著者
坂井 昌人
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.370-371, 2003-04-10

1 診療の概説 リトドリン持続点滴静注の効果についてはいくつかの規模の大きい研究がなされ,少なくとも24時間から48時間の妊娠期間の延長は有意に認められているが1),それ以上の効果は証明されていない.そして,リトドリン使用により妊娠期間の延長がなされても,使用しなかった群に比べて児の予後を改善する結果とはなっていない1).ただし,これらは切迫早産の対象を子宮口が2~3 cm以上開大し,規則的に陣痛のある症例としていることを承知しておかなければならない.米国におけるリトドリンの使用法が進行した切迫早産を対象にしているためである. 日本でみられるように,子宮口の開大はなくとも,規則的な子宮収縮を認めればウテメリンを使用するという方法に有用性があるとの明らかな証明は得られていない.しかし,子宮口の開大がなくても,規則的な子宮収縮を認める場合のほうが,収縮のない場合より,早産のリスクが高いのは明らかである2).ただし,それらの多くは早産とはならないし,早産になるとしてもすぐにではない.米国でも3次医療機関や大学病院ではなく,地域の病院では,子宮口の開大がないか軽度であっても規則的な子宮収縮を認める場合に,実際にはかなり多くの例で子宮収縮抑制剤の投与が行われているという2). 内服によるリトドリンの血中濃度は60~120 mg(12~20錠)/日内服したとしても,持続静注の場合に比べて1/3~1/2以下にしかならない3).リトドリン錠の効果については,米国の切迫早産の基準を当てはめれば静注より低いのは明らかなので,米国では1995年以降,リトドリン内服錠の製造は中止となっている. しかし,内服の場合の血中濃度でも,ある程度子宮筋の収縮抑制効果はあるので,進行していない軽度の切迫早産に対するウテメリン錠内服の効果を,妊娠期間の延長のみに求めず,自覚症状の軽減も含めればまったく効果がないともいえず,有用性がまったく否定されるわけではないだろう.そして重要なのは,それらの症例を注意深く経過観察していくことにより,それらの中から進行した切迫早産となり,実際に早産を起こすような例を確実に見つけ出し,それらが早産となるのを防ぐことである.
著者
榊原 洋一
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.754-758, 2001-09-25

2つの「三歳児神話」 先日第1回の「日本赤ちゃん学会」が東京で開催された。赤ちゃん学会は,これまで医学,心理学,動物行動学,サル学,コンピューター学などさまざまな分野で別々に行なわれてきた赤ちゃんについての学問を,異分野の研究者が集まって幅広い見地から共同で研究していこう,ということで創設されたものだ。その第1回の学会のテーマとして選ばれたのが「三歳児神話を検証する」であった。1日めの午前中は,基礎脳科学の立場で三歳児神話を検証し,午後は保育の現場に関係のある主に発達心理の立場から検証する,という趣向であった。 ふたをあけてみたところで,奇妙なことが起こった。午前中の基礎脳科学のセッションの座長が,シンポジウムの開催に先立って「三歳児神話」の意味を説明するとしてことわざの「三つ子の魂百まで」を例として持ち出したのである。そして三歳児神話の意味を,3歳までに子どもの脳はできあがってしまう,それくらい重要な時期なのだ,という説明でまとめたのである。座長は小児科医であり,子育ての現場にも詳しい方であったが,その方が三歳児神話の意味を,「3歳までの(脳)発達は極めて重要であって,その間に正しい刺激を与えなければ,健常な発達が臨めないことがある」という意味に解釈されていたのであった。午後のシンポジウムの座長を筆者がつとめたのだが,そこでも参加している小児科医から,「三歳児神話をどういう意味で捉えているのか」という私にとっては意外な質問がだされた。もちろん「三歳児神話」の公式の意味は「3歳までは母親が子育てをしないと,健常な発達がさまたげられる」というものであり,数年前に厚生省が出した三歳児神話にはそれを支える科学的な裏づけはないという声明においても,三歳児神話はそういう意味で使われている。
著者
筒井 真優美
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.585-594, 1993-12-15

I.はじめに ニューヨーク大学は総合大学であり,マンハッタンの南,多くの芸術家が住むグリニッチ・ヴィレッジやソーホの近くに位置する。大学の南には中華街やリトル・イタリーがあり,さまざまな人種が住んでいる。 ニューヨーク大学看護学部の名誉教授はマーサ・ロジャーズ(M.Rogers)で,1975年までの看護学部長であった。ニューヨーク大学は教育の根底にロジャーズの看護科学(Nursing Science)がある。ロンヤーズは,看護はunitary humanbeing(人間)とその環境についての科学であると述べており,人間に関する概念を中心に看護を説明している。ロシャーズの看護学に関する概念は他の看護理論よりも抽象度が高く,操作的定義が困難であると述べられているが,これはロジャーズが看護理論ではなく看護学(看護科学)について述べているからである。
著者
赤井 裕輝
出版者
医学書院
雑誌
糖尿病診療マスター (ISSN:13478176)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.96-101, 2017-02-15

POINT・正常個体で生理的範囲を超えた血糖低下が低血糖,臨床症状を伴えば低血糖症という.・低血糖症の確定診断はWhippleの三徴による.・低血糖に伴う症状は血糖低下につれて副交感神経症状,交感神経症状,中枢神経症状と進む.

1 0 0 0 脊椎過敏症

著者
小野村 敏信
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.14, no.13, pp.2302-2303, 1977-12-10

脊椎過敏症とは 背痛あるいは棘突起部の自発痛や圧痛を主訴として受診する患者のなかで,これらの愁訴以外の理学的所見に乏しく,予後も良好であるものが比較的多いことはよく知られている.このような病態は,脊椎過敏症あるいは棘突起痛と呼ばれ,臨床上きわめて頻度の高いものである.一方,種々の脊椎疾患や内臓疾患の場合に,臨床症状の一つとして棘突起部の疼痛(圧痛,叩打痛,運動痛など)をきたすことは多く,これらの疾患と脊椎過敏症とを鑑別することは,腰背痛患者の診断に際して常に念頭におかなければならない. 統計的にみると,本症は20歳代の女子とくに事務労働者や主婦に圧倒的に多く,平背や円背などのなんらかの不良姿勢や背筋の萎縮をもつ場合の多いことが特徴的である.原因としては未だ明らかでない部分も多いが,自律神経失調,内分泌異常,関連痛,いわゆる付着部痛,ヒステリーなどがあげられている.好発年齢その他からみると心因性要因を含めた素因の存在も否定できないが,臨床的な特徴からは,棘突起に付着する筋・腱・靱帯などの張力が発痛と関係が深いと思われる.姿勢異常や背筋のfibrosisは腱・靱帯付着部に持続的なtensionを加え,局所の発痛素因を高めると考えられる.本症の予後は良好であり,数ヵ月ないし数年の間に自然寛解をみるのが普通である.
著者
加藤 研一 井戸 稚子 岩崎 義弘 松村 美代 後藤 保郎 新井 三樹
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.1859-1861, 1989-11-15

生後15日で当科初診となった片眼性第一次硝子体過形成遺残の症例に対し,視機能保持の目的で硝子体手術を行った。初診時,前眼部に異常を認めず,水晶体は透明でその後方の硝子体腔に白色組織塊がみられた。眼底後極部は透見不能で,超音波検査で高エコーレベルの組織塊が,水晶体後方より漏斗型を呈しつつ視神経乳頭へ連なる像を認めた。術前flash VEP検査において左右差をみなかった。生後22日目にpars planavitrectomyが施行された。術中,白色組織塊は水晶体,網膜と癒着していなかったが,視神経乳頭とは索状物でつながっていた。透見可能となった眼底に異常所見はみなかった。現在術後170日経過しているが,合併症はみていない。 今回,我々の経験した症例は,透明な水晶体を保存できたこと,生後早期に手術により視軸の透明性が得られたことより視性刺激遮断弱視の発生予防に関して有利であると考えられ,良い視機能が期待される。
著者
藤井 ひろみ
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.729, 2018-08-25

SOGI(性的指向・性自認)の多様性は,看護学生のなかにも見られます。筆者が2016〜2017年に実施した看護学生へのインタビュー調査では,同性愛指向や性別違和をもつ看護学生がいろいろな対処行動をとりながら,学んでいる事例が明らかになっています(表)1)。 たとえば,学校で実習服のデザインが男女で異なる場合,戸籍とは異なる性別の制服の着用が許可されるか,ということが学業継続の分岐点の1つになり得ます。その交渉のために学校長や教員へのカムアウトが必要になります。しかし性的な個人情報を,すべての学生が公にしたいわけではありません。また学生からカムアウトをされた看護教育者側は,SOGIに関して学生の「同意なき暴露」(アウティングと言います)をしてはなりません。学校として,実習指導者や患者が学生を受け入れてくれるだろうか,SOGIの多様な学生の状況をどの程度伝えるのか,対応を検討することになります。学生自身も「自分の性的指向の話はしたいと思ってるけど,あの人ちょっといや……みたいに思われる方(患者)もいるかもしれないので,どこまでオープンにしようか……」1)と考えている場合もあります。まずは当該学生と相談し,具体的に起こり得る状況を伝え,意思確認をおこなうことが重要です。
著者
安藤 徳彦 上田 敏 石崎 朝世 小野 浩 大井 通正 緒方 甫 後藤 浩 佐藤 久夫 調 一興 菅井 真 鈴木 清覚 蜂須賀 研二 山口 明
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.979-983, 1991-10-10

はじめに 障害者が健常者と同様に働く権利を持っていることは現在は当然のこととされている.国連の「障害者の権利に関する宣言」(1975年12月9日)第7条には「障害者は,その能力に従い,保障を受け,雇用され,また有益で生産的かつ十分な報酬を受け取る職業に従事し,労働組合に参加する権利を有する」と述べられている.また国際障害者年(1981年),国連障害者の10年(1983~1992年)などの「完全参加と平等」の目標を実現するための行動綱領などにも常に働く権利が一つ重要なポイントとして掲げられている. また現実にも,障害者,特に重度の障害者の働く場はかなり拡大してきている.障害者の働く場は大きく分けて①一般雇用,②福祉工場,授産施設など,身体障害者福祉法,精神薄弱者福祉法,精神保健法などの法的裏づけのある施設での就労(福祉工場では雇用),③法的裏づけを欠くが,地域の必要から生まれた小規模作業所での就労,の3種となる.このうち小規模作業所は,共同作業所全国連絡会(以下,共作連)の調査によれば,全国に約3,000か所,対象障害者約3万人以上に及んでおり,この数は現在の授産施設数およびそこに働く障害者数のいずれをも上回っている.小規模作業所で働いている障害者は,一般雇用はもとより,授産施設に働く障害者よりも障害が重度であったり,重複障害を持っている場合が多い.その多くは養護学校高等部を卒業しても,その後に進路が開けなかった人々であり,彼らの就労の場として小規模作業所が開設されたわけであるが,それは親たちや養護学校の教師たちの運動で自主的につくられてきた施設が多い.また最近まで就労の道が開かれていなかった精神障害者に対し,以前から広く門戸を開いてきたのも小規模作業所であり,その社会的役割は非常に大きい. しかし,障害者が働くことに関しては,医学的側面から見て種々の未解決の問題が存在している.現在もっとも重要視されていることの一つは,重度の身体障害者,特に脳性麻痺者における障害の二次的増悪である.すなわち,以前から存在する運動障害が,ある時期を境として一層悪化し始める場合もあれば,感覚障害(しびれ,痛みなど)が新たに加わる場合も多い.そして,その結果,労働能力が一層低下するだけでなく,日常生活の自立度まで低下し,日常生活に著しい介助を必要とする状態に陥る者も少なくない. すでに成人脳性麻痺者,特にアテトーゼ型には二次的な頸椎症が起こり,頸髄そのものの圧迫または頸髄神経根の圧迫により種々の症状を生ずることが知られている.しかし,二次的な障害増悪がすべてこの頸椎症で説明できるものではないようであり,さらに詳細な研究が必要である. また逆に,働くことがこのような二次障害の発生を助長しているのかどうかという問題も検討する必要がある.廃用症候群の重要性が再認識されつつある現在,たとえ重度障害者であっても働くことには心身にプラスの意味があるに違いない.しかし一方,働きすぎ(過用,過労)がいけないことも当然である.問題は重度障害者における労働が心身の健康を増進するものであって,わずかなりともそれにマイナスとなるものでないように,作業の種類,作業姿勢,労働時間,労働密度,休憩時間,休憩の在り方などを定めることであり,それには労働医学的な研究が十分なされなければならない. 以上のような問題意識をもって,1990年,共作連の調査研究事業の一部として障害者労働医療研究会が結成された.同研究会には脳性麻痺部会と精神障害部会を置き,前者においては主として上述の二次障害問題を,後者においては精神障害者にとっての共同作業所の機能・役割,また障害に視点を当てた処遇上の医療的な配慮などについての研究を進めている. そして,障害者労働医療研究会の最初の仕事として,以上のような問題意識に基づいて脳性麻痺者の二次障害の実態調査を行った.その詳細は報告書としてまとめられているが,ここではその概要を紹介する.なお,この研究では小規模作業所と授産施設との間の差を見る目的もあって,前者の全国的連合体である共作連と授産施設の全国連合体である社団法人全国コロニー協会(以下,ゼンコロ)との協力を得て行った.
著者
赤松 泰次 北原 桂 白川 晴章 市川 真也 長屋 匡信 須藤 貴森 武田 龍太郎 竹中 一弘 太田 浩良 宮林 秀晴 田中 榮司
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.805-812, 2009-04-25

要旨 当科で診断した胃MALTリンパ腫98例の内視鏡所見を検討した.胃MALTリンパ腫の内視鏡所見は,早期胃癌(IIc)類似型,胃炎類似型,隆起型の3群に大別できた.早期胃癌類似型と早期胃癌の鑑別のポイントは① 正常粘膜との境界が不明瞭,② 蚕食像がないか,あってもごく一部,③ 陥凹内に粘膜模様が観察される,④ 病変が多発することが多い,の4点であった.胃炎類似型はさらに,びらん・潰瘍型,色調変化型,顆粒・結節型に細分類され,びらん性胃炎,急性胃粘膜病変,消化性潰瘍,萎縮性胃炎,鳥肌状胃炎などとの鑑別が必要である.一方,隆起型は,表面にびらんや潰瘍を伴い,形状も不整であることから間葉系腫瘍との鑑別は容易であるが,IIa型早期胃癌や形質細胞腫との鑑別が問題となる.早期胃癌類似型は胃炎類似型に比べて,壁深達度がSM以深の症例が多く(p<0.01),Helicobacter pylori感染を認めない症例の割合が高かった(p<0.01).
著者
奈良林 祥
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.692-697, 1998-08-25

急激に増えたセックスレスの相談 「あれっ?」カウンセリングの途中で異変の芽のようなものを感じ,クライアント(相談依頼人)には気づかれないように心の内でドキリとさせられていたのは,もう12,3年も前のこと。わざわざ長野県から,“一昨年結婚致しました長男の嫁から,結婚して1年半になるのに,まだ一度も交わりがありません,と聞かされ,びっくり致しまして”とやって来た人品卑しからざる,その長男なる人物の母親を前にしてのことであった。そして,私を,「あれっ?」と思わせたのは,前日にも似たようなケースを扱ったばかりであり,そう言えば,当時は「性交回避」または「性愛嫌悪症」と言う病名で扱っていたこの種のクライアントが,このところ妙に増えて来ていることにフト思い当たったからである。今にして思えば,後に「Sexless(セックスレス)」と言う言葉がある種流行語のように通用してしまう事態を招くことになる「Sexless husband(セックスレスハズバンド)」と呼ばれる,性を病む亭主の急激な増加と言う現象の前触れに私はその時点で既に出会わされていた,と言うことであったのだ。 厳密に申せば,私が「性交回避」とカルテの病名欄に書き込むケースはかなり以前からなかった訳ではない。でも,あったと言ってもせいぜい年間2〜3例のものであって,世の中には変わった人間もいるものだ,で通り過ぎていたのであるが,それが,毎週のようにケースとして現れると言うことになると,これはおかしい,と言うことにもなる。当然のことであろう。私事めいて恐縮であるが,私のクリニックでは1日5人しか面接は受けないのであるが,一時期,その5人全部がセックスレスの相談と言うことがしばしばあったものである。やはり,異常事態である。
著者
葉山 惟大
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.132-137, 2018-04-10

summary化膿性汗腺炎は慢性・炎症性・再発性・消耗性の皮膚毛包性疾患であり,患者のquality of life(QoL)を著しく障害する.本邦では男性優位,家族歴が少ない,重症患者が多いなど海外とは異なる背景がある.病態生理は毛包を中心とした自然免疫の活性化であり感染症ではない.近年γ-secretaseの変異が自然免疫の活性化の原因であることがわかり,家族性化膿性汗腺炎患者を中心に変異が報告されている.治療は海外のガイドラインを参考に行うが,適応外の治療も多い.まず患部の外科的切除を最初に検討する.切除にて改善しない,または手術ができない場合はクリンダマイシン外用またはテトラサイクリン系抗菌薬内服,続いてリファンピシン+クリンダマイシン内服が推奨されている.上記の方法で効果がない場合はアダリムマブの投与が推奨されている.エビデンスレベルが高く,患者のQoL維持にも有用であるが,本邦では適応外であり,今後の適応拡大が望まれる.
著者
足利 幸乃
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.1054-1059, 2003-11-01

前稿(本誌前号)では,がん化学療法におけるセルフケア支援の考え方と看護師の役割,そして,医療者が陥りやすいパターナリズムが患者支援という看護を阻むことに言及した.本稿では,がん化学療法を受ける患者の抗がん剤による副作用症状に対するセルフケア支援に焦点をあて,前稿で提示したセルフケア支援のプロセス1)(図)の枠組みを使って,筆者の考えるセルフケア支援のポイント(表1)を説明していきたい.なお,セルフケア支援のポイントを具体的に解説するにあたって,前号「便秘のセルフケア支援2)」でとりあげた事例(表2)をつかっていくこととする. ケアの優先順位を決める ポイント1:看護アセスメントと患者の気がかりをすりあわせ,セルフケアの優先順位を決める がん化学療法では,投与される抗がん剤のレジメンによって,出現頻度の高い副作用,その症状の程度,出現時期と回復パターンをある程度予測できる.多くの現場では,がん化学療法によって出現する一般的な副作用,たとえば,悪心・嘔吐,易感染,口内炎,食欲不振などをカバーする内容の患者教育用パンフレットを使って,患者への指導が行なわれている.患者教育のなかに,セルフケアに関する内容がもりこまれており,副作用の知識とともに患者に必要とされるセルフケアが説明される. このように一般化された看護を行なうことは,ある水準の看護を維持するために不可欠である.しかし,一般化された看護に終始すれば,患者のなかには「だからどうなの…」「じゃあ,私はどうなの」と思ってしまう者もいるだろう.患者が気にかけていることは,自分のことである.患者が自分に対して看護が行なわれていると感じるためには,一般的な看護のうえに,患者個別の看護を付加しなければならない.このオプションは,個別的な看護アセスメントから見出すことができる.個別的なアセスメントを行なうことで,一般的とされる患者の問題が,ほんとうにこの患者の問題であるのか,この患者にとっての優先順位の高い問題は何かといったことが明らかにされる.
著者
渡辺 恭良 倉恒 弘彦
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.5-9, 2018-01-01

1990年に木谷照夫,倉恒弘彦らにより日本第一号の患者が発見された筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群は,慢性で日常生活に支障をきたす激しい疲労・倦怠感を伴う疾患であり,1988年に米国疾患管理予防センターが原因病原体を見出すための調査基準を作成し,世界的にその診断基準が広まったものである。かなりのオーバーラップがみられる疾患に線維筋痛症があり,また,機能性ディスペプシアなども含めて,機能性身体症候群という大きな疾患概念も存在する。客観的診断のためのバイオマーカー探索も鋭意行われ,わが国におけるPET研究によって,脳内のセロトニン神経系の異常やさまざまな症状と神経炎症の強い関わりなどが明らかになってきた。一方,このような最新の知見を踏まえた治療法の開発研究も鋭意行われている。
著者
小坂 義種
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.35, no.11, pp.1213-1214, 1991-11-15

今からちょうど4年前の7月,われわれにとっては悪夢ともいうべき事態が発生した.20日間に2人の医師があいついでB型劇症肝炎で死亡し,1人の看護婦がB型重症急性肝炎に罹患したというものである. 当時は連日,新聞や週刊誌などに取り上げられ,病院関係者,なかでも病院長や小児科の教授,ウイルス肝炎対策委員長であった筆者などは苦渋に満ちた日々を送っていたものであった.7月16日には緊急にウイルス肝炎対策委員会を開き,職員全員にHBVに対する注意を喚起し,それに相前後して小児科医師,看護婦の肝機能,HBs抗原,IgM-HBc抗体を測定し,新規肝炎発生者のないことを確認するとともに,3人の血清を自治医大予防生態の真弓忠教授に送り,デルタウイルス関与の有無などの検索を依頼した.このことがきっかけとなり後日,真弓教授らにより劇症肝炎ウイルスともいうべきHBVの変異ウイルスが発見された.