著者
岡野 晶子
出版者
医学書院
雑誌
看護管理 (ISSN:09171355)
巻号頁・発行日
vol.21, no.11, pp.981-984, 2011-10-10

米国の医療は複雑化する医療制度や国民の健康問題,医療技術の高度化,医師不足,研修医の勤務時間の制限,診療報酬の削減,入院期間の短縮化,安全対策の強化のために,従来の医師中心の体制からNurse Practitioner(NP)やPhysician Assistant(PA)を含めた多職種チームによる体制へ移行しつつある。 そのなかでNPは主要なチームメンバーであり,裁量権をもち,従来の医師の業務を行なうことが多い。本稿では筆者がNPとして所属する大腸直腸外科における多職種チームの介入の例を紹介し,米国におけるNPの効果をケアの質,コスト,医療アクセスの面から考察する。 そして最後に,日本の特定看護師(仮称)の導入にあたり,医療施設における管理や教育の課題について触れる。
著者
松峯 敬夫 広田 英夫 前田 秀一 福島 亮治 青木 幹雄 瀬戸 輝一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1369-1371, 1986-09-20

化生のtype 前述したように,胆嚢にみられる化生組織は,おおむね,粘液腺化生(偽幽門腺化生,偽Brunner腺化生)と腸上皮化生の2種のtypeに大別される.いずれも胆道全般に共通した再生変異であり,胆管においてもしばしば同様の変化が見出されている1〜4). 化生の進展とともに,胆管粘膜は次第にその形態を変え,両化生組織の単一,あるいは複合分布により,胃の幽門洞部や十二指腸粘膜に似たさまざまな過形成巣を生じていくが,このような変化はまた,胆嚢にみられる化生巣の性状ともよく一致している.
著者
松原 修二 高橋 正樹 岡村 経一 福留 厚 山岡 郁雄 松峯 敬夫 浮島 仁也 青木 幹雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.757-761, 1976-06-25

上部消化管大量出血の原因のひとつとして,1897年Dieulafoy1)は胃上部噴門直下に孤立性の微小な粘膜欠損を見いだし,これをExulceratio simplex(以後Esとする)と命名した.粘膜欠損の底部において動脈が破綻するため,大量の血液が噴出して,潰瘍形成は未熟なままに患者は急性の経過をとるものと彼は考えた.以後欧州圏では,このような胃上部にあらわれた粘膜欠損部よりの動脈性出血をEsと呼称するようになった.今回著者らもその1例を経験したので報告し併せて弱干の文献的考察を加えた. 症例 患 者:46歳 男 生来健康にて著患なく,既往にいわゆる胃症状を認めない.1月程前より風邪に罹患しアスピリンを連日服用していた.1974年12月11日,突然大量の吐下血をきたし当科へ緊急入院した.ただちに,緊急内視鏡検査およびガストログラフィンによる上部消化管緊急X線検査を施行したが,胃内に大量の血液が充満しているため出血源の診断は不可能であった.13時間に総量3,200mlの輸血を行なったが,血圧60/40mmHgヘマトクリット23%と改善されずショック状態におちいったため緊急手術を施行した.開腹すると,胃内に大量の凝血塊を認めるが,肝硬変および食道静脈瘤など門脈圧の亢進を示唆させる所見は認められなかった.胃を漿膜面より観察しても異常病変を発見できなかったので,胃体部大彎側寄りに約7cmの縦切開を加えた.出血部位は主に噴門側であることが判明したが,なお局在は不明であり,やむを得ず盲目的胃切除術(Billroth Ⅰ)を施行した.術後経過は良好で,第4病日に胃管を抜去した.
著者
福留 厚 松峯 敬夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.233-238, 1985-02-20

外科医が遭遇する腹膜炎のうちで虫垂穿孔性腹膜炎は最もポピュラーな疾患であろう.しかし,時として処置に窮するケースも稀ではない.処置に窮しその処理に難渋を強いられた場合の対処法について,主に手術的操作を中心にし,その際の要領や注意点について述べる. 当院で行つた腹腔内持続洗浄群のうち,現在までに虫垂穿孔性汎発性腹膜炎例は40例であり,1日以上洗浄できた群では二次的膿瘍の発生は1例もなく,入院期間も単なるドレナージ群に比してはるかに短く成績は良好であつたのでその手技,方法についても合せて述べた.
著者
福留 はるみ
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.790-796, 2003-10-10

はじめに 先の横浜市立大学医学部附属病院患者取り違え手術事件判決は,個人の過失には組織における安全管理体制の不備が影響を与えるということを示唆する内容であった。事故発生当時,「安全」は空気のような存在で,失敗した人を責めるという責任追及型の懲罰モデル(失敗した人を罰する)の考え方が主流であり,マスコミだけでなく,医療界でもそのような風潮があった。 この事故が発生して4年を経たいま,医療法の一部改正,診療報酬上の未実施減算という行政主導の仕組みづくりが追い風となり,責任追及型の懲罰モデルから原因追求型の学習モデル(失敗から教訓を得る)へとシフトしているが,実際のところ医療現場の安全管理体制はどのようなプロセスを経て,どのように進展しているのだろうか。 医療安全の仕組みは,厚生労働省「医療安全推進総合対策―医療事故を未然に防止するために」や,厚生労働省国立病院部政策医療課「国立病院・療養所における医療安全管理のための指針」などで標準化されたものができている。この仕組みに対する評価は,今後,適宜見直されることになるだろう。 そうしたなかでいま,医療現場が直面している問題は,仕組みづくりはできたが,その仕組みを効果的に運用できず,事故防止を推進するプロセスに時間がかかり,思うようなアウトカムを出せず苦労しているということだ。また,医療安全対策の推進に伴うプロセス評価・アウトカム評価についてどのような視点をもち,マネジメントしていくかが看護管理者としての大きな役割であるが,ロールモデルがないため,各自で検討し試行錯誤しているのが現状である。しかし,看護部門では,医療安全については,従来より業務委員会などで質管理の一環として取り組んできたのである。このように看護部門だけでやってきた取り組みから,全職員対象へと拡充したという経緯から考えると,全く新たな未知の分野ではない。 そこで,本稿では,医療安全対策を実施する上でどのような見直しがいま必要なのか,よくありがちな陥りやすい失敗のポイントなどを挙げ,実質的な改革につながる医療安全対策について具体的に提案し,現場で感じているジレンマやストレス等の問題解決方法について検討する。
著者
松峯 敬夫 広田 英夫 福留 厚 嘉和知 靖之 青木 幹雄 瀬戸 輝一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1627-1629, 1985-12-20

化生のtype 胆嚢にみられる化生のパターンは,基本的に胃の化生組織と異なるわけではなく,おおむね粘液腺化生(偽幽門腺化生,偽Brunner腺化生)と腸上皮化生の2種のtypeに大別される(表).1-3)これらの化生上皮は,同一部位に隣接して分布し易く,十二指腸粘膜に似た化生巣(十二指腸化,duodenalization)として見出されることが多い(図1,2). このほか,わずかながら胃型上皮や扁平上皮巣が見出されることもあるが,いずれもごく稀な変化に過ぎない.また文献上,胃底腺化生,膵化生といった報告もあるが,迷入とする意見も多く,一般に化生として受け入れられているわけではない.
著者
松田 晋哉 福留 亮 村松 圭司 藤野 善久 久保 達彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.318-321, 2014-04-01

前回は論文の設計図であるアウトラインを作成しました.今回からこのアウトラインに従って実際の論文を書いていきます.前半はイントロダクションに相当する「目的」,論文の方法論を説明する「データおよび分析方法」,そして「結果」です.福留さんの書いた論文を松田,藤野,久保が中心となって批判的に読み,そして訂正していく過程を読者の皆さんにも追体験していただきます.
著者
井原 悠紀夫 福留 厚 磯山 徹 渡辺 千之 白川 洋一 神谷 喜八郎 新井 正美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.507-510, 1975-04-20

はじめに Pilonidal sinusは本邦ではまれな疾患とされ,その報告例16,18,21,24,25,33,34,38)は少ない.都立墨東病院外科では1966年より1973年までの8年間に14例の本症を経験した.その発生頻度および術式などについて検討し,若干の文献的考察を加えた.
著者
宮永 和夫 川原 伸夫 高橋 滋 尾内 武志 森 弘文 横田 正夫
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.43-49, 1985-01-15

抄録 CTスキャンを施行した群馬大学医学部附属病院受診者を調査し,透明中隔腔及びヴェルガ腔を有する症例を抽出し検討した結果,以下のような知見を得た。 (1)全科9,408例(男5,104例,女4,304例)中,男29例,女16例の計45例(0.47%)にこれらの腔を認めた。なお男性に女性より多く認められた。 (2)45症例は,透明中隔腔のみ35例(78%),透明中隔腔及びヴェルガ腔9例(20%),ヴェルガ腔のみ1例(2%)に分けられた。 (3)45例には,疾患別にみると,てんかん,頭痛,発育障害,精神分裂性障害などが多く認められた。 (4)内因性精神病,すなわち精神分裂性障害と感情障害においては約5%の頻度でこれらの腔が認められた。 (5)これらの腔と精神分裂病症状の関係は,1)症状形成に関与する,あるいは 2)単なる合併であるというつの可能性が指摘された。
著者
新川 祐利 梅津 寛 大島 健一 岡崎 祐士
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.881-888, 2012-09-15

抄録 大麻乱用後に幻覚妄想状態を呈した2症例を報告した。症例1は大麻精神病,症例2は大麻乱用の経験がある統合失調症と診断し,両者の違いを考察した。急性期症状は類似点が多いが,本症例の大麻精神病は幻覚妄想に対し恐怖や緊張を伴わず,妄想内容が了解可能であることが統合失調症と異なっていた。大麻精神病の経過では,大麻による無動機症候群を認め,意欲減退などが原因で社会機能が低下し,統合失調症の陰性症状と類似した。しかし,対人関係の障害や認知機能障害は認めず,治療により社会機能が病前の状態まで回復したことが異なっていた。大麻乱用が統合失調症を惹起する可能性が推察された。

2 0 0 0 腸チフス

著者
松峯 敬夫 広田 英夫 福留 厚 青木 幹雄 森田 博義 瀬戸 輝一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.590-591, 1985-05-20

近年腸チフスは激減し,特に重症例をみる機会は稀となつているが,出血や穿孔を起こし,確定診断の得られぬまま腸切除が行われる例も皆無ではなく,今日でもなお緊急手術を要する腸疾患として,その存在を念頭に置く必要がある. そこで今回は,当院で経験した2例の穿孔例(表)のうちから,広範囲腸切除を施行した1例を選び供覧する.
著者
松峯 敬夫 高橋 正樹 福留 厚 江淵 正和 青本 幹雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1108-1109, 1974-10-20

症例2 (びまん性腹膜炎例) 術中所見:腹腔内に約200mlの膿汁貯留を認める.盲腸は紅色を呈し蜂窩織炎状で,著しく拡張し,腸管壁が紙様に薄くなつた部位には,4コの穿孔が認められる(⑨).また肝下縁に穿孔を伴つた胡桃大の肝膿瘍がみられる. 病理所見:盲腸ならびに上部上行結腸に黄白色の偽膜に覆われた孤立性および地図状に融合した潰瘍があり,この中に明瞭な4コの穿孔が認められる(⑩).これらの潰瘍では下掘れが顕著で,潰瘍底の深さはおおよそ粘膜下層に留まつている(⑪).融解壊死巣には多数の好中球が滲出しているが,これは二次的細菌感染のためと考えられる.潰瘍底周辺部には特に無数の好中球が集つており,浮腫が強い.フィブリノイド壊死層や肉芽組織の形成は認められない.また好酸球は目立たない.潰瘍底の辺縁部に多数のアメーバが見出されるが,これらはいずれも赤血球貪喰性を示さない.
著者
四方 淳一 新井 正美 佐々木 五郎 福留 厚
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1628-1629, 1970-11-20

腸壁嚢状気腫(Pneumatosis cystoides intestinalis)は,消化管壁にガスで充満した無数の嚢腫がある疾患で,Intestinal emphysema, Gas cysts of the intestine,Bullous emphysema of the intestine, Peritoneal pneumatosis, Cystic lympho-pneumatosis, Pneumatosis intestinalisなどとも呼ばれている.著者らは食道癌根治術後,十二指腸および空腸にみられた本症の1例を経験したので供覧する.

2 0 0 0 腸結核

著者
松峯 敬夫 福留 厚 広田 英夫 松尾 聰 青木 幹雄 瀬戸 輝一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.458-459, 1985-04-20

近年激減したとはいえ,腸結核は今なお時折見受けられる疾患といえる.ただ最近では,治癒傾向の強いmildな症例が増え,広汎な乾酪壊死を示す典型例が著しく減少し,腸結核自体の診断をより困難なものにしている. そこで今回は,数個の開放性潰瘍を伴う腸結核の1例を取り上げ,その病理像の特徴を呈示する.
著者
松峯 敬夫 広田 英夫 前田 秀一 福留 厚 青木 幹雄 瀬戸 輝一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1109-1111, 1986-07-20

腺扁平上皮癌と扁平上皮癌 同一癌巣内に,腺癌と扁平上皮癌の像を併存する癌は,一般に,腺扁平上皮癌(adenosquamous carcinoma)と呼ばれている. 比較的稀なtypeであり,胃や腸にみられる機会はごく少ないが,胆道では,はるかに高率に発生するといわれ1),胆嚢癌における筆者らの検索でも,31例中7例,22.6%に腺扁平上皮癌が見出されている(表).このような癌巣中に占める腺癌と扁平上皮癌の比率はさまざまであり,時として,100%近く扁平上皮癌成分により占められることもあるが,純型の扁平上皮癌(squamous cell car—cinoma)とみなし得るものは極めて稀である.
著者
遠藤 平仁
出版者
医学書院
雑誌
呼吸と循環 (ISSN:04523458)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.1037-1041, 2015-11-15

はじめに 心外膜炎・心囊液貯留は比較的頻度の高い膠原病の合併症である.特に全身性エリテマトーデス(SLE),全身性強皮症(SSc)は合併頻度が高い.他の膠原病でも稀であるが合併の症例の報告がある(表1)1〜3).心外膜炎は胸痛など臨床症状を伴う症候性急性心外膜炎のことを指すが,症状はないが画像検査で確認され,心囊液貯留が3カ月以上認められる無症候性慢性心外膜炎も合併することがある1,2).特に心臓超音波検査が普及し症状のない症例でも心囊液貯留が診断され,むしろ慢性症例が多いと考えられる.このような症例ではウイルスなどの感染や悪性腫瘍の転移など様々な原因の鑑別診断が必要になる1).また軽症例の急性心外膜炎と心囊液貯留は自然軽快することがある.欧米の報告では胸痛などの自覚症状があり救急部を受診するのは約5%程度である.死亡率は約1.1%であり心筋炎を併発し重症不整脈や心不全で死亡している2).膠原病に合併した心外膜炎・心囊液貯留は他の病態によるものを除外診断し,各疾患の疾患活動性の評価により治療方針を決める.各膠原病の疾患ごとに胸膜炎の病態形成が異なるため治療,特にステロイド療法の適応について相違点があることに注意する必要がある.特にSScとSLEや他の膠原病合併例は対応が異なる(表2).
著者
松峯 敬夫 広田 英夫 嘉和知 靖之 成瀬 好洋 青木 幹雄 瀬戸 輝一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1169-1171, 1985-09-20

胆嚢穿孔,胆汁瘻とも,有石胆嚢炎に起因する重要な合併症として知られている. いずれも比較的稀な疾患とされ,最近20年間における筆者らの経験でも,胆嚢穿孔(開放性穿孔)と呼び得るものは,1,642例の胆嚢炎手術例中,僅か5例,0.3%と少なく(表1),また胆汁瘻(胆嚢瘻)にしても,同期間中,14例を数えるに過ぎない(表2).
著者
森岡 周
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.947, 2012-10-15

まずこの本を見た瞬間,「同期生よ! 思い切ったことをしたな」と思い,いろいろな言葉が脳の中を駆け巡った.それだけインパクトのある表紙と内容であった.「列伝」と聞くと,ギタリスト? などと思ったりもし,果たして理学療法士という職業にそのような言葉が当てはまるかは明言できないが,いずれにしても,理学療法士は医療者でありながら,職人としての要素を含んでおり,それを意図した書であると思う. 本書は3章の構成であり,第1章は「衣鉢相伝」と題して,著者のこれまでの臨床研究をベースとした記述である.衣鉢相伝とは教法や奥義を伝え継承することの意であり,平たくいえば,広く先人の事業や業績を継ぐことに当たる.著者はこれまで主に大学病院に属しながら変形性膝関節症の臨床研究を実施してきたが,それから得た保存的治療戦略に関して,運動学的あるいは運動力学的分析から一つの方向性を打ち出し,その具体的な実践例を丁寧に臨床的に記述している.衣鉢相伝と題されるように,著者には今までの自分の思考をありのままに伝えるが,後輩たちがそれをよりよい方向性に改変し,場合によっては批判し新しいものを創造し提案してもらいたい意図があるのであろう.
著者
サビロヴ ラヴシャン 岡田 泰伸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.192-203, 2003-04-10

クロライドイオンは生体内で最も多量に存在するイオンの1つであり,クロライドイオン(Cl-)チャネルも広く全身の細胞膜に分布している。その役割は,静止電位の形成や変化,興奮性の抑制や亢進,Cl-や水の輸送,そして細胞容積の調節などに加えて,細胞分裂や増殖,細胞死の制御にも,さらには細胞外へのATP放出や,細胞内小胞のpH形成や,他のチャネル/トランスポータのレギュレータとしても働くなど多様であり,いずれも細胞の基本的機能に深く関与している。Cl-チャネルのうちでクローニングされているのはCLC,CFTR,GABAレセプター,グリシンレセプター(そしておそらくCLIC)のみであり,その他のCa2+依存性Cl-チャネルや容積感受性Cl-チャネルなど,多くが未だに分子同定されていない。Cl-チャネル機能の生理学的・病態生理学的重要性は深まるばかりであり,生理学的研究のみならず,残された多くのCl-チャネル分子実体を求めての分子生物学的検討も,集中的に行われる必要がある。 はじめに クロライドは生体内に最も大量に存在するイオンの1つであり,その輸送に関わる分子の1つであるCl-チャネルの生理学的重要性は容易に理解できる。興奮性細胞における研究の先行により,イオンチャネルの機能は,電圧作動性Na+,K+,Ca2+チャネルなどによる活動電位発生との関係で最初に捉えられた。通常では,Cl-コンダクタンスの低いニューロンや心筋細胞においては一定のバックグラウンド電流として,Cl-コンダクタンスの相当高い骨格筋では静止電位を決定する定常的リーク電流として,この時期においては捉えられてきた。しかしながら,グリシンレセプターやGABAレセプターの一部がリガンド作動性アニオンチャネルであることが判明して,細胞内Cl-濃度が低く保たれている多くのニューロンでは抑制的に,細胞内Cl-濃度が高いニューロンでは促進的に,興奮性を制御する機能がCl-チャネルに付加された。 パッチクランプ法の導入によって多くの非興奮性細胞(特に上皮細胞)の研究が進展し,Cl-コンダクタンスが多種の生理学的・病理学的刺激によって大きく活性化されることが明らかにされた。cAMPやCa2+などで活性化されるCl-チャネルはCl-分泌機能に関与し,浸透圧刺激で活性化されるアニオンチャネルは,細胞容積調節やATP放出や細胞死誘導に関与し,リソソームや小胞体などの細胞内小器官に発現しているCl-チャネルは,プロトンポンプによるH+輸送やCa2+遊離チャネルによるCa2+放出を(電気的中性を保つ上で必要なCl-輸送路を保つことによって)サポートする役割を果たしている。このようなCl-チャネルの新しい諸機能の多くは,興奮性細胞においても共有されていることが次々に明らかにされはじめている。 遺伝子クローニング法の導入によって,多くのチャネル蛋白のアミノ酸配列が明らかとなった。しかしアニオンチャネルでクローニングされているのは,リガンド作動性アニオンチャネルに分類されるグリシンレセプター,GABAAおよびGABACレセプターとcAMP依存性Cl-チャネルのCFTR,そして電圧依存性Cl-チャネルと細胞内小器官アニオンチャネルの両方に分類されるCLCチャネルと,細胞内小器官アニオンチャネルのCLICとVDACである。その他の多くの重要なアニオンチャネル,例えばCa2+依存性Cl-チャネルや容積感受性Cl-チャネルなどは,未だにクローニングされていない。
著者
野口 佑太 小林 誠 中尾 由佳里 水谷 祐哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.497-500, 2021-05-10

要旨 買い物に行くことのできない地域在住高齢者に対して,バーチャルリアリティ(virtual reality;VR)を活用して買い物の楽しみを支援した.その結果,対象者がお店に行くことなく,VRで店内の様子を視聴することができ,買いたいものを買うことができた.VR画像は,視聴者の頸部の動きに連動して画面が変化するため,自分自身が店舗内に居る感覚を得ることができた.しかし,VR画像の視聴中に商品に近づくことができないことが課題として挙げられた.VRを活用した買い物支援は,買い物弱者にとって,実際の店舗に行けない,または行かなくても商品を選ぶ楽しみを体験することができる可能性が示された.