著者
芳賀康朗
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.104-128, 2016-12-31

本研究では,日常生活における失敗行動と空間認知能力との関連性を明らかにするために、失敗行動の経験頻度と空間認知能力の自己評定との相関関係について分析した。大学生を対象とした質問紙調査を実施した結果、「地下街やショッピングセンターで迷う」、「曲がるべき道を間違えて通り過ぎる」、「一緒に買い物をしていた友人や家族を見失う」といった失敗の経験頻度が方向感覚の自己評定(方向感覚の悪さ)と中程度の正の相関を示した。また、「押して開けるドアを引いて開けようとする」、「階段や廊下でつまずく」と「テーブルや机の脚に自分の足の指をぶつける」といった歩行時の失敗と方向感覚の自己評定との間接的な関連も見出された。これらの結果から、空間認知能力は自己定位、経路選択、場所の記憶といった複雑な情報処理のみでなく、不注意や知覚運動協応のミスといった単純なアクションスリップとも関連している可能性が示唆された。
著者
早川 勇
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.31-40, 2001-01-31

イギリスと日本における辞書誕生には、次のような際立った類似点がある。両国において、1カ国語辞書誕生の前に2カ国語の語彙集が存在した。その語彙集はイギリスにおいてはラテン語を学ぶためのものであり、日本では中国語を学ぶためのものであった。それらは1カ国語辞書誕生の契機となった。また、それらの多くはテーマ別に配列されていて、それぞれの国々における世界観を反映していた。
著者
日比野 雅彦
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies = Journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
no.2, pp.51-58, 1998-07-31

モリエールはフランス17世紀を代表する喜劇作家として知られているが、彼の青年時代については2つの喜劇と2つの笑劇、いくつかの公正証書類以外ほとんど資料が残されていない。20代から30代前半の、役者としても作家としでも貴重な時期をどのように過ごしたかを知ることは、後の傑作を知る上でも重要なことといえる。一方、モリエールが創始者ともいわれる「コメディー・バレエ」は、パリ時代に数多く書かれ、晩年の喜劇作品では、台詞そのものが音楽性の高いものといわれている。モリエールの作品を論じる場合、このようにコメディー・バレエという新しいジャンルを抜きにすることはできない。モリエールは巡業時代に、コメディー・バレエとしての作品を残していないが、『相いれないもののバレエ』と呼ばれる作品の上演に関わった。このバレエはモンペリエの貴族たちの余興の一環として作られたもので、今日的意味で重要性に乏しい作品ともいえるが、言葉のない空間を駆使した作品であるがゆえに、役者モリエールにとってもまた喜劇作家モリエールにとっても意味のある作品であったと考えられる。
著者
森 順子
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.87-97, 1998-03-31

シェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』は難解な劇であるとこれまで多くの批評家によって指摘されている。登場人物たちは、まるで濃霧の中でうごめいているように思える。しかし、その深い霧の中で目を凝らせば見えてくるものがある。それは稀薄な人間関係である。本稿は、とりわけ主人公トロイラスとクレシダに顕著にみられる人間関係の稀薄さに焦点を当て、更にわれわれはどのような人間関係を築くべきであるのかを考察することを目的としている。その際、鍵となるのはサーサイテイーズの言葉である。その言葉を透かして見えてくるのは、互いに相手を思いやり尊重しあう心である。
著者
芳賀 康朗
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.61-70, 2008-03-31

本研究では、自分の位置を定位できなくなったり目的地やランドマークを見失ってしまった「迷子場面」において運行される対処行動と方向感覚の自己評定との間にいかなる関連性があるのかについて検討すること目的とした。迷子場面におけるエピソードを分析した結果、方向感覚の自己評定の高い人は自分の有している内的情報を活用して効率的な対処行動を選択する傾向が強く、方向感党の自己評定の低い人は他者の有している情報に依存した対処行動を不明確な意図の下に運行する傾向が強いことが示された。
著者
吉野 敏行
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.21-29, 2012-07-31

循環型社会は物質的な閉鎖系である。リサイクルは天然資源の消費量と廃棄物の排出量を削減して環境資源の保全に有効であるが、他方で、リサイクルの繰り返しは再生資源に不純物を蓄積して物エントロピーを増大させる。再生資源の物エントロピーを低減させるためには、外部環境から低エントロピーのエネルギーを投入し、高エントロピーの排ガス・廃熱を外部環境へ排出しなければならない。したがって、循環型社会が化石燃料などの枯渇性エネルギーに依存しているかぎり、環境保全は限定的である。循環型社会と再生可能エネルギーの大規模利用は、持続可能な社会の建設にとって不可欠の車の両輪である。
著者
坂本 真也
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
no.2, pp.85-96, 2011-11-15

本研究では、スクールカウンセリングにおける教員研修としてPCAGIP法を用いた事例検討の実践から、その有効性や課題について検討することを目的とした。事例検討では、スクールカウンセラーはファシリテーターとして働き、他の参加者メンバーは自由で話しやすい雰囲気の中、討議を行った。本研修では、事例提供者の負担が少ないこと、さまざまな視点から事例Aへの対応を考えられたことなどの特徴が見られた。その結果、(1)スクールカウンセラーと教員間の連携強化やチームで関わる経験になったこと、(2)教員が学級経営や児童とのかかわりに関して予防的に関わっていける可能性を示唆した感想が得られた。また、今後の課題として、PCAGIP法による事例検討のプロセスを詳細に検討していく必要性が見出された。The purpose of this study is to examine efficiency of teacher training in school counseling. In this case conference, all participants discussed in case A were easy to talk to. The school counselor was the facilitator in the group work. The characteristics of this training is to reduce ploblems for a member who presented case A and other group members talked about case A from various points of view. The conclusions are as follows: (1) an experience of problem solving team between teachers and school counselor (2) this kind of teacher training will be a way of preventive approach in school counseling or educational counseling. The teacher training is based on PCAGIP method as a new style group work and it needs further practice and discussion.
著者
白井 克佳 中里 信立 斉藤 実 鍋倉 賢治 松田 光生
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
no.3, pp.69-77, 1999-06

本研究は夏期合宿における競技選手のコンディションの変動を調査した。対象は男子陸上長距離選手8名とし、対象の起床時、朝練習時心拍数、主観的体調、尿(量、濃度)、及び走行距離と、練習を行った環境の計測を行った。その結果、起床時、朝練習時心拍数と主観的体調が、合宿が進行するに従い、低下することが観察された。起床時、朝練習時心拍数の低下は合宿によるトレーニング効果によるものか、合宿の環境に慣れたためか、今回の検討では明らかにすることができなかった。主観的体調の低下は先行研究では心拍数の増加とともに観察されたが、今回はそれと異なった結果となった。合宿中に脱水症状を起こし、練習を中止した選手がいたが、この選手の当日の尿量は前日までと比べ、著しく高値であった。このことは尿量の観察がコンディションを把握する上で有用であり、熱中症などの事故を未然に防ぐ手がかりとなる可能性があることを示している。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば = Mind and language (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-24, 2003-03-31

ケヴィン・リンチが『都市のイメージ』で用いた概念、とくにアイデンティティ、ストラクチャー、ミーニングの三つの成分、そしてパス、エッジ、ディストリクト、ノード、ランドマークの五つのエレメントを用いて、愛知県岡崎市の中心市街地の明瞭さや分かりやすさについて記述・分析した。その過程で、ブリッジ(何らかの障害物を渡るためのもの)とマス(丘のような線状でない障害物)という新たなエレメントを抽出した。さらにスキーマという認知心理学的視点からの分析の必要性も説いた。その結果、岡崎は比較的分かりやすい都市であると言える。パスとエッジが岡崎のイメージを構造化するのに大きな役割を果たしている。さらに、特色あるディストリクトも近接して構造化されていて、分かりやすい。ただし、中心市街地の南部と北部が曖昧で、少し分かりにくい。また、南と北ほどではないが、東の構造化も十分ではない。This study investigates the image of Okazaki City, especially its central area, in terms of clarity or legibility. It looks at the image of the city in terms of Kevin Lynch's five elements -paths, edges, districts, nodes and landmarks- and three components of each element: identity, structure, meaning. Bridges and masses are also necessary to describe the image of Okazaki. The former includes ordinary bridges and tunnels crossing edges. Masses refers to hills and lakes that can keep people from passing through. It is also argued that schema, a cognitive psychological concept, plays an important role in constructing the image of cities including Okazaki. This study concludes that Okazaki is legible as a whole because it is well-structured by paths and edges. Paths and edges also mark conspicuous districts such as Kosei (a commercial district), Okazaki-koen (a historical district) and Tatsumigaoka (a religious-educational district). The north and south parts of Okazaki, however, are ambiguous and not legible because no clear paths and edges run north and south.
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-74, 2005-03-31

ヘンリー・コンスタブルの『ダイアナ』は、1590年代のイングランドで流行した<ソネット連作>形式の詩集であるが、詩人の愛する女性がだれなのかはよくわからない。この詩集の特質をなすものは、当時の支配的な感情の様式であるペトラルキズムと、そこに混入したイングランド土着の要素、そして、コンスタブル特有の<奇想(コンシート)>である。コンスータブルの生涯と作品について、わかっていないことが多いのは、詩人のカトリックの信仰がかかわっている。
著者
渡 昌弘
出版者
人間環境大学
雑誌
(ISSN:1348124X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.43-51, 2008-03-31
著者
内藤 可夫
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 電子版 (ISSN:21858373)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-11, 2012-11-30

哲学は伝統的に自我の概念を議論の出発点にしてきた。ニーチェはこれを批判し、霊魂への信仰がすべての存在概念の起源としての自我概念となったとしている。つまり、自我概念は形而上学の由来であり、存在概念の由来なのである。論理学や数学もまた不変の存在者の実在の仮定によって存在論的な意味を持ち、諸学における有効性を得ている。ニーチェが形而上学の由来と考えた自我は、さらに人間の倫理的な思考を由来としている。他者の概念がそれである。自我は他者から、つまり、倫理から由来したのである。そして、自我こそが人間存在の特殊性の根拠であるとしたならば、その根本は他者の把握・他者に対する態度の変容によって変わってくる。つまり倫理的態度(人格)が存在を変えるということになる。他者(人間以外を含む)に対する態度、倫理、人格の多様性は、「存在」の多様性の可能性、世界の開かれ方の多様性を帰結するのである。
著者
花井 しおり
出版者
人間環境大学
雑誌
(ISSN:1348124X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.29-39, 2007-03-31

万葉集巻九に、「田辺福麻呂之歌集」出の、「過_二足柄坂_一、見_二死人_一作歌一首(足柄の坂に過きるに、死人を見て作る歌一首)」(9・一八〇〇)と題される歌がある。万葉集において、題詞に「見(視)_二死人(屍)_一」と見える歌は、いわゆる行路死人歌と称される。行路死人歌の歌群において、当該歌は、死人それ自体の描写が詳細であること、および死人の内面にも立ち入り、心情を想像することにおいて個性的である。本論では、そのような表現が、福麻呂に特徴的な見方である「直目」に見ること-単に「直に」見るということではなく、相手に価値的な「直に」というあり方で逢い、渾身の力で見ること-に由来すると解されることを論じる。
著者
菅原 太
出版者
人間環境大学
雑誌
(ISSN:1348124X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.53-87, 2003-03-20

アンコール・ワットの壁面には、約2千体の女神像(デヴァター)が浮き彫りされていたという。通常、宗教美術の場合、同じ神格ならばそれが何体造られていたとしても、それらは全て共通の図像と表現様式をそなえているが、アンコール・ワットでは、これらの彫像の膨大な教と、寺院の広大な境内、その造築に費やされた年月、さらには、壁面彫刻に携わった彫工達の個性や表現欲求がその表現を変容させ、逸脱と多様化へと向かわせているようである。本稿では、女神像の彫られたアンコール・ワットの壁面の中から逸脱と多様化の顕著な例を取り上げ、統一された厳格な様式から彫工達の個性表現、洗練された公的表現から、より作者個人の潜在的欲望を露にしたプリミティヴなものへというように、創作エネルギーを保持しつつも変質し、多様化してゆく浮彫り像を、日本及びアジアの社寺からのいくつかの例との比較を交え、さらには現代日本文化とも照らし合わせながら見てゆく。
著者
小山 正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.43-50, 2002-03-31

本稿では、初期の子どもの象徴遊びの発達と言語獲得について、象徴機能、表象機能の発達という観点から考察を加えた。特に、ふり遊びなどにみられる表象・象徴化能力の発達が子どもの遊びやことばの生産性と密接に関係していることを強調した。遊びを通して象徴機能・表象機能の発達を支えていくことは、また学童期の子どもの良き自己感や自我形成を考えるうえにおいても重要であることを指摘した。
著者
菅原 布寿史
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 電子版 (ISSN:21858373)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.46-70, 2012-02-29

第I部では徳川・五島本の構図を分析し、二分割した画面に主要なモチーフを配置することで物語内容を視覚的に表現した〈対置的スタティクス〉、様々な動勢が影響し合って動的な運動感で画面内を満たし、ドラマティックなインパクトが感性に訴えかける〈有機的ダイナミクス〉に分類した。第II部では徳川・五島本の色彩とテクスチュアが物語表現にどのような効果を与えているのかを分析する。色彩は、強調色の配置が物語表現に深く関わっている。中でも〈有機的ダイナミクス〉の構図を持つ柏木グループは構図のダイナミズムを補強する形で強調色が活用され、テクスチュアとの相乗効果を伴い、より鑑賞者の感性に訴える表現を実現している。
著者
菅原 布寿史
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.74-96, 2011-03-31

本稿は、『信貴山縁起絵巻』第一巻「飛倉の巻」の時間分析に映画編集の手法を転用することによって、個々のイメージではなくイメージの連関から生成する観念の問題に目を向け、この絵巻の特異な表現を明らかにしようという試みである。・一章では、時間分析の障害となっている第一巻「飛倉の巻」冒頭の欠落部分の復元をおこなう。・二章では、〈驚きと恐怖〉の観念を引き起こす「飛倉の巻」第一場面の時間分析を試みる。・三章では、第一場面から第二場面へと続く画面上の、視線の流れと心理的視野の変化を追う。・四章では、編集上の省略も含めた第五場面における鮮やかな〈奇跡〉の演出を時間分析する。・五章では、動画的イメージによって構成された、第六場面のダイナミックな時空表現のくスペクタクル〉を分析する。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-14, 2007-03-31

この小論では、批判的談話分析の手法、とくにNorman Faircloughの手法を、科学哲学者Stephen C.Meyerのintelligent designに関するエッセーに応用し、分析を試みた。Faircloughは、ディスコースの中の「常識」や「前提」を「イデオロギー」と考えている。Meyerのエッセーには、"evidence"と"explain"という「科学性」を示す言葉が当然のごとく、しばしば用いられている。このことから、同エッセーは、科学イデオロギーの強い影響をうけた、科学的ディスコースであることが明らかになる。つまり、「科学」が「イデオロギー」として機能していると考えられる。さらに、同エッセーを科学的ディスコースに作り上げている手法について考察し、同ディスコースの議論構造、最先端の科学的知識の提示、著名な科学者の引用、科学的比喩の使用、"know"という叙実的動詞を用いた事実的前提の提示などを指摘した。
著者
岡 良和
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.27-36, 2008-03-31

ことわざは、文化による影響を大きく受けているため、従来、異文化理解の題材として扱われることが多かった。本論文では、認知言語学的な立場から、日本人の英語学習者に対して、ことわざを授業でどのように救うかについて、ひとつの提案を行うものである。このアプローチにより.普遍的な観点から、ことわざを取り上げる方向が示唆されよう。
著者
森 順子
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.15-29, 2010-03-31

萩原葉子は詩人萩原朔太郎の長女である。子供時代は「死に方が分からなくて生きていた」と述懐するほどに孤独であった。祖母に苛められ、抜きがたく植えつけられた自己否定の観念に苦しんだ日々である。作家になり、ダンスに没頭することによって、抑庄されてきた心を解き放ち、自己を高め続けたのである。彼女は自らの心に潜む父への「分析できない二重の愛憎」を吐露している。本稿では、父親に対する思いに焦点を当て、家族との関係を通して萩原葉子の内的世界を探る。