著者
樋口 康一
出版者
愛媛大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究代表者は年来このモンゴル語仏典の文献学的・言語学的資料としての重要性に着目し研究を進めてきた。その過程で、出版文化の実相解明には、仏典の伝承と流布の実態解明が不可欠であると考えるに至った。ある文献が、当初の書写の対象から印刷による出版の対象に昇華する経緯、印噂された後、世に流布する経過、それが識字層にいかに受容され、最終的に文化の諸相にどのような影響を及ぼすようになるのか等、解明すべき問題は少なくないが、それらの大半は仏典の伝承と流布の経過をつぶさに観察することで、その端緒が得られる。昨平成15年度の経費交付により面識を得て交渉を進めている現地の研究者と引き続き連携しつつ、モンゴル及び周辺諸国、及び国内における各研究機関のモンゴル語文献の所在・管理の状況を調査した。可能な機関に関しては所蔵文書類の整理を試みるとともに、その際、電算機を積極的に活用し迅速な処理を心がけた。また、入力作業に当たっては、研究補助を仰ぎ、その成果の一部は、既に公表され、広く批判を仰いでいるが、所在文献の資料的位置づけを確定した上で、出版文化の実相解明に着手した。具体的には、特に大量に所蔵されていることが予想される仏教文献に関して、(1)モンゴル語訳の成立とそれがモンゴル知識層に受容される具体的プロセスはいかなるものか(2)そのプロセスにおいて出版事業がどのような関わりを持ったか(3)その出版によってどのような影響が文化にもたらされたかに焦点を当て、研究を進めた。その成果の一端は、すでに研究集会等で公にしている。また、進んで批判を求めるため、現在、2件の論文を学術誌に投稿中である。
著者
日鷹 一雅 嶺田 拓也 渡邊 修 本林 隆 東 淳樹 大澤 啓志
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

まずはカメ類、両生類、畔畔の高等植物、昆虫等について現状の生息状況を在地の多様な研究者と検討した。その結果から、トノサマガエル、イシガメ、チガヤ、ススキ、ヒメゲンゴロウなどの水生昆虫などの水田普通種が地域的に減少傾向であった。これらの普通種減少について、激減仮説(新農薬・侵入生物・栽培環境・圃場整備など)のそれぞれが減少要因に関与していた。減少傾向の種のうち、とくに減少傾向の顕著な種群に悪影響を及ぼす要因について影響評価実験を行った。メソコズムとマイクロコズムを考案し、半致死濃度を求め、ある殺虫剤の悪影響をつきとめた。昆虫種の中には地域個体群の激減に一部の普及農薬の化学成分が影響していた。減少種とその要因の関係性は多様であり、在地の研究者の役割は大きい。
著者
宮脇 さおり
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近年、ケモカインであるSDF-1(CXCL12)がヒト皮膚において間質、線維芽細胞、表皮細胞などに発現していることが報告されていたが、その生理機能は未知であった。我々はSDF-1が濃度依存性に表皮角化細胞の細胞遊走を促進させることを見出した。さらにその細胞遊走にはEGF受容体の活性化とそれに引き続くERK(p42/44)の活性化が中心的な役割を果たしていること明らかにした。
著者
三浦 裕正 中西 義孝
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

関節鏡手技の詳細な技能分析に基づいて、基本タスクを網羅した Box Training を開発した。さらに、磁気式三次元位置計測装置や力覚センサーなどの定量的評価法を開発・導入し、訓練者へフィードバック可能なシステムを構築した。同時に Virtual Realityによるシミュレーションや実体モデルの開発にも取り組み、効率的な手術トレーニング環境の効率化を図ると共に、学内でのトレーニングセミナーを実施し、低侵襲手術のための教育研究拠点を形成した。
著者
佐藤 栄作
出版者
愛媛大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

日本語研究の最新の成果である「役割語」の視点を導入して、「写生」・写生文を見直した。俳句実作者と俳句評論家を中心に、近代文学研究のテーマとして議論される「写生」について、日本語研究も加わって論じる場を立ち上げた。まず、「写生」とは固定観念から主体を解放することを前提とするから、その実践である写生文は「役割語」とはなじまないことが確認できた。しかし、写生文の中の方言は「役割語」ではないとか、写生文の方言だけは資料として第一級だとはいえない。写生文においても、使用された方言の資料価値は、作品個々の問題であるという結論に至った。
著者
宇野 英満 山田 容子 奥島 鉄雄 小林 長夫 森 重樹 KIM DongHo
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

申請者は、高共役π電子系化合物の合成法として、前駆体を最終段階で熱逆Diels-Alder反応や光脱硫化カルボニル反応などのペリ環状分解反応によりπ電子系を融合する方法を開発した。これらの前駆体化合物は、通常の溶媒によく溶けて酸化されにくく、精製が簡単な化合物である。前駆体で精製しておけば、目的の高共役化合物を高純度で得ることができる。この方法を発展させ、高純度の様々なπ電子系の融合した化合物群を合成し、その基本的な諸物性を明らかにした。
著者
榊原 正幸 井上 雅裕 佐野 栄 堀 利栄 西村 文武
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,カヤツリグサ科ハリイ属マツバイなどの有害金属に対する重金属超集積植物を用いたファイトレメディエーション技術を実用化するため,スクリーニング調査,ラボ実験,室内・温室栽培実験,フィールド実験およびエンジニアリング設計ならびに経済性評価を行った.その結果,マツバイを用いたファイトレメディエーションが重金属汚染された土壌・水環境の浄化に有効であることが明らかになった.
著者
水谷 房雄
出版者
愛媛大学
雑誌
愛媛大学農学部農場報告 (ISSN:09147233)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.9-16, 2003-09

温州ミカンは日本で重要な果実の一つで、生産量は果樹のうちで最も多い。最近、温州ミカンは隔年結果のため、生産量と卸売価格が年ごとに高下の変動を示している。しかしながら、その変動も収束する傾向があり、生産量は110万トン、卸売価格は155円程度になりそうな傾向である。年間の一人当たりの購入量は最近約6kgで維持されており、近い将来、この量が劇的に上昇することは期待できそうにない。最近のデータを利用して、回帰直線から計算すると、300円/kgの卸売価格を得るためには、生産量を約87万トンにしなければならないと思われる。
著者
若林 良和
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、カツオを漁獲する漁船乗組員たちを漁撈集団、そして、そこでの集団生活を海上生活構造と位置付けて、その移動と交流に着目した実態把握を推進し、その特性を明らかにすることである。漁船の大型化、航海・漁撈機器の高度化、エンジンの高馬力化のなかで、太平洋海域を大きく移動しながらカツオを漁獲する漁船乗組員の生活にっいて、生活史法をもとに検討した。主たるフィールドは沖縄県(宮古島市)、鹿児島県(枕崎市)、愛媛県(愛南町)、高知県(土佐清水市、中土佐町)、静岡県(焼津市)などである。カツオ漁船乗組員(現役者・引退者)のライフヒストリーをインタビューにより収集するとともに、関連のライフドキュメントを確保した。また、併せて、地域社会の基本的な文献・史料も収集して整理した。また、鰹節製造業者、さらには、マグロ漁船乗組員との対比によって、カツオ漁船乗組員の移動と交流の実態をより明確に把握できように配慮した。本研究で得られた知見を概括すると、以下のようになる。1.海上生活構造の生産的局面である漁業労働においては、閉鎖性、随時性、危険性という特殊性がより明確になり、カツオ漁船乗組員は労働規則・慣行上、大きく行動規制されている。特に、海域移動が拡大するに伴い、操業期間が長期化し、労働強化は顕著になっている。2.海上生活構造の消費的局面である衣食住については、漁業労働への従属性が高く、また、海域移動の拡大と航海期間の長期化のなかで、少しでも娯楽性を高めようとする生活の創意工夫が見られる。3.こうした環境下にあるカツオ漁船乗組員は母港への帰港、あるいは、補給地への寄港で、家族との交流、さらいは、地元住民との交流が物心の両面において展開されることが素描できた。この点は質的調査のメリットが遺憾なく、発揮でき、調査手法の妥当性も検証できた。(770字)
著者
栗田 英幸
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

特に1970年代以降、途上国において、天然資源の豊かさと社会的繁栄との間に負の相関関係が顕著に見られるようになってきている。この現象は、「資源の呪い」と呼ばれ、さまざまな社会科学の分野において、メカニズムと処方箋の積極的な解明努力が行われてきた。その結果、「資源の呪い」研究は、不安定な資源収入に大きく規定されたマクロ経済管理の失敗へと収斂してきている。「資源の呪い」現象が、マクロ経済管理の困難さ故に民主制度の軽視と汚職を生じさせ、結果として「呪い」現象を生じさせているというのである。しかし、資源諸国において民主制度を変質させ、汚職を一般化している要因は、マクロ管理の失敗のみではない。ミクロから見るならば、資源開発という膨大な被影響住民の意思の無視を伴わざるを得ない特徴が、民主制度の進展を妨げ、変質させる、もうひとつの大きな要因なのである。本研究は、フィリピンの鉱山、ダム、石炭火力発電所、灌漑に関する開発プロジェクトの事例を整理し、大規模資源開発が合意形成の困難さ故に民主制度を変質させていることを、論理的およびケーススタディーの積み上げから説明した上で、NGOの近年のグローカルに張り巡らされたネットワークを通した活動から得られるようになってきた民主制度変質修正に関する成果を通して、「資源の呪い」克服の処方箋として、地域住民を起点とし、NGOのネットワークを媒介として多国籍企業本国や消費国の市民とつながり、民主主義や環境、人権を正当化の根拠として機能するグローカルネットワークが必要であることを明らかにした。
著者
石原 謙 立石 憲彦 木村 映善
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

現在、産婦人科専門医の確保が厳しく、遠隔診断やオピニオンが求められるようになっている。医師との迅速な連携の為に愛媛大学では携帯電話を用いたCTG(胎児心拍陣痛図)の伝送や、安全な医療情報ネットワークを介した伝送による遠隔医療期間の連携の試みを行ってきた。それらは一定の成果を挙げたが、CTG伝送をする為にはサーバの設置やネットワークの整備、設定を要求されるなど、利用までの敷居が高く、普及する要素が低かった。翻って一般家庭におけるブロードバンド環境の普及は進み、現在ではADSLやFTTHの引き込みを前提環境として想定することが容易になった。そこで、一般家庭で利用されているブロードバンド環境下に設定の必要がないCTG伝送システムを実現することによって容易に胎児心拍陣痛図の監視システムの導入が出来ることを目指した。この事によって高リスク因子の妊婦を自宅にて静養させることが実現出来る。具体的には一般家庭で導入されているブロードバンドルータのDHCPもしくはUPnP機能からホームネットワークの環境を自動的に検出し、インターネットへの接続を確立する。どのような環境でも胎児心拍陣痛図のモニタリング・センターへデータを伝送出来るようにHTTPプロトコル上に暗号化されたSOAPメッセージを使って胎児心拍陣痛図を伝送する。RS232Cで接続された胎児心拍陣痛図のプローブからデータを採取し、SOAPメッセージに載せるXML形式の連続データに変換を行い、あらかじめ指定されているモニタリング・センターのWebサービスサーバと公開鍵認証を行って送信する。センターでは各地から取得されたメッセージをXML形式で保存し、データベース参照や地域医療システムとの連携を実現している。設定が不要で場所、時を選ばずに誰でも容易に胎児心拍陣痛図の確認を依頼出来るようになる為、周産期医療の充実化が期待される。本研究を進めるにあたって、医療機関毎に導入している医療機器によって扱われる胎児心拍陣痛図や各種医用波形データが異なる為、MFERの利用を着想し、MFERデータを扱う為のパーサを開発した。現在、医用波形をMFER形式に変換し、それをSOAPメッセージにエンコーディングした上で、リライアブル・マルチキャスト技術を利用したメッセージングシステムでSOAPメッセージを配布する実装の開発中である。
著者
小林 直人 濱田 文彦
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

平面内細胞極性形成シグナルは、細胞膜上に存在するFrizzled-1受容体を中心に構成されるが、この受容体と結合するリガンド分子は不明である。本研究では未知のリガンド分子の同定を目的とし、培養細胞を用いて受容体とリガンド分子との結合の評価系を確立した。種々の膜タンパク質をコードする遺伝子を細胞株で発現させるコンストラクトも構築中であり、これらの膜タンパク質と同受容体との結合について検討を進める。
著者
渡部 正康
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

[研究目的]防災情報の提供には,主に平面地図が用いられている.これを立体模型のように表現することで,地形起伏や集水域などの災害に関する地理情報が把握しやすくなる.また避難計画策定に際し,道路傾斜や経路阻害など考慮すべき要件を直感的に把握できるようになる.本研究では,自主防災組織などのパソコンの扱いに詳しくない人が容易に扱えるように,地図が表示された画面をなぞるだけで,地形を好きな方向から見る,書き込むなどの操作を直感的に行える「防災用立体的地理情報システム」を開発した.[研究方法]3D-GISソフトを講演会場で運用する形態を想定し,開発を行った.基盤データとして国土地理院の基盤地図情報や電子国土から立体的地形や建物情報,空撮写真などを取得し,対象地域の地形や建物など地理要素を立体的に可視化した.システムに実装した入力・編集などの機能は主として,地形に被災域などの描画を行う,立て看板的に画像や文字を設置する,避難経路を描いて入力する,GPSで取得した移動経路をアニメーション表示する,などである.これらをPCに詳しくない地元の住人が直感的に操作できるよう,特にインターフェースや操作手順に工夫を行った.ソフトの開発・運用環境としてMicrosoft Windows上でVisual C#と,DirextXを用いている.[研究成果]開発したGISは公共の地理データを利用しており,日本全国の地域で適用可能である.性能評価のため自主防災組織関係者に試用してもらい,自治体が配布したハザードマップで把握し難かった点をわかりやすく表現する効果が確認できた.特に高齢者からは,自宅~避難所間のみを大きく表示した地域防災地図の要望が大きく,教育効果が期待できる.
著者
平田 浩一 吉村 直道 河村 泰之
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

学校教育における図形・幾何教育の観点から、最近の折り紙研究の成果の紹介しつつ、折り紙を科学的・数学的にとらえる視点に立った折り紙教材の開発を行った。具体的には、(1)計算幾何学分野での折り紙研究の成果を紹介する教材の製作、(2)折り紙作図を紹介する教材の製作、(3)折り紙作図の特徴を活かした作図問題の収集、(4)折り紙作図シミュレーションソフトウェアの開発、及び(5)折り紙を利用した数学教育の実践、を行った。
著者
小川 敦司
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

特定の分子が存在する時にのみ、その濃度に応じてタンパク質が発現する仕組みを2つ作った。1つは原核細胞の翻訳システム中で働くもので、もう1つは真核細胞の翻訳システム中で働くものである。これらの分子応答性タンパク質発現システムは、生体システムを利用しているため、生体内外におけるバイオセンサーとして期待できる。また、簡単な調整によって、ターゲット分子を変換することができるため、汎用性も高い。
著者
住吉 真帆 木村 善行 木村 善行
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

低濃度(10pgから100ng/mL)のツボクサ(Centellaasiatica)成分Asiaticosideおよび赤升麻(Astilbethunbergii)成分Eucryphinが、熱傷治癒促進作用をもつことを、マウス熱傷モデル用いて明らかにした。創傷部滲出液の分析、細胞を用いた分析を行い、これら天然物由来化合物が生体の再生能を向上させて創傷治癒を促進していることを明らかにした。
著者
大賀 水田生 中畑 和之 谷脇 一弘 海田 辰将
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は, 無線機能付きMEMS加速度センサを橋梁等の構造物の構成要素に添付し, そこから得られる振動波形のモニタリング情報から部材の大まかな損傷位置・程度を推定する技術を開発することである。本研究は, 振動時刻歴応答解析シミュレーション技術の構築, 無線機能付きMEMS加速度センサの製作, 及び本システムの検証から成っている。
著者
小野坂 仁美
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、痴呆性高齢者が人形やぬいぐるみなどの非生物や偶像等を「生きている人、あるいは動物」として認知し、それら対象に対してなんらかの関わりを持とうとする現象を「人形現象」と操作的に定義している。そこで、本研究の目的は、この「人形現象」について、痴呆の病態と認知との関連の有無、痴呆性高齢者のなかでこの現象がみられる割合や傾向、生活歴や病態との関連などを系統的に調査し、当該現象を明らかにすることである。そして、当該現象について明らかになったことをふまえて、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用できる方策を検討することが次の目的である。当該現象を明らかにするために、脳血管性痴呆の高齢者165名とアルツハイマー型痴呆42名、Pick病7名、ビンスワンガー症候群2名を対象に、形態の異なる3種類の人形を示した上で参加観察法を用いて人形に対する反応の傾向についての調査を行った。結果は、形態の異なる人形の中で最も反応したのは、どの痴呆においても乳児に似せて作った人形であった。人形を見て人形と認知しない割合は脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆はほぼ同じであったことが判明した。人形として認知しないのは重度の痴呆者が最も多かった。人形に対する関心の高さと継続度は重度の痴呆者が一過性であるのに対し、中等度の痴呆者は継続して人形に対する関心と関わりを維持した。性差でみると、人形に対する関心の高さと関わりについては圧倒的に女性が優位であり、直接自分の乳房に人形の口を当てて哺乳した行為さえ見られた。また、中等度の者は、人形と認知できた上で過去の生活史の回想につながるものが多かったいう結果が得られた。回想については、脳血管痴呆者は人形を「わが子」として認知し世話をするのに対し、アルツハイマー型痴呆者の場合は、人形を見て自分自身が子供に退行し自分の親あるいは子供時代を回想する者が多かった。他者との関係から見ると、人形を介してケア提供者との関わりが容易になり増える反面、人形を人形と認知する他の痴呆者から嫌がらせや叱責を受けたりなどの迫害的行為が見られた。以上のことから、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用するのは、「子役割」として人形を用いる場合は、脳血管性で中等度痴呆の女性が最も適切であることがわかった。アルツハイマー性痴呆者に用いる場合は、退行が進む可能性に注意する必要がある。また、他の痴呆者やケア提供者との関係性などの環境を整備した上で行うことが重要であることが示唆された。
著者
高橋 信雄
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1,親の意識は、音反応出現後に安堵感を示し、その後、就学前までは聴覚とことばを意識していた。就学後は、聾学校の場合には手話を、通常小学校の場合には子どもの得意とするコミュニケーションを心がけているが、聴覚への意識が十分には持続できないことが多かった。教師側は、聾学校では聴覚活用の意識が十分でなく、通常小学校では聴覚的な配慮が十分ではなかった。2,対象児の変容:(1)コミュニケーション様式の変容:通常学校に通う児の場合、聴覚口話が多いが、十分には通じないと思われる児では、手話を併用している。この場合、親も子も手話が十分でなく、簡単な日常生活程度の簡単な手話しか使用されず、コミュニケーションが不十分となるだけでなく、意味概念上の深まりが極めて浅いことがわかった。(2)聴覚情報処理上の変容:コミュニケーションモードの種類に係わらず、術後の年数と共に向上していった。音声情報処理能力は、電極の挿入具合ばかりでなく、術前の聴覚的な活用能力が大きく影響していると思われる。(3)言語能力の変容:小学校の低学年では、読字力、語彙力、文法力、読解・鑑賞力の各領域において学年相応の力を持っているが、聴覚的情報受容力が十分でない群では、読字力以外の領域の力は、学年があがるにつれて伸びが鈍くなった。(4)話しことばの変容:構音は、年数と共に改善が認められたが、聴取能力に依存するところが大きく、個人差が大きかった。また、聴取能力の向上だけでは、一部の音は歪んだり、鼻音化することも多く、発音指導が必要であった。手指コミュニケーションモードの児ほどその傾向は強かった。(5)聾学校では、体系的なリハビリプログラムがなく(93%)、病院・リハビリ施設・学校との連携したプログラムが必要と思われた。いずれの項目も、個人差が大きく、リハビリ後の親や教師などの意識が、術後の成績に大きく関連すると思われた。
著者
立石 憲彦
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

高分子化合物によって赤血球が集合を起こすことはよく知られている。集合体は高分子化合物の濃度によって形成速度や大きさに差が現われてくる。我々は集合体形成物質としてデキストランT-70を用いて濃度(0〜4g/dl)に伴って集合体の形成にどのような影響があるかを次の3つの方法で観察をおこない、比較検討した。(1)単離ウサギ腸間膜に赤血球浮遊液を灌流し、微小血管の壁近くに形成される血漿層の厚みと血管内径の関係。(2)低ズリレオスコープ下における赤血球連銭形成速度。(3)赤血球集合・沈降過程におけるレーザー光透過量の変化。【結果】低ズリレオスコープ法による集合体形成速度およびレーザー散乱光による集合体形成及び沈降速度はデキストラン濃度が2.5g/dlで最大となった。一方、単離ウサギ腸間膜の微小血管における赤血球の流動を観察すると、デキストラン濃度が増加するにつれて血漿層の厚さが増すが、増加率はデキストラン濃度が2.5g/dl付近で最も大きく、逆に2.5g/dl付近のデキストラン濃度では灌流抵抗の増加率が低いことが明らかになった。【考察】低ズリレオスコープによる赤血球集合体形成およびレーザー散乱法による赤血球集合・沈降過程においては、ともに赤血球に加わるずり応力は低く、0〜2dyn/cm^2程度であり、デキストラン濃度変化によって赤血球集合体形成速度に変化が見られた。一方、微小血管内では血管壁に近いところではズリ応力が大きく(〉20dyn/cm^2)、赤血球は軸集中し、かつ、赤血球同士の衝突頻度が増える。中心軸付近ではズリ応力は小さいために集合体形成が促進された状態になったと考えられた。また、血漿層の厚みと灌流抵抗の増加率の変化は赤血球が集合を起こすことで循環抵抗の増加を抑えていることが考えられた。