著者
西丸 四方
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.64-67, 1958-04-15

狂信者というのはある考えの正当さを確信して,その考えのために活動することが非常に熱心であるような一種の熱心家のことです。熱心であるというのは人間の美徳の一つであり,価値の高いものです。これの逆はのらくらもの,なまけものです。多くの人間は多かれ少なかれなまけもので,あまり熱心に何かに打ちこむことができないのが,普通の人間です。熱心に勉強するとか仕事をするという場合には熱心ということは価値の高いものです。しかし凝り性という形の熱心家になると価値が高いとばかりいえないことになります。この場合は熱心さの内容,何をするのに熱心であるのかのその内容に価値がないのでしよう。のらくら者がパチンコをやる場合にはただひまつぶしにやるくらいのものですが,凝り性の人はどうやれば球がうまく入るかを寝食を忘れて研究します。釘のまげ方,力の入れ方などをくわしくしらべ,球の入る回数を統計的にしらべ,もしパチンコ学というものがあればその大家になれるくらいに研究に熱中するのですが,しかしこの場合にはあまり人にほめられません。熱心さには価値があるにしても,パチンコという内容にはあまり価値はないからであります。このようなパチンコ学に凝つて本職をおろそかにする人があります。碁,マージヤン,トランプに凝る人,ラジオの組立てや軽音楽に凝つて学校で落第する生徒などもこれです。

2 0 0 0 セルライト

著者
尾見 徳弥 沼野 香世子
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.148-150, 2015-04-10

summaryセルライトは肥満とは異なり,主に女性皮膚の体表に現れる皮膚の凸凹の変化で,臨床的な形状では‘orange peel appearance’として知られている.臨床像や病態生理的観点からも,セルライトと肥満は異なっている.疫学的には女性や白色人種に多く,また過度の炭水化物摂取制限なども要因として挙げられている.ホルモンのアンバランス,加齢変化,アルコールの過度の摂取なども関連すると考えられている.セルライトの病態生理学的な形成に関しては,末梢の循環不全,代謝不全に伴って脂肪組織内に線維化が生じ,線維化により脂肪組織の代謝不全が亢進して脂肪組織が変性をきたすとともに周囲組織も線維化した状態と考えられ,脂肪細胞や血管内皮細胞でアポトーシス所見もみられる.セルライトの治療においても,単純なマッサージや近赤外線レーザーの照射などでは大きな効果はみられず,radio frequencyやmicrowaveの波長など深部への影響が必要とされる.
著者
赤崎 兼義
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.50-52, 1975-01-01

ルードウィヒ・アショフ教授は近世における最も有名な病理学者ルードルフ・ウィルヒョーの孫弟子に当たっている.教授は病理解剖学の領域で傑出していたばかりでなく,実験病理学や病態生理学についてもその基礎をきずき,また病理学と生化学や免疫学など近接医学との関係にも深い関心をはらうという,きわめて幅広い視野を持つ病理学者であった.教授の病理学,広くは医学全般への貢献は,ウィルヒョーの業績にも十分比肩しうるもので,20世紀前半における病理学者の最高峰に位置づけてもよかろう.特に日本人にとって忘れてならないことは,教授が無類の日本人びいきであり,日本病理学の発展に絶大な貢献をされたことである,アショフ教授の教室に留学し,その指導を受けた日本人の数は,故長与又郎教授の調べによると,実に51名の多きに達し,そのうち23名までが病理学講座の主任教授となっているという.これほど多数の日本人学者を育てた外国人の学者が他にあるであろうか.筆者は寡聞にして知らない. 筆者はアショフ教授の最後の日本人門下生として,1年間をフライブルグで過ごし,つぶさにその学者としての研究態度を観察する機会に恵まれたので,この機会に教授について見聞したところを述べたいと思う.
著者
大保 義彦 上山 健一 村岡 新一郎 亀井 健二 松本 啓
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.59-63, 1991-01-15

【抄録】 口内清涼剤“仁丹”の長期間の過剰摂取により,顔面,爪床を中心に,青灰色の銀沈着を来たし,銀皮症を呈した精神分裂病の1例を経験したので報告する。入院時検査で,血中に高濃度に銀が存在しており,鼻唇溝部および左上腕内側部の病理組織検査で,真皮上層にびまん性に異色小顆粒の銀沈着が認められ,毛包周囲および汗腺基底膜部に特に著明であった。また,本症例は経過中に全身けいれん発作があり,脳波検査で,2〜4Hzの不規則な棘徐波複合が,広汎性に持続的に認められた。発作の原因としては,長年にわたる多量の銀摂取による中枢神経系への銀沈着による脳の器質的変化が考えられた。
著者
中里 良彦 田村 直俊 池田 桂 田中 愛 山元 敏正
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.263-270, 2016-03-01

Isolated body lateropulsion(iBL)とは,脳梗塞急性期に前庭症状や小脳症状などの神経症候を伴わず,体軸の一側への傾斜と転倒傾向のみが臨床症候として認められることである。iBLは脊髄小脳路,外側前庭脊髄路,前庭視床路,歯状核赤核視床路,視床皮質路のいずれの経路がどこで障害されても生じる可能性がある。本稿では,延髄,橋,中脳,小脳,視床,大脳において,どの病巣部位でiBLが生じるかを概説する。
著者
佐藤 晋爾
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.559-562, 2018-05-15

抄録 五苓散は浮腫,下痢,嘔吐などに使われ,安全性が高く高齢者にも用いられる漢方薬の一つである。今回,慢性的な口渇と抑うつ状態が五苓散により改善した1例を経験した。症例は62歳の女性。Amoxapineで小康状態となったものの,約9年間,口渇を訴え続けていた。抗コリン作用の少ない抗うつ薬に変更したが変化はなく,内科的問題も指摘されなかった。このため五苓散を投与したところ,投与1か月後に口渇は改善した。五苓散は水分バランスの調整作用から口渇に効果があるとされているが,抗うつ作用,抗不安作用を持つと考えられる茯苓を含んでおり,器質的な口渇のみならず精神的な口渇感にも効果を有する可能性が考えられた。
著者
荻野 恒一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.79-84, 1968-01-15

I.はじめに 幻覚という主題は,妄想とともに,精神病理学のもつとも重要なテーマとして論ぜられてきたが,その研究の対象は,主として精神病者(とりわけ精神分裂病者)の幻覚体験,副次的には大脳病理学の対象となるべき病者(大脳皮質の局在病変,脳底部障害,せん妄状態など)の幻覚体験であつて,例外状況におかれた正常者のそれに関しては,非常に報告が乏しかつたように思う。 だが,例外状況(孤立状況,感覚遮断など)における幻覚体験についての報告も皆無ではなく,たとえば最近,医師Lindemann, H. が単身大西洋を横断したときの幻覚体験1)2)(言語性幻聴,人間や馬の幻視)が報告され,また島崎,中根は,一医学生が夏山登山において体験した幻聴(ソプラノの歌,ラジオの天気予報など)について報告している3)。
著者
高尾 哲也 佐々木 恵美 鈴木 利人 白石 博康
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1361-1363, 2001-12-15

突発性射精は,性的刺激や性的思考とは無関係に突然に射精する状態である。1983年にRedmondら6)が初めて報告して以来,器質的脳疾患に併発した症例報告4,5)などはあるが,未だその発症機序は明らかではない。 筆者らは,13歳時より不安・緊張時に突発性射精を呈し,後に精神分裂病を発症した1例を経験した。稀な症例と思われたので,若干の考察を加えて報告する。
著者
宮北 英司
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.98-100, 2010-04-05

要旨 尿道ブジーは,尿道通過障害に対して,特に尿道炎,外傷や尿道になんらかの処置を受けた既往のあるものに対して,狭窄の計測ないしその拡張のために施行されてきた。軟性内視鏡の発達により種々の方法が開発されている。本稿では,尿道ブジーの種類,その手技のコツについて述べる。
著者
島田 信宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.440, 1997-05-25

アドルフ・ポルトマン(Adolf Portmann)というスイス人の生物学者がいました。先生は多くの生物の妊娠・分娩に関する研究からヒトを含めて,生物における各種族の位置づけなどを考案されて,現代の生物学とドイツの哲学とを結びつけた学者といわれています。牛や馬の赤ちゃんは生まれてくると,すぐに立ち上がり歩くことができます。これに比べてヒトの赤ちゃん(新生児)は,歩けるようになるには1年近くもかかります。また,鳥の赤ちゃんは卵の殻を破って出てきますが,生まれてすぐにお母さんから固形の食べものを口うつしでもらって,それを食べて,しかも消化吸収することができます。ヒトの赤ちゃん(新生児)は生まれてすぐに固形物を食べて消化する能力はありません。 こうしてヒトの赤ちゃん(胎児,新生児)と他の動物の赤ちゃんを比較してみると,ヒトの赤ちゃんは生まれて来たときには大変に未熟だといえるのではないでしょうか。ヒトは生物の中でもっとも進化した種族です。したがって頭部(脳)の占める体積が大きく,ヒトの赤ちゃんは頭でっかちです。本質的にヒトの胎児は未熟なので,できるだけ子宮の中で発育させておこうということから頭部は脳の発育のために産道を通過できるギリギリの大きさまで発育して大きくなってから生まれてきます。これに対して,母体の産道,つまり骨盤の大きさはどうでしょう。猿や類人猿の時代の4つ足の生活はもうなくなり,立位の生活を送るようになると,体位のために母体の骨盤は圧迫を受け,4つ足時代より狭く変形されてきました。その内腔が狭くなった産道に大きくなってしまった脳を入れた胎児の頭部が通るのはとても大変で,ギリギリだというのです。ですから,ヒトの分娩は他の動物からみると赤ちゃんは未熟で早産のように受けとめられるのですが,実は発達した脳(頭部)と骨盤の変形によって生物のなかではもっとも難産になっていると考えられます。だからヒトの分娩はその途中で低酸素症(胎児仮死)にもなりやすいし,分娩停止や遷延分娩にもなりやすいといえます。この事実を私たち,産科周産期医療従事者はどう考えたらよいのでしょうか。ヒトのお産というのは,ただ放っておけば生まれてくるとか,元気に「オギャー」と泣いて生まれてくるのが100%当たり前とかいった安易なものではないということを再認識しなければなりません。私たちは全生物のなかでもっとも難しいお産を取り扱い,管理する専門職なのです。このことを自覚することはもとより,世間一般の方々に,「お産て難しいことがいっぱいあるんですよ」と教育しなければならないでしょう。なぜなら,産科周産期医療は大いに発展,進歩しました。しかし,それは胎児情報や診断学,治療に関することで,人類が始まって以来,胎児は産道を通って出てくるという分娩現象については全然変わっていないのです。帝王切開術が上昇しているということも少しはうなずけます。時代とともに,文明の進歩とともに,ヒトのお産は「生理的早産」でありながら難産傾向になることは予測できます。たとえば,硬膜外麻酔を応用した分娩などは分娩を楽に終わらせる一方法として脚光を浴びています。ヒトのお産は正期産といえど「生理的早産」であることを忘れないで,今日からまた取り組んで下さい。
著者
加藤 貴志 岸本 周作 井野辺 純一 稲垣 敦
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1087-1095, 2016-12-10

要旨 【はじめに】脳損傷者の運転技能について神経心理学的検査(以下,検査)との関連が報告されているが,運転技能予測に有効な検査は確立されていない.今回筆者らは脳損傷者の運転技能と検査の関連を検討した研究を対象にメタ分析を実施し,運転技能予測に有効な検査と認知機能を検討した.【方法】MEDLINE,医学中央雑誌など8つのデータベースから脳損傷者に対し実車評価を実施しているなどの基準を満たした研究を抽出し,2つ以上の研究で用いられていた検査の標準化効果量・統合オッズ比を求めた.【結果】11,047文献から20文献が抽出された.このうち9検査にメタ分析を行った結果,Trail-Making Test(TMT)-A,コンパス,道路標識の効果量が高く,注意力や遂行機能など,複数の認知機能が運転技能予測に関与している可能性が示された.【考察】結果より運転技能予測に関連する認知機能について示唆が得られた.今後これらの知見をもとに,国内にて運転技能予測に有効な検査について検討を重ねていく必要がある.
著者
小池 隆史 高橋 優宏 古舘 佐起子 岡 晋一郎 岩崎 聡 岡野 光博
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1026-1031, 2021-11-20

はじめに 舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)はアレルギー性鼻炎の根治的治療であるアレルゲン免疫療法の1つである。本邦ではスギ花粉症に対して2002年以降に厚生労働省研究班による臨床研究がスタートし,多施設でのSLITの有効性が確かめられ,2014年にスギ花粉症に対して保険適用された1,2)。 従来の皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)と比較して,重篤なアナフィラキシー反応誘発の可能性がきわめて低く,入院を必要とせず自宅での施行が可能であることが特長である3)。しかし,局所的な副反応の発生はSCITよりも多いと報告されており,アナフィラキシーの発生報告も皆無ではないため,SLIT実施にあたっては,かかりつけ医に加え,患者自身も起こりうる副作用とその対策の概要を理解することが求められる3)。また,副反応への対応については『鼻アレルギー診療ガイドライン』にも記載されているが,副反応改善後のSLIT再開の時期や,投与量,投与法の調整などについては,まだ現場の医師の裁量によるところが大きい4)。 今回われわれは,飲み込み法にてSLITを導入後の早期にアナフィラキシーを生じたが,症状改善後に減量したうえで吐き出し法にてSLITを再開した結果,アナフィラキシーを再発せずに経過良好となった症例を経験したので報告し,文献的に考察する。
著者
植木 慎悟
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.344-349, 2021-08-15

はじめに 多くの国立大学大学院博士後期課程の学位認定として用いられる基準に,英語論文の採択が挙げられている。おそらくこれは,博士の学位を取得する上で大きな難題になっている。かく言う私も,修士課程時にトントン拍子で2つの英語論文が採択された経験から,博士後期課程でもそのハードルを問題なくクリアできるだろうと高を括っていたところ,足元をすくわれることとなった。13回ものRejectを受けたのである。当然,論文の質が原因ではあるが(研究手法しかり,文章の書き方しかり…),それでもさすがに13回のRejectを受けると,次のジャーナルの選択において路頭に迷うことになる。 世界には数多くのジャーナルがあり,その質は玉石混淆である。これまでさまざまな形で論文投稿を重ねてきた私自身の経験から,実際どのようなジャーナルを探していたか,そして,最低限どのような基準をクリアするジャーナルならば選択して問題ないかについて,主にこれから研究者をめざそうとする大学院生を意識しつつ,述べていきたいと思う。
著者
高岸 勝繁
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.140-142, 2019-02-15

Case患者:50代、男性。悪寒と発熱で受診。現病歴:もともとアルコール依存症であったが、6年前に禁酒し、以後禁酒継続できていた。また、1〜2年前よりうつ病と診断され精神科を受診していたが、自己中断している。 来院1カ月前に抑うつ症状が増悪。活動性が低下していた。3週間前より疲労感・倦怠感があり、徐々に食欲低下も進行。2日前に尿失禁し、やや興奮気味となり、来院の前日より悪寒を伴う発熱を認め、救急要請された。既往歴:うつ病、アルコール依存症。内服:現在はなし。身体所見:意識清明だが、軽度興奮・多弁。体温40.2℃、血圧156/89mmHg、心拍数140回/分(整)、呼吸数26回/分、SpO2 99%(室内気)。 眼球運動正常、瞳孔は4/4mm、対光反射は軽度鈍い。流涙や唾液分泌の亢進なし。顔面・皮膚紅潮なし。発汗あり。腹部腸管蠕動音はやや亢進。 胸部・腹部・四肢の診察にて、明らかな感染を示唆する所見は認められず。検査所見:WBC 16,940/μL(好中球88%)、Hb 16.1g/dL、Plt 23.5×104/μL、AST 263IU/L、ALT 66IU/L、LDH 1,125IU/L、ALP 241IU/L、γ-GTP 58IU/L、CPK 12,661IU/L、BUN 21.6mg/dL、Cr 1.4mg/dL、Na 132mEq/L、K 3.9mEq/L、Cl 94mEq/L、CRP 3.4mg/dL。 胸部X線、胸腹部CTでは、明らかな発熱のフォーカスとなる異常は認められない。 血液培養検査は陰性。初診時のアセスメントとその後の経過:フォーカス不明の発熱、興奮症状、頻脈、高熱、CPK上昇などより、何かしらの薬物、離脱症状の可能性を考慮した。アルコール摂取歴を再度確認するも、使用した形跡は認められなかった。家人に自宅内で薬物を探すように指示したところ、患者の上着ポケットからパブロンゴールドA®が複数発見された。 ベンゾジアゼピンを使用し経過をフォローしたところ、徐々に症状、検査所見は改善を認め、第5病日には症状の消失が得られた。 改善後にパブロンゴールドA®を見せつつ、薬物歴を本人から詳細に聴取した結果、以下の経過が判明した。●〜6年前:アルコール依存で入院。以後禁酒継続。●3年前:アルコールの代わりにパブロンゴールドA®やその類似薬を常用し始めた。連日1〜2袋、咳止め液として2本程度使用していた。●1〜2年前より無気力感や抑うつ症状が出現し、精神科にてうつ病と診断。投薬も受けたが、すぐに自己中断した。●1カ月前よりさらに無気力感が強くなり、咳止め液を1日に4本使用し始めた。さすがに使用に対して不安感があり、来院の3日前からは使用しなかった。 以上の経過より、最終的に「ブロン依存症、ブロン離脱症」と診断した。
著者
本橋 豊
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.358-362, 2005-05-01

自殺予防運動の進め方 自殺予防の問題が公衆衛生学の課題として社会的に論じられるようになったのは,決して古いことではない.わが国で本格的に自殺予防が国のプログラムとして認められたのは,2000年に開始された健康日本21においてである.その後,秋田県,青森県,岩手県,鹿児島県などで,メンタルヘルスの観点から地域の自殺予防活動が活発に展開されるようになった.このことは,わが国において,公衆衛生活動としての自殺予防対策が動き始めたと言うことができる. 一方,2004年9月にWHOは次のようなメッセージを世界に向けて発信した1).「自殺は大きな,しかしその大半が予防可能な公衆衛生上の問題である.自殺は暴力による死の約半分を占め,毎年約100万人以上の死亡原因となっており,何十億ドルもの経済的損失をもたらしている」.心の問題は個人の問題であり,行政が介入すべきでないというような意見が唱えられやすいのであるが,WHOは明快に自殺を「公衆衛生学の問題である」と断言したのである.21世紀における公衆衛生学的課題としての自殺予防対策が,国際的にも十分に認知されたと言うことができる2).
著者
赤羽根 良和 宿南 高則 篠田 光俊 中宿 伸哉 林 典雄
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.527-533, 2010-06-15

要旨:外固定後早期より体幹伸筋群の維持,強化を目的とした運動療法の実施が,脊椎圧迫骨折後の椎体の圧潰変形進行の抑止効果として有効であるか否かについて検討した.対象は骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折53例とし,外固定と運動療法を行った運動療法群26例と,外固定のみを行った非運動療法群27例に分類した.年齢,性別,骨密度慈恵医大分類,骨折形態は両群間に差はなかった.椎体の圧潰率は,受傷後3か月,6か月において運動療法群で有意に低い値であった.Th12,L1の胸腰椎移行部での椎体の圧潰率は,受傷後6か月において運動療法群で有意に低い値であった.脊椎圧迫骨折後の治療の原則は,早期診断,早期外固定により,椎体の圧潰変形の進行をできる限りくいとどめることである.体幹伸筋群の筋力低下は,その後の脊柱後彎変形を加速化させる要因となるため,外固定後早期から体幹伸筋群を維持,強化し,脊柱姿勢を維持しておくことが重要である.今回実施した体幹伸筋群の強化方法は,椎体の圧潰変形の進行を抑止する,有効な保存療法の手段と考えられた.
著者
笠原 諭 國井 泰人 丹羽 真一
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.76-79, 2017-01-25

なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか 慢性疼痛は心理社会的要因がその発症や維持に関与していることが多く,患者の訴える痛みは器質的な要因での説明が困難で,鎮痛薬などの薬物療法だけで改善させることが一般的に難しい.また近年は,そのような慢性疼痛に対して認知行動療法の必要性が唱えられているが,それを実践していく際に,認知行動療法の技術的な問題以外にも慢性疼痛患者に特有の難しさがある.本稿では,なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか,それにどう対処したらよいのか,これまでに報告されている知見と筆者らの臨床実践に基づいて述べてみたい.
著者
市川 康夫 平田 一成 新井 寿枝 酒井 正雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.801-806, 1959-11-15

Ⅰ.まえおき わが国の過去の脳炎流行を振返つてみると,まず1918年のいわゆるスペイン風邪の世界的流行に引続いて起つたEconomo型類似脳炎の多発が挙げられる。文献によると,それは,若年者に多く発病し,経過は緩慢または潜在性で,多くは嗜眠状を呈し,複視が認められ,脳膜症状は軽度であつた1)2)3)4)。それらは,「嗜眠性脳炎」の流行として記載されたが,その病原体に関しては不明のままである。また周知のように1948年には,東京を中心として日本脳炎の全国的流行がみられた5)。ところで日本脳炎とEconomo型脳炎との異同については,Economo型脳炎の病原が不明であり,その後この型の脳炎の流行をみないので,今日未解決のままである。しかしいずれにしても臨床的には両者の病像はかなり異つているとされている5)6)。すなわち流行期によつて多少の差はあるが,Economo型脳炎が成年者を侵すのに対して日本脳炎は小児と老人に好発し,経過は遙かに急激で,1週間前後の高熱期を有し,意識溷濁がより強く,譫妄と昏睡が認められる。またEconomo型脳炎と異つて眼症状は軽度で,複視はまれであつて,脳膜症状が比較的著明である。流行状態は,Economo型が小流行であるのに対し,日本脳炎はしばしば大流行を示す。以上がわが国の流行性脳炎のおもなものであるが,その他に地域的な日本脳炎の流行,季節はずれの日本脳炎の散発,ポリオヴィルスによる脳炎の発生,また冬季の脳炎の散発7)などが報告されている。ところが独逸でも最近インフルエンザ流行に一致して多発した脳炎の臨床報告8)があつたが,それはわれわれの経験に甚だ近いものであることは面白い。 さて,周知のように1957年の春から秋にかけてA57型インフルエンザの全国的流行があつた。この流行と時を同じくして脳炎の疑いのおかれる患者が多数発生したとみられるが,われわれはこの時期にかなり著明な精神症状を呈する患者を少なからず診察する機会をえた。これら患者の多くは,急性期にはインフルエンザと診断され内科的に治療されたにもかかわらず,月余にわたつて精神神経症状が治癒せず,当科を訪れるにいたつたものである。これら患者のある者では,長期間にわたつて,幻聴,幻視,妄想などが前景に出て,自閉的で寡言,顔貌は硬く,支離滅裂で一見精神分裂病を想わせるほどであつた。こうした極端な例はそれほど数多くはなかつたが,これらの患者とインフルエンザ流行との関連は,われわれのヴィルス学的追求が満足とは言えないながら,多くの示唆を含んでいた。われわれは,これらの経験を過去の流行性脳炎の臨床と比較しながら,二,三の考察を加えてここに報告する次第である。
著者
須賀 英道
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.1019-1027, 2017-11-15

はじめに 統合失調症が日本で減少してきたことや軽症化もみられることは,多くの精神科医が指摘していることである。これは日本に限ったことではなく,海外でも統合失調症は消えて行くのではないか5)とまで言われて久しい。多くの精神科医がその傾向を感じる中で,日本では根拠のないことは何も言えないといった風潮がある。日本では最近の疫学調査が十分なされておらずエビデンスがないため当然かもしれない。しかし,この見方はエビデンス医学の視点であり,科学者にとっては手法として今後も続けるべきであるが,臨床現場で精神科に従事する医師の誰もがあるべき見方でもないだろう。 逆に,臨床家がエビデンス手法の束縛によって患者と接する日頃の臨床の場で何も言えなくなっていく30)ことのほうが怖くもある。村上陽一郎の言葉を借りれば,精神科医には科学者もいれば,臨床家もあり得るということである。一人の臨床家としてこの場を借りて,誰もが感じている統合失調症の減少と軽症化について言及し,今後の疫学調査など研究にも波及することを望むところである。 最近の臨床現場で,統合失調症の初発患者との出会いが四半世紀前に比して少なくなり,また軽症化していると,多くの精神科医が感じているのは事実である。これは,気分障害や,不安障害,発達障害,認知症の患者に接することが増え,統合失調症とのかかわりの頻度が相対的に減ったこともある。また,入院の必要とされるような精神病症状の目立つケースについては,行政区域内で規定された病院に受診となるようなルートの確立によって一極化が生じ,一般精神科医のもとに来なくなったこともあろう。こうした最近の流れが,減少と軽症化のイメージをより強めているとも言える。ここでは,一元的な見方でなく,さまざまな視点から統合失調症の減少と軽症化について考察してみたい。
著者
北畑 裕子 岡田 知善 鈴木 啓之
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.132-134, 2007-02-01

要約 53歳,女性.モモ,梅,グレープフルーツの摂食でアレルギー歴がある.黒酢に漬けた梅を摂食した直後より,全身に膨疹が出現し,次いで呼吸困難と血圧低下もみられ当科を受診した.サクシゾン®の点滴と酸素投与で症状は速やかに消退した.IgE RASTではリンゴ,オレンジ,シラカンバ,ヒノキが陽性であった.プリックテストでは梅(黒酢漬け),梅干,モモ,リンゴ,オレンジで陽性であった.黒酢は陰性であった.既往に梅以外のバラ科の果実でもoral allergy syndrome (OAS)を生じており,花粉症もあるため両者の共通抗原により生じたOASと考え,検討した.