著者
石 立珣
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.77-92, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
7

「スル」を伴って動詞化する名詞は動名詞(VN)と呼ばれている。VN は連体修飾語になる際に,論理的には「VN ノ N」と「VN スル/シタ N」の二種の構造が取れるはずである。しかし,「後退{*の/する}経済」の例からも分かるように,常に二種の構造が取れるとは限らない。中国語は連体修飾の場合に名詞・動詞のどちらも,一括して“的”を用いるため,中国人学習者は「*後退の経済」のような誤用を生み出しやすい。本稿では,連体節構造の分類方法の一つを「VN ノ N」に適用し,「内の関係」(意味的な格関係が想定可能:*後退の経済)と「外の関係」(意味的な格関係が想定不可:離婚の話)に分類した。これにより,外の関係の「VN ノ N」は一般に成立可能であり,内の関係の「VN ノ N」は極めて特殊な場合を除き,成立不可であると判断でき,「VN ノ N」の成立可否において指針となる基準を得られた。
著者
来嶋 洋美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.93-108, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
6

在住外国人の増加や外国人材の受入れ等に伴う学習者の多様化を背景に,外国語教育の国際基準であるCEFR が日本語教育にも導入されるようなった。これは日本語教育における大きな変化であるが,教師に求められる資質・能力や研修のあり方も見直す必要がある。そこで,教師の職能開発支援を目的として欧州で開発された5 件の継続的職能開発(CPD)の枠組みを調査した。CPD の枠組みは言語教師の資質・能力をカテゴリーと発達段階に沿って能力記述文で示している。その内容には,外国語学習の基礎理論,授業設計,学習評価など日本語教育においても一般的な項目がある一方で,言語アウェアネスと言語運用力,自律的学習,ICT の教育利用など注目したい項目も含まれている。教師がどんな資質・能力をどんな段階で持っているかを自己評価と内省を通して認識し職能開発を行っていく上で,CPD の枠組みは有効と思われる。
著者
近藤 行人 西坂 祥平
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.31-46, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
15

本研究は、日本語使用を積極的には求められていないはずの理系の外国人研究者が日本語を伴う実践をどのように経験してきたのかを知ることを目的とする。そこで、本研究では欧州で生まれ育ち、英語による研究留学を果たし、現在日本で研究職を得て働くAさんの協力をえた。Aさんの経験を理解するため、日本語との関わりを中心とした経験を聞き取る非構造化インタビューを実施した。Aさんは参加義務のある諸々の業務や教育研究活動において、日本語力不足による困難があった経験を語った。Aさんは自身の能力を超えた日本語で進行する実践への参加での疎外感や、日本語を必要とする業務で必然的に生じる他者への援助要請への負担感を語った。Aさんの事例から、「研究は英語で」という言説は機能しておらず、日本における外国人研究者受け入れにおいて、共同体への十全な参加を個人の資質や努力を強いる形で実現させている構造が存在している可能性を指摘する。
著者
手塚 まゆ子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.47-61, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
19

本稿は,日本語文法科目のグループワーク(以下,GW)において,学習者は話し合いをどのように進め,タスク達成にたどり着いているのかを,彼らの発話とふるまいの分析から考察したものである。今回対象とした反転授業クラスでは,従来のクラスよりも学習者主体で発話の機会が増えることはすでに指摘されているが,教室活動がどう学習成果に影響するのか,その相互行為の過程は明らかにされていない。そこで,特にGW 開始後に焦点を当て,学習者が話し合いをどう展開していくのか,どのようなやり方で,彼ら自身が直面する相互行為上の問題を解決していくのかを,会話分析の手法により分析した。その結果,解答を考える,ワークシートに書き込むといった個人的活動から,話し合うという共同的活動へどう移行するかが,GW を円滑に進めていくのに必要な要素だということが窺えた。この知見は,円滑なGW の指導の方法を検討する上で示唆を与えるものである。
著者
金井 勇人
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.16-30, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
15

話し手が「あのレストラン,おいしかったね」と聞き手に言うとき,「レストラン」は両者の共同の経験・文脈において認知された対象である。こうした性質を持つ指示対象を《共同的共有知識》と呼ぶことにする。しかしア系の指示詞は,作文などの《共同的共有知識》が成立しない環境においても用いられる。その場合の《非-共同的共有知識》を指すア系は,学習者にとって習得が難しい。そこで本稿では日本語母語話者の日本語作文を例に,その文法的な性質について分析を行った。その結果,①真の共有知識を指す,②疑似的な共有知識を指す,③対象自体を推論させる,④対象の程度を推論させる,という4つのタイプがあることを見出した。これらは読み手との共感を喚起し,書き手の思い入れを顕示する。続いて上記の分析結果に基づいて,中韓母語話者の日本語作文を例に《非-共同的共有知識》を指すア系の誤用を分析し,日本語教育における扱いについて考察した。
著者
武村 美和
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.129-142, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
22

本稿では,日本語の授受本動詞の持つ特徴である視点制約と方向性に着目し,これらの要因が学習レベル上位群と下位群の中国人日本語学習者の授受本動詞文理解にどのように影響するのかについて絵と文のマッチング課題を用いた実験で検討した。その結果,学習者は視覚呈示されたイラストと授受の方向性が合致しない文は比較的正しく判断できるが,授受動詞文の視点制約に違反した文には誤った判断を行う傾向があり,方向性が合致しているか否かに頼って授受動詞文の正誤判断を行っていることが示された。また,レベルの上昇とともに方向性が合致しない文は正しく判断できるようになるが,視点制約に違反した文を正しく判断することはレベル上位群でも難しいことが分かった。したがって,授受動詞を含む文理解における困難の主要な原因が視点制約にある可能性が示唆された。
著者
山本 真理
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.99-113, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
15

本稿では「~が『~』と言ってくる」という同じ構造をもち,引用句だけが異なる次のような例を扱う。次の例はいずれも「言ってくる」を使用し,引用句のみが異なる文であるが,自然さには違いがある。しかし,「言う」や「(テ)クル」の先行研究からだけではその違いを説明できない。 ○ 先生が「ちょっと手伝ってくれない」と言ってきた。 ? 先生が「富士山は日本で一番高い」と言ってきた。 本稿では,これらの自然さの違いを語用論的観点から分析した。その結果,「言う」が持つ性質の「発語行為を表現することはあっても,発語内行為を示すことはない」こととは異なる性質が「言ってくる」の使用に観察された。本稿ではその性質を「策動性」と呼び,その発話の結果である「聞き手への効果まで意図しているという発話の性質」と定義した。また,「言ってくる」で示される「策動性」は伝達者の表現意図であることについても述べた。
著者
松田 文子 白石 知代
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.86-100, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
9

L2学習者は複合動詞の意味を理解しようとするとき,前項動詞(V1)の意味と後項動詞(V2)の意味を組み合わせて理解する方略(「V1+V2ストラテジー」)を用いる傾向が強いが,それは必ずしもうまくいかないとする指摘(松田,2004)を踏まえ,本稿ではL2学習者の使用する「V1+V2ストラテジー」に働きかけられるような複合動詞の意味記述を試みた。事例として多義動詞「かける」を後項とする複合動詞「V-かける」(V=前項動詞)を取り上げた。「V-かける」は,「壁に絵を立てかける」のようにどこかに何かを斜めに依拠させる用法,「相手に水を浴びせかける」のように覆うようなイメージが強調される用法,また「赤ちゃんに語りかける」のように相手に向けてというニュアンスが強い用法などがあるが,本稿ではすべての「V-かける」の意味に本動詞「かける」の意味が反映していると捉え,それがどのように反映しているかを考察した。
著者
大澤 公一
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.71-85, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
10

大学修学能力試験(CSAT),日本留学試験(改定前EJU),日本語能力試験(改定前JLPT)に出題された非音声領域の既出757項目,および日本語Can-do-statements(CDS)尺度60項目によるモニター試験を韓国内で実施した(N=4,647)。項目反応理論の2母数ロジスティックモデルを適用して3試験に共通する一次元の日本語能力を尺度化した結果,各試験の項目困難度の分布の中央値を基準としてCSAT,JLPT4級,3級,2級,1級,EJUのように難易度の序列が付与された。次にCDSの達成困難度と3試験の難易度との対応付けを一般化部分得点モデルによって行った。その結果,韓国語母語話者においては「話す,聴く」課題より「読む,書く」課題の方が達成困難であると考えられていることが判明した。これに加え,3試験の難易度を質的に解釈するための言語4技能別のCDS達成困難度パラメタが付与された。
著者
ファン サウクエン
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.42-55, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本稿では,グローバリゼーションの浸透とともに進展していく多言語化・多文化化の流れの中で,現代日本社会における日本語学習者の言語使用の一面を紹介し,日本語教育との関連性を考察する。まずポストモダニズムから生まれてきた接触場面の概念を整理したあと,次に積極的な接触場面への参加によって豊かな言語生活,ひいては生活全体の計画を実現しようとする日本語学習者の事例を紹介する。特に彼らの日本での言語生活を支えるのに重要な役割をもつ外国人同士による日本語使用の場面に注目し,そこからポストモダン社会としての日本における日本語教育の意義と可能性を考える。
著者
砂川 有里子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.4-18, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
33
被引用文献数
2

日本語教育でのコーパスの活用は,英語教育に比べると遅れてはいるが,昨今のパソコン性能の向上や大規模コーパスの構築といった動きに伴って,ここ数年で飛躍的に研究が進展し,応用への試みも数多くなされるようになった。本稿ではコーパスとは何かを概観し,コーパスを活用することの意義を日本語学と日本語教育において確認した上で,日本語教育にコーパスを活用した事例について,①シラバス・デザインに役立つ語彙や文型の研究,②学習辞書や参考書に役立つコロケーション研究,③日本語学習者コーパスを利用したレベル判定指標の研究,④コーパスを活用した学習者支援のためのツールや参考書の4つに分けて紹介し日本語教育でのコーパス活用に関する可能性と課題について述べる。
著者
舩橋 瑞貴
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.126-141, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
15

本稿では,注釈挿入における発話構造の有標化を,言語形式以外のリソース(音声特徴,非言語行動,人工物)の使用から考察する。有標化にかかわるリソースとして,ポーズをはじめとする複数の音声特徴,ジェスチャーや姿勢といった非言語行動,スライド等の人工物をみとめ,リソースが互いに関与し有標化がなされる様子をみる。注釈挿入において,リソースの複合的使用,それらが一体となって発話構造の有標化が実現されていることを明らかにし,日本語教育のための文法研究では,言語形式だけを記述の対象とするのではなく,言語形式と言語形式以外のリソースを等価なものとして扱い,総体として分析する視点が必要であることを示す。
著者
関崎 博紀
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.111-125, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
13

本研究では,日本人大学生同士の雑談の中で否定的評価として機能した発話を取り上げ,その言語的な表現方法を分析した。分析は,各発話が,評価の内容(「価値づけ」),評価の対象となる「事柄」,対象を評価する「基準」のいずれに言及したものかという観点から行い,次のことを明らかにした。「価値づけ」の表現方法には,語義として評価の意味を含んだ単語を利用する方法と比喩表現から価値づけを示唆する方法があった。また,「事柄」を表現する方法には,価値づける対象となる事柄を言語化する方法と,その事柄の結果として生じた事態を言語化する方法が見られた。価値づけの基準への言及方法には,モダリティ表現を用いた方法と基準を言語化する方法が見られた。最後に,本研究が日本語教育に示唆することについて考察した。
著者
市瀬 智紀 田所 希衣子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.20-34, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
17

本稿は,学会誌『日本語教育』の特集「エンパワーメントとしての日本語支援」の主旨を踏まえ,東北地方の国際結婚による移住者を中心とする外国出身者に焦点をあてて,3.11東日本大震災から2年について,エンパワーメントの具体的なアクションとしての日本語支援と母語支援の側面から記述した。今回の震災の被害は広範囲にわたったため,都市部に居住する留学生を中心とする短期滞在型の外国人と,農村部や沿岸部に居住する国際結婚配偶者とでは,情報の入手方法や震災後の行動が異なった。また,津波浸水被害や原子力災害を含む複合的な大規模災害であったため,専門的な用語を含んだ情報を提供することや,生活上の基本書類の再発行や「罹災証明書」申請など,生活再建に密着した難解な日本語を支援することに難点があった。地域の日本語教室のネットワークは,災害時のセイフティーネットとしての役割を果たした。母語で被災体験を振り返る機会を提供することは,外国出身者の心のケアにつながった。数か月を経過して,外国出身者の間で,子どもへ母語や母文化を伝えていきたいという意識が芽生え,危機に直面して外国出身者による自発的なネットワークづくりが始まった。今回の震災において,外国出身者は情報弱者や災害弱者であった反面,ボランティア活動に参加し,災害弱者の強力な支援者となった。支援者としての外国出身者は,それが外国出身者であることは意識されず地域の内部にごく自然に受け入れられたが,このことは「エンパワーメント理論」における「既存の社会関係の変容」があったことを示している。
著者
上野 美香
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.1-15, 2013 (Released:2017-03-21)
参考文献数
19

EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者の日本語をめぐる問題は,日本語研修の成果と課題,国家試験に関する調査や分析等を中心に議論が重ねられてきた。一方,受入れ現場や就労場面に焦点を当てた研究は数が限られており,成果が待たれる状況にあると言える。 そこで筆者は,介護現場でフィールドワークを行い,日本人介護職員の視点からインドネシア人候補者の日本語をめぐる諸問題を明らかにすることとした。参与観察とインタビュー調査によって得られたデータを分析した結果,専門用語,リフレーズ,介護場面での日本語運用という側面から日本人介護職員の問題意識が浮き彫りにされた。本稿では,これらの問題についてデータを引用しながら実証的に論じ,受入れ現場からの知見に照らして,候補者を対象とした日本語教育および日本人介護職員への働きかけの方途を探り,課題を提起した。
著者
小宮 千鶴子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.47-62, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究は,高校卒業程度の「経済の基礎的専門語」318語の専門学習における有効性の検討を目的として,経済関係学部の専門基礎科目の教科書3種を資料に,その使用状況を調査した。使用された184語は全体の6割強で,その半数強(異なり)を中学「公民」用語が占めた。「公民」用語は,延べでは全体の8割以上を占め,高校「現代社会」「政治経済」で初出の用語に比べて頻出し,基礎的専門語の中でも優先して学習すべき用語であることが判明した。 「経済の基礎的専門語」を分野別に分けると,経済学用語が6割弱を占め,20以上の専門科目に対応した。専門基礎科目は専門科目群の一部で,資料に使用されるか否かは内容との関連で決まるので,他科目の資料に変えれば,不使用の用語が使用される可能性がある。 それらの結果から,「経済の基礎的専門語」は,経済のさまざまな専門科目に対応し,「公民」用語を中心に使用され,経済分野の専門学習に有効といえる。
著者
山本 富美子 二通 信子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.94-109, 2015 (Released:2017-06-21)
参考文献数
9

人文・社会科学系に多い「資料分析型」論文で,論文筆者が資料をどのように引用・解釈して結論へと導いているのか,論理展開のための解釈構造を分析した。その結果,引用・解釈に関わる文には「A中立的引用文」,「B解釈的引用文」,「C引用解釈的叙述文」,「D解釈文」の4種があり,それぞれ独自の機能を果たしていることが判明した。Aは資料の着目点を中立的立場から引用・提示し,Bは資料を論文筆者の立場から引用して解釈構造の軌道に乗せる。Cは資料との内容的関連性を持たせつつ論文の解釈構造の中で引用叙述し,Dは資料には一定の距離を置いて読み手を論文の解釈構造の中に巻き込み,主張・結論へと導く。論理展開パターンにはDの論点提示からA,B,Cの引用・解釈,Dの論文筆者独自の議論を経て,重要な論理展開要素の認定または内容の小括で締めくくられる。量的特徴からもB,C,Dの効果的指導が求められる。
著者
森山 仁美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.2-14, 2015 (Released:2017-08-26)
参考文献数
36

中国語母語話者を対象に,文脈の中で和語動詞を正確に使用できるかについて検討する。研究課題は(Ⅰ)日本語習熟度によって文脈の中で和語動詞を使用する正確さに違いがあるか,(Ⅱ)「知っている」語であるにも関わらず文脈で和語動詞の産出が正しくできなかった場合,既知語からの検索ができないためか,(Ⅲ)和語動詞産出の過程で,どのような誤用が見られるかである。調査方法として中級レベルの学習者72名を対象に2種類のテストとフォローアップ調査を実施した。調査の結果,(Ⅰ)日本語習熟度が高くなるにつれて文脈の中で和語動詞を正確に使用できる傾向にある,(Ⅱ)和語動詞に関しては理解の知識に比べ産出の知識は遅れて発達する,(Ⅲ)和語動詞産出の過程で(1)母語や意味からの連想による誤り,(2)日本語の漢語を経由した誤り,(3)弱い共起関係による誤り,(4)送り仮名が同じことであることによる誤り,(5)助詞を正しく理解できなかったことによる誤りが見られることが示唆された。
著者
池田 香菜子 長坂 水晶
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.215-229, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
14

本稿では,非母語話者日本語教師を対象にした訪日研修における異文化理解能力育成を目指したプロジェクトワークの実践を報告する。まず,深層文化と異文化理解能力,及び教師の役割に言及した上で,プロジェクトワークに関するこれまでの実践報告を概観する。対象者の言語レベルや先行実践で得られた課題を踏まえ,①協働活動の生まれやすい環境づくり,②文化の観察眼を養う議論の場,③言語的な手当ての3点に重点を置いた段階的アプローチのもと,本実践におけるプロジェクトワークの手順と経過を報告する。アンケート,異文化理解能力に関する自己評価,発表成果物の分析結果から,研修参加者は,授業及びそれに伴う自己の変化を高く評価していることがわかり,発表からは,異文化理解に対する気づきが多く観察された。以上のことから,本実践における段階的アプローチによる活動デザインが有効に機能していたことが示された。
著者
櫻井 直子 奥村 三菜子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.154-169, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
7

Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment Companion Volume with New Descriptors(CEFR-CV)が2018年に欧州評議会から公開された。そこでは,仲介の概念が2001年のCEFRより幅広い観点から示され,取り上げる活動範囲の拡大と,それに沿った新たなグリッドの加筆が行われている。本稿では,まず,CEFR-CVの「仲介(mediation)」に関する先行研究から,仲介が受容・産出・相互行為を結びつけ学習と社会の橋渡しをする活動であることを確認し,次に,CEFR-CVの「仲介」の例示的能力記述文の形態素解析を行いA1~C2の仲介者像を描き出した。最後に,CEFR-CVが示す「仲介」が,日本語教育の実践において,学習段階に応じたアフォーダンスの創出,および,協働的な活動の促進に貢献するものであることを示した。