著者
吉村 泰幸
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.386-407, 2015 (Released:2015-10-29)
参考文献数
212
被引用文献数
1 1

近年,環境への負荷軽減に配慮した持続的な農業の推進が求められている中,高い乾物生産能力を持ち,水や窒素を効率的に利用するC4植物は,食用だけでなくエネルギー作物としても利用が期待される植物資源である.しかしながら,その特性を活用した研究は少なく,基礎的な知見も数種の作物を除いて十分でない.本研究では,雑草を含む多様なC4植物を有効に活用するための第一歩として,国内に分布するC4植物の一覧を作成した.国内には,真正双子葉類8科19属62種,単子葉類3科72属357種,合計11科91属419種のC4植物が分布することが確認された.1990年に報告された種数と比較すると,真正双子葉類で19種,単子葉類で157種増加した.真正双子葉類のキツネノマゴ科,ムラサキ科,ナデシコ科,ザクロソウ科,ゴマノハグサ科におけるC4植物の国内での分布は当時と同様に確認されなかったが,ハマミズナ科,キク科,フウチョウソウ科におけるC4植物の分布が新たに確認された.単子葉類では,トチカガミ科水生植物のクロモが水中の低CO2濃度条件下でC4型光合成を行うことが報告されており,C4型光合成を行う単子葉類は3科となった.C3-C4中間植物については,これまでC4植物と考えられていたザクロソウモドキがC3-C4中間植物であることが判明し,新たに5種の帰化種の分布が確認され,計6種となった.また新たに確認されたC4植物について,真正双子葉類の84%,単子葉類の46.8%が栽培種を含む帰化種であり,作物としての導入や輸入穀物原料等への混入を介してC4植物を含む雑草種子が国内に侵入している現状を反映していると考えられた.
著者
黒田 栄喜 王 大超 西 政佳 坂本 甚五郎 佐川 了
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会東北支部会報 (ISSN:09117067)
巻号頁・発行日
no.51, pp.9-10, 2008-12-20

最近、一般品種よりも胚芽重が約2倍程度大きい巨大胚芽品種や良質良食味で直播適性の高い品種が育成され、コメの用途拡大や低コスト化に貢献することが期待されている。寒冷地向け巨大胚芽米品種として「恋あずさ」、また、倒れにくく直播向けの多収性品種として「萌えみのり」が品種登録された。本研究では、1980年代後半以降当地方の主要な普及品種である「あきたこまち」を基準品種として、「恋あずさ」および「萌えみのり」の生育特性および乾物生産特性について比較検討した。水稲。
著者
中野 尚夫 石田 喜久男 村岡 一彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会中国支部研究集録
巻号頁・発行日
no.31, pp.19-20, 1990-07-31

アマランサスは、タンパク質含量の高い作物で、最近ではアレルギー性疾患回避にも効果があると注目されている。アマランサスはヒユ科ヒユ属の総称で、穀実用として注目されているAmaranthus hypochondriacus. A. caudatus, A. cruentusはいずれも中南米起源の作物と考えられている。中南米では、これら3種が紀元前5000〜3000年頃から栽培され、スペイン人が新大陸に上陸した16世紀にはトウモロコシ、インゲンマメとならんで主要な食糧であった。その後19世紀初頭にインド、アフリカに伝えられ、日本にも明治初頭に渡来し、東北地方において救荒作物として利用されていた。今日では、中南米での栽培は少なく、主要な栽培地はインド北部、ネパールとなっている。岡山農試では、水田転作作物探索の一環として1989年からその栽培利用の可能性を検討している。本報告では、1989年における栽培特性の検討結果を紹介する。
著者
中嶋 泰則 濱田 千裕 池田 彰弘 釋 一郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.366-375, 2006 (Released:2006-09-05)
参考文献数
10
被引用文献数
1 3

2月中旬のコムギ立毛中に水稲を不耕起播種する「水稲麦間不耕起直播栽培」の省力安定化技術の確立を目的に, コムギ播種前の秋季代かきと播種同時施肥について検討した. 不耕起V溝播種機を供試し, 開口部2 cm, 深さ5 cmのV溝に水稲播種と同時に施用する肥料を検討したところ, 水稲の生育や窒素の溶出パターンから, 基肥としては肥効調節型肥料のLPSS100(シグモイド型被覆尿素100日タイプ)が適合すると考えられた. また, LPS120(シグモイド型被覆尿素120日タイプ)が穂肥としての肥効を示すことも示唆された. これらの肥料は, コムギ生育中での窒素の溶出量が少なく, コムギの収量・品質に悪影響を与えなかった. コムギ播種前に秋季代かきを実施することで, 水稲播種時における圃場の均平と硬度が確保され, 播種作業によるコムギへの傷害が少ないうえ, 水稲の播種精度が向上し出芽・苗立ちが安定した. このような結果に基づき, 1999年にコムギ播種前の秋季代かきおよびLPSS100の水稲播種同時施肥を水稲麦間不耕起直播栽培体系に組み込み, 94 aの大区画圃場において検討したところ, 1 ha当たりの全刈り収量はコムギ4.94 t, 水稲5.32 tで合計10.26 t, 圃場内労働時間23.5時間が達成でき, 本栽培体系における省力安定性が示された.
著者
磯部 勝孝 坪木 良雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.374-380, 1997-09-05
被引用文献数
2

Arbuscular菌根菌をインゲンマメ栽培に利用するため, 品種「どじょう」と「セリーナ」を用いて, 土壌中の有効態リン含有量(ブレイ第2法にて測定)と菌根菌の関係ならびにインゲンマメの生育に対する菌株間の比較をおこなった. 得られた結果は, 以下の通りである. 播種時の有効態リン含有量が2.5 mg/100gになるとArbuscuIar菌根菌の感染が抑制され, 4.1 mg/100gではArbuscular菌根菌を接種してもインゲンマメの生育はあまりかわらなかった. このことから黒ボク土壌でインゲンマメ栽培にArbuscular菌根菌を利用するには, 播種時の有効態リン含有量が, 4.1 mg/100g以下であることが必要と思われた. 2種類のArbuscular菌根菌をインゲンマメに接種したところ, Gigaspora margarita, Glomus sp. (y) ともに接種胞子数が多くなるほどインゲンマメの生育はよくなかった. しかし, Gigaspora margarita と Glomus sp.(y)では, Glomus sp.(y) のほうが生育初期における感染率が高く, インゲンマメの生育もよかった. このことから, インゲンマメには Gigaspora margarita より Glomus sp.(y) のほうが, より有効な菌と思われた.
著者
志村 喬
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.121-133, 1935-06-10

La autoro studis citologie pri teplantoj, por determini la nombron de kromosomoj knaj por klarigi agadon de kromosomoj en la redukta dividigo. La polenpatrinceloj kaj radikpintaj eloj de sekvantaj kvar varioj estis ekzamenataj: [table] La polenpatrinceloj estis fiksitaj de fiksosolva o de CARNOY, kaj trancitaj en pecetojn kun dikeco de 15-17 μ. La radikpintoj estis fiksitaj de modifita fiksosolvajo de KARPECHENKO. La kolorigo estis farata per genciana violo lau NEWTON. Por ekzameni polenkvarerojnkaj polenerojn, acetokarmino lau BELLING kaj ankau kotonbluo estis uzataj. La ekzamenitaj rasoj estis ciuj duobluloj krom tiu raso nomata "Makinohara-wase", kiu estis trioblulo. Duoblulaj montris 30 kromosomojn en radikpintaj celoj kaj 15 unuoblulajn kromosojn en redukta dividigo de polenpatrincelo ; oni ne povis ilin distingi unu de la alia lau ilia kromosomaro. Ce duoblulaj rasoj la redukta dividigo okazis generale normale, sed ce iuj rasoj pli-malpli malregela dividig! o estis videbla. Ce iu kelkaj unuvalentoj montrigis en matafazo, kaj unu au du postlasitaj kromosomoj estis videblaj en anafazo. Sekve tiaj rasoj produktis ofte polenkvarerojn kun kelkaj ekstraj celetoj. La trioblula raso, Makinohara-wse, havas 45 somajn kromosomojn en la radikinta celo, kaj multe da malreguleco estis videbla en redukta dividigo de polenpatrinceloj. Generale 9-12 trivalenta kaj kelkaj kelkaj unuvalentaj kromosomoj estis kalkulataj en metafazo de la unua dividigo. En anafazo trivalenta kromosomo apartigis okaze en unuvalenton kaj duvalenton ; unuvalento estis okaze postlasita apud la nukleoplato kaj laulonge fendiginte, dispartigis je ambau polusoj. En la dua dividigo kromosomaro de variaj nombroj estis vidata; generale 17-19 kromosomoj estis kalkulataj. Eble tiu ci raso estas autotrioblulo. La procentoj de produktitaj belaj poleneroj estis variaj lau reguleco de redukta dividigo. Duoblulaj rasoj generale havas 90-98% da belaj poleneroj, sed iu montris 65-87! % da belaj poleneroj pro sia malreguleco de redukta dividigo. Trioblul a raso havas nur 46.65% da belaj poleneroj. In el japanaj rasoj produktis ofte polenduerojn kaj okaze kelkaj kun aliaj kompare grandaj kaj plenaj poleneroj estis videblaj. Tiuj ci grandaj poleneroj havus duoblulan kromosomaron. Triobula raso estus produktita per krucigo inter tia duoblula gameto kaj alia norma unuoblula gameto.
著者
平 春枝 平 宏和
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.185-196, 1973-06-30

大豆30品種を石岡・塩尻および熊本の大豆育種試験地の圃場でそれぞれ栽培し, 得られた大豆について18種類のアミノ酸組成を微生物法を用いて調べ, 各地域における生育特性(開花まで, 登熟および成熟までの日数), 栽培環境(開花まで, 登熟および成熟までの積算平均気温, 積算日照時間, 積算降水量), 一株粒重, 千粒重, タンパク質およびディスク電気泳動法によるタンパク質成分組成(A・B・C・D・E)間の相関などについて検討を行なつた. アミノ酸組成の地域的変動は, 石岡産大豆にくらべて熊本産大豆のアルギニン含量が高く, トリプトファンおよびシスチン含量の低い傾向が認められた. また, 石岡産大豆にくらべて塩尻産大豆はアルギニン含量が高く, チロシン・シスチン含量の低い傾向があり, この地域差の原因ほタンパク質含量の違いに帰因することが認められた. 一方, アミノ酸含量の品種間の変動は, メチオニン・シスチンが大きく, 品種間におけるメチオニン含量は, 白莢1号・こうじいらず・松浦・1号早生が高く, 兄・ヤマベ・ネマシラズ・白鳳が低い. 一方, シスチン含量は, 赤莢・白鳳・奥羽13号が高く, ヤマベ・金川早生・白莢1号・アイサ・農林2号が低い. アミノ酸含量に与える生育特性・栽培環境などの要因との相関は, グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・トリプトファン・シスチン(グループA)との間に正の相関が, アスパラギン酸・グルタミン酸・フェニルアラニン・チロシン・メチオニン(グループB)との間に負の相関が認められた. また, イソロイシン・リジン・アルギニン・ヒスチジン・プロリン・セリン・スレオニン(グループC)との間には相関が 認められなかった. タンパク質含量との相関は, グループBに属するいずれかのアミノ酸およびアルギニンが正の, グループAに属するいずれかのアミノ酸が負の相関を示した. アミノ酸含量とタンパク質成分組成含量(A・B・C・D・E)との相関が2地域以上に認められたものでは, A成分とトリプトファンが負の相関を, C成分とイソロイシン・フェニルアラニン・スレオニンが負の相関を, D(11S)成分とスレオニンが正の, チロシンが負の各相関を示し, E(7S)成分とセリンが正の相関を示した.
著者
近藤 日出男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会四国支部紀事 (ISSN:0915230X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.41-42, 1992-12-25

近年作物改良の基盤となる在来種の見直し調査が行われると聞くが,本報告もその1例である。四国産山地には明治末期瀬戸内海側山地で衰退した焼畑農耕が吉野川,銅山川,仁淀川,四万十川水系の中,上流域で1965年までわずかに残存していた。今回調査した赤かぶはかつて焼畑出作り地において見られた在来種である。其の成立は1877年土佐に天王寺かぶ系の「弘岡かぶ」より古く「大崎かぶ」「田村かぶ」1〕として記載されているが,栽培特性については明らかにされていない。筆者は十数年前に入手し,系統保存をつづけてきたが,今回試作した結果を報告する。
著者
猪谷 富雄 小川 正巳
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.137-147, 2004 (Released:2004-09-29)
参考文献数
110
被引用文献数
14 26

赤米とは, 糠層にタンニン系赤色色素を持つイネの種類であり, わが国においては日本型とインド型の2種の赤米が栽培されてきた. 日本型の赤米は古くから日本に渡来し, 7~8世紀には全国各地で栽培されたことが平城京跡などから出土する木簡から推測されている. 14~15世紀には中国からインド型の赤米もわが国へ渡来し, 「大唐米」などと呼ばれ, 近世に至るまでかなりの規模で栽培されていた. 早熟で不良環境や病害虫に強い大唐米は, 最盛期の江戸時代には関東から北陸地方以西において広く栽培され, 特に低湿地や新たに開発された新田などに適していた. 明治時代に入るとこれらの赤米は徐々に駆除され, わが国の水田から姿を消す道を辿った. 例外として, 日本型の赤米の一部が神聖視され, 神社の神田などで連綿と栽培されてきたもの, 雑草化して栽培品種に混生してきたものなどがある. 約20年前から, 赤米は小規模ながら栽培が復活し, 日本各地で歴史や環境を考える教育や地域起こしの素材として利用されている. また, 赤米は抗酸化活性を持つポリフェノールを含む機能性食品としても注目されている. わが国における赤米栽培の歴史と赤米を取り巻く最近の研究状況などについて, 以下の順に概要を述べる. (1)赤米を含む有色米の定義と分類, (2)赤米の赤色系色素, (3)赤米の栽培の歴史, (4)残存した赤米, (5)赤米など有色米が有する新機能, (6)赤米の育種などに関する最近の情勢.
著者
今井 勝 市橋 卓也
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.360-366, 1986-09-05
被引用文献数
1

低緯度地方のマイナークロップとして栽培されている食用カンナの光合成, 物質生産に関する研究はほとんどなされていない. 本報告では研究の第一段階である, 光環境に対する適応性を知ることを主眼として, 人工気象室内で異なる光強度の下に栽培された植物につき, 個葉のガス交換特性を検討した. 得られた結果の大要は次の通りである. 1. みかけの光合成の適温は28℃前後であった. 2. 強光(650μEm^<-2>s^<-1>PPFD)下で生育した植物は, 開葉後3日目でガス交換速度が最大に達し(1000μEm^<-2>s^<-1>PPFD下で光飽和せず, 光合成23.0mgCO_2dm^<-2>h^<-1>, 蒸散2.2gH_2 Odm^<-2>h<-1>), 以後漸減した弱光(290μEm^<-2>s^<-1>PPFD)下で生育した植物は, ガス交換速度が最大に達するのに強光下の場合よりもやや時間を要したが, 光合成能力はかなり高かった(20.8mgCO^2dm^<-2>h^<-1>). 3. ガス交換の主要な場は葉の背軸面であり, 強光条件下では向・背軸面の気孔密度(約1:3)に比例した値が得られたが, 弱光下では向軸面の割合が極端に減少した. 4. 食用カンナはガス交換の面から, 耐陰性の優れた陽生値物とみなされ, 幅広い光環境下での栽培可能性が示唆された.