著者
飯田 智哉 宮川 麻希 那須野 正尚 田中 浩紀 吉田 雄一朗 蔵原 晃一 朝倉 謙輔 梁井 俊一 松本 主之 仲瀬 裕志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.526-531, 2019-04-25

要旨●家族性地中海熱(FMF)は,腹部,胸部などに漿膜炎による疼痛を伴う周期性発熱を特徴とする遺伝性自己炎症疾患である.FMFで消化管粘膜障害を呈することはまれとされてきたが,近年,炎症性腸疾患に類似した消化管病変を合併した症例の報告が散見される.一方で,FMFの小腸病変についての報告はいまだ限られている.本稿では,FMFの小腸病変に関する報告例をまとめ,その内視鏡像について論じる.FMF患者に認められた小腸病変は,アフタ,びらん,潰瘍,浮腫などが多くを占めていたが,FMFの小腸病変の内視鏡的特徴を明らかするためには,さらなる症例の集積が必要である.
著者
大川 清孝 大庭 宏子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.799, 2012-05-24

赤痢アメーバ感染症の原因は原虫のEntamoeba histolyticaであり,腸アメーバ症と腸外アメーバ症に分類できる.前者は赤痢様の激しい症状を示すアメーバ赤痢とアメーバ性大腸炎に分類できるが,現在ではこの分類にあまり意味がなく,両者を含めてアメーバ性大腸炎と呼ぶことが多い.囊子が経口摂取されることにより感染し,下部小腸で栄養型となり,大腸,特に盲腸で成熟し分裂,増殖する.その後粘膜に侵入し,壊死に陥らせ下掘れ潰瘍を形成する. 本邦での感染原因は発展途上国への旅行より性行為によるものが圧倒的に多い.男性同性間感染が多いが,最近では風俗店を介した異性間感染が増加している.多くは慢性に経過し,下痢,粘血便,腹部膨満感,腹痛などで寛解と再燃を繰り返す.劇症型とは,急速に大腸の広範な全層性壊死が進行し,腸管穿孔や多臓器不全を併発した死亡率の高い病態を言う.
著者
五十嵐 正広 岸原 輝仁 千野 晶子 田顔 夫佑樹 井出 大資 為我井 芳郎 斎藤 彰一 河内 洋
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.431-439, 2018-04-25

要旨●アメーバ性大腸炎は比較的まれな消化管感染症であったが,最近では年間1,000例以上の発症が報告されている.2005年以降当院で生検および直接鏡検で虫体,栄養体が確認された35例(男性:33例,女性:2例),平均年齢47.5歳を解析しその特徴をまとめた.有症状者は63%,無症状者37%.推定される感染経路は,異性間感染49%,同性間感染9%,不明43%.生検陽性率は89%,直接鏡検陽性率は93%,血清アメーバ抗体陽性率は53%.好発部位は,盲腸89%,直腸51%であった.特徴的な内視鏡所見は,たこいぼ様びらん・潰瘍,不整形潰瘍,打ち抜き状潰瘍,類円形潰瘍,腫瘤形成様潰瘍などで,潰瘍の易出血性や膿汁流出様所見が特徴的である.診断は内視鏡所見で疑い,生検や直接鏡検,問診による背景の確認などが重要である.
著者
丸山 保彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.580, 2017-05-24

定義 村上ら1)は,組織欠損の深さをUl-I(粘膜のみ),Ul-II(粘膜下層まで),Ul-III(固有筋層まで),Ul-IV(漿膜層に達する)に分類した(シェーマ).これらの分類から,Ul-Iまでをびらんとし,Ul-II以上が潰瘍と定義される.
著者
新井 冨生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.317-320, 2021-03-25

定義・概念 髄様癌は2000年に出版されたWHO分類 第3版で初めて記載された比較的新しい概念の腫瘍であり1),それまでは低分化腺癌として取り扱われてきた.低分化腺癌は一般的に悪性度が高く予後不良とされているが,大腸癌では充実胞巣型,髄様型を示す低分化腺癌の一部に比較的予後良好な症例が存在することが指摘されてきた.その後,分子病理学的手法を用いた研究が進み,髄様癌の疾患概念が確立した.この研究が進む過程で髄様癌は種々の名称が用いられていたが,WHO分類 第3版1)が出版されてからはmedullary carcinomaに統一された.本邦では2013年8月に改訂された「大腸癌取扱い規約 第8版」2)で,髄様癌という名称で初めて記載された. 髄様癌は発癌機序の観点から散発性と遺伝性の2種類に大別される.散発性の髄様癌は高齢者,女性,右側結腸に好発し,リンパ節転移も低率で比較的予後良好という臨床病理学的特徴を示す3).分子病理学的には,BRAF遺伝子変異,ミスマッチ修復遺伝子の一つであるMLH1遺伝子のプロモーター領域のメチル化とそれに伴うMLH1蛋白質発現の減弱,マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability;MSI)という特徴を有する.遺伝性の髄様癌は,ミスマッチ修復遺伝子(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2など)の変異によるLynch症候群の一つの病型としての腫瘍である.
著者
小林 清典 齋藤 友哉 松本 育宏 川岸 加奈 迎 美幸 横山 薫 佐田 美和 小泉 和三郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1737-1746, 2018-12-25

要旨●大腸癌の内視鏡診断に際してEUSは,深達度を客観的に評価できる利点を有する.特に早期大腸癌に対しては,内視鏡的摘除の適応判定などに活用できる.EUS診断を行った早期大腸癌866病変の検討では,治療法の選択という面での正診率は90%と良好であった.また,潰瘍性大腸炎関連腫瘍に対するEUSの診断成績も良好であった.EUS診断は,描出困難病変が多いなどの問題点があるが,大腸腫瘍に対するESDの普及もあって大腸pT1b癌に対する内視鏡治療の適応拡大が議論されており,EUSの意義が再評価されている.なお,大腸癌に対してEUSがその能力を十分発揮するためには,大腸用のEUS機種の改良が必要である.

2 0 0 0 EUS

著者
斉藤 裕輔 稲場 勇平 藤谷 幹浩
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.734-736, 2021-05-24

近年の早期大腸癌1)および大腸粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)発見の増加と内視鏡切除術〔内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR),内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)〕の普及により,大腸(上皮性および粘膜下)腫瘍に対する術前診断が,より重要となっている.大腸腫瘍に対する精密検査として,注腸X線造影検査,通常内視鏡検査,拡大内視鏡検査などがあるが,超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS),高周波超音波細径プローブ検査(high-frequency ultrasound probe ; HFUP)は2)これらの検査とは異なり,病変の病理割面像に近い断層像が得られ,その画像に客観性を有するという点で他にはない利点を持つ検査法である.早期大腸癌はHFUPのよい適応であり,術前にTis・T1a癌と診断して内視鏡的切除を行うか,T1b癌と診断して外科手術を行うかの鑑別に重要である.一方,大腸SMTは病変の主座が粘膜下層であり正常粘膜で覆われているため,内視鏡検査のみでは性状診断は困難であり,EUSの併用が極めて有用である.「大腸ポリープ診療ガイドライン2020」3)においても,EUSは早期大腸癌の深達度診断およびSMTの性状診断に有用であり,併用が推奨されている.
著者
赤坂 理三郎 松本 主之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.629, 2017-05-24

定義 大腸の正常粘膜表面には腸管短軸方向にほぼ平行して走る無数の微細な溝があり,無名溝と呼ばれる.無名溝には時に交叉し,これによって囲まれるやや細長い“小区”があり,微細網目構造となっている.これは網目像(fine network pattern ; FNP)と呼ばれる.病変部分ではこの構造が消失し,組織学的な病変部分と一致している. FNPは1965年にWilliams1)により“innominate grooves”として報告された.その後,1971年に狩谷,西澤ら2)は“innominate grooves”から形成される大腸粘膜の微細な模様を“網目像(FNP)”と名付けた.このFNPはX線造影像で再現可能な最小単位であり,大腸二重造影像の基本像となる(Fig. 1).
著者
竹島 靖浩 中瀬 裕之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1171-1182, 2021-11-10

Point・頚椎変性疾患は複数の病態が知られているが,1人の患者に併存していることも多い.・頚椎変性疾患は放射線画像で指摘されても実際は無症候性である病変も多く,注意を要する.・頚椎変性疾患の診断・治療において重要なのは,病名診断ではなく障害を引き起こしている現象を同定することである.・そのためには,神経症状の種類や範囲,神経圧迫の機序ならびに不安定性の有無などに着目する姿勢が重要である.
著者
鈴木 光也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.43-50, 2011-01-20

Ⅰ.はじめに 迷路瘻孔は外傷性,炎症性,先天性などさまざまな原因により,中耳側や頭蓋底側に生じることが知られている。迷路瘻孔では,瘻孔部分が内耳において正円窓,卵円窓に次いで第三の窓として働くため,音刺激や圧刺激などの外的刺激を受けることによって外リンパを介して内リンパ還流が生じる。その内リンパ還流によって多くは半規管や前庭が刺激されて眼振やめまいが誘発される。これらの徴候はそれぞれ瘻孔症状およびTullio現象と呼ばれている。迷路瘻孔は,外側半規管隆起が圧倒的に多く,上半規管,後半規管または蝸牛外側壁など他の部位に生じることは稀である1,2)。そのため瘻孔症状およびTullio現象でみられる眼振はほとんどが水平性眼振である。上半規管裂隙症候群(superior canal dehiscence syndrome)とは,上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲の骨に欠損が生じることによって瘻孔症状およびTullio現象を生じる新しい疾患単位であり,誘発される眼振の向きは垂直・回旋であることが特徴的である。
著者
松岡 龍太 池田 紘二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1160-1170, 2021-11-10

Point・神経障害を防ぐという術中モニタリングの目的はどの手術においても変わらないが,画一的な手法を当てはめるべきではない.・本邦で最も頻用される運動誘発電位(MEP)においては,刺激・記録電極,刺激条件,アラームポイントなど,脊髄脊椎手術と開頭術の違いを理解する必要がある.・脊髄脊椎手術では各種モダリティの特性を理解し,場合によっては併用することが重要である.
著者
角田 孝彦 渡邉 昌彦 水芦 政人 門馬 節子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.925-927, 2001-11-01

22歳,女性.低温熱傷の植皮後,左大腿の採皮部にヒルドイドソフトによる接触皮膚炎,左下腿にエキザルベによる接触皮膚炎を生じた.パッチテストでヒルドイドソフトに含まれるヘパリン類似物質とエキザルベに含まれるラノリンが陽性であった.ラノリンを含むパッチテストで口唇にも反応がみられた.その後,外国製の化粧品が合わなくなったが,日本製に代えてよくなった.これまでヘパリン類似物質による接触皮膚炎の報告は少ないが,注意が必要である.
著者
梶谷 康介 神庭 重信
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.465-472, 2013-05-15

抄録 感情失禁は脳梗塞などの脳器質性疾患に伴う,些細な刺激に反応して生じる制御不能な感情の表出である。脳梗塞後に起こる感情失禁は患者のADLに大きな影響を与えるが,その治療法は十分確立されていない。抑肝散は近年アルツハイマー病など認知症の周辺症状に対してしばしば使用される漢方薬である。以前我々は,偶然にも抑肝散が脳梗塞後の感情失禁を軽快させることを見出し,2症例を報告した。今回さらに4使用経験例を加え,抑肝散が脳血管障害後の感情失禁に対して有効な治療法となりうるかを検討する。
著者
中島 裕子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.172-177, 2015-03-15

研究の動機 「私って看護師に向いてない」。看護師になった今もずっとそう思っている。いつからそう考えるようになったのか……思い返してもわからない。たぶん子どもの頃から「救命病棟24時」的なテレビの影響で、看護師というと「てきぱきしていて、よく気が利く」イメージが強かったのかも。私はとにかくどんくさい。 ホスピスでのボランティアを経て、看護師になろうと決めた時も、「まあ、絶対向いてはいないけど、でもやってみたいし、向いてなくてもやってみよう」と思っていた。私のやることに反対したことのなかった父親も、「看護師はやめておけ」と忠告してきた。案の定、看護学校に入学してからも、実習では先生に怒られてばかりいた。そもそもプライベートでも、気を利かせたり、頼られたりすることはとにかく苦手。居酒屋でサラダを取り分けるのすら恐怖。
著者
野上 芳美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.468-473, 1970-06-15

Ⅰ 境界状態または境界例の概念はKnight8)によってほぼ確立されたとはいえ,境界状態あるいはこれに相当する病態に関する文献を通覧すると,著者達の使用する用語もその概念もさまざまであって,極端なことをいえば「誰それのいう何々」という言い方をしないと話し手と聞き手の間に微妙な喰いちがいが起こりかねない。例えば,HochとPolatin5)の「仮性神経症型分裂病」は広義に境界状態に包含される病態であるが,これと完全に一致する記述はDouglas2)の「境界線分裂病」(borderline schizophrenia)のみである。Shenken12)は「境界状態」という用語を用い,その記述の大部分はHochとPolatinに準拠しているが,しかしさらに妄想反応と仮性神経症型うつ病をも含むものとしている。一方でSchmideberg11)は「境界患者」を定義するさい仮性神経症型分裂病は除外すると明言している。また最近Grinkerら4)はそのモノグラフで「境界線症状群」(borderline syndrome)という用語を用いたが,その類型として中核群,神経症的境界線群,精神病的境界線群,“as if”群をあげており,その包含する対象は広い,などなどのごとくである。第1表には諸家により用いられた用語をあげた。 著者らによる境界例概念とその強調する点の相違はそれぞれの属する学派・理論によるほか,彼らが症例を取り扱う施設の性格ならびに患者層の偏りに基づくこともあろう。だがそれらのほかにより根本的な根拠が考えられる。そのひとつは,ある症例を境界状態と診断する場合,神経症的ならびに分裂病的な二面の特性を認めつつもそのいずれにも属せしめえぬという否定的・除外的な態度もあり,そこではいかほど分裂病的(または神経症的)であり,かついかほど分裂病的(または神経症的)でないかという判断がなされていることである。「境界例という診断は患者の状態に関してではなく,精神科医の不決断・不確かさに関する情報を伝えている」(Knight)とか「診断の困難さを現わす用語」(井村)6)のごとき表現は単なる警句とはいえない。この診断の困難さあるいは不決断の幅,すなわち「精神病理学的スペクトル上の境界帯域」の幅は診断する側の抱く分裂病概念の幅に相応して狭くも広くもなる理である。あのGlover3)やZilboorg16)はこの不決断を認めぬ立場といえよう。もちろん,多くの人は境界例を広く分裂圏内に含まれる病態と認めてはいるが,万人に承認される境界例独自の病態特異的な所見が乏しい以上,不決断の幅は医師の主観に従って動揺せざるをえない。分裂病の診断基準にかかわる問題である。
著者
森川 浩史 石田 正人 岩崎 幸司 梅村 和夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.395-400, 1989-05-20

I.はじめに 舌骨は周囲を軟部組織に囲まれ,可動性があり,さらに下顎骨により保護されているため外力の影響を受けにくく,損傷されにくい。喉頭外傷にさいしても舌骨の損傷を合併することは少ない。われわれは最近,舌骨骨折2例を経験したので報告する。
著者
杉本 真也 長沼 誠 福田 知広 吉松 裕介 緒方 晴彦 岩男 泰 金井 隆典
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.908-915, 2020-06-25

要旨●筆者らは,植物から抽出された生薬である青黛の潰瘍性大腸炎患者における粘膜治癒促進の有効性を報告してきた.一方で,自己購入した青黛の服用による肺動脈性肺高血圧症や腸重積といった有害事象の存在が明らかとなってきた.青黛による腸重積や非特異性腸炎などの腸病変は右側結腸に好発する.多彩な内視鏡像を示すが,孤発性の潰瘍形成や虚血性腸炎様の発赤・浮腫状粘膜などが特徴である.発症のメカニズムはまだ明らかでないが,病理組織学的に小血管における静脈炎の存在が示されており,吸収された青黛代謝産物が虚血性病変を来す一因となった可能性が示唆される.何よりもまず,青黛について知り,その有害事象の可能性を疑うことが重要である.
著者
松本 主之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.788, 2012-05-24

非特異性多発性小腸潰瘍症は,持続的な潜出血による貧血と低蛋白血症を来し,粘膜下層までにとどまる治癒傾向のない潰瘍が回腸に多発する難治性疾患である1)2).原因は不明であるが,常染色体劣性遺伝形式の家系が存在し,遺伝的素因の関与が考えられる3).女性に好発し,若年時から原因不明の鉄欠乏性貧血として経過観察され,青・壮年期に本症と診断される.高度の鉄欠乏性貧血と低蛋白血症を認め,便潜血は持続的に陽性を示す.炎症所見は陰性,あるいは軽度上昇にとどまる. 病変は終末回腸以外の回腸に発生し,横走傾向を示すテープ状,あるいは細長い三角形の形態を呈する.また,腸間膜付着部とは無関係に潰瘍は枝分かれする.X線検査では,非対称性で規則性のない硬化所見,小腸皺襞の消失などが浅い潰瘍の間接所見として描出される.二重造影ではわずかな透亮像を伴う線状,ないし帯状のバリウム斑として描出される(Fig. 1).小腸内視鏡検査では,下部回腸に浅く境界明瞭な輪走・斜走潰瘍(Fig. 2)が観察され,一部では偽憩室を形成しながら狭窄に至る.難治性・再発性の経過をたどり,炎症性腸疾患の薬物療法は無効である.中心静脈栄養療法は潰瘍を治癒に至らしめる唯一の治療法であるが,経口摂取再開後に再発する例が多い.
著者
清水 誠治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.814-815, 2012-05-24

消化管に好酸球浸潤を来す疾患は“eosinophilic gastrointestinal disorder”と総称されており,その内原発性で,消化管のみに病変がみられるものが好酸球性胃腸炎である.病変部位によって好酸球性食道炎,好酸球性胃炎,好酸球性小腸炎,好酸球性大腸炎とも呼ばれる.好発部位は胃,小腸とされているが,従来まれと言われていた食道や大腸病変の報告も最近増加している.気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患が約半数に合併する. 診断基準としてはTallyら1)のものが一般的であり,(1) 消化管症状の存在,(2) 消化管の1か所以上に生検で好酸球浸潤が証明されるか,または末梢血好酸球増多と特徴的なX線所見がみられる,(3) 寄生虫など好酸球増多を示す他疾患を除外できる,の3項目を満たすことで診断されるが,病変部位によって臨床像が異なっており,均質な疾患群とは考えにくい.生検診断においては強拡大視野で20個以上の好酸球が存在することが一応の基準であるが,部位により浸潤程度に差があるため多数点での生検が必要である.