著者
扇谷 明
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.648-657, 1997-08-10

側頭葉てんかんでは,発作症状として情動発作があり,発作間欠期にはしばしば情動変化がみられる。情動発作としてよくみられるものに,発作性恐怖,発作性うつがあり,稀なものとして発作性快(性的オルガスムを含む),笑い発作がある。またよくみられるdreamy stateは,本質的には親密感familialityの変容としてとらえられるため,情動発作といえる。これらの脳における座として,扁桃体がもっとも関与していることがわかり始めた。それは最近,盛んに行われるようになった側頭葉切除術の結果である。この側頭葉てんかんにおける情動変化のメカニズムとして,LeDouxが新たに証明した視床―扁桃体の直接経路を援用すれば,理解されやすい。しかし,情動が認知・行動レベルに及ぼす変化を考慮する場合,他の大脳の領野,とりわけ前頭前野,海馬などのネット・ワークが必要となる。
著者
嶋村 清志
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.590, 2008-07-15

甲賀市甲南町竜法師には今も現存する「忍者屋敷」があり,私も研修医と訪れることがあります.忍術の極意書「万川集海(ばんせんしゅうかい)」には忍者が薬草を育て,加工し,様々な生薬を創っていたと記されています.地元の山伏や修験者,のちに忍びと言われる者は,町人や商人になって常備薬や護身薬を創り,旅先での生計にあてていました.また,忍薬として飢渇丸,水渇丸,敵を眠らせる薬,眠気をさます薬などの他,様々な救急薬も創られていました. その後,県内各地で「和中散」,「赤玉神教丸」,「万病感応丸」などの薬も創られ,大勢の近江商人たちが道中薬として持ち歩き,その効能が話題を呼び,全国に広まりました.現在も滋賀の家庭薬工業は富山,奈良,佐賀と並んで4大配置用家庭薬生産県として有名です.昭和になって薬業界や配置薬業の発展と製薬技術の発展を目的に,滋賀県薬事指導所(現:薬業技術振興センター)が甲賀市に設置されました.甲賀保健所の研修医には,こういった薬業の歴史を知ってほしいし,薬の安全性を監視している薬業技術振興センターの役割を学ぶというねらいから,薬事研修を積極的にメニューに取り入れています.そしてこの研修の一環として,当保健所管内の製薬会社工場を訪問し,その製造過程を見学することにより,徹底した品質管理の現状を学んでもらっています.臨床の現場で何気なく処方している薬の一錠一錠が,厳格な検査を経て製造されていることを知ってほしいのです.
著者
宍戸-原 由紀子 内原 俊記 三條 伸夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.479-488, 2016-04-01

進行性多巣性白質脳症(PML)は,宿主の免疫低下に伴いJCウイルスが再活性化して起こる脱髄脳症である。臨床的に免疫低下の原因が不明瞭で,髄液ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でウイルス陰性でもなお,画像上PMLの可能性を否定できず脳生検を施行する場合がある。こうした症例では,病理診断の指標となる典型的な核内ウイルス封入体を有する細胞に乏しく,高度な炎症細胞浸潤を伴う場合がある。JCウイルスに対する宿主免疫応答が保たれている状態と考えられ,予後は良好である。本稿では,炎症反応を伴ったPMLについて,近年問題となっている免疫再構築症候群も含め,概説する。

1 0 0 0 自傷行為

著者
松本 俊彦
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.430-433, 2013-06-15

はじめに リストカットに代表される自傷行為は,今や学校保健における主要な課題の1つとなっている.今日,刃物で故意に自らの体を傷つけるタイプの自傷行為に限っても,中学生・高校生の約1割(男子7.5%,女子12.1%)に自傷経験がある1).そして,中学校に勤務する養護教諭の96.3%,高校に勤務する養護教諭の99.0%が,自傷する生徒に対応した経験があり,そうした経験を持つ養護教諭の大半が,「どう対応してよいか分からない」と感じている1). 本稿では,若者における自傷行為が持つ意味や自殺との関係,そして,予防のあり方について私見を述べさせていただきたい.
著者
森 悦朗 山鳥 重
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.655-660, 1985-06-15

I.はじめに 物に触れるか,物を見ることで本人の意志とは無関係にそれを使用してしまうという奇妙な行動異常が1981年以降に相次いで報告された9,12,15,17,24)。我々は1981年第22回日本神経学会総会(熊本)においてそのような行動異常を示す例を報告し,「道具の強迫的使用」(compulsive mani—pulation of tools)と名付けた14,15)。患者は左前大脳動脈閉塞によって左前頭葉内側面と脳梁膝部に損傷を有し,右手の強い病的把握とともに,例えば患者の前にくしを置いた場合,患者の右手は意志に逆ってこれを取り上げ髪をといてしまう。道具の強迫的使用は右手のみに生じ,左手は患者の意志を表わして右手に持った道具をとりさろうとする。 また1981年Goldbergら9)はこれと全く同じであると思われる症例を報告し,右手に出現したalien hand sign (Bogen)4)であると解釈している。本邦では能登谷ら17),内山ら24)が各々1例ずつの報告を行っている。 これとは別に我々の報告した道具の強迫的使用と類似しているが,若干異なった行動異常も報告されている。Lapraneら12)は両側前頭葉内側面に損傷を持つ患者が,両手で強迫的に物を使用してしまう現象を記載しているし,Lehrmitte13)は前頭葉損傷を有する患者が,物を前に置かれると強迫的にではなく両手でそれを使用する現象を取り上げ,utilization behaviourと名付けている。 ここで我々は以前に報告した道具の強迫的使用を示す症例を再び示し,この現象に対する我々の考え方を述べ,類縁の現象についても整理を試みた。
著者
福村 直毅 牧上 久仁子 田口 充 福村 弘子 茂木 紹良
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.1003-1007, 2016-11-10

はじめに 気管切開(以下,気切)は,一般に嚥下機能を低下させると考えられている1).気切孔用レティナカニューレは喉頭運動を阻害しにくいこと1,2),一方弁が誤嚥リスクを低下させることが知られている3).今回,慢性的に多量の唾液誤嚥が認められた患者に唾液誤嚥をコントロールするためにあえて気切を実施し,レティナと一方弁を用い,栄養や薬剤管理も含めた包括的なリハビリテーションを行うことで,経口のみでの栄養を獲得できたので報告する.
著者
清水 耕
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.127-138, 2009-02-25

ステロイド性136例,250関節,特発性48例,50関節,計184例,300関節の膝関節部骨壊死の単純X線,MRI所見を検討した.ステロイド性は両側性,多発性の症例が多く,好発部位は大腿骨外顆後部,遠位骨幹端,内顆後部の順で,壊死発生部位は骨髄内血流終末部に一致しており,MRI所見は,「band」像,「mixed」像を呈していた.特発性は大部分が大腿骨内顆中央に限局し,MRI所見は「diffuse」像を呈し,「band」像は認めなかった.特発性壊死はステロイド性壊死と大きく異なっていたが,骨折が特発性骨壊死の原因と考えられる画像所見は認められなかった.
著者
太田 康 加我 君孝 小山 悟 桜井 尚夫 小川 恵弘
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.67, no.13, pp.1132-1134, 1995-12-20

はじめに 顔面神経管裂隙とは側頭骨の顔面神経管にしばしば存在する骨欠損部であり,中耳手術の際の顔面神経麻痺の原因の1つでもあり,中耳炎の顔面神経への炎症の波及路ともいわれている1,2)。成人側頭骨における顔面神経管裂隙の病理組織学的検討の報告はあるが3〜5),新生児あるいは乳児における顔面神経管裂隙についての報告は極めて少ない4)。今回われわれは,帝京大学耳鼻咽喉科学教室の側頭骨病理コレクションの新生児側頭骨5例8耳の顔面神経管裂隙の出現頻度とその部位について検討したので,ここに報告する。
著者
鈴木 みずえ 磯和 勅子 金森 雅夫
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.275-289, 2006-08-01

緒 言 音楽は人々の心を静穏化させ情動的反応を引き起こすことによる癒しの効果や身体活動を促進する効果があり,人々の健康の維持・増進に用いられてきた。欧米では19世紀から臨床的報告がみられ,20世紀後半から音楽が治療として用いられるようになった。今や臓器移植・遺伝子治療などの先端医療技術は,従来の疾病構造さえも変革しようとしている。しかし,人々の健康あるいは病気の課題は先端医療だけで解決されるものではなく,病気や治療に伴うさまざまな苦しみや痛みに対する全人的なケア,本来の自然治癒力・生命力を回復させるホリスティックなアプローチが必要とされている。近年,欧米を中心に,音楽を健康回復および健康増進だけではなく,病気や障害の治療に使用するようになっている。その適応範囲は,リラクセーション,ストレスマネジメント,リハビリテーションなど情動反応やリズム刺激などを活用した広範囲に及んでいる。 老年看護の実践場面でも音楽は高齢者の生活の質を高めるアプローチとしてケアに取り入れられている。デイケア,デイサービス,高齢者施設において音楽は生活環境の一部として欠かせないものである。落ち着きのない認知症高齢者も集中して歌や合唱のレクリエーションに参加したり,コミュニケーション障害のある認知症高齢者が歌を通して他者と交流する場面も認められている。音楽療法のほかにも運動,動物,回想などのレクリエーション的アプローチを用いた看護介入は,アクティビティケアと呼ばれて実践に盛んに取り入れられている。そのなかでも音楽は,わが国の高齢者にとっては壮青年期における重要な娯楽であり,共通した情動反応を引き出しやすく,欧米ではアクティビティケアのなかでは最も歴史が長く,研究報告がなされている。今後,わが国でも認知症高齢者に対して介護予防や介護負担軽減を目的した音楽療法を看護介入として活用することは有効であろう。
著者
川村 伸悟 鈴木 明文 吉岡 喜美雄 西村 弘美 奈良 正子 安井 信之
出版者
医学書院
雑誌
Brain and Nerve 脳と神経 (ISSN:00068969)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.475-480, 1986-05-01

抄録 体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials:SEP),早期陰性成分N1振幅値(P1-N1 peakto peak amplitude)の再現性と,SEP記録方法の内,特に加算回数と体性感覚刺激強度の妥当性につき検討した。対象は,正常人15例,平均年齢29歳である。体性感覚刺激は,2本の針電極を手関節部正中神経上皮膚に刺入し,持続時閥1msecの低電圧矩形波刺激により行った。SEPの記録は,体性感覚刺激と反対側頭頂部頭皮より記録した脳波を平均加算して行った。N1振幅値の再現性を検討した結果,(1)加算回数は多いほど再現性は高くなった。しかし,臨床応用の場で刺激間隔1秒の時には,250回が限界と考えた。(2)刺激強度は,thumb twitchが生じる刺激電圧よりわずかに大きな電圧とする限り,N1振幅値の再現性への影響はなかった。(3) SEPの成分は刺激後500msec以降には認めず,刺激間隔を1秒とすることは妥当であった。但し,刺激間隔を一定にすると,規則的な背景脳波をaverage outできない場合がある。(4)加算回数250回,刺激強度thumb twitch threshold,刺激間隔1秒の条件下ではSEP反復記録におけるN1振幅値比の変化し得る範囲(95%信頼区間)は,0.440以上1.62以下と考えられた。
著者
片岡 憲章 山内 俊雄
出版者
医学書院
雑誌
Brain and Nerve 脳と神経 (ISSN:00068969)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.1175-1182, 1982-12-01

抄録 正常成人10名を対象に,体性感覚誘発電位SEPの主に後期成分に対する刺激方法,開閉眼ならびにクレペリン精神作業テスト施行が与える影響と,これらの経日的記録による再現性の問題について検討した。同一記録条件下におけるSEPの個体内経日変動は小さく,再現性は良好であつた。一方,個体間変動は潜時では小さいが,振幅は著しく人きかつた。刺激方法によるSEPの変動を2秒,5秒に1回の2種類のconstant刺激,2から5秒に1回のrandom刺激によるSEP記録で互いに比較検討した。その結果,いずれの成分でも統計学的に有意な変動は認められなかつた。開閉眼が与える影響を検討したが,両者に有意な変動を認めなかつた。クレペリン精神作業テストがSEPに与える影響をみるために開眼,閉眼状態と比較した。その結果,クレペリン精神作業テスト施行時にはSEPの後期成分の頂点潜時の有意な短縮が認められた。最後に,SEPの主に後期成分と精神機能との関連,臨床応用の可能性について考察をくわえた。
著者
増田 亜希子
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.1010-1011, 2015-09-15

T細胞性大顆粒リンパ球性白血病(T-cell large granular lymphocytic leukemia:T-LGLL)は,WHO分類第4版では,明らかな原因のない6カ月以上持続する末梢血顆粒リンパ球増殖症と定義されている.顆粒リンパ球は,細胞質にアズール好性顆粒を3個以上有する大型リンパ球で,大きさは15μm程度であることが多い.T-LGLLの診断基準にリンパ球数の規定はない1,2).リンパ腫の0.06%とまれであり5),性差はなく,成人に多く発症する. 臨床症状では,貧血や好中球減少を認めることが多い.高率に赤芽球癆を合併する.浸潤部位は末梢血,骨髄,肝臓・脾臓が多く,リンパ節はまれとされている.治療としては,シクロスポリンなどの免疫抑制剤が用いられる.
著者
園田 茂 椿原 彰夫 出江 紳一 高橋 守正 辻内 和人 横井 正博 斎藤 正也 千野 直一
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.637-639, 1991-06-10

はじめに 近年,非典型的な筋力低下を呈する症例がリハビリテーション科に依頼され,治療に当たることが少なくない.そして,患者は簡単に「心因性」と診断される傾向があり,そのような代表的疾患として重症筋無力症があげられる. 重症筋無力症はその症状の動揺性から時に転換ヒステリーと誤診されやすい1,2).また,この疾患の特徴として,発症や増悪の契機に心理的要因が大きく関与しているため3),患者や医療者に与える誤診の影響は少なくない. 我々は「心因性」歩行障害と診断され,リハビリテーション医療が必要であるとして紹介された重症筋無力症患者を経験し,安易に「心因性」,「ヒステリー」と断定することの危険性を痛感した.そしてリハビリテーション医学の分野における診断学の重要性を再確認したので,若干の考察とあわせて報告する.

1 0 0 0 強迫性障害

著者
小平 雅基
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.453-459, 2010-05-15

はじめに 強迫性障害(obsessive-compulsive disorder;OCD)は,強迫観念と(もしくは)強迫行為によって規定されており,それらによって正常思考や日常生活動作が脅かされることをもって,強迫性障害とされる。ただし注意する点としては,子どもにおいては,発達過程にみられる正常の範疇に属する強迫から強迫性障害とされる強迫までスペクトラムとして理解することが可能であり,児童期にみられる正常レベルの強迫は子どもが発達するために経過しなければならない課題ともいえる側面を持っている点である。すなわち障害とはいえない強迫症状があり得るということになるので,「それが悩ましく,長時間続き,社会活動を害していること」をもって障害と特定されている。本稿においては児童期発症OCDと成人期発症OCDとの比較を含め,子どものOCDについて述べていきたいと考える。
出版者
医学書院
雑誌
保健婦雑誌 (ISSN:00471844)
巻号頁・発行日
vol.18, no.8, 1962-08-10

福島県信夫村の死亡原因は脳出血が一番多いところから,同村の保健婦荒井園子さんが次のような"高血圧予防数え歌"を作つた.
著者
市橋 秀夫
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.423-430, 2016-05-15

はじめに 自閉スペクトラム症(ASD)の出現頻度は本質的に時代の影響を受けないはずであるが,どの医療機関でも発達障害者の受診が増えているという。その理由は2つあると思われる。 第1に1990年代後半から広まった発達障害の啓蒙活動である2)。それまで仕事ができない,人間関係が築けない,人の話が理解できないのは,自分に問題があるためだと思い込んできたのが,「発達障害のためではないか」と自ら疑い始めた。残念ながら啓蒙活動は精神科医ではなく,一般市民や当事者による外国書物の紹介から始まった。成人精神医学を専門とする精神科医が大多数を占めるわが国では,発達障害の知識はほとんどなかったからである。さらに児童精神科医はわが国では少なくて,これまで発信力も乏しく,成人になると関与しなくなること,児童精神科医と成人精神科医との学術的な交流も乏しかったという背景があった。そのため成人の発達障害の対応は大幅に遅れた。 第2に発達障害の受診者が生きづらい時代に入ったのではないかという実感が治療に当たって感じるようになった。その生きづらさはどのようなものであるのかを明らかにすることが本稿の目的である。 このように増加する発達障害に対して私たちはまだ十分な医療,社会的受け皿,行政,福祉などの用意ができていない。発達障害の本質は生きにくさにある。それは社会・文化的文脈で理解していかなければならないことを意味する。