著者
金野 亮太 井上 修平 山本 正嘉
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.357-365, 2010 (Released:2014-04-03)
参考文献数
27
被引用文献数
2

暑熱環境(気温35 ℃,湿度80%)に設定した人工気象室において,8名の自転車競技選手が長時間の自転車ペダリング運動を行い,その運動の途中で全身に冷水をかけて身体冷却を行った場合に,体温をはじめとする生理応答や,主観的な指標にどのような効果があるかを検討した. 被験者は,レースで使用するロードレーサーを用いて,走行速度を40km/h に固定し,90 分間の運動を行った.この運動強度は乳酸閾値を超えないものであり,実際のレースにおける運動強度からみると,比較的弱い部類に属するものであった.被験者は,運動開始から60 分を経過したところで,全身に5 ℃の水をかぶる条件(以下,水かぶり)と,それを行わない対照条件の 2 通りを,ランダムな順序で行った. その結果,水かぶりを行うことによって体温(直腸温度,平均皮膚温度)の上昇は抑制され,その効果は運動終了までの30 分間持続した.また水かぶり後には心拍数や酸素摂取量も低値を示し,運動効率の改善が窺えた.以上の結果から,暑熱環境下で行う水かぶりは,熱中症を予防したり,運動パフォーマンスを維持する上で,実用的で効果の高い手段であることが示唆された.
著者
太田 洋一 高嶋 渉 池田 祐介 貴嶋 孝太 村田 正洋
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.177-195, 2011 (Released:2013-04-12)
参考文献数
13

本研究の目的は,自転車競技におけるレース分析から,速度変化,クランク回転数変化およびギア比と記録との関係を明らかし,トレーニングおよびコーチングへの示唆を得ることである.分析対象者は第10 回チャレジ・ザ・オリンピックの200mFTT, 250mTT, 500mTT, 1kmTT, 4kmTT に参加した選手計177 名である.レース中の自転車及び選手の全景をパンニング撮影し,走行速度,クランク回転数およびギア比を撮影動画から算出した.200mFTT,250mTT, 500mTT, 1kmTT においては,レース中の最高速度およびスタート区間速度が記録に強く影響する要因であった.一方,4kmTT ではレース中の速度低下量の小さい選手ほど記録が良いことが示された.また,200mFTT,500mTT, 1kmTT においては,ギア比と記録との間に有意な負の相関関係が認められた.以上のことから,200mFTT, 250mTT, 500mTT, 1kmTT においては,スタート区間速度および最高速度を高めるトレーニングが重要であり,4kmTT では高い速度を維持できる能力を高めることが重要であると示唆された.
著者
小原 亜希子 藤井 久雄 内丸 仁 竹村 英和 鈴木 省三
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.135-142, 2011 (Released:2013-04-12)
参考文献数
16

目的:本研究の目的は,約100kcal の市販サプリメントを用い,糖質配合プロテイン(CHO-PRO)サプリメントと糖質をほとんど含まないプロテイン(PRO)サプリメントの単回摂取による疲労回復効果を比較することであった.方法:試験には7 名の男性が被験者として参加した.被験者は筋グリコーゲンを枯渇させるために自転車運動を行い,運動直後にCHO-PRO またはPRO 摂取を行った.結果:疲労感の指標visual analogue scale(VAS),尿中3-メチルヒスチジン/クレアチニン(3-MH/Cr)比はPRO 摂取群に比べCHO-PRO 摂取群で有意に低値を示した.パフォーマンスタイムは有意差が見られなかったが,CHO-PROを摂取した7 名中6 名で延長した.結論:運動直後の低エネルギーのCHO-PRO 摂取は同程度のエネルギーのPRO 摂取よりも疲労回復効果が高いことが推察された.
著者
小森 康加 望月 康司 榎本 至 前田 明 河野 一郎
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.313-320, 2010 (Released:2014-04-03)
参考文献数
26
被引用文献数
1

水球競技中に視力矯正行っている男子水球選手を対象に,二つの試合条件(1.視力矯正あり条件,2.視力矯正なし条件)を設定し,視力矯正の有無が水球競技の競技パフォーマンスに与える影響を検討した. その結果,ミスプレイ率は視力矯正あり条件が視力矯正なし条件と比較して,有意に低い値を示した.貢献プレイ率およびボールタッチ率では有意な差は認められなかったが,視力矯正あり条件が高い傾向を示した.また,試合中のプレイに関する主観的評価は,特に見え方に関する調査項目において,視力矯正あり条件が有意に高い値を示した. 実戦において重要視されているミスプレイの減少が示され,主観的評価による見え方においても違いが認められたことより,水球競技において視力矯正を行うことには,試合中の競技パフォーマンスに影響を与えている可能性があると推察された.
著者
星川 佳広 飯田 朝美 村松 正隆 井伊 希美 中嶋 由晴
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.367-378, 2010 (Released:2014-04-03)
参考文献数
32
被引用文献数
1

短距離選手における股関節屈筋群(大腰筋,大腿直筋)の筋形態と機能の関係を調べるため,各筋断面積と股関節屈曲トルク,角速度を測定し,相関関係を調べた.被検者は女子 24名,男子 25名の短距離選手と,比較対象としてのバレーボール選手(女 27名,男 37名)および非トレーニング群(男女各 10名)であった.被検者の最大屈曲トルクは等速性筋力装置(Biodex System 3)により角速度 3.14rad/秒で測定し,最大の屈曲角速度指数はバリスティックマスター(コンビ社)による膝振り上げ速度を大腿骨長で除すことで求めた.各筋断面積は MRI 法でもとめた.短距離選手では,大腰筋サイズ(筋断面積×身長)は屈曲トルクと弱く有意に相関(女 r =0.48,男 r =0.34)したが,大腿直筋サイズは有意な相関関係がなく,両筋サイズは股関節屈曲トルクや角速度を決定する強い要因ではなかった.全被検者を対象にした場合,男女ともに屈曲トルクと大腿直筋,大腰筋サイズにはいずれも中程度の有意な相関関係があり,また大腰筋サイズは屈曲角速度指数とも弱いが有意な相関関係があった.短距離選手とバレーボール選手を比較した場合,絶対値,体格補正値にかかわらず,大腿直筋断面積に有意差がなく,大腰筋断面積は短距離選手がバレーボール選手より有意に大きかった.屈曲トルクはバレーボール選手が短距離選手より有意に大きかったが,屈曲角速度指数は短距離選手がバレーボール選手より有意に大きかった.短距離選手に見られる顕著な大腰筋発育は角速度向上に有利で,スプリントパフォーマンスに対して合理的な適応であると考えられた.
著者
青葉 貴明 松本 高明 青山 利春 角田 直也
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.339-345, 2010 (Released:2014-04-03)
参考文献数
27

本研究は,陸上競技の投擲選手(TR),短距離走者(SP),長距離走者(DR)における全身・各部位の除脂肪軟組織量(LSTM)と安静時代謝量(REE)の関係,および安静時代謝量の推定値を求め,競技特性との関係を明らかにすることを目的とした.被験者は,大学陸上競技選手 59名(TR : 20名,SP : 20名,DR : 19名)であった.身体組成測定は全身用デュアルX線骨密度測定装置(DXA 法)を用い,頭部,体幹部,上肢部,下肢部及び全身を測定した.種目間の有意な差異は,各部位および全身のLSTM においてみられた.TRにおける体重あたりのREE は,他の種目に比べ有意に低い値が示された.一方,活性組織量あたりの安静時代謝量は,種目に関わらず30kcal/day/kg が示され,種目による顕著な差異は認められなかった.全身のLSTM とREE との間には有意な高い相関関係が認められた.これらのことから,安静時代謝量はスポーツ選手のトレーニング様式の違いによる活性組織量に影響を受けることが示唆された.
著者
筒井 大助 船渡 和男 高橋 流星
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.45-54, 2011 (Released:2012-02-23)
参考文献数
34

本研究は,野球における競技レベルの違いで,体格がどのように打撃内容に影響を与えるのか検証した.競技成績の高い高校野球,大学野球および社会人野球,さらに日本プロ野球そしてメジャーリーグの5 群,計1245 選手の身長および体重と打率,長打率,三振率の関係,そして群ごとに打率と長打率,長打率と三振率,打率と三振率の関係を検討した. 体重が重くなれば長打率が高くなる傾向が示され,身長よりも体重が長打率に大きく関係していることが示された.三振率はプロ選手の場合,身長が高くなれば高くなる傾向が示されたが,アマチュア選手は傾向が示されなかった.全ての群で打率が高くなると,長打率は高くなるが,三振率は低くなる傾向が示された.また,長打率が高くなると三振率が低くなる傾向はアマチュア選手のみに示された. これらの結果から,それぞれの競技レベルにおける打撃の特性に体格が影響を及ぼしていることが示唆された.
著者
金野 亮太 井上 修平 山本 正嘉
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.357-365, 2010

暑熱環境(気温35 ℃,湿度80%)に設定した人工気象室において,8名の自転車競技選手が長時間の自転車ペダリング運動を行い,その運動の途中で全身に冷水をかけて身体冷却を行った場合に,体温をはじめとする生理応答や,主観的な指標にどのような効果があるかを検討した.<br> 被験者は,レースで使用するロードレーサーを用いて,走行速度を40km/h に固定し,90 分間の運動を行った.この運動強度は乳酸閾値を超えないものであり,実際のレースにおける運動強度からみると,比較的弱い部類に属するものであった.被験者は,運動開始から60 分を経過したところで,全身に5 ℃の水をかぶる条件(以下,水かぶり)と,それを行わない対照条件の 2 通りを,ランダムな順序で行った.<br> その結果,水かぶりを行うことによって体温(直腸温度,平均皮膚温度)の上昇は抑制され,その効果は運動終了までの30 分間持続した.また水かぶり後には心拍数や酸素摂取量も低値を示し,運動効率の改善が窺えた.以上の結果から,暑熱環境下で行う水かぶりは,熱中症を予防したり,運動パフォーマンスを維持する上で,実用的で効果の高い手段であることが示唆された.
著者
平山 祐 山本 正嘉
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.63-75, 2011

全日本選手権または大学生選手権で入賞経験を持つカナディアンカヌー選手を対象として,通常の水上練習や筋力トレーニングと並行して,カナディアンカヌー用のエルゴメーターを用いて高強度のインターバルトレーニングを行わせた.その際,このトレーニングを通常酸素環境下で行う群(N 群,n=9)と,常圧低酸素室を用いて低酸素環境下(高度2000 ~ 3000m 相当)で行う群(H 群,n=9)の2 群を設けた.両群とも,トレーニングは週に3 ~ 4 回の頻度で3週間行った.その結果,N 群もH 群も,カヌーエルゴメーターを用いて測定した有酸素性能力(最大酸素摂取量)と無酸素性能力(10 秒間の全力漕時のパワー)がいずれも改善し,さらに200m 漕と500m 漕のタイムも改善した.ただし,200m 漕タイムの改善については,H 群の方がN 群よりも有意に大きかった.したがって,カヌーエルゴメーターを用いた補強トレーニングは,通常酸素環境で行ってもさまざまな作業能力の改善につながるが,低酸素環境で行えばそれに加えて,無酸素性および有酸素性の両能力がいずれも関与する200m 漕の成績をさらに大きく改善できる可能性が考えられた.
著者
星川 佳広 村松 正隆 飯田 朝美 井伊 希美 中嶋 由晴
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.153-165, 2011 (Released:2013-04-12)
参考文献数
34

本研究は男女のジュニア短距離選手において,股関節筋群の筋力と筋横断面積を調べることを目的とした.被検者は男女計45名の高校生短距離選手であった.また同年齢の長距離選手(11名)と非トレーニング群(18名)が比較のために参加した.股関節伸展・屈曲筋力(角速度3.14 , 5.23rad/s)は等速性ダイナモメータで計測し,大腰筋と大殿筋の横断面積をMRI法で求めた.短距離選手の股関節筋力は,非トレーニング群,長距離選手と比較して伸展側でより強かった.筋横断面積(体格補正値)は,女子では短距離と長距離選手で差異がなかったのに対して,男子では大腰筋,大殿筋ともに短距離選手が長距離選手よりも大きな値を示した.股関節筋力は屈曲,伸展ともに競技レベルと無関係であったが,競技レベルの高い短距離選手は,女子では大腰筋の,男子では大殿筋の横断面積が大きかった.これらの結果は,男女ともに短距離選手はジュニアにあっても股関節伸展力の高さを特徴とすること,股関節筋群の形態発育では男女で傾向が異なることが示唆された.