著者
米田 昭二郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.396-399, 1986

実験をふんだんにとり入れた化学の授業が, 中学生の私を化学の森へ招待してくれたらしい。そこで刻まれた情報が, 密林からの脱出ヒントとなり, 峠での見晴らしを楽しむ引き金ともなった。正規の学生生活を体験していない私は, 多彩な物質世界の現実にも"知らぬが仏"。試行錯誤の末にたぐり寄せた自然界の原則に驚き, それを目前の児童・生徒に活かしつつともに楽しもうとしてきた。シアン化物にまつわる戦中のエピソード, 塩化物イオンの追い回し, 金属ナトリウムさわぎなどは, 化学の森に迷いこまなかったら, とても出会えない楽しい体験である。化学者が訪ねる森とは異次元ながら, 私なりに満喫したハイキングでの, ふき出したくなる傑作をお話ししたい。私を化学へ招待してくださった, 先生方や生徒諸君の顔を懐かしく想い浮かべつつ。
著者
川井 正弘 松本 孝芳 升田 利史郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.2, pp.108-114, 1994
被引用文献数
1

アルギソ酸はβ-1,4結合したbマンヌロン酸(以下Mと略す)とα-1,4結合したL-グルロン酸(以下Gと略す)から構成される酸性高分子多糖である.著者らはアルギン酸-酢酸水溶液系でゲルが形成されること,また,そのゲル化濃度はアルギン酸分子中のマンヌロン酸/グルロン酸比に影響されG成分に富んだアルギン酸がより低濃度でゲル化すること,さらに,その原因はG成分に富んだアルギソ酸の方が分子鎖が剛直であるためであることを明らかにした.他方,アルギン酸水溶液に適当な二価金属イオソを添加すると溶液がゲル化することはよく知られている.著者らは,アルギン酸水溶液をゲル化するに要する添加塩量がSrCl<SUB>2</SUB><CaCl<SUB>2</SUB><MgCl<SUB>2</SUB>の順で増加し,G成分に富んだアルギン酸の方が少ない添加塩量でゲル化することを見つけた.また,それらの原因はアルギン酸に対する二価金属イオソの親和性がSr<SUP>2+</SUP>>Ca<SUP>2+</SUP>>Mg<SUP>2+</SUP>の順で減少するためと,G成分に富んだアルギン酸の方が二価金属イオンに対する親和性が高いためであることを示した.本報文では,上記の結果を総括し,さらに,アルギソ酸水溶液をCaCl<SUB>2</SUB>,SrCl<SUB>2</SUB>でゲル化した時のゲル化点の構造を小角X線散乱測定を通して明らかにする.
著者
鈴木 真一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.674-677, 2003
参考文献数
2

和歌山県下における亜ヒ酸を用いた無差別殺人事件は多くの一般市民を巻き込む未曾有のものであった。その後,類似の異物・毒物混入事件が全国で多発し,社会不安を惹起した。この事件解決のために,ほとんどの分析化学的手法や機器が用いられ,司法側から要求されるハードルをひとつひとつ超えていき,最後にはメガサイエンスの最先端施設であるSPring-8も事件の解決に寄与した。
著者
桑村 常彦 高橋 秀男 三柴 三郎 小野 正寛
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1973, no.12, pp.2370-2377, 1973
被引用文献数
1

ペンタエリトリットの女直n-アルキルエーテル,(ROCH2) .C(CH20H)4-x (x=1~3, R=C3~C rs)への酸化エチレン(EO)重付加により,ポリオキシエチレン(POE)似非イオン性界面活性剤を合成し,疎水部におけるアルキル総炭素数(N)の等しい既知非イオン活性剤との比較のもとに,その曇り点(Cp),表面張力(rCMC), CMCにおよぼす熟瓜構造およびポリエーテル型連結部の影響について検討した。<BR>(1)一般に疎水部のアルキル鎖数(A)の増加はCp,7 CMCを低下, CMCを増大させるが, Aが2と3でのrcMc, CMCの差異は少ない。 Aが3の場合,rcMcはRがC3からC6の範囲で変化しない。Aが2以上,とくec 3の場合, CMCの対数とNの関係は直線ゆらはずれ,上方 型曲線となる。<BR>(2)同一系列,同一HLBd(DaviesのHLB値)では高級同族体ほど高いCpを示す。(3)連結部のエーテル型酸素は見かけ上親水牲に寄与しない。(4)POE鎖数(P)の多い系列はHLB,から予想されるよりかなり低いCpを示す。 P 2では,一般にEO付加数の増加とともにlogCMCが直線的に減少し,その傾きはPおよびRの大きいほどいちじるしい。<BR>以上の結果について,主としてPOE鎖の配置状態,水和性の観点から論議した。
著者
赤木 邦昭
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.428-431, 2006

春,そして夏休みに実施している小学校高学年を対象とした「科学実験教室」。今年で4年目を迎え,これまで試行錯誤しつつ6回実施してきた。地域(千葉)の方々にも少しずつではあるが浸透してきたこの活動。中・高校の化学,物理の先生方の協力があってこそ成し得たその内容をご紹介しながら,一企業が参画する意義とメリットなども記してみたいと思う。皆様方の活動の参考となれば幸いである。
著者
D'AURIA Maurizio PIANCATELLI Giovanni
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
Chemistry letters (ISSN:03667022)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.7, pp.1153-1156, 1993-07-05
参考文献数
14
被引用文献数
3

The treatment of 4,5-dialkyl-4-hydroxy-6-cyclopent-2-en-1-ones with H<SUB>2</SUB>C<SUB>2</SUB> and KOH gave in high yields 2,3-epoxy-2,3-dialkyl-4-hydroxycyclopentanones. Furthermore, only one stereoisomer, characterized by <I>trans</I> relationship between the hydroxy group and the epoxide was obtained. This behaviour can be explained considering that epoxidation occurs during a base catalyzed transposition of the starting cyclopentenone.
著者
森本 侃 岩田 徹 江崎 昭彦 坂田 眞砂代 平山 忠一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.8, pp.726-730, 1994-08-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

ポリエチレンイミンを配位子とし,セルロースをマトリックスとする繊維状吸着剤(Ce11-PEI)を調製し,この吸着剤を用いて,種々のタンパク質水溶液からのエンドトキシン選択吸着除去を試みた。CeH-PEIのアニオン交換容量は,調製時のビスコースに対するポリエチレンイミンの添加量を調節することにより容易に制御できた。同吸着剤のエンドトキシン吸着能は,吸着剤のアニオン交換容量の増大とともに増大し,吸着時のイオン強度の上昇とともに低下した。しかしながら,同吸着剤(アニオン交換容量1.1-3.4meq/g)は幅広いイオン強度域(μ=0.05-0,4)で,高いエンドトキシン吸着能を保持した。さらに,同吸着剤(アニオン交換容量1.1meq/g)を用いて,エンドトキシンを添加したウシ血清アルブミン(BSA)水溶液中からのエンドトキシンの選択吸着除去を試みたところ,イオン強度μ=0.05-0.2,中性付近のpH域下で,BSAをほとんど吸着することなく,エンドトキシンのみの選択的吸着除去ができた。
著者
辻 尚志
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.691-694, 1995-11-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
2

身の回りにはアミノ酸をはじめ, 様々な光学活性体があり, 生体は光学活性な場を持つ蛋白質を物質の認識に用いることにより巧みにそれらを見分けながら生きている。日頃, 口にする甘味やうま味などの味, 匂いの素になる物質には光学活性体が多く, 更に, それぞれの光学異性体で作用が異なる場合が多い。医薬品にも不斉中心を持つ化合物が多く, それぞれの光学異性体で薬理作用が異なる場合がある。現在はラセミ体の医薬品が多いが, 今後は安全性の観点から, 光学活性体を開発する方向になりつつある。
著者
石田 洋一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.131-137, 1988

電子の海の中にイオンが配列しているという一風変わった構造をもつ金属は, 普通の化学物質とは多くの点で異なった性質を示す。金属がもつこのような性質が, イオン配列のどのような変化により生じているか。近年特異な構造をもつことで注目されているアモルファス合金や準結晶, あるいは極微細晶や積層膜がどのような原子的配列なのか, 最近の高分解能電子顕微鏡による金属内部や表面の原子レベル観察をもとに解説する。
著者
関口 武司
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.430-433, 2001-07-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
4

水の沸騰点あるいはそれ以上の厳しい温度環境で生息する細菌が存在する。超好熱菌と呼ばれるこれらの微生物が生産する酵素は, 常識を越えた高い温度で機能する。さらに, 有機溶媒等に対しても高い耐性を示し, 幅広い基質特性を示す酵素も知られている。常温生物からの酵素とは異なった特性を示す超好熱菌酵素は, 有用物質の工業生産など産業への応用に向けて大きな期待が寄せられている。本稿では, 超好熱菌とその酵素の特性, および応用について紹介したい。
著者
御園生 尭久 吉見 武義 福田 利弘 小林 淳一 長尾 幸徳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1978, no.11, pp.1526-1531, 1978
被引用文献数
2

1,8-ナフタレンジカルボキシミド[1a]およびN-メチル換-1,8-ナフタレンジカルボキシミド(X=H,OCH<sub>3</sub>,0H,NH<sub>2</sub>,SO<sub>3</sub>Na)[Ib~f]をパラジウム触媒を用いて水素化することにより,[1f]の場合を除き,それぞれ相当するテトラヒドロ誘導体である1,2,3,4-テトラヒドロー1,8-ナフタレンジカルボキシミド[2a](収率77%),およびN-メチルー5-置換-1,2,3,4-テトラヒドロー1,8-ナフタレンジカルボキシミド(X=H,OCH<sub>3</sub>,0H,NH<sub>2</sub>)[2b~e](収率b:82%,c:62%,d:68%,e:78%)を得ることができた。<BR>さらに[1a]を同じ触媒でより強い条件で水素化するとデカリンー1,8-ジカルボキシミド[3]が得られることを確認した。また[2a]および[2b]を塩化アセチルで処理すると,それらのアシル誘導体である3-アセトキシー5,6-ジヒドロー4荏ベンゾ[de]インキノリンー1-オン[4a],および3-アセトキシー2-メチルー5,6-ジヒドロ-4-ベンゾ[de]インキノリンー1-オン[4b]を生じた。
著者
亀沢 誠 小原 和子 橘 芳純
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.1, pp.138-140, 1985
被引用文献数
2

It has previously been reported that 7, 7'-dihydroxy-4, 4'-dimethyl-3, 4-dihydro-4, 6'-bicoumarin C 4 J was obtained from the reaction of resorcinol [1] J with methyl acetoacetate [2]. The reaction of [5], diacetate of [4] with aluminum chloride has no w been studied.<BR>The products were found to be 2, 4-diacetylresorcinol [6], 4, 6-diacetylresorcinol [7], 2, 4, 6-triacetylresorcinol [8] and 4, 6-dimethyl-2 H, 8 H-benzo [1, 2-b : 5, 4-b'] dipyran-2, 8-dione mainly on the spectroscopic evidence. Expected Fries reaction products of [5] [9] were not obtained.<BR>The plausible mechanism for the formation of [6]&sim;[9] is discussed briefly (Scheme 3).
著者
松原 凱男 山田 茂治 吉原 正邦 前嶋 俊壽
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.7, pp.1312-1316, 1987
被引用文献数
4

4-phenylr4H-1,3,4-thiadiazin-5(6H)-one[1]および5,6-dihydro-4-pheny1-4H-1,3,4-thiadiazin-5-o1[2]の<SUP>1</SUP>H-NMR,<SUP>13</SUP>C-NMR,IRおよびUVスペクトルの結果,ならびに拡張.Huckelも分子軌道計算を行ない,結合次数,電荷分布およびHOMO結合軌道の様子を求めた結果かちそれぞれの共鳴安定構造について検討した。[1]の構造は,硫黄原子から3-位窒素原子へ,また4-位窒素からカルポニル酸素へそれぞれ電荷が偏りその結果,3pπ-2pπ-2pπ 系と2pπ-2pπ-2Pπ 系と2種類の連続し喪共鳴安定構造の存在が示きれた。一方,[2]の構造は,硫黄原子から4-位窒素原子へ電荷が偏りその結果,ブタジエン型3pπ-2pπ-2pπ-2pπ 系の大きな共鳴安定構造の存在が示された。そこでこの共鳴構造の異なりが反応性にどのように影響を与えるかについて検討した。[1]は通常り求核剤,求電子剤およびラジカル試荊とはまったく反応性を示さなかった。しかし[2]は弱酸およびヨウ化メチルなどの求電子剤と容易に反応を起こし,分離困難な多くの生成物を与えた。また[2]はアルコール,アミンおよびチオールなどの求核剤とは触媒なしで容易に反応を起こし,それぞれ対応する置換化合物を与えた。このオキソおよびヒドロキシル置換基の違いだけで反応性がまったく異なった結果は共鳴講造の寄与の違いで説明され,また,[2]と求核剤との反応は,ヒドロキシル酸素と5-位炭素間の切断で生じる5,6-ジヒドロニ4H-1,3,4-チアジアジニウムカ与オン中間体を経由する機構を強く支持した。
著者
利安 義雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.550-552, 1992-08-20 (Released:2017-07-13)

水酸化ナトリウムの溶解熱は発熱にもかかわらず, 加熱すると溶解度が増すのはなぜだろうか。
著者
藤永 太一郎 桑本 融 尾崎 豊子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1976, no.12, pp.1852-1855, 1976
被引用文献数
2

N,N'-ビス(o-ヒドロキシフェニル)エチレンジィミン(HPEI=H<sub>2</sub>hpei)がウランと反応して生成する錯体を種々の条件下において検討した。水溶液中で生成するhpei-U錯体は波長565nmに最大吸収をもち,連続変化法で求めた組成比はhpei:U=1:1であった。しかし,第四級アモニウム塩であるゼブィラミンの多量存在下ではレッドシフトし,最大吸収は645nlnに移るるゼフィラミン添加によってとくに吸光度が増大するわけではないが,錯体の組成比は変化し,hpei:U=2:1となる。1:1の組成比を有する錯体は,通常の有機溶媒には抽出されないが,2:1錯体は1,1,22-テトラクロロエタン(TCE),1,2-ジク誓ロエタンなど有機溶媒に抽出される。モル吸光係数はTCE中で1.41x10<sup>4</sup>,水中で1.44x10<sup>4</sup>であった。抽出法によるウランの分光光度定量では0~50μg,水溶液中の定量では0~120μgの間のウランについてBeerの法則が成立する。