著者
河原 清志
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.19, pp.13-28, 2011-01-31

本稿は英語“as”の多義性について接続詞に限定して統一的な説明を試みるものである。「“as”は潜在的意味として, <現実に生起している(した)出来事>(後景情報)を主節とゆるい等価で結ぶ函数関係を示す」という意味を有し, スーパー・スキーマ(コア)が潜勢態としてあり, 2つのパラメーターの状況的関係の力学(as節と主節がそれぞれ指標する出来事の内容と指標野における位相関係)の中で語義が確定するという理論構成が可能である。具体的には「接続詞」の用法として,(1)〔時〕は「同時性」を基本とし,(a)瞬間的時間の場合は「偶発性」, (b)多少の時間の幅がある場合は「同時進行性」, (c)かなりの時間の幅がある場合は「連動性(比例性)」が前景化し, 動的な出来事どうしが「等価」で結ばれる。(2)〔理由〕は「状態性」が特徴で, 後景的状況・事情を表すas節は静的な出来事として主節と「等価」で結ばれる。その他, (3)〔様態〕, (4)〔逆接〕, (5)〔比較〕, (6)〔局面〕といった語義も「等価」から導かれることが観察され, 多義現象に対して語義の連続性のある説明が可能であることが確認された。
著者
深沢 祥代
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.95-108, 2009-01-31

現在,ファッションは人々の生活の中に根づき,短期間で変化する流行と共に,常に新しさが求められるものであり,一つのビジネスとしても確立されている。今日,世界のファッション・ビジネスが大きく発展している背景には,これまで数多くの歴史を築き上げてきたパリ・モードが深く関係している。それは,華々しくファッションが登場した17 世紀以降のフランスの絵画や, 芸術分野からも見て取れる。さらに, 19 世紀のパリでは, 国の主要な産業となっていた仕立業や手工業が目覚ましい発展を遂げ,モードの中心として確立された。この時代には,これまでのオートクチュール産業の他に,既製服産業が登場し,職人の技術向上を目的とした教育の重要性も高まる。そして,モード産業がパリの主要な産業として位置づけられていく中で,多くのデザイナーが登場し,彼らの功績もまた,今日に通じる偉業となっている。また,多様化する現代において,ファッションはアクセサリーや香水など広範囲に及び,それらはモード産業の主力的な部門になっていることから,現状について論述していく。
著者
丸茂 みゆき
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.111-121, 2001-01-31

住宅の計画は,どの部屋にどの様な家具が基本的に配置されて部屋がしつらえられているのかを把握していなければ,適切な設計がなされない。しかし今日の住宅はライフスタイルの多様化と,それにともなった住宅の平面・インテリアへの要望が多種多様になっており,部屋に対する家具の配置も今までとは異なった状況であると想定できる。その為,設計資料の既存データとして提供されている,基本的な家具の形状や寸法とは変化してきている状況が考えられる。そこで本研究では,現在居住している住宅を対象に家具配置に関する調査を行い,家具配置において基本となる設計資料を求めることを目的とした。分析は部屋と家具の種別を分類整理し明確化することとした。その結果, 「部屋の和洋形式の違いにおける家具配置の特徴」「収納家具の大型化や座家具の小型化などにおける標準的寸法・形状からの変化の動向」「行為ごとに分類された部屋ごとの主要設置家具の明確化,それに伴う家具の占有状態」が導き出され,設計資料の基礎的データとして活用できるものをまとめることができた。
著者
濱田 勝宏
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.8, pp.59-70, 2000-01

現代都市の核家族について, 都市的生活構造の要因との関連で考察している。本稿では, 生活関係構造に重点をおいた。先に, 生活空間構造の側面において, 「近隣」「Iコミュニティ」の問題をとりあげたので, 生活関係について重複をさけることはできないが, 核家族とその成員の生活関係のネットワークが, 日常生活の経験則からみても複雑で多様な様相を示しているのは事実である。そして, とかく都市的生活様式論の立場からみると, 都市生活における生活関係構造を初期シカゴ学派的な見解で抱えがちである。すなわち, 都市生活における人間関係は, 匿名的でインパーソナルなものと断定される傾向が強い。先稿でもふれたように, このようなネガティブな評価に疑問を果してきたところである。そこで, 初期シカゴ学派への批判的修正(全面的に否定するものではないが)を加えつつあるネオシカゴ学派の人々, 特にクロード・S. フィッシャーの研究に依拠して, 新たな方向性を見出すことに努めた。フィッシャーの下位文化理論にもとづく都市生活における「友人」「家族」から, 友人関係ネットワーク, パーソナルネットワークというラインがそのひとつであることを指摘した。
著者
中原 五十鈴
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
no.25, pp.67-78, 1994-01-31

被服を製作する際に必要且つ適切な「ゆとり」を求めるために,日常生活上の基本的な動作(自然、立位,椅座位,仰臥位の三動作)時のウェスト部位並びに腹部最大突出部位における周径囲と横径の変化と,両部位における前面と側面での皮下脂肪厚の変化を,健康な女子大生を被験者として,超音波Bモード法を用いて測定したところ,次のような結果が得られた。即ち,周径囲・横径共にウェスト部位に比較し,腹部最大突出部位では約10%程度大きい傾向にあった。腹部最大突出部位は周径囲・横径共に自然立位が最大値を示し,椅座位,仰臥位の順に小さくなっていた。皮下脂肪厚では,姿勢変化による差は,各部位・各箇所共に同様な変化を示したが,ウェスト部位に比べ,腹部最大突出部位では,前面において約50%,側面では約20~30%程度多い傾向にあった。この傾向は, BMI並びに肥満傾向の高い者ほど強かった。椅座位での皮下脂肪厚がすべての姿勢において,最も大きい値を示した。これらの結果,両部位の形態的特徴および皮下脂肪厚の程度が,「ゆとり」分量に大きく関与していることが示唆された。
著者
菅野 絢子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究
巻号頁・発行日
vol.37, pp.67-76, 2006-01-31

『万葉集』には多種多様の服飾に関する語が歌われ,当時の服飾の有り様を現在に伝えている。また,歌の作者の身分は天皇・貴族のような上級階級者から,防人・乞食に至る下級階級者にまで及び,その点で生活に即した歌が多く詠まれている。そのため,歌と同時期に記された公的記録である『日本書紀』や『続日本紀』にはほとんど記されていない,日常生活や庶民に関する内容を補うことができる。服飾には,身に着けたり贈り交わすことで表現されていた精神面での役割や隠された意味があったと考え,『万葉集』を主要資料に用い,7・8世紀の人々の精神文化に注目した。歌中で何らかの意味を持つ衣,袖,紐・帯,装身具,領巾の5項目に関する歌343首を選出し,歌種や詠まれた時代による傾向と,歌中での語の用いられ方を読み取った。そこで見られた特色と,『古事記』・『日本書紀』・『続日本記』からの検出事例と照合した。服飾が表現していた役割や隠された意味について,男女間に関する事柄と神事・信仰に関する事柄の2つの事例を見出すことが出来た。
著者
豊田 かおり
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.147-160, 2006-01-31

モード史におけるモダニズムとは何か。芸術,建築や装飾デザインにおけるモダン・ムーヴメントの理念と実際の経過を辿り,1920年代のモダン・ファッションと照合し考察する。モダン・ムーヴメントは,バウハウスやデ・スティル,更には「国際様式」へ移行し,装飾を排除し,機能美を追及した合理主義へと向かう。また1925年のアール・デコ展やキュビズム等の影響により直線的・幾何学的フォルムが絵画から日用品に至るまで浸透する。モード史におけるモダニズムは1906年にポール・ポワレが女性をコルセットから解放したことに始まる,と一般に言われる。更にモダン・ファッションを打ち出したシャネルやヴィオネ等,当時のパリの有名メゾンのクチュリエ達は簡素化への道を辿る。第1次世界大戦を経て都市化や女性の社会進出が進み,窮屈でデコラティブな夜会服は徐々に姿を消した。1920年代には昼夜を問わず着用できる簡素でストレートなシルエットの服が登場し,階級間における差異がなくなり始めた。シンプルで無駄のない服は,現在のモードにおいても欠くべからざる要素である。1920年代が生んだモードは現代服の原点と言えるのである。
著者
中沢 志保
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.19-37, 2009-01

本稿は,20世紀初頭におけるアメリカの政治・外交とヘンリー・スティムソン(Henry L. Stimson)の立場を考察するものである。スティムソンは,陸軍長官,植民地総監,国務長官などの立場で,20世紀前半期におけるアメリカの主要な対外政策に直接関与した。また,第二次大戦中の原爆の開発と投下決定においては圧倒的な存在感を持った高官として知られる。しかし,半世紀近いスティムソンの公職生活がアメリカの対外政策に与えた影響を検証する作業が,国際関係学やアメリカ史の分野において十分になされてきたとは言い難い。筆者は,国際関係学の視点から,スティムソンの全生涯を考察しつつアメリカの政治・外交の諸特徴を再検討する作業に着手した。したがって,本稿は一連の「スティムソン研究」の一部となる。
著者
北方 晴子 古賀 令子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-30, 2011-01

本稿は,筆者を含む研究者6名による共同研究「ファッション誌の現在に関する一研究」1)の成果報告の一部である。2008年に行った先行研究や業界誌における議論を分析・検討する基礎調査を経て,2009年9月に<ファッションとメディアを考える>シンポジウムを企画開催した。基礎調査とシンポジウムにおける議論の中で浮上したのが,中国市場の急速な発展である。そこで,ファッションおよびファッション・メディアの発展プロセスの研究において,最重要なケーススタディとして中国市場の調査研究の重要性が高まっていると考え,主要ファッション誌の編集者インタビューを中心とする中国ファッション誌の現地調査を行った。その結果,これまでファッション誌と読者との関係は,ファッション誌が読者を教育するという状態にあり,中国ファッション誌の市場やコンテンツにおける牽引役を日本系や欧米系提携誌が担ってきたが,現在中国ファッション誌の最大の課題は,美意識や価値観の「本土化」(脱輸入依存)にあることが明らかとなった。また,ウェブと紙媒体との関係についても,ウェブは紙媒体に対する脅威ではなく補完・共存するべきものとの捉え方が共通していたことも,今後のファッション誌の展望について考察を進めるに際しての1つの指針を得た。
著者
糸林 誉史
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.101-114, 2010-01

コミュニティーを社会全般の「断片化」に対抗する手段として重視する「コミュニタリアニズム」は,1990年代以降のアメリカで,自由放任の市場原理にもとづく新保守主義と,福祉や権利を国家によって保障しようとするリベラリズムの双方を批判する思想として脚光を浴びた。一方,「コミュニティ」とその理論は,近代社会が不確実さを増していき,ますます個人主義へと傾斜してゆくにつれて,コミュニティは変容を遂げて,人々に安全性と「帰属(belonging)」を与える源泉となった。そして最近では,政治の基盤である国家の代替物とさえ見られるようになっている。本稿では,グローバリゼーションが進み,個人主義が深刻化した1980年代に始まった「リベラル-コミュニタリアン論争」について概観し,その後の展開をコミュニティ論の変容とともに検討する。さらにコミュニタリアニズムと「公共性」の観点から,アジアにおける伝統的な「コモンズ」概念への批判と課題を見てみる。そして「文化論的転回」以降のコミュニティ研究の方法について,「実践共同体」への状況論的アプローチという観点から考察したい。
著者
久保田 文
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究
巻号頁・発行日
no.4, pp.51-60, 1996-01

メルヴィルが語ったホーソーンの闇の力とは,原罪を根底とする人間の罪を強く凝視するその集中力から生まれたものであり,内なる罪に懊悩するナイーヴなキャラクター達は,我々の心を引き付け続けている。しかしその一方で,幾つかの作品は,罪悪感の重荷から全く解き放たれた特異なキャラクターの姿を呈示し,その対照性は読者をとまどわせる。現世的な悩みや喜びを顧みない美の探求者や科学者達のエゴイスティックなまでの現実超越は,ホーソーン自身に潜んでいたデカダントな部分における強い憧れであったに違いない。文学者ホーソーンの位置は,地に足をつけたまま深く悩むモラリストと,身勝手なまでの魂の飛翔を遂げる知識の信奉者達の中間に在り,彼の自己投影は作中,心理の追求者の形をとっているように思われる。ホーソーンにとっての文学者や心理学者は(彼にとっての科学者達と同じく,冷酷と呼べるほどの偏執性を持ちながら)現実の人間の心の問題から目を離せないでいる人々である。孤高の作家ホーソーンは,人間心理の深淵をのぞこうとする情熱とやましさを,イーサン・ブランドやロジャー・チリングワースと分かち合っていたと推考できる。その観点で,D.H.ロレンスのロジャー・チリングワース分析は若干皮相的すぎるのである。
著者
福田 博美
出版者
文化女子大学
雑誌
研究紀要
巻号頁・発行日
vol.17, pp.65-71, 1986-01-31

一般に守りと呼ばれるものは,木片や紙片に神名や神のしるしを書いたもので,神仏の力により身を守ると信じられるものの総称である。家の内外に貼りつけるものを御札,身につけるものを御守と区別しており,前者は守りと住生活,後者は衣生活つまり服装との関わりを示すものである。御守を身体に直接あるいは身体を覆う衣服につけるか,何方にしても守りが木片や紙片の状態では携帯が難かしく,袋に入れる守袋として用いられたのである。本稿は守袋の種類を捕え,首に懸けて着装する懸守と胸守に着眼し,文献・絵画資料を中心に,その変遷について社会的背景と服装との関連性を鑑みて考察することを試みるものである。
著者
糸林 誉史
出版者
文化女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

メディア産業の知・権力と番組制作者の解釈枠組みに関して、国際共同制作テレビドキュメンタリーをディスコース実践の問題として捉え、番組制作過程の「行為実践/表象する知・権力」の双方に対して、メディア人類学の視点から多角的に民族誌的な調査と番組内容の分析を平行して行った。よって補助金は、主に上記の研究を遂行するための内外における資料収集と聞き取り調査に当てられた。1.欧米のメディア人類学が、メディア研究全体のなかで大きな成果を収めた、マスメディア・システムを特定の言明を儀礼化する儀礼的エージェントとして見なす近年の民族誌的研究について、その意義や成果を確認し、その成果を論文として発表した。2,英国映画協会(BFI)において、国立映画テレビ放送アーカ'イブス(NFTVA)でのBSC(放送番組基準委員会)に関する資料収集。BBCにおいて、EPUの編集方針、プロデューサー・ガイドラインに関する聞き取り調査を行った。またロンドン大学の「アジアメディアプロジェクト」関連の資料調査をシンガポールの南洋工科大学において行った。3.米国のワシントンDCとメリーランド、さらにマレーシアにおいて、次のような資料調査と聞き取り調査を行った。共同製作者:『ミニドラゴンズ』の制作過程、日本語版へのコメント、ゲートキーパーの役割等の聞き取り調査。米国放送図書館(ABL)および国立公共放送アーカ'イブス(NPBA):放送倫理と第三者機関。米国議会図書館:連邦通信委員会(FCC)と公共放送制度である。4.以上の成果を踏まえて、論文を執筆するとともに、批判的ディスコース分析による調査結果の分析を進めている。本研究課題より派生したメディア言説と国家理念の問題に関して、基盤研究C(一般)による共同研究「新聞広告・読書欄にみる東南アジア域内世論の相互仮響」モデル構築」と題する研究を企図し、準備を進めている。
著者
勝山 祐子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.47-61, 2011-01

オデットの室内装飾の趣味は,"スワンの恋"においてはジャポニスムと中国趣味の入り交じった極東趣味であるが, 花咲く乙女たちのかげに』では, そこに十八世紀風な趣味が混じり始める。これらのエピソードは,オデットの趣味の不確かさと浮薄さを表すいっぽうで,第二帝政期の「折衷主義」による室内装飾を思わせる。ゲルマント公爵夫人の場合,"スワンの恋"では嫌っていた「帝政様式」を「ゲルマントのほう』では賞賛し,『見いだされた時』においては, それを再び嫌う。また, ディレクトワール期と第二帝政期に流行した「ポンペイ風」の装飾が,『失われた時を求めて』では, 繰り返し流行するものとして描写される。つまり,「帝政様式」と「ディレクトワール様式」は第一巻と最終巻を『ゲルマントのほう』を仲介に連関づける。そして, これらのモチーフが間欠的に回帰することによって, 小説の『時の次元』が支えられるばかりか, ディレクトワール期からプルーストの時代をまたぐ, 一世紀に及ぶ規模を小説に与える。オデットの『第二帝政期風』な趣味もまた, 物語に先立つ時間を小説に与える。
著者
薩本 弥生
出版者
文化女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

高温多湿の寝床環境においてタオルケットの透湿と皮膚との接触の度合いが寝心地に与える効果1.実験の目的日本の夏の高温多湿の環境では人体から放散された水蒸気をいかに速やかに環境に移動させるかが寝心地の鍵になると考えられる。熱帯夜にタオルケットを掛けて眠った場合、タオルケットが皮膚にまとわりついてしばしば寝苦しく不快に感じることがある。汗でタオルケットが湿り腰がなくなり皮膚との隙間が少なくなり寝床内の空気の流通が阻害されるためと思われる。また、人体からの水蒸気の移動には布の透湿する経路も重要である。透湿は布の両側の水蒸気圧差が原動力となるが高温多湿では環境側の水蒸気圧も高く結果的に発汗した皮膚面との水蒸気圧差が小さくなるのでは透湿は起きにくい。それでも完全に透湿性が無いのと比べれば布を通しての水蒸気移動は無視できないと予想される。そこで人工気候室で高温(28℃)で高低2種類の湿度(50%RHおよび70%RH)の環境を再現して被験者5名により実験を行いタオルケットの透湿性の有無が寝床環境の寝心地にどのように影響するか検討した。熱帯夜の不快感に対する対策として、糊付けし腰を持たせたタオルケットを用いることが考えられる。糊付けすると普通のタオルケットよりも皮膚との接触を減らせるので空気の流通路ができると予想される。そこで温度28℃、湿度75%RHの高温多湿環境で実験を行いタオルケットの腰による寝床内の空気流通の度合いが寝床環境の寝心地にどのように影響するか検討した。2.実験結果透湿性および環境の湿度の寝心地への効果を検討した結果、環境の湿度にかかわらず透湿性が無いことによる寝心地の悪化は非常に大きいことが被験者の申告および放熱量、寝床内温湿度より確かめられた。また、糊付けすることによりタオルケットの皮膚との接触を減らすことが寝心地にどの程度影響するか検討した。通常、糊付けすることは浴衣やシ-ツの例のように夏の高温多湿の環境で涼しさを得るために効果的と考えられているが本実験の実験条件では寝心地悪化を緩和することに効果がないことがわかった。以上の内容は生理人類学会第33回大会(1994年11月5,6日)で発表し「第33回大会の発表奨励賞」をいただいた。
著者
田村 照子 小柴 朋子
出版者
文化女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

湿潤感は着衣の快適性研究において極めて重要である。本研究の目的は着衣による湿潤感の感知構造を探り、湿潤感の中枢・自律神経系への影響を探ることにある。主たる結果は以下のようである。1)全身の湿潤感を左右する重要な要因としては、湿度そのものよりも湿度によって影響を受ける皮膚蒸散量並びに人体-環境間の体熱平衡から求められる蒸発放熱量であることが明らかになった。2)カプセル又はポリエチレンフィルムを用いた閉塞性の局所湿潤負荷装置による実験の結果、人体の局所湿潤感を左右する要因は、皮膚からの水分蒸発に伴う皮膚温変化と皮膚水分に対する触感量の複合であることが示された。3)衣服内湿度の生理影響を調査するために、異なるサイズの孔を穿ったポリエチレンフィルムを用いて実験衣服を製作、その物性値及び熱・蒸発熱抵抗をKES法並びに発汗サーマルマネキンを用いて評価した。穿孔の有無、穿孔サイズにより衣服内湿度および皮膚濡れ状態に差を生じたので、これを以下の実験に供した。4)心電図R-R間隔のパワースペクトル分析により自律神経の活動レベルを測定した結果、衣服内の湿度が高いほど副交感神経活動の指標HF/(HF+LF)が低下し、交感神経活動の指標LF/HFは上昇した。5)国際10-20法による13部位の脳電図並びに脳波CNVを測定した結果、衣服内湿度が上昇するにつれて脳波のα波含有率、β波含有率ともに少なく、CNVでは振幅の抑制が認められた。6)衣服内湿度の内分泌反応への影響を調べた結果、衣服内湿度が高いほど唾液中のストレスホルモンといわれるコルチゾール、分泌型IgAともに増加し、尿中アドレナリン分泌量が低下する結果となった。以上の結果は、すべて衣服内の湿度上昇が心理的不快感のみならず、自律神経活動、内分泌反応、中枢神経活動のいずれにも負の負荷を与えることが生理学的に示唆された。本研究成果の一部は平成12年9th国際環境工学会(ドイツ)において発表した。
著者
岡田 宣子
出版者
文化女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

高齢者・障害者には、脱ぎ着しやすく着心地の良い被服の提供が必要なので、重心動揺を指標として快適被服設計の原則をとらえた。高年17名の実験はフィールドワークで、若年33名には衣服圧測定や官能検査も含め着用実験を行った。椅座位動作時の重心動揺、所要時間に着目し解析した。1.服種別に検討した所、高年女子ではワンピースより2部式被服の方が楽で、ソックスは生体負担が大きく、前あき上衣が一番扱いやすい。高年男子では障害者が好んで着用する服種は、生体負担が少なかった。着衣時には患側を先に操作しかばっていた。かぶり式シャツは頭髪の汚れを気にすると扱いが大変になる。2.バストライン(BL)上のゆとり量・アームホール(AH)下げ寸法を変化させたブラウスの着脱実験から、ゆとり量の多い方が有意に着脱しやすく、機能低下の顕著な人には(AH)を2cm下げると生体負担が有意に減少した。若年のかぶり式被服の腕入れ腕ぬきに必要なゆとり量は、厚みのある体型で20cm、普通体型で20cm〜24cm、偏平体型で24cmである。(BL)上のゆとり量は、衣服圧及び全体・肩部・上腕部の着用感に、(AH)下げ寸法は肩の着用感に有意に関わっていた。着用者からみた適切ゆとり量は、高年については厚みのある体型で20cm、普通体型で24cm、偏平体型で28cmである。若年では高年よりいずれも4cm少ない。着用者のこの好みの結果は実験結果と矛盾しないが、若年では偏平体型以外は、腕ぬきでないゆとり量である。機能の低下している人にはゆとり量を増やし負担を軽減する必要がある。3.パターンとの関わりをみると、更衣動作の難易には左後腋点〜右肩峰点までの体表長(AB)と上腕長(BC)が深く関わり、(AB)のバイヤス方向のゆとり量が重要な要因として働く。袖山の高さは着脱性の難易や着心地に大きく関わり、機能低下の著しい人には、袖山の高さを低くし袖の被覆面積にゆとりを持たせ、上腕部の運動適応性を高めることが有効である。