著者
前田 ひとみ
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.23-29, 2000-02-15

はじめに アメリカ合衆国の首都であるワシントンD.C.に隣接するメリーランド州ベセスダに,米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:略称NIH)のメインキャンパスがある。NIHは衛生機関の1つであるが,アメリカ合衆国最大の生物医学研究所でもある。昔,ゴルフ場だったというベセスダのキャンパスは300エーカー(1.2km2)以上の広さをもち,木々や芝生の緑に囲まれ,りすや鹿も訪れる自然豊かなところである。 NIHには博士取得者が約6,000人働き,年間7,000以上の論文が世に送り出されていると言われる。NIHは,ベセスダ以外にもフレデリック,バルチモア,ロッキーマウンテン等にも研究施設をもち,おそらく世界最大規模の生物医学研究機関といっても過言ではないであろう。また外国人研究者として日本人研究者も常に400人以上がNIHで働いていることから考えると,日本人にとってもNIHは最大の生物医学研究施設と言えるのではないだろうか。
著者
杉浦 元亮
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.223-230, 2009-03-15

はじめに 「自己と他者」という概念には,わかるようでわからない,曖昧なところがある。 自分の身体,自分の顔,自分の名前は明確に他者の身体,他者の顔,他者の名前,と区別ができる。その区別ができなくなったら大きな問題だし,そういう意味で自己と他者を区別する能力というものが脳に存在することは,誰もが認めるであろう。 では,「自分の家族」とか「自分の友人」はどうであろうか。「自分の」というのだから「自己」の側にいるのかもしれないし,明らかに自分とは異なる人格を指しているのだから「他者」なのかもしれない。この「自分の家族」や「自分の友人」を,そうでない人々と区別する能力は,自分の身体や顔や名前を他者のそれと区別する能力と,やや趣が異なりそうだ。 さらに,こちらはどうだろう。多くの若者が「本当の自分」がわからないことに焦り,本当の自分を探すために,(多くの場合比喩的な意味で)旅に出る。若者が見失ったり,発見したりする「本当の自分」とは,いったい何なのか。この意味での「自己」に相対する「他者」とは何なのか。この意味で自己と他者を区別する能力について考えるためには,また別の考え方が必要そうである。 このように「自己と他者」は,少なくとも単一の明確に定義できる概念ではない。そのこと自体は,心理学・哲学では昔から自明のことで,多くの論者が複数の「自己」や「自己と他者の区別」(の概念)について,盛んにそれぞれの立場と動機でさまざまな分類・モデルを提唱してきた6)。その数多くの分類・モデルそれぞれは,それぞれの立場で合理的であり,合目的的である。しかし筆者が,神経科学や認知科学の研究者という立場で脳内基盤を研究する目的で眺めたとき,「自己」や「自己と他者の区別」という概念を包括的に明確に解剖した分類・モデルは(筆者の知る限り)いまだ確立されていない。 本稿で筆者は,脳機能画像研究者としての立場から,「自己と他者の区別」の脳内基盤を解明する目的で,「自己と他者」の多因子モデルを提案する。脳機能画像研究者の立場で「自己と他者の区別」の脳内基盤を解明するということは,「自己と他者の区別」を実現する脳内情報処理をできる限り明確に定義し,これに関与する脳領域あるいはその複数の脳領域で構成される脳ネットワークを明らかにするということである。したがって,ここで提案するモデルは,次の3つの条件を満たしている必要がある。まず,①「自己と他者の区別」を独特の脳内情報処理として定義・説明できなければならない。それから,②その情報処理能力が特定の神経基盤に依存している必要がある。この2つは具体的には,中枢神経系の障害(できれば特定の脳領域の損傷)によってその脳内情報処理能力が特異的に欠落している(と考えられる)例を挙げられること,で同時に満たされる。そして,③脳機能画像実験の課題操作でその情報処理を作動させたり,抑制したりすることが可能,あるいはその情報処理能力の個人差を定義し,なんらかの心理測定法で量的評価ができること,が必要である。 これら3つの条件は,精神疾患の臨床と相性がよい。精神疾患の症状・障害の多くはなんらかの意味で「自己と他者の区別」の障害としてとらえることが可能である。条件1と2を満たすモデルがあれば,とらえどころのない精神疾患の症状・障害を,脳内情報処理能力の欠落/低下の概念で明確に定義・説明することができる。また,症状・障害の原因となる神経基盤から,その分子基盤(障害の原因となっている蛋白や遺伝子)を特定できる可能性が出てくる。そして条件3を満たせば,脳機能画像を用いた診断の可能性が出てくる。 筆者は,これまで自己顔認知の脳メカニズムについて,脳機能画像を用いた研究を行ってきた。その中で,自分の顔の認知に特異的な認知処理が単一の脳内情報処理や脳ネットワークでは説明できないことを実感した。「自己」について神経科学的に説明するためには,より包括的な「自己と他者の区別」の多因子モデルが必要であると確信するに至った。本稿では,まずこれまでの自己顔認知研究のあらましをまとめ,そのうえで現在筆者の妄想する「自己と他者」の多層性モデルを説明し,最後に「自己と他者」をめぐる脳画像研究の今後について述べる。
著者
堀内 圭輔 千葉 一裕
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.816-818, 2018-09-25

なぜ臨床家が英語論文を書くのか なぜ英語論文を書くのか. “教授に言われたから”,“大学に残りたいから”,“専門医取得に必要だから”,“何となく格好いいから”,理由やきっかけは何でも構いません.兎にも角にも,どんなに素晴らしい発見をしても,その知見を広く伝え,後世に残さなければ無意味です.それには論文は必須のツールです.また,知見をより広く伝え残すことを考えれば,当然英語になります.“自分は臨床家を目指すのだから,論文は必要ない”,と言う声も聞こえてきそうですが,本当にそれでよいでしょうか.
著者
田内 悠太 荻野 智之 森沢 知之 大松 重宏 坂本 利恵 和田 陽介 道免 和久
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1099-1105, 2018-11-10

要旨 【目的】介護支援専門員(ケアマネジャー,care manager;CM)を対象に,心不全疾患理解度とケアプラン状況を把握することを目的とした.【対象・方法】2016年9月時点での兵庫県丹波医療圏域内に登録してある60か所の事業所に在籍しているCM 152名に対し,郵送法にてアンケート調査を実施した.【結果】回収率は71.7%.CMの心不全の疾患理解度は高かった(72.0%)が,ケアプラン作成においては「運動・活動量」の症状を反映しておらず,心不全モデルケースに対して身体活動量を維持・向上させるための運動支援系サービスの選択は少なかった.医療情報の収集では医師からは直接的に得ていたが,コメディカルからは書面上で間接的に得ており,情報提供書の有効性が高かった.【結語】CMの心不全疾患理解度に比して運動支援系サービスの選択が少ない原因として,身体活動量を含めた運動療法の重要性の認識が低く,在宅心臓リハビリテーションを推進するうえでの課題になっていると考えられた.
著者
津金 亜貴子
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.861-863, 2007-10-25

日本全国をまわり,「老い」をテーマにお年寄りの写真を撮る人がいると聞いて会いに行った。山本宗補さんは1985年以来,フォトジャーナリストとしてミャンマー(当時ビルマ),イラク,フィリピンなど世界各地で不条理な死を見つめてきた。たった1枚のスチール写真が,何十万,何億人に語りかける。喜怒哀楽やさまざまな感情につつまれた人間の「生」を四角い枠に切り取るとき,そこに込める山本さんの思いを聞いてみたかった。待ち合わせ場所に現われた山本さんは,人懐っこそうな笑顔を見せた。
著者
小谷 俊一 近藤 厚生 瀧田 徹
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.39, no.9, pp.785-787, 1985-09-20

緒言 近年,脊髄損傷者の整形外科的治療,尿路管理,リハビリテーションなどの進歩は目ざましいものがあり,これらに伴い,彼らの社会復帰や雇用,さらには結婚といつた問題がクローズアップされてきた。そして彼らの中には現実に実子を希望する者も存在する。われわれはこれら実子希望の男性脊損者に対してGuttmann & Walsh1)により考案されたクモ膜下腔硫酸ネオスチグミン注入による人工的射精誘発法を応用し,本法により採取できた精液により配偶者間人工授精(artificialinsemination with husbands semen,以下AIHと略す)を施行してきたが,今回この方法により妊娠,分娩に成功した1例を経験したので報告する。
著者
片桐 一元
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.94-98, 2014-04-10

要約 多形慢性痒疹は掻痒が強く,難治であるため皮膚科外来診療の中では最も避けたい疾患の1つとされている.筆者は多くの同症患者の診療を通じて独自のステップアップ式治療アルゴリズムを作成し,実際の診療に用いている.原則的に十分量の外用を試み,単剤の抗ヒスタミン薬,ロラタジン(クラリチン®)とオロパタジン塩酸塩(アレロック®)を中心とした抗ヒスタミン薬の2剤併用,マクロライド系抗菌薬の追加,紫外線照射もしくはシクロスポリン内服とステップアップする.自験例102名の解析では68%は抗ヒスタミン薬の2剤併用で,92%はマクロライド系抗菌薬の追加までで安定した状態となった.難治性疾患に対して明確な治療ステップを準備することは,苦痛の強い患者に安心感を与えるだけでなく,医療者にも余裕を持たせてくれる.また,本疾患の治療アルゴリズムは他の痒疹やアトピー性皮膚炎治療に応用することも可能であり汎用性を有している.
著者
福永 肇
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.833-837, 2006-10-01

今月は診療報酬債権を担保にして資金調達をするスキーム,病院の不動産証券化スキーム(REIT),不動産担保と将来の診療報酬を信託受益権にして借入をした徳洲会グループの病院全事業証券化,自治体病院の民間資金調達スキームである PFI の 4 つの概要を解説します. ■診療報酬債権を担保にするスキーム 1.診療報酬債権譲渡担保融資 9 月号では診療報酬債権を証券化方式またはファクタリング方式にて流動化するファイナンスを解説しました.診療報酬債権を活用する病院ファイナンスには,この “流動化” に加え,診療報酬債権を “譲渡担保” にして資金調達を行う方法もあります.譲渡担保では,債権を担保するために,売掛金である診療報酬の所有権を病院から金融機関に法律形式に従って移転登記します.そして被担保債権の弁済をもって,その権利を返還する形式の担保となります.譲渡担保は民法上の担保権ではなく,判例法上での担保権です.
著者
菊池 良和
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.120-124, 2017-02-20

POINT ●診察時には,吃音が出ないことが多い。 ●自然回復率は,男児は3年で約6割,女児は3年で約8割である。 ●成人になると約4割は社交不安障害に陥るので,発話意欲を損なわないことが大切である。 ●180度方向転換した,吃音の歴史的変遷を知っておくことが大切である。
著者
半沢 直美
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテ-ション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.419-423, 1999-05
被引用文献数
1
著者
和田 忠志
出版者
医学書院
雑誌
訪問看護と介護 (ISSN:13417045)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.320-325, 2002-04
著者
林 暲
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.6, no.6, pp.475-476, 1964-06-15

さる3月24日,虎の門の付近に所用があつてタクシーで米大使館にそつた霊南坂を下りかけると坂下の方に車や人が集まつて何やらあわただしい空気である。いそぐままに坂下近くで車をすてて歩きながら聞くともなしに耳にしたところではライシャワー大使が刺されたという。虎ノ門病院に近い目的のビルについて,病院に収容されたこと,傷は脚で全治2週間くらいという話をきかされた。午後1時ごろのことである。夕刊で犯人は精神障害者らしいということを見てやれやれそうかと思つたが,さて問題はそれからであつた。国会会期中のことでもあり,当然本件についての質問が集中しそこに当局の思いつきのような逆行的な答弁の現われる傾向も見られた。新聞,週刊誌などには例によつて患者をすべて野獣視する野放しということばを用い,責任の追求はこれまで精神衛生的施策をなおざりにした厚生当局よりも警察,治安対策の方面に集中し,政府も早川自治相兼国家公安委員長に詰腹を切らせることで当面を糊塗した。また犯人の実態についての確かなことの解らぬままに,変質者,精神異常,分裂病,また精神薄弱といつたよび方がされ,また林髞氏のような非専門家が例のごとき変質者危険論,隔離論を語る始末で,全体として警察行政的な対策のとびだす恐れも十分うかがえたので,3月26日に厚生省精神衛生課長をつかまえて,このさい精神衛生審議会にこの事態についての対策を諮問するなり,あるいは審議会が独自で意見の具申をするようにできまいかと申入れた。とくに厚生省としては犯人の患者の実態,家人が一度精神病院に入院させながらその後家庭看護に終始してきた事情などについてよく調べておくべきであり,犯人の身柄は検察庁におさえられて専門家に見せられないにせよ,家人の協力を得て発病以来の経過をきぎ,家人が最初の入院以后精神病院に不信の念をいだくようになつたらしい事情などを確かめる必要があるといった。課長はいずれの提案に対しても難色があり,どうなるかと思つたが,審議会はともかく4月2日にとりいそぎ開催されることになり,これには厚生大臣も出席するということになつた。
著者
秋山 里子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.74-79, 2005-05-01

1.はじめに 秋山里子の自己病名は「人間アレルギー症候群」である。「人間アレルギー症候群」とは、自分も含めた「人間」に対して起きるアレルギー反応である。抗原-アレルゲンと化した人間に接するとさまざまな症状が出現し、生きていくことが困難になる。そして、外敵から自分を守る「免疫のシステム」が混乱を来たし、敵味方の識別ができなくなり、無差別に人間に反応する。その結果、この8年間で仕事を12回、転居を14回行ない、常に自分の居場所を探し求め続けてきた。 この人間アレルギー症候群は、図1のような多彩な症状をもたらす。その症状のベースには、巨大な自己否定の感情が地下水脈のように張り巡らされている。だから生きるテンションが低い自分がみんなの中にいると、周りの人間のテンションも低くしてしまうように感じて申し訳ない気持ちになり、職場の輪の中にいられなくなる。 人をまるで「異物」と感じ、はじこうとする身体の反応を明らかに意識するようになったのは、19歳のときであったが、今思うと高校1年生のときにすでにその兆候があり、みんなが楽しみと思うことを楽しむことができない自分がいた。そのとき以来、脳裏には常に「死」という言葉が浮かび、周りに合わせることで必死になっていた。 秋山里子は朝日新聞の連載で浦河を知り、昨年10月に来町し母と2人で暮らすようになった。浦河に来ても相変わらず引きこもる自分に、母は「自殺行為」を恐れ、外出するときにはいつも包丁をバックにしまい家に置かないようにしていた。 しかし、しだいに秋山里子は1人でいる時間が虚しくなり、自然と人が恋しくなり、日赤病院のデイケアに通い、ベてるのメンバーと触れ合うようになる。そして同じような苦労をかかえている仲間と出会うなかで、「人間アレルギー」というテーマが見えてきた。