著者
常木 和日子
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

現生の脊椎動物のうちで最も原始的な体制を示す円口類(ヤツメウナギ類、ヌタウナギ類)の横断連続切片を作成し、比較解剖学、比較組織学的観点から、この類の体制の機能的および系統的特徴を明らかにしようとした。ヤツメウナギ類に関してはアンモシ-テス幼生も観察した。器官、組織レベルで円口類の最も特徴的な点は、広大な血洞系の存在と、多様に分化した軟骨系、および顕著な赤筋の存在であった。この3つの系は、特に呼吸器官を特徴づけていた。アンモシ-テス幼生では、口腔と咽頭の間に縁膜が存在する。この縁膜の絶え間ない運動により口から呼吸水と食物であるプランクトンが取り込まれる。縁膜内には血洞系と赤筋が発達しており、またひずみがかかる口腔壁への付着部には繊維性の粘液軟骨がみられた。縁膜の運動は一義的には赤筋によるが、この収縮を縁膜全体に伝える上で、血洞系が一種の液体骨格の役割を果しているらしい。ヤツメウナギ(スナヤツメ)成体では縁膜は退化的になり、呼吸水は鰓孔と鰓嚢の間を往復する。成体では血洞系が体内各所にみられるが、鰓嚢を囲むものがよく発達していた。閲嚢外壁には赤筋が広く分布するが、この収縮が囲鰓血洞を運動伝達装置として鰓嚢の収縮、呼吸水の流出を引き起こすものと考えられる。その後の呼吸水の流入は、鰓嚢壁に存在する特異的な胞状軟骨を連結する繊維性構造の弾性に基づく鰓嚢の拡張によるらしい。ヌタウナギでも広大な血洞系が体内各所にみられるが、やはり縁膜内血洞や囲鰓血洞が存在する。また縁膜内にはヤツメウナギのものとは組織学的に異なる胞状軟骨と赤筋がみられた。円口類では特異的に分化した筋肉系と軟骨系が呼吸運動に関与しており、また血洞系がその運動の円滑な遂行に、一種の液体骨格として重要な役割を果していると推定された。しかしナメクジウオや軟骨魚類との比較から、血洞系の存在は円口類の共有派生形質とはみなせなかった。
著者
佐藤 慎太郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究計画では、ヒトノロウイルス(HuNoV)ワクチン開発を念頭に置き、その抗原としてウイルス様粒子と、これまでは検討することができなかった不活化全粒子の優位性を比較するとともに、投与経路として注射型と経粘膜型の優位性も比較検討する。実験には申請者らが最近樹立に成功したヒトiPS細胞株由来の腸管上皮細胞と、この細胞で増殖、精製したHuNoVの感染性粒子を用いる。免疫担当細胞のHuNoV認識における、抗原取り込みに特化した上皮細胞であるM細胞の関与を検討し、経粘膜型ワクチンにおいてM細胞に標的化することの有用性も検討する。
著者
黒坂 寛 中谷 明弘 菊地 正隆 真下 知士
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

胎生期における顎顔面の形成は複雑かつ精巧に行われ、その発生過程の不具合は口唇口蓋裂等の顎顔面形成不全の原因となる。同疾患は多因子性疾患であり、胎生期における遺伝的要因と環境的要因に大きな影響を受けて発病する事が知られている。本研究では家族性に頭蓋骨早期癒合症、多数歯アンキローシスを呈する患者や口蓋裂と先天性欠如歯を持つ患者のエキソーム解析を行い新規遺伝子変異を同定した。今後は同新規遺伝子変異の機能解析を細胞株や動物モデルを用いて行い、同疾患の病態をより詳細に解析する予定である。またレチノイン酸シグナルとエタノールの過剰投与の相互作用についても顎顔面形成不全を引き起こす新規メカニズムを解明した。
著者
室田 浩之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

痒みは時に生活の質を大きく損なわせる皮膚症状の一つです。特に多くの方が経験する「温もると痒い」という症状の多くが治療に抵抗性を示します。温熱が痒みを誘発するメカニズムはまだ十分に理解されていないため、本研究では皮膚の温感に影響を与える神経栄養因子アーテミンが温もると痒い現象に関わるかを検討しました。本研究よりアーテミンの皮膚への蓄積は脳を興奮させ、全身の温熱過敏を誘発する結果、全身に温もると痒い現象を生じさせる、いわゆる「痒がる脳」のメカニズムの一旦が解明されました。この成果は「温もると痒い」症状に対する新しい治療の開発につながると期待されます。
著者
黒田 俊雄
出版者
大阪大学
巻号頁・発行日
1983

14401乙第03220号
著者
島崎 淳也
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

現在熱中症における意識障害の原因解明研究をすすめている。研究の柱は3つあり、①ラットモデルを用いた病態解明、②臨床研究による熱中症性脳症の臨床像解明、③レジストリーデータを用いたリスク因子の抽出である。①熱中症ラットモデルを用いた熱中症性脳症のメカニズムを解明:データ解析を行っている②熱中症患者における熱中症性脳症の臨床像解明:現在多施設研究を実施している③熱中症レジストリーを用いた熱中症性脳症の疫学調査:HeatStroke Study2017-2018のデータ解析を現在すすめている。
著者
野島 博 藪田 紀一 奥崎 大介 内藤 陽子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

癌細胞が悪性化するとは「癌細胞が細胞分裂ごとに娘細胞への染色体不均等分配を高頻度に起こす」即ち「染色体不安定性」という特徴を獲得することにある。その細胞・分子レベルでの主要な原因として「中心体の過剰増幅とM期チェックポイントの制御異常」が知られている。本研究ではM期で中心体から染色体へ移行する「中心体キナーゼ」であるLats1/2がALB経路とCLP経路を、GAKがGBC経路を形成することで染色体不安定性を統御するという我々の独自な発見を展開した。そのために、Lats1/2、GAK、Cyclin G1/G2欠損マウスやTALEN/Crispr系を用いたLats2欠損癌細胞株を作製して活用した。
著者
横田 洋
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は明治末期から大正初期の映画の取り締まりの様相について、調査研究を試みたものである。東京の警視庁では明治42年と43年に内規を作成し、映画取り締まりの方針を定めていたことが明らかになった。そこでは映画の特に子供の観客への悪影響を懸念していた点、また映画館が浅草公園のような興行街だけでなく、市内各所へ拡大していった点を警察が警戒していたことが理解できた。警察の取り締まりの重点事項は、既存の芸能には見られなかった映画の特質、あるいは映画の持つ魅力を同時に示しているものでもあっただろう。
著者
遠藤 勝義 井上 晴行 押鐘 寧 片岡 俊彦
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、絶縁体表面の原子構造と電子状態を原子レベルの空間分解能で観察できる高周波パルスSTM/STS装置を開発するとともに、超精密加工された絶縁体材料表面を計測評価し、加工条件の最適化を図ることである。絶縁体表面をSTM観察するためには、帯電と原子の移動を防ぐ必要性から、交流で伝導体に電子を注入するのに充分なバイアス電圧をmsec以下の短パルスで印加するとともに、探針-試料間の浮遊容量の影響を避けてトンネル電流の信号によってのみフィードバック制御する検出回路を開発しなければならない。さらに、絶縁体表面の欠陥準位を求めるために、トンネル電流のバイアス電圧依存性いわゆるトンネル分光を可能にしなければならない。そこで、矩形パルス電圧を印加した場合に浮遊容量によって生じる電流に妨げられることなくトンネル電流成分のみを検出できるRC回路を考案した。10kHz以上、±10Vまでの高周波矩形波パルスバイアス電圧を印加して、トンネル電流検出回路の出力をダイオードにより整流した信号をフィードバック制御する独自の高周波パルスSTM装置を設計・製作した。そして、導電性のあるHOPGの原子像を本パルスSTM装置によって観察することに成功した。しかし、真性半導体Siや酸化膜付きSi表面の原子像を観察するまでには至っていない。これらの原子像を観察するためには、100kHz以上の高周波領域における電流アンプのS/Nを改善するとともに、フィードバック制御系の追従周波数の向上が不可欠である。そこで、目的の高周波領域まで動作する電流アンプと印加する矩形パルス周波数のみを増幅するロックインアンプからなるトンネル電流検出系を提案し、新たな高周波パルスのトンネル電流制御系を設計・製作した。この検出系によれば、ダイオードによる整流回路の必要がなくなり、ノイズが低減されてフィードバック制御系の追従周波数が1kHzとなり、絶縁体表面の観察を可能にする。
著者
岡本 浩二
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ミトコンドリアは独自の遺伝情報(ゲノム)を有しているが、酸化ストレスによる変異を蓄積し、難治疾患であるミトコンドリア病や老化を引き起こすと考えられている。本研究では、ミトコンドリアゲノムにコードされた遺伝子を核へ移管し、発現することを目的とした。具体的には、①ミトコンドリア遺伝子を核遺伝子化するためのコドン改変、②細胞質リボソームによるタンパク質合成効率を上げるためのコドン最適化、③プレ配列付加によるミトコンドリア標的化、を目指した。
著者
島岡 まな
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

いわゆる矯正困難者に対する効果的な刑事制裁について、フランス刑事法の状況を調査した。フランスでは2002年以降のサルコジ内相、2007~2012年のサルコジ大統領の下で数多くの治安維持立法、再犯防止立法がなされた。それに基づく刑事政策を性犯罪、薬物犯罪者などについて調査したが、前者に関する電子監視や矯正プログラムも中途半端に終わっており、2012年のオランド政権誕生による政権交代後は、厳罰化も再犯防止には逆効果であると評価され始めている。薬物犯罪者に対する治療命令は一定程度効果をあげている。高齢犯罪者については、刑務所を避ける人道的政策が行われており、日本も見習うべきだと思われる。
著者
平田 勝弘
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では,有限要素法による数値解析を用いて提案したアウターロータ型三自由度球面アクチュエータの動作メカニズムを明らかにし,本アクチュエータの有用性を示した。更にイメージセンサセンサを用いた可動子の位置検知法と新しいフィードバック制御法を開発した。解析により磁気回路パラメータ及び制御ゲインを最適化し,優れた性能を実現した。更に,得られた解析結果をもとに試作機を製作した。今後、本機を用いた実験検証を行っていく予定。
著者
高橋 文治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

一九六七年、上海市郊外嘉定県の明代墳墓から、成化年間(一四六五-八七)の刊行にかかる一二冊の版本が発見された。それら一二冊は墓主の枕元に積んであったといい、一一冊は「説唱詞話」と呼ばれる唱導文学の通俗的な読み物、残る一冊は『白兔記』という演劇の台本であった。本研究は、この『白兎記』について、校本を作成し、それに訳註を付すことを目的とした。『白兔記』は、五代後漢の高祖劉知遠とその妻李三娘、息子咬臍郎の生き別れと再会を描く演劇であり、古くから四大南戯の一つに数えられてきた、初期の戯文の代表作である。劉知遠と李三娘、咬臍郎の悲歓離合は恐らく歴史事実ではなく、劉知遠の祖先の沙陀突厥が佛教とともに中国にもたらした物語原型に歴史上の劉知遠が当てはめられたものであろう。この物語は、まず金朝時代に『劉知遠諸宮調』という作品を生み出し、次の元朝期には『新編五代史平話』と元雜劇「李三娘麻地捧印」(佚)を生んだ。この「李三娘麻地捧印」はやがて南に渡り、同じく元朝期に、中國南方系の演劇形態に改編され、いわゆる「南戯」へと姿を変えたのである。こうして生まれたのが恐らく南戯『白兔記』であった。『白兔記』の版本として従来知られていたのは、毛晉の汲古閣が刊行した六十種曲本と、金陵唐氏が萬暦年間に刊行した富春堂本の二種があった。成化本『白兎記』が発見されることによって、成化本と汲本・富春堂本がいかなる関係かあきらかになった。また、成化本『白兎記』は南戯の比較的古いテキストに属するばかりではない、実は今日知られる最古の版本でもあった。成化本『白兔記』は單に『白兔記』の演變を考える上で重要なのではない、南戯そのものの發生や展開、初期の形態・臺本を知る、中國演劇史に不可欠の資料であり、また、白話文學史、白話史、書誌學の各分野にも不可欠の資料である。この成化本『白兎記』に、本研究は今日望みうる最高の注釈とを施し、校本・訳・註をまとめた「成化本『白兎記』の研究」が汲古書院から2006年に上梓される。
著者
大田 典之 藤野 裕士 後藤 幸子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

免疫細胞に対する代表的な鎮静薬であるベンゾジアゼピン系薬物の影響を解析する過程でヒトとマウスの細胞に対する影響を評価した。ヒトのマクロファージの細胞株であるTHP-1とマウスの単球マクロファージ細胞株であるRAW264用いた解析を進めた。ベンゾジアゼピンの代表として水溶性の鎮静薬であるミダゾラムを用いた。ミダゾラムはLPSによってTHP-1, RAW264に生じる炎症性サイトカインの分泌と副刺激分子の発現が抑制された。ミダゾラムの作用分子であるGABA受容体ともう一つの作用分子であるTSPOの関与を解析した。TSPOの分子を欠損させた細胞株を作成してTSPOの関与を分子レベルで明らかになった