著者
明神 勲
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.本研究は、教職追放政策の変化が教育改革の実施過程に及ぼした影響の分析及び「逆コース論」の理論的検討を通じて、通説とされてきた「逆コース」論の再検証を目的としたものである。2.「逆コース」論の理論的検討をつうじて、この論が教育政策の転換を論ずる際に、その転換が「何から何への変化・転換なのか」、「その変化・転換の性格はどのようなものか」について説得的な論拠を示し得ていないと問題点を明らかにした。3.教育改革の実施過程に及ぼした影響を明らかにするために、ケース・スタディとして東京を対象に分析をおこなった。1948年から1950年の間の東京軍政部及び関東民事部月例活動報告書をもとに教育改革の実施過程の分析を行い、この間の改革に変化・転換があったかどうかを検討した。その結果、変化は一部(教員組合や共産主義に対する政策)に見られたが、基本的には「教育民主化」という政策で一貫していたことを明らかにした。4.以上の検討により、(1)通説である教育「逆コース」論とそれに基づき構築された戦後教育史像には大きな問題点があり、批判的な再検討が必要なこと、(2)そのために、理論的検討と同時に、GHQレベルはWeekly Reportの分析、地方レベルではさらに多数の府県の軍政部民事部が作成した月例活動報告書の分析による実証的研究が必要であること、を提起した。
著者
角 一典
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編 (ISSN:13442562)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.33-45, 2020-08

本稿は,ジブリ映画,主に宮崎作品における,象徴としての四元素(風火水地)の意味について考察を加えたものである。本稿では,宮崎作品においては,風は自由・孤独,火は産業文明・近代国家・科学技術・武器等,水は,女性原理・自由奔放さ,地は生命を支える基礎でありながら,強度に汚染されてむしろ生命を脅かす存在と化しているものとして,象徴的に表現されていることを確認した。また,四元素は,風・水・地が相互に密接に関わりあいながら均衡を保っているが,唯一火だけがこれらに敵対する関係となっていることをみた。
著者
大坂 克之
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.161-171, 1999-02-10

平成10年1月9日,今年の最初のレッスンの日に,お母さんが自らワープロで作成した生育歴とコメントを持ってきてくれた。既に筆者は聞き取り調査をまとめていたのであるが,それを読んで感激した。大変な作業だったことは間違いない。お父さんからの手紙もそうであるが,子どもたちへの想いの強さや夫婦観・家族観に感銘を受けている。この御家族そして子どもにミュージック・ムーブメントを通して何をサポートできるのだろうか,日々前向きに悩んできた一年間の研究報告である。能力の開発や伸長,改善は大変重要なことであるが,子どもたちや家族の居場所と居心地の良さの確保と拡大がむしろ大切なことではないか,と考えるようになった昨今である。それに対してミュージック・ムーブメントで何を試し得るかを求めての奮闘中の研究報告の一部である。
著者
三上 修 森本 元 上野 裕介
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本の都市に見られる、電柱、およびそれに架かっている電線は、都市の主要な構成要素の一つとなっている。この膨大にある電柱・電線を、鳥類が巧みに利用している。たとえば、さえずる場所、餌を探す場所、巣を作る場などどしてである。都市に生息する鳥類は、人間がここ100年程で作り出した電柱電線を、足場として利用しているといえる。これは、森林において、鳥類が樹木を用いているのと同じと考えることができるかもしれない。鳥類が電柱・電線を使うことは、ヒトが都市生態系の中でエコシステム・エンジニアとして、鳥類に生息場所を提供する形の一つといえる。その結果、電柱・電線の存在は、都市の鳥類多様性を高めている可能性がある。一方で、鳥類が電柱・電線を使うことで、停電などの電気事故も生じ、人間社会に悪影響を及ぼしている。そこで、本研究では、電柱・電線の存在が、都市の生物多様性の指標である鳥類多様性にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とする。さらに、鳥類が電柱・電線を利用することで生じる悪影響についても評価する。その2つから、電柱・電線の存在と鳥類の関係を総合的に明らかにし、その関係のあり方を考察すること目的とする。昨年度は函館市内および千葉市内において基本的な調査をしたが、それを継続しより詳しいデータを集めた。また、それを基にして、全国的な調査の実施を始めた。電柱を含めた人工構造物の利用に関する論文が受理された。
著者
益子 洋人
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.125-132, 2020-08

本研究の目的は,援助要請における利益・コストの予期がその意図におよぼす影響を,過剰適応傾向の調整効果を確認するという観点から再検討することであった。大学生179名の回答を分析の対象として,「援助要請意図」の3因子を目的変数,援助要請における利益・コストの予期と過剰適応傾向の各因子を説明変数とする階層的重回帰分析を行った。その結果,「心理・対人関係に関する悩み」や「学業の悩み」を相談しようとする意図には「ポジティブな結果」の予期のみが有意な関連を示すことが示された。また,「健康の悩み」を相談しようとする意図には「ポジティブな結果」の予期だけではなく,「友人への他者志向性」と「友人への自己抑制」の交互作用項が有意な関連を示すことが示された。援助要請の利益・コストの予期と援助要請意図の間の関連の再現性が示され,相談相手と文脈を共有できるかどうかが明白ではない場面では,過剰適応傾向が一定の調整効果を持つ可能性が示唆された。
著者
村上 健太郎
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

人為的硬質構造物(ハードスケープ;例えば壁、石垣、建造物間隙)はもともと崖や露岩地あるいは林床にすんでいた生物の代替生育地になりうるが、日本ではそのような視点の研究は少ない。そこで、ハードスケープが動植物の高い種多様性を保持し稀少種の生育場所として機能しうるかについて野外調査(歴史的遺産の古いハードスケープやどこにでもある市街地のハードスケープなどを対象とした生物調査)と文献調査(ハードスケープに生物が生育するという事例の整理)から検討し、ハードスケープを用いた緑化や、都市緑地保全あるいは人工構造物保全に役立つ知見を得るための研究を行う。特に石垣等に生育するシダ植物に焦点を当てて研究する。