著者
岸 啓子
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

『平均律クラヴィア曲集I』にバッハが想定した音律について、資料および和音の協和の観点から考察した。表紙唐草は24長短調を網羅した音楽史上初の曲集をライプツィッヒトマス教会カントル職への応募作品として提出するにあたり、不適切な調律での試奏による作品評価の低下を回避するため、最適調律法(バッハ音律)を自ら表紙に記したものである。彼は音楽史上画期的な全調構成のみならずその演奏に最適な調律をも提示することで、自身の総合的能力を示したと考えられる。完全5度の唸りの数を聴くことは調律の基本プロセスであるが、5度の唸り状態を丸の数(1~3重)で示すと共に、装飾を兼ねて唐草模様風図示した点は独特である。
著者
國頭 恭
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

鯨類、鰭脚類、海鳥類、海亀類におけるヒ素の体内分布を調べた。鯨類、鰭脚類、海鳥類ではヒ素濃度は肝臓と腎臓で高く、筋肉で低かったのに対し、海亀類、特にタイマイでは筋肉中のヒ素濃度がきわめて高く、低次生物に匹敵するレベルであった。また、これらの種の肝臓中ヒ素の化学形態分析を行なったところ、他の海棲低次動物と同様に、アルセノベタインが主要なヒ素化合物であることが明らかとなった。興味深いことに、ヒ素の蓄積レベルの高い種ほど、アルセノベタインの占める割合が高いことが分かった。ヒトおよび実験動物ではアルセノベタインの排泄は速く、体内に蓄積しないことが報告されているため、海棲高等動物は特異的なアルセノベタイン蓄積機構を有することが予想された。これらの海棲高等動物とは対照的に、イシイルカの肝臓では、ジメチルアルシン酸が主要なヒ素化合物であった。このため、種によりヒ素の代謝あるいは餌生物中のヒ素化合物組成が異なることが予想された。本研究では、毒性の高い無機ヒ素は、大部分の種で検出されなかった。このため、海棲高等動物ではヒ素の蓄積レベルは高いが、その毒性影響は小さいものと予想される。しかしながら、最近の研究により遺伝毒性を示すことが明らかとなったジメチルアルシン酸は、大部分の種で検出された。また海鳥類の羽毛および鰭脚類の毛でヒ素が検出された。毛には、毒性がきわめて強い3価の無機ヒ素と3価の有機ヒ素が蓄積することが知られており、低い濃度ながらこれら毒性の強いヒ素化合物が海棲高等動物の体内に存在することが示唆された。また、無機ヒ素は、非常に低濃度で内分泌撹乱作用を示すことが報告されており、海棲高等動物に対する影響あるいはそれらが進化の過程で獲得した適応能力に興味が持たれる。
著者
東山 繁樹 中山 寛尚 福田 信治
出版者
愛媛大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

がん細胞における細胞形質の不均一性の起因を膜型細胞増殖因子EGFファミリーの細胞外領域切断“エクトドメイン・シェディング”活性の“ゆらぎ”と関連付け、研究を進めた。ヒト乳がん細胞MCF7細胞からStem type、Basal type、Luminal typeの各クローンを樹立後、各細胞タイプとEGFファミリー膜型増殖因子のシェディング定量解析を行なった。その結果、proAREGのシェディング活性が各細胞タイプとの相関性を示すこと、proAREGに特異的なシェディング制御機構としてCUL3-RhoA軸が制御するアクチンダナミクスが関与することが明らかとなった。
著者
伊藤 瑠里子
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究目的】自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder : ASD)における性別違和の特徴を明らかにする検査指標を開発することを前提とし, ASD者の性別違和についてジェンダー・アイデンティティ尺度を用いてコントロール群と比較検討して特徴を明らかにすることを目的とした.【研究方法】愛媛大学医学部附属病院精神科を受診したASD患者をASD群, 一般公募にて参加した対象者をコントロール群としてジェンダー・アイデンティティ尺度と成人用自閉スペクトラム指数日本語版(Autism-Spectrum Quotient : AQ)を実施した. 対象年齢は社会との繋がりを認識し始め, 性別違和を自覚する15歳以上30歳未満とした. コントロール群は, AQの得点がカットオフ値以上の事例は除外した.【研究成果】ASD群6名(M:F=4:2, 平均21.5±3.77歳)と, コントロール群21名(M:F=7:14, 平均24.38±2.21歳)を対象として統計的分析を行った。① ジェンダー・アイデンティティ尺度内の低次4因子及び高次2因子についての2群間比較・低次4因子の一つである, 自己の性別が社会とつながりを持てている感覚である“社会現実的性同一性”はASD群が有意に低値で, 自己の性別が他者と一致しているという感覚である“他者一致的性同一性”では, 有意に低値であった(<.01). 自己の性別が一貫しているという感覚である“自己一貫的性同一性”においてもASD群が有意に低値である傾向がみられた(<.05).・自己の性別での展望性が認識できているという感覚である“展望的性同一性”, “社会現実的性同一性”の高次因子の一つである現実展望的性同一性の総得点平均はASD群が有意に高かった(>.05).②AQ総点とジェンダー・アイデンティティ尺度間の相関・ジェンダー・アイデンティティ尺度の高次2因子, 低次4因子に対してAQの総得点の相関を調べた. ASD群では, AQ総点と, 現実展望的性同一性, 展望的性同一性が負の相関がみられた(>.05). また, 一致一貫的性同一性, 自己一貫的性同一性において正の相関がみられた(>.05). コントロール群では相関はみられなかった.【考察】ASD者は, 自己のジェンダー・アイデンティティと他者の認識が一致していないと感じている. また, 自己のジェンダー・アイデンティティを生かした社会生活の展望が曖昧であり, ASD者の中でもより強い特性を持つ者は, その傾向が強まることが示唆された.
著者
笹田 朋孝 Ch. アマルトゥブシン G. エレグゼン L. イシツェレン
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

モンゴル国内で初めてとなる製鉄遺跡の発見に成功し、ホスティン・ボラグ遺跡の発掘調査を実施した。遺跡から出土した土器や木炭の放射性炭素年代(紀元前2世紀~紀元後1世紀)からこの遺跡は匈奴のものである。スラグの分析結果などからこの製鉄技術は同時代の中国とは大きく異なっており、南シベリアなどと類似していることから、草原を西から伝わってきた製鉄技術である。これまで匈奴は製鉄技術を持たないとされてきたが、おそくとも紀元前1世紀のモンゴル草原では、匈奴が遊牧国家として独自の製鉄技術を保有し、システマティックに鉄器を生産していたことが明らかになった。
著者
渡辺 幸三 CARVAJAL Thaddeus Marzo
出版者
愛媛大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

全世界のデング熱感染者数は2008年の120万人から2015年の320万人に急増している。この原因として「気候変動→洪水頻発→蚊の生息地拡大→蚊の個体数増加→感染者増加」の仮説が考えられている。これまで,媒介蚊の長期的な生息データがなかったため,上記仮説は数多くの研究者が注目しているにも関わらず,検証ができなかった。本研究は,松山・バンドン・マニラの気候や洪水頻度等の環境条件が異なる3都市で現在生息するデング熱媒介蚊のゲノム情報から過去の「個体数動態」と「生息分布の拡大過程」を推定する。そして,これら蚊の生態履歴に影響した各都市の環境条件を探索することで,上記仮説を検証することを目的とする。
著者
村上 恭通 大村 幸弘 安間 拓巳 槙林 啓介 新田 栄治 笹田 朋孝
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

この研究は、製鉄の起源地である中近東から東方へ伝わる技術の足跡と変化の画期を考古学的に明らかにすることを目的としました。ヒッタイトに代表される青銅器時代の鉄は、紀元前12世紀頃にコーカサス地方を経て、中央アジアに伝わることを発掘により明らかにしました。これを技術伝播の第1波とすれば、黒海・カスピ海北岸地域のスキタイで育まれた技術の東方伝播が第2波といえます。東アジアは第1波の技術を基礎に発展させ、第2波を受容していないことも判明しました。ユーラシア北部における製鉄技術の伝播が鉱山を求めて移動する遊牧民族の生活様式に起因することが想定できるようになりました。
著者
亀田 健治 村上 正基 森 秀樹
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

皮膚再生医療を推進するため、三次元培養皮膚の作製法を改良することを我々の研究目的の主とする。我々はこれまでに羊膜を併用して三次元培養皮膚を作製することにより、簡便に三次元培養皮膚を作製できる方法を確立していること報告している。培養皮膚の作製法はここ数年である程度の確立を認め、熱傷などに対する保険適応治療とし て、ベンチャー企業などからも患者角化細胞を用いた培養表皮が供給されるようになり、これによる自家移植が可能となった。しかしながら未だ三次元培養皮膚 内での付属器の再生には至っておらず、今後マウスモデルに代わる実験モデルを目指す上で、表皮及び真皮内に付属器(汗腺、毛包、脂腺)を再現することは非常に重要な課題である。我々は三次元培養皮膚内にエクリン汗腺の構築(表皮内汗管、真皮内汗管、真皮内汗腺分泌部)を最終目的とする。これまで、臨床検体からの真皮内導管細胞・腺房細胞の分離培養し、エクリン汗腺由来細胞の性質の検討をした。真皮内汗管細胞に対して増殖促進、抑制する 因子の条件を検討し、エクリン汗腺由来細胞の増殖能、また、エクリン汗腺由来の他分化能について、現在検討中である。我々はこれまで角化細胞の無血清培養法の開発、培養表皮シート自己移植の有効性の検討および保存液開発に伴うセンター化の確立を達成している。これら培 養表皮シート移植法の開発と並行して、三次元培養皮膚作製法の確立、臨床応用における有用性の検討の結果、三次元培養皮膚は培養表皮シートと比較して生着 性に優れていることを見いだしている。今回我々が提案するこの研究の最大の目的は、既存の培養法を使用して三次元培養皮膚を作製するのみならず、将来の基 礎研究及び臨床応用に十分に貢献できる品質の三次元培養皮膚モデルの作製を目指すものである。
著者
佐伯 由香 城賀本 晶子 谷川 武
出版者
愛媛大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、2交替勤務をしている看護師を対象に、ストレスや睡眠状態に及ぼす経耳道光照射の影響を検討すること、また、エッセンシャルオイルによって注意力が向上するか否か検討することである。20名の看護師を経耳道照射を朝行う群、夜実施する群、そして何もしない群に分け、照射をおおなう場合は4週間行った。注意力は精神動態覚醒水準課題(PVT)を使用し、主観的評価としてアテネ睡眠評価尺度、気分・感情を評価するPOMS2を使用した。その結果、いずれの評価指標においても有意な変化は認められなかった。ペパーミントの香りを吸入するとPVTの反応時間が有意に短縮した。このことは注意力が向上したことを示している。
著者
末盛 浩一郎 安川 正貴
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)は2011年に中国で初めて報告された新興感染症である。我が国でも2013年に初めて患者が確認され、致死率が10~30%と極めて高い。有効な治療法が確立されておらず、病態解明と治療法の確立は喫緊の課題である。本研究の目的は臨床像の病態解明により予後改善を目指すことである。
著者
山下 光
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

高次脳機能障害の神経心理学的アセスメントを実施する際の問題点とその対策について,主に大学生を対象とした実験的研究によって検討した。その主な成果は以下のようなものである。(1)神経心理検査における利き手の影響について新しい知見を得た。また日本人の基準データを呈示することが出来た。(2)左右弁別能力の測定方法と,個人差について新しい知見を得た。(3)学習におけるテスト効果(testing effect)が,高齢者においても生じることを実験的に証明した。(4)神経心理検査における虚偽反応について実験的な検討を行い,臨床にも有用な知見を得た。(5)くすぐりに関する基本的な実験手法を確立した。
著者
田崎 博之 大久保 徹也
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

①資料の調査と分析土器生産技術の共有化と維持・伝達を考察するため、「限られた集団によって製作された」と考えられる土器群として、まず土器づくりの場に廃棄された焼成失敗品を取り上げた。具体的な資料は、愛媛県文京遺跡12次調査SK-21と23次調査SX-16(弥生中期後葉)、福岡県迫額遺跡土壙24(弥生後期初頭)出土の焼成失敗品を含む土器群であり、形状や調整痕跡、施文手法に着目して分析を行った。また、画一性の高さから特定の限られた遺跡もしくは遺跡群で生産されたと考えられる香東川下流域産土器群(弥生後期中葉~終末)について、製作技法・手順・胎土的特徴を観察し分析を進めた。分析に供した資料は、高松平野域の27遺跡約900点、徳島・岡山県域の41遺跡の約1500点である。一部については薄片プレパラートを作成し岩石学的観察を行った。加えて、土器焼成失敗品の出土を確認できた石川県八日市地方遺跡(弥生中期中葉と後葉)と、大阪府上の山遺跡(弥生中期前葉)の資料の予備的な調査を行い、次年度の本格的な資料調査と分析にそなえた。②研究集会での分析結果の検証と意見交換研究代表者・分担者・協力者が参画する研究集会を計3回開催した。岡山大学での第1回研究集会においては、研究目的・内容の共通認識を得るとともに、分析資料を絞り込むことができた。香川県埋蔵文化財調査センターで開催した第2回研究集会では、香東川下流域産土器群について、成形・整形・調整痕跡の観察、製作手順の復元、胎土類型について実物を観察しながら検討した。第3回研究集会は愛媛大学で開催し、文京遺跡出土の土器焼成失敗品を観察し、分析結果について論議した。加えて、筑前町文化財収蔵庫で実施した迫額遺跡出土土器群の資料調査では、分析成果の中間成果、分析方法についての意見交換を行い、問題点の整理、問題解決のための方策を検討することができた。
著者
金田 剛史
出版者
愛媛大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

動物細胞では主要な細胞骨格の一種である中間径フィラメント(Intermediate Filament: IF)は植物細胞では存在の有無が確定していない。本研究では、IFの構造を維持するために不可欠な長いαヘリックスとIFタンパク質モチーフを持つシロイヌナズナのタンパク質を植物細胞のIFを構成するタンパク質の候補として選別し、IF Motif Protein 1(IFMoP1)と名付けた。このIFMoP1をタバコの培養細胞で発現させて局在を調べると、間期にはIFMoP1は細胞骨格様の柔軟な線維構造を形成し、線維を形成しないときには微小管と共局在することが分かった。