著者
飯島 尋子 西村 貴士
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.30-42, 2020-01-10 (Released:2020-01-15)
参考文献数
122

この約20年間に,超音波エラストグラフィが利用可能になったことで,非侵襲的な方法で肝線維症の診断と病期判定が可能になり,肝臓学の臨床診療が変わりつつある.しかし慢性肝疾患には複数の成因があり,それにより測定値が異なる.また肝線維化の評価だけでなく,予後予測,および経過観察も重要である.超音波エラストグラフィには,strain(ひずみ)イメージング,transient elastography,p-SWE,2D-SWEがあり,すべてにおいて肝線維化診断は可能である.それぞれの方法,臨床的有用性などについて述べる.
著者
久道 茂
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.1175-1182, 2004 (Released:2005-05-13)
参考文献数
21

エビデンス (科学的根拠) に基づく医療の重要性がいわれて久しい. 医学・医療は人間を対象とする科学であり実践である. 科学的根拠のない医療を人間に応用するのは倫理的とはいえない. 臨床医学に科学性を求めるとすれば, 臨床疫学の応用が必須である. 臨床疫学とは, 医学における科学的観察とその解釈のための方法論の一つであり, 臨床医学で出てきた問題に対して疫学的原理と方法を適用するものといわれている. しかし, 人間を対象とする臨床医学では, 「科学性を高めようとすると倫理性を低くすることが多く, 倫理性を高めれば科学性を損なう傾向が出てくる」. この矛盾に目を向け熟慮すべきである.
著者
水野 秀城 蓑内 慶次 青山 庄 樋上 義伸
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.7, pp.1309-1316, 2015-07-05 (Released:2015-07-05)
参考文献数
14

症例は20歳代,女性.生肉(ユッケ)を含む焼肉を食べ,腹痛と数十行の下痢にて入院.O111感染による腸管出血性大腸炎に引き続き,溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した.持続血液濾過による治療を開始したが,HUSにともなう脳症を併発した.ステロイドパルス療法や血漿交換,トロンボモジュリン製剤などによる治療を行い後遺症なく回復した.O111によるアウトブレイクの経過も含めて報告した.
著者
佐竹 真明 古谷 隆和 小沢 博和 小西 知己 安永 満
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.3, pp.412-418, 2013 (Released:2013-03-05)
参考文献数
15

症例は56歳,男性.閉塞性黄疸で当院を受診.腹部造影CT検査およびERCPで肝外胆管癌を疑ったが,胆管擦過細胞診と胆汁細胞診では確定診断には至らなかった.その後,骨および皮膚転移をともなう胃癌と診断したが,診断後2カ月で永眠された.剖検所見から閉塞性黄疸の原因は胃癌の肝外胆管転移と診断した.胃癌の肝外胆管転移は比較的まれであり,貴重な症例と考え報告する.
著者
宮本 敬子 小野 正文 西原 利治
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.1597-1601, 2013 (Released:2013-09-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

Genome-wide association studyでは,patatin-like phospholipase domain containing 3 gene(PNPLA3)が唯一NAFLD/NASHの疾患感受性遺伝子として同定されている.PNPLA3は脂肪滴膜に局在し,リパーゼ活性を促進させ脂質代謝に関与することから,この部位の遺伝子多型は脂質代謝異常に関与する可能性がある.また,同定された遺伝子多型はアルコール性肝障害を含め,他の慢性肝疾患進展の危険因子である可能性も報告されている.しかし,どのような機序を介して肝線維化の進展に寄与するかについては,今後の研究成果に期待したい.
著者
武田 宏司 武藤 修一 大西 俊介 浅香 正博
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.1586-1591, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
24

機能性ディスペプシア(FD)治療に用いられる代表的な方剤である六君子湯は,食欲不振に対する効果を手がかりとして,そのユニークな作用機序の解明が進んでいる.六君子湯の作用機序としては,従来,胃排出促進および胃適応弛緩の改善が知られていたが,摂食促進ホルモンであるグレリンの分泌を亢進させることがごく最近明らかとなった.シスプラチンや選択的セロトニントランスポーター阻害薬(SSRI)投与は,消化管粘膜や脳内のセロトニンを増加させ,セロトニン2Bあるいは2C受容体を介してグレリン分泌を抑制することがその副作用の発現に関わっているが,六君子湯はセロトニン2Bあるいは2C受容体に拮抗してグレリン分泌を改善する.六君子湯のグレリン分泌促進作用は,FDに対する効果に関わっている可能性も示唆されている.また,六君子湯は高齢動物の視床下部でレプチンの作用と拮抗することにより食欲を改善させる機序も有しており,今後さらに多くの作用点が見出される可能性が高い.
著者
高木 敏
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.184-195, 1979-02-05 (Released:2007-12-26)
参考文献数
49
被引用文献数
2

アルコール中毒者における免疫異常の状態を,肝障害との関連において,多角的に検討した.アルコール中毒者の免疫グロブリン値は,とくに血清IgAの上昇が著明であるが,肝硬変になるとIgA, IgM, IgGいずれも上昇してきた.細胞性免疫能はPPD反応,DNCB反応,Tcellの数,PHAに対する幼若化現象いずれも高率に低下がみられた.特にDNCB反応では肝障害のないアルコール中毒者でも高率に異常がみられた.エタノールと肝特異抗原の存在下でLMITを行うと50%に陽性がみられ,アルコール性肝障害では一部エタノールに対する細胞性免疫異常が成立し,それによつて肝障害が進展することが示唆された.アルコール性肝障害のHBウイルスの関与については,HBs抗原,抗体陽性率が健康人のそれと差異がなかつたことから積極的に支持できなかつた.
著者
石井 直明
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.143-148, 2006 (Released:2006-02-06)
参考文献数
5

近年飛躍的に進んでいる老化研究の結果から,老化のメカニズムがインスリン·シグナル伝達経路やカロリー制限が関係する「エネルギー代謝」と,ヘリケースやテロメアが関係し,細胞老化やガン化につながる「細胞分裂」に集約されてきた.この両者は一見,つながりがないように思えるが,エネルギー代謝の副産物として産生される活性酸素による傷害が細胞分裂の停止や細胞死,ガン化に関与することや,インスリン·シグナル伝達経路が細胞分裂を制御しているという報告があることから,老化の基本的なメカニズムが1つのネットワークの中に描かれる日が近いことを感じさせる.
著者
岩切 龍一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.1575-1581, 2009 (Released:2009-11-05)
参考文献数
40

本邦では,H.Pyloriによる潰瘍は将来減少していくと考えられているが,高齢人口の増加とともにNSAIDs起因性消化管障害は今後も増加すると考えられる.低用量アスピリンは血栓予防に効果があり,近年処方数が増加している.しかしアスピリンは低用量であっても消化管粘膜障害作用をきたす.本邦での研究でもNSAIDsおよび低用量アスピリンが消化管障害の危険因子であり増加傾向にあることが明らかとなってきた.COXの選択性や併存するH.Pylori感染,他の抗血栓薬·抗凝固薬の併用なども考慮し,日本人に適した予防·治療法を構築する必要がある.NSAIDs·低用量アスピリンによる下部消化管障害について病態の解明が待たれる.
著者
吉治 仁志 福井 博
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.9, pp.1765-1773, 2014-09-05 (Released:2014-09-05)
参考文献数
62

C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法の進歩は目覚ましいものがあり,今後多くの症例においてウイルス排除が可能となると考えられる.しかし,ウイルス排除が全例で可能とはならないことや,わが国のC型肝炎患者が今後ますます高齢化することを考えた場合,肝硬変への進展抑制および肝発癌予防といった肝病態進展抑制法の開発はC型肝炎患者の予後改善における重要な治療ターゲットと考えられる.新規薬剤の開発とともに,インスリン抵抗性やレニン・アンジオテンシン系などC型肝炎の病態に関連する既存薬剤を組み合わせて投与する「カクテル療法」による治療が試みられており,一定の成果が報告されている.
著者
奥村 利勝
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.1334-1344, 2014-07-05 (Released:2014-07-05)
参考文献数
92

過敏性腸症候群(IBS)の病態に内臓知覚過敏と消化管運動異常が関与し,この病態理解には脳腸相関の概念が非常に重要である.本稿では,脳腸相関の観点から,IBSの病態を概説した.内臓知覚過敏は最近の脳画像イメージングの進歩により,視床-島皮質-前帯状回という上行性内臓痛経路の活性化とそれを修飾する中脳中心灰白質などの下行性経路の機能異常が重要であることが明らかにされつつある.一方,消化管運動調節に関わる中枢機構は多くの分子が関与する可能性がある.その中でもオレキシンは消化管運動調節に加えて,IBS患者の多様な病態を一元的に説明しうることから,IBSの病態における脳内オレキシンの意義を考察した.
著者
大津 健聖 松井 敏幸 西村 拓 平井 郁仁 池田 圭祐 岩下 明徳 頼岡 誠 畠山 定宗 帆足 俊男 古賀 有希 櫻井 俊弘 宮岡 正喜
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.61-68, 2014 (Released:2014-01-05)
参考文献数
26

(背景)腸間膜静脈硬化症(以下MP)は比較的まれな大腸疾患である.その原因として,近年漢方薬との関連が注目されている.(対象と方法)本検討では,自験例と報告例を合わせた42例を対象に,MPと漢方薬の関連を検討した.(結果)自験例の約9割の症例に漢方薬内服歴を認めた.特に,加味逍遥散と黄連解毒湯が多数例で内服されていた.生薬成分では,大部分の症例が山梔子を含む漢方薬を内服していた.(考察)MP症例の多くは漢方薬の内服歴があり,MP発症後も漢方薬の継続内服により症状増悪をきたした症例が存在し,同じ漢方薬の長期内服を行った夫婦にMPを発症したことから,漢方薬成分山梔子がMP発症に強く関与すると推測した.
著者
長田 太郎 石川 大 渡辺 純夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.11, pp.1973-1981, 2015-11-05 (Released:2015-11-05)
参考文献数
32

近年,糞便移植療法(FMT)がClostridium difficile感染症(CDI)に対し高い有効性を示す論文が相次いで報告されている.古くから糞便が病気を治すという概念は存在したが,FMTは再発性・難治性CDIでは投与経路にかかわらず高率に治癒させることが可能になっており,さまざまな疾患で臨床応用が期待されている.炎症性腸疾患や機能性胃腸症に関するFMT治療報告例は少ないが,2015年に潰瘍性大腸炎に対し2編のランダム化比較試験(RCT)が報告された.現時点ではCDIに比べ有効性は必ずしも高くないが,今後ドナーの選定や方法を改良することにより有効性が上昇すれば安全,安価な治療法として期待される.
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.11, pp.1482-1486, 2005 (Released:2005-12-27)

(誤)table1 (正)table1に誤りがあったので差し替えました。

3 0 0 0 OA 家族性膵癌

著者
高折 恭一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.8, pp.1479-1483, 2015-08-05 (Released:2015-08-05)
参考文献数
23

「膵癌に罹患した一対以上の第一度近親者がいる家系で,既知の家族性癌家系を除いたもの」を家族性膵癌家系と定義する.家族性膵癌家系における膵癌発生リスクは,一般家系の約9倍と有意に高い.膵癌発生リスクは,第一度近親者の膵癌患者数とともに上昇し,2人の第一度近親者に膵癌患者がいる場合には一般家系の約6.4倍であるが,3人以上の場合には約32倍となる.膵癌のうち5~10%が家族性膵癌であることが判明している.したがって,家族性膵癌は,膵癌のリスクファクターとして非常に重要である.しかし,家族性膵癌を引きおこす遺伝子異常などのメカニズムには不明な点が多く残されている.
著者
木村 健 井戸 健一 堀口 正彦 野上 和加博 古杉 譲 田中 昌宏 吉田 行雄 関 秀一 山中 桓夫 酒井 秀朗
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.206-213, 1980-02-05 (Released:2007-12-26)
参考文献数
25

経皮経肝的門脈カテーテル法は門脈造影を始め,門脈圧測定さらには門脈圧亢進症に於ける胃冠状静脈塞栓術等の臨床診断並びに治療への応用が広く,且つ門脈血の経時的分析も可能であり,肝•膵疾患の病態の解析にも有力な手法となつており,現在我々の教室ではこれら疾患に於けるルーチンの検査として施行されている.本法を肝疾患56例,胆石症22例の計78例に施行し,75例(96.2%)に成功し,その成功率は極めて高い.合併症としては,内科的に改善をみた腹腔内出血の1例,他にいづれも一過性の発熱と肝機能の悪化の各々2例に留まつており,本法の安全性も極めて高い.本法の手技,各肝疾患に於ける門脈圧及び門脈血•末梢血のIRI•CPR測定値を報告し,経皮経肝的門脈カテーテル法の臨床的意義と展望について述べた.
著者
長尾 由実子 佐田 通夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.96, no.11, pp.1249-1257, 1999-11-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
62
被引用文献数
1

C型肝炎ウイルス(HCV)は,慢性肝障害や肝細胞癌の発生要因として極めて重要であると共に,最近では肝臓以外の臓器や組織にも障害を引きおこすことが知られるようになり,これらを総称して肝外病変と呼んでいる.HCVが関係する肝外病変は多彩であるが,その主な病態として,クリオグロブリン血症,膜性増殖性糸球体腎炎,晩発性皮膚ポルフィリン症,Sjögren症候群,慢性甲状腺炎,悪性リンパ腫,扁平苔癬などがあげられている.肝炎ウイルスの感染が関与した肝外病変の研究は,原因が解明されていない疾患の概念や治療法の確立に寄与するだけでなく,まだ不明な点の多い肝障害の病態を解明する突破口になる可能性がある.
著者
桝井 満里奈 田村 裕子 舩津屋 拓人 藤井 義郎 高橋 正純
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.768-774, 2021-08-10 (Released:2021-08-10)
参考文献数
14

症例は90歳女性.胃幽門前庭部癌に対して幽門側胃切除,D2郭清,R1が施行され,pT4a(SE)N2M1(P,CY1),pStage IVと診断された.術後1年半目に腹膜播種が再燃し,四次化学療法としてNivolumab療法が開始された.癌病態悪化前の血清可溶性IL-2受容体(sIL-2R)/リンパ球(Ly)数比は比較的安定していたが,腫瘍増大とともに血清CA19-9値に並行して上昇した.