著者
八木 遥 山本 義貴 臼窪 一平 中村 友香 下山 あさ子 東 修司 田畑 裕和 稲垣 育宏 小寺 隆二 柴波 明男
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.490-495, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

入院患者は睡眠障害を生じる事が多く,睡眠薬の服用が必要となる事例は少なくない。現在わが国で用いられている睡眠薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬が多いが,筋弛緩作用や持ち越し効果などから転倒に至る危険性がある。従来の睡眠薬と異なる作用機序を持つオレキシン受容体拮抗薬(ORB)は筋弛緩作用を持たないとされており,安全面に優れていると考えられている。そこで,入院中に内服した睡眠薬の作用機序毎の転倒率を調査した。2017年4月1日~2017年12月31日で当院において転倒・転落があり,ORB,ベンゾジアゼピン系薬(BZD)及び非BZDを服用していた入院患者を対象とした。また,転倒発生前に各薬剤を服用していた患者を群分けし,転倒率を算出し比較した。対象患者のうち調査期間内の睡眠薬全処方人数は1,682人であり,全転倒件数は45件であった。睡眠薬の分類における転倒率は3群のうちORB群による転倒率が1.45%と最も低く,BZD群と比較して有意に低かった事から,ORBは転倒へ与える影響が小さい可能性が示唆された。また,非BZD群の転倒率においてBZD群と比較して有意に低かった事から,転倒予防についても考慮しBZDよりも非BZDを使用する事が望ましいと考えられた。また,転倒事例の患者に高齢者が多かった事から,転倒の危険因子を多数保有している患者が多かったと考えられ,睡眠薬を使用した事で転倒の危険性が増大した可能性がある。
著者
植松 夏子 柴原 弘明 今井 絵理 吉田 厚志 西村 大作
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第60回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.343, 2011 (Released:2012-02-13)

【背景】がん患者には様々な苦痛症状が出現する。原発部位や基礎疾患により投与できる薬剤が限られ、副作用により投与中止となる場合もみられる。また各症状に対し個々に薬剤を使用することは薬剤の相互作用や内服負担増の面で患者に苦痛を与えることもある。ミルタザピンはノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)に分類されH1受容体拮抗作用、5-HT3拮抗作用を有するため、緩和医療領域では抗うつ作用以外の効果も期待されている。 【目的】がん緩和医療における苦痛症状へのミルタザピンの有用性を明らかにすること。 【対象と方法】2010年10月から2011年5月までに緩和ケア科でミルタザピンが処方された24例。自覚症状の変化を「著効(症状の消失)」「有効(症状の軽快)」「無効」「中止」の4段階に分けretrospectiveに評価した。なお当研究調査には十分な倫理的配慮を行った。 【結果】性別は男性11例 女性13例、原疾患は膵癌7例、胃癌5例、乳癌3例、胆管癌2例、大腸癌2例、肺癌1例、肝癌1例、前立腺癌1例、リンパ腫1例、GIST1例であった。ミルタザピンは不安・吐き気・食欲不振・掻痒感・疼痛・せん妄のいずれかまたは複数の症状がみられた患者に処方されていた。全24例のうち著効11例、有効6例、無効3例、中止4例で、中止理由は4例とも眠気であった。至適投与量は15mg 2例、7.5mg 9例、3.75mg 10例、1.875mg 3例であり、7.5mg以下の低用量投与が92%であった。 【考察】ミルタザピンはがん患者の苦痛症状に対し有効で、低用量で十分な効果がえられていた。本研究は少数例であり,さらなる症例を蓄積したうえでの検討が今後必要であろう。 【結語】ミルタザピンは低用量で各苦痛症状の緩和をもたらす。
著者
高橋 俊明 井根 省二 竹内 雅治 伏見 悦子 関口 展代 木村 啓二 林 雅人 斉藤 昌宏 高橋 さつき
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.749-754, 2003 (Released:2005-03-29)
参考文献数
15

1995年から2001年の6年間に4例の劇症型心筋炎 (男2例, 女2例, 年齢21~67歳) を経験した。診断は臨床症状, 心電図, 心エコー所見などから総合的に行い, 3例では病理学的に確定診断された。4例全例が発熱などの感冒症状で発症し, 1例は心肺停止で来院し, 蘇生できなかった。残り3例は初発から5~7日後にショック状態で入院し, 一時ペーシング, カテコラミン, ステロイドパルス療法, そのうち1例では経皮的心肺補助 (PCPS) を導入したが, 3例とも入院1~10日後死亡した。心電図では心室調律, 異常Q波, ST上昇, 低電位を呈した。血清酵素の著明な上昇, 代謝性アシドーシス, DICは予後不良の徴候と考えられた。劇症型心筋炎の救命のためには, まず本症を早期に的確に診断すること, そして積極的に補助循環を導入し, 急性期を乗り切ることに尽きる。
著者
立石 遥子 菅原 望 園田 浩生 藤巻 哲夫 杉山 雅也 埜村 智之
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.509-514, 2017-11-30 (Released:2017-12-20)
参考文献数
10

65歳男性。来院1か月前から咳嗽が出現し,当院内科を受診した。画像にて右多房性胸水を認め,胸水は滲出性であった。膿胸,結核性胸膜炎,入院中に関節リウマチと診断されたことからリウマチ性胸膜炎などを疑った。抗生剤投与と胸腔ドレナージを行なったが,多房性のためドレナージ効果が不十分であった。胸水所見に有意所見無く,病状も改善乏しいため治療診断目的に胸腔鏡下右胸膜剥皮術,胸膜生検を施行した。 病理では好塩基性の変性と壊死が非常に目立つ組織で,リンパ球などの単核細胞の浸潤も認められ,非特異的慢性炎症の所見であった。全身ステロイド投与にて速やかに病状が軽快した事から臨床経過と合わせてリウマチ性胸膜炎と診断した。リウマチ性胸膜炎が疑われるが,膿胸との鑑別に苦慮する場合は,胸腔鏡下胸膜生検を積極的に行なうのが望ましいと思われた。
著者
佐々木 明 山瀬 裕彦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.41-46, 1996-05-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9

学校管理下生徒突然死は, 毎年全国で100~150件報告されており, 人口200万人の岐阜県内では年間1~2件と推定される。人口4万人の瑞浪市では最近10年間に3件発生しており, 人口比からするとかなり多い。第1例はMarfan症候群による大動脈瘤破裂, 第2例は脳幹部出血, 第3例はWPW症候群に関連した致死的不整脈であった。突然死予防のための対策は, つぎのように要約される。(1) 学校と病院との連絡を緊密にすること。(2) 心臓疾患管理基準の見直しを行なうこと。およびUCG, ホルター心電図, トレッドミルによる心電図を検診に加えて, 危険度の高い生徒を発見すること。(3) 事例の60%は心臓疾患による。しかし40%は中枢神経系の異常や気管支喘息などによるものであり, これらにも充分注意を払うこと。
著者
若月 俊一
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.613-619, 1995-11-30 (Released:2011-08-11)

農薬の生体影響の国際的評価では, カリフォルニア州食品農業局の農薬作業による中毒事例の報告と, 日本の人口動態統計調査を対比し, 評価・検討を行なった。その結果, 従業中の中毒例はカリフォルニア州が多かったが, 死亡例は日本が多く, 重大な健康障害が発生していることが判明した。有機農法と慣行農法で生産された農産物 (ニンジン, ホウレンソウ, 米) に含まれるビタミンやミネラルを測定しその違いを調べた。その結果, ニンジンと米ではNとMnが有機農産物で有意に低く, ホウレンソウではP, Mg, Cu, Zn, Bの含有量が有意に高かった。また, 化学肥料使用の土と有機農法の土の保水力や保肥力を実験的に調査した。その結果, 有機農法の土が両方とも強かった。一般に有機農業実践者は, 緑黄野菜や有機農産物を多く摂る機会があり, その結果, ガン予防に関連の深い血中カロチンが高くなると考え, 血中カロチン濃度を農村住民約500人について測定した。男女ともカロチンを多く含む芋類や乳製品の摂取と血中カロチン濃度に明らかな相関が認められたが, 農薬散布者と非散布者では特に血中カロチン濃度に差は認められなかった。有機農業者の健康調査では, 健康や節制に気を使い, 異常なし, 心配なしが多かった。富山県の1988~92年の農薬中毒90例の検討では, パラコートによる自殺例は減少傾向にあった。また, 富山県と中国の河南省の2県の農薬中毒の実態を比較した。中国の特徴は中毒年齢が低い, 死亡率は低い, 水や食品に残留した農薬によって中毒が発生しているなどであった。農業従事者における有機リン系農薬の生体影響を血漿男コリンエステラーゼと腎尿細管機能を指標として検討した。その結果, 尿中BMGが農薬使用者に高く, また, 急性有機リン中毒患者では腎尿細管の機能障害が起こっていた。有機リン系殺虫剤の大量暴露を受ける白蟻駆除作業者では対照群よりSCE頻度が有意に増加し, 有機リン系殺虫剤の変異原性が指摘された。また, リンパ球サブセットでは, 農作業者と白蟻駆除作業者の免疫担当細胞の減少が対照群より有意に認められた。農業化学物質の有機塩素剤人体内残留は, 母乳, 血液, 脂肪組織で依然と続いており, その残留値はいずれもここ数年横這い状態である。アセフェートと他の2種農薬による相乗作用効果を動物実験で調べると, アセフェート添加群でChE活性が低下し, 病理組織学的には, 3種混合でもっとも強い変化が肝臓と腎臓に認められた。
著者
大林 浩幸 原田 武典 平井 房夫 松下 次用 古田 悟 佐々木 明 野坂 博行 山瀬 裕彦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.749-755, 2006 (Released:2006-03-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

今回,インフルエンザワクチン予防接種とインフルエンザ発生状況を調査し,高齢者を中心に,実際に予防接種の効果があったかを検討した。 平成14年度,15年度,16年度の3年にわたり,当院にて(1)インフルエンザ予防接種を実施した全患者,(2)鼻腔スワブ法の迅速検査を実施した全患者,(3)インフルエンザと診断された全患者,の各々をレトロスペクティブに調査した。 平成14年,15年,16年度と,年ごとに予防接種者数は増え,65歳以上がその70%以上を占めた。インフルエンザ発症患者の平均年齢は,平成14年度,15年度,16年度で各々42.9±21.3歳,34.9±20.4歳,45.4±20.2歳であり,高齢患者層と比較し,若・中年齢層のワクチン未接種者の発症を多く認めた。一方,高齢患者層では,ワクチン既接種にかかわらず発症した患者があった。 ワクチン接種率の高い高年齢者層では,インフルエンザ発症が少なく,その予防効果を認めた。一方,高齢患者において,ワクチン既接種にもかかわらず発症する例があり,注意すべきである。
著者
星野 明子 桂 敏樹 松谷 さおり 成木 弘子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.21-29, 2000-05-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
24
被引用文献数
6

本研究の目的は, 地方都市における地域組織活動として位置づけられる保健推進員活動が, 活動参加者の心理的側面に与える影響を明らかにすることである. 対象は, 保健推進員活動の成員356名である. 調査項目は, 対象者の属性 (年齢, 学歴, 仕事の有無, 経済的ゆとり, ボランティア・福祉への関心, 以前の活動経験の有無) と, 主観的健康感, 活動満足度および自尊感情, 自己効力感, 自己実現的価値観である.その結果, 以上のことが明らかになった.1. 年齢とボランティア・福祉への関心は, 保健推進員の活動満足度を強めた.2. 活動満足度と経済的ゆとりは, 自尊感情を強める要因であった.3. ボランティア・福祉への関心と活動経験年数は, 自己効力感を強める要因だった.4. 年齢は自己実現的価値観を弱め, 活動満足度, 学歴, 経済的ゆとりは, 自己実現的価値観を強める要因であった.保健推進員活動は, 対象者のボランティアへの関心を満足させることで, 活動満足度を強め, 自尊感情と自己実現的価値観に影響を与えることが明らかになった.今後の課題として, 活動参加者に対する地域組織活動の効果を明らかにするために, 保健推進員の心理的側面 (自尊感情, 自己効力感, 自己実現的価値観) を縦断的に検討していくことが必要と思われた.
著者
井出 政芳 山本 玲子 宇野 智江 鈴木 祥子 伊藤 優子 早川 富博 加藤 憲 天野 寛 宮治 眞
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.726-744, 2014 (Released:2014-03-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

過疎の進行する中山間地に住まう高齢者の<この場所>に係わる愛着を評価するために, 質問票による調査を行なった。質問票は, 高齢者の主観的幸福感測定のために汎用される古谷野による生活満足度尺度K (9項目)と, 今回独自に作成したトポフィリア (場所愛) に係わる質問項目 (6項目) の計15項目から成る。僻地巡回検診において, 調査主旨を説明し了解を得た有効回答者120名 (平均年齢: 74.5±9.5歳) の回答について因子分析を行ない以下の結果を得た。 ①居住地別愛着度得点には有意差を認めなかったが, 居住地別生活満足度得点には有意差を認めた (p<0.001; ANOVA)。一方, 年齢と生活満足度との間には有意な相関を認めなかったが, 年齢と愛着度得点との間には有意な正の相関を認めた (r=0.234, p<0.01)。生活満足度, すなわち主観的幸福感は年齢によらず居住地の影響を受けるが,逆に場所への愛着度は居住地によらず年齢の影響を受けることが示唆された。 ②トポフィリアに係わる質問6項目の因子分析により, 2因子が抽出された。一つの因子は<この場所>から離れたくないパブリックな感情を, もう一つの因子は<この場所>が好きとは言えないプライベートな感情を意味している, と解釈できた。 ③ (a) 生活満足度尺度, (b) トポフィリア, および (c) 「<この場所>を離れて仕事をしたいと思ったことがあるかどうか」の質問の三つ組を指標として, 居住地別に対象者の心情を評価すると, 主観的幸福感 (a) も, <この場所>に対する愛着度 (b, c) も, ともに低い地域が同定された。これらの地域は, 通院困難性の甚大な地域内に存在し, 通院介助・在宅介護・施設入所など高齢者の医療福祉に係わる対応において, 心情面についての配慮が特に必要であると考えられた。
著者
高橋 博之
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.543-547, 2011-11-30 (Released:2012-02-17)
参考文献数
4

当科で経験した陰茎部外傷の2例につき報告した。症例1は64歳,男性。重度の糖尿病あり。喧嘩の際,股間を蹴られた5日後に当科を受診。陰茎包皮の広範な壊死と二次感染あり。症例2は80歳,男性。深部静脈血栓症にてワーファリン内服中。リハビリ目的の自転車漕ぎを通常の2倍の時間施行後,陰茎全面および陰嚢にかけ皮下出血あり。受傷一週間後に当科受診。両名とも合併症や年齢を考慮し保存的方法にて治療するも改善しないため,全身麻酔下でデブリドマンならびに分層植皮術を施行した。術後の経過は順調であり創部の修復状態も良好であった。陰茎部の植皮はシートグラフトが基本であるが,メッシュスキングラフトでも肥厚性瘢痕や瘢痕拘縮を来さず,また最小の採皮で充分満足のいく陰茎部の創修復が可能であった。
著者
末永 隆次郎 前田 勝義 山田 統子 沖 真理子 照屋 博行 高松 誠
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.134-146, 1986-07-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

過去のいちごハウス栽培者の健康調査成績から, いちご栽培作業では、腰部等への負担の大きいことが推測された。そこで、年間を通してのいちご栽培者の生活時間構造を明らかにするとともに、収穫i期における収穫作業と選果・箱詰作業について、腰部を中心とした労働負担の調査を実施した。作業姿勢の面からみると, 収穫作業においてはいちごの生物学的制約から中腰姿勢を強いられ, 選果・箱詰作業では畳の上などでの坐位姿勢が中心であった。そして, いちご栽培者の腰部等への負担を明らかにするために, なす栽培者を対照として自覚症状および疲労部位調査を実施するとともに, 脊柱の柔軟性の測定を行なった。その結果, いちご栽培者は腰部に関する疲労症状の有訴率が高く, 脊柱の柔軟性も劣ることが明らかとなった。次に, いちごの収穫時と選果・箱詰時の代表的.な作業姿勢を実験室内で再現し, 表面筋電図を用いて筋負担の程度を検討した。また, 収穫時に無意識にとられていた “肘一膝” 中腰姿勢については, 腰部等への負担軽減姿勢と考えられたが, 筋電図による解析結果と生体力学的解析結果とから判断して, この姿勢は筋負担の軽減よりも, むしろ腰仙関節にかかる力のモーメントの軽減, すなわち骨, 関節, 靱帯などに対する負担の軽減によるものと推測された。最後に, いちご栽培者の腰部を中心とする慢性局所疲労の軽減策について考察を加えた。
著者
奥本 真史 要田 裕子 北村 智樹 近森 正和 中西 紀男
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.548-554, 2011-11-30 (Released:2012-02-17)
参考文献数
11
被引用文献数
1

生体内には多種類の金属がさまざまな濃度で存在して,生命機能の維持に重要な役割を担っている。とくに微量元素の生化学的および栄養学的な機能,欠乏症,過剰症などに関する学際的な研究発展とともに微量元素の重要性が広く注目されるようになった。よって栄養指標として体内の微量元素が欠乏しているかどうかを考慮することは栄養療法上重要であり,長期栄養管理において微量元素欠乏症が生じる危険性は以前より知られている。 今回微量元素欠乏症が疑われた患者を経験した。セレン欠乏症の症例については,院内製剤でセレン注射液を作成し高カロリー輸液へ混注し施行すること,また褥瘡を有する亜鉛欠乏症の症例には,亜鉛含有胃潰瘍治療剤ポラプレジンクを使用することにより血清微量元素濃度も改善し,2症例とも良好な経過がみられた。 しかし治療薬の使用法や検査方法などには注意を要する。今回微量元素欠乏症に対する検査や治療の問題点について考察したので報告する。
著者
古賀 佳代子 木村 裕美 西尾 美登里 久木原 博子 池田 智
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.104-113, 2021 (Released:2021-09-16)
参考文献数
30

熊本地震の震災関連死に認定された者のうち3割が車中泊を行なっていたことが報告されている。車中泊による影響は,身体のみならず精神的負担も大きく,車中泊が及ぼす影響についての報告は少ない。そこで,本研究は被災就労者を対象に,熊本地震1年後の車中泊者の特性と精神的健康に影響を及ぼす要因を検討する。対象者は,熊本県上益城郡にある工業団地13社の被災就業者460名を対象者とし,車中泊あり群,車中泊なし群の2群に分類し分析した。結果,車中泊あり群は181名(72.7%)を占めていた。車中泊なし群に比べて,アテネ不眠尺度(Athene Insomnia Scale以下AIS),PTSDスクリーニング尺度(Impact of Event Scale-Revised以下IES-R),精神的健康調査票(General Health Questionnaire 以下GHQ 28)が有意に高いことが明らかになった。次に,精神的健康(①IES-R,②GHQ 28)の関連について重回帰分析を行なった結果,IES-R得点には,「身体機能(PF)」,「社会生活機能(SF)」,「不安と不眠」,「車中泊の有無」が,GHQ 28得点には,「活力(VT)」,「回避症状」,「車中泊の有無」,「自覚症状の有無」が影響を及ぼす要因として明らかになった。災害時の就労者の精神的負担は,累積された業務負担の上に課されている。長引く精神的負担は,改善されない可能性が指摘されており,早急に支援対策の在り方について検討する必要性が高いことが示唆された。
著者
細井 愛 佐藤 賢治 坂本 武也 親松 学
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.780-791, 2016 (Released:2017-01-13)
参考文献数
9

我が国の高齢化はとどまるところを知らず,医療・介護への要求は高まるばかりであるが,医療・介護資源は充足される兆しすら見えない。新潟県佐渡市は,高齢化率36.8%と抜きんでた高齢社会であり,医療従事者も高齢化している。要医療者の増加と病態の複雑化に対して圧倒的に少ない医療資源で対応しなければならず,提供できる医療の維持すら困難になりつつある。こうした問題に対応するため,平成25年から新しい地域医療連携ネットワーク,通称「さどひまわりネット」が稼働した。診療報酬明細情報を核に,電子カルテの有無にかかわらずすべての参加医療機関の病名・処方内容・処置内容・検体検査結果・画像結果を自動的に抽出し,相互に共有するシステムである。介護施設利用者が医療機関を受診する機会も激増しているが,医療と介護の間には,医療従事者の意識の問題などもあり,スムーズな情報の伝達がしづらいという問題が存在する。このたび,「さどひまわりネット」を用いて,介護側から利用者の日常生活動作や日常的なバイタルの情報を提供できる環境を構築する取り組みを開始した。本稿では医療と介護の機能的な連携を実現することを目的としてどのようなネットワークシステムを構築したかについて述べる。
著者
南部 泰士 南部 美由紀 佐々木 英行 桐原 優子 月澤 恵子 今野谷 美名子 高橋 俊明
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.88-96, 2012-07-31 (Released:2012-11-21)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

健康日本21最終報告書 (2011) により,「アルコール関連問題が特に増加していると推定される女性・高齢者の飲酒指標等の目標値の追加が考慮されるべきであり,今後有効な対策を立て,評価を行なうためには,必要な調査の実施,データの集積を行なう必要がある」と,今後の課題が述べられている。 本研究は秋田県横手市の農村地域に在住する高齢者448人 (男性206人,女性242人) について,飲酒習慣と生活機能・肝機能検査値に着目し,今後の一次予防活動における基礎情報の提供を目的に調査を行なった。男性は,1日にアルコールを21g以上摂取する人の,基本チェックリスト25項目中19項目の生活機能が低下していた。特定高齢者候補者の88.9%が,1日にアルコールを21g以上摂取していた。女性は,飲酒習慣とBMI・肝機能検査値に関連性はみられなかったが,特定高齢者候補者の1日のアルコール摂取量が多かった。 飲酒習慣は高齢者の肝機能検査値・生活機能と関連しており,要介護リスクを判断する指標になりうることが明らかになった。高齢期以前から,ライフサイクルに応じた,「節度ある適度な飲酒」に関する知識の普及を,より推進する必要があると考えられた。
著者
田中 康雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-12, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
67

本研究は,従来型・ユニット型の介護老人福祉施設で実施している勤続1年未満・以上における正規介護職員向けの教育・研修内容と体制を把握した上で,それらと正規介護職員の離職率がどのように関連しているかを明らかにし,今後の職場定着促進に必要な方策を施設形態毎に検討することを目的する。全国の介護老人福祉施設のうち無作為抽出した1,180か所を対象に郵送法による質問紙調査を実施した。離職率と研修内容の関連を重回帰分析した結果,従来型では勤続1年未満向けの内容のうちリーダー養成,勤続1年以上向けの内容の記録の書き方と報告の方法が離職率を高め,ユニット型では勤続1年未満向けの内容の介護技術・知識,体制の教育・研修の責任者の設置が離職率を抑え,勤続1年以上向けの内容の機能訓練に関する知識が離職率を高め,腰痛予防対策が離職率を抑える関連がみられた。今後,介護老人福祉施設においては,一律ではなく,施設形態別,勤続年数別に各施設状況に応じた教育・研修内容や体制について本研究結果内容を重点的に取り組み,内容や研修回数を見直し,経験や慣習ではなく,根拠に基づいた教育・研修実施による職場定着促進策の推進が重要になると考えられる。
著者
三宅 範明 宮本 忠幸
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第56回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.114, 2007 (Released:2007-12-01)

<緒言> 慢性血液透析を実施するにはバスキュラーアクセス(VA)が不可欠である。標準的内シャント(橈骨動脈-橈側 皮静脈間の皮下動静脈瘻)作製が自己血管の荒廃のため困難な症例が増加している。そのような症例では人工血管の使用、動脈表在化などによりVAを確保するという方法もある。しかし、いずれの方法でもVAを作製し得ない場合には血流量の多い静脈を毎回、直接穿刺する方法が選択される症例が出て来る。大腿静脈を直接穿刺する報告は散見されるが内頚静脈の直接穿刺の報告は少ない。今回我々は内頚静脈を直接穿刺し長期間血液透析を実施した症例を経験したので報告する。 <症例提示>: 症例: 80歳、女性 現病歴; 2000年3月、多発生嚢胞腎に起因する腎機能低下のため近医より紹介となる。同年11月21日、左手関節近傍で内シャント作製するもシャント血管の成長は不良であった。2001年4月10日、血液透析開始(BUN109,Cr 8.02)したが数日で内シャント閉塞のため4月18日に右手関節近傍で内シャント再建術を実施した。この内シャントは同年8月まで使用可能であったがシャント血管の狭窄、血流低下を生じ閉塞に至った。この時期より右内頚静脈の直接穿刺を開始した。以後、両側肘関節部、上腕部での自己血管による内シャント再建術、人工血管植え込み術、動脈表在化など(合計6回の手術)行ったがいずれも長期間はVAとして機能しなかった。2004年6月より左肘関節部での上腕動脈直接穿刺法と内頚静脈直接穿刺法を併用したが2006年10月からは内頚静脈直接穿刺法のみで血液透析を行っている。返血には外頚静脈を主に用いている。 <考察> 慢性腎不全の維持血液透析患者にとってVAは文字通り命の綱であり、必須のものである。近年、慢性血液透析の新規導入症例に占める糖尿病性症例の頻度は増加している。そのような症例では動静脈ともに標準的内シャント作製に不適である場合が多い。すなわち動脈硬化や長期間、採血のために穿刺を繰り返したことに起因する静脈の荒廃などによって内シャント作製そのものが困難であったり、作製し得てもシャント血管の発育が不良である症例が少なくない。 自己血管による内シャント作製が困難である場合、1)人工血管植え込み術、2)動脈表在化、3)長期留置型カテーテルの中心静脈への挿入留置、などが対応策として考慮される。 1)、2)は動静脈に問題を有する症例が多いため必ずしもVA確保に成功するとは言い難い。3)には血栓によるカテーテルの閉塞、カテーテル先端部が血管壁に密着することに起因する脱血不良、カテーテル感染などの危険性がある。 大腿静脈の直接穿刺により血液透析を長期間続行しえたとの報告は散見されるが、我々の調べ得た範囲では長期間、内頚静脈を使用したとの報告は無い。内頚静脈穿刺は大腿静脈穿刺に比し患者さんの羞恥心が軽減されるという利点がある。内頚静脈穿刺の合併症として大腿静脈穿刺と同様、動脈の誤穿刺があるが適切な圧迫止血で対応可能である。VAが自己血管や人工血管を用いても作製しえない症例にとって本法は選択肢の一つとなりうると思われる。 <結論> 諸般の事情により自己血管あるいは人工血管によるVAが作製できない場合には内頚静脈直接穿刺により血液透析を続行するという方法は1つの選択肢になりうると思われる。
著者
藤田 明
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.14-26, 1959-07-20 (Released:2011-02-17)
参考文献数
8

As a means of indicating the general changes in rural people's physical capacityby age group, in men and women, I applied Shirai's correlation chart to the values of the six kinds of body measurements. In this way I obtained straight-lines representing their morphological correlations, which visualized the general tendencies existing in such changes.Measurements were made in the two villages located in the south of Ibaraki Prefecture, in the summer of 1955 and in the autumn of 1958.I have also obtained the standard values of the same subjects' basal metabolism, as well as the straight-lines by age group for the two sexes representiog the same persons' physiological functions calculated on the basis of Ohshima's assessment.I have then transcribed these three kinds of lines prepared for the two sexes into so many index straight-lines, and compared them with one another.Lines of basic metabolism and of physiological functions showed no particular difference between the two sexes. The morphological correlation line for the male ran almost parallel with the physiological line for the same sex. But, for the female, the former kept up well with the latter up to 49 years of age and made a sharp drop thereafter.Considered from various angles, the above-mentioned fact has been interpreted as a proof for rural women's premature senility.
著者
小林 義昭
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.962-965, 2005 (Released:2005-04-26)
参考文献数
5

症例は20歳, 男性。13歳から夜間眠れず日中強烈な眠気を自覚した。17歳から自分の意志でどうすることも出来ない眠気に襲われるようになった。就職後は毎晩最長2時間の睡眠と最大10回の夜間覚醒を繰り返し, 起床時の疲れと頭痛, 日中の眠気, 突然の睡眠発作や居眠り運転が日常的であったため, 2003年9月当科を初診した。エップワース眠気尺度1)(Epworth Sleepiness Scale; ESS) は13点だった。終夜睡眠ポリグラフ (polysomnography; PSG) 検査では無呼吸低呼吸指数 (apnea-hypopnea index; AHI) は1.0/時で入眠直後からREM期が出現していた。睡眠潜時反復検査2)(Multiple Sleep Latency Test; MSLT) では入眠潜時とREM潜時は2分以内であり, 全てに睡眠開始時REM睡眠期 (sleep onset REM period; SOREMP) が出現した。ヒト主要組織適合抗原 (human histocompatibility leukocyte antigen; HLA) ではHLA-DR2, HLA-DQ1が陽性であった。ナルコレプシー (Narcolepsy) と診断されMethylphenidateを朝と昼に服用し, 朝・昼に仮眠をとり, 睡眠日誌の自己記録を開始した。日中の居眠りや睡眠発作の回数が減少し, 軽快した。