著者
岩田 憲治
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.67-84, 2004-07

本稿の目的は、消費者運動をめぐる当該労働組合の対応を明らかにし、その論理を検討することである。公害や物価など消費者運動に対して企業内労働組合の対応は多様である。その中で本稿は、当該労働組合が消費者運動と企業との関係をどのように対応して調整の役割を果たしたかを検討することによって、消費者運動に対する企業内組合の論理をさぐる。カラーテレビの価格引下げを求める不買運動に対し、ある電機メーカーの労働組合が消費者団体と接触しその要求を経営側に伝えて、解決策を見出すことに貢献した。また、森永ミルク中毒事件では、被害者団体と不買運動を展開する諸団体に労働組合が働きかけ、経営側には被害者団体の要望を受け入れるよう促した。労働組合が消費者団体等の要求を経営側にうけいれられるよう働きかけるのは、直接的には組合員の雇用の確保と労働条件の維持であるが、経営改善を求める要求でもある。その背景には、長期雇用の保障を中心とする相互信頼的労使関係がある。
著者
槇谷 正人
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-16, 2012-09

本稿の目的は、正規雇用と非正規雇用の協働によるマネジメントが、相互の業務の成果と働きがいにつながることを論ずることである。この分野に関わる研究は、多様性管理の理論として、経済学的アプローチ(Lezear, 1999)と社会学的アプローチ(Richard et al, 2002)に2 分されて研究が進められてきた。しかしいずれのアプローチも、正規と非正規の相互作用を考察対象としたものではないため、現場で起きている課題について必ずしも明らかではない。そこで、雇用形態の多様化に起因する現代企業のマネジメント上の課題を、組織論的アプローチによって考察した。教育・学習支援業における組織であるS社東京支店を事例として、2006 年度4 月から2008 年度3月の2 年間にわたる参与調査と、2008 年から2011 年にはマネジャーと正規メンバーへの聞き取り調査を実施した。その結果、正規と非正規の協働によるマネジメントは、マネジャーが主体となって、業務分析と業務標準化、分業と協業態勢の可視化を基盤にした活動によって促進されることが明らかになった。
著者
林田 敏子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

第一次世界大戦期のイギリスでは「カーキ・フィーバー」と呼ばれる制服熱が高まり、多くの女性が制服を着用する職業に殺到した。女性による制服の着用は、愛国心を表明する手段として社会の一定の理解を得る一方、男と女の境界を侵犯する行為として危険視された。本研究では、イギリス初の女性警察組織(Women Police Service:WPS)の制服をめぐっておこなわれた裁判を通して、大戦期におけるジェンダーとセクシュアリティの問題について考察した。裁きの主たる対象となったWPSの指導者M・アレンにとって、制服は旧来のジェンダー秩序を打ち破り、男性の領域に進出する道具であると同時に、自らの性的アイデンティティ(レズビアニズム)を表現する手段でもあった。本研究では、当時のイギリスで、レズビアニズムという概念がまだ流布していなかった事実に注目し、性科学の分野で女性同士のホモセクシュアル行為がどのようにとらえられていたのか分析するとともに、そうした概念が知的フィールドを越えて社会に広まった契機・背景・過程について考察した。制服裁判は、アレンのセクシュアリティを「暴露」することによって、レズビアニズムが概念化されるきっかけをつくるとともに、男性だけでなく女性のあいだにもホモセクシュアルの関係が成り立つとする点で「性的平等化」の契機にもなりうるものだった。第一次世界大戦は「レズビアニズムの発見」というもっとも極端なかたちで、女性のセクシュアリティに関する規範を破壊し、従来のジェンダー秩序に大きな修正を迫ったのである。以上の成果をもとに、研究会で口頭発表(於「越境する歴史学」2007年11月11日)をおこなった上で、論文「制服の時代-第一次世界大戦期イギリスにおけるジェンダーとセクシュアリティ-」を執筆し、『西洋史学』(日本西洋史学会)に投稿(2008年2月)した。
著者
林田 敏子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

女性参政権獲得後、フェミニズム運動が分裂の危機におちいるなか、ファシズムに惹かれていったメアリ・アレンは、ファシスト組織British Union of Fascistsに入党したあとも、フェミニストとしての自己意識を失わなかった。彼女のような「フェミニスト・ファシスト」は、こうした特殊な状況下でこそ成立しうる概念であり、フェミニズム運動とファシズム運動の「共闘」は、戦間期イギリス社会のもっとも大きな特徴を表しているといえる。
著者
橋本 正治 川野 常夫 西田 修三
出版者
摂南大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

以下に示す計画に従い研究を実施した。(1)3次元曲線の入力法の提案・入力装置の試作・評価実験(2)作業者の特性の検出法の提案・検出装置の試作・評価実験(3)個性や熟練度の検出法・評価法の提案と試作装置による評価実験(4)熟練度に応じて柔軟に対応するインタフェースの提案と評価実験CADシステムに用いるための3次元入力法を提案し、試作装置の精度と入力に要する時間について評価した。その結果、精度に関して300mmの曲線の長さに対して5mm程度の誤差が生じていることと、処理時間に関して作業者が違和感を覚えるとされている0.1sec以内に前ての処理が行われているとが明らかとなった。評価実験を行った結果、本入力装置のように作業者の表現内容を機械が判断し入力情報として用いる方式を用いることで未熟者であっても容易に熟練者と同じ入力処理が行えることが明らかとなった。作業者の熟練度は、作業結果や作業工程などに現れると考えられるが、作業の内容に応じて評価しなければならない。本研究では、未熟者と熟練者では作業の疲労度に差がでることから、疲労度を生理的情報を検出することで熟練度合いを評価する手法を提案した。作業の負担とならない生理情報の検出法の提案と測定装置の試作を行い、生理情報と精神的疲労度との関連を実験により明らかにした。熟練を要する作業のシミュレータを開発し、作業者の熟練度に応じてインタフェースのC/D値を作業中に変化させる実験を行った。被験者が熟練者の場合、作業成績を維持しながら作業時間が短くなった。これは、本手法を用いることによりさらに技能の習熟が進んだことを意味し、有効性が確認されたと考えられる。
著者
有馬 善一
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.63-76, 2003-07

本論文が目指すのは、形而上学的な問題系の現代的意義を明らかにすることを念頭に置きつつ、ハイデガーの存在の思惟に対して形而上学がどのような意義を持っていたかを明らかにすることである。そのための準備作業として、まず、アリストテレスの「形而上学」の成立にまつわる困難、すなわち神学と存在論の二重性の問題が取り上げられる。次に、ハイデガーが存在への問いを遂行する過程で、存在論の存在者的根拠としての現存在へと定位した「現存在分析論」の独自の意義が「いかに存在」の「形式的告示」という点にあったことが明らかにされる。最後に、存在の問いにおいて「全体における存在者」の問題化という事態が出来することによって、形而上学の二重性がハイデガーにおいても問題となることが示される。
著者
伊藤 譲 所 哲也 石川 達也
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

福島原発の凍土遮水壁は、原子炉建屋への地下水の流入を防ぎ、汚染水の増加を防いでいる。研究者らは凍土遮水壁が長期間維持される場合を想定し、アイスレンズ前面の凍土部分から未凍土方向に乾燥収縮等による水平クラックが成長し、凍土壁正面の未凍土部分に透水係数の極端に大きい領域が発生すると考えた。それで、研究者らは凍土遮水壁を模し、水平方向に凍結融解を行い、その途中で鉛直方向に透水実験を行うことのできる装置を用いて実験を行ってきた。その結果、細粒土においては凍上性の強弱に関係なく、凍結面が一定位置にとどまっていても、間隙比の変化が続き、長期的には遮水性が損なわれる可能性が高まっていることが明らかとなった。
著者
荒木 良太
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

精神症状に使用される漢方薬である加味温胆湯は、マウスにおいて抗うつ様作用と細胞外セロトニン量増加作用を示した。こうした加味温胆湯の作用は構成生薬の竹ジョ*を除くことで消失した。しかしながら、竹ジョ*単体では細胞外セロトニン量増加作用が見られなかったことから、細胞外セロトニン量増加作用には、竹ジョ*と他の生薬との組み合わせが重要であることが示唆された。また、精神症状に対して用いられる多くの漢方薬においてセロトニン5-HT1A受容体刺激作用が認められた。以上の結果から、精神症状に用いられる漢方薬の多くは、セロトニン神経系を介して薬効を発揮している可能性が示された。(ジョ*は竹かんむりに如)
著者
北谷 和之
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

セラミド量の変動は卵巣がん転移の重要因子である可能性が考えられる。本研究では卵巣がん転移におけるセラミドおよび生成・代謝酵素の意義を明らかにした。まずマウス卵巣がん転移モデルから4株の易転移性卵巣がん細胞を樹立した。これらのセラミド量を定量したところ、易転移性細胞ではセラミド量およびセラミド合成酵素 2発現が低下することを発見した。さらに卵巣がん腹膜播種マウスモデルにおいて、セラミド合成酵素2の発現を抑えることで播種転移が有意に抑制された。したがって、セラミド合成酵素の発現抑制およびセラミド量低下が卵巣がん転移の原因であると考えられる。
著者
真野 祥子 川上 あずさ
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、ADHD児の両親の夫婦関係・家族機能の側面が、ADHD児の不適応問題の発達にどう影響を及ぼしているのかを明らかにし、不適応問題の予防・改善のための援助方法を検討することを目的とした。11名のADHD児の母親に対して半構成的面接を実施し、質的帰納的に分析した。子どもの不適応問題の発達に影響を及ぼす要因として、夫婦間の関係性の状態が影響を及ぼしていることが考えられた。また夫婦間の良好な関係性維持のためには、双方向的なコミュニケーションの促進が必要であることが示唆された。
著者
牧野 幸志
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-11, 2006-07

本研究は,現役の高校生がどれだけソーシャル・サポートを得ているのかと高校生の精神的健康状態について調べ,大学生と比較した。また,高校生を含む青年期のソーシャル・サポートと精神的健康との関係を検討した。ソーシャル・サポートは実際にどの程度サポートを得ているかという機能的ソーシャル・サポートを用いた。精神的健康では,身体症状,不安と不眠,社会的活動障害,うつ状態の4つが用いられた。調査の結果,高校生は大学生と同程度のソーシャル・サポートを得ていた。また,高校生の精神的健康状態はいずれにおいても大学生と変わらず,健康な状態であった。さらに,高校生を含む青年期において,ソーシャル・サポートと社会的活動障害,うつ状態は負の関係がみられ,ソーシャル・サポートが高いほど,社会的活動障害とうつ状態が低いという傾向がみられた。すなわち,青年期におけるソーシャル・サポートは精神的健康の限定された部分に促進効果をもっていた。
著者
小森 伸子
出版者
摂南大学
雑誌
摂南大学教育学研究 (ISSN:13498118)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.33-44, 2009-01

学生の「読書離れ」という問題は以前から指摘されているが、そもそも読書を行う学生にとって「読書」とはどのようなものを読むのかにっいて調査したものは少ない。本研究は、大学生を対象にどういったものを「読書」の対象ととらえているのか、大学生の「読書概念」を明らかにすることを目的とした。大学生54名を対象に、様々な文字を使ったメディア・ジャンルをとりあげ、それぞれの対象について「読む」・「読書」という言葉がどれくらい適切かを判断させるアンケートを行った。結果を集計すると、文字を使っていても時刻表やインターネットサイトなど「読む」にも「読書」にも入らないジャンルの他に、漫画・コミックや雑誌のように「読む」には適切だが、「読書」とはいわないジャンルの存在が確認された。「読書」の適切度は小説がもっとも高かった。漫画やインターネットなど様々なジャンルに接しているであろう大学生だが、その中で小説が「読書」という概念にもっともあてはまるジャンル、対象であることが明らかになった。
著者
村田 俊明
出版者
摂南大学
雑誌
摂南大学教育学研究 (ISSN:13498118)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.63-76, 2007-01

わが国では、いま道徳意識の低下や社会規範の崩壊が問題になっている。これらの諸現象は必ずしも学校・教師だけの責任ではなく、家庭・地域社会の教育力低下、より広く大人社会や社会的な風潮、あるいは教育政策などの反映である場合が少なくないかもしれない。けれども、学校で道徳教育に携わる教師の責任が全く問われずにすむものでもない。こうした状況に鑑み、将来「道徳」の授業を担当する受講生が、どのような基礎的指導力を身につけておかなければならいかは、教職科目「道徳教育の研究」の課題でもある。本稿では教員をめざす受講学生を対象にした筆者の「道徳教育の研究」の実践を報告する。教職科目の「道徳教育の研究」では、『授業計画』に示すとおり、教職志望をもつ学生が、教員免許法に基づいて修得すべき教職教養として、道徳教育の歴史や子どもの道徳性の発達、さらには『学習指導要領』の内容等について総合的に計画している。受講生は、これらの内容を半期間で習得するのであるが、筆者はより実践的な「学習指導案づくり」を中心とした授業を行う必要を感じ、「道徳」の学習指導案が書けることを「道徳教育の研究」の主要な目標の一つと考えている。なぜなら、学習を構想できなければ、授業はできないからである。特に「道徳」の学習指導案づくりで重要なことは、指導する側の「ねらい」、すなわち「中学生に気づいてほしい、あるいは考えてほしい」ことは何であるかを明らかにし、中学生が「自分とむき合う」道徳の指導とは、どうあればよいかを考えてほしいという点である。
著者
福田 市朗
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.65-90, 2003-02

本論文は、規範的な意思決定モデルを代表する期待効用理論に対する心理学的な問題点を指摘し、記述的な意思決定モデルとしてカーネマンとタベスキィー(Kahneman & Tversky, 1979)が提示した「見込み理論(prospect theory)」の紹介とその意義について論じている。2つの理論は排他的な関係にあるものではなく、相補的な関係にある。ここで問われていることは意思決定における人々の思考作業の合理性である。規範モデルが批判する"非合理な(irrational)"な私達の意思決定は、状況に応じた価値体系の構成や不確かさに対する心理学的な態度特性を示し、それ自体の目的性を示している。私達の価値体系は決して固定的なものではなく、可変的である。心理学によれば、私達の決定は未完結で開かれた決定であることが多く、公理系によって限定された領域で求められている合理性から逸脱しやすいと考えられる。心理学が問題にする意思決定理論は人間の特性に基づいた理論であり、合理性を前提としている規範的モデルと異なる。選好の逆転やリスクに対する態度変容、決定における信念の主観的な重みづけなどは規範的なモデルの主張する合理性から逸脱しているが、その合目的性は否定できない。意思決定における心理学的なアプローチは規範的なモデルに対する合理性の再検討と私達の決定を導いている思考作業の解明を求めているのである。
著者
山本 圭三
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.35-51, 2013-09

本稿は、学生たちが抱く仕事に対する基本的な価値観を「職業的価値観」と定義し、それに関わる要因を明らかにするものである。具体的には、職業的価値観を地位志向、自律志向、社会的信頼志向、他者志向という4つからなるものととらえ、それぞれと一般的な価値観との関連や、それぞれを規定する要因について検討した。分析の結果、[1]職業的価値観はより根本的な価値観と深く関わっていること、[2]現在所属している集団での経験や関わりのある人の多さといった現在の生活のあり方によって規定されるものもあれば、家庭内での過去の経験
著者
植杉 大
出版者
摂南大学
雑誌
摂南経済研究 (ISSN:21857423)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-20, 2012-03

本論文では、埼玉県さいたま市の地価公示データに対して、地理的加重回帰モデル (Geographically Weighted Regression model:GWR model) および複数のグローバル回帰モデルを適用し、地価水準を推定するモデルを比較検討した。複数のグローバル回帰モデルには、ベンチマークとして通常のOLS回帰を、また空間計量経済学分析で頻繁に用いられる空間自己回帰モデルおよび空間誤差モデルを採用した。結果的に、複数のグローバル回帰モデルと比較して、ローカル回帰モデルであるGWR を適用することによって地価水準の推定精度を改善させることが確認できた。また、GWR によって求められたパラメータ推定値を丁目区分ごとに地図上で可視化することによって、グローバル回帰モデルでは不可能な、小地域に係る各説明変数の土地価格に与える影響の相違を把握することができた。
著者
川相 典雄
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.55-73, 2011-02

2003〜2007 年における主要大都市圏を取り巻く人口移動にはこれまでとは異なった様相がみられることを受けて、本稿では、関西圏、東京圏、名古屋圏の各大都市圏がこうした動きを示した背景・要因及びその差異や特徴を各種都市機能の集積状況や産業構造等の観点から考察した。その結果、1.東京圏では金融・国際・情報等の多様な高次都市機能が高度に集中し、名古屋圏では工業機能を中心に集積度が上昇している機能が多いのに対し、関西圏では各種都市機能の集積度は長期的に低下傾向が続いていること、2.2001〜2006 年の各大都市圏の雇用環境について、東京圏では産業構造要因と圏域特殊要因が、名古屋圏では圏域特殊要因がそれぞれ雇用成長を牽引しているのに対し、関西圏では圏域特殊要因が雇用成長を大きく抑制し、2000 年代に入っても大幅なマイナスの雇用成長率が続いていること、3.2001〜2006 年の各大都市圏中心部の雇用環境についても上記2.と同様の状況にあり、特に関西圏中心部では地域特殊要因の著しいマイナスの影響により、他の大都市圏中心部との間に大きな雇用吸収力格差がみられること、等が明らかとなった。こうした要因による各大都市圏間の雇用機会格差や雇用成長格差が、2003〜2007 年における関西圏の転入減・転出超過や東京圏・名古屋圏の高水準の転入超過等の人口移動動向に大きく影響していると考えられる。今後も関西圏が純移動数の改善傾向を継続していくためには、高度情報化やサービス経済化等の環境変化に対応した構造転換、圏域固有の地域資源を活用した特色あるリーディング産業の育成等によって圏域固有のマイナス要因を改善し、関西圏、特にその中心部の雇用吸収力を向上することが大きな課題となる。
著者
牧野 幸志
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.35-47, 2013-02

本研究の目的は,青年期におけるコミュニケーション・スキルと精神的健康との関係を調べることである。第1 に,同性友人,異性友人に対するコミュニケーション・スキル(以下,CS と表記)と孤独感との関連を検討する。次に,2 つのCS とソーシャル・サポートとの関連を検討する。さらに,2 つのCS と精神的健康との関連を検討する。調査参加者は大阪府内の私立大学(共学)に通う大学生160 名(男性103 名,女性57 名,平均年齢19.34 歳)であった。相関分析の結果,同性友人,異性友人に対するCS いずれも,孤独感と負の相関がみられた。CS が高い人ほど,孤独感は低かった。次に,同性友人,異性友人に対するCS はいずれも,ソーシャル・サポートと正の相関がみられた。特に,同性友人CS において,状況判断スキル,会話スキルとソーシャル・サポートに強い相関がみられた。CS が高い人ほどソーシャル・サポートを得ていた。さらに,同性友人CS の中で,会話スキルと葛藤解決スキルは精神的健康と負の相関がみられ,スキルが高いほど精神的健康状態が良好であった。異性友人CS においても,自己表現スキル,会話スキル,葛藤解決スキルが精神的健康と負の相関がみられ,スキルが高いほど精神的健康状態が良好であった。CSが高いほど,友人関係が良好となり,ソーシャル・サポートが得られやすくなり,精神的に健康であることが示唆された。