著者
原 正彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.864-867, 2021-05-10

Point◎仮想現実(VR)技術の医療応用は30年以上の歴史があるものの,その効果はきわめて限定的であった.◎われわれは大学での産学連携活動を通して,まったく新しいアプローチのVRリハビリテーション用医療機器の開発に成功した.◎このVR機器「mediVRカグラ®」は歩行(姿勢)・上肢・認知・内耳機能障害および疼痛の改善手段として応用が進んでいる.◎近年では病院などでのリハビリテーションにおける新型コロナウイルス感染症対策としても注目されており,また遠隔リハビリテーション機器としての応用も進められている. *本論文中、関連する動画を見ることができます(音声なし,2023年4月30日まで公開)。
著者
大滝 倫子 谷口 裕子 牧上 久仁子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.692-698, 2005-06-01

要約 高齢者施設で疥癬患者74例にイベルメクチン200μg/kg,1週間間隔で2回投与した結果,9例(12.2%)が未治癒,4か月後までにさらに9例(12.2%)に再発を認めた.この結果より,同剤は有効であるが,高齢者では再発の可能性があり,長期間の観察が必要であることがわかった.予防的治療として無症状者150例に1回投与を行ったが,4か月までに7例(4.7%)の発症を認めた.この結果より,高齢者では予防的治療でも2回投与が望まれる.職員102名は症状の有無に応じて1~2回投与を受けたが未治癒,再発,新たな発症はなく,健常者には極めて有効であることがわかった.入居者,職員ともに投薬前後での検査値に変動はなく,皮疹の増悪,そう痒の増加などの副作用も認められなかった.なお,イベルメクチンは疥癬の保険適用がないため,インフォームドコンセントを得たうえで投与した.
著者
山田 晃司 橋本 竜作 幅寺 慎也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.677-681, 2020-07-10

要旨 【はじめに】皮質下性失語に伴う構音の障害は自発話で顕著に出現し,生活場面で意思疎通制限を生じる.今回,軽度の皮質下性失語症例に,伝えたい内容の要点となる単語を事前に書き出し,その後に発話する「メモ発話」という代償手法を導入し,その効果を検討した.【対象】71歳,右利き,男性.軽度の皮質下性失語を認め,音の歪みを中核とする構音の障害であった.【方法と結果】4コマ漫画の説明課題を用い,2条件(自発話とメモ発話)の実質語数と音の誤り,聴覚的印象評価について比較した.その結果,自発話に比べ,メモ発話で実質語の数が増え,音の誤りも有意に減少した.さらに聴覚的印象評価もメモ発話で有意に発話の違和感が少なかった.【結論】自発話に比して音読で構音が改善し,かつ自発書字がある程度可能な症例には「メモ発話」を導入することで,利用場面は限られるものの,コミュニケーションを改善できる可能性がある.
著者
志水 太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2133, 2020-11-10

生坂政臣先生門下の鈴木慎吾先生のご本が出たということで,とても楽しみに拝読させていただきました.千葉大学の総合診療科は「診断推論学」を屋号にされることからも,最近では同門の鋪野紀好先生も診断学の探求を中心に同分野の本を出版されるなど,日本の診断学シーンを牽引される総合診療科だと思います.読後,その伝統のエッセンスが本書に満ち満ちていることが実感できました. 本書が画期的であり,また多くの若手にとって希求の書である理由は何でしょうか.それは,外来診療の診断学の原則論に言及した本であることが第一と感じます.鈴木先生は本書を通して何を伝えられたかったのかを考えました.それは,多面において教育リソースの限られた日本の臨床教育現場において,最も難しいセッティングの1つである外来での診療における指導・学びの羅針盤を提示されたかったのではないか,と想像します.外来・救急・病棟という“3大臨床現場”のうち,キャリアの初期であまり立つことができないのが外来です.(おそらく)日本の多くの現場では,2年間の臨床研修を終え,3年目になれば外来の枠を持たされることが多いです.連続性のある病棟のケアとは異なり,リアルタイムでの即応性が求められ,かつ外来と外来の「ドット」同士をつなぐような非連続の時間軸で勝負していかなければならないのが外来におけるケアの難しさです.臨床実習の学生や臨床研修の初期臨床研修医は,制度上外来に立つことが多くなってきた現在,一方ではそこの訓練に必要な指南書は国内にほぼ存在しません.そこに登場したのが本書というわけです.そして,皆が潜在的に期待していた「型」が提示され,しかもそれが症状ごとにアレンジされた型であれば,これに比肩する書籍もそうないのではないかと感じます.
著者
内海 雄思 井関 栄三 村山 憲男 一宮 洋介 新井 平伊
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.615-619, 2010-06-01

はじめに インフルエンザは伝染力が強く,特に65歳以上の高齢者,乳幼児,免疫低下状態の患者,糖尿病など慢性代謝性疾患の患者を含むハイリスク群では,重篤な合併症を引き起こして死亡する危険が増加する。インフルエンザ感染の予防にはインフルエンザワクチンの接種が有効とされ,毎年流行が予想されるインフルエンザウイルスに対してワクチンが製造されている。インフルエンザワクチンには,ハイリスク群がインフルエンザに罹患した場合,肺炎など重篤な合併症の発症を抑え入院・死亡などの危険を軽減する効果が認められており1),社会の高齢化が急速に進んでいるわが国でも,厚生科学研究の結果2)をもとにインフルエンザワクチンの接種が推奨されている。 インフルエンザワクチンは1971年以前には全粒子ワクチンが使用されていたが,1972年からは精製したウイルス粒子をエーテルによって部分分解した不活化ワクチンが登場した。これに伴い発育鶏卵の品質管理,精製技術の改良や発熱物質の除去などの技術的進歩によって,発熱や神経系の副作用は大幅に減少した。しかしながら,極めて稀ではあるが,Guillain-Barre症候群(Guillain-Barre syndrome:GBS)やacute disseminated encephalomyelitis(ADEM)など自己免疫機序が推定される脳神経障害を生じて後遺症を残す例も報告されている3,4)。 今回われわれは,インフルエンザワクチン接種後に単純ヘルペスウイルスによると考えられる辺縁系脳炎をきたした症例を経験した。インフルエンザワクチン接種後に生ずる脳神経障害は重篤な後遺症を残しかねず,最悪の場合死に至ることもある。これらを未然に防ぐためにも,インフルエンザワクチン接種後の副作用の発症機序を個々の症例ごとに検討することは重要である。
著者
能登 勝宏 柏原 早苗 庄司 和行 小久保 武
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1045-1048, 1999-09-15

アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は,イントロン16に存在する287塩基対の有無により挿入(I)アレル,欠失(D)アレルと表現されII,ID,DDの3型が存在する.今回筆者らはインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者において,この遺伝子型と合併症との関連を検討した.正常対象群とNIDDM患者の遺伝子型頻度はほぼ同じであった.糖尿病性網膜症,高血圧症合併患者においては非合併患者と比較してアレル頻度に差はなかったが,糖尿病性腎症,冠動脈疾患合併患者は有意にDアレル頻度が高かった.このことはNIDDM患者における腎症および冠動脈疾患の発症とDアレルの関与を示唆した.
著者
黒髪 恵 今辻 由香里 佐久間 良子 有田 久美 皿田 洋子
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.831-836, 2007-09-25

はじめに 人間が「泣く」ことの意味は,心理学的には,感情の蓄積を浄化するために泣くカタルシス理論がある。また,相手の反応に対して行動で反応し欲求を満たすという行動理論と,過去の記憶によって同じような事象が起こると泣くという認知理論からも説明されている。つまり,人間にとって「泣く」ことは,情動表出の一つの行動であり,情緒安定のために必要な行動であるといえる。 看護学生は臨地実習中,「泣く」ことが多いように思える。指導者に聞くと,泣く場面には一貫性はなく,優しい言葉をかけても,厳しい言葉をかけても,挨拶をしただけでも「泣く」ことがあるということであった。学生は18歳以上であり,発達段階から考えても,安易に「泣く」ことは考えにくい。したがって,看護学生の「泣く」行動には,何か意味があるのではないかと考えられた。 看護学生の臨地実習中に「泣く」ことに関する過去の研究で,寺本1)は,学生が泣く意味は,患者?学生関係の悩み,学生自身の課題,臨床指導者の非教授活動であったと述べている。しかし,これは教育者を対象にした調査であり,看護学生が「泣く」に至る構造は明らかにされていない。 そこで今回,学生を対象にどのような場面で泣いているのか,学生が「泣く」ことの裏にどのような心理的構造が潜んでいるのかを調査することで,臨地実習での効果的な指導方法を得ることができると考えた。
著者
池田 啓浩
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.441-442, 2020-03-10

患者 17歳,男性主訴 だるくて勉強ができない.
著者
志村 哲祥
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.415-426, 2020-04-15

抄録 不眠は非常に一般的な問題であるが,不眠症状が存在するとしてもただちに不眠症とは診断できず,睡眠薬による薬物療法は治療の第一選択とはならない。はじめに睡眠の状態の把握や治療要否の検討,各種疾患の鑑別が必要である。さらに,多くの睡眠障害においてベンゾジアゼピン受容体作動性の睡眠薬は適応とはならず,効果も期待できない。他の睡眠障害が否定され,不眠症であると診断し,睡眠衛生指導でも効果が乏しい場合には薬物療法が検討される。ベンゾジアゼピン受容体作動薬はさまざまな副作用や依存形成リスクが存在し,リスク・ベネフィット比が不良であるため,処方はきわめて慎重になされるべきであり,減量する際にも漸減法を実施するなどして,反跳性不眠や離脱が生じないようにする必要がある。
著者
中込治 神谷茂編
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
2015
著者
副島 秀久
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.789-792, 2016-10-01

熊本地震から4か月が経とうとしている.復興は徐々に進みつつあるが,主要インフラである幹線道路,特に国道57号線の再建は相当の時間を要すると思われ,このため市内の渋滞も激しく,さらに建築関係の資材高騰と人手不足が重なり,熊本人にとってはひときわ厳しく暑い夏となっている.こうした中で被害状況や災害対策の検証がさまざまな視点で進められつつあるが,現時点での経過と検証の一部を私見を交えて報告したい.
著者
山本 隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.694-700, 1999-10-10

味覚は嗅覚とともに他の感覚とは異なり快・不快の情動性に訴える要素が強い。味覚性情動の処理に重要な役割を果すと考えられている扁桃体の働きをいくつかの側面から考察した。扁桃体は味覚性入力を受けたあと,その情報の価値を生物学的観点から判断する。その結果,快(おいしい)・不快(まずい)が実感されるのであるが,その脳の仕組みについてわれわれの行動薬理学的実験をもとに考察した。また,最近のヒトの非侵襲的脳機能計測法による扁桃体の応答特性についても言及した。さらに,味覚をもとにした学習としての味覚嫌悪学習や味覚連合性嗅覚学習における扁桃体の重要性を筆者らの実験結果を紹介しつつ解説した。
著者
奥村 泰之 藤田 純一 野田 寿恵 伊藤 弘人
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.79-85, 2010-01-15

はじめに 治療効果研究成果に基づいて治療ガイドラインが作成されるなど,精神科領域においても,「効果が十分に確認されている,さまざまな治療やサービス」15)である科学的根拠に基づく実践(evidence-based practice;EBP)が普及しつつある。EBPの必要性は行政機関や学会などで支持されている。 しかし,EBPは実際の診療にまで浸透していないという問題が提起されている9,11,15)。このような,EBPの普及と実施を阻害する主要な原因は,「EBPへの態度」であると指摘されている16)。たとえば,統合失調症患者への抗精神病薬の処方は単剤およびクロルプロマジン換算で1,000mg以下であることが治療ガイドラインで推奨されている13)が,EBPへの態度が不良であると,このガイドラインに従わないという研究もある10)。 このように,EBPへの態度を測定する試みはこれまでいくつかの研究でなされており,精神科医の治療ガイドラインへの態度10,19),双極性障害の臨床家の治療ガイドラインへの態度17),臨床心理士の治療ガイドラインへの態度5),物質関連障害の臨床家が特定の科学的根拠に基づいた治療を行うことへの態度12)などが測定されてきている。しかし,従来のEBPへの態度を測定する試みは,ある特定の専門家や特定の疾患を対象としており,より一般化した態度を測定することが内容的に難しいという問題があった。 Aarons1)が開発した,「科学的根拠に基づく実践を適用することへの態度尺度(evidence-based practice attitude scale;EBPAS)」は,特定の専門家や特定の疾患に限定せずにEBPへの態度を測定することが可能な,数少ない尺度である。EBPASは,15項目,5段階評定,4下位尺度から構成されている自己記入式尺度であり,探索的因子分析1)と確認的因子分析1,3)により,EBPASの下位尺度は以下の4つから構成されていることが明らかにされている。 (1) 要請(requirements):EBPを実施する要請がある時に,EBPを適用する可能性(例:あなたにとって初めての治療や介入の訓練を受けたとして,その治療や介入を上司から命じられた場合に,その治療や介入を利用する可能性を答えてください)。 (2) 魅力(appeal):EBPへの直感的な魅力(例:あなたにとって初めての治療や介入の訓練を受けたとして,その治療や介入が直観的に魅力的だと感じた場合に,その治療や介入を利用する可能性を答えてください)。 (3) 開放性(openness):新しい実践への開放性(例:クライエントを援助するために,新しいタイプの治療や介入を用いてみたい)。 (4) かい離性(divergence):研究者が開発した介入と現状の実践との間の認知のかい離(例:研究に基づいた治療や介入は,臨床的に用をなさない)。 2004年に開発されたEBPASは,2008年末までに,筆者らの知る限り,9つの論文で利用されており1~4,6~8,20,21),その応用可能性の広さのため,徐々に普及が進むことが考えられる。そこで,本研究では,EBPAS日本語版を開発し,その心理測定学的特徴を検討することを目的とした。
著者
藤本 亘
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.92-96, 2012-04-10

要約 酒皶は顔面にほてり,潮紅を繰り返すことを特徴とする慢性疾患であり,患者のQOL低下に対し皮膚科医が責任をもって治療すべき疾患である.コクランシステマティックレビューで酒皶に有効と判定されているのはメトニダゾール外用,アゼライン酸外用,および低容量ドキシサイクリン(40mg)内服である.本邦では酒皶の治療に有効な外用薬が保険適用薬として処方できないため,酒皶に対し適切な治療が行いにくい状況にある.酒皶様皮膚炎の発症を減らすためには,皮膚科医が酒皶に対しエビデンスに基づいた治療を行えるようにこの状況を変えることが急務である.
著者
渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.1193-1201, 2018-11-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,原因不明の激しい疲労・倦怠感とともに,労作後に増悪する極度の倦怠感,微熱,疼痛,脱力,認知機能障害,睡眠障害などの多彩な症状が長期にわたり継続し,日常生活や社会生活に支障をきたす疾患である。私たちは,この疾患に対し,血液因子や機能検査による客観的な疾患バイオマーカーを探索するとともに,PETやMRI,MEGなどを用いたイメージング研究により,ME/CFSの脳科学を推進してきた。