解剖され, 採取された血液, 脳, 肝臓の組織からキノコ毒であるα-amanitinが検出された。司法解剖でキノコ毒を証明しキノコ中毒死を証明した法医学的報告は今までなく, その検査結果も合わせ報告する。本例も死後肝生検で致命的劇症肝炎像を証明した。