著者
山下 雅永
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.47-52, 1989-03-11

自閉症の子どもに接触を求めようと笑顔で近寄っていく。そうすると,たいていはめんどうな様子で斥けられることがほとんどである。自閉児が時おり見せる常同行動,自症行為,機械的なことばのくり返しといったものの中には,私たちが理解できるしるしの何一つもないように思われる。自閉児の世界は,私たちの世界とは全く異なったところに存在するかのようである。 私はT君という一人の自閉症の子どもと関わりをもった。このT君と私の世界が近づき重なり合うことがあるのか,その接点はどこに見い出されるのか。このことがまず何よりも重要な課題であった。このT君との共有点を見い出すべく試行錯誤をくり返したが,関わりのきっかけは身体を介しての遊びによって得られ,その後は身体を通じての活動を多く試み,二人の共有体験を深めることに努めた。この共有体験の深まりの中で,二人の間で徐々にサインが育っていくに至り,このことがまた,新たな関わりの道を開くきっかけとなった。
著者
氷見山 幸夫 春山 成子 土居 晴洋 木本 浩一 元木 靖 季 増民 季 増民
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

アジアにおける持続可能な土地利用の形成に向け、日本、中国、インド、極東ロシア、フィリピン、タイ、インドネシア、ミャンマーで広域の土地利用変化データファイル(オリジナル電子地図、多数の現地写真等)を作成し、土地利用の現況と変化及び関連する諸問題を明らかにした。その成果はSLUAS英文成果報告他多くの雑誌・文献等で公刊した。また国際地理学連合、日本学術会議、日本地球惑星科学連合などと連携してアジア各地と国内で多くのシンポジウム等を主催・共催・後援し、研究成果を発信し、持続可能な土地利用に関する理解の向上に貢献した。東日本大震災発災後は土地利用持続可能性の観点から深く関わり、学術会議提言に寄与した。
著者
坂巻 正美
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

この創作研究は、北方先住民文化の研究調査をもとに進めた。その研究方法及び成果は、今も狩猟採集の知識を継承して生きる人々を訪ね、地域の歴史や取材先で出会う出来事を造形材料とし、自身の内的経験と重ね、インスタレーションとして表現する作品である。彫刻作品「けはいをきくこと・・・北方圏における森の思想」シリーズの創作研究を通じ、彫刻概念のひとつの拡張として現代社会に先住民の叡智を活用する方法をさぐることができた。
著者
早瀬 伸子
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.85-92, 1987-03-15

財団法人ふきのとう文庫は,障害をもつ子どもたちが本の楽しさと出会えるようにと願い,日本で最初の障害をもつ子どもも利用できる私立児童図書館を開設し,絵本を製作し,貸し出しをしているユニークなボランティア団体である。最初に,その設立理念と歴史的経過,活動内容について記述し,今後の発展のための課題をいくつか示した。次に,活動の一つである障害児のための布の絵本の使用実態を調査し,さらに,布の絵本を手指運動機能の発達段階と認知思考機能の発達段階に対応させて分類し,障害児の遊具としての有効性について考察した。障害児の遊具としての布の絵本は,その色や形が,軽度の精神発達遅滞児の興味・関心を誘発し,マジックテープやスナップ・ボタンなどの操作により手指運動機能を向上させ,色・形・数字の認知弁別能力を育成する。
著者
三上 敦史
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

1950年代までの予備校は、大学入試に備えた授業と、出版社・学生団体が作成した模擬試験を提供するだけの場であった。しかし、1960年代になると、情報化の重要性に気がつき着手する予備校が出始める。中でも先駆的だったのが名古屋の河合塾であり、高等学校との情報交換を密にし、従来はテリトリーの外であった東京に校舎を設置して、中央の受験情報を独自に収集する体制を取る。それはやがて全国の高等学校・予備校の進路指導に影響を与える「全国型予備校」への第一歩となった。
著者
石井 智子
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.63-72, 1994-03-10

Mと共に歩んだ4年間,それはMとの関わりの道であり,自分自身の再発見の道でもあったと言える。Mは高校入学当初から目立つ存在の生徒であった。この生徒に,これから4年間関わろうとは思ってもいなかった。関わりの中で,Mが母と一番正面から向かい合いたいということがみえてきた。Mは担任教師との葛藤のなかで,遅刻・欠席かかさみ,荒んでゆくのを眼の当たりにした。その中で,Mをできるだけありのままに受け入れることができるようになっていったことや,毎日メモでコミニュケーションを行ったことが,Mとの間に信頼の絆をつくる基盤になったと思われる。筆者との関わりを通じて,自分を受け入れる存在に気付いたことで,Mは自立への道を歩みだしたように思われた。
著者
倉賀野 志郎 高嶋 幸男 岡嶋 恒 奥山 洌 玉井 康之 諫山 邦子
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は報告書として、第一分冊としては、『北海道教育大学・釧路校:地域学校教育専攻における地域・学校との連携による学生の主体的・体験的な学習活動を取り入れた実践的カリキュラムの活動記録』として、また第二分冊として、『北海道教育大学・釧路校のへき地教育実習』として整理されている。また、各地域等の学校への普及用にパンフレットも作成している。第一分冊に関しても、学校訪問と地域連携とのかかわりの中で、二年間に実際に実施してきた活動が含まれている。列記すると、へき地実習関係(第二分冊)を除いても、標津町(薫別小中学校、忠類小学校)、中標津(養老牛小学校)、鶴居村(幌呂小学校)、標茶(久著呂小中学校)、釧路市:元・阿寒町(阿寒湖畔小中学校)、音別小学校、浜中(姉別南小学校)の学校に加えて科学の祭典(青少年科学館、遊学館)の実行委員として、通学合宿としては3地域(浜中・標津・本別)がある。また、北海道・自由が丘月寒フリースクールとは長年にわたって継続的に実験学校としての実習を行なってきている。さらには北海道のへき地を理解するためにも、釧路校と連携している沖縄の離島の学校訪問や、海外ではアラスカ、モンゴルにも赴いてきている。これらは4年間のカリキュラム構造と特質に基づいて配置してきたものである。各々について年次進行と合わせると下記のようになる。活動内容は、年次にまたがるものも多いが、主なる学年という形で表現されている。1年次では、地域にかかわっては薫別、忠類、養老牛、幌呂、久著呂などの小学校等、また科学の祭典の参画。2年次では、地域にかかわっては幌呂、音別、姉別南、通学合宿では通学合宿(標津・本別)3年次では、通学合宿(標津・本別)に加えて、へき地実習(薫別、忠類、古多糠、植別、飛仁帯、久著呂、沼幌、幌呂の小学校等)4年次・大学院では、幌呂、久著呂、忠類、幌呂、阿寒湖畔中で研究授業を実施。また学年横断としては、北海道・自由が丘月寒フリースクールの実験学校実習、沖縄離島学校訪問、アラスカ、モンゴルでの学校訪問等。
著者
長谷川 康弘 桝澤 美紀 桝澤 良和 小野寺 由香 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.183-194, 1999-02-10
被引用文献数
2

本報告は,旭川市にある障害者地域共同作業所において,通所者の作業の一環として取り入れている乗馬活動を通して障害者は何を得たかを述べたものである。障害者の乗馬は,馬,障害を持つ乗り手,そして両者を理解する介助者の三者が揃って活動されるものである。特に障害児者を乗せる馬からは生きものと運動していることを馬の表情や動きから感じ取ることができ,馬にまたがる障害児者からは表情が生き生きとした笑顔に変わったり鼻歌が出たりといった心理的な変化を観察できた。また動物が苦手な障害児者が馬には触れることができたり,馬がきっかけで他の動物に興味を持ったりしている。そして馬の存在が障害のあるなしにかかわらずあらゆる人の交流のきっかけも作っている。
著者
真鍋 龍司 寺尾 孝士 大場 公孝
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.13-20, 2002-02-05

地域で家族との暮らしが困難になった自閉症の子ども達と関わり20年が過ぎた。居住施設で子ども達の学習や生活を支えながら,将来,この子ども達が地域で充実した暮らしをしていくことができるのであろうか,その実現のためにはどういった条件整備をしていかなければならないのか,多くの課題を抱えながら,施設スタッフや家族の要望を結集させ平成13年4月,地域で暮らす自閉症の方ご本人と家族を支援する専門機関として自閉症センターあおいそら(自主事業)を設立した。自閉症の人たちへの支援の方法は,TEACCHプログラムに多くを学び,ノースカロライナ州に9カ所あるTEACCHセンターをモデルとして,コンサルテーション(相談)業務を中心に,地域の保育園,幼稚園,学校(養護・特殊・普通)を訪問し,子ども達の理解の力や自閉症の特徴にあわせて,よりわかりやすい環境を提供するためのアイデアを提案する。自閉症児者に関わる多くの人達が障害についての理解をより高めあいながら,家族や保育士,教師,自閉症の専門家が中心となりネットワークを築き,生涯にわたる一貫した支援システムの構築を目指す,あおいそらの活動をここに紹介する。