著者
渡辺 登 百瀬 香保利 森岡 恵
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.427-433, 1986-04-15

抄録 不登校を主訴とした性転換症と考えられる女子中学生の1症例を報告した。本症例は物覚えがついた頃から自分を男性であると思っており,兄や兄の友人達の遊びの中へ積極的に参加し,女の子に憧れを抱いた。女生徒と性的愛撫を交したが,男性として扱われていなかったと知ると憤慨し,また欲求を押さえ切れず女性に性的イタズラをしたこともあった。思春期を迎えると,生理に不快感をもち,乳房の膨らみを隠し,女性と性愛関係に及ぼうと考えた際に女性身体であることに強く苛立った。さらに父親の「女らしくしろ」との強要や男性化願望に対する同級生の蔑視に反撥し,不登校となり引きこもった。本症例の診断や病因,生活歴,臨床像について性別同一性とその基盤となる中核性別同一性から若干の考察を加えた。
著者
石原 逸子
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.475, 2012-08-15

筆者は,総説や研究論文の執筆,科学研究費の申請時に,当初集めておいた文献リストから必要な論文を探し出すのに戸惑うことが多い。また,文献リストを前にして,上手に分類化しいつでも使えるようにしたいと願ってはいるが,文献をまとめるために時間を割きたくないとも思っている。しかし,この本を読み進んでいくうちに,このような考えは間違いであることに気づかされ,また,いい論文を書くためには文献レビューのプロセスこそ省略してはならないという認識を新たにした。 書籍の中で,著者のGarrard氏は,「大学院を含めてどの段階の教育プログラムにおいても,文献レビューの体系的な整理方法と実施方法についての正式な授業はほとんどされていない」(p.5)ことを指摘している。確かに,日本の教育機関においても実態は同様である。本書は,この点について電子ベース方式で科学文献をレビューする方法を手ほどきしてくれる。具体的には,マトリックス方式として4つの文献レビュー基本ホルダーを活用し,特定のテーマに関する学術的な資料を読み,分析し,総括を書くことで文献レビューを完成される方法である。これらの基本ホルダーは,以下のように構成されている。(1)ペーパー・トレイル・ホルダー(どのようにして文献を検索したのかのメモ書きと場所記載),(2)文書ホルダー(レビューに必要な文書をコピーやPDFファイルとして保管する),(3)レビュー・マトリックス・ホルダー((2)の文書を要約し集計表に必要な情報を記載する),(4)総括ホルダー(文献レビューをまとめ執筆)
著者
石川 雅彦
出版者
医学書院
雑誌
看護管理 (ISSN:09171355)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.191-196, 2009-03-10

安全で良質の医療を提供するという医療本来の目的を達成するために,施設内で実施される医療安全教育は重要な役割を果たしており,組織的な取り組みが求められている。実践的な医療安全トレーニングの実施によって,職員個々の能力育成とともにチーム医療を推進し,組織における“医療安全力”を充実することが可能となる。本稿では,さまざまな医療安全トレーニングの中から,チーム・トレーニングとして期待されるクルー・リソース・マネジメント(Crew Resource Management;以下,CRM)を参考にしたトレーニングについて述べたい。
著者
権田 絵里
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.99-105, 2007-02-15

はじめに 普段,われわれが人類の進化の道のりを考えるとき,高い知能やコトバの獲得,そしてそれらを土台とした文化の形成や文明の発展など,万物の霊長としての栄光の歴史に焦点が当てられるのが常であり,栄光と引き換えに負った代償を顧みることは少ない. 例えば,「腰痛」もその1つである.あまりにも身近であるため,われわれはそれらがヒトであるがゆえの宿命的な苦難であることを意識していないが,われわれの祖先が直立二足歩行を始めたときから延々と受け継がれてきた負の遺産1)である.人類が知性や技術,コトバといった進化の恩恵にあずかるのは,実はそれよりもずっと後のことである. 本稿では,ヒトという動物の特殊性や進化の道のりという視点から,人類と直立二足歩行への不適応現象,特に腰痛との関わり合いについて探ることを目的とする.
著者
細川 雅人
出版者
医学書院
雑誌
訪問看護と介護 (ISSN:13417045)
巻号頁・発行日
vol.14, no.7, pp.602-605, 2009-07-15

高齢者の場合,認知症か体力の低下で掃除ができなければ家事援助を利用できる。ゴミ捨てができないときは近所の人に頼んでもよい。ところが,室内がゴミであふれていても援助を拒み,説得も受け入れない人がいて,周囲に迷惑を及ぼすようになると相談が寄せられる。 若い人の例を調査すると,ほとんどが自閉症をともなう知的障害者であったことから,高齢者の場合でも,広汎性発達障害による例がかなり含まれていると考えている。特に,若いときから家の中にゴミが散乱していた人や,わざわざ粗大ゴミを拾ってくる人の場合はその可能性が高いと推定するが,精神科医による診断や心理検査による裏付けがほとんど得られないので,実態はよくわからない。
著者
板野 聡
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.919, 2014-08-20

7月号では,ラグビーで使われる言葉について書かせて頂きましたが,小説『三銃士』が御本家の“one for all, all for one”のことが気になり,少し調べてみることにしました.この言葉は,一般には「一人は皆のために,皆は一人のために」と解釈されているようですが,フェイス総研の小倉広社長のコラムを拝読して,眼から鱗が落ちることになりました. 小倉社長の解説には,ラグビーで有名な平尾誠二氏のお話として,この言葉は「一人は皆のために,皆は『勝利』のために」という意味だと紹介されていたのです.そう,後者の“one”は“victory”だったのです.確かに,ある集団で「一人」が「皆」のために努力することは当たり前でしょうし(いや,最近はそうでもないか?),一人ひとりが力を合わせることで,1+1が3にも5にもなるでしょう.そのためには,“one for all”でいう“one”は自立し然るべき能力を備えた大人であるという前提が必要になります.もっとも,「一人」が半人前で他のメンバーの助けを借りなければ仕事ができないようでは,その集団の力は十分に発揮されることはなく,ただの烏合の衆となり,期待された相乗効果も生まれるはずがありません.したがって,個々に独立し,それなりの能力を備えた「大人」が集まってこそ,一つの目標,戦いであれば当然「勝利」に向けてその力を合わせることができるというわけです.言葉の出自を考えれば当然のことと納得でき,この解説で頭の中の霧が晴れた気がしたわけですが,聖徳太子の時代から,「和を以て尊しとなす」日本人ゆえに,先のような一般的な解釈がなされたのではないかと,今にして思い当たることになりました.
著者
伊藤 亜紗
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1038-1041, 2017-12-25

人間にとって「話す」とは,まぎれもなく発声器官を用いた身体の運動です。しかしそれは同時に,社会的な行為でもあります。社会的な行為であるとはつまり,他者との関係を左右する,意味を帯びた行為であるということ。ちょっとした言葉の選び方や表情のつくり方が,場の雰囲気を変えたり,人間関係を左右しうることは,今さら説明するまでもないでしょう。 それは別の言い方をすれば,私たちの「話す」は,常に他者の期待のうえになされる行為だ,ということです。独り言であれば,他者からの期待が一切ない,いわばまっさらな状態で,私たちは話すことができます(そして多くの吃音当事者が,独り言ではどもりません)。しかし,通常の会話ではそうはいきません。相手が「どうぞ」と言ってお茶を置いてくれたなら,私にはお礼を言うことが期待されているし,相手が真剣な顔で相談をしてきたら,それに真剣に応えることが期待されています。
著者
小池 春樹
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.113-120, 2018-02-01

近年,ジカ熱の世界的な流行に伴いジカウイルスとギラン・バレー症候群(GBS)との関連が注目されるようになった。日本においてはジカ熱の流行は確認されていないものの,海外渡航からの帰国後に発症した患者が報告されている。ジカ熱に関連したGBSは脱髄型の病型を呈する場合が多く,治療は一般的なGBSに準じて行われている。発症の誘因となる自己抗体が明らかになっておらず,病態に関しては今後の研究課題である。
著者
小栁 貴裕
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.339-347, 2017-04-25

前編(52巻2号)では,ランダム化比較試験(RCT)ではないデータのバイアス対処に関する最近の手法を紹介した.後編では群内に従属性を持つ複数のデータ群,すなわち階層構造データを分析する手法としての混合効果(マルチレベル)モデル分析につき言及する.2005年頃から特にRCTで頻繁に使われ出した手法であり,この構造を無視した分析では,しばしば誤った結果を導く可能性がある.