著者
巴 雅威 高取 正雄 岩渕 省吾 飯野 四郎
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.241-248, 1997-04-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
30

C型慢性肝疾患でのクリオグロブリン(CGs)出現の実態について,各種肝病態,ウイルス量,genotypeなどとの関連性を検討した.一般臨床検体1340検体では,16例(1%)がCGs陽性であり,このうち8例(50%)が血中HCV-RNA陽性であった.C型慢性肝疾患では全体で63%に検出されたが,肝組織像と比較すると,F3で88%,A3で92%と肝組織進展と活動性の強い例で高率に検出された.CGs陽性例ではIgG,IgM,transaminase,γ-GTPが有意に高値を示し,RA test,C3dCICが高値傾向を示したが有意差は認めず,抗核抗体陽性率,HCV-RNA量,genotypeとの関連も認めなかった.以上より,本邦でもCGs形成にはHCV感染,とりわけ肝炎の活動性や組織進展とのかかわりが判明したが,肝外症状は乏しく,欧米例に比しCGs量,CGsに対する免疫応答の相違が示唆された.
著者
山下 万平 曽山 明彦 高槻 光寿 日髙 匡章 宮明 寿光 黒木 保 中尾 一彦 江口 晋
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.2, pp.325-331, 2015-02-05 (Released:2015-02-05)
参考文献数
30

症例は60代女性.C型肝硬変に対して生体肝移植,脾臓摘出術を施行.C型肝炎再発に対するインターフェロン療法中に発熱,下痢,嘔気が出現,ショックとなり脾摘後劇症型感染症と診断されたが,集中治療により救命した.脾摘後劇症型感染症は生命予後が不良であり,救命率の改善には予防の徹底,症状が軽度の段階から劇症化する可能性があることを念頭において,きわめて迅速に治療を開始することが必要である.
著者
岡村 修祐 酒井 輝文 吉貝 浩史 住江 博明 成田 高三郎 辛島 卓 前山 泰彦 檜垣 浩一 井出 達也 佐田 通夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.3, pp.411-417, 2009 (Released:2009-03-05)
参考文献数
19
被引用文献数
6

症例は61歳女性,脾摘術の既往あり.C型慢性肝炎に対するインターフェロン療法中に意識障害で救急搬送され,数時間で多臓器不全となり死亡.剖検·血液培養検査で肺炎球菌による敗血症と診断される.脾摘後劇症型感染症(OPSI)の1例と考えられ,インターフェロンが誘引となったと推測された.脾摘患者に免疫能低下をともなう治療を行う際は,感染症の重症化を常に念頭に入れ,また肺炎球菌ワクチン接種を検討することが望ましい.
著者
中沼 安二 全 陽
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.103, no.12, pp.1325-1332, 2006 (Released:2006-12-06)
参考文献数
34
被引用文献数
4

硬化性胆管炎はいくつかの病態で発生するが,その中で原発性硬化性胆管炎が代表的であり,これまで欧米を中心に研究されてきた.進行性であり,肝移植を除けば確立された治療法はない.最近,自己免疫性膵炎やIgG4に関連した硬化性胆管炎の存在がわが国から発信され,国際的にも注目されている.この硬化性胆管炎では,密なリンパ球,形質細胞の浸潤があり,特にIgG4陽性形質細胞の浸潤が高度で,ステロイド治療が著効する.さらに,臨床的に胆管癌と誤診され,不必要な外科的切除が行われた例もある.現在,これら硬化性胆管炎の鑑別診断が重要となりつつある.病理所見を中心に,硬化性胆管炎の診断と問題点について述べる.
著者
西川 潤 細川 歩 渕野 真代 高取 俊介 岩本 真也 菓子井 良郎 坂東 正 清水 哲朗 峯村 正実 杉山 敏郎
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.115, no.3, pp.299-304, 2018-03-10 (Released:2018-03-12)
参考文献数
27

エソメプラゾール投与により発症した横紋筋融解症の1例を経験した.逆流性食道炎に対してエソメプラゾールを投与したところ,約10カ月後に横紋筋融解症を発症した.投薬の中止と補液によって腎障害を合併することなく改善した.横紋筋融解症はプロトンポンプ阻害薬投与にともなうまれな副作用であるが,速やかな診断と対応が求められる貴重な症例であり報告した.
著者
松井 敏幸
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.104, no.8, pp.1172-1182, 2007 (Released:2007-08-06)
参考文献数
66
被引用文献数
3

炎症性腸疾患(IBD)の自然史あるいは長期経過をreviewし,その時代的な改善の有無をみた.その理由は,IBDに対する治療が進み,その自然史が改善されたと推定されるからである.しかし,実際の欧米からの報告をみると手術率や死亡率などの指標の改善は確実でない.その理由として,強力な治療法のうち,緩解維持に使われる薬物や経腸栄養療法がまだ徹底していないことが挙げられる.緩解維持の目標にも,粘膜治癒をもたらすまで強力に推し進めることが重要とされつつある.その際には粘膜病変治癒を評価するための画像診断を活用することが求められよう.さらに,緩解導入剤を適切に選択し,開始する時期の決定,緩解維持療薬の投与量の調節など改善の余地は大きいと考えられた.
著者
田中 育太 友兼 毅 門田 美由香 小田 修治 野田 和克 佐藤 康史 六車 直樹
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.473-479, 2021-05-10 (Released:2021-05-10)
参考文献数
25

症例は60歳代,男性.精神科病院に長期入院中,発熱,嘔吐を認め,救急搬送された.炎症反応上昇,溶血所見,急性腎障害がみられ,CTで胸腹水と,直腸壁外の浮腫状変化,air densityを認めた.搬送前日に施行された浣腸による直腸損傷と限局性腹膜炎,グリセリン血管内流入にともなう溶血と急性腎障害と診断した.グリセリン浣腸は,直腸損傷および溶血尿をきたした報告が本邦でも散見され,留意する必要がある.
著者
田中 恒夫 真次 康弘 中原 英樹 福田 康彦
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.81-85, 2008 (Released:2008-01-07)
参考文献数
13
被引用文献数
7

症例はアルコール多飲暦を有する53歳男性で,咳嗽と呼吸困難が強くなり入院となった.胸部X線写真にて左側に多量の胸水貯留を認め,CTにて膵体部から縦隔に達する膵嚢胞を認めた.MRIにて縦隔に向かう内瘻が明瞭に描出された.膵尾側切除と脾摘を施行し,術後経過は良好で膵炎や胸水の再発は認められていない.MRIは非侵襲性で縦隔内仮性膵嚢胞の診断に有用である.
著者
青山 祐樹 高橋 索真 稲葉 知己 泉川 孝一 中村 聡子
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.145-152, 2019-02-10 (Released:2019-02-10)
参考文献数
30

70歳男性.黒色便・貧血精査の小腸カプセル内視鏡検査で回腸に輪状潰瘍を認め,原因としてnon-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)貼付剤が疑われた.貼付を中止し小腸粘膜保護剤を開始後,潰瘍治癒にともなう瘢痕狭窄によるイレウスを発症し外科切除を要した.特異的な病理所見は認めず,臨床的にNSAIDs起因性小腸潰瘍と診断した.貼付剤でも消化管粘膜傷害を生じうる.
著者
味岡 洋一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.957-964, 2020-11-10 (Released:2020-11-10)
参考文献数
32

潰瘍性大腸炎におけるcolitis-associated cancer(炎症性発癌)早期病変は,通常の大腸に発生する腺腫や腺癌とは病理学的に異なる組織学的特徴,細胞増殖動態,p53免疫染色態度を示すものが多い.現在日本では,炎症性発癌早期病変の病理診断に際しては,①Riddellらのdysplasia分類,②日本の通常の病理診断分類,③厚労省分類,の3つの分類が用いられているが,いずれの分類も炎症性発癌早期病変の的確な病理診断には問題がある.同病変の病理学的特徴を十分把握した上で,再現性や標準化が担保される診断アルゴリズムの作成が必要である.
著者
大島 孝一 柳田 恵理子 武藤 礼治
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.114, no.11, pp.1939-1947, 2017-11-05 (Released:2017-11-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1

消化管原発悪性リンパ腫は,節外性リンパ腫の最も多くを占め,その大半が非ホジキンリンパ腫で,ホジキンリンパ腫は非常にまれである.また,消化管悪性腫瘍の約1~2%が悪性リンパ腫とされていて,節外リンパ腫の30~40%を占める重要な疾患である.臓器別では胃が最も多く,次いで小腸,大腸の順で,食道のものはまれである.組織型としては,MALTリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が多い.また,濾胞性リンパ腫が認識されるようになり,増加している.最近,比較的予後のよい低悪性度消化管T細胞性リンパ増殖症や,リンパ腫様胃腸症/NK細胞性腸管症が認識されている.
著者
鈴木 拓 山本 英一郎 仲瀬 裕志
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.116, no.11, pp.859-866, 2019-11-10 (Released:2019-11-11)
参考文献数
31

大腸がんは,遺伝子変異の段階的な蓄積により発生するという多段階発がん説がよく知られている.さらに染色体不安定性,マイクロサテライト不安定性,CpG island methylator phenotypeなどの分子異常に基づく大腸発がん理論が提唱されてきた.近年のオミクス解析技術の進歩により,がんゲノム・エピゲノムを網羅的に把握することが可能となり,従来の知見の整理とさらなる解明が進んでいる.また,トランスクリプトーム解析に基づくサブタイプ分類や,数理解析による大腸がん進化モデルの提唱など新たな展開も見られており,より精密ながんゲノム医療の実現に寄与することが期待されている.
著者
小野 裕之
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.114, no.6, pp.971-977, 2017-06-05 (Released:2017-06-05)
参考文献数
30
被引用文献数
2

消化器癌,特に消化管の癌に対する内視鏡治療は,わが国で発展し,世界をリードしてきた.1980年代初頭にEMRが開発され,早期胃癌に対する内視鏡治療が一般的に行われるようになった.1990年代に入り,ESDが開発され,EMRとESDの割合は,食道癌で86%,胃癌で92%と,急速にESDが普及した.早期胃癌に占める内視鏡切除の割合は6割を超えるようになり,さらに展開が期待されている.ESDは,先人たちの努力の結晶を基盤に現在があること,また現況と今後の展望はどうあるべきかについて述べる.
著者
高橋 成一 木内 喜孝 遠藤 克哉 志賀 永嗣 下瀬川 徹
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.108, no.12, pp.1983-1995, 2011 (Released:2011-12-05)
参考文献数
79

潰瘍性大腸炎の寛解維持療法は,ステロイドを使用せず,サリチル酸製剤をアドヒアランスを考慮し長期に継続することが重要である.それでも易再燃性やステロイド依存性を示す場合は,チオプリン製剤が用いられる.インフリキシマブで寛解導入された症例では,特に中止すべき理由がなければ,8週間隔の維持投与が継続される.大腸癌死を減少させるために,8年ないし10年以上経過した全大腸炎型または左側大腸炎型の潰瘍性大腸炎には,サーベイランス内視鏡検査を行う.色素内視鏡と狙撃生検が今後の標準的手法となる可能性がある.
著者
古川 和宏 中村 正直 藤城 光弘
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.469-476, 2020-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
46

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」の2019年がん統計予測によると,胃がんの罹患数は第2位,死亡者数は第3位を占めており,依然本邦におけるがん対策において,最重要がん腫の1つに位置付けられている.「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版」において,胃内視鏡検診の胃がん死亡率減少効果が認められ,対策型・任意型検診としての実施が推奨されるようになった.胃内視鏡検診の精度管理を行うためには,がん検診受診率,要精検率,がん発見率,陽性反応適中度といったプロセス指標や感度・特異度の算出が必要である.本稿では胃がんの内視鏡検診の現状と今後の展望について概説する.
著者
丸山 茂雄 八島 一夫 池淵 雄一郎 澤田 慎太郎 磯本 一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.115, no.7, pp.643-654, 2018-07-10 (Released:2018-07-10)
参考文献数
27

虚血性大腸炎(IC)60例の臨床的検討を行った.43例(72%)が5月から10月の時期に発症していた.58例(97%)が夜8時から翌朝の7時までの夕食後比較的短時間に発症し,52例(87%)は,就寝時間帯であった.若年者では,基礎疾患の関与がなく,便秘などの腸管側因子のみが誘因となり軽症例が多いが,高齢者では,基礎疾患に起因する血管側因子に,腸管側因子が複合して重症化する傾向が見られた.内視鏡点数と各臨床因子との相関関係を求めた結果,重症化の要因として,白血球数,年齢,消化器症状が有意な独立因子であった.多くの症例が,比較的湿度の高い時期に発症していることより,湿度も発症の一因になりうると推測した.