著者
上田 邦介
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.408-409, 2013
参考文献数
4

岩絵具とは,有色鉱物を粉砕し,その粉末を水簸(すいひ)精製して作られた鉱物性顔料である。その主たる特徴は,1種類の有色鉱物を水簸分級することによって何種類かの粗さの粉体を造り,それにより色のバリエーションを構成する粒状顔料である。近年は日本画の画風が大きく変化をしたため,金属酸化物を焼成溶融し塊を作り,天然岩絵具と同様に粉砕し水簸精製した新岩絵具も登場。その色数は1,500色をはるかに超える。本稿は近代日本画を支えた岩絵具の本質と美の進化に迫る。
著者
玉利 信幸 加藤 昭夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1977, no.5, pp.650-655, 1977-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
20
被引用文献数
4

ZrCl4-H2-CH,系からの炭化ジルコニウム(ZrC)の結晶成長を900~1500℃で行ない,反応条件が結晶の成長速度および形態におよぼす影響を調べた。そして,つぎの結果を得た。黒鉛基板上ではコーティングしか得られなかった。ムライト管上では約1000℃からコーティングが生じ,1200。C以上でo.5~30μの径をもつウィスか-の成長が認められた。ウィスカー成長には[zrC嬉/こCH4]比が1近くがよい。ウィスカーの成長速度は四壌化ジルコニウムおよびメタン濃度に対して極大を示した。また,成長速度は水素濃度の減少とともに減少した。実測された軸方向の最大成長速度は~3,8×10-scm/secで,半径方向の成長速度は軸方向の約1/700であった。炭化ジルコニウムウィスカーは正方形の断面をもち,その成長方向は[100]方向で,側面は{110}面であった。
著者
木曽 真
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.411-413, 2001-07-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
5

糖鎖は, ウィルスや細菌その他の受容体機能を持ち, 宿主への感染や増殖を制限している。免疫担当細胞である白血球や, マクロファージは, 様々な糖鎖結合性タンパク質(レクチン)を使って細胞を認識し, 標的細胞を捕捉したり, 自らも炎症部位へ遊走する。本稿では, 白血球やリンパ球の表面で働く分子の中から, シアル酸を含む糖鎖(シアロ糖鎖)を認識する代表的なレクチンとして, 免疫や炎症反応に関与する「セレクチン」と「シグレック」に焦点をあて, その化学・生物学的特性について紹介する。
著者
藤永 太一郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.400-403, 1985-10-20 (Released:2017-09-15)

環境化学は, 人間活動の効果を考慮に入れた自然科学と技術の一分野である。したがって総合科学の代表的なものの一つであるが, 学術としての基礎が確立していないために公害対策技術と誤まって考える向きが多い。本稿では健全な環境の基本条件を化学の立場から考え, また将来の環境工学のあり方について述べる。環境化学の学問としての基礎は, Empedoklesが提唱したとされる4元説にあると考え, 気圏, 水圏, 岩石圏の化学反応と平衡を考察する。このため本稿の内容は主として化学であるが, 物理学, 生物学, 地学はもとより, 一部は社会人文科学の領域にも係っている。
著者
内藤 勝之 水島 公一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌
巻号頁・発行日
vol.1986, no.3, pp.306-311, 1986

1, 6-ジブロモ-2, 4-ヘキサジインは真空下加熱することにより重合して, 共役系ポリマーを生成する。ポリマーはジメチルスルホキシド(DMSO)やテトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒に可溶であり, 薄膜状に成形できる。ポリマーはアクセプター性が強く, アンモニアやテトラチアフルパレン(TTF)などのドナーと電荷移動錯体を形成し, その電気伝導度は10<SUP>-1</SUP>S・cm<SUP>-1</SUP>といちじるしく増加する。しかし, ヨウ素やテトラシアノキノジメタン(TCNQ)などのアクセプター添加では電気伝導度はあまり増加しない。ポリマーの電気伝導度におよぼす温度, 圧力, ドーピング時間などの効果について検討した。他の置換ジアセチレンボリマーについても検討し, アクセプター性の原因として, ポリマーの主鎖にプラス電荷が存在する共鳴構造の寄与を提案する。ポリ(ジアセチレン)のアクセプター性, ドナー性は置換基を変えることにより制御でき, 置換基の種類とアクセプター性, ドナー性の関連およびポリマーとドーピング剤との関連について統一的に解釈する。
著者
田中 幹夫 永 井俊 三木 瑛一 水町 邦彦 石森 達二郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1979, no.8, pp.1112-1114, 1979

Bis (2, 2'-bipyridine)- and bis (1, 10-phenanthroline)carbonatoruthenium (II) complexes were syn-thesized by refluxing the corresponding dichloro complex in water with traces of formic acid, and passing the solution through an anion exchange column of carbonate form in order to remove chloride ions and to form the desired complex. Both complexes were dark violet, and diamagnetic. Electronic spectra of the complexes in dichloromethane and absorption curves of their crystalline powders were measured. The complexes were found to be nonelectrolytes in dichloromethane. The IR data indicated that the carbonato group in the complexes is coordinated to a ruthenium as a bidentate ligand.
著者
三木 康朗 杉本 義一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.5, pp.697-703, 1983-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
39
被引用文献数
1

アントラセン油に含まれる縮合多環芳香族炭化水素,フェノール類および窒素化合物を,溶融シリカ毛管カラムを備えたガスクロマトグラフおよびGC-MSを用いて分析した。フェナントレン,ピレン,ジベンゾフラン,カルバゾール,ヒドゴキシビフェニル,ナフトールなどをアルキル化,フェニル化,あるいは水素化しておよそ500種類の化合物を含む種々の混合試料を合成した。一方,アントラセン油は精密蒸留により40留分に分励して各留分ごとにクロマトグラムを得その各ピークについてカラムの保持時間,分子量および質量スペクトルの分布を標準試料と比較して同定した。アソトラセン油からさらに極性成分および酸性成分を抽出し,前者から窒素化合物を,後者からフェノール類を分析した。分析にはHewlett-Packard社の5880Aガスクロマトグラフおよび5992A四極子型GC-MSを用いた。芳香族および窒素化合物の分析にはSP-2100カラムを用い,フェノール類の分析にはOV-1カラムを用いた。また窒素化合物の分析にはFID検出器とNP検出器を併用した。カラム温度の3段階の昇温プログラム(35℃,25min;5℃/min;100℃,5min;3℃/min;150℃,3min;2.5℃/min;260℃,50min)により全成分を同時に分析した。
著者
引地 宏 田中 信行
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.88, no.11, pp.1154-1157, 1967-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15

滴下水銀電極におけるヘキサアンミンクロム (III) イオンの一電子還元波は, マンガン (II) イオンおよびマンガン (II) -オキシエチルエチレンジアミン三酢酸 (HEDTAと略記) 錯体が存在するとき, 2段に分裂する。これはつぎのような電極反応[Cr (NH3) 6]3++e→Cr2+aq+6NH3MnX-+jH+⇔Mn2+aq+HjX (3-j)-Cr2+aq+HjX(3-J)-〓+jH+(j=0, 1)CrX-→CrX+eに基づくものであるが, その第1波の限界電流値は適当な条件では, クロム (II) イオンとHEDTAとの錯形成反応の速度に依存する。水銀滴1滴間の電流-時間曲線を測定し, その結果を解析することにより, 25℃, μ=1, ρH4. 1~5. 1における正反応の速度定数 k+X, k+HXとして, k+X=5.7x 1010 and k+HX=1. 2×105l・mol-1・sec-1の値を得た。
著者
増田 嘉孝 塩見 康 三角 省三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1974, no.9, pp.1645-1648, 1974
被引用文献数
4

トリス(1,2-ジチオナト)クロム(III)錯体を合成し,錯体の組成を元素分析から,配位子の結合の性質を赤外吸収スペクトル,電子スペクトルの解析,ポーラログラフィーによって電荷移動反応を検討した。,元素分析値から得た錯体の組成はCr(S<sub>2</sub>C<sub>2C</sub>(C6H<sub>5</sub>)2)3である。この錯体の合成法は本文に記述する。赤外吸収スペクトルの結果はC=Sの伸縮振動がクロム(III)錯体では1165と1O<sup>2-</sup>0cm営1に示され,また摂動によるM-S伸縮振動が420,355cm<sup>-1</sup>に示された。磁化率の測定はクPム(0)錯体が反磁牲であることを示す。ポーラPtグラフィ,-には白金回転電極(直径1mm,回転数600rpm),アセトニトリルージクロロメタン混合溶媒(1:1),支持…壇(C<sub>2C</sub>H<sub>5</sub>)4NCIO,を用いた。得たポーラログラムは良好で,可逆性-電子還元で,その電極反応はである。電荷移動錯体と考えられ,電子スペクトルの結果もそれを示す。
著者
原 宏
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.124-127, 1999
参考文献数
8

酸性雨という環境問題は「雨がpH5.6以下になる」ことではない。問題はもっと広く「化石燃料の燃焼で出てくる二酸化硫黄や窒素酸化物が大気中で硫酸や硝酸に変わり, 風に乗って, あるいは雨などに溶けて, 地上に沈着することで始まる現象であり, 沈着した酸は生態系を酸性化し土壌, 湖沼などに影響を及ぼす」ことである。このなかで降水のpHは問題のほんの一部であり, 降水の組成からかなりのことが明らかになることを示す。pHと相補的な量pAiを提案し日本, 欧州, 北米の降水化学を簡単に比較する。
著者
荒川 治仁
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.188-191, 2007
参考文献数
2

雑誌,新聞,広告チラシ,スナック菓子の袋など,印刷物は私たちの日常生活のさまざまな場所に満ち溢れている。近代印刷術は,長い年月を経てその時代に合った材料や技術を取り入れながら現代に至るまで進化を続けている。今回はさまざまな印刷インキの中で,一般商業印刷分野で広く普及する平版印刷インキに焦点を絞り,印刷インキの現状と大気汚染などの環境問題に向けた課題について取り上げる。
著者
森上 和哲 田中 茂 橋本 芳一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.1, pp.98-104, 1993
被引用文献数
3

1991年7月-9月にかけて,日本から中東ペルシャ湾までのタンカー航路上において海洋大気中ギ酸および酢酸濃度を測定し,ギ酸および酢酸の海洋における濃度分布およびその挙動について検討を行った。海洋大気中のギ酸濃度は平均1.18ppbv,酢酸濃度は平均0.60ppbvであり,ギ酸濃度が常に酢酸濃度より高かった。ギ酸および酢酸ともに,日中濃度が高く,夜間濃度が低くなるという濃度変化を示した。海洋大気中のギ酸および酢酸の発生源としては,対流圏あるいは陸上からの輸送の影響が大きいことが推測された。ギ酸および酢酸の除去機構としては,OHによる気相分解よりも乾性沈着の方が寄与が大きかった。海表面におけるギ酸および酢酸のフラックスを他のガスと比較したところ,一酸化炭素とほぼ同じレベルとなり,炭素循環においてギ酸および酢酸は重要な役割を果たしている。またギ酸および酢酸は大気中から海表面に取り込まれ,海洋における重要な炭素供給源であると言える。
著者
福井 謙一 稲本 善昭 高瀬 新次 北野 尚男
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.531-534, 1959-04-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1

活性メチレン化合物あるいはアニリン,核置換アニリンとハロゲン化アルキルとがフッ化カリウムを縮合剤として反応し,それぞれC-アルキル化物およびN-アルキル化物が得られることを見いだした。この新アルキル化反応はフッ化カリウムの脱ハロゲン化水素性能にもとづくものであって反応の溶媒としては1,2-ジオールたとえばエチレングリコールがすぐれた効果を有しており,反応温度は100~200℃ である。この方法はアニリンおよび核置換アニリンのモノアルキル(>C3)置換体あるいはジメチル化物の合成法としては従来の方法にくらべすぐれた結果を与える。