著者
柴垣 広太郎 三代 剛 川島 耕作 石村 典久 長瀬 真実子 荒木 亜寿香 石川 典由 丸山 理留敬 石原 俊治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1043-1050, 2020-07-25

要旨●H. pylori未感染者のラズベリー様腺窩上皮型胃癌32例39病変の臨床病理学的特徴を検討し,8病変の全ゲノム解析を行った.年齢は中央値57(38〜78)歳,男女比は21:11,腫瘍は中央値3(1〜6)mm,すべてUM領域に発生し,6例は多発癌であった.白色光像ではいわゆるラズベリー様外観を呈し,NBI拡大像では不整な乳頭状/脳回様構造を呈した.すべて上皮内病変であったが,Ki-67 labeling indexは中央値62.0(4.4〜96.5)%と高値を示した.腫瘍数(多発vs. 単発)と背景因子の検討では,喫煙(83.3% vs. 34.6%,p<0.05),飲酒(66.6% vs. 30.7%,p=0.12),男性(p=0.059),胃底腺ポリープ併存(100% vs. 57.7%,p=0.059)で多発癌を多く認めた.ゲノム解析ではKLF4遺伝子のDNA結合ドメイン内で共通するSNVsを認め,CNVsは半数以上で染色体1p,9q,17qでの増幅および6qや18qでの欠失を認めた.
著者
田島 亜紀 玉井 一司 山田 麻里
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.525-529, 2004-04-15

後天性梅毒により急性視力障害が起こった2例を経験した。1例は85歳女性で,1週間前からの両眼霧視で受診した。1年前に白内障手術を受け,矯正視力が右0.6,左0.8であったが,受診時には右0.1,左0.2に低下していた。両眼に虹彩炎,網脈絡膜萎縮,黄斑浮腫があった。梅毒血清反応が陽性であり,梅毒性網脈絡膜炎と診断した。駆梅療法を行い,2か月後に視力が右0.7,左1.0に改善した。他の1例は36歳男性で,1週間前からの左眼霧視で受診した。3週間前から両側の手足に皮疹があった。矯正視力は右1.5,左0.5であった。左眼の視神経乳頭が発赤,腫脹し,視神経乳頭炎と診断した。血清と髄液の梅毒反応が陽性であり,皮疹は梅毒2期疹であると診断された。駆梅療法と副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行った。1週間後に左眼視力は1.0に回復し,3週間後に眼底所見はほぼ正常化した。
著者
高橋 孝
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.811-819, 2006-06-20

【1881年1月29日(1)―この日の胃切除の意味を探る手掛かり―】 1881年1月29日が近代外科,特に腹部外科の発展の中で特別な日であることは言うまでもありません.この日WienのAllgemaine Krankenhausでは,Billrothが胃癌に対する胃切除(当時の用語では幽門癌に対する幽門切除)を成功裡に成し遂げ,その後,この患者の経過を4か月にわたって観察し得たのです. これは,一般には胃癌に対する外科手術の成功第1例として語り継がれていますが,当時の諸状況のなかに身を置いて考えてみますと,開腹して腹腔内の病巣を取り除くという外科手技を可能にしたこと,また消化管,特に上部消化管の連続性を離断しこれを再建することの可能性を実際に具現したということに第一義的な意味が置かれるべきものと思われます.つまり,1881年1月29日のBillrothにあっては,胃癌の手術という意識よりは,胃の切除手術という意味をより強く念頭に置いて手術を進めていたのではないかと考えるのです.
著者
小林 広幸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.736-737, 2019-05-24

定義 病理医の黒丸が肺結核患者の病理解剖標本の腸の粘膜を詳細に観察し,病理組織学的に結核病巣と確認できた粘膜病変(主に潰瘍性病変)を,腸結核の肉眼像として8型に分類したものである(Fig.1).後述する原典を要約した黒丸の著書「腸結核症の病理」1)の原文を引用すると,第I型は初期の病変で粟粒大ないし麻実大の結核結節である.第II型は結核結節の壊死物質が粘膜を破って腸腔に排出され,小潰瘍を形成したものである.第III型はそれがやや大きくなり,小豆大または扁桃大となったものである.第IV型は,腸の横軸方向の潰瘍で,輪状または帯状潰瘍と言われるものである.長径2cm以下のものをIVA型,2cm以上のものをIVB型とした.第V型は縦軸方向の長径2cm以下のものをVA型,2cm以上のものをVB型とした.VI型は円形または類円形の潰瘍で,扁桃大以上のものである.第VII型は不整形潰瘍で,扁桃大以上である.第VIII型は潰瘍が互いに融合し,広範な潰瘍となったものである.
著者
江頭 由太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.823, 2012-05-24

肉芽腫とは,結節状の肉芽組織で,マクロファージ系の細胞の浸潤を伴うものである.類上皮細胞は扁平な上皮細胞様の形態のマクロファージ由来の細胞で,淡好酸性の細胞質と明瞭な核小体が特徴である.類上皮細胞の浸潤のみられる肉芽腫を類上皮細胞肉芽腫と呼ぶが,肉芽組織の構造を伴わない単なる類上皮細胞の集簇巣も類上皮細胞肉芽腫として扱われる.類上皮細胞肉芽腫には類上皮細胞が融合して形成されたと考えられている多核巨細胞もしばしば認められる.類上皮細胞肉芽腫は比較的限定された疾患にしか認められず,疾患ごとに特徴のある組織像を呈することが多いので,組織学的に類上皮細胞肉芽腫を同定し,その組織像を解析することが疾患の診断につながる. 消化管疾患で,類上皮細胞肉芽腫が認められる可能性のある疾患をTable 1に挙げる.
著者
進藤 洋一郎 鶴田 修
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.646, 2017-05-24

定義 S状結腸軸捻症は,S状結腸が腸間膜の長軸を中心として腸間膜根部で捻転したもので,360°以上捻転すると,S状結腸内腔は口側,肛門側共に閉塞し,馬蹄形に拡張する.結腸捻転症の中でS状結腸捻転が発生部位としては最多であり,360°の1回転がほとんどである.腹部単純X線像では,馬蹄形に拡張した腸管ガス像が特徴的であり(=coffee bean sign,Fig. 1),立位像では輸入・輸出両脚にそれぞれ鏡面像をみることもある. 注腸X線造影検査を行うと,注入したバリウムにより直腸は拡張するが,捻転を起こしている部より口側へはバリウムは進まない.内腔はこの盲端部に向かって先細り様に狭窄する.狭窄部より肛門側の直腸は拡張しており,この部が鳥の胴体のように見え,先細りの先端が嘴状に見える.そのため,狭窄部があたかも鳥の嘴のように見えることから,bird's beak sign(鳥の嘴像)と言われる(Fig. 2).
著者
八尾 建史
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.604, 2017-05-24

定義 2002年に筆者ら1)は,拡大内視鏡を胃粘膜に応用し,世界に先駆けて早期胃癌に特徴的な微小血管構築像について報告し,従来の内視鏡で診断が困難な胃病変に対する癌・非癌の鑑別診断に有用であることを報告した.一方,正常胃粘膜においては観察されないが,毛細血管レベルまでの分解能を有する拡大内視鏡を用いても,慢性胃炎粘膜における腸上皮化生・腺腫・癌の表層に白色の物質が存在し,上皮下の血管が透見できない現象を発見した.しかしながら,当時は本物質の正体が不明であったので,白色不透明物質(white opaque substance ; WOS)と命名し,早期胃癌と胃腺腫を鑑別する新しい光学的マーカーとなりうる可能性について報告した1)(Fig. 1,2).長らく,WOSの正体は不明であったが,ついにその正体は,“上皮を含む腫瘍の表層部に集積した微小な脂肪滴であること”(Fig. 3)を明らかにした2).さらに,胃のみならず大腸のあらゆる上皮性病変についてもWOSが存在することとその臨床的意義について,報告した3).
著者
辻 陽介 小池 和彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.672-674, 2021-05-24

内視鏡治療の最難関とも言われる十二指腸ESD(endoscopic submucosal dissection)は,治療後の偶発症が多いことも大きな問題である.剝離後の潰瘍面が胆汁・膵液に曝露されることにより後出血・遅発性穿孔が高率に生じるとされており,これらの予防法を積極的に行う必要がある.最近はさまざまな偶発症予防策が発達してきており,限られた施設において十二指腸ESDを慎重に行い始めている状況である.本稿では十二指腸ESD後の偶発症予防策について概説する.

3 0 0 0 EMR

著者
平澤 欣吾 前田 愼
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.678, 2021-05-24

内視鏡治療の金字塔であるESD(endoscopic submucosal dissection)の勢力圏が広がる中,現時点では,特異的な偶発症リスクから,十二指腸において簡単にESDが選択されることは,決して一般的ではない1).十二指腸ではEMR(endoscopic mucosal resection)をいかにうまく使いこなすかはいまだ重要なポイントなのである(Fig.1). まず,上部スコープでは鉗子孔が7時前後にあるため,病変を可能な限り6時方向に位置させることは,手技全般を容易で確実にする(Fig.1a).後述するが,スコープの選択はwater jet機能と拡大観察機能がついているほうがよりよい.
著者
村元 喬 森 宏仁 大圃 研
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.676-677, 2021-05-24

潰瘍底縫縮の意義 表在性非乳頭部十二指腸腫瘍(superficial nonampullary duodenal epithelial tumor ; SNADET)に対する内視鏡治療では,スコープの操作性や筋層が薄いといった解剖学的な特徴から,他の臓器に対する内視鏡治療に比べて術中に生じる偶発症の頻度が高いことはもちろんのこと,切除後の潰瘍底に直接胆汁・膵液が曝露することで引き起こされる遅発性穿孔や後出血が最大の問題である1).しかしながら,術後の潰瘍底を完全に縫縮することで,遅発性の偶発症が減少することもわかっている2)3).このため,術後の潰瘍底の縫縮が必須であり,いかにして確実に潰瘍底を縫縮するかが重要である.
著者
荻野 雅宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1032-1039, 2021-09-10

Point・脳振盪はあくまで症状から診断され,背景にある病態生理は単一ではなく,簡便な診断方法も見出されていない.・段階的に復帰すべきことは広く認識されつつあるが,効果的な治療法やリハビリテーションも今後の課題である.・反復受傷の結果とされる慢性外傷性脳症(CTE)の病理学的所見は解明されつつあるが,臨床診断や検査法の確立にはさらなる研究が必要である.
著者
奧野 憲司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.994-999, 2021-09-10

Point・脳外傷後急性期はせん妄や通過症候群を来し得るが,それら病態を理解して見極めることが重要である.・脳損傷で生じた興奮に対し,各種抗うつ薬(SSRI),気分安定薬(バルプロ酸,カルバマゼピン)の投与を考慮し,無効例には抗精神病薬の投与を考慮する.・抑制困難な症例に対しては精神科と協力して治療を行うことが勧められる.

3 0 0 0 Spiral内視鏡

著者
大塚 和朗
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.694-695, 2021-05-24

内視鏡の深部小腸への挿入は,通常内視鏡では困難である.Akermanら1)により,2008年に発表されたスパイラル内視鏡(spiral enteroscopy ; SE)は,内視鏡本体にらせん状のフィンのある外筒を装着し,これを助手が回転させて腸管を手繰り寄せることにより,深部挿入を可能とする.単純な操作で,高い挿入性と安定性を持っている.
著者
山田 晃司 橋本 竜作 幅寺 慎也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.643-651, 2020-06-01

音読に際して異なる誤りを呈した2例の純粋発語失行例を報告した。症例Aは多彩な音の誤り(置換・歪み・省略)を生じ,症例Bは主に長母音の省略とピッチの誤りを認めた。2例の病巣部位は,左中心前回の中で異なっており,症例Aは左中心前回の前壁を除く後部からやや深部に,症例Bは左中前頭回および中心前回前部を含む深部白質であった。誤りのパターンを中心前回での病巣の違いから検討した。
著者
木村 專太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.952-953, 1995-08-25

●Babinski reflex(バビンスキー・リフレックス) 整形外科領域の医療でも,バビンスキー反射の重要性を感じることがあると思う. バビンスキー(Joseph Francois Felix Babinski1857-1932)の父親Alexander (アレクサンダー)は,1848年にポーランドからパリに移住して来て,1857年にJosephが生まれた.ポーランド生まれの楽聖ショパン(F.Chopin)は,フランスで活躍し,“ショパン”とフランス流に発音されているから,“Babinski”も“ババンスキー”と発音されるべきである.
著者
井口 正寛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1318-1324, 2020-11-15

Babinski徴候は、足底のやや外側を後ろから前にこすると、母趾が背屈する(原著では足趾が伸展する)徴候である(図11))。「錐体路障害」の存在を示唆する、最も名の知られた神経徴候と言っても過言ではない。フランスの神経学者Joseph Babinski(1857〜1932)が、後述する1896年のたった28行の論文2)で報告したことに端を発する。 この徴候は、医学書のみならず、芸術作品にも多く登場する。「シュール」の語源でもあるシュルレアリスムの創始者André Breton(1896〜1966)は、若き日にBabinskiのもとで医学の勉強をしていた時期があり3)、代表的な著作『シュルレアリスム宣言』(1924)4)には、「私はかつて、足の裏の皮膚の反射作用の発見者が仕事をしているところを見た」という形でBabinski徴候が登場する。また、谷崎潤一郎(1886〜1965)の小説『鍵』(1956)5)にも、Babinski徴候の描写が複数回みられる。新生児では正常でもBabinski徴候が陽性となるが、Babinski徴候が報告される400年以上前の中世の絵画にはすでに、足底の刺激やBabinski徴候の変法のような刺激で母趾が背屈していることが数多く描かれている6,7)。新生児が描かれた絵画にこの徴候を探すことは、筆者の美術館巡りでの楽しみの1つである。
著者
佐々木 達也 伊達 勲
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.829-837, 2021-07-10

Point・刺激調整の基本は,各電極の症状改善閾値と副作用閾値を調べ(モノポーラ・レビュー),治療域の広い電極を使用することである.・副作用出現時には症状と標的周囲の機能解剖とを照らし合わせ,原因となっている部位への刺激波及を避ける工夫をする.・各デバイスが有するディレクショナル刺激,adaptive DBSなどの特殊な刺激方法を積極的に利用する.
著者
後藤 美穂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.680-685, 2021-10-15

【ポイント】◆ひきこもりの居場所支援で目指すところは,「就労」ではなく「家族以外で自分が辛くない対人関係を持つこと」.◆二者関係が築けた後に,三者関係の構築を目指す.居場所は第三者と関係を構築していくトレーニングの場所.◆支援目標の主語は「私(ひきこもり当事者)」.本人(当事者)の困り事に焦点を当てた目標設定で,当事者,家族,支援者をつなぐ.
著者
下畑 享良
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1047-1049, 2021-09-01

はじめに 脳神経内科学の教育には,他の診療科の教育とは異なる難しさが学ぶ側,教える側のいずれにもあるように思います。まず学ぶ側には「脳神経系は難しい」という苦手意識を持つ者が多いですし,教える側も脳神経内科学という広範な領域を限られた時間の中で「いかに教えるか,何を教えるか(how to teach,what to teach)」は非常に難しく,その教育を担当することに戸惑いを覚える医師も多いように思います。しかし,もし臨床現場で教育を担当する医師と基礎の神経科学教育を担う教官,さらに最新の臨床教育の理論や方法を研究する医学教育のエキスパートが,より密接に連携すれば,その教育効果は非常に大きなものになるのではないでしょうか。 こうした背景を踏まえつつ,神経科学の基礎・臨床教育において,学ぶ側,教える側にどのような特殊性があるのか,これからどのような教育を行っていくべきかを議論することを目的として,本連載を企画しました。連載開始にあたり本稿ではまず脳神経内科学教育を困難にしている学ぶ側の要因を検討し,本連載で取り上げるべき教育課題について議論したいと思います。

3 0 0 0 助産婦雑誌

著者
医学書院
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, 1954-11