著者
井上 薫
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.13, pp.p50-61, 1984-12

行基(六六八- 七四九)が狭山池(河内国丹比郡、大阪府南河内郡狭山町)を修理したことは、「天平十三年記」(泉高父編『行基年譜』収録) にみえ(第1表)、すなわち行基が造営・修理した灌概水利・交通関係の施設の名称・場所・規模などを列挙したなかに「狭山池河内国丹北郡狭山里」と記される。編者の泉高父について詳細は明らかでないが、建久七年(一一九六) ころまで生きた人で、『行基年譜』以外にも『泉高父私記』を書いている。すなわち『泉高父私記』が法空の『上宮太子拾遺記』第二巻(『大日本仏教全書』本) に引用されており、『泉高父私記』は本元興寺と、その北僧房に安置した弥勒石像の所在・形像などを『七大寺巡礼記』などによって考証し、かつ建久七年炎上のことを記している。
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.43, pp.23-39, 2015-03

ジョイスが二十二歳から二十六歳の時に書いた短編小説集『ダブリンの人びと』はその後の作品のテーマに発展する要素を多く含んでいるが、「ラヴ・ストーリー」と呼べる物語はその中にはない。反対に「愛の欠如」をテーマとした短編は幾つかある。「痛ましい事件」もその一つである。これは審美家で、俗世間からできるだけ距離を保って暮らしている、独身の中年銀行家が恋愛を取り逃がす物語である。ダッフィ氏は音楽会の会場でたまたま隣り合わせた女性(シニコウ夫人)と、親交を深める。だが、感受性の強いシニコウ夫人が肉体的接触を求めるそぶりをしたことに驚き、「魂の救いがたい孤独」を主張して一方的に交際を打ち切ってしまう。四年後、ダッフィ氏はシニコウ夫人が、飲酒癖により鉄道事故で命を失くしたことを知って驚愕する。語り手はその直前まで、ダッフィ氏の内面を語ることをしないが、後半、ダッフィ氏が女性の死を知った後は一転して、ダッフィ氏の内面に視点を合わせ、彼が愛の喪失を認め、自己覚醒する過程を綿密に描き出す。ダッフィ氏は自説を主張するのに忙しく、シニコウ夫人の孤独に思い至らなかったのだ。本稿では、中年の銀行家が若い人妻と親密になるという、よく似た設定の同時代の作品、チェーホフの「犬を連れた奥さん」(1899)と比較することによって、「痛ましい事件」の作品理解を深めることにする。ラヴ・ストーリーである「犬を連れた奥さん」の内面描写と比較することによって、ジョイスの短編小説の特質を明らかにし、その戦略と技巧を解き明かすのが目的である。
著者
大田 壮一郎
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.44, pp.206-188, 2016-03

財団法人阪本龍門文庫蔵『春日若宮拝殿方諸日記』は、室町時代後期に行われた春日若宮祭礼(現在の「おん祭」を記録した冊子である。前半の内容は寛正六年(1465)に足利義政が見物した若宮祭礼、後半は前年の大和国内の騒乱により延期になり翌応仁元年(1467)に行われた若宮祭礼の記録である。足利義満以来、室町殿(足利将軍家の家長)はたびたび南都を訪れ春日社に参詣した。これについて参詣者側の記録は比較的多いが、本史料は春日若宮社側の記録という点に特色がある。また、筒井氏をはじめ衆徒・国民の姿や、金春大夫ら大和猿楽四座の記事も確認される。このように、本史料は中世南都の資料として広く知られるべき内容を含むことから、ここに全文の翻刻を行った。
著者
狭川 真一
出版者
奈良大学
巻号頁・発行日
2009

博士論文
著者
豊島 直博
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.44, pp.93-98, 2016-03

斑鳩大塚古墳は奈良県生駒郡斑鳩町に所在する直径35mの円墳である。1954年に最初の発掘調査が行われたが、正確な墳丘の規模や形は明らかにされなかった。奈良大学文学部文化財学科は斑鳩町教育委員会と共同で、2013年から斑鳩大塚古墳の調査を開始した。測量調査、地中レーダー探査、2度の発掘調査によって、①古墳は幅約8m、深さ約80cmの周濠をもつこと、②円墳ではなく、前方部をもつこと、③円筒埴輪、形象埴輪が樹立されていたこと、④古墳時代中期前半(5世紀前半)に築造されたことなどが明らかになった。今後は前方部の規模を確定すること、段築成や葦石、埴輪の残存状況など、墳丘本体に関する情報を得ることが課題であり、発掘調査を継続する予定である。
著者
菅野 正
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.20, pp.p23-37, 1992-03

資本主義列国の中国進出の中で展開された辛亥革命に対し、日本が如何に対応したかを、福建に限って検討する。進出を計る日本は、義和団事変時の「厦門占領事件」の再現かと猜疑の目で見られ、殆ど動きがとれなかったのに対し、米国は、動乱の際の支援、都督府成立後の府内での「親米派」の形成、米国借款の成立と、その地歩を固めた。そして、不割譲宣言以来、日本の勢力範囲である筈の福建での実績を確固たるものにせんとしたのが、二十一ケ条要求中の、福建条項であった。
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.34, pp.33-44, 2006-03

T.S.エリオットの子供向けの詩集『ポッサムおじさんの現実味のある猫の本』と、その中の「謎の猫マカヴィティ」をとりあげる。エリオットはこの詩集でも、『不思議の国のアリス』や『マザー・グース』から親しみのある言葉やリズムを効果的に利用している。ここに登場する猫たちは擬人化されているが、いかにもロンドンの猫らしく、泥棒猫、手品師猫、鉄道猫など、その生態もさまざまである。その中で、「謎の猫マカヴィティ」には、コナン・ドイルの有名な探偵小説を下敷きにし、猫の正体を問う謎々が仕掛けられている。手がかりはこの猫が「犯罪のナポレオン」と呼ばれていること。本稿は「謎の猫マカヴィティ」を読み、エリオットらしい諧謔に満ちたノンセンス詩に仕掛けられた謎を解く。「ポッサムおじさん」の仮面に隠された大詩人の知られざる一面に近づくための覚え書きである。
著者
鈴木 弘道
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.4, pp.p1-10, 1975-12

従来、御伽草子、「鉢かづき」 における変装の趣向や物語の原拠につき、詳細な考察を試みた研究はあまり見られないので、ここに、私はかなり大胆な試論を展開してみようと思う。
著者
池田 一郎
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.4, pp.p101-104, 1975-12

幼稚園・保育所で使用される所謂"お"ことばの乱川については従来多く論じられてきたところである.これはつぎの朝日新聞への投書欄から引用されたものが代表しているであろう.去年幼稚園にはいった長男が「お汽車がシユッ・シユッ,お汽車がシユッポッポ」と歌っている.「お母さまお始まりになっちゃうよ」のヒ"お始まり"をやっと聞きなれた耳にこんどは"お汽車".変だと思われることぽにもいつのまにかマヒしてしまう.ある奥さまの"お幼稚園""お髪""おミシン"なども聞きなれれぽさきほど変にも感じなくなってきた.しかしこういう極端にバカていねいな聞き苦しいことぽは,おたがいの問から早くなくしたいと思う.まず先生がたが正しいことばつかいのお手本を示していただきたい.現在幼稚園あるいは保育所の在籍者にさらに無認可の幼稚施設在籍者を含めてわが国幼児の殆んどをしめているとき,とくに最近3年保育が重視されはじめてからは幼児におけることぽの問題が極めて重要になってきた.幼児が長期間にわたって幼稚園語を使川することは成人語への移行という過程で再検討を要するのどはないかという点から幼稚園・保育所において多く使用されている"お"ことばについて考えてみたい.
著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.31, pp.1-17, 2003-03

『ダロウェイ夫人』は主人公ダロウェイ夫人が午後のパーティのために、一人で花を買いに行くところから始まる。この小説ではダロウェイ夫人を始め、もう一人の主人公セプティマス、ダロウェイ夫人の幼なじみピーター・ウォルシュ、ダロウェイ夫人の娘のエリザベスなど複数の人物の視点から描かれるが、これらの人物はいずれもロンドンを歩き、移動しているのが特徴である。この小説はジョイスの『ユリシーズ』同様、「歩く小説」であり、「ロンドンを歩く小説」だということができる。女性はつい最近まで、安全の上から、また、体面への配慮から、一人歩きができなかったことを考えると、ダロウェイ夫人が颯爽とロンドンの町を歩いている意義は大きい。作者のヴァージニア・ウルフもダロウェイ夫人同様、歩くのが好きだった。ウルフのそうした一面は『ロンドン風景』という短いエッセイにも示されている。これはロンドンっ子の書いたロンドンの名所案内という趣の小品だが、フェミニストでもあったウルフの特質がよく現れている。本稿では『ロンドン風景』中の第三章「偉人の家」の中からカーライルの部分に焦点をあて、同じ題材をとりあげた夏目漱石の『カーライル博物館』と比較することでウルフの繊細な、女性らしい視点に着目した。漱石が「四角四面の家」と評したカーライルの家を、ウルフはカーライルその人ではなく、カーライル夫人に焦点をあてて見たのが注目される。
著者
千原 美重子
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.42, pp.153-164, 2014-03

常勤スタッフでないスクールカウンセラーにとって、業務を遂行する上で教育相談コーデイネーターの存在は命綱といえるが、教育相談コーデイネーターにとってその分掌を担当することによりどのような心理的影響を受けるのか調査を行った。まず、女性が男性の約4倍多く担当者となっていた。結果は、まず第1に、教育相談コーデイネーターになることで学校の中で大きな負担があっても、そのことをストレスと感じている場合と、そうでない場合と2分されており、個人差があった。第2に、生徒指導、特別支援教育との連携、スクールカウンセラーとの連携は高いと認識していた。第3に、いじめがあればケース会議が開催されており、学内のコミュニケーションも高いということを示した。第4に、教育相談コーデイネーターになることで教育の見方が変化したとの回答が高く、大きな影響を及ぼしていた。 質問間の相関は、SCとの連携がよいほどコーデイネーターとの閉じられた集団を作りやすい点がうかがえ、今後の課題として指摘できる。スクールソーシャルワーカーはまだ人数的に配置数が少なく、今後充実が望ましい。
著者
森本 茂
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.17, pp.p26-34, 1989-03

『大和物語』(為家本)一三七段の本文は次のようである。志賀の山越えのみちに、いはえといふ所に、故兵部卿の宮、家をいとをかしうつくりたまうて、時々おはしましけり。いとしのびておはしまして、志賀にまうつる女どもを見たまふ時もありけり。おほかたもいとおもしろう、家もいとをかしうなむありける。としこ、志賀にまうでけるついでに、この家にきて、めぐりつつ見て、あはれがりめでなどして、かきつけたりける、かりにのみくる君まつとふりいでつつなくしが山は秋ぞ悲しきとなむ書きつけていにける。以下、「志賀の山越え」の「いはえ」について考察したいと思うが、まず志賀の山越えの道順を明らかにしておく必要がある。
著者
西山 要一 酒井 龍一 栗田 美由紀 魚島 純一 泉 拓良
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

平成25・26年度も中東情勢は安定せず現地調査を中止した。それに換え25年度はレバノンとイタリアおよび国内の研究者で研究会を開催し研究の経過・成果・課題について報告と討論を行い、26年度は報告書の原稿を執筆した。ブルジュ・アル・シャマリT.01-Ⅰ地下墓は碑文から紀元196/197年にリューシスのために築造され、孔雀・魚・パン・ワイン壺などの壁画から死者の平安を祈る葬送観念、炭素14年代測定、出土遺物の材質分析などの人文科学と自然科学の学際研究によりレバノン古代史を明らかにした。また温度・湿度・微生物など地下墓環境・壁画の修復は文化財保存の論理と技術の移転も行い大きな国際貢献ができた。
著者
片野 卓 吉村 可那江
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.11, pp.p108-118, 1982-12

本稿は,特養施設老人に関する既発表,拙4論文の続編に当るものであるが,昨年(81年)発表の第4論文,「長生きする老人の条件」を要約することから始めたい.特養施設において,「長生きする老人の条件」を加藤正明の事例性(caseneSS)の概念3)にそくしていえば,彼らは,入所以前の過去の生活にこだわることも,またとくに神仏にたよることもなく,現在の施設生活を充分楽しみかつ幸福だと感じるようなポジティブな心情のもち主,つまりきわめて"アッケラカン"としたパーソナリティ特性の老人であることが浮きぽりにされた.したがって,死ぬ場所としては近代的な設備の整っている施設でと答ながらも,最後をみとって欲しい人物は寮母その他の施設職員ではなく,プライマリーな"家族"にと願う老人が圧倒的に多いという事実が解明されて驚かされた.こうした"アッケラカン"と"したたかさ"をもった長命老人の実態ももちろんそうだが,そうでない施設老人のすべてにいえるのは,日常生活の中にいかにプライマリーな人との直接的な,血の通った接触を求めているかということである.冒頭に記したM老女のふと洩らされた「ボランティアの奥さんと話をするのは‶生〟やさかえ楽しい」という実感のこもった言葉こそ,コミュニティぐるみのボランティアの方向を示すものとして貴重である.
著者
実 清隆
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.21, pp.p133-144, 1993-03

ニューヨークは世界の一大商業センターとして発展が著しく、1970年代の情報化時代を迎え、マンバッタン区のミッドタウンを中心に、一層の高層化を狙った再開発事業が急ピッチで進んでいる。一方、その開発の影で、ジェントリフィケーションという名の下で、ダウンタウンやブロンクス、ブルックリンなどの老朽化した住区での再開発事業が、黒人やヒスパニック等のマイノリティの住居を奪いホームレスや犯罪の増加を招いたり、ニューヨーク市財政の破綻を招いている。当論文は斯様な問題の社会・経済的背景を考察する。
著者
藤島 達朗
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.3, pp.p75-79, 1974-12

親鸞(1173-1262)を宗祖とする浄土真宗に於ける歴史的反省及びその述作は,本願寺三世覚如(1270-1351) による宗祖親驚の伝記研究(「報恩講私記」,「親鷺伝絵」,「口伝妙」等)にはじまり,8世蓮如(1415-1499)の生涯を,その子実悟(1492-1583)によって回顧記録されたことがこれにつぎ,つづいて蓮如の孫顕誓(1499-1570)により,永禄11年(1568)「反古裏書」が撰せられて,ここにはじめて通史的述作を得た.もっともこれは本願寺の歴史が中心で,8世蓮如,9世実如(1458-1525)10世証如(1516-1554)11世顕如(1543-1592)に,やや詳細ではあるが,全体として簡略,本格的な編述とはなしがたい.江戸時代に入ってその正徳5年(1715)良空(1669-1733)によって「高田開山親鶯聖人伝」が著わされ,伝として一応完成されたものが,はじめてここに出現した.世の泰平とともに信徒の旧跡巡礼が盛んとなり,その機運にうながされて,祖伝研究の一班としての遺跡研究が盛んとなり,「据聚抄」(1700刊),「遺徳法輪集」(1711刊)等を筆頭に,いわゆる「廿四輩記」類が続出したが,これは玄智(1734-1794)編,明和8年(1771)刊の「大谷遺蹟録」で極まった.以上の如き風潮のもとに,祖伝,寺伝をふくむ真宗の通史が,全書的なかたちを以て成就されたのが「大谷本願寺通紀」である.真宗に関する歴史的研究は,明治以前に於て,これに極まるというべきであるが,以下述べる如き事情で,完全に刊行せられず,小異をもつ幾種類かの写本として伝えられ,漸く明治45年の「大日本佛教全書」,大正3年の「真宗全書」中にて,それぞれ活字化された.写本の異動は,それらを底本としたこの二本に直にあらわれている.特にひろく普及している「大日本仏教全書」本(以下「仏全本」という)が,未整理のままである稿本を以てしているので,完成本である「真宗全書」本(以下「真全本」という)其他と比較して,その書誌学的な開明を施こそうというのである.
著者
田中 文憲
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.37, pp.1-20, 2009-03

スイスは九州ぐらいの面積しかない小国であるが、1人当りGDPでは世界トップクラスの豊かな国である。スイスが豊かになった要因は19世紀の経済発展にあるが、その経済発展を支える重要な役割を果したのが、クレディ・スイスを始めとする銀行である。 本稿では、なぜクレディ・スイスのような銀行が誕生したのか、またクレディ・スイスはどのようにして生き残ったか、さらにクレディ・スイスを中心とする銀行がどのようにスイス経済の発展に貢献したのかについて分析を試みた。 その結果、クレディ・スイスが必要とされた最大の要因は鉄道建設に伴う巨大な資金調達にあったこと、また鉄道建設やクレディ・スイス設立などの動きの中心にアルフレート・エッシャーという傑物がいたことがわかった。また、クレディ・スイスが生き残った理由がベンチャー・キャピタル型銀行からユニバーサル銀行への機敏な転換にあったこと、その結果、産業界に「総合的」(ユニバーサル)に関与することができスイス経済の発展に大きく貢献したこともわかった。さらにスイスという「条件」をうまく利用して「金融王国」スイスの礎を築いたことも明らかになった。
著者
筧 久美子 成田 靜香 林 香奈 野村 鮎子
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

この研究は、女性の視点から中国の古典文学を読み直すことに主眼をおいたものである。具体的には、古典文学の中で「女」がどのように描かれたか、どのような女性像が形成されたかについて、作品を分析した。個別の研究としては、筧久美子が主に清末の評論を、野村鮎子が宋・明・清の寿序や墓志銘を、林香奈は六朝の詩文を、成田静香は唐の詩文を中心にした。なお、研究メンバーが集まって、東京の中国女性史研究会が出版した『論集 中国女性史』について批評を行い、その一部を研究主担者である筧が「書評『中国女性史』」(『女性史学』11号)として公表した。さらに筧は女性の称謂や『列女伝』についても考察をすすめ、「漢語称謂-女性語を中心に」(新村出記念財団報15号)、「『列女伝』という書物」(女性史総合研究会会報No.86)などを発表した。六朝時代を担当した林は、「妬婦」(嫉妬する女)に関する研究をすすめ「『妬婦』考補説-恐妻家の記録-」(『言語文化論叢』6号)を発表している。明・清時代を担当した野村は、女性の寿序についての研究をすすめ、明清時代に女性の寿序という新しい散文の文体が流行することを、当時の「孝」と「家」の思想から分析した。これは、中国から出版された『明清文学とジェンダー』に「明清女性寿序考」というタイトルで収められている。
著者
橋口 捷久
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.20, pp.p203-223, 1992-03

本研究は、リーダーシップPM理論に基づくリーダーシップトレーニングの効果を林の数量化理論第HI類によって分析検討する。三隅とその共同研究者たちは、30年来、リーダーシップPM理論の実験的研究と実証的研究を精力的に実施してきた(三隅,1984)。リーダーシップPM理論では、リーダーシップ行動を集団の目標達成行動(Performance)と、集団維持行動(Maintenance)とに分け、それらの行動水準で、リーダーをPM,M,P,pmの4つのタイプに分類する。そして、これらの4タイプのリーダーシップの効果性は、フォロワーのモラールや欠勤、退職、事故、災害などさまざまな外的変数で、PM,M,P,pmタイプの順で望ましいことが明らかにされてきた。