著者
新井 保久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.963-969, 2008-11-15

Q1.リハビリテーション室内の機器は感染の橋渡しとなりうるか? A.機器による感染リスクは低いが,感染源,感染経路対策は必要である. 理学療法で用いることの多い機器・器具は,次の4群に分けることができます(図). A群:治療台や斜面台など(主に患者さんの身体が接する機器) B群:平行棒や自転車エルゴメーターなど(患者さんの手や身体の一部が接する機器) C群:砂のうや鉄アレイ,T字杖など(患者さんが持ったり身体に接する器具) D群:ホットパック機器や低周波機器など(間接的に接する機器)
著者
吉田 耕一郎 小司 久志 二木 芳人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1061-1066, 2008-12-15

Q1.原因微生物,感染経路・感染源とは? A.リハビリテーション(以下,リハビリ)の臨床現場で感染症の原因となりやすいものには,院内感染症,および市中感染症の主要な原因微生物の多くが含まれる.なかでも重要な微生物としては,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),耐性緑膿菌,結核,ノロウイルス,インフルエンザウイルスなどが挙げられる.感染経路には空気(飛沫核)感染,飛沫感染,接触感染の3経路がある.空気感染では,飛沫核となった微生物が空気中を浮遊して遠くまで漂い伝染を来す.飛沫感染では,原因微生物を含んだ水分粒子が大きく,落下速度が速いため,通常1m以上には飛散しないとされる(図1).接触感染では,原因微生物が飛散することはないが,患者や患者の排泄物,衣類,医療機器,病室環境などが感染源となり,感染症を伝播する.
著者
清宮 正徳 野村 文夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.446-449, 2010-06-01

はじめに 採血前に患者さんに手を握ってもらうことはよく行われている.しかしこの際,強く握ったり,手を握ったり開いたり(クレンチング)した後,肘静脈から採血すると,カリウムが有意に上昇してしまう.手に力を入れることにより筋肉からカリウムが放出されることが原因である1).クレンチングによるカリウムの上昇は,The New England Journal of Medicine(NEJM)誌をはじめとして度々報告され2~4),注意喚起されていることから比較的周知されていると考えるが,手を強く握るだけでもカリウムが上昇すること3,5)はあまり注意されていない.本稿では,カリウムの偽高値が患者さんの自主的な手を強く握る動作によって簡単に起こることを示すとともに,当院の採血室における偽高値対策を紹介する.
著者
高井 誠子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1033, 2011-10-15

はじめに 通常,大腸内に存在する大腸菌は下痢などの病原性は示さない.下痢を起こす大腸菌は病原性大腸菌と総称され,5種類に分類されている.また,病原性大腸菌は特定の血清型を示す場合が多いことから,血清型を調べることにより病原性大腸菌を推定することができる. その方法に筆者の施設では,デンカ生研の“病原大腸菌免疫血清”による抗原抗体反応により,病原血清型を検出している.その方法の操作の中で,O抗原の試験を行うためには,オートクレーブで121℃15分間,または100℃60分間の加熱処理を行い,K抗原を取り除く必要がある. 今回のくふうでは,オートクレーブの代わりに,圧力鍋を使用する. 圧力鍋はオートクレーブを小型化したものであるため,代用可能であると考えられる.それどころかオートクレーブは大量の培地を滅菌する場合など内部温度上昇に長時間かかり,また減圧にも時間がかかるのに対し,圧力鍋は小型なため,最初から湯を沸騰させておくことができ,また減圧も一気にできるため,時間短縮が可能という利点もある.またK抗原,O抗原の特性からも,圧力鍋は使用可能と思われる. そこで,以下にオートクレーブに代わる圧力鍋の使用法を紹介する.準備するのは家庭用の圧力鍋で,蓋がきっちりと閉まり,圧が一定にかかるものであればよい.
著者
藤田 次郎
出版者
医学書院
雑誌
呼吸と循環 (ISSN:04523458)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.505, 2014-06-15

「呼吸と循環」の巻頭言として,「肺炎と心不全との接点」というテーマを考えてみたい.私は呼吸器内科医であり,胸部画像診断にて心不全であると考えられる所見が得られても,循環器内科医より,「心臓の動きはよい」,というコメントをしばしばいただいた.現在ではこの病態は「拡張不全型の心不全」として認識され,特に高血圧や糖尿病を合併する高齢者の女性に多く,左室駆出率は正常であることが知られている.肺炎と心不全とを鑑別することは治療方針の選択に直結することから,両者の鑑別点を示したい. 1) 肺炎と心不全との関連 心不全の悪化の原因として重要なものが感染症である.心不全患者が呼吸器感染症(気管支炎,肺炎など)にかかると,発熱や頻脈,低酸素状態によって心仕事量が増大し,心不全の急性増悪が誘発される.また炎症性サイトカインは心機能に対して抑制的に働くため,心不全を悪化させる.一方,心不全患者が呼吸器感染症にかかりやすいことも知られている.その要因として,心拡大に伴う気管支の圧迫による換気障害に加え,肺がうっ血状態になり細菌が繁殖しやすくなることによる.
著者
長井 真理
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.p465-472, 1981-05
被引用文献数
1
著者
多々良 大輔
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.325, 2020-03-15

早いもので理学療法士となって23年目となる.楽しいことばかりではないが,よい職業を選んだと心から思えるようになった.多くの恩師からの学び,同志と言える方々との出会いの影響が大きいことは言うまでもない.そのなかでもいくつかのターニングポイントがあった. 脳卒中や脳性麻痺など中枢神経疾患を有する方々への診療を行っていたリハビリテーション病院勤務から整形外科病院へ異動した当時,本欄第6回(2019年11月号)を担当した田中創氏とともにカナダの理学療法士Diane Lee氏の講習会に参加した.衝撃的であった.瞬時に機能障害を見抜く洞察力と細かい検査に基づいた治療は当時自分が模索していたかたちであり,今なお進化し続ける彼女のモデルは現在の私の診療における骨格となっている.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.1164, 2015-12-10

イタリア・ルネサンス期の詩人ルドヴィコ・アリオスト(1474-1533)が1532年に完成版を発表した『狂えるオルランド』(脇功訳,名古屋大学出版会)は,中世騎士物語を代表する叙事詩とされているが,物語の後半第24歌から39歌には,東国の姫アンジェリカに失恋した後に勇者オルランドが発狂する様子が描かれている. たとえば,第29歌には,オルランドについて,「裸の姿になるまでに物狂いした」,「想いに囚われ,放心していた」,「いずこにか知らねど,思慮を失くして来た」,「方々さまよい歩いた」などの記述があるほか,次のような狂気を思わせる表現もみられる.「眼はほとんど額の中に落ち窪み,顔は干からび,髑髏さながら.その蓬髪はすさまじく,また惨めたらしく,髪茫々で,恐ろしく,また汚らし」,「食い物が欲しいときには,村々,家々荒らしてまわり,果物や,肉やら,パンを奪い取り,腹に詰め込み,人々に暴力振るい,殺めたり,怪我をさせたり,一つ所にじっとせず,絶えず前へと進みつづける」.
著者
大村 裕 小野 武年 杉森 睦之 中村 勉 福田 隆一
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.281-294, 1974-04-10

Ⅰ.満腹中枢と摂食中枢の関係 哺乳類の摂食行動のもとになるのは,視床下部に存在する摂食中枢のある外側野(lateral hypothalamic area,LH)と満腹中枢のある腹内側核(ventromedial hypothalamic nucleus,VMH)のニューロン活動である。両中枢のニューロン活動を同時に記録してみると,相反的なことが多い。すなわち,一方の中枢のニューロン活動が上昇しているときは,他方のそれは低下している(Oomuraら,1967 a)。また人工的にVMHを電気刺激してみるとLHのニューロン活動は抑制され,逆にLHを刺激すればVMHのニューロン活動は抑制される。しかも抑制の期間は相等に長い。この相反性は動物が睡眠や覚醒,餌を探す,餌を摂るなどの各種の行動下でも同様である(Oomuraら,1969)。たとえばネコの頭蓋骨に双極ポジショナー(Oomuraら,1967 b)を取りつけて満腹および摂食の両中枢内にタングステン電極をそれぞれ1本ずつ入れ,同時に両中枢のニューロン活動を記録してみる。図1Aに示すように,ネコが徐波睡眠のとき,VMHニューロンの活動は高く17Hzで放電しているが,LHでは6Hzで低い。
著者
戸田 克広
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.440-441, 2010-05-20

間質性膀胱炎は,器質的な異常がないにもかかわらず,頻尿,尿意切迫感,下腹部痛や会陰部痛などを引き起こす疾患である。有病率は10万人に10.6人から女性4.5人に1人までと大きな差があり,それは主に診断基準による差である1)。羞恥心のため,医療機関を受診しない患者が少なくない。たとえ医療機関を受診しても異常なしと診断され,治療法はないといわれる患者も少なくない。疼痛の範囲が会陰部や陰囊部を超えて骨盤全体におよぶと,慢性骨盤痛と診断される。 一方,線維筋痛症(fibromyalgia:FM)といわれる慢性痛がある。有病率は約2%2)であるが,その不全型あるいは前段階の慢性広範痛症(chronic widespread pain:CWP)の有病率は,FMを含めると約10%と報告されている3)。
著者
金谷 さとみ
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.91-96, 2020-01-15

なぜマネジメントを学ぶか はじめに,一般的に解釈されている管理(マネジメント)についてひもといてみよう.Managementの同義語はcontrol,adjustment,operationなどで,日本語なら,取り扱い,処理,経営,差配などであろうか.そもそも曖昧な部分を多くもつ語である. マネジメントの的確な表現はその時の目的如何で変わり,都合よく使用される.一般には「一定の目的を効果的に実現するために,人的・物的諸要素を適切に結合し,その作用・運営を操作・指導する機能もしくは方法」などと定義される.「一定の目的を効果的に実現…」という部分では,目的は何かを考える必要がある.「人的・物的諸要素を適切に結合…」という部分は組織づくりのこと,「その作用・運用を操作・指導する機能もしくは方法…」は仕組みづくりのことであろう.
著者
小野寺 理
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.381-386, 2019-04-25

はじめに 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は成人発症の致死的な進行性の神経変性疾患である1).永年,その解決の糸口が見つからなかった本症であるが,近年,病態解明が進み,数多くの病態修飾薬の開発がなされている2).しかし,その効果は乏しい.一般に,進行性の疾病の場合,治療効果を上げるためには,早期介入が必要なことは言うまでもない.ALSでも,その進行メカニズムが判明し,早期介入の必要性を示唆する病態が明らかとなってきている.しかし,本症ではいまだに,診断に直結する生化学的マーカーは得られておらず,それゆえ,診断において理学所見の意義は大きい. ALSは四肢から始まるものと,球麻痺から始まるものとに大別されるが,本症の半数以上は,四肢の筋力低下で気付かれる1).よって,最初に整形外科を受診することが多い.日本では,実に四肢発症者の48%,球麻痺型でも13%が整形外科を初診している3).結果として34%が整形外科を受診する.本症の予後を考えると,できるだけ早く正しい診断することは重要である.このことから,本症の診断面で整形外科医の果たす役割は大きい. 本稿では整形外科診療に紛れる本疾患について最新の知見と,それに基づく診療のヒントについて紹介したい.しかし,後述するように,多くの患者さんでは,髄節レベルと臨床症状の乖離を認める.このような乖離は頚椎症による二次運動神経細胞の圧迫性の病態では認められることが少ない.しかし,近年の一次運動野の知見により,一次運動神経領域からALSの病態が始まると考えれば,この髄節との不一致も説明できる可能性がある.
著者
小林 光恵
出版者
医学書院
雑誌
訪問看護と介護 (ISSN:13417045)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.688-692, 2019-09-15

「え? 患者の性格? あなた、それを伝えるためだけに来たんですか?」 救命救急センターの主任看護師・三木蓮司は目を丸くして、目の前に立つ男に言った。このヤサオトコ、何考えてるんだ、あほか、と思いながら。
著者
漆原 正貴
出版者
医学書院
雑誌
精神看護 (ISSN:13432761)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.182-184, 2015-03
著者
宮崎 康
出版者
医学書院
雑誌
JIM (ISSN:0917138X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.191, 2010-03-15

ある日の外来に,「右の横腹が痛む」といって28歳の女性が来た.1週前に同じ訴えで近医を受診し,尿と血液検査,腹部エコーを行ったが異常ない.「胃炎」の診断で胃薬をもらったが一向によくならず,ちょっと咳をするだけで痛みが強くなるという.看護師の介助を得ながら,眼・頸部から胸背部の診察を行う.帯状疱疹を示唆する皮疹はない.仰臥位になって膝を立ててもらい,腹部全体を掌全体で触診すると,臍の下に鈍い痛みを訴える.右上腹部を打診すると,痛みで顔をしかめる.さらに第2から5指の腹で柔らかく押さえながら,「指を持ち上げるように」深く息を吸ってもらうと,やはり顔をしかめる.体温は36.5℃.「いきなり聞きますが,おりものはないですか?」「ええ,1カ月前頃に多くて,下腹も痛むので婦人科に行こうと思っていましたが,よくなったので….」
著者
M.O
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.30, no.11, pp.114-115, 1971-10-01

保険医総辞退に至るまでの経過 中医協の診療報酬体系の適正化に関する‘審議用メモ’に端を発し,7月1日から突入した日本医師会の保険医総辞退は,7月28日の佐藤総理,斎藤厚相,武見日木医師会長の三者会談でようやく収拾され,木年の2月18日以来審議を中止していた中央社会保険医療協議会が約半年ぶりの8月5日にようやく開かれ,軌道に乗ってきた. そこでこの間のおもな動きをあげてみた.
著者
田中 伸明 水足 邦雄 塩谷 彰浩
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.86, no.13, pp.1097-1101, 2014-12-20

はじめに 頭内爆発音症候群(exploding head syndrome:EHS)は,主に入眠時や覚醒時に突然爆発音を感じる良性の疾患であり1),器質的疾患や神経疾患,てんかんの検索を含めた各種精査を行っても異常がないことが特徴とされており,一般に痛みは伴わない。EHSは睡眠関連疾患国際診断分類第3版(International Classification of Sleep Disorders-Third Edition:ICSD-3)においては睡眠時随伴症群に分類されており,診断基準も示されている(表1)2)。本疾患は,下丘が関与している聴覚原性発作(audiogenic seizure)と病態が類似していることが指摘されているほか3),音の振幅を圧縮する蝸牛または聴覚中枢における自動利得制御の破綻によって生じると推測されているが4),その原因や発症機序はいまだ不明である5)。 わが国におけるEHSの報告は睡眠学の分野を中心に散見されるが,耳鼻咽喉科領域での文献的報告はない。今回われわれは,耳漏を主訴に来院した患者でEHSを診断・治療する機会を得たので,考察を加えて報告する。