著者
中野 尚夫 杉本 真一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.357-363, 1999-09-05
参考文献数
18
被引用文献数
8

緑肥作物の立毛中に不耕起播種した水稲の苗立ちを検討した. 前作緑肥作物は1994年と1995年がレンゲ, クリムソンクローバ, ヘアリーベッチ, アルサイククローバで, 1996年と1997年がこれらとアルファルファであった. いずれの年にも裸地に播種する対照区を設けた. 水稲の播種期は1994年が4月15日, 4月28日と5月13日, 1995年が5月8日, 1996年が4月23日, 4月30日と5月9日, 1997年が4月16日, 4月25日と5月12日で, 供試品種は吉備の華であった. 前作緑肥作物の被陰度は, 地際相対照度でヘアリーベッチ, アルサイククローバ, アルファルファが5〜10%, レンゲ, クリムソンクローバが約20%であった. 水稲の出芽開始は播種期が早いほど早く, 緑肥作物立毛播種で遅く, 被陰度の大きいアルサイククローバ, ヘアリーベッチで顕著に遅かった. 最終出芽数はレンゲ, クリムソンクローバでは裸地よりやや少なかったが, 裸地と同様に播種期による差がなかった. これに対し被陰度の大きい緑肥作物での最終出芽率は裸地に比べ少ないばかりでなく, 播種期が早いと少なくなった. この出芽の違いは, 前作緑肥作物の被陰度に応じて地温が低下したことに基づくと考えられた. さらに, 被陰度の大きい緑肥作物のもとではその立毛中と, 被陰の解消した入水後に枯死する水稲個体がみられた. このため, 被陰度の大きい前作緑肥作物立毛中への不耕起播種では出芽の低下, 枯死の両面から水稲の苗立ちが著しく低下した. これに対しレンゲ, クリムソンクローバの場合には裸地での苗立ちと大差なかった.
著者
巽 二郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.604-609, 2007 (Released:2009-07-03)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

根系の形態や土壌中の分布は,根圏を通じた養水分の獲得や植物体の支持などの植物生育の基本的な機能と密接に関わるものであり,環境条件やストレスに対応して変化する.根系のマクロな外部形態は構築構造(root system architecture)を有し,この構造は発育モデル(growth model)やトポロジーモデル(topological model),形状モデル(geometric model)などで定量的に記述・解析される.ここではそれらのなかで最も新しい方法の1つであるフラクタルモデル(fractal model)についてその解析法と応用および研究の動向を紹介する.
著者
宇都宮 隆
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会四国支部紀事 (ISSN:0915230X)
巻号頁・発行日
no.13, pp.39-41, 1976-12-25

ステビアの収穫期は,ステビオサイド含有率の推移等からみて,開花期直前が適期とされている。したがって開花期の早晩は生育・収量に影響する主要特性の一つである。実生個体群における観察では,平均開花期は9月20日前後であるが,稀には7月28日と非常に早いものから,10月2日と遅いものまで幅広い変異がみられ,きわめて変異に富んでいる。また越年株においては,稀に萌芽後間もなく着蕾・開花する個体が生ずる。このようなことから花芽分化要因を検討した。
著者
福井 春雄 正田 敏幸 藤原 公 村岡 高志 次田 隆志
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会四国支部紀事 (ISSN:0915230X)
巻号頁・発行日
no.26, pp.9-16, 1989-12-25

前報においては,根菜類のモデルとしてハツカダイコンを用い,各種濃度のキトサン溶液による種子被覆および,キチン・キトサンを土壌混和してポット栽培試験を行い,キチン・キトサンによる作物の生長促進効果とその作用性を調べた。その結果,0.01%キトサン溶液の種子被覆によって顕著な根部肥大効果が認められ,またキトサンの種子被覆および土壌混和によって,ハツカダイコンの根部および葉部におけるキチナーゼ活性が賦活された。さらに,根部への窒素およびカリウムの吸収量増加が認められ,キトサンによる作物への作用性が示唆された。しかし,キチンの土壌混和による根部肥大等の効果は見られなかった。そこで本報では,前報で根菜類に対する生長促進効果の認められたキトサンに注目し,種々のキトサン処理を施した各種の作物について圃場における栽培実験を行い,各種作物への栽培適用性を検討した。
著者
石川 哲也 鈴木 保宏
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.350-357, 2003-09-05
被引用文献数
1 1

米粒の成分音量や物性を1粒単位で測定することが最近可能となり,これらの測定値と穂上の着生位置との関係を明らかにするための研究が進められている.そこで,イネの穂の分枝構造を模式的に図示し,個々の穎花の持つ情報を穂上の着生位置に対応させて表示するためのプログラムを作成し,その有用性について検討を行った.他の分核構造をリスト形式で記述することにより,その多様性に対応することが可能となった.描画プログラムの作成には,「パターン照合」や「単一化」などの特色を有するプログラム言語Prologを採用し,再帰的呼び出し機能を活用した.表形式で記録された既存の分析結果を有効に利用するため,それらをリスト形式のデータに変換するプログラムを作成した.さらに,穎花の現存・退化といった定性的情報の表示に加えて,新鮮重など定量的情報に対応した塗り分け機能をプログラムに追加した.描画された模式図は,枝梗の長さや穎花の形状という観点からは正確ではないが,枝梗や穎花の相対的な位置は正しく表現されており,穎花の定性的・定量的特性と着生位置との関係を直観的に把握する一助となる.さらに,この描画プログラムは,同様の分核構造を持つイネ属の穂や,イネの分げつ体系等の描画への応用も可能である.
著者
前田 英三 三宅 博
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.340-351, 1996-06-05
被引用文献数
1

イネの反足細胞は, 卵細胞から離れ珠心側壁に接して存在する. 多くの裂片をもつ巨大な異常核, 粗面小胞体, 細胞壁内向突起などが, 開花直後のイネ反足細胞内に観察された. 細胞核の裂片は核質の小さな架橋により連結しており, プラスチドやミトコンドリアや粗面小胞体を含む細胞質の一部を取り囲んでいる. 珠心細胞と接する反足細胞の細胞壁には, よく発達した内向突起が見られる. 粗面小胞体の先端が細胞壁内向突起と融合している場合も観察される. 反足細胞付近の珠心細胞は, すでに退化しはじめている. これらの細胞構造及びリボゾームを表面に伴った小胞の行動などから, 珠心細胞から胚嚢内中心細胞へのアポプラスチックな物質輸送に関する反足細胞の役割につき考察した. また, 胚嚢内の物質の移動経路についても, 簡単に述べた.
著者
境谷 栄二 井上 吉雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.317-331, 2012 (Released:2012-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
11 6

近年,全国の米産地では,リモートセンシングで推定した玄米タンパク含有率 (以下,玄米タンパクと呼ぶ) を活用して,栽培指導や区分集荷が試みられるようになってきた.しかし,特に本州以南では推定精度が不十分で実用化が進んでいない場合が多い.本研究では推定精度および実用性の向上を目的として,青森県津軽中央地域の水田地帯100 km2を対象に航空機ハイパースペクトルで複数年の観測実験を行い,玄米タンパク推定の誤差要因をNDSI (正規化分光反射指数) を用いて分析した.地上で調査した葉色と玄米タンパクは,年次を通して密接な関係があった.しかし,反射スペクトルからの推定力の傾向は,葉色と玄米タンパクで違いがみられた.観測時の葉色に対しては赤と緑の双方の波長で推定力が高いが,収穫時の玄米タンパクに対しては赤の波長では大きく劣った.これは赤の波長が生育ステージの変化に対する感受性が強いことに起因している.この影響を分析するため,生育ステージの変動を施肥条件と田植時期の違いによる部分に分割したモデルを提示した.施肥条件は玄米タンパクと強く関係するのに対し,田植時期はほぼ無関係である.そのため,田植時期に起因する生育ステージの変動が大きい場合は,玄米タンパクの推定精度が低下しやすい.また,観測時期が早いほど,田植時期に起因する変動の影響が相対的に大きくなることも精度低下の一因となる.したがって,玄米タンパクの推定には,従来のNDVI (=NDSI[赤,近赤外]) に替わり,NDSI[緑,近赤外] を用いることで,生育ステージによる影響が緩和され,精度の低下を軽減できる.
著者
浅井 辰夫 飛奈 宏幸 前田 節子 西川 浩二
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.274-281, 2016-07-05 (Released:2016-07-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

静岡大学農学部附属地域フィールド科学教育研究センターの水田において,堆肥を連用した水稲の有機栽培試験を早生品種を用いて15年間継続して実施した.試験区として,基肥に籾殻堆肥と菜種油粕を用い,農薬を使用しない籾殻堆肥区(1996~2010年)および基肥に牛糞堆肥を用い,農薬を使用しない牛糞堆肥区(1996~2010年)の2種類の有機栽培と,基肥に化学肥料と農薬を使用する化学肥料区(1996~2010年)および基肥無しで農薬を使用する無肥料区(1998~2010年)を設定した.堆肥を連用する牛糞堆肥区で5年目以降,籾殻堆肥区で6年目以降に堆肥の連用効果が認められた.2006~2010年の5年間の平均収量は,籾殻堆肥区437 g m-2,牛糞堆肥区430 g m-2,化学肥料区523 g m-2および無肥料区329 g m-2であった.食味分析計で測定した食味値は,籾殻堆肥や牛糞堆肥を施用する有機栽培が,化学肥料を施用する化学肥料栽培より高い傾向にあることが確認された.また,連用水田の土壌分析から,堆肥連用の有機栽培区は,化学肥料区と比べて全窒素量が増加することが確かめられた.
著者
中村 充 水上 優子 青木 法明 梅本 貴之 日渡 美世 池田 達哉 荒木 悦子 船生 岳人 加藤 満 城田 雅毅
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.126-135, 2014 (Released:2014-04-21)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

米の澱粉組成タイプとその製粉特性および吸水特性との関係を解明するために,澱粉組成が異なる 「日本晴」 の準同質遺伝子系統を含む水稲27品種・系統の澱粉組成と製粉特性の米粉粒径,澱粉損傷度,米粉および精米の吸水性を調査し,さらに胚乳細胞組織の形態との関係を検討した.その結果,澱粉組成はDNAマーカー分析も併用して,アミロペクチン超長鎖比率による3タイプ(K,H,Y)と短鎖比率による2タイプ(S,L)の組合せから,KS,KL,HS,HL,YS,YL の6グループに大別された.米粉粒径中央値はアミロペクチン超長鎖比率の低いKタイプが,同比率の高いYタイプより有意に大きく,同比率が米粉粒径に関連していた.澱粉損傷度はYL<(HL,YS)<(KS,HS)のタイプ間で有意差が認められ,アミロペクチン短鎖比率が低くアミロペクチン超長鎖比率が高いと,澱粉損傷度が低くなることが明らかとなった.米粉の飽和吸水率は澱粉損傷度と正の相関があるだけではなく,アミロース含有率と負の相関のあることが精米の吸水性から確認された.澱粉組成の異なる「日本晴」の準同質遺伝子系統(KL,HS,HLタイプ)の玄米白色度を調査し,胚乳細胞組織の形態を走査型電子顕微鏡で観察したところ,KLおよびHLタイプの玄米白色度が高く,アミロプラストや澱粉粒の形態がタイプ間で異なっていた.このため,澱粉組成タイプによって澱粉の蓄積様式が異なり,それが製粉特性に影響している可能性が示唆された.