著者
高原 滋夫 小倉 義郎 岡崎 英生 千葉 和夫 三谷 恭夫 前田 剛志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.135-138, 1969-02-20

I.はじめに 現在わが国において普及発展の途上にある難聴学級についてまずその歴史と概要について簡単に述べたいと思う。 従来,普通児における普通小学校とろう児におけるろう学校とは,種々の面で一応完備の状態にあるが,第1図に示すように,普通児とろう児の中間的な存在である中等度難聴および一部の高度難聴児で,しかも現在の医学では治療の困難な難聴児については長い間教育上の何らの対策も講じられないままに放置されていた。
著者
川上 晋一郎 赤木 成子 松本 憲明 木村 守 水河 幸夫 東川 俊彦 増田 游 小倉 義郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.169-175, 1987-03-20

はじめに 昭和34年岡山市で難聴児調査が行われ中等度難聴児が全児童の約0.1%に認められた1)。彼らは普通児とろう児の中間的存在であったため教育的配慮がなされず放置されていた。昭和35年4月高原ら2)により中等度難聴児に聴能訓練,言語指導と学習指導を目的として岡山市内山下小学校にわが国で最初の難聴学級が開設された(図1)。その成果が発表されると難聴学級の必要性が痛感され日本全国でつぎつぎと開設された。そして現在小学校311校,中学校92校の難聴学級が開設されている。内山下小学校難聴学級開設以来25年が経過し,いろいろな点で変化が起きてきた。その歴史を振り返り今までの成果と難聴学級が現在抱えている問題点について検討した。
著者
池田 良穂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.379-385, 2021-06-15

【ポイント】◆横浜でのダイヤモンド・プリンセスのCOVID-19集団感染の隔離対応は,国内への感染拡大を防いだ成功事例である.◆クルーズ船の換気レベルは,陸上の病院施設と比べても遜色ない.◆自然災害および新しい感染症に対応できる,機動性と自己完結を有する病院船の整備が望まれる.
著者
三井 純 石浦 浩之 辻 省次
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.247-255, 2013-03-01

はじめに 次世代シーケンサーと総称される大規模並列DNAシーケンシング技術は,最近数年の間に加速的に進化しており,処理速度の向上,コストの低下が進んでいる。次世代シーケンサーが臨床遺伝学にもたらすインパクトとして以下の3つの事柄が挙げられる。 第1は,メンデル遺伝性疾患の原因遺伝子解明が進むことである。連鎖解析による絞り込みを十分に行うことが難しい小さな家系サイズの遺伝性疾患,de novo変異などで生じる重篤で生殖適応度が低い遺伝性疾患など,従来の技術ではアプローチが困難だった遺伝性疾患の解明が期待される。実際,このようなメンデル遺伝性疾患の原因遺伝子の報告がここ数年で急速に増加している。問題点としては,現在普及している次世代シーケンサーでは,ひとつながりで配列決定できる塩基長(リード長)が高々100塩基程度であり,トリプレットリピート病などに代表される繰り返し配列の延長や挿入変異の検出がしばしば困難なことである。特に遺伝性神経変性疾患ではこの種類の変異が多く知られており,現在の次世代シーケンサーの技術的課題の1つである。 第2は,孤発性疾患の遺伝因子の解明が期待されることである。従来は一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)をマイクロアレイ上で大規模にタイピングする技術を利用して,患者群と対照群で多型の頻度を比較することで疾患と関連する感受性遺伝子探索が行われてきた。候補となる遺伝子・領域だけではなく,全ゲノム上の多型を広範囲に探索できることから,このアプローチは全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS)と呼ばれ,多くの疾患で検討が行われた。新たな発見も多かったが,孤発性疾患の遺伝因子の大部分が解明できるのではないかという期待には届かず,まだ解明されていない遺伝因子(missing heritability)が残されている1)。 多型マーカーと連鎖不平衡にある疾患感受性アレルを関連解析で検出する手法は,比較的少数の創始者に由来する疾患感受性アレルが,患者群に広く分布するという構造を持つ集団(common disease-common variants仮説)に対しては強い検出力を示すが,多数の独立した疾患感受性アレルが個々には稀に患者群に分布するという集団の遺伝的構造(common disease-multiple rare variants仮説)に対しては検出が困難になる。また,多型タイピングでは検出できないコピー数変異などの構造変異が寄与している可能性もある。今後,孤発性疾患における遺伝因子の解明を進めていくためには,パーソナルゲノム解析に基づく網羅的な変異の同定が大きな手掛かりになるであろう。 第3に,臨床における遺伝子診断の汎用化が挙げられる。神経内科領域の臨床では遺伝性疾患の占める割合が相対的に高く,需要も高いことから普及が期待される。特に原因遺伝子が多様な表現型・疾患群の遺伝子診断において高い効果を発揮するであろう。問題点としては,上述のように遺伝性神経筋疾患にみられる繰り返し配列の延長(優性遺伝性脊髄小脳変性症の多く,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症,ハンチントン病,球脊髄性筋萎縮症,筋強直性ジストロフィー,フリードライヒ運動失調症,9p21に連鎖する筋萎縮性側索硬化症・前頭側頭型認知症,眼咽頭筋ジストロフィーなど)の検出は短いリード長では困難であり,フラグメント解析やサザン・ブロッティング解析を併用する必要がある。また,現状ではコスト・パフォーマンスの点からエクソーム解析が選択されることが多いと考えられるが,コピー数変異(遺伝性神経疾患ではAPP,SNCA,PMP22,MPZなどのコピー数変異による遺伝性疾患が報告されている)や大きな欠失・重複変異(デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィーにおけるDMDや常染色体劣性遺伝若年性パーキンソニズムにおけるPARK2の欠失・重複変異など)において,エクソーム解析では検出力が十分でない可能性があり適応に注意が必要である。 本稿では,以上3点について概説し,いくつかの具体例を挙げる。最後に2011年度に東京大学医学部附属病院の新たな組織として発足したゲノム医学センターの紹介と今後の展望を述べる。
著者
森田 千里 吉沢 英造 小林 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.473-481, 1997-04-25

抄録:成人の椎間板は,栄養血管を有さず人体の中で最大の無血管組織であり,その栄養路は椎体終板および線維輪を介する拡散によるとされている.なかでも椎体終板を介する経路の障害が椎間板変性の原因として重要視される.この経路において椎間板の栄養に関与すると考えられる構造として,軟骨管(cartilage canal)とvascular budsが存在する.本研究では,椎間板栄養経路のメカニズムを知ることを目的として,幼若期の軟骨性椎体部分にみられる軟骨管と,その後椎体終板付近に出現するvascular budsの微細構造を生後2日齢と生後6カ月齢の家兎の椎体をそれぞれ組織学的に観察した.今回は,microan-giogram・光顕・走査型電子顕微鏡・透過型電子顕微鏡下に観察し比較・検討した,その結果,軟骨管とvascular budsの形態は類似していることが証明され,両者は椎間板の栄養路として重要な位置にあることが示唆された.また両者の血管は有窓型を呈し血管透過性が高く,活発な代謝が行われているという形態学的な根拠が得られた.そして軟骨管では軟骨膜から軟骨細胞が形成され,骨性終板内vascular buds基部では間葉系細胞から骨芽細胞様の細胞が形成され,線維輪側のvascular budsでは線維芽細胞様の細胞から膠原線維が産生されると考えられる新しい知見が得られた.
著者
柴田 尚武 森 和夫 関根 一郎 須山 弘文
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1089-1094, 1988-11-01

抄録 22歳女性,1年前まで覚醒剤を常用していた。1年ぶりにメタンフェタミン(MAP)を静注後昏睡となり,くも膜下出血で死亡した。脳血管造影で右脳梁周動脈にextravasationを認め,血中に374μg/100gのMAPを検出した。剖検にて脳主幹動脈に中膜平滑筋壊死を主体とする病変が広範に観察され,程度は前大脳>中大脳>椎骨>後大脳>脳底動脈の順に強かった。中膜壊死部には炎症細胞浸潤や滲出物を認めず,ごく早期の病変と考えられた。その他,線維性内膜肥厚や中膜石灰化も存在した。MAPポリクロナール抗体を用いた免疫組織学的検索では,中膜の壊死周辺部で染色された。以上より,MAP中毒に頭蓋内出血を合併する成因としては,まず,脳主幹動脈中膜の急性壊死をおこして血管の脆弱化をきたし,さらにカテコールアミン遊離作用による急激な血圧上昇が加わって破裂をおこし,出血すると考えられる。
著者
木村 專太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1094-1098, 2012-11-25

まえがき この連載第42話(小誌45巻11号)で「お玉ヶ池種痘所を助けた2人の物語」として川路聖謨と濱口梧陵のことを書いた.先日,東京都文京区本郷の東京大学弥生門の近くにある日蓮宗大正寺(台東区池之端2-1-21)で聖謨の掃苔を行って来た.聖謨は五百石の旗本から抜擢されて,老中の下の位に位置する勘定奉行にまで出世し,蘭方医学がご法度であった当時の時勢にあって,蘭方医から依頼されたために,種痘所の嘆願書を聖謨自身の手で書いて幕府に提出した.かつ幕府拝領地である自分の屋敷を,お玉ヶ池種痘所に無償提供した行動は立派で勇気がある.これこそ快挙である.「川路聖謨」のことを新しい知見も取り入れて,再度書いてみたい.
著者
高田 秀重
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.332-337, 2021-05-15

【ポイント】◆全てのプラスチックは遅かれ早かれ劣化しマイクロプラスチックとなり,生態系の隅々まで汚染する.◆マイクロプラスチックは食物連鎖における化学物質,特に添加剤の運び屋になり,ヒトの免疫系への影響が危惧される.◆人類の健康,温暖化抑止のためにも,流域単位で物資が流通・循環するような分散型持続可能な社会の中に,プラスチックフリーを位置付ける必要がある.
著者
鈴木 佳奈実 土肥 美智子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1331-1336, 2020-12-25

COVID-19蔓延は,多くのアスリートに多大な影響を及ぼしている.国際オリンピック委員会(IOC)は,コロナ禍において,アスリートの心理サポートが必要であると報告している.これまでに,女性アスリートは男性アスリートと比較して,精神健康度が低いことが示されており,COVID-19蔓延に伴っても,女性アスリートはより心理的問題を抱えているとの報告がみられた.国立スポーツ科学センターが実施した調査により,女性アスリートは『競技に関する不安』よりも『一般的な不安』を強く感じている可能性が示され,ママアスリートからは,育児に関する不安の声がきかれた.
著者
池田 伸 宋 龍平 来住 由樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.347-354, 2019-03-15

はじめに 近年の人工知能(artificial intelligence:AI)技術の発展には目を見張るものがある。「第3次AIブーム」とも言われ,産業や科学のみならず,芸術,金融,行政,司法,軍事など人間社会のおよそあらゆる領域において,その利活用が模索され始めている。 医療も当然ながらこの趨勢と無縁ではない。国内では,厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会報告書」(2017年6月27日)6)において,6つの重点領域として,①ゲノム医療,②画像診断支援,③診療・治療支援,④医薬品開発,⑤介護・認知症,⑥手術支援が挙げられており,精神科領域についても,AI技術を用いることで診療の精度が向上し得る可能性があると言及されている。 では,現在の精神科医療において,実際どの程度までAI技術の利活用が進んでいるのであろうか。試みにPubMed上でAI関連のキーワードを用いて検索を実行してみると,ヒットする論文の数は年々増加しており(図1),精神科においてAI技術の活用が確かに浸透しつつあることが窺える。 本稿では,まず精神科におけるAI活用の現状を把握する目的で,PubMedにおいて2017年に公開された論文のうち,精神科領域におけるAI活用に関連するものを選別し,扱われている臨床事象,解析対象となったデータの種類,AI活用の目的,活用されたAI技術などについて分類と集計を行う。次いで,AI活用に関連する現在の諸課題と今後の展望についても考察する。
著者
太田 八重子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.307-309, 1953-11-15

後天性心疾患に際し合併症として肺浮腫の來る事は屡屡である。左心不全,又僧帽瓣狹窄症の場合,肺欝血から肺浮腫を招來し易い。 心臟外科の發達に伴い,在來手を下し得なかつた心臟病が手術的に恢癒を見る樣になつたが,手術後の合併症の一つとして急性肺浮腫は重要な地位を占めている。當教室では,僧帽瓣狹窄症手術51例中,肺浮腫で死亡した者6例を經驗し,これが對策の重要性を痛感し,檢索しているものである。こゝに外科的立場からの肺浮腫を症例によつて檢討する。
著者
榊原 哲也
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.398-403, 2018-05-25

近くて遠いベナー パトリシア・ベナー(Patricia Benner, 1943─)。おそらく読者のみなさん誰もがご存知の看護理論,看護教育理論の世界的権威です。多くの著作が日本語に翻訳され,読者の関心も高く,みなさんの多くは,おそらく書棚に『ベナー看護論』をはじめ何冊かの著作を備え,多少なりともその理論にふれておられることと思います。また,たびたび来日して講演会や講習会が開かれていますので,みなさんのなかには,書物を通じてだけでなく,講演会や講習会に参加してベナーの話に直接耳を傾けた方もおられるかもしれません。さらに,ベナーによる5段階の技能習得モデルがご自身の臨床現場で教育プログラムやキャリアラダーに採用されていて,とても身近だという方もいらっしゃるのではないかと察します。 このように,おそらくは,多くのみなさんがベナーに関心を持ったり,身近に感じたりしているにもかかわらず,他方では,実際にベナーの著作を読んでみると,難しい,そもそも理論はよくわからないという方も,決して少なくないと聞き及びます。
著者
簗 麻理子 岩崎 優子 篠原 宏成 大野 京子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.509-514, 2019-04-15

要約 目的:正常眼圧緑内障の片眼に網膜分離と黄斑部の網膜剝離が併発した症例の報告。 症例:71歳の女性が右眼の視力低下で紹介され受診した。15年前から両眼の緑内障として他医で加療中であり,当初の矯正視力は左右とも1.2であったという。 所見と経過:矯正視力は右0.3,左0.7であった。光干渉断層計で右眼の黄斑部に網膜剝離と,乳頭周囲に網膜分離があった。網膜の内層分離は,視神経線維層欠損部位から鼻側に広がり,網膜外層分離の範囲は乳頭の下方を中心に鼻側と耳側に均等に広がっていた。Optic disc pit maculopathyに類似する疾患と考え,硝子体手術を実施した。術後に黄斑円孔が生じたが,内境界膜の自家移植とガスタンポナーデにより円孔は閉鎖し,右眼視力は0.5に改善した。 結論:乳頭にpitがなくても,正常眼圧緑内障では,経過中にoptic disc pit maculopathy様の網膜分離や網膜剝離が生じうることを本症例は示している。
著者
五島 瑳智子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1022-1024, 1998-12-25

昨年度,東邦医療短期大学の男子学生が母子看護学を専攻し,助産婦国家試験を受験する資格があったにもかかわらず受験できなかった.助産士問題の現在を学長の五島先生にうかがった.
著者
岸 茂 政岡 則夫 森 貴久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1319-1323, 1998-07-15

頸動脈海綿静脈洞瘻が30か月前に発症した68歳の女性が,同側の視野異常で受診した。患側に浅前房と脈絡膜剥離が発見された。インドシアニングリーン赤外螢光造影で,後極部から上方の中間周辺部に脈絡膜循環障害による低螢光斑と,後極部から鼻側にかけて脈絡膜静脈の拡大があった。このような所見は,海綿静脈洞瘻で好発するものであり,脈絡膜剥離に特異な変化であるとは考えにくい。赤外螢光造影で検出できない脈絡膜血管の透過性亢進が持続しているためと推定された。浅前房と脈絡膜剥離は1か月後に自然寛解した。
著者
福澤(岸) 利江子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.733-739, 2016-09-25

細菌学,免疫学,遺伝学からアプローチした映画「マイクロバース」ですが,出産時に合成オキシトシンが使われ過ぎることへの危惧にも言及しています。そして,その問題が世界規模で人類の将来に影響を与える可能性についても警鐘を鳴らしています。日本語字幕の作成者である筆者が,本作のメッセージをまとめました。
著者
寺本 美欧
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.79, 2021-01-25

生きた経験を未来につなげるための一冊 医療者に特化し、最新の海外文献が盛り込まれたメンタリングを解説した翻訳本はこれまでになかっただろう。かつ、従来の「メンター」に向けられた心得だけでなく、メンタリングを受ける側の「メンティー」に向けての心構えまでを網羅しており、『医療者のための成功するメンタリングガイド』というタイトルにも納得だ。先日、突然とある看護大学の学生さんから連絡が来た。将来看護師になりたい、留学もしたい、両方実現している私の話を聞きたい、とのことだ。早速オンライン上で話し、まっすぐな思いと情熱に心を動かされたと同時に、自分が提供できる情報もコネクションも、すべて惜しみなく彼女に活用してもらいたいと思った。それが、私のなかで初めて「メンター」の役割が芽生えた瞬間だ。メンティーからメンターへの転換期を迎えようとしている私にとって、絶妙なタイミングでの本書との出合いに感謝したい。 看護の世界でメンタリングという用語はあまりなじみがないかもしれない。プリセプターシップという一般的に病院で活用されている指導方法や、「指導者さん」と呼ばれる看護学生を指導する教育者など、看護の現場でなじみのある手法は多々あるが、メンタリングはそのどれとも異なる。本書を読了して感じた他との大きな違いは、メンタリングには互いに取捨選択できる権利があるということだ。著者によると、「メンターを引き受ける前に、メンティーになる人を慎重に吟味したほうがよい。その人物の成功の手助けをするということは、あなた自身の時間と個人的なエネルギーを犠牲にする、ということなのだ。だからこそ、軽々しく決断すべきでない」(Chapter 1、p.6)とある。逆もまたしかりで、メンティーも誰にメンターを依頼すべきかを吟味する必要がある。一見すると全員のメンターを引き受けないのはやや冷たく感じるかもしれないが、本書を手に取ればこの言葉の意味が理解できる。メンターになるということは、責任を伴い、支え合うという契りを結ぶことでもある。安易にメンターにならない、というのは誠実の表れだと感じた。本書には、メンタリングとの誠実な向き合い方が随所にちりばめられている。この新しいメンタリングという関係性が看護にも取り入れられれば、看護師としての熟練した知識や技術を次世代につなげるだけでなく、看護師のキャリアや選択肢が開けてくるという無限の可能性が広がるのではないか。
著者
木村 友香 舟木 聡子 加藤 敦子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.27-30, 2017-01-01

要約 65歳,男性.元来花粉症がある.ウマやウマの餌との接触により蕁麻疹や夜間の咳嗽が出現した.皮疹は生じず咳嗽のみ生じるときもあった.ウマ皮屑の特異的IgEと,皮屑,毛,餌のプリックテストは陽性であり,ウマ皮屑と毛のプリックテスト中,眼球結膜充血と咳嗽,軽度の呼吸困難感が出現した.以上より,ウマとウマの餌による即時型アレルギーと診断した.ウマの餌による接触蕁麻疹とウマによる呼吸器症状を伴う接触蕁麻疹症候群,気管支喘息も合併した多彩な症状を呈した症例と考えた.ウマを避けることはもちろん,近縁関係にある大型四足動物との接触でも同様の症状を生じる可能性があり,避けるほうが望ましいと指導した.ウマ血清はウマの皮屑と共通抗原性があると報告されており,ウマアレルギー患者においてはウマ血清を用いた抗毒素血清の使用は注意が必要である.