著者
角 一典
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編 (ISSN:13442562)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.47-62, 2021-02

本稿では,河川行政において激動の時代であった1990年代に河川局長を務めた近藤徹および青山俊樹の二氏の言説を手掛かりにして,河川官僚の考え・思想を読み解こうと試みた。以下では,長良川河口堰問題以前の河川行政に対する振り返り,従来の河川行政に欠いていたもの(=これからの河川行政に求められるもの),3つの個別政策(総合治水・利水安全度・スーパー堤防)に対する認識の三点について検討を加えた。そこからは,脱ダム時代に批判の対象となった河川官僚たちが,少なくとも意識の上ではきわめて開明的であり,官僚的な独善を脱して民主的なプロセスを重視していかなければならないという認識を有し,また,環境や生態系を重視することを当然と捉えていたことが明らかとなった。その一方で,治水や利水においては,巨大構造物がその基礎をなすという意識を強く持っていることも垣間見えた。
著者
村田 昌俊 及川 雄一郎 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.79-90, 1994-03-10

従来,わが国の心身障害児の療育は主に彼らの発達をいかに促進し,社会的適応能力を高めるかということに視点がおかれ,健常者にとって好ましい価値感によって彼らを囲いこんでしまう傾向が強かった。しかし,医療・教育・福祉のそれぞれの分野ではその視点を転換し,彼らのライフステージを見すえ,たんに社会適応をめざすのではなく,彼らの生活の質の向上や家族支援に視点をおいた総合リハビリテションシステムを進展させつつある。障害児に対する地域福祉が究極的にめざすものはクオリティ・オブ・ライフであり,「誰もが豊かな生活を追求することができるような社会」を市民レベルで地域の中に作り出して行く営みが重要である。筆者らは障害のあるなしにかかわらず,子供たちの生活が潤いと豊かさを持って活動できるような場面を作りたいと思っている。今回は,その一つの段階として,もっとも遊び環境が疎外されやすい障害児とその家族についての遊び・遊び場についての実態調査を行なった。今回の調査では(1)「子供の日常生活や生活環境」,(2)「子供の遊びや余暇活動」,(3)「遊び環境」,(4)「親の余暇活動」,(5)「将来の生活に目をむけた遊び・遊び環境」という5つの観点から調査を行った。その結果を参考にし,今後の具体的な基盤整備に向けた実践的な課題を見つけて行きたいと思う。
著者
明神 もと子
出版者
北海道教育大学
雑誌
釧路論集 : 北海道教育大学釧路分校研究報告 (ISSN:02878216)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.143-150, 2005-10-30

幼児期から学童期にかけての子どものごっこ遊びには、後の創造的想像力の芽生えが見られる。本稿では、文献や観察資料によって、ごっこ遊びの具体的な例を分析することによって、想像力の生成と発達について、考察することを目的とする。はじめに、年齢発達に沿って、変化していくごっこ遊びの姿を描写して、幼児期から学童期の想像力の特徴をとらえた。乳児期の大人と子どもの情動的交流によって形成された、対人関係能力を基盤にしながらも、1〜2歳ごろは事物の道具的操作が中心の遊びである。これは大人からの延滞模倣によるものであり、再生的想像力が主に働いている。3歳前後の遊びは事物や人の他のものへの見たてが活発になり、テーマとストーリーのある遊びに発達する。役割を演じることに、ルールがある。3歳からの就学前期はごっこ遊びの全盛期といえる。ことばとイメージを他者と共有できるようになり、ごっこ遊びは今・ここを越える想像力に支えられ、創造性を帯びてくる。つぎに、ごっこ遊びの中で、発達する想像力の性質について考察した。ごっこ遊びは子どもの現実の生活に起源をもっている。子どもは虚構の世界で行為しているが、感情は現実的に体験されている。一方、子どもは虚構すなわちごっこと現実を混同することはなく、ことば使いなどで、区別する工夫が見られる。想像力を働かせ、発達させるごっこ遊びは子どもの精神発達において、重要な役割を果たしている。近年、子どもがごっこ遊びをしなくなったとか、5歳くらいでやめてしまうなどといわれている。科学技術の粋を集めた精巧な玩具や仮想現実を作り出すゲーム遊びの普及によって、子どもたちの遊びに対する動機が変化したと考えられ、想像力の発達に対する影響が懸念される。
著者
秋田 和子 芝木 美沙子 笹嶋 由美
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.31-46, 2006-02
被引用文献数
1
著者
齋藤 幸子 小室 直人 谷地元 直樹 辻栄 周平 植田 優基
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育臨床研究編 (ISSN:27583902)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1・2, pp.143-156, 2023-01

算数・数学科における公式暗記に頼った指導法や,算数におけるかけ算の順序の指導などに対し,近年,多くの問題点が指摘されている。このような問題に数学的・論理的に対処できる教員を養成するにあたり,大学教職課程での算数・数学の“教科内容科目”の責任は重大である。北海道教育大学の「教科に関する専門的事項(小学校)」(教科内容科目)『初等算数』において,旭川校では,令和3年度から数学教育専攻の複数の教員によるオムニバス形式の授業を開始した。この小論では,旭川校令和3年度『初等算数』における授業改善およびその根拠・ねらいについて論じる。学生達が将来小学校で算数を指導するための基礎となる題材を厳選しつつ教科専門教員の強みを活かすような授業内容の工夫について述べ,今後の課題も提示する。特に,6章では,学習指導要領において重視されている「データの活用」と「確率・統計」について専門教員の見解を述べる。
著者
小林 真二
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、亀井勝一郎が最も函館らしい作家として名を挙げた3名の作家、長谷川海太郎(筆名・牧逸馬、谷譲次、林不忘)、久生十蘭、水谷準の文学の背景をなす大正期函館モダニズム文化について調査・研究を行い、長谷川海太郎が函館中学校時代の先輩グループ、宣教師、家庭教師などとの文化的ネットワークの中で文学・思想・渡米意志などを育んだことや、阿部回漕店に生まれた久生十蘭が海運都市・函館を背景に「船」「ロシア」「海難」などのモチーフを文学に活かしたこと、そうした二人の先輩に導かれて水谷準が文学者として成熟していったことなどを明らかにすると共に、従来埋もれてきた彼等の新資料を多数発見することができた。
著者
有田 素子
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.31-34, 1985-03-15

北海道留萌市にあるかもめ幼稚園は,昭和32年開園と同時に障害児を受け入れ,北海道における障害児保育の草分け的存在といわれる。漁業中心のしかも閉鎖的ともいえるこの地に,なぜ早い時期から障害児保育が生まれ存続してきたのだろうか。27年間にもおよぶ実践を通し,その成立過程・保育内容の変遷をたどることによってこれから障害児保育を手掛けようとする地域,あるいはその保育に携わっている人達に対して重要な示唆を与え得ると考え,延べ10数回にわたる訪問面接調査および障害児保育実践の参加観察を行った。かもめ幼稚園の障害児受け入れは意図的かつ組織的なものではなく,偶然障害児が入園したことがきっかけであった。当初の保育はオープン方式で,園児40名教師4名と人的条件には恵まれていたが,障害児の指導方法もわからぬままのスタートで,毎日がその子中心の保育のようなものであった。翌年からは増設に伴い横割りのクラス編成となり,障害児は各クラスに在籍,一斉保育に支障があると思われる場合には個別指導を加味した。昭和52年「つくし学級」という特別な学級を設置し,障害児をそこに在籍させ個別指導中心の特殊学級的役割を持たせたが,いくつかの問題点があり1年後には廃止した。経過の反省の中から障害児を再び各クラスに在籍させ,つくしの部屋は個別指導の場として,また自由遊び時は誰もが入って道べる部屋として利用されている。現在,障害児は自由遊び時も一斉保育時も原則として健常児とともに過ごしており,子どものその日の状態によって自由遊び時は集団に参加させても一斉保育時には個別指導をするなど,臨機応変に対応している。障害児の入るクラスは複担制をとっており,教師達は努力と協力を惜しまず,より適した指導方法を求めて日々研さんを積んでいる。この障害児保育を支える地域的な諸条件も数多くあり,それらについても考察をした。
著者
鹿内 信善
出版者
北海道教育大学
雑誌
年報いわみざわ : 初等教育・教師教育研究 (ISSN:02859300)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.73-88, 1991-03-25

アイヌ文学は、すべて口承文学であり、物語の展開がわかりやすいものが多い。それを教材とした場合,よほど意外性のある方向づけをしない限り、面白い授業になりにくい。そこで、本研究では、アイヌ文学を教材としながらも、トナカイから始まりサンタクロースで終わる授業を行ってみた。その授業記録を参照しながら、アイヌ文学の教材化可能性について検討する。今回は、アイヌ文学が備えている環境教育教材としての側面をとくに強調してみた。
著者
遠藤 芳信
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

陸軍の動員計画策定との関係で、補給・兵站体制構築の特質を3点にわたって解明した。第一に、1894年兵站勤務令に関して、1891年戦時編制草案及び1894年戦時大本営編制等との関係を中心にして解明した。第二に、補給・兵站体制の財政的基盤を分析し、特に日清戦争期の諸予算編成と会計経理の体制構築を解明した。第三に、日清戦争開始期の第五師団の動員と混成旅団の編成を解明し、さらに朝鮮国内における混成旅団の兵站体制構築開始の特質を解明した。