著者
中村 正彦 Anders Øverby 高橋 哲史 松井 英則 高橋 信一 村山 琮明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.278-284, 2016-04-01

はじめに ヘリコバクター・ピロリ(以下,ピロリ菌)の発見と前後して,人間の胃に別の種類のらせん菌が存在することが,ドイツのHeilmannら1)により報告された.この菌は,“ハイルマニイ菌”と総称され,ピロリ菌に比べて大型で,粘液層に加え,胃腺腔深部に存在することが報告された(図1).ピロリ菌は霊長類以上にしか通常は感染しないのに対し,ハイルマニイ菌の大きな特徴は,いわゆる人獣共通感染症の一つであり,犬,猫,豚などがホストだということである.わが国においては,1994年に弘前大学のTanakaら2)により初めて報告されているが,その後の報告は,畜産関係以外は,あまり多くなかった. 2014年2月に,わが国ではピロリ菌陽性慢性胃炎に対する除菌が保険適用となり,ピロリ菌の国民総除菌時代に突入した.その結果,ピロリ菌の除菌が進み,上部消化管疾患の変容が始まりつつある.その一つである,菌交代現象として,ハイルマニイ菌感染が増加することが危惧されており,研究代表者らはハイルマニイ菌陽性症例を報告している.また,ピロリ菌陰性の胃MALTリンパ腫,慢性胃炎,鳥肌胃炎などで陽性症例を認めているが,MALTリンパ腫以外については,いままで報告は断片的なものだった. 診断に関しては,ハイルマニイ菌では,ウレアーゼ(urease)活性は陰性あるいは弱陽性程度のため,リアルタイムPCR(real time-polymerase chain reaction:RT-PCR)法がゴールドスタンダードとなっている.そのために,簡便で迅速な診断法の開発が急務と考えられる. 筆者らは,2005年より動物および人由来のハイルマニイ菌をマウスへ感染させることで,高頻度に胃MALTリンパ腫を誘発することに成功し,そのモデルを用いて,基礎,臨床両面からの検討を行ってきた. 本稿では,現時点でのハイルマニイ菌の全体像,最近の話題および検査とのかかわりについて述べたい.
著者
大原 健士郎 増野 肇
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.3, no.9, pp.775-783, 1961-09-15

はしがき 精神病をのぞく自殺の要因の研究は,すでに数多くの報告がなされているが,心理学的要因の中でも家庭環境的因子は,とくに重要な要因として学者の注目を集めている。すなわちE. Ringelは,精神病をのぞく650例の未遂者の生活歴を検討し,片方または両方の親を12才以前に失つた者は123例(19%)で,とくに孤児が多く,実母の欠損のほうが問題が多い,とのべ,さらに養育上の問題があつた者は92例(14%)で拒絶的態度と過保護的態度が問題として多く,また同胞間に問題が認められた者は164例(25%)であり,ことにひとり子が81例を占めていた,と報告している。L. M. Moss,D. M. Hamiltonは自殺企図例の60%が片親または両親を若いころ(大多数は青春期に,ほかの者は幼小児期)に失つている,とのべた。彼によれば,この期間に40%は父親を失い,20%は母親を失つていた。Palmerは,25例の自殺企図者について連続的に背景因子を観察し,84%の者が両親や同胞の死亡,不在に直面しており,68%の者が14才前に親を失つていた。また,近親者の死亡は25%以上において結実因子となつていた,とのべている。Teicherは統計的にこの成績を支持した。H. J. Walton,J. Mentは憂うつで自殺を企てた60例の患者と憂うつだが自殺は企てなかつた163例の患者を比較し,14才以前に親を失つた者は前者では46例であり,後者では32例であつたと報告し,自殺企図と親の欠損との関連性を強調している。Wall Jamiesonは,自殺した患者について,以前に受診していた病院で家族歴を調べ,自殺者の1/3に家族問題がかなり強く影響していることを認めた。Zilboog,Reitman,Keelerは,長じてからの自殺衝動を幼児期における両親の死に関する感情の問題としてとりあげた。Keelerは,親が死亡したさいに,11人の子供に生じた反応を研究した。すなわち,抑うつ感情は11人全部にあらわれ,両親への強い愛情を示していた。死んだ両親に再会するという空想は,8名がもち,一緒に死にたいとのべた者が7名であつたとしている。Bender, Schilderは13才以下の子供について自殺を研究し,子供にとつて自殺は,耐えがたい環境を逃がれようとするこころみであり,つねに愛情の喪失から生じている,とのべた。わが国でも加藤は,26例の未遂者中,一方または両親を12才以前に失つた者は5例,養育上の問題がある者10例,同胞間の問題が考えられる者5例を認めている。著者らの報告でも自殺企図者で17才以前に両親または片親を失つた者は対照群に比し,有意差をもつて多く,とくに実母の欠損が影響していた。養育者を調べると自殺企図者のほうに,親が小学入学までのめんどうをみなかつた者が有意差をもつて多かつた。青年層における希死念慮の理由では,家庭事情をあげた者は,大学生8.1%,高校生13.0%,中学生16.5%,未遂者13.0%,となつている。とくに年少者に家庭問題や叱責の影響していることがわかつている。最近の報告では青年層のみならず,老人の自殺においても家庭問題が強く影響をおよぼしていることが明らかにされた。 しかし一方,川畑,勝部は京大生を対象として親の欠損や養育者を調べ,自殺企図者と非企図者との間にほとんど差がないというnegative dataを報告している。Schneidman,Farberowは,対照者に自殺すると仮定して遺書を書かせ,既遂者の遺書と比較した。その結果として,いかにStressによる条件が生活史にあつたとしても,それだけについては,各群の間に差がなく,ひとり子,欠損家庭,家族内自殺などの点でも各群の間に差はなかつた,とのべているが,自殺を研究する学者の間では,家庭環境要因はもつとも重要視すべき部門の一つとされている。
著者
佐藤 千晃 谷山 裕亮 櫻井 直 日景 允 高屋 快 岡本 宏史 今野 卓朗 氏家 直人 小関 健 安藤 涼平 藤島 史喜 内藤 剛 海野 倫明 亀井 尚
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1439-1441, 2019-09-25

はじめに VC(verrucous carcinoma)は細胞異形成をほとんど示さないで増殖する扁平上皮の増殖病変であり,1948年にAckerman1)により提唱された.悪性であるのかどうかは長年議論があったが,現在では扁平上皮癌の一亜型と位置付けられている. 生検標本のみでは診断が不可能であり,よく良性疾患と誤診されることがある.間質浸潤は極めてまれとされ,臨床予後は摘出さえできれば極めて良好である.
著者
永田 信二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.236-237, 2016-02-25

症例の特徴 verrucous carcinomaは1948年にAckerman1)によって報告された白色調隆起性病変を形態学的特徴とする,予後のよい角化の強い高分化型扁平上皮癌である.発生部位は頭頸部,口腔,皮膚,生殖器,子宮などにみられるが,食道はまれである2).
著者
青木 眞
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2208-2209, 2021-12-10

症例の提示が始まる前に「正解はこの中にあります」と検討会を始めたUCSF内科教授のLawrence Tierney(以下LTと略)に度肝を抜かれたのは30年前になる.臨床診断の達人LTが言う「正解」の内実はVINDICATE(Vascular, Infectious, Neoplastic, …)といった基本的病態のリストであり,彼が鑑別診断を構成していくうえでの基本骨格(=フレームワーク)である.今思えばこのLTとの邂逅こそが本書の扱う「フレームワーク」という概念による洗礼であった.監訳者の田中先生も恐らく受洗者の1人であり,それが本書の翻訳を手がけることになった遠因と想像している. 本書では「下痢」,「心内膜炎」といった問題を整理するフレームワークを作るにあたり,その整理の軸の系統的な整合性にこだわらない.このある種の「軸の乱れ」こそがフレームワークの臨床的な使い勝手をよくし,ひいては教育上も診療上も有用なものとしている.監訳者の指摘を待つまでもなく「消化管出血」を上部消化管は食道・胃・十二指腸と「解剖的部位」の軸で分けて,下部消化管は器質性,血管性,炎症性と「機序」による軸で分類する.まったく同様に臨床の達人LTも「筋肉の問題」を,myopathy(=筋力低下),myalgia(±筋力低下),rhabdomyolysis(CKが上昇)の3つ項目でフレームワークを作るが各項目はそれぞれ「疾患概念・身体所見」「自覚症状」「検査結果」であり,ある意味,整理の軸は1本ではない.しかし鑑別診断を考えるうえでは秀逸である.
著者
滝沢 耕平
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.680, 2021-05-24

適応 筆者は,十二指腸の10mm以下の腺腫と考えられる病変にはD-CSP(duodenal cold snare polypectomy)1)を,10mmを超える腺腫や癌を疑う病変に対してはunderwater EMRを選択することが多い.局注を用いないため,生検瘢痕を有する場合も適応外とはしていない.
著者
吉田 将雄 角嶋 直美 籔内 洋平 滝沢 耕平 川田 登 島田 清太郎 木村 英憲 佐藤 辰宣 塩月 一生 髙田 和典 岸田 圭弘 今井 健一郎 伊藤 紗代 堀田 欣一 小野 裕之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.622-629, 2020-05-24

●「考える内視鏡診断」のポイント・十二指腸は部位によって背景粘膜の構造が異なることを認識する.・隆起表面の大部分が周囲と同様の非腫瘍粘膜に被覆されており,粘膜下腫瘍(SMT)様隆起の形態を呈することを確認する.・通常観察では,SMT様隆起の辺縁の性状,病変のサイズ,色調,陥凹の有無,陥凹の境界,びらん・潰瘍形成の有無,単発・多発,病変の硬さ・可動性について観察する.・通常観察において粘膜表面に変化がみられた場合には,拡大内視鏡観察を行い,病変表面の腺管構造と血管構造を観察する.・超音波内視鏡検査(EUS)では,病変の存在する層,周囲の層構造との連続性,病変の境界,病変内部のエコーレベルや性状について評価する.
著者
三浦 義正 矢野 智則 坂口 美織 井野 裕治 角田 真人 Tsevelnorov Khurelbaatar 小林 泰俊 坂本 博次 林 芳和 砂田 圭二郎 大澤 博之 福嶋 敬宜 山本 博徳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1747-1755, 2018-12-25

要旨●小腸腫瘍の治療前評価における超音波内視鏡(EUS)の役割は,質的診断と腫瘍深度診断であり,内視鏡治療に直結するため重要である.しかし,小腸腫瘍は上皮性腫瘍,非上皮性腫瘍共に発見時に内視鏡治療になる可能性は低いため,臨床でのEUSの使用は限られる.一方,Helicobacter pylori陰性者が増加する中で,十二指腸腫瘍を発見・治療する機会が増えている.特に表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)の治療においては,腫瘍のサイズ,形態,リスク・ベネフィットを考慮して治療法を選択するが,EUSは手技の安全性を確保する上で重要である.本稿では,小腸腫瘍に対する診断・治療について,実臨床で比較的遭遇する疾患を中心に解説する.
著者
中村 俊介
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1070-1083, 2021-09-10

Point・頭部外傷に対する早期リハビリテーションとは,多方面にわたる機能を維持・改善・再獲得するために,48時間以内に開始される治療アプローチである.・廃用を予防し,早期のADL向上を図るため,早期離床や早期からの積極的な運動を行うように勧められるが,十分なリスク管理が必要である.・早期リハビリテーションは,多職種で構成されたチームで継続的に展開することが重要となる.
著者
渡辺 英伸 味岡 洋一 太田 玉紀 本山 悌一 岩渕 三哉 本間 照
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.659-682, 1990-06-25

要旨 炎症性腸疾患を病理学的に鑑別するには,まず病変が肉眼的に,①縦走潰瘍型,②輪状潰瘍型,③円・卵円形潰瘍型,④玉石状所見・炎症性ポリポーシス型,⑤浮腫・充血・出血・びらん型,および⑥腫瘍様多発隆起型,の6基本肉眼型のどれに帰属するかを判定しなければならない.各基本肉眼型はいくつかの病変を含んでいる.次いで,基本肉眼型である基本病変の肉眼的特徴とその周辺粘膜の肉眼的特徴とを組み合わせることで,各疾患は肉眼的に診断できる.これに組織所見を加えることで,炎症性腸疾患の病理学的鑑別診断はより確実なものとなる.
著者
森下 登史 田中 秀明 井上 亨
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.810-819, 2021-07-10

Point・通常,視床神経核の可視化は困難であるため,典型的な電極留置部位の座標決定方法を学ぶことが大切である.・微小電極記録では,somatotopyと運動誘発電位・感覚誘発電位から電極位置を推測することができる.・治療用電極留置時の試験刺激は,振戦制御効果と刺激誘発性副作用出現閾値を確認する上で非常に有用な手技である.
著者
平 孝臣
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.698-710, 2021-07-10

Point・定位・機能神経外科は脳神経外科で最も古い領域で,戦前から行われてきた.これらでの経験は,ヒトの神経生理学の発展に大きく寄与した.・定位脳手術は日本では1970年代まで世界をリードする勢いで行われ,楢林博太郎,佐野圭司らを中心に,日本を代表する脳神経外科医の多くが携わっていた.・現在,脳神経外科で一般化している神経内視鏡,ナビゲーション,術中モニタリングなどは,低侵襲と精度を重視する定位・機能神経外科分野から発展したものである.・2000年以降,脳深部刺激療法(DBS)の出現で定位・機能神経外科は隆盛を来したように思われるが,定位・機能神経外科医にしか治せない多くの患者が未治療のまま放置されているのが実情である.脳神経外科がより社会的に評価されるためにも,より多くの脳神経外科医が定位・機能神経外科に関与する必要がある.

4 0 0 0 OA Editorial

著者
上利 崇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.697, 2021-07-10

薬剤治療抵抗性の不随意運動症を中心とする運動障害に対して,定位・機能神経外科が果たす役割は大変大きく,患者さんのADL, QOLの向上に大きく貢献しています.近年の医療工学技術の向上に伴い,体内植え込み型のデバイスの改良が進んでおり,さらに凝固・破壊術もリバイバルし,集束超音波による新たな治療も導入され,患者さんのニーズに合わせた治療選択肢が増えてきています.定位・機能神経外科の領域は今後もさらに多様化し,発展すると考えられます. 技術の進歩によって治療水準はある程度担保されると思われますが,治療成績を大きく左右するのは手術の精度であることは現在も変わりありません.そのためには,定位・機能神経外科の基本をしっかりと習熟していることが重要と考えられます.
著者
影山 任佐
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.551-559, 1983-05-15

皆さん,これから私が皆さんにお話しようとしている病人というよりも,むしろ異常者(anormaux)はその大多数が通俗的意味での精神病者にはけっして似ていない分別のある者たち(individus Iucides)である。彼らの行動を観察し,彼らと話をし,彼らの通信・文書を読んでみても,まず最初にはいかなる病的障害も発見されず,しかも長い間入院している患者にさえも,生き生きとした鋭い知性,機智や思慮深い反省を見つけ,驚かされることがしばしばある。ある者はもっともらしい請願を出して満足している。またある者はものごとの大部分を特別な角度から考えるという偏見に導びかれた極端な理屈家,誤った分別の持ち主といった印象を与えている。これらの者たちと本質的特徴は何ら異なるところはないが一部の者は逡巡することなく非常に大胆な主張をする。則ち彼らは奇妙な迫害を訴えるか,あるいは彼らは自分たちを偉大な人物と考えたりする。時間をかけた会話によって,彼らは取るに足らない偶発的なできごとを彼らの支配的傾性と関係している一面的で自分勝手な意味でたえず説明しようとしていることが明らかとなる。彼らは周囲の人々に関心を持ち,新聞を注意深く読み,ごくささいなことにも注目し,そしてここから彼らの考えに有利な数多くの論拠を取り出すすべを心得ている。常に幾分でも本当らしい,時には検討するに足るこの考えは度はずれた想像や感覚性錯覚の産物では決してなく,明敏な観察と研ぎすまされた洞察の結果として現われるものである。 理性と不条理との奇妙な混合が認められるこれらの者たちは解釈妄想病と呼ばれる慢性精神病に罹患している。この精神病を描写する前に,私は皆さんに妄想解釈症状について若干述べておきたい。
著者
齋藤 京
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1047-1051, 2019-12-01

要約 42歳,女性.既往に憩室炎,単純ヘルペス,クラムチャウダーでの口唇アレルギーがある.左手指に発赤,遅れて喉の違和感や軽度の腹痛,口唇の腫れも生じたため紹介された.左手指と左頰に紅斑,右下口唇には水疱も出現したが,受診時すでに軽快中であった.1か月後に,発症時と同じファミリーレストランでの食後に同じ皮疹が再燃し再受診,臨床および病理検査で固定疹と診断した.原因として普段飲まないドリンクバーでのトニックウォーターを疑い,試飲によるチャレンジテストを施行し陽性だった.トニックウォーターはメーカーによっては苦み成分のキナ抽出物が含有されており,それによる固定疹の報告が散見される.その認知度はまだ低く,診断確定には時間を要することが多いが,今回は速やかに診断できた.飲食店によってはトニックウォーターがアルコールに限らず清涼飲料としても提供されていることから,周知が必要である.
著者
種子島 智彦 池田 信昭 井上 雄介 相原 道子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.207-210, 2014-03-01

要約 26歳,男性.5年前より口唇に疼痛を伴う水疱形成を繰り返していた.2008年8月中旬,左口唇に小水疱が出現した.近医にて口唇ヘルペスを疑われバラシクロビルを処方されたが改善しなかったため,当科を受診した.肛門,亀頭部にもびらんがみられTzanckテストを施行したが陰性であった.その後,自然軽快した.以後2回ほど同様の皮疹が出現し,下顎,両手背に有痛性の紅斑も出現するようになったが自然軽快した.2011年4月中旬,同症状が再度出現し,詳細な問診の結果,トニックウォーターを含むカクテルの摂取後に症状が出現していたことが明らかになった.ジントニック1杯に含まれるトニックウォーターの半量(60ml)による誘発試験を施行したところ,摂取2時間後に症状が出現し,トニックウォーターによる固定疹と診断した.薬剤内服歴のない若年者に同部位に繰り返す皮疹を認めた場合,トニックウォーターによる固定疹も鑑別に挙げることが重要であると考えた.
著者
豊田 智宏 樋口 哲也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.27-31, 2019-04-10

summary固定疹は原因物質の摂取のたびに同一部位に繰り返し生じる皮疹である.原因として薬剤による頻度が高いが,食物など薬剤以外によるものでも引き起こされることが知られている.非薬剤性の場合,原因物質の特定が困難な場合が多く,診断に時間を要してしまうことが多い.薬剤内服歴がなければ早期診断のために詳細な問診を行うことが重要であり,確定診断には負荷試験が最も有用である.トニックウォーターによる固定疹はトニックウォーター中に含まれるキニーネにより引き起こされることが報告されている.キニーネを含む水は紫外線照射で青く発光するため容易に検査することができ,国内で流通しているトニックウォーターにはキニーネを含んでいる製品も認められている.今日ではトニックウォーターを使用したカクテルなどの種類も豊富であり,知らずにキニーネを摂取してしまう機会が多くなっているため注意が必要である.
著者
小関 弘展 米倉 暁彦 野口 智恵子 中添 悠介 砂川 伸也 松村 海 渡部 果歩 水上 諭 尾﨑 誠
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.933-938, 2020-08-25

目的:非接触型前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷の骨解剖学的リスク因子を抽出することである. 対象と方法:初回非接触型ACL損傷患者33例33膝(ACL群)と健常者26例26膝(対照群)の下肢荷重位X線像から下肢前額面アライメントと骨形態を計測した. 結果:ACL群では対照群よりも静的下肢アライメントが外反しており,脛骨近位内側角と大腿骨遠位外側角が影響していた. まとめ:荷重位下肢アライメントが外反するほど膝関節への外反トルクが強くなるため,ACLに応力が集中して靱帯損傷に至る危険性が高くなると考えられる.