著者
御舘 久里恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.124-138, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
6

本稿では,初級日本語学習者の教室におけるプライベートスピーチを分析した。プライベートスピーチの機能は,代理応答,目標言語の操作,思考の媒介,選択的注意,モニタリング,コメント,言葉遊びの7 つに分類されたが,機能を特定できないものもあった。出現率が高くなる教室活動の特徴として,言語的難易度が高い,読み書きが必要である,全ての学習者に理解と産出が要求される,教室内が静かすぎないという点が挙げられる。学習者によって,プライベートスピーチをほとんど発しない者,プライベートスピーチで仮説検証や分析を行う者,メタ認知と心理的負担の軽減にプライベートスピーチを使用する者,楽しむために使用する者といった異なりが見られ,プライベートスピーチによって各自のニーズに合わせた学習空間を作り出している様子が明らかになった。また,プライベートスピーチの現れ方と使用言語から,社会的発話との連続性も明らかになった。
著者
松下 達彦 佐藤 尚子 笹尾 洋介 田島 ますみ 橋本 美香
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.139-153, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
33

本研究では「漢字変換テスト」(KCT)を開発し,「日本語を読むための語彙サイズテスト」(VSTRJ-50K)(田島ほか,2015;佐藤ほか,2017)と合わせて日本語L2学生を対象に実施した。日本国内の3大学における日本語L2学生では,中国語L1学生の推定理解語彙量が平均3万語以上なのに対し,非漢字圏出身学生は2万語に満たなかった。二つのテストの相関は高かったが,ラッシュ分析でVSTRJ-50Kの一次元性が低かったためL1グループ別にDIF分析したところ,各グループ内ではモデルへの適合度が増し,L1によって難度の異なる語が多く存在した。特に語種による違いは顕著であった。1語・1漢字あたりの平均学習時間を検証したところ,初級から中上級にかけて短くなっていき,上級から超上級にかけて再び長くなることが明らかになった。L1/L2の語彙力・漢字力を包括的に見たカリキュラム開発が必要である。
著者
市江 愛
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.94-108, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
18

日本語の条件文は従属節末に接続形式が置かれるため,従属節末になって初めて条件文だと分かる。一方で,モシという語句は条件文の成立に関係がなく,あってもなくてもよいが,必ず従属節末の接続形式に先行して置かれ,仮定的な条件文であることを明示する。そのモシの性質に着目し,本研究では日本語の仮説条件文の文処理過程において,モシの有無と位置が影響を与えるのか明らかにすべく,日本語話者と,四つの異なる言語をL1にもつ日本語学習者を対象に,自己ペース読文実験を行った。その結果,日本語話者にはモシの有無と位置で差はないが,日本語学習者はそのL1 に関係なく,モシがあることで文処理が促進され,読み時間を短くし正答率を高くすることが明らかとなった。この結果は,第二言語習得研究における理解過程の解明に貢献するだけでなく,やさしい日本語への応用も考えられ,多文化共生が進む日本社会への有用な知見となり得るだろう。
著者
渡辺 誠治
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.109-123, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
6

日本語には,ヒトやモノの存在を表す動詞として「アル/イル」がある。しかし,「V テイル」を用いてヒトやモノの存在を表す場合も多く見られる。両者の間には使い分けが見られるケースがあるが,使い分けの実態とその規則性にはまだ明確でない点が残されている。 本稿では有情物の存在を表す種々の「V テイル」を俯瞰したうえで,存在動詞「イル」との使い分けが特に問題となる,移動を表す動詞の「V テイル」について考察する。本稿では,用例の分析を通して,存在主体の意図が有情物の存在を表す「V テイル」と「イル」との使い分けに関与していることを明らかにする。同時に,この意図をはじめとする複数の要因が相互に作用しあって有情物の存在を表す「V テイル」と「イル」の間の選択がなされていることを示す。
著者
衣川 隆生
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.36-50, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
3

本報告では「日本語教育の推進に関する法律」の公布,施行に先行する形で地域日本語教育の体制づくりに取り組んできた豊田市の事例を紹介する。豊田市は最低限の日本語能力を習得するための日本語教育の機会を提供することと,わが国に関する基礎的知識を身につけるための導入教育を行うことが地方公共団体の責務であるという方針を定め,その方針に基づいて豊田市国際化推進計画を策定し,その計画に沿って「とよた日本語学習支援システム」の構築,運営,「導入教育」の仕組みづくりに取り組んできた。報告の最後では,地域日本語教育の構築,運営に際しては,地域の状況を把握するための調査及び理念を具体化するための持続的な対話が重要であることを提言する。
著者
櫻井 直子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.51-65, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
19

ヨーロッパでは,各国がその国の言語教育政策に沿って日本語教育を実践している。したがって,ヨーロッパにおいて日本語教育がこれまでに構築してきたことを整理するには,ヨーロッパ各国をつなぐ横軸となる視点が必要である。そこで本稿では,2001 年にヨーロッパ評議会が公開したCommon European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment(以降,CEFR)を横軸に据える。まず,横軸となるCEFRの理念と言語教育観を概括する。次に,ヨーロッパにおける日本語教育ではどのようにCEFR が受容され,日本語教育の実践に参照されることで浸透していったのかを,公的機関の動向と日本語教師の実践からまとめる。最後に,CEFR の浸透が日本語教育にもたらした意義と,今後の日本語教育へ示唆する点を2020 年に出版されたCEFR 補遺版も絡め考察する。
著者
砂川 裕一
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.4-20, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
9

本稿においては,日本語教育の輪郭を再構築するために,「外延と内包」図式に仮託して従来の視野を拡張することを試みる。まず「日本語教育の輪郭」について既存の外延的表象を拡充しつつ「再構築」のための手掛かりを求めたいと思う(第2章)。次いで,「日本語教育」の「内包的規定性」の一端を構成すると想定される「言語習得」の内的動態についても多少解析的な視軸を導入して既存の表象を再措定することを試みる(第3章)。その論脈の途次において,「日本語教育学」の輪郭についても,また本特集ワーキンググループから求められている学会の理念や将来像についても,従来とは多少異なった示唆が得られればと考える。
著者
佐々木 倫子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.21-35, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
19

本稿は国内の学生・一般成人に対する日本語教育の実践とその研究を採りあげる。はじめに本稿の対象を明確化し,第2章では国内の日本語教育の現状と課題を探るため,ある初級授業例を採りあげる。そして,教師の専門性,組織・機関と目を広げ,現状から(1)データに基づいた,担当教師による自己評価・実践研究,(2)第三者による授業評価,(3)教師の専門性の確立,(4)組織・機関の自己評価能力という4つの課題を挙げる。第3章では,1960 年代から2020 年までの実践と研究の変遷を追う。社会の変化に連動する教育実践と同時期の研究の変遷を踏まえた上で,第4章では今後の教育実践と研究を考える。評価システムが機能する教育実践,ICT を織り込んだ教育実践,ICT を活用した教育研究,が今後の展開として考えられる。
著者
世良 時子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.92-100, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
15

本研究は,タ形の連体節に注目し,母語話者の持つ文レベルの文法的予測を明らかにしようとするものである。日本語母語話者64名を対象に,主名詞が連体節・後続する主節ともにガ格であるタ形の連体節を「連体節+主名詞+ハ/ガ」の形で提示し,その後続部分を完成させるという調査を行った。その結果,タ形の連体節から予測される後続部分には,述語の種類に共通性があり,連体節が状態性の場合,後続部分にはその「変化」を表す内容,連体節が動作性の場合,後続部分には「次の動作」を表す内容が予測されることが明らかになった。これらについて,BCCWJの用例で検討したところ,状態性述語について同様の傾向が見られた。 連体節は,中級以降では扱いが少ないとされるが,本稿の調査結果から,連体節の形式や意味に注目し学習することは,学習者の文理解・産出能力の向上に資する可能性があると考える。
著者
西川 朋美 青木 由香
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.47-61, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
26

本稿では,日本生まれ・育ちで日本語を第二言語とする (JSL) 小学4~6年生 (n=122),及び同学年の日本語モノリンガル (Mono)(n=427) を対象に,格助詞「が」「を」「に」「で」の産出をイラスト付の記述式テストを用いて調べた。テストは,各格助詞の複数の用法や語順交替アイテムなどが含まれ,計73アイテムである。分散分析の結果,合計点において,JSLとMonoの間に差が見られた。また,合計点が最下層に位置づけられる子どもの割合は,JSLはMonoの2~5倍であった。詳細に目を向けると,JSLとMonoの得点差が顕著に見られるのは,名詞がいずれも有情物の場合の主格「が」と対格「を」・与格「に」の語順交替のアイテム群であった。これらのアイテムは,JSL・Mono両方にとって難易度が上がるが,特にJSLのつまずきが大きいことが分かった。
著者
栁田 直美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.17-30, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
14

外国人住民の急増を背景に,非母語話者に情報をわかりやすく伝えるための言語的調整である「やさしい日本語」についてさまざまな提案が行われている。しかし,それらの調整は情報を受け取る側の非母語話者からどのように評価されているのだろうか。本稿では,母語話者の〈説明〉に対する非母語話者の評価結果を検証し,評価に影響を与える観点と言語行動について分析した。分析の結果,「積極的な参加態度」「落ち着いた態度」「相手に合わせた適切な説明」が評価に影響を与えることが明らかになった。さらに,非母語話者からの評価が高い母語話者と低い母語話者を比較したところ,会話への積極的なかかわりや相手の理解への配慮を示す言語行動,そして対等な関係性を前提としたふるまいが評価に影響を与えていることが示唆された。このことから〈説明〉場面においては母語話者の非母語話者の理解度に配慮した対応が高く評価されるといえよう。
著者
根本 愛子 ボイクマン 総子 松下 達彦
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.1-16, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
19

本研究では,ボイクマンほか (2020) で開発されたプレースメントテストのための日本語スピーキングテストSTAR (Speaking Test of Active Reaction) の検証のため,非日本語教師30名による状況対応タスクのレベル判定実験を行った。その判定結果の分析から,STARは中級レベルの弁別力が不足している可能性があるものの,プレースメントテストとしての有用性 (信頼性,構成概念妥当性,実用性) は高いといえることがわかった。また,判定時のコメントを分析したところ,日本語の自然さ・流暢さは上級の特徴となること,レベル判定の観点は内容・テキストの型・対人配慮では中級前期と中級中期,文法は中級中期と中級後期を境にそれぞれ異なることがわかった。さらに,中級前期は初級レベルと比較され肯定的なコメントが多い一方,中級中期は上級レベルと比較され否定的なコメントが多くなっていることも明らかになった。
著者
陳 夢夏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.110-117, 2020-08-25 (Released:2022-08-26)
参考文献数
11

本稿では,中国語話者の読解活動における二字漢字語の理解にあたり,「漢字語のタイプ」と「ストラテジーの使用」の影響を総合的に検討した。口頭訳テストとフォローアップインタビューを用いて未習・既習別に調査した結果,以下のことが明らかとなった。(1) 未習の正答率は「SJO>OJO>NJO」であり,既習の正答率は「SJO>OJO≒NJO」である。(2) ストラテジーの内容は「語彙」「文脈」「統合」があり,ストラテジーの機能は「確認」「検証」「推測」がある。(3) 未習の場合のストラテジーの使用状況は漢字語のタイプと関係ないが,既習のほうは漢字語のタイプによって異なる。(4) 未習の場合の成否にも,既習の場合の成否にも,「SJO類,OJO類,NJO類」の影響が見られ,既習の場合はストラテジーの機能の影響も見られた。
著者
淺津 嘉之
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.95-109, 2020-08-25 (Released:2022-08-26)
参考文献数
10

目的は,日本語読解授業を対象に,なにを読むかは学習者が決め,教師は読みの過程を支援するという授業デザインのもと,そこでの学びを示し,読解授業での教師役割を再考することである。研究課題は (1) どのような学びが起こるのか (2) その学びにはなにが影響しているのかである。実践では学びを対話による意味の再構成であると捉え,3つの対話を促す活動を組み込んだ。学習者の記述分析の結果,学びの過程と結果に概念が浮かび上がり,本授業での学びの特徴を示した。次に,これら概念は対話を通して生まれたこと,中には自分で本を選んだからこそ生まれたものがあること,学びにはシート類での問いかけと他者との対話が影響していたことを考察し,他者との対話が授業に否定的な学習者を惹きつけて学びにつなげたと考えた。主張は,読み物の決定権を持つことで学習者が本と向き合い自己変革をする可能性と,本を読む過程での教師からの問いかけの重要性である。
著者
東寺 祐亮
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.79-94, 2020-08-25 (Released:2022-08-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1

「LTD話し合い学習法 (Learning Through Discussion)」は読解の予習と小グループでのミーティングで構成された学習法である。これまで,日本語母語話者を中心に実施されているが,日本語学習者を対象にした場合の影響は明らかでない。そこで,本研究は,日本語学習者を対象にLTDを実施した場合,ディスカッション・スキルや協同作業認識にどのような影響を与えるかを調査した。その結果,ディスカッション・スキルについては,「場の進行と対処」,「積極的関与と自己主張」,「雰囲気作り」に肯定的な影響を与えることが明らかになった。また,協同作業認識については,「個人志向」,「互恵懸念」に肯定的な影響を与えることが明らかになった。一方,本実践では,日本語学習者を対象にLTDを実施する際の課題も見られた。本実践で生じた課題をもとに,LTDの手順,ディスカッションの使用言語,課題文選定に分けて整理する。
著者
三枝 令子 丸山 岳彦 松下 達彦 品川 なぎさ 稲田 朋晃 山元 一晃 石川 和信 小林 元 遠藤 織枝 庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.33-47, 2020-08-25 (Released:2022-08-26)
参考文献数
16

執筆者らは,日本で医学教育を受け,最終的に日本の医師国家試験合格を目指す外国人学習者に効果的な支援を行うことを目的として,医学用語の調査研究並びに教材作成を進めている。一口に医学用語といっても,その範囲は多岐にわたるため,医学用語の効率的な学習を目指すならば,まず医学用語の網羅的な収集と体系的な分類が必要になる。そこで本研究では,医学用語の体系的な語彙リストを作成する準備段階として,医学書のテキストから医学書コーパスを構築し,27種類の診療分野に分けて,そこに含まれる語を収集・分類した。その上で,高頻度の助詞,接辞,動詞や,領域特徴度の高い名詞について,医学テキスト固有の特徴という観点から分析を行った。その結果,接辞や動詞において医学分野特有の語がみられた。また,名詞に関しては診療分野ごとに頻出語が異なることから,診療分野別に語彙リストを構築することが重要であることがわかった。
著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.77-91, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
15

本稿は上級レベルの留学生を対象とする近代文語文講読の授業の実践報告である。この授業では,福沢諭吉と中江兆民の文章を原文で読んでいる。対象者は上級レベルの留学生だが,受講者に文語文法の知識は要求しない。授業の目的は,近代日本の思想家の思想を原文で読めるようになることと,近代語と現代語の違いを知ることを通して日本語の理解を深めることである。前者については,福沢の文章では基本的人権 (福沢の「権利通義」) について,中江の文章では為政者 (政治家,官僚) に求められる資質について考え,それを現在の日本社会と比較している。後者については,対照言語学的視点から近代語と現代語を比較し,近代文語文は形態素レベルで1対1に対応させることで現代語に訳せることを確認し,それを通して受講者の現代語の知識を深めている。
著者
広瀬 和佳子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.1-15, 2019-12-25 (Released:2021-12-26)
参考文献数
14

本稿は,ピア・レスポンス (以下,PR) 実践研究の文献レビューを通して,教師のPR実践に対する評価観を分析した。CiNiiでの検索結果から,論文著者が教師としてPR実践を考察している論文を抽出し,68編 (異なり著者数44) を分析対象とした。PRはプロセス重視と協働の理念の下,様々な教育機関で実践されるようになったが,実践研究論文の多くは依然として作文の変化や自己推敲力の向上など認知的側面に及ぼす効果を分析していた。PRのプロセスや協働の意義など社会的側面に焦点をあてた研究のうち,実践者の教育観が明確であり,書くことの意欲や表現する喜び,学習者同士の関係構築を第一に評価し,相互行為そのものに価値をおいている論文は3編だった。実践者によってPRの意義づけは大きく異なる。実践者は何を目的にどのようなPRを実践したのか,自身の教育観を具体的な実践の文脈において自覚的に記述することが今後のPR実践研究に求められる。
著者
伊藤 秀明
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.173, pp.69-76, 2019-08-25 (Released:2021-08-28)
参考文献数
5

2001年に欧州評議会が発表したCommon European Framework of Reference for Languagesは近年,様々な外国語教育で受け入れられてきているが,これらの取り組みの多くは言語参照レベルに注目が集まっており,それぞれの言語参照レベルにおいてどのような能力が重視されているのかについては理解が深められていない。そこで本稿では,視覚的な受容的活動でどのような能力が重視されているかを明らかにするために,視覚的な受容的活動のCan-doに書かれているテキストを計量的に分析し,各レベルの語の共起関係から考察をおこなった。その結果,A1レベルからB1レベルまではテキストの種類とその読み方が重視されているが,B2レベルからはテキストの内容をどの程度理解しているのか,ということが重視されていることが明らかとなった。
著者
峯 布由紀
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.173, pp.61-68, 2019-08-25 (Released:2021-08-28)
参考文献数
13

本稿では,学習者の発話における文脈の時間の流れを表すテイ (ル) の習得に注目し、日本語の発達段階におけるその位置づけを検証する。峯 (2015) は,文脈の時間の流れを表すテイ (ル) は複文処理が可能なレベルで使用できるようになる形式であるとし,かなり熟達した学習者にもその誤用が見られると報告している。しかし,峯 (2015) では誤用が分析されており,学習者が使用するようになる時期についてはデータで確認されていない。 そこで,本研究では,学習者コーパスに所収されているストーリーテリングの発話を分析し,文脈の時間の流れを表すテイ (ル) と,複文処理を必要とする接続辞の使用の分布分析を行った。Implicational Scalingを用いて検定を行ったところ,この二つの使用に含意的な階層は認められなかった。これは文脈の時間の流れを表すテイ (ル) は複文処理が可能なレベルで使用可能となる項目であることを支持する結果と考えられる。