著者
宮井 弘之
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.42-52, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
29

本研究では,エフェクチュエーション研究とビジネスモデル研究を体系的に関連づけ,マーケティング・インプリケーションの導出につながる視角の提案を目的とし,両研究の接続可能性を検討した。特に,企業のビジネスプロセスとシステムの階層に着眼することで両研究の接続可能性を検討できることを示した。実践型研究から得られた3人の起業家へのインタビューを用いて,起業家個人のエフェクチュエーションによる意思決定を,「バリュープロポジション,ピヴォット,プロダクトマーケットフィット」などのビジネスモデル研究やビジネスモデル開発実務で利用されているフレームワークと対応付けて整理し,企業内の個人によるエフェクチュエーションによる意思決定を集団による意思決定へと接続できる可能性を示した。
著者
久保 知一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.17-27, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
30

マーケティング・ミックスはマーケターが最初に習うツールであるが,4つのPがどのように組み合わされているのかという問題はこれまで明確に扱われてこなかった。その理由は,社会科学で主流となった回帰分析では,3つ以上の変数の組み合わせの検討が困難だったためである。本論では,結果変数として,(1)ターゲットの価格弾力性の高低,(2)製品分類(買回品/最寄品),(3)トップ・シェアか否かの3つを設定し,それらを実現するマーケティング・ミックスについて仮説を提唱した。そして,日本の消費財メーカーから得た製品レベルのマーケティング・ミックスのデータ(n=167)を収集し,質的比較分析(QCA)を用いて,マーケティング・ミックスの組み合わせを検討した。
著者
近藤 浩之
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.6-16, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
33

消費者は購買意思決定に先立ってオンラインカスタマーレビューを製品の品質の手掛かり情報として利用するが,ブランド力が高い製品の場合にはブランドも製品の品質の有力な手掛かりとなる。このため,そうした製品についてのカスタマーレビューの影響力はブランド力が低い製品の場合と比べて弱いとされている。しかしながら,先行研究ではカスタマーレビューがブランド力の高い製品の売上成果にいかなる役割を果たすのかについて十分に考察されてきたとは言い難い。そこで本研究では我が国のヘッドセットデータにファジィ集合QCA(fsQCA)を適用し,この問題について考察した。その結果,ブランド力が高い製品は新製品期にはカスタマーレビューの評価にかかわらず売れ筋製品となり得るものの,新製品期間を超えてなお売れ筋であり続ける上で,カスタマーレビューにおける高い評価は,INUS条件として,大きな役割を果たしていることを確認した。このことは,ブランド力が高いメーカーの場合でも,高いカスタマーレビュー評価を得られるような優れた製品の開発がやはり重要であることを示すものである。
著者
張 婷婷
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.90-97, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
32

企業は消費者にメッセージを発信するとき,消費者の注意を引き付け,さらにメッセージを精緻に処理してもらうために,多彩な言葉,ビデオ,アニメーション,3Dなどの手段を利用している。これらのビビッド手段の利用によって,消費者行動にポジティブな影響を及ぼすと信じられている。しかし,ビビッドメッセージは常に消費者行動にポジティブな影響を及ぼすわけではない。そこで,本稿では,ビビッドネス効果(vividness effect)に関する既存研究を,(1)ビビッドネス効果の定義と分類,(2)ビビッドネス効果の有効性に関する研究,(3)ビビッドネス効果を有効とする媒介変数,(4)ビビッドネス効果の有効性を調整する要因という4つに分けて,レビューを実施する。また,ビビッドネス効果研究の発展のため,今後の研究課題として,(1)多感覚マーケティングにおけるビビッドネス効果に関する研究課題,(2)複数のビビッド要素の組み合わせによるビビッドネス効果に関する研究課題を提示す。
著者
河股 久司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.81-89, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
38

本論文は,2015年以降の色彩に関する研究をレビューすることによって,近年の色彩研究の潮流を把握することを目的とする。色に関する研究を,色の三属性である色相・明度・彩度それぞれの視点による研究と,モノクロとカラーの比較による研究の4つに大別してレビューを行った。その上で,色とマーケティングミックスとの関連を検討したところ,今回のレビューの範囲においては,色相に関する研究は,マーケティングミックスの各要素と関連するものが実施されていることが確認できた。一方,彩度に関してはマーケティングミックスのうち製品との関連のみ,明度に関しては製品と流通チャネルとの関連に限られた研究が実施されていることが明らかになった。また,クロスモーダル効果に着目すると,色と味覚や聴覚,触覚との関連についての研究はなされているものの,色と嗅覚との関係を検討している研究がないことが確認された。
著者
久保田 進彦 阿久津 聡 余田 拓郎 杉谷 陽子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.61-74, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
61
被引用文献数
2 1

ブランド研究はマーケティングにおける重要なテーマであり,現在も盛んに議論が行われている。そこで本稿では4人のブランド研究者が,いまなお広がり続けているブランド研究の現状や課題について語っていく。本稿は4つの短い論文の組み合わせから構成されるオムニバス形式であり,企業ブランドが組織におよぼす影響(阿久津論文),BtoBマーケティングにおけるブランディングの効果(余田論文),BtoCマーケティングにおけるブランドの機能(杉谷論文),そしてブランド消費をとりまく環境変化(久保田論文)という順序で議論が行われていく。ブランドという重要なテーマについて,4人の研究者が異なる視点から語ることによって,現代ブランド研究の多面性があらためて示されることとなる。
著者
王 珏
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.57-64, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
34

消費者の認知,感情,行動に広く影響を与える重要な心理状態を示す概念として,勢力感という概念がある。近年,消費者勢力感の影響に関する研究が徐々に増えてきている。しかしながら,当該領域全体の俯瞰的なレビュー論文はまだ存在しない。そのゆえ,消費者勢力感に関する既存研究の知見を整理し,今後の研究課題を明らかにすることは重要なことである。本稿は,消費者勢力感に関する既存研究を(1)勢力感と補償的消費,(2)勢力感と広告コミュニケーション効果,(3)勢力感と観光,(4)勢力感とSDGs,(5)勢力感と社会的過密という5つの研究潮流に分けて概観する。その結果,今後の研究課題として,(a)補償的WOMの検討,(b)広告の掲載場所と広告の視覚的要素への注目,(c)過密環境セッティングの多様性の探究を抽出する。
著者
織田 由美子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.85-93, 2020-03-04 (Released:2020-03-04)
参考文献数
32

本稿の目的は,負のイメージを付与された消費様式が人々に受け入れられるようになるプロセスを脱スティグマ化として捉え,その際に創発される多様な意味間の関係性について明らかにすることである。理論枠組みとして,制度論における制度ロジックという概念を用いる。具体的には,2008年以降ブームとなった「婚活」の事例研究に基づき,多様なロジックの発展プロセスと,ロジック間の関係性について,過去29年間の新聞記事のテキストマイニングにより明確化する。市場創造に関するこれまでの研究において,企業のマーケティングは多様なロジックが創造される中で棲み分けを行ったり,差別化を行ったりすることが明らかにされた。これに対し,本研究は多様なロジックが補完し合うことで,大規模な普及につながる可能性について示唆する。
著者
岡田 庄生 西川 英彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.85-94, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
14

近年,クラウドソーシングを新製品開発に活用する企業は増えているが,十分な数のアイデアが集まらないなどの要因で,失敗に終わることも多い。こうした中,知名度がないにも関わらず,アイデア投稿数を継続的に増加させ,商品化を実現しているのが,百円均一商品に特化したモバイル向けのクラウドソーシング・プラットフォームの「みん100」である。本稿では,みん100の仕組みの変遷や,開発プロセス,ヒット商品の事例を確認しつつ,顧客志向をもとに仕組みを進化させてきたことを理解する。その上で,みん100の実現した,モバイル・クラウドシーシング・プラットフォームが持つ,3つの優れた点,すなわち,(1)モバイルファースト,(2)共通認識,(3)プロセスマネジメントについて述べる。
著者
田浦 俊春 妻屋 彰 山田 香織
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.38-55, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

本稿では,イノベーションの進む方向性とイノベーションのためのデザインに寄与する創造的思考について論じる。まず,イノベーションは利便性や効率を重視する「量的イノベーション」とライフスタイルや文化の変化をもたらす「質的イノベーション」に区分されるとし,現代社会では質的イノベーションへの転換が必要であることを述べる。次に,イノベーションのためのデザインを,プロダクトを介して科学技術と社会との間を橋渡しすることと捉えた上で,デザインの起因に注目し,それを社会のニーズにおく「ニーズ先導型」,科学技術の探求におく「シーズ先導型」,両者の橋渡しをするプロダクトの構想からはじめる「プロダクト先導型」に区分できることを示す。これらの区分を2軸として戦後日本のイノベーションを対象に事例調査を行った結果,質的イノベーションではプロダクト先導型のデザインが多くみられた。さらに,質的イノベーションに寄与する創造的思考について議論し,ブレンディング型のシンセシスやプロダクトと場の組合せ型のシンセシス,シンセシス型の創造的思考に則ったタイプのメタファ型のシンセシスを用いた創造的思考が効果的であることを述べる。