著者
小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1985

昭和61年1月26日23時頃、新潟県西頚城郡能生町柵口地区を権現岳(標高1108m)から発生した雪崩が襲い、住家11棟が全半壊し、被災した35人の中の13人が死亡する大惨事となった。翌27日の調査の結果、降雪中で権現岳は見えず発生地点の確認はできなかったが、デブリの状態、家屋内の雪の侵入状況、樹木の枝の破断面の観察から判断して新雪表層雪崩であることがわかった。その後の総合的な調査の結果次のことが明らかとなった。(1)雪崩は権現岳頂上付近で発生した「面発生乾雪表層雪崩」である。(2)雪崩の規模は10〜25万【m^3】の雪が崩落。デブリの体積は10〜30万【m^3】。(3)雪崩の流走距離は発生点からデブリ末端まで水平距離で約2km、崩落斜面の角度は約45度、流走斜面は約10度の緩斜面である。(4)雪崩の速度は崩落斜面下端で最大となり約50〜60m/s、被災家屋付近で約35〜45m/sの高速けむり型表層雪崩である。(5)被災家屋付近で、雪崩による衝撃力は2t/【m^2】以上と推定される。(6)樹木の被害状況から雪崩風を伴い、土地の言葉で「アイ」「ホウ」「ウワボウ」と呼ばれる種類の雪崩である。(7)雪崩発生のメカニズム:低温で弱風下で激しい降雪で、この場合の積雪は雪同志の結合力が弱く非常に不安定な状態であった。その直後に地吹雪が発生位の7m/s前後の強風となり、その結果不安定な雪の層が平衝を失って容易に崩落した。雪の中の2.5m深付近に弱層があったため大量の雪が崩落し大規模表層雪崩が発生した。大規模なほど雪崩は遠方まで流動する。(8)今回の雪崩の雪氷学的特徴:デブリの雪の性質が周囲の自然積雪状態と区別が困難である。この種の雪崩は、雪の変形が進まない中に、速やかな総合的調査が重要である。(9)この種の雪崩の防災工法の決め手はない。今後の研究が必要。
著者
佐藤 修 大木 靖衛
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1、新潟県下の降水の酸性物質の状況:新潟大学積雪地域災害研究センターで行った降水の化学分析結果、新潟県衛生公害研究所の発表した資料を整理し、酸性物質の降下状況を把握した。新潟県の山間部には3〜5g/m^2の硫酸イオンと1〜2gの硝酸イオンが降下している。硫酸イオンは冬の降雪期に多い特徴がある。雪の中の酸性物質は積雪期の温暖な日に流出する。2、沢水・湧水・河川水の変化:沢水・湧水の調査は花崗岩地帯で過去に分析結果のある丹沢湖の周辺で行った。現段階では、沢水・湧水に酸性降下物の影響は見られなかった。新潟県下の沢水の連続観測の機器は現在雪の下で、データ解析は今後のこととなる。河川の水の分析結果を、小林純が行った20年以上前の河川の分析データと比較した。分析誤差範囲内で両者は一致し、新潟県下の河川の流域では平均的な意味では、酸性降下物の影響で化学風化が活発になったとは見えない。3、土壌の酸性化調査:花崗岩地帯の土壌のpHは5〜6の範囲で普通の酸性の褐色森林土壌よりpHが高い。花崗岩地帯の崩壊地の土壌のpHが過去に測定された例は見あたらない。比較の対象がないので、酸性化したかどうかは今回の調査からは結論を出すことができなかった。4、まとめ:チェコ、ポーランド、ドイツでは酸性雨の影響で土壌が荒廃し、崩壊が起こっていると報告されているが、わが国では今回の調査ではその証拠はつかめなかった。おそらくわが国では影響が見られないのは、降水量が多いこと、地形が急峻で水が長時間とどまらないこと等が影響している。
著者
山本 正治 渡辺 厳一 中平 浩人 遠藤 和男
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

胆道癌死亡率の高い下越地域の新潟市と死亡率の低い上越地域の上越市で採取した水道水の突然変異原性の差を年間を通して比較検討を行った。水道水の採取は両市の各1給水栓にて行い、夜7時に勢い良く約10秒間排水した後、1日10lずつ採取し、各1サンプルとした。採水日は毎月第4週の水、木、金曜日の3日間とし、これを1年間実施した。更に溶出溶液を濃縮乾固後、DMSOに溶解して突然変異原性試験に供した。突然変異原性試験はAmes法(TA100,TA98)のプレ・インキュベ-ト法を用い、代謝活性化は実施しなかった。これまでに、3〜7月の試料と8〜10月の試料について分析を行った。その結果、フレ-ムシフト型のTA98株に対する突然変異原活性はほとんど試料で確認されなかった。一方、塩基対置換型のTA100株に対しては、新潟市の全試料が1l当たりの復帰コロニ-数が自然復帰コロニ-数の2倍を越えたのに対し、上越市では3月を除くほとんどの試料で2倍に達しなかった。新潟市と上越市の水道水1l当たりの復帰コロニ-数の平均は3月がそれぞれ392【plus-minus】75、253【plus-minus】91、7月が253【plus-minus】50、71【plus-minus】29といずれも新潟市の方が高い結果が得られた。また、その差は3月より7月の方が若干大きくなった。ただし、7月の上越市の試料は自然復帰コロニ-数の2倍に達しなかった。また、すべての月で突然変異原活性が確認された新潟市の水道水の変異原活性の大きさは3月から7月まで暖かくなるにつれて除々に低下していく胆道癌の死亡が多い新潟市の水道水の突然変異原性が、死亡の少ない上越市の突然変異原性より強かった。そこで、原因物質の同定など、胆道癌発生との関わりを、より分析的方法で進める必要がある。
著者
川島 寛之
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

骨軟部肉腫に対するテロメラーゼ特異的制限増殖型アデノウイルスによるウイルス療法の効果と殺細胞メカニズムの解明を目指した。細胞株を用いた実験では、アデノウイルスレセプターやテロメラーゼ逆転写酵素の発現量に比例し、容量・時間依存性にウイルス増殖が起きると同時に、オートファジー、アポトーシスの両機序を介して殺細胞効果を発揮することがわかった。さらに、マウス骨肉腫モデルでは、本ウイルス療法により骨肉腫の増大が著明に抑制されることがわかった。
著者
佐藤 孝 大河 正志 丸山 武男
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

現在用いられている光通信システムの光強度変調方式では、将来のより高度でより大容量の通信の需要に対応する事は困難である。しかし、電波の領域で開発されてきた周波数変調や位相変調を用いた光通信を実現するには、現在の半導体レーザの周波数安定度は不十分であり、搬送波としての特性に問題があり直ちに実用化することは困難である。そこで光源である半導体レーザの発振周波数の安定化を検討した。我々が考案した方法は単純な包絡線検波回路を応用したものであるが、変調時に得られる信号の変化を利用して安定化のための制御信号を得る方式(PEAK方式)であり、安定度改善の効果は十分なものが得られている。本研究では、これまでの研究を更に進めて精度並びに信頼性の高い安定度の評価を実現し、実際の光通信に用いられている波長帯に我々の周波数安定化法を適応することの可能性について検討した。まず様々な光FSK変調条件の下で基準波長としてRb原子のD_2吸収線(780nm)を用いて発振周波数の安定化を行った。続いて光通信用の波長である1.5μm帯の半導体レーザの周波数安定化の実験を、半導体レーザの内在的2次高調波を用いることで、780nm帯での周波数安定化と同じ方法で行うことを検討するとともに、エタロンとRbのD_2吸収線を組み合わせて両者の特徴を生かす周波数安定化方法を検討した。この結果、1.5μm帯の半導体レーザーの安定化を実現する基礎実験が行えた。一方、受信側の局部発振器としても安定な半導体レーザが必要となるが、このための安定化法として吸収線の磁気光学効果を用いた間接変調方式を開発した。この方式で安定化されたレーザ光を参照レーザとして用いることで、2つのレーザ光の間のビート信号を用いる周波数安定度の評価方法を採用し、信頼性の高い周波数安定度の評価を行った。
著者
和泉 薫 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度はブロック雪崩の力学的特性に関する研究として、平成13年度に設置した実験用シュート(高さ9.4m、幅0.9m、勾配32.6°)を使った雪塊の衝撃力測定実験と、雪渓上での雪塊の落下実験を行った。それぞれの実験から得られた結果は以下の通りである。1.雪塊の衝撃力測定実験・人工雪塊を用いた実験では、密度250kg/m^3では最大衝撃力値に衝突速度がほとんど反映されないが、密度450kg/m^3では最大衝撃力値が衝突速度によって変化することがわかった。・天然雪塊を用いた実験では、密度560kg/m^3の雪塊では最大衝撃力値が速度と質量に比例することがわかった。2.雪渓上における雪塊の落下実験・雪塊はある程度の落下速度となるまでは転がり運動によって落下すること、その後、落下速度の増加や、表面の起伏が大きい場所や傾斜が急激に変化する場所を通過するために回転を伴った跳躍運動に遷移することがわかった。・転がり運動による落下では斜面方向の線速度エネルギーに対する回転エネルギーの割合はおよそ20%程度か、それ以下であったのに対し、運動形態が跳躍運動に遷移することで、回転エネルギーの割合が約40%まで増加することが明らかになった。・雪塊の大きさが大きくなるにつれて、より短い落下距離で最大速度に達するという傾向や、雪塊が大きくなるほど回転エネルギーの最大値が出現するまでの時間が短くなる傾向が観測から得られた。
著者
関 奈緒
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

[目的]親子喫煙防止教育を核として、学校・家庭・地域連携による地域喫煙対策を推進する。[方法]親子喫煙防止(防煙)教室効果を、平成13年度と同様のアンケート調査による子どもの意識、家庭内分煙実施状況の推移によって評価した。本評価をもとに、防煙学習プログラムと指導教材、住民参加型による包括的地域喫煙対策システムを開発し、評価指標を設定した。[結果及び考察]1)親子防煙教室により、親子の意識向上、子どもの喫煙意志抑制、家庭内分煙の推進が得られた。2)親子防煙教室及び調査結果の住民への還元は地域への波及効果が大きく、住民主導によるたばこ学習会、公民館等の分・禁煙化へ繋がった。親子防煙教室への地域住民の参加も急増し、児童・保護者・地域住民合同グループワークへと発展、参加者の意識が向上した。3)1)、2)をもとに、学校における学年別防煙学習プログラムと、地域防煙対策の学校・行政・地域の役割分担、防煙・分煙・禁煙支援の連携による包括的地域喫煙対策システムを開発した。システム検討には、住民を巻き込んだ参加型手法を採用し、早期より意識の共有化を図ったことから、事業化が円滑に行われた。連携の取り組みの一つとして、行政主催の禁煙教室の禁煙成功者を喫煙対策サポーターと位置づけ、学校の防煙学習、地域の分煙学習等に活用したが、これは非喫煙者、喫煙者間の相互理解や、禁煙希望者の増加等を促し、かつ禁煙者本人の禁煙継続の意識付けともなる等の効果があり、地域より高い評価を得た。4)防煙教育評価は、短期指標として毎年のアンケートによる子どもの意識変化を、長期指標として成人式喫煙率調査による喫煙率推移を追跡することとした。平成14年度の新成人は、男性64%、女性43%が毎日喫煙者であり、対策の効率的実施が急務であることが示された。なお、本研究で構築したシステムは、汎用型への発展も可能であり、今後広域展開が期待できる。
著者
藤井 雅寛
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病の原因ウイルスである。一方で、近縁ウイルスHTLV-2の白血病発症への関与を示す結果は得られていない。このHTLV-1とHTLV-2の病原性の違いに、それぞれのトランスフォーミング蛋白Tax1とTax2が深く関与していることを、我々は報告してきた。この違いの分子機構について以下の新たな成果を見出した。1、Tax1はマウスのT細胞株(CTLL-2)の細胞増殖をIL-2依存性から非依存性にトランスフォームするが、この活性はTax2よりも著名に亢進し、この活性の違いに、Tax1のみが持つPDZドメイン結合配列(PBM)が必須である。ヒトパピローマウイルス(HPV)も子宮頚がんに関与する悪性型と関与しない良性型サブタイプに分けられるが、悪性型HPVのトランスフォーミング蛋白E6のみがPBMを持つ。Tax1からPBMを欠損したTax1変異体のトランスフォーミング活性は、E6のPBMを付加することによって野生型Tax1と同程度まで回復した。Tax1はPDZドメインを持つがん抑制遺伝子Dlg1ならびにScribbleとPBMを介して結合したが、同程度の結合がHPV由来のPBMを付加したTax1変異体においても観察された。これらの結果はTax1によるがん抑制遺伝子Dlg1とScribbleの不活化がトランスフォメーションに関与することを示唆するとともに、これらのがん抑制遺伝子が複数の発がんウイルスの病原性に関与する共通な標的分子である可能性を示す。2、NF-kB2がTax1とTax2のトランスフォーミング活性の違いに関与することを報告している。この違いにJax1のアミノ酸225-243の領域が関与することを明らかにした。この領域はHTLV-1とSTLV-1(サルT細胞白血病ウイルス1型)のTax1では極めて高く保存されていたが、HTLV-2とSTLV-2のTax2においては保存されていなかった。これらの結果は、この領域が病原性に深く関与することを示唆する。
著者
鈴木 政弘
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は,昨年度に引き続いた経年的な研究であるので,調査対象は昨年度と同じ対象で本学歯学部2年生40名とした。アンケートの結果では,19名(約48%)が関節雑音を自覚していた.聴診による客観的診査でも19名で一致していた.保有者の数は昨年と同じであったが,新たに保有者となったものが1名,消失した者が1名いた.関節雑音の性状については,昨年は分類できなかった微妙な性質の雑音に関してもドップラー聴診装置により記録することが可能となった。結果は,reciprocal clickが2名,eminence clickが12名,crepitusが2名,single clickが3名であった.昨年からの変化は,eminence clickからreciprocal clickに変化した者が1名,single clickが新たに発生した者,消失した者がそれぞれ1名ずついた.single clickは,reciprocal clickに移行することも消失することもあることがわかり,初期症状として重要であると考えられた.顎関節部の疼痛に関しては,single clickからreciprocal clickに変化した者1名に認めた.開口障害については,crepitusの2名に認めた.ただし,顕著な開口障害ではなかった.非接触型下顎任意点運動測定装置による下顎運動測定の結果は,臨床症状の変化のある者で下顎運動の変化が大きく,症状の変化のない者は下顎運動の変化も少なかった.single clickの顆頭運動はクリックに対応して小さい軌跡の変化が認められた.single clickからreciprocal clickに変化した者と消失した者との昨年の顆頭運動の違いは,閉口末期の顆頭の回転と移動との関係が前者でやや移動優位の程度が大きかった.single clickが消失した者の今年の顆頭運動は閉口末期の顆頭の移動が正常者の平均と比較してやや大きかった.eminence clickの顆頭運動は左右の協調性の悪いことが特徴であったが1年間の変化は小さかった.crepitusの顆頭運動も1年間の変化は小さかった.来年も経年的変化を分析し,特にsingle clickに着目して検討を行なう予定である.
著者
片柳 憲雄
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.665-669, 2007-12

一般病院でもがん治療とともにがん痺痛治療を同時に行う必要があるため,緩和ケア研究会の幹事メンバー(医師,薬剤師,看護師,栄養士)とともに,緩和ケアチームを立ち上げ,全病棟のラウンドを開始した.2007年4月1日から,がん対策基本法が施行され,率先して痺痛治療を行わなければならなくなった.当院はがん診療連携拠点病院であるとともに,研修指定病院にもなっており,若い研修医や看護師,医学生や看護学生への影響が多大である.がん疼痛治療を実践してくれない常勤医に代わって,常に患者の傍にいる研修医などを教育することでよい結果が得られてきた.2007年4月現在,ラウンドは毎週火曜日に医師1名以上,看護師,薬剤師と栄養士は1名ずつで,全病棟を巡回している.これに,研修医,医学生,薬科大学院生などが加わる.ラウンド後に全症例のカンファレンスを開催している.2007年3月までの最近の2年間にラウンドした207例の依頼理由は80%以上が疼痛関連であった.ラウンド回数は平均5回(1回〜75回)であり,ラウンド回数が多くなるほどチームとのかかわりが親密になりよい影響を与えていた.WHOが推奨するがん癒痛治療法は以下の5原則に要約されている.(1)By mouth(経口的に),(2)By the clock(時間ごとに),(3)By the ladder(段階的に),(4)For the individual(個別的な量で),(5)With attention to detail(細かい配慮を)であり,これを熟知し,除痛により延命が可能になることを他の医療者,患者,家族に啓蒙する必要がある.当院での入院患者の徐放性オピオイドの使用状況は,2006年時点でMSコンチン^[○R]4%,オキシコンチン^[○R]58%,デロテップパッチ^[○R]31%,アンペック^[○R]7%となっている.オキシコドン速放製剤がレスキュー使用可能となり,オキシコドン徐放錠がさらに使いやすくなった.経口摂取可能な間はオピオイドも経口でということで,オキシコドン徐放錠をFirst Choiceで使用している.ASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインにもあるように,フェンタニル貼付剤は痛みが安定していて経口摂取に問題がある症例に勧めている.医療者はWHO方式がん痺痛治療法を熟知し,癌治療と平行してがん痺痛治療も行っていかなければならない.
著者
追手 巍 森岡 哲夫
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

血管内皮細胞とメサンギウム細胞の細胞間相互作用を検討するには、私どもはヒト臍帯静脈内皮細胞とヒトないしラット・メサンギウム細胞を用いてきた(Am J Pathol 139 : 949,1991)。平成6年度の科研費の補助により、ラット大動脈内皮細胞培養法を確立(Microvasc Res 50 : 113,1995)し,同種の細胞を使っての混合培養が可能となり,実験レベルで細胞機能の制御機構を検索できるようになった意義は大きい。メサンギウム細胞は動脈系血管の周細胞的性格を強く持つことも有利である平成7年度は(1)内皮細胞との接触面に局在する細胞膜蛋白(特異的なエピトープを持つ)を培義メサンギウム細胞表面に証明した(Oite T et al Recent Advances in Molecular Nephrology,ed.Arakawa M and Nakagawa,Kohko-Do,p98,1995。Oite T et al A specific Thy-1 molecular epitope expressed on rat mesangial cells. Exp Nephrol 1996,印刷中)。(2) cDNAのCOS細胞内導入により,この特異エピトープを含む蛋白分子(Thy-1.1 関連抗原)を発現できる系が確立し,この特異エピトープの組成決定が可能となった。(3)この特異エピトープを単クローン抗体により刺激する実験から,このエピトープが細胞内への情報伝達機構に直接関与していることが判明した(論文投稿中)。(4)片腎摘除ラットに上述の単クローン抗体を投与すると糸球体硬化性病変が早く形成される(Cheng QL et.al Clin exp Immunol 102 : 181,1995)。(5)このような硬化病変を呈してくる糸球体では間質系コラーゲン(タイプI,III)の発現が遺伝子レベル,蛋白レベルで亢進している(論文作制中)。この研究成果は共焦点がレザー顕微鏡,超高圧電子顕微鏡(国立生理研,岡崎)による免疫組織学的手法,cDNAを用いた遺伝子工学的手法,Kinase assayや細胞内Ca^<++>測定による細胞機能学的手法を合せ用いることにより可能となった。
著者
城 斗志夫
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

食用キノコの主要香気成分、1-オクテン-3-オールの生合成機構の解明を目的として、その生合成に深く関与すると考えられるリポキシゲナーゼ(LOX)を香り高いことで知られているヒラタケ(Pleurotus ostreatus)から単一に精製し、合成機構との関連を検討した。ヒラタケの傘をブレンダーと超音波破砕機でホモジナイズ後、遠心して粗酵素液を調製した。これをセファクリルS-400ゲルろ過カラム、ダイマトレックスグリーンAアフィニティーカラム、DEAE-トヨパールイオン交換カラムの3つのステップで精製した。その結果、LOXは126倍に精製され、回収率は5%、比活性33U/mgの蛋白質が得られた。精製酵素をSDS-PAGEで分析したところ一本のバンドしか検出されず、上記の方法でLOXは均一に精製されたことがわかった。精製酵素のゲルろ過による分子量は72,000で、SDS-PAGEでの分子量が67,000であったことから同酵素は単一のサブユニットから構成されていると考えられた。酵素反応の最適条件は25℃、pH8.0であり、本酵素は40℃以下、pH5〜9で安定だった。また、原子吸光分析と吸光スペクトル分析により本酵素は非ヘム型のFe原子を持つことがわかった。精製酵素は脂肪酸のうちリノール酸に高い特異性を示し、その反応生成物を調べた結果、13-ヒドロペルオキシドを特異的に生成していた。キノコの1-オクテン-3-オール生合成経路には9-ヒドロペルオキシドを経た経路と13-ヒドロペルオキシドを経た経路の2つの説があり、ヒラタケの結果は後者により1-オクテン-3-オールが合成されることを示唆している。さらに、露地栽培されたヒラタケのLOX活性を収穫時期である秋から冬にかけ測定したところ、収穫初期の10月頃で最も高く、寒くなるにつれ低下することがわかり、人が感じる香りの強度変化と一致していた。
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、脳の特定な部位や細胞に限定した標的遺伝子の欠損が出来るCreリコンビネース発現マウスを系統的に作出し、脳機能を分子レベルで解明するリソースを開発することである。このために、我々は本年度新たな方法を開発した。第1に迅速遺伝子改変ベクター作成法である。構築の迅速化を図るために、ES細胞での相同組換えに必要な薬剤耐性カセットやネガティブ選択に用いるジフテリア毒素遺伝子カセットなどをあらかじめ組み込んだ汎用ベクターを用いて、BACクローンでのRED/ET組み換え法、さらにラムダファージの組み換え系を利用して多種類のDNA断片を一時に結合して相同組換えベクターを作成する。この方法の特徴は、これまでベクター作成時に問題になっていたDNAライゲーションのステップを用いないので、特別な訓練を受けていない学生や技官にも出来るところにある。第2に、ES細胞での相同組換え効率を高めるために薬剤耐性カセットを改良した。UPA-trap型ターゲティングベクターを用いることで、薬剤耐性コロニーの中に占める相同組換え体の割合を上げることができた。これらの技術改良は、遺伝子改変マウスを迅速かつ安価に作成する上できわめて重要なものである。また、本研究では各種細胞選択的にCreリコンビナーゼ発現するマウスを作製した。海馬CA3錐体細胞で特異性高く組替えが惹起できるGRg1Creの他、海馬CA1錐体細胞選択的なCP14、小脳プルキンエ細胞のD2CRE、小脳顆粒細胞に選択性の高いGRe3iCre、ほぼ全ての顆粒細胞にCreを発現するTiam1Creである。これらCre発現マウスは特定研究「統合脳」の班員のみならず広く脳研究をおこなう研究者に提供する予定である。
著者
中野 優
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

コルチカム科花き園芸植物を用いて遠縁種間交雑を行ったところ、胚珠培養により、グロリオーサ類、サンダーソニアおよびリットニア間の複数の組み合わせにおいて属間雑種が得られた。これらの雑種は、いずれも新規形質を示したことから、コルチカム科花き園芸植物における新品種育成に属間交雑が有効であると考えられた。また、GISH法により属間の染色体が明確に識別できたことから、属間のゲノムの相同性は低いことが予想された。
著者
高木 裕 鈴木 孝庸 佐々木 充 番場 俊 平野 幸彦 佐々木 充 鈴木 孝庸 番場 俊 平野 幸彦
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

「声とテクストに関する比較総合的研究」グループは、フランスのボルドー第3大学との共同研究を推進し、平成19年度には、エリック・ブノワ教授による講演会を開催し、研究の打ち合わせを行った。平成20年度には、国際シンポジウムを開催し、フランスのボルドー第3大学の研究グループ「モデルニテ」から、エリック・ブノワ教授とドミニク・ジャラセ教授が参加し、共同研究の成果を確認した。最終的に研究成果を国内に問いかけるために、平成21年3月に、公開シンポジウム「声とテクスト論」を開催し、日本で声とテクストの問題をさまざまな角度から研究している明治学院大学の工藤進教授の基調講演とともに、同時に「<声>と身体の日本文学」と題して、ワークショップも開催し、日本文学をテーマにプロジェクトメンバーによる研究報告が行われ、活発な質疑応答があった。
著者
中西 啓子
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、宗密の現存する全著述にわたって彼の三教論に関する記述を調査し、『円覚経大疏』『円覚経大疏釈義鈔』から「原人論」へと集約されるその議論を報告書にとりまとめた。目次は次のようである。序-「原人論」における三教論。1、「一心」と「一気」。2、儒道二教批判(其の一)-『円覚経』普眼章法空門疏鈔。3、儒道二教批判(其の二)-『円覚経』弥勒章業報門疏鈔。4、一気(元気)批判とその周辺。結びにかえて-「原人論・会通本末篇」の検討。これによって、おおよそ以下のようなことを指摘した。宗密は仏教主体の三教一致論を提示し、仏教の宗本たる「一心」に対して、儒道二教の本源を「一気」にまとめ、一心のうちに一気を包摂しようとする。その場合まず、儒道二教の万物生成論(虚無大道・天地・自然・元気)をとりあげ、仏教の因縁にもとづいて、法空や業報を理解せず矛盾を生じていると批判する。ついで、気についてはこれを物質的な元素として意味を限定したうえで、一気から形身と天地世界が生成される過程を、一心における三細六麁の展開過程に組みいれている。これは、澄観によって示唆されていた論点をふまえながら、宗密自身の教学にもとづいてまとめたものである。いうまでもなく、このような議論においては理論的な不整合はまぬがれがたい。しかし、宗密は、六朝以来の神不滅論を継承しながら、それを一心の立場から再構築し、心識(神)と形身の関係、迷いの心識(神)から絶対的な霊性(一心)への展開過程などを明らかにしているのである。神不滅論における「神」と「形」を、「一心」と「一気」に変換し、後世の三教論にたいして新たな枠組みを提供していると言えよう。
著者
金山 亮太
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

サヴォイ・オペラの娯楽性の陰に隠れた影響の一つとして、19世紀末のイギリス人観客に帝国主義的発想を身近なものにしたという点が挙げられることを立証すべく、いくつかの作品に含まれる愛国的要素とそれの受容の様態について研究し、研究発表やシンポジウムの場で公表した。結果的に、この軽歌劇の持つ影響力の広さと深さが更に明らかになった。特に、サヴォイ・オペラは今日の英国の映像や活字メディアにおいて何らかの形で引用・言及されることが多いことが分かり、現代のイギリス人の中に息づいているイングリッシュネスは、この19世紀的価値観の延長上にあるのではないかという仮説を立てることに繋がった。また、ブリティッシュネスという人工的な概念ではなく、あくまでもアングロ・サクソン的なイングリッシュネスの方に親近感を感じる人々の中に潜む人種的な問題に関する動揺が、この軽歌劇に対する根強い愛着の背後にあるのではないかという仮説も生まれ、将来の研究テーマとして、ポスト植民地主義以降の新たな国家観という問題も浮上してきた。これらのテーマに基づき、さらなる科研費補助金の対象となる基盤研究(C)の方向性が定まった。
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

神経細胞壊死の機構解明を目的として、2つのテーマで研究を進めてきた。第一に、一過性の脳虚血負荷後の遅発性神経細胞壊死や、カイニン酸などの薬物投与による急性神経細胞壊死に、NMDA受容体チャネルがどのように関与しているかを検討した。カイニン酸投与による急性中毒では、4種類のNMDA受容体チャネルεサブユニットをノックアウトしたマウスはいずれも耐性を示したが、とりわけε1サブユニットノックアウトマウスは高い耐性を示した。また、眼圧上昇による一過性虚血負荷により発生する遅発性神経細胞壊死が、NMDA受容体チャネルサブユニットε1-4失損マウスでどのように起こるかを経時的な組織学的検索により検討した。その結果、一過性虚血負荷により発生する視神経細胞及びアマクリン細胞の遅発性の壊死が、ε1サブユニットノックアウトマウスではほとんど起こらないことが明らかになった。以上のことから、これらの神経細胞壊死の過程にNMDA受容体チャネルを介する過程が存在することが示唆された。一方、ヒト疾患モデル動物を作成するために、ヒト家族性パーキンソン病、脊髄小脳変性症、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症の原因遺伝子であるα-Synuclein、SCA1およびDRPLAのマウスカウンターパートをノックアウトした動物の作成を進めている。現在、それぞれの遺伝子のマウスカウンターパートを得るために、プローブ用のマウスcDNAクローンを検索している。
著者
國谷 知史 岡 綾子 菅沼 圭輔 真水 康樹
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本共同研究では、法学・政治学・農業経済学の諸領域において、農村の土地財産を巡る諸関係に関する制度・理論・実態の基本問題の発見と整理、およびいくつかの具体的問題の解明を進めた。法学領域では、重要な立法(農村土地請負法、農業法および物権法等)が相継ぎ、テーマに関する法整備が進んだことから、立法面・法制面での動きをフォローしながら法理論的問題の発見と整理、考察をおこなった。政治学領域では、基層といわれる「郷鎮-村」レベルの権力関係とそれを支えている構造をできるだけ詳細に明らかにするという課題を設定し、北京市に対象を絞って制度および実態の解明をおこなった。農業経済学領域では、農民の家族経営と農地の請負経営権の分配に関する研究を進めた。そこでの主題は、市場経済化を目指す中国において、農地(または耕地)という農業の生産要素が、他の生産要素(資本)あるいは他の土地(都市の工商業用地や住宅地)と同じように市場で取引される財となりえるのか、ということであった。以上のとおり各領域で本共同研究は進められたが、その結果、農村土地財産権に関する契約と権利構成の基本的内容、末端行政組織の形成プロセス、権利分配に関する集団の意思決定、に関する問題を明らかにすることができた。また、制度・理論・実態の諸層で矛盾が生じ、不安定な状況が生まれ、解決すべき問題が山積していることを確認することができた。その上で、市場経済への移行ないしは市民社会の形成を進めている中国について法学・政治学・経済学の共同研究を進めるにあたっては、「団体と団体構成員」または「集団と個人・家族」という分析概念を用いるのが有効であり、これらの概念で中国農村の土地財産を巡る諸関係を分析していくことが今後の課題である、という結論が導き出された。