著者
佐伯 幸民 吉実 弘 根来 健二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.1183-1187, 1968-12-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
12
被引用文献数
2

均一相(水15%,エタノール85%),不均一相(水15%,ベンゼソ85%)中,25,40,55℃ で酢酸エチルの加水分解の動力学を種々の界面活性剤存在下に研究し,速度定数(Kobs),活性化エネルギー(EA),活性化エントロピー(ΔSA),活性化エンタルピー(ΔHA),活性化自由エネルギー(ΔFA)と反応のlogPZを活性剤の形おまび濃度について求めた。一般に活性剤添加により,加水分解速度は増犬する。これに関連して反応のEA,ΔSA,ΔHAならびにlogPZは低下するが,一方,ΔFAは変化しない。しかしながらCMC以上の活性剤濃度を用いた場合,反応に対する上述の効果は明らかに減ずる。均一相ではlogEAとlogCMCの間に直線関係が存在し,その結果y活性剤は酸,塩基または塩として作用するのみでなく,荷電の形および活性剤のミセル形成によって反応に影響する。このことは,遷移状態で反応物と活性剤の間で活性剤無添加の場合より荷電数を増した新しい活性錯合体が形成されることを示す。このような点で,非イオン活性剤は分子が電荷をもたないため反応に対する効果が小さい。不均一相では,活性剤の効果は均一相の場合より大きく,logEAとlogCMCの間の直線関係も存在しない。したがって上述の効県以外に分散,乳化などの効果あ存在が予想される。
著者
鶴田 治樹
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.21-25, 1991-02-20 (Released:2017-07-13)

嗅覚の科学は五感の中でも視覚や聴覚と比べると研究が遅れている領域といわれる。嗅覚が視覚や聴覚と決定的に異なる点は, 嗅覚の刺激は"化学物質"によっておこるという事実である。そのために研究が遅れたとも言えよう。人体の健康維持(ホメオスタシス)のための情報伝達のほとんどが, 化学物質によって行われることが明らかになりつつある現在, におい物質も生活面ではもちろん, 生理面, 心理面でも重要な情報伝達物質と考えることができる。この中で光学異性体のにおいの違いという現象も, 今後重要な研究話題を提供するものと十分考えられる。
著者
岩島 聰 倉町 三樹 青木 淳治
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1976, no.6, pp.858-864, 1976-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
31
被引用文献数
1

高温タールピッチから抽出したカルバゾールには,結晶格子定数などが類似している微量の不純物が混入している。この不純物を除去するには,109の市販カルパゾールと209の無水マレィン酸および19のクロロァニルを1,2,4-トリクロロベンゼン30ml中で加熱処理後,イソペンチルアルコールと金属ナトリウムによる処理を行ない,さらに昇華,カラムクロマトグラフィー,帯域融解をくり返すことがもっとも効果的であることがわかった。不純物の検出には,蒸着薄膜のケイ光スペクトルおよびケイ光寿命の波長依存性を用いた。高純度カルバゾールのケイ光極大位置は,室温で345,358,370nm,液体窒素温度で345,351,370,392nm付近に観灘される。また,不純物が微量混入している蒸着薄膜試料では,高純度試料で観測された位置のほかに,330nm以下,および400nm以上にもケイ光極大が現われる。一方,ケイ光寿命は,'高純度蒸着薄膜試料では345~417nmで18.1~21.0n・sec(室温)を示し,波長依存性も小さい。また,低純度試料では7.3~22.0n・secを示し,その波長依存性も大きい。
著者
松本 和子 酒井 健
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.420-423, 1987-10-20 (Released:2017-07-13)

モリブデン・ブルー法は, 古くから用いられているリンの高感度吸光光度分析法である。この方法の基礎をなす発色物質, リンモリブデン・ブルーの化学的性質, Keggin構造と呼ばれる特異な構造を解説し, リン酸イオンの定量分析実験への応用例を示した。
著者
五十田 智丈 溝部 裕司 桑田 繁樹 干鯛 眞信
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.9, pp.493-500, 2001 (Released:2004-02-20)
参考文献数
68
被引用文献数
1

モリブデンおよびタングステンのスルフィド架橋二核錯体[M2S2(μ2–S)2(S2CNEt2)2] (M = Mo,W)と各種貴金属錯体とを反応させることにより,[M′(μ2–S)2M2(μ2–S)2] (M = Mo : M′ = Pt; M = W : M′ = Pd, Pt),[M′(μ3–S)(μ2–S)3M2] (M = Mo, W : M′ = Rh, Ir),および[M′2M2(μ3–S)4] (M = Mo : M′ = Pd; M = Mo, W : M′ = Rh, Ir)骨格を有する一連の三核およびキュバン型四核混合金属クラスターを,それぞれ選択的に合成できることを見いだした.これらの反応においてどの骨格構造が生成するかは,用いる金属の組み合わせ,または導入する金属錯体上の配位子の種類に大きく依存することが判明した.一連の新規なクラスターの構造については,[Pt(PPh3)(μ2–S)2{W(S2CNEt2)}2(μ2–S)2],[{Pd(PPh3)}2{Mo(S2CNEt2)}2(μ3–S)4], [Ir(PPh3)2(μ3–S)(μ2–S)3{W(S2CNEt2)}2(μ2–Cl)],[{Rh(cod)}2{MoCl(S2CNEt2)}2(μ3–S)4] (cod = 1,5-cyclooctadiene),および[(RuCp*)2{MoCl(S2CNEt2)}2(μ3–S)4](Cp* = η5–C5Me5)の単結晶X線解析を行って確認した.
著者
宮村 一夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.584-587, 2015-12-20 (Released:2017-06-16)
参考文献数
2

有機化合物の分析法を分析手順に沿って概説した。各分析手順における留意点を中心に記してある。多くの方にとってわかりきったことであろうが,基本的な考え方から記すよう心がけた。
著者
山崎 英恵
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.90-91, 2015-02-20 (Released:2017-06-16)
被引用文献数
1

出汁(だし)は日本食の土台となる風味である。その芳醇な香りや豊かなうま味は,我々の食欲をそそる好ましい味わいである。一方で,欧米などでは昆布特有のオーシャン臭や鰹の魚臭さが敬遠されることも少なくない。おいしさの感覚は食に対する嗜好であり,食経験や生理的状態などが個々のおいしさを相対的に形づくっているが,絶対的なおいしさも存在する。本稿では,出汁のなかでも代表的な鰹だしを取り上げ,そのおいしさの構造について解説する。
著者
吉野 彰
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.296-299, 2018

<p>リチウムイオン電池は小型・軽量化を実現した二次電池であり,現在のモバイルIT社会の実現に大きな貢献をしてきた。現在ではほぼすべてのモバイルIT機器の電源として世界中で用いられている。このリチウムイオン電池の市場状況,電池の仕組み,特徴,構成材料,電池構造,電極構造を解説する。こうしたモバイルIT用途分野(小型民生用途)においての25年以上の市場実績により,電池性能の向上,信頼性の向上,コストダウンの実現がなされてきた。こうした市場実績によりリチウムイオン電池は車載用(電気自動車用)という次の転換期を迎えている。</p>
著者
西村 裕章 杉崎 俊夫 守谷 治 影山 俊文
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.7, pp.505-510, 2000 (Released:2001-08-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

Several silica gels containing rare earth ions such as neodymium, samarium, or yttrium, which differed in composition, were obtained readily from sodium metasilicate and chlorides of rare earth. The reaction was carried out at room temperature in an aqueous solution, pH value of which was adjusted to be below 1 at first step to generate monomeric silicic acid, and then the solution was neutralized to be pH=7. The spectral data of IR and UV of resulting gels suggested that rare earths dispersed well in silica phase. The TG-DTA analyses of gels showed characteristic exothermic peaks, which related with the formation of crystals of rare earth silicates. The types of crystals, obtained after calcination of gels at the temperature of exothermic peaks, were influenced apparently by the composition of rare earth and silicon.
著者
西 敏夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.468-471, 2013-10-20 (Released:2017-06-30)

天然ゴムをめぐる話題として,価格の高騰,天然ゴム園の開発競争,地球環境問題,各種天然ゴム資源のほか,基礎的には天然ゴム樹の全DNA解析,人工衛星を使ったゴム園の診断などに触れる。また,応用面では天然ゴム主体の免震ゴムが,東日本大震災に対して極めて有効だったことなどを紹介する。天然ゴムは,本当の意味で古くて新しい材料であることを示す。