著者
片岡 香子
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

火山性の決壊洪水は、噴火が直接的に及ぶ範囲を超えてより下流域にインパクトを与えることがあり、甚大な災害を及ぼす可能性が非常に高い現象である。本研究では、カルデラ湖決壊に起因する過去の大規模な洪水について、堆積学的・地形学的アプローチと古水文学的解析からの復元を試み、その実体を明らかにし、今後の火山土砂災害の予測・対策・軽減に貢献できる基礎的、具体的データの構築を目指す。
著者
佐々木 高雄
出版者
新潟大学
雑誌
法政理論 (ISSN:02861577)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.108-157, 2007-03-30
著者
柴田 幹夫 白須 淨眞 野世 英水 川邉 雄大
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

大谷光瑞のアジア諸地域における活動を歴史的に考察した。研究成果としては、研究代表者の編になる『大谷光瑞とアジア-知られざるアジア主義者の軌跡-』(勉誠出版、2010年、本文580ページ)、『大谷光瑞-「国家の前途を考える」』(勉誠出版、『アジア遊学』156号、本文216ページ。2010年)において、多くの若い研究者を組織して大谷光瑞のアジアにおける活動を明らかにした。また研究分担者、白須淨眞の編になる『大谷光瑞と国際政治社会-チベット、探検隊、辛亥革命-』(勉誠出版、2011年、本文375ページ)では、近代国際政治社会のなかで大谷光瑞を中国近代史あるいは、日本近代史のなかで位置づけた。
著者
高橋 桂子 片岡 郁子
出版者
新潟大学
雑誌
新潟大学教育人間科学部紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:13442953)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.197-207, 2005-02

NEETや753現象に象徴されるように,今日の若者を取り巻く雇用情勢は極めて厳しい。大学生を対象としたキャリア教育全般について検討した本研究では,以下の2つの観点から考察を加えた。研究1では,アメリカの高校生を対象としたキャリア教育副読本『Succeeding in the world of work』を翻訳・内容を分析し,そこから日本の大学への新しいキャリア教育の内容・枠組み・指導のツールなどを提案する。研究2では,インターンシップの普及要因とその多様なあり方を紹介する。考察の結果,大学から社会にスムーズにより移行できるよう,自己理解を行い,社会人としての常識・基礎知識を獲得し,そして卒業後60年間にわたる社会人生活の中で自己の生活設計ができる「キャリア設計教育」を大学が独自の教育プログラムとして提案することは,大きな意義があることが明らかになった。
著者
鈴木 健司 松田 康伸 山際 訓
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、クローン病患者のQOLを著しく損なう原因である腸管狭窄症に対する新規治療法として、究極の分子標的治療と呼ばれるRNA干渉技術を用いたsiRNAの腸管粘膜下注入療法を、動物実験モデルに対する実験により開発した。研究成果として、消化管狭窄症の原因遺伝子に対する特異的RNA干渉薬「STNM01」によるクローン病狭窄症新規治療法をステリック再生医科学研究所と共同で確立し、平成24年1月より第I相臨床試験を開始するための基礎データを得ることができた。
著者
小谷 昌司
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

脂肪酸結合蛋白は長鎖脂肪酸の細胞内転送に関わるものと考えられているが、この蛋白質が等電点電気泳動などで多数の分子種に分離されることから、翻訳後の修飾が多型の原因となっているとともに、これが機能と密接な関係にあること予想された。我々はラット肝脂肪酸結合蛋白について、今回アラキドン酸を特異的に結合しているもっとも酸性な分子種は、アスパラギン105がイソアスパラギン酸となった新規の修飾であることを構造解析の結果同定した。また、この修飾をうけた蛋白質のリガンド結合能・プロテアーゼ感受性などの機能変化を検討し、その生理的意義の解明とこの翻訳後修飾反応に関わる細胞内因子の検索をおこなった。まず、試験管内でのイソアスパラギン酸の生成を試み、0.5M炭酸ナトリウム緩衝液中で保温するとイソアスパラギン酸105をもつ分子種が高収率で生成することがわかった。蛋白質の内部で生じるこのイソアスパラギン酸結合の検出のためメチル化とLiBH_4による還元でこれをイソホモセリンとして同定する方法を考案し、さらに、PTC化による高感度化を検討し一定の成果をえた。また、この蛋白質を細胞内因子検索のための基質とするため抗体を作成し、等電点電気泳動とウェスタンブロットの組み合わせによる検出方法を確立した。また脂肪酸をはずした蛋白質を炭酸イオン存在下で保温すると別の酸性の分子種が定量的に生成することが観察された。この分子種を分取し構造解析した結果、N末端から2番目のアスパラギンが脱アミドしたものであることが明らかになり、リガンド結合と脱アミド反応との関連を示唆する結果を得た。一方、ラット肝脂肪酸結合蛋白のシステイン69に遊離のシステインが混合ジスルフィドを形成した新しい分子種を見いだし、機能の解析を行った。また、ラット皮膚から新規に単離した脂肪酸結合蛋白質は分子内に5個の半シスチン残基をもつこれまでに見られないものでSS結合と脂肪酸結合能との関連を検討した。
著者
磯貝 淳一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

平安時代から鎌倉時代にかけて仏家によって撰述された漢文資料の原本調査を実施した。対象としたのは済暹撰『顕密差別問答』、覚鑁撰『心月輪秘釈』『密厳浄土略観』および『法勝寺御八講問答記』である。翻字本文にもとづく電子テキストを作成し、注釈関係文献については漢字の情報付きデータベース構築の基礎的段階を終了した。また、「注釈活動を中心とした教義理解」と「法会における言説の記録」という異なる言語活動の所産について、そこに認められる言語事象の記述を行った。このことを通じて、当該期の仏家の漢字文に共通する用字・用語・文章構造の実態を明らかにした。
著者
肖 航
出版者
新潟大学
雑誌
現代社会文化研究 (ISSN:13458485)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.19-34, 2006-03

从昭和十六年(一九四一)夏天到十七年春天,中岛敦作为南洋国语编修书记在密克罗尼西亚度过了大约八个月的时间。回国后,以自己在南洋的亲身经历及从在当地结识的民族学家土方久功那里得来的资料为题材,创作了作品集《南岛谭》和《环礁》。这两部作品集,与作者以往的《过去帐》,《古谭》等作品集中所有作品均具有一定的相同特性的特点不同,九篇作品有很多不同之处。通过对这九篇作品选项材以及内涵的多样性进行分析,笔者认为,这九篇作品可以作为中岛敦南洋之旅以前的作品的集大成,并为他去世之前写成的代表作《李陵》,《名人传》等找到了作品应该面向的方向,南洋之行虽然短暂,可是对中岛的文学作品来说,却是具有着决定性意义的旅程。
著者
渡邊 登
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、95年・96年の2カ年に亘って新潟県に焦点を絞って行った「地方」における女性の政治参加現状に関する実態把握調査に基づいて、当該女性議員のライフコースに焦点を当てて、女性が政治参画するための諸条件などを探るとともに、さらに、女性が置かれている状況を明確にするために、男性議員との比較調査を行った。その際に地方議会における女性議員比率の高低に基づく差異(地域的差異或いは女性議員効果)を明確にするために、高比率地域(20%以上の東京都の7議会)と低比率地域(5%以下の新潟5議会、山形4議会)を選択した。全体として見るならば、両者の違いは排出ルートの違いによるところが大きい。男性議員の場合は町内会・自治会等の地域既存集団、地域の経済団体・企業、労働組合が圧倒的であるが、女性議員の場合は政党や、既存集団以外の地域活動(教育・福祉)、消費・環境保護・女性地位向上等の市民活動によるものが多い。属性に関して言うと、まず年齢では女性議員は50代、40代が多く、男性議員は50代、60代が多い。前者の場合は生活上の何らかの課題認識から立候補に至る場合が多いが、後者の場合は一定程度の人生目標を達成した後の「名誉職」として選択される場合が多い。学歴は女性議員の方が相対的に高く、居住歴は男性議員の方が相対的に長かった(地付き層、出戻り層)。ただし、属性に関しては地域差も大きい。政治的杜会化に関しては女性議員の場合に効果が見られるようだ。この場合、女性議員において地域差が大きい。地方では第1次的社会化、大都市では第2次的社会化の側面が強い傾向がある。排出ルートも、大都市圏の場合は問題解決型市民活動が多い。以上の検討から、「地方」において女性の政治参画を促進するためには、地方における各種市民活動の活性化、2次的社会化装置の構築が最も求められる。
著者
高橋 正道 山田 敏弘 長谷川 卓 安藤 寿男
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

これまでに、2009~2011年の間、5回にわたるモンゴルの白亜紀についての野外調査を行った。主な調査地は、バガヌール、フレンドホ、テブシンゴビ、ツグルグ、シーブオーボ、シネフダク、バヤン、エルヘートなどのウランバートルの東南のゴビ地域である。この調査に参加した人数は、モンゴル古生物学研究所、エール大学、シカゴ植物園、金沢大学、新潟大学のメンバーである。これらの調査によってモンゴルの白亜紀の地層から初めて、3次元的構造を残している小型炭化化石を発見し、被子植物の初期進化と地球環境の変遷解明に有効な手掛かりを得ることができた。分担者の長谷川は,フレンドホ地域のフフテグ層において地質柱状図を作成し,植物化石試料採集露頭周辺についての地質学的な記載を行った。また、シネフダク地域のシネフダク層に関して柱状図を作成の上、採集した試料について有機炭素の同位体比を測定した.その結果,7‰程度の変動があることが明らかになった.この結果は,湖堆積物への植物プランクトン類と高等植物の相対的な含有率の変動を示していると考えられ,湖の成層状態や河川による高等植物遺体の流入量など,気候に関連する要因の変動読み取れることが判ってきた。また、マレー大学のLee教授と筑波大学の久田教授の協力を得て、モンゴルと対比可能なマレーシアで、熱帯地域での白亜紀の地層からの小型炭化化石の探索の可能性を探った。
著者
前田 義信
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

社会問題のひとつである"いじめ"は強者から弱者に対して行われる従来型の一方的な攻撃から,対等な他者との間で加害者と被害者が流動的に入れ替わる双方向の攻撃へとその性質を変容させつつある.当事者はいつ自分が被害者になるか予想することもできない不安を常に持ち,それゆえ対等な他者からの承認を常に必要とする“フラット"な関係が築かれるようになった.また流動性ゆえに,教育者をはじめとする支援者も対策に頭を悩ませている.そこではどのような事態が生じているのか?本研究では,エージェント,価値,エージェントが起こす行動,相互作用で構成される形式的な人工学級モデルを提案し,マルチエージェントシミュレーションによってその現象を調べる.エージェントの一人はヒトが操作可能なプレイヤーに置き換えることができるようにもした.相互作用を繰り返すことによって自分が見出す価値数がゼロになった経験を有するエージェント(いじめ被害者)と,他のエージェントから反感性の行動を連続的に受け続けたエージェント(いじめ被害者の候補=潜在的いじめ被害者)を定義し,その状況を調べた.その結果,交友関係における対立回避やべき乗分布に従ういじめの特性が観察され,支援者によるいじめ発見の困難さとの関連性を考察した.
著者
志賀 隆
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

絶滅危惧植物を中心に117 種555標本の標本種子の発芽試験と胚の酵素活性を調査したところ、73種(62%)、235標本(42%)において生存が確認された。生存が確認された最も古い標本種子は87 年前のヒメヒゴタイであった。12種類の標本作製方法と種子の生存の関係について検討した結果、40℃以下で乾燥処理を施すと高い生存率を示すことが明らかになった。発芽実生を得ることができたスズサイコについて、4つの標本由来の実生集団と採集元の野生集団の遺伝的多様性を比較した。実生集団の遺伝的多様性は著しく低かったが、野生集団から失われた対立遺伝子が確認された。
著者
緒方 規矩雄
出版者
新潟大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1983

二次元アクリルアミドゲルで分画し単離した動物のリボゾール蛋白から蛋白を抽出して微量のシクエンサーでN末端附近のアミノ酸配列を決定することを試みた。小亜粒子1.8mgを大型の二次元アクリルアミドゲル電気泳動装置で分画したものを、ギ酸で抽出Biogel P-2で精製した21μgを微量のシクエンサーでN末端から32アミノ酸配列を決定しえてS26に対するcDNAのクローンの確認を用いた。蛋白に特異のcDNAの確認に蛋白のアミノ酸組成も重要である。そこで二次元アクリルアミドゲル電気泳動法で分画したArtemia salinaのリボゾーム蛋白0.1μg-1μgについて水解後、ダブシル誘導体に加え、逆相の高速液体クロマトグラフィーを用いることによってアミノ酸を分離定量してアミノ酸組成を測定した。この際微量定量の為蛋白の試量に外からのアミノ酸の爽雑が問題になるが、蛋白分子篩高速液体クロマトグラフィーで目的を達することができた。この様にしてえたアミノ酸組成をチトクロームC、Artemia salinaのリボゾーム蛋白S6、S8について従来のアミノ酸自動分析計によるものと比較したが、チロシンを除いて極めて近い価をえて信頼できる分析法であることがわかった。従来のものが蛋白30-40μg必要なのに0.1-1μgあれば充分である。尚アミノ酸組成をリボゾーム蛋白に対するcDNAの同定に使ったものとしてS11、S26、S35aがある。合成ヌクレオチドをプローブにしてcDNAのクローニングは最近多く行われているが、私共は牛のオプシンについての一次構造かつ18塩基のプローブを作成しcDNAをえることができた。これを組み合わせて、(1)二次元アクリルアミドゲルでの蛋白の分離とN末端附近のアミノ酸配列の決定、(2)それを基にした合成ヌクレオチドプローブの作成、(3)蛋白に対するcDNAのクローン化、(4)(1)又はアミノ酸組成からのクローンの確認、(5)クローンのヌクレオチド配列からの蛋白質のアミノ酸配列の推定というシステム化が考えられた。
著者
杉浦 広隆
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.119, no.10, pp.600-610, 2005-10-10

【背景】MemCalc法により短時間の心拍RR間隔データからの心拍変動解析が可能となったが,その有用性に関する報告は限られている.抗コリン作用のあるdisopyramideは迷走神経活動が関与する心房細動に有用とされているが,心拍変動に与える影響は明らかではない.QT延長症候群の心室性不整脈発生には自律神経の関与が報告されており,QT延長症候群のtype3モデルでは迷走神経刺激中止後の心拍上昇時に心室性不整脈を認めるが,この時相での自律神経バランスの意義も明らかでない.【方法】実験1:開胸麻酔犬(n=8)を用いて,迷走神経刺激中,刺激中止後,及び交感神経刺激時の心拍変動を短時間の体表面心電図RR間隔データをもとにMemCalc法で計算し,disopyramide(1mg/kg)の影響を検討した.実験2:QT延長症候群type3モデルを作成し,迷走神経刺激中止後にみられる心拍変動期の不整脈発症と自律神経活動の関連を検討した.【結果】実験1:心拍変動での低周波成分パワー(LF:ms^2)及び高周波成分パワー(HF:ms^2)は,迷走神経刺激により中央値(25パーセンタイル-75パーセンタイル)で0.67(0.39-2.83)から35.1(5.04-114)(p<0.001),及び0.60(0.44-0.97)から28.4(4.04-63.2)(p<0.001)へ有意に増加した.一方,LF/HFは交感神経刺激により2.47(1.71-3.24)から10.5(7.99-24.6)へ有意に増加したが(p=0.036),迷走神経刺激では有意な変化を認めなかった.DisopyramideによりLF成分は0.48(0.37-1.37)から0.31(0.07-0.55)(p=0.036),HF成分は0.43(0.17-1.27)から0.10(0.06-0.41)(p=0.012)へ,それぞれ減少したがRR間隔とLF/HFは有意な変動を認めなかった.迷走神経刺激中止後の心拍変動期にLF/HFは1.17(0.58-2.28)から45.1(21.9-86.4)へ有意に増加した(p<0.001).実験2:迷走神経刺激中止後の心拍数の上昇期には,体表面心電図のT波交代現象が認められ,心室性不整脈が22%(2/9)で発症した.【結論】DisopyramideによりLF及びHFの減少が認められ,RR間隔に現れない抗コリン作用と考えられた.QT延長症候群type3モデルでは迷走神経刺激中止後にT波交代現象と心室性不整脈が発生するが,この時間帯ではLF/HFがコントロール状態よりも高値であり,本症候群の不整脈の発生背景に交感神経の活動性が関与している可能性がある.MemCalc法を用いた短時間心拍変動解析により,不整脈発生と自律神経活動に関する検討が可能であり,臨床応用が期待できる.
著者
西川 伸道
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.411-420, 2004-08-10

子宮内膜症は婦人科疾患でも多く見られる疾患の一つであるが,その病因,進展機序などは未だに統一した見解が得られていない.そこで,今回私はDNAマイクロアレイを用いて子宮内膜症組織と正常子宮内膜を比較し,遺伝子の発現レベルがどのように変化しているかを検討した.対象サンプルは患者より同意を得られた子宮内膜症の増殖期5例,分泌期4例,正常子宮内膜の増殖期5例,分泌期4例の手術摘出組織とした.方法は,各組織よりmRNAを抽出・精製し,cDNA合成,cRNA合成を経た後,DNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた.そして,マイクロアレイ上の既知の約12000遺伝子について,月経周期別に子宮内膜症と正常子宮内膜間について比較した.統計解析は,T検定で群間差がP<0.05かつ両者の発現レベル比が3倍以上のものを有意とした.解析の結果,正常子宮内膜の月経周期間(増殖期,分泌期)の比較では,月経周期に依存して123遺伝子が有意な発現差を示した.一方子宮内膜症では月経周期に依存して37遺伝子が有意に変化を示し,著明にその数が減少していた.そして正常子宮内膜群と子宮内膜症群に共通して月経周期間で発現差を認めた遺伝子は,そのうち1遺伝子のみであった.さらに,正常子宮内膜と子宮内膜症の比較では,294遺伝子が有意な発現差を示した.これらの遺伝子を機能別に分類すると,細胞増殖因子やアポトーシス関連因子,癌関連因子など癌化に関係する因子の発現が38遺伝子(12.9%)認められていた.今回の結果,子宮内膜症では,月経周期に依存する遺伝子発現変化がほとんどなく,また正常子宮内膜とは全く異なる遺伝子プロファイリングであった.加えて,発現変化した遺伝子には癌関連因子などの遺伝子が多く認められていたので,子宮内膜症は遺伝子レベルで見る限りにおいて腫瘍的変化を伴う組織である可能性が示唆された.
著者
岩[フネ] 素子 五十嵐 直子 河野 正司〔他〕
出版者
新潟大学
雑誌
新潟歯学会雑誌 (ISSN:03850153)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.49-54, 2004-12
被引用文献数
4

It is important to know that dentures will function properly in patient's daily life. Generally, a convenient method to know chewing performance is to measure biting force that can be achieved. However, the relationship between biting force and the function of dentures has not yet been established. The purpose of this study was to investigate the relationship between biting force and chewing ability in removable denture wearers. Biting force was investigated in 321 subjects (76y) with and without removable dentures in the first molar. Kinds of foods that can be masticated in these subjects were also investigated by means of questionnaires. The findings of the research are summarized below: 1. Subjects with dentures in the upper and/or lower jaw was found to have a biting force of 1/2 of that of subjects with natural teeth in the upper and lower jaws. ; 2. Subjects with dentures in the upper and/or lower jaw could chew fewer kinds of food than subjects with natural teeth in the upper and lower jaws. ; 3. Subjects with dentures in the upper and/or lower jaw could chew softer foods such as rice. Subjects with dentures in both the upper and lower jaw were found to have difficulty in chewing harder foods. In conclusion, it is important to retain the biting ability of natural teeth to enjoy the benefits of a varied diet.日常生活において、装着された補綴物が実際に十分に機能しているかどうか評価することは、治療成横の向上のために重要である。口腔機能のなかで特に咬合機能を評価する簡便な方法として、咬合力の測定が挙げられるが、可撤性義歯装着者における咬合力の実態と実際に発揮される機能との関連性についてはあまり知られていない。そこで本研究では、可撤性義歯の装着によって発揮される咬合力と、実際に噛める食品との関連性を明らかにすることを目的とした。被検者は76歳321名、評価対象部位は第一大臼歯とした。咬合力については、両顎天然歯を保っている被検者に比べると、義歯を使用する被検者では半分以下の有意に低い値を示した。しかし片顎義歯と両顎義歯の間には、有意な差はなかった。噛める食品数においては、両顎天然歯は高い値を示したが、義歯を有する場合は低い値を示した。片顎義歯と両顎義歯の間には、有意な差はなかった。食品別の噛める割合を調べた結果、柔らかい食品は天然歯と義歯使用の被検者間に差はなかったが、筋ばった食物、擦り切るような咀嚼運動を必要とする食物では、噛める割合は義歯の有無に影響を受けており、両顎天然歯で最も高く、義歯を有する場合では片顎に天然歯があった方が有利に働くことを示した。義歯装着によりADL・QOLの向上は明らかであるが、さらに天然歯同士の咬合支持を保つことが、充実した食生活を送る上で重要であると考えられる。
著者
鈴木 光太郎
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

月の錯視とは、地平線方向の月が真上方向の月よりも大きく見える現象である。実験1では、ほぼ完全暗黒にしたホール内で月の錯視をシミュレートした状況を作り、月が下方向に見える場合について検討した。その結果、下方向の月も水平方向の月に比べ過小視されるという結果が得られた。実験2では、野外で鏡に月を映し出して、単眼視観察と両眼視観察の比較検討を行なった。その結果、両眼で観察することが月の錯視の生起には決定的に重要であることが示唆された。
著者
鎌谷 大樹
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.120, no.8, pp.440-450, 2006-08

齧歯類の大脳皮質一次体性感覚野には,ヒゲの一本一本に対応したバレルとよばれる構造がある.齧歯類にとってヒゲからの情報は重要なものであり,神経活動依存的回路発達のモデル系としてバレル構造は注目されている.一般に感覚情報は視床を経て感覚野のIV層へ投射されるが,視床から皮質への情報伝達の特性をスライス標本で選択的に解析することは難しい.今回私はマウスの視床と皮質の両方を含むスライスを調製し,視床を刺激したときの皮質神経活動をフラビン蛋白蛍光イメージング法で可視化した.神経活動が起こると,細胞内Ca^<2+>濃度の上昇に伴いミトコンドリア内でエネルギー代謝が活発になり,電子伝達系に含まれるフラビン蛋白が酸化型になる.フラビン蛋白は,青色励起光を照射すると酸化型のみ緑色蛍光を発するという性質を持つ.従って神経活動亢進に伴う緑色蛍光上昇を記録することで神経活動を可視化することができる.実験は8-10週齢のC57BL/6マウスの雄を用いて行った.まず体性感覚野の皮質だけのスライスを作成し,神経活動がフラビン蛋白蛍光の増強として可視化できることを示した.刺激電極はバレル野のIV層に置き,連発パルス刺激を用いて神経活動を起こした.次に視床と一次体性感覚野を含むスライスを作成し,視床の連発パルス刺激によって亢進させた皮質神経活動をフラビン蛋白蛍光の増強反応として可視化した.1辺がマウスのバレル構造の直径に相当する250μmのウィンドウを設定し,定量的な評価を行った.またフラビン蛋白蛍光応答が見られた部位に記録電極を刺入し,視床刺激による皮質反応の電場電位も記録した.刺激強度を100μAから500μAまで変化させるとフラビン蛋白蛍光応答も電場電位応答も刺激強度に良く相関した変化を示した.さらにグルタミン酸受容体の阻害剤を用いることで,この神経活動が抑えられることを確認した.以上からマウス脳スライス標本を用いると,視床からの感覚入力による皮質応答を選択的に可視化できることが判った.