著者
澤井 志保 暁 清文 秦 龍二 出崎 順三 朱 鵬翔
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

虚血性難聴モデル動物に骨髄造血幹細胞を用いた再生治療を試みた。内耳虚血負荷を加えた砂ネズミに骨髄造血幹細胞を内耳に移植すると、聴性脳幹反応(ABR)の虚血性障害が有意に改善した。更に蝸牛を摘出し、有毛細胞の細胞死の有無を検討すると、幹細胞治療群で有意に内有毛細胞の虚血性細胞死が抑制されていた。次いで細胞死抑制機構における骨髄造血幹細胞の役割を検討するために、骨髄造血幹細胞を蛍光色素でラベリングし経時的に細胞動態を調べると、内耳に移植された骨髄造血幹細胞は鼓室階に留まっており、内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合した骨髄造血幹細胞は見いだせなかった。従って内耳虚血障害では、骨髄造血幹細胞が有毛細胞に再分化したり障害有毛細胞と融合して、有毛細胞を再生する可能性はほとんどないと考えられた。一方幹細胞は多分化・自己再生能以外に各種栄養因子を分泌することが知られている。そこで各種栄養因子を調べてみると、骨髄造血幹細胞治療群の蝸牛では有意にglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)のタンパク量が増大していることが明らかとなった。以上のことより、骨髄造血幹細胞は内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合するのではなく、内耳でのGDNFの発現を増大させることで虚血性内耳障害を軽減させることが明らかとなった。今回の検討では残念ながら骨髄造血幹細胞からは有毛細胞の再生は認められなかった。そこで現在有毛細胞自身の再生を目指して、胚性幹細胞を用いた分化誘導実験を行っている。これに成功すれば有毛細胞を直接再生することが可能となり、再生治療の新たな手法を開発できるものと考えられる。
著者
山本 哲朗 方 青 土屋 卓也 陳 小君 小柳 義夫 QING Fang CHEN Xiaojun
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,当初偏微分方程式解法の主力をなすGMRESとSOR解法を中心としてその数学的基礎付けを与えることを目指したが,以前から研究を進めてきた線形・非線形SOR解法の理解が一段と進み,最近になってかなり満足すべき成果が与えられた.この解法について得られた結果の大要は次の通りである.1. 非対称行列を係数とする線形方程式に対する収束定理としてOstrowski-Reichの定理,Householder-Johnの定理,Newmanの定理,Ortega-Plemmonsの定理等が知られているが,これらはすべてSteinの定理から導くことができることを明らかにした.これにより,従来複雑であったOstrowski-Riechの定理の証明に見通しの貞い別証明を与えることができた.近く取りまとめてどこかに発表したいと考えている。2. 非線形SOR解法の収束定理としてはBrewster-Kannanの結果が知られているが,それは反復が収束するパラメータ{ω_k},0<ω_k<2の列が存在することを主張するにすぎず,ω_kの具体的な選び方には触れていない.我々は,偏微分方程式の離散化と関連した定理としてOstrowski-Riechの定理の一般化に成功した.この定理は大域収束性を保証するが,SSOR,USSOR,ad HocSOR等にも適用可能なものである.また,この手法はD-K法のSOR型加速にも使える.さらに,近年滑らかでない方程式への関心が高まっており,この分野で多くの業績をあげている陳小君(島根大学)を研究分担者として追加し,Uzawa法と平滑化Newton法の数理についても研究した.Uzawa法は一種のGauss-Seidel的反復であるが,その数理について現在見通しの良いまとまった解説はない.本研究で得られた成果をもとに引き続き研究を行い,見通しの良い理論構築を目指し,今後どこかに発表することを考えたい.
著者
薬師神 裕子 中村 慶子 山崎 歩 二宮 啓子
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

思春期1型糖尿病患児へのメンタリングを用いた看護介入プログラムを開発し、思春期患児(10名)及び青年期患児(7名)への双方の介入効果を評価した。1年間の継続メンタリングを用いた介入により、思春期患児の自己効力感は介入セッション後6か月まで有意に上昇した。また、血糖値の有意な低下が12か月後まで見られた。思春期患児からのメンタリングに対する肯定的な評価にも関わらず、良好なメンタリング関係を長期間継続することは難しく、信頼関係構築のサポートとメンタリング関係のモニタリングを強化する看護支援の必要性が示唆された。
著者
上田 博史 橘 哲也
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

二者択一の選択試験は,飼料原料の嗜好性や動物の栄養素摂取調節能力を調べるために有効な方法である.しかし,単飼したヒナに同じ飼料を2つの給餌器から与えると,試験開始直後,半数のヒナは右側の給餌器から(右利き),残りの半数は左側の給餌器から飼料を摂取する(左利き).右利きと左利き,あるいは同じ利き腕をもつヒナを2〜4羽群飼して改めて選択試験を行うと,単飼のとき右利きだったものが右側から,左利きが左側から食べるということはなく,常に連れ添って食べる.好みの給餌器の位置が群飼するとリセットされるということは,右利き・左利きが先天的な行動というよりは他の因子によって引き起こされている可能性を示唆する.特定の給餌器に対する固執は時間の経過に伴い消失するが,例外も存在する.単飼ケージは10〜12個が一つの棚に配置されているが,両端にあるケージで飼育されたヒナでは固執の解消が見られないことがある.両端に置かれたヒナの左右の一方にはケージが置かれていない.一般に,体重の等しいヒナを並べて選択試験を行うと,両端のヒナは隣人のいる内側の給餌器から摂食する.しかし,体重の大きなヒナを内側のケージに入れると,内側の給餌器からの摂取量は減少する.したがって,隣人との社会的な関係によって,好みの給餌器は変わるものと考えられる.このような行動は,塩酸キニーネを添加した嗜好性の低い飼料を選択させたときにも見られ,選択試験の精度を低下させることも明らかになった.本研究課題では,脳質内投与法を用いたヒナの摂食調節物質の検索も同時並行して行ってきたが,脳内のガラニンやノルアドレナリンが摂食促進作用をもつこと,また一酸化窒素の食欲促進作用が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンと関連していることも明らかにした.
著者
茂木 正樹
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

脳卒中やアルツハイマー病などの神経疾患はこれからの超高齢化社会において克服するべき重要な病気ですが有効な治療法は確立されていません。最近高血圧調節ホルモンであるレニン・アンジオテンシン系を調節する降圧薬(ARB)の効果が注目されており、我々は本研究において、脳梗塞や認知機能に焦点を当てたマウスを用いた動物実験により、ARBが神経細胞の障害を抑制したり、血管細胞の老化を防いだり、脳梗塞後の生存率を上げるような治療が可能になることを見出しました。
著者
加 三千宣 武岡 英隆 阿草 哲郎 武岡 英隆 阿草 哲郎
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

大洋スケールの魚類バイオマス変動の謎を解き、有用魚類資源の長期動態と将来予測にとって極めて重要となると考えられる、別府湾堆積物中のカタクチイワシ及びマイワシの魚鱗アバンダンスの過去1500年間における変動記録を明らかにした。また、その魚類資源変動を引き起こす低次生産及び海洋構造の動態を調べた。
著者
杉山 康憲
出版者
愛媛大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の研究計画に基づいて「糖尿病モデルラットを用いた糖尿病発症および合併症に関するプロテインキナーゼの探索」を行った。本実験で使用した糖尿病モデルラットであるOLETFおよびコントロールラットであるLETOは大塚製薬徳島研究所より分与して頂いた。OLETFラットおよびLETOラットの雄を糖尿病発症前の12週齢、糖尿病発症後の25週齢および40週齢的合併症が発症すると考えられる老齢の60週齢に解剖し、脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、すい臓、精巣を摘出した。各臓器抽出液を調製し、抽出液中に存在するプロテインキナーゼをマルチPK抗体を用いて検出した。その結果、各臓器抽出液から多数のプロテインキナーゼのバンドが検出された。このうちM1C抗体を用いて25週齢のOLETFラットを解析すると、すい臓において約110kDaおよび約200kDaのバンドが検出され、これらのバンドはLETOラットでは検出されなかった。これらの結果から、この約110kDaおよび約200kDaのバンドは糖尿病の発症に関わるセリン/スレオニンキナーゼであると考えられた。また、40週齢のLETOラットをYK34抗体を用いて解析すると、精巣において約150kDaのバンドが見られたが、OLETFラットでは検出されなかった。これらの結果は、約150kDaのチロシンキナーゼがLETOラットと比較してOLETFラットで発現量が顕著に減少することから、糖尿病発症後において精巣で見られる男性生殖器の機能不全に関わるプロテインキナーゼである可能性が考えられる。現段階では、これらのプロテインキナーゼの同定はできていないが、今後これらを同定することで糖尿病の発症や合併症の解明に繋がると予想される。
著者
兵頭 慎治
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1. ヒトにおける子宮内膜内Side population cellの発現と着床不全との関連性についてヒトの子宮内膜においてもSide population cellの発現はマウスと同じように変化するのか。愛媛大学医学部附属病院産婦人科不妊外来受診患者および同院良性疾患手術患者より文書にて同意書を作成した上で子宮内膜および末梢血を採取し、それぞれに含まれるSide population cell数をフローサイトメトリーを用いて測定した。採取時期は月経期・卵胞期・黄体期にわけて採取した。また検体採取時に経膣超音波検査断層法を用いて子宮内膜の厚さを測定し、血漿中のEstradiolおよびProgesterone濃度をCLIA法にて測定した。それぞれの月経周期におけるSide population cellは子宮内膜上皮・子宮内膜間質・末梢血のいずれにおいても黄体期に高値を示した。しかしながら子宮内膜の厚さとSide population cellとの間には末梢血においては相関性がみられた(r^2=0.151,p<0.05)が子宮内膜上皮・子宮内膜間質においては相関性がみられなかった。さらに末梢血におけるSide population cellの数と血漿中のEstradiolおよびProgesteroneとの間に正の相関が認められた(r^2=0.171,p<0.05;r^2=0.218,p<0.01)。さらにフローサイトメトリーを用いて分離したSide population cellを10^8Mの17β-estradiolを含むDMEM/HamF12培地で培養し、7週間後には間質・上皮から分析したSide population cellから5cells/dishの間質細胞への分化が認められた。子宮内膜由来のSide population cellは、子宮内膜の増殖・分化に関与している可能性が考えられる。
著者
高田 清式
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

院内感染の理解を深めることを目的に研修医における処置時の手袋着用状況と白衣の汚染状況を調査した。当大学病院での研修医に焦点をあて、感染教育により向上するかどうかを年次的に検討した。手袋着用率が平成20年度の59.6%に比べ、平成22年度は63.8%であり、白衣のMRSA汚染も平成20年度に2例検出されたが以後は検出されなかった。感染対策の実践において感染教育にて年次的に幾分の改善傾向が示されたと考える。
著者
水谷 房雄
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

果樹の主幹部に幅数mmの連結用樹皮を残し、部分的環状剥皮を施し、連結用樹皮の再生を種々の方法で抑制することによって、果樹の小樹化を図ったところ、樹体成長が抑制された。連結用の樹皮を定期的に元の幅に切り戻すと新梢の成長が抑制された。また、植物成長抑制剤のABA, ヒノキチール、トロポロンなどを連結樹皮に処理すると、樹皮の再生と樹体成長の抑制に効果があった。これらの化学物質を連結樹皮部位にのみ処理するので環境にも優しい技術といえる。また、全樹種に適応できる技術であると思われる。
著者
諸田 龍美
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中国の中唐時代を代表する詩人白居易は、恋愛詩の傑作「長恨歌」によって広く知られており、平安朝を中心とする日本文学にも多大な影響を及ぼしたが、そうした本質的な影響関係が成り立ち得た背景には、「風流・多情・好色」の美意識を基軸とした、両国の<文化における共通性・同質性>が存在したことを、多様な資料および論拠によって明らかにした。
著者
森野 忠夫 尾形 直則
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

シリコンと非接触型レーザー血流計を用いて、ラット脊髄圧迫時の脊髄血流と虚血の影響を調査した。20gの重さで脊髄は完全虚血となり、20分間の圧迫では運動障害は可逆性であるが、40gでは非可逆性であった。そのメカニズムとして、圧迫部位での虚血は、マイクログリア増殖を含む炎症、神経細胞やオリゴデンドロサイトのapoptosisを引き起こし、さらに血液脊髄関門が破壊されるためと考えられた。
著者
都築 伸二 山田 芳郎
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

従来の電力線通信(PLC)は100ボルトの電力線間に通信用信号を重畳する方式である。一方本研究では100ボルトの線とグランド間にも同時に注入(ファントムモード注入と呼ぶ)する新しい通信方式を検討した。ファントムモードで注入した高周波信号は、空間に微弱ながら信号を放射する。従って、複数の電力線が配線されている閉空間では微弱電磁界で満たされ、無線通信が可能となる。こうした形態で行うPLCを"有線・無線融合型PLC"と呼ぶ。本研究では、室内の移動体の位置を高精度に特定できる、つまり通信と測位を同時に実現できるような有線・無線融合型PLC方式を検討した。主な成果は以下の2点である。(1)微弱無線通信技術:本研究では、ファントムモード信号の注入・抽出器、及び効率良くアンテナとして励振するために必要なアンテナカプラを開発した。また電力線の配線形態によってアンテナ効率が著しく変動する問題に対しては、PLCモデムに使用されるACコードをシールド付きのものにすることによって解決した。これらの成果は特許としても出願した。(2)高精度位置特定技術:ホームロボットのナビゲーションを行うことを想定し、可聴音DS-CDMによる屋内高精度位置推定法およびその精度を検討した。(1)の微弱無線により、マイクとスピーカを同期させ、室内のように障害物の多い環境下でも数cmの精度で測位できる技術を開発した。ただし、(a)障害物に隠れていても回折波で測定できるものの精度が劣化すること、及び(b)移動体の測定においてはドップラー効果の影響が懸念された。(a)については測定精度の検定方法を提案した。(b)に対しては、チップ長1023チップのM系列を用いる場合、許容される移動体速度は1m/sec以下であることを明らかにした。本研究で得られた成果は国際会議で3件発表し、招待論文や解説記事としても出版した。
著者
土屋 由香 戸澤 健次 貴志 俊彦 谷川 建司 栗田 英幸 三澤 真美恵
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

冷戦初期(1950年代を中心に、1970年代初めまで視野に入れて)に、米国の政府諸機関-国務省、陸軍省、広報文化交流庁(USIA)、中央情報局(CIA)など-およびそれらに協力した民間部門-一般企業、ハリウッド映画業界、財団、民間人など-が行った対外広報宣伝政策について国際共同研究を行った。米国側の政策のみならず、韓国、台湾、フィリピン、ラオスにおける受容の問題も取り上げ、共著書『文化冷戦の時代-アメリカとアジア』(国際書院、2009年)にまとめた。
著者
山本 晴康 川谷 義行 尾形 直則
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

褥瘡の発生のメカニズムを検討するため、圧力センサーと血流センサーは重ねて貼付し、踵部の圧と血流の同時測定を行った。健常人での測定では安静仰臥位では踵骨部後面に約350mmHgの圧がかかっておりほとんど阻血状態であった。その後下肢を徐々に挙上していくと120mmHgあたりで血流は再開し始め、10-20mmHgでほぼ正常の半分の血流が得られることが判明した。30mmHgでは無荷重時の74%、10mmHgでは100%の血流が得られた。健常者の除圧時の踵部の血行は27.45±2.64ml/min/100g(n=5)であり、圧力が0になってから血行がmaximumに回復する時間は3秒前後であった。これと比較し、除圧時の踵部の血行は重度の糖尿病をもつ患者では一様に悪く、平均が18.25±6.04ml/min/100g(n=4)であり、健常人の半分以下である患者もいた。50mmHgの圧力でも糖尿病患者では10%以下に血流が低下してしまった。圧力が0になってから血行がmaximumに回復する時間は平均7.14秒であった。一方、片麻痺患者では健常人と比べ、患側でも除圧時の踵部の血行は26.25±12.2ml/min/100g(n=8)と比較的保たれていた。50mmHgの圧力では血流はmaximumの10%に落ち、圧力が0になってから血行がmaximumに回復する時間は平均6.15秒でやはり健常人と比較すると明らかに遅延していた。大腿骨頚部骨折に対して手術を行った患者5例では、踵部の最大血流量の平均は健側30.6ml/min/100g、患側30.2ml/min/100gで、健常者に比較し、低下は見られなかった。しかし、手術した側(患側)はしていない側(健側)に比べ、明らかに少ない圧力での血行障害が生じていた。また、踵部が完全に除圧されてから血流が最大に回復されるまでの時間を調べた結果、健側は平均3.01±134(n=5)秒であるのに対して、患側は平均20秒近くかかっていた(19.44±2.35秒、n=5)。また、5例全ての症例で、患側肢では50mmHgの圧力で、血行がほとんど途絶えてしまっていた。術後安静を余儀なくされている症例では、圧迫により容易に血流障害を生じ、また、圧迫を除去されてからの血流の可塑性も低下していた。
著者
四宮 博人 切替 照雄 浅野 喜博
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

申請者が同定したp65/L-plastin は, 白血球に特異的に発現され,アクチン細胞骨格の再構築(p65-actin-scaffold) に関与している。p65-actin-scaffold は菌体刺激によって随時形成され, これを中心に形成される高次タンパク質集合体が, 感染防御的細胞応答の基盤として機能すると想定している。p65/L-plastin とともに細胞骨格のダイナミクスに関与するタンパク質,およびp65-actin-scaffold と高次タンパク質集合するタンパク質としてNADPH オキシダーゼ p47^<phox> などについて, 特異抗体を用いてp65-actin-scaffold との共存関係を調べた。また, マクロファージ内でのそれらの局在変化と貪食・細胞接着や殺菌活性の増強との関連を評価した。ルミノール結合ビーズを用いて, 貪食依存性の活性酸素酸性定量法を確立し, 細胞骨格の再構成が活性酸素産生において重要であることを明らかにした。p65/L-plastin, WASP, VAV に関して, それぞれの欠損は貪食・細胞接着依存性の活性酸素産生の障害をきたすことを考え合わせ, p65-actin-scaffold を中心とする細胞骨格系のダイナミクスが, 白血球の感染防御活性の発現において重要な役割を担うと考えられた。
著者
高橋 学 渡部 祐司 岡部 永年 野村 信福 堤 三佳
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

切離手術時間を短縮するための切離技術の一つとして,肝臓ガン局部凍結技術の開発を目的として,(1)将来肝臓の冷凍技術として提案している音波を用いた熱音響冷凍技術の開発,(2)冷却切離抵抗の研究および(3)肝臓冷凍針の開発と冷却特性の3つの実験が実施された.熱音響冷凍では汎用スピーカー(最大出力70W)を駆動源として使用した簡易型音響冷却装置を用いて冷却実験を実施した.内径26mm,長さ1500mm(約1/4波長)の真鍮円管を共振管とし,スタックには内径1mmの絶縁管を100本束ねたものを用い,作動流体に空気およびヘリウムガスを用いて常温常圧下で冷却実験を行った.その結果ヘリウムでは空気の場合の約3倍増の冷却効果が得られた.また,スタック表面積,内部圧力,および振動振幅は冷却効果に強い影響を与え,本実験で用いた簡易型装置でも,1mm^3程度の肝細胞であれば冷凍することが可能となる.冷却切離抵抗の実験では,ロボットによる肝臓の切離を行う際,正常な部位まで損傷させることは望ましくなく,正確な切離開始位置の決定が求められる.また,切離中に加わる抵抗が小さい程,滑らかな切離動作が実現でき,さらに刃物の損傷を防ぐことが可能である.視覚情報を用いた正確な切離開始位置の決定,及び,力覚情報により切離抵抗を低減するロボットシステムを提案する.視覚情報を用いた切離開始位置の決定手法では,肝臓の色の変化と温度の関係から,半冷凍部分(-1〜-3℃)の決定を行っている.また,力覚情報を用いた切離動作においては,インピーダンス制御を用いることで刃物の側面方向からの加重を低減し,目標とする切離抵抗による切離動作を実現している.肝臓の冷却特性および物性値を調べるため,豚の肝臓を用いた.血流を模擬して肝臓内に生理水を流し,その際の血管寸法の相違による熱伝導率の変化を実験データから逆解析することにより明らかにした.また,冷却温度,時間,冷却針からの位置をパラメータとした実験式を導出し,冷却予測が可能となった.
著者
伊藤 和貴
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

天然からスクリーニングした3種(563,V1,V2)の木材腐朽菌による2,4,8-トリクロロジベンゾフラン(2,4,8-TCDF)の微生物分解を行った結果,0.25mMの2,4,8-TCDFを添加した場合に30日間の培養で11.9%〜72.8%分解することができた。また,2,4,8-TCDFは培養中,菌体中に取り込まれていたので分解率と菌体への取り込み率を併せて除去率とした。3種の菌によって27〜76%が培養液中から除去された。分解能の最も高かったV2菌からの菌体外粗酵素について部分精製を行った結果,2,4,8-TCDFの分解初期(培養15日以前)にリグニンペルオキシダーゼが関与し,培養後期(培養15日以降)にジオキシゲナーゼが関与していることが示唆された。また,天然からスクリーニングした4種(267,65,E,V2)の木材腐朽菌とPhanerochaete chrysosporium(p.c.)を細胞融合した。0.25mMの2,7-ジクロロジベンゾ-p-ダイオキシン(2,7-DCDD)を添加した場合,得られた6種の融合菌による30日間の培養で45%〜96%培養液中から除去することができた。得られた6種の中で3種(p.c.×267-1,p.c.×65-1,p.c.×65-2)の融合菌は両親株よりも高い除去率を示した。さらに,汚染土壌中のダイオキシン類の解毒化(バイオレメディエーション)を実施するための基礎的知見を得るために267菌および融合菌(p.c.×267-1)による土壌中の2,7-DCDDの分解についても検討した。1ppmの2,7-DCDDを添加して30日間培養した結果,59〜63%が分解された。これらの結果から,天然からスクリーニングした菌(木材腐朽菌)によってダイオキシン類を分解できることが示唆された。ダイオキシン分解能を有する菌を土壌中に繁殖させてダイオキシン類を分解(バイオレメディエーション)できることも示唆された。今回の2年間の研究によって,天然からスクリーニングした菌によるバイオレメディエーションについて,その有効性,および実現性が示唆された。
著者
内田 九州男 竹川 郁雄 寺内 浩 山川 広司 加藤 好文 川岡 勉 加藤 国安 小嶋 博巳 河合 真澄 関 哲行 弘末 雅士 稲田 道彦 大稔 哲也 野崎 賢也 伊地知 紀子 松原 弘宣 西 耕生 田村 憲治 神楽岡 幼子 黒木 幹夫 菅谷 成子 若江 賢三 藤田 勝久 高橋 弘臣 吉田 正広 木下 卓 矢澤 知行 岡村 茂 石川 重雄
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

シンポジウム・研究集会を3年開き31本の報告を実現、各発表は報告書に掲載した。巡礼の諸相の解明では、日本の四国遍路、熊野参詣、西国巡礼、海外では10巡礼地を調査し、キリスト教世界(古代東部地中海、中世ヨーロッパ、スペイン中近世、イギリス中世・現代)、古代ギリシア、アジア(中国中世、韓国現代、モンゴル中世、エジプト中世、ジャワ中世)の巡礼で実施。国際比較では、日本の巡礼とキリスト教巡礼での共通性は中近世では来世での霊的救済と現世利益の実現を願うことであることを示した。
著者
鳥居 本美 石野 智子 大槻 均
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

スポロゾイトにおいて発現される分泌型分子P36pのタンパク質動態を詳細に解析した。肝細胞侵入後にP36pの貯蔵量が減少することから、P36pが細胞侵入に際して分泌されて機能することが示唆され、肝細胞認識/侵入に関わるという知見が強く支持された。P36pと相互作用する肝細胞膜分子は検出できなかったが、メロゾイトの細胞侵入関連分子が新たに6種類、スポロゾイトでも発現していることを見出した。