著者
田中 祥子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.58-65, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
36

企業の新製品開発において,ユーザー(消費者)のアイデアを反映したり,その意見を基に製品改良をしたりする「共創」の重要性が増している。ユーザーの意見を反映することは,市場のニーズに的確に応えられ,市場での優位性を得られるためだ。その共創で成果を出すには,ユーザーの参加や貢献の獲得が必須となる。本稿では,企業が関わる共創コミュニティへのユーザー参加動機について,既存研究を自己決定理論に基づき分類する。レビューの結果,既存研究を時間概念なし,初期参加動機,継続参加動機の3つに整理した上で,ユーザーの参加段階を考慮した動機は未探索の部分が多い点を指摘する。時間概念を含んだ動機を明らかにすることはユーザーの参加を促す施策立案のヒントととなり,共創を計画する企業や団体への貢献となるだろう。
著者
山本 晶
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.7-18, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
31
被引用文献数
2

オンライン・プラットフォームの成長に伴い,リユース行動の選択肢が広まっている。本研究では一時的所有行動という概念を提示し,その定義を明らかにした上でなぜいま本概念に着目するべきなのかを論じる。また,先行研究の詳細なレビューからリキッド消費,アクセス・ベース消費,共同消費,シェアリング・エコノミーといった近年登場した概念および従来の所有行動や共有行動と本概念との相違点を明らかにし,今後の研究機会を示す。本研究の貢献は近年注目される所有から利用への進化に着目し,一時的所有という新しい所有の在り方に焦点を当てることによって,既存のリキッド消費および所有行動の議論を補完するものである。
著者
西本 章宏 勝又 壮太郎 本橋 永至
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.44-57, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
27

本稿の目的は,COVID-19のアウトブレイクによって大きく市場環境が変化している今日のように,急激な環境変化による非連続な状況下において,次世代イノベーションの源泉として,創発的性質を有する消費者(ENCs)に着目する有用性を示すことである。本稿では,緊急事態宣言下を含むCOVID-19のアウトブレイク(第1波)を分析対象期間とし,消費者のスマートフォンのアプリ起動ログの収集と先端層調査を実施した。その結果,ENCsは同じ先端層であるリードユーザー(LUs)よりも環境変化に対して頑健であり,新しい生活様式に適応した消費者であることが明らかになった。また,ENCsのソーシャルメディアの利用動向はLUsや一般ユーザー(GUs)とは異なり,コロナ禍でも利用数は多いが,その変化量は少なった。このことから,ENCsは平常時からソーシャルメディアを他の消費者よりも広範かつ高頻度で利用している可能性が推察された。
著者
斉藤 嘉一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.33-43, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
32

Amazon.comやTripAdvisorなど多くのクチコミサイトには,helpfulボタン(役に立ったボタン)が設置されており,読者はhelpfulボタンを押すことでレビューが役に立ったことを表明することができる。レビュー有用性,すなわち,レビューが獲得するhelpfulの数,あるいは割合がどんなレビュー特性,発信者特性,製品特性によって影響されるかは,マーケティンングと消費者行動,および情報システムの両方の領域において盛んに検討されてきた。本研究は,レビュー有用性の影響要因について,ナラティブレビュー(質的なレビュー)とメタ分析(量的なレビュー)を行った。その結果,テキストの長さと投稿者の写真の開示は,レビュー有用性とプラスの関係にあることが示された。一方,評価得点(星の数),および投稿者の名前や住所の開示と,レビュー有用性との関係については,既存研究において得られた実証結果は一貫したものではなかった。これらの一貫しない結果を整合的に説明するために,受信者のhelpful意思決定を検討することを提案した。
著者
渡辺 達朗
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.17-36, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
72
被引用文献数
1

イギリスの都市政策では多様性の維持に加えて,1990年代後半以降は持続可能性が,基本となる考え方として位置づけられてきた。それらに基づいて,一方で開発許可を軸にしたプラニングシステムによって大規模ショッピングセンターをはじめとするさまざまな開発を規制してきた。そこでは,タウンセンターの「活力と存続」,あるいはタウンセンターファーストの考え方を前提にした逐次的アプローチというコンセプトが受け継がれている。他方,都市再生の側面では,タウンセンターにおける小売,サービス,エンターテイメント,そして住宅などを含む大規模再開発と,インナーシティにおける近隣街区リニューアルが並行して実施されてきた。本稿では,以上のような経緯について思想,政策,取組みという3つの次元から確認する。その上で,都市計画による郊外開発規制,将来ビジョンとしてのコンパクトシティ,タウンセンターやハイストリートにおける多様性と同質化,という3つの論点から日本への示唆を探る。
著者
青木 慶
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.22-35, 2019-09-27 (Released:2019-09-27)
参考文献数
34

本稿の目的は,企業とユーザーの価値共創のさらなる発展に向けて,ユーザーの参画およびアイデア共有を促す,有効なインセンティブを明らかにすることである。Appleが運営する教育者のユーザーコミュニティを事例研究の対象とし,17名のコミュニティメンバーにインタビュー調査を行った。その結果,単なるユーザーではなく,有用なイノベーションを行う可能性の高い「リードユーザー」を組織化することで,コミュニティ自体が有効なインセンティブとして機能しうることが示された。Appleではコミュニティメンバーに外発的・内発的なアプローチを行い,コミュニティにおける活動を活性化し,ユーザーと「教育の革新」という社会的な価値を共創していることが明らかになった。
著者
周 珈愉 井上 哲浩
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.72-88, 2015-09-30 (Released:2020-05-12)
参考文献数
17

本論では,媒体の垣根を越えて活用されているクリエイティブ技術の一つであるARを用いたマーケティング・コミュニケーションが態度ならびに意図の形成に与える効果を論じる。視覚,触覚,嗅覚,聴覚,味覚などを現実世界と拡張融合することができるAR技術の可能性は,市場規模からも相当であるにも関わらず,ARに関するマーケティング分野での過去の研究は少ない。本論では,実際にTVメディアで用いられたTVCMにAR技術を仮想し,視聴者本人を拡張融合したTVCMを用いた環境,App環境,そしてHP環境を構築し,一般線形モデルならびに多母集団構造方程式モデリングを用いて態度ならびに意図形成構造の異質性を明らかにした。その結果,HP,App,ARという3つのプラットフォーム環境での態度形成構造が異質であることが確認され,ARを用いたマーケティング・コミュニケーションの場合は快楽主義が,Appを活用したコミュニケーションの場合は実用主義が,HPを活用したコミュニケーションの場合は関与が重要となることが確認された。
著者
久保田 進彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.67-79, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
37
被引用文献数
1 3

デジタル化は現代の消費環境を特徴づける重要な要素の1つである。社会生活や経済活動の各所にデジタル技術が用いられることで,消費環境は大きく変化している。それではデジタル化が進展する中で,企業や組織のブランド戦略はどのような方向を目指すべきであろうか。本研究ではこうした問題意識に基づき,Bardhi and Eckhardt(2017)によって提示された「リキッド消費」を鍵概念としながら,デジタル社会におけるブランド戦略について俯瞰的に検討していく。具体的には,まずKubota(2020)における議論を引き継ぐかたちで,リキッド消費をブランド消費行動の観点から再検討する。そしてここから,文脈への適合と消費の手軽さがもたらす心地よさの重要性を指摘する。つづいて「裾野を広げる戦略」と「生活の中に溶け込む戦略」という,リキッド消費に対応した2つのブランド戦略を提案する。そして最後に,研究全体を振り返るとともに,限界点や今後の課題について議論する。
著者
外川 拓 石井 裕明 朴 宰佑
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.72-89, 2016-03-31 (Released:2020-04-21)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

近年の研究では,本来,消費者の判断と直接的に関連していない触覚情報,すなわち非診断的触覚情報が,意思決定に無意識のうちに影響を及ぼすことが明らかにされている。本稿では,非診断的触覚情報のなかでも特に硬さと重さに注目し,これらが消費者の意思決定に及ぼす影響について,身体化認知理論をもとに考察した。硬さに注目した実験1と実験2では,硬さの経験が本来関連のない製品に対する知覚品質を向上させたり,サービスの失敗に対する金銭的補償の要求水準を高めたりすることが明らかになった。重さに注目した実験3と実験4では,重さの経験が本来関連のない製品に対する信頼性や製品情報に関する記憶想起を高めることが明らかになった。最後に,これらの結果を踏まえ,本研究の意義と課題について議論を行った。
著者
栗木 契
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.5-15, 2018 (Released:2019-05-31)
参考文献数
26
被引用文献数
2

未来の予測は成り立つか,成り立たないか。いずれを前提とするかによって,合理的なマーケティング活動の進め方は,大きく異なることになる。STP マーケティングは,市場の先行きを予測できることを前提としている。しかし,マーケティングという営みにおいて,この未来の予測が困難となるのであれば,新たなマーケティング活動の進め方を再検討することが不可避となる。すなわち,予測に頼ることなく未来を切り開いていくプロセスを有効なものとする行動の原則を,企業は見定めることを求められる。本稿では,S. サラスバシのエフェクチュエーションを手がかりに,予測に頼ることが有効ではない状況を第3 の不確実性とむすびつけてとらえる。そのうえで本稿では新たに,エフェクチェエーションの行動原則をSTP マーケティングの補完に用いるうえで,省察が果たす役割を検討し,マーケティング研究が取り組むべき今後の課題を浮き彫りにする。
著者
藤川 佳則 小野 譲司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.72-92, 2014-01-15 (Released:2020-11-13)
参考文献数
17

本論文の目的は,「サービス事業」を企業と顧客が共に価値創造を担う価値共創活動としてとらえ,その「グローバル化」を価値共創に関する知識の国際移転プロセスとして焦点をあて,その実際をフィールド調査を通じて明らかにすることにある。本研究は,世界48か国・地域(2013年3月現在)において教育事業を展開する株式会社公文教育研究会との共同研究に基づく定量調査(世界6か国・地域の指導者対象のサーベイ調査)と定性調査(日本本社,地域本社社長および関連部署責任者,担当者対象のインタビュー調査)によって構成される。定量調査は,国際知識移転の主体である人間(公文の場合,指導者)に焦点をあて,文化変数(高コンテクスト文化,低コンテクスト文化),能力変数(指導者の脱コンテクスト化能力,再コンテクスト化能力),行動変数(指導者の発信行動や受信行動),および,結果変数(指導者が運営する教室の業績評価)との関連性,を明らかにする。また,定性調査は,国際知識移転の対象である知識(公文の場合,指導方法)に焦点をあて,新しい知識が生成される背景や伝播される経緯について,事例を通じて明らかにする。
著者
堀口 哲生
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.58-66, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
44

国際競争の激化,製品ライフサイクルの短縮化の中で,企業は自らの既存の資源・能力を活用した漸進的な製品イノベーションだけでなく,新しい資源・能力の探索を伴う急進的な製品イノベーションを達成することがますます求められている。しかし,急進的な製品イノベーションには非常に高いリスクや不確実性が伴い,その実現は困難である。その中で,多くのマーケティング・経営学者は,急進的な製品イノベーションを促進・阻害する要因についての研究を行ってきた。とりわけマーケティング学者は,マーケティング組織の活動が,急進的な製品イノベーションを促進・阻害するのかという課題に対して多くの関心を向けてきた。本論の目的は,マーケティング組織の活動と急進的な製品イノベーションの関係について検討した既存研究をレビューし,その知見を整理することである。具体的には,マーケティング組織と急進的な製品イノベーションの関係に着目した2つの研究潮流をレビューした上で,マーケティング組織が急進的な製品イノベーションに如何に関与するべきなのかについて既存研究の知見を整理する。その上で,この研究領域における将来の研究余地を指摘する。
著者
小倉 優海
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.68-72, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
20

近年,企業はキャラクターを積極的に広告に起用しており,さらに,広告エンドーサー研究においても,キャラクターエンドーサーに関する議論が活発に行われており,キャラクターエンドーサーは注目すべき研究対象である。それらの現状を踏まえると,これまでに得られたキャラクターエンドーサーに関する知見を整理し,今後の研究で検討すべき課題を明確化する必要があると言える。そこで,本論では,キャラクターエンドーサーに関する既存研究を(1)キャラクターエンドーサーの分類,(2)キャラクターエンドーサーの有効性,(3)キャラクターエンドーサーの効果を調整する要因という3つに分けて,概観する。そして,キャラクターエンドーサー研究が今後検討すべき課題として,(1)新たな調整変数の識別,(2)キャラクターエンドーサーの負の影響の検討(3)新たな従属変数への注目を指摘する。