著者
小葉田 亨 植向 直哉 稲村 達也 加賀田 恒
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.315-322, 2004-09-05
被引用文献数
6

近年,西日本を中心に乳白米多発による品質低下が起きている.乳白米発生原因としては,登熟期高温による子実成長過程への直接的影響,あるいは着生穎花数が多い,あるいは葉色の落ちたイネで乳白米発生が著しくなるなどから子実への同化産物供給不足が考えられる.そこで,本研究では3年間にわたり島根県と大阪府の気温・立地条件の異なる3地域でコシヒカリを栽培し,圃場条件下での乳白米発生状況と登熟期間引きにより物質生産を増やしたときの乳白米発生を調べ,同化産物供給不足が乳白米発生の主原因であることを明らかにしょうとした.一部地域では登熟期にフィルムで覆った高温区を設けた.その結果,穂揃い後30日間の平均気温(T_<30>)は23〜29℃となり,籾の充填率は70〜90%,乳白米発生率は0.8〜16.0%の変異を示した.T_<30>が高いほど乳白米率が大きなばらつきを持ち増加した.そこで穂揃期以降,栽植密度を半分に間引いたところ,どの地域,温度処理でも間引きにより籾の充填率はほぼ90%近くまで増加し,ほとんどの地域で乳白米率が6%以下に減少した.全結果を込みにすると,充填率が増えると乳白米発生率が低下した.したがって,間引きは幅広い温度域で籾の充填率と乳白米発生率を改善した.以上から,乳白米は子実の同化産物蓄積過程自体が高温で阻害されるよりも,高温によって高まった子実乾物増加速度に対して同化産物供給が不足することにより主に生ずると推定された.そのため,登熟期の同化促進技術は乳白米発生の抑制に有効であると考えられた.
著者
山本 良孝 川口 祐男 高橋 渉
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.485-490, 1993-12-05
被引用文献数
2

水稲「コシヒカリ」を供試し, 気温による水稲の発育段階予測法 (DVS方式) が作期及び栽培地域の異なる条件で, どのような適合性を示すかについて検討した. 4月20日から6月1日までの移植においてはDVS方式が良く適合し, この期間の標準誤差は幼穂形成期が1.21日, 出穂期が1.48日, 成熟期が1.45日であった. しかし, 6月15日の移植においては推定値が実測値より遅くなり, 生育が進むにつれて拡大した. この理由としては日長の影響が大きく, 短日条件が発育段階を早めたものと考えられた. 富山県内における入善町, 立山町, 砺波市の3カ所において, 近隣のアメダスの日平均気温をもとにDVS方式の適合性を検討したところ, 標準誤差は幼穂形成期が2.76日, 出穂期が2.33日, 成熟期が2.55日と高い適合性を示し, 県内においてもDVS方式により水稲の発育段階を予測することが可能と考えられた.
著者
柏木 孝幸 廣津 直樹 円 由香 大川 泰一郎 石丸 健
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-9, 2007 (Released:2007-02-28)
参考文献数
70
被引用文献数
11 16

イネにおいて倒伏は収量や品質を低下させ,生産者の作業効率を低下させる栽培上最も重要な障害である.倒伏は倒れ方から湾曲型,挫折型,転び型の3つに分類され,その中で湾曲型倒伏がコシヒカリ等の栽培で最も多く生じる.湾曲型倒伏は穂を含む植物体上位部の重さや風雨等の外部の力により稈が湾曲することにより発生する.「短稈化」,「強稈化」及び「下位部の支持力強化」が湾曲型倒伏に対する抵抗性のターゲットである.これまでの倒伏抵抗性の育種では主に短稈化がターゲットとされてきた.一方で短稈化のみで倒伏抵抗性を向上させていくにはいくつか問題がある.収量性の観点から考えると,草丈を下げる短稈化には限界が生じる.さらに抵抗性を向上させるには短稈化以外に強稈化及び下位部の支持力強化をターゲットとして育種を進めて行くことが必要である.本総説では,近年の分子・遺伝生理学的な研究の成果を中心に湾曲型倒伏に対する抵抗性に関する研究成果をまとめ,倒伏抵抗性向上に向けた研究の方向性を論じる.
著者
杉本 秀樹 佐藤 亨
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.39-44, 1999-03-05
参考文献数
16
被引用文献数
7

夏季における新ソバ供給と水田の高度利用を目的にした, 西南暖地における夏ソバ栽培技術の確立に関する研究の一環として, 播種期の違いが夏ソバの生育ならびに収量に及ぼす影響について調査した. 普通ソバ品種キタワセソバの種子を, 愛媛大学農学部内の雨よけビニルハウスに設置したポットに3月中旬から6月初旬まで10日ごとに播種した. 播種期が遅くなるほど開花数は増加したが, 結実率の著しい低下により粒数が減少し, さらに千粒重も低下して子実重は減少した. 特に, 開花始〜成熟期における日最低気温の平均値が17.5℃を越えると結実率は顕著に低下した. したがって, 西南暖地における夏ソバの播種は, 遅霜の心配がなければできるだけ早く, かつ開花始〜成熟期における日最低気温の平均値が17.5℃を越えない時期までに終える必要があることが明らかになった. さらに, 瀬戸内地域においては遅霜と梅雨入り時期ならびに上記臨界温度を考慮すると, 播種期は3月下旬から4月中旬に限定されること, 4月中旬までに播種すれば収穫は6月初旬となり, 初夏には新ソバの供給ができるばかりでなく, その後作に水稲はもちろんダイズ, 飼料作物などの栽培も可能となり, ソバを水田における輪作体系に組み込むことができることも明らかになった.
著者
島崎 由美 渡邊 好昭 関 昌子 松山 宏美 平沢 正
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.294-301, 2016-07-05 (Released:2016-07-26)
参考文献数
24
被引用文献数
3

水田で栽培されたコムギ (水田のコムギ) は,畑で栽培されたコムギ (畑のコムギ) に比べ製パン性が劣ることが知られている.その主な要因は,小麦粉のタンパク質含有率が畑のコムギに比べ水田のコムギで低いことにあると考えられている.小麦粉のタンパク質含有率は,開花期に窒素を追肥することで高められる.そこで本研究では,開花期窒素追肥により水田のコムギの小麦粉タンパク質含有率を高めることが,製パン性に及ぼす影響を調査した.その結果,開花期に窒素を8 g m-2追肥することで,水田のコムギの小麦粉タンパク質含有率を畑と同程度の13%にまで高めることができた.しかし,製パン性を評価するバロリメーターバリュー (VV) は,畑のコムギでは75以上あったのに対して水田のコムギでは60程度と低かった.水田のコムギは畑のコムギに比べて吸水率が高く,小麦粉タンパク質含有率が13%と高いときは,生地形成時間 (DT) が短かった.パンの柔らかさを示すコンプレッションは水田のコムギの方が畑より小さく,パンは柔らかかった.小麦粉タンパク質中のSDS可溶性モノマー画分 (EMP) に対するSDS不溶性ポリマー画分 (UPP) の比は,水田のコムギで畑より有意に小さかった.なお,水田のコムギは,開花期に窒素8 g m-2を追肥して子実タンパク質含有率を高めても,原粒灰分が高く,容積重が小さいために,ランク区分はBやCだった.一方,畑のコムギは開花期に窒素を追肥しなくてもランク区分はAであった.
著者
藤田 正平 島田 尚典 千葉 一美
出版者
日本作物学会
雑誌
日本育種学会・日本作物学会北海道談話会会報
巻号頁・発行日
no.34, pp.32-33, 1993-12

本年北海道十勝地方では,小豆の登熟が遅延し各地で霜害を受けた。十勝農試では登熟促進と防霜効果を期待し登熟期間中の9月7日から不織布(三井油化製パオパオ90)で被覆した。本報では,登熟期間の不織布被覆よる防霜効果及び生育,収量,品質に及ぼす効果を調査した。さらに種子生産で問題になると予想される霜害粒の発芽性について調査したので報告する。
著者
山根 正博 国分 牧衛
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.198-203, 2016
被引用文献数
1

東北地方における1993年から2008年までの16年間のダイズ収量の年次変動と地域変動の特徴,ならびにこれらの変動と気象要因との関係を県単位および市町村単位で解析した.気象要因は降水量,日平均気温,日最高気温,日最低気温および日照時間とし,生育期間(6~10月)における月平均値を解析に用いた.解析の対象地域としてダイズ作付面積が100 haを超える市町村41点を選んだ.県平均収量の年次変動を解析した結果,収量水準は日本海側が太平洋側を上回り,日本海側では南部ほど,太平洋側では北部ほど高い傾向を示した.県平均収量は青森,岩手,秋田および山形の4つの県間にはすべて相関が認められたのに対し,宮城と福島は南北に位置する隣県とのみ相関が認められた.16年間における県平均収量とその年次間変動係数との間には正の相関が認められた.41市町村における16年間の収量変動と気象要因との関係を解析した結果,いずれの気象要因も7月の数値が収量と有意な相関を示す市町村が多く認められた.さらに市町村単位に収量と気象要因との関係を重回帰分析したところ,降水量,気温および日照時間の3つの説明変数で市町村の収量変動を説明できる場合が多く認められたが,これらの気象要因の相対的な寄与度と影響を与える時期は市町村により異なった.
著者
堀内 孝次 成瀬 守
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会東海支部研究発表梗概
巻号頁・発行日
no.96, pp.1-5, 1983-10-31

間作はその技術の特徴として土地生産性の向上, 自然的及び経営的危険分散効果, 病虫害・雑草繁茂の抑制効果, さらに組合せ作物に対する被覆作用や支持作用など多くの利点を有している.しかし, その反面, 栽培管理の複雑さや労働生産性の低さなどの欠点をも併せもっている.現在, 東南アジヤやラテンアメリカ・アフリカ等の発展途上国においては土地生産性の向上に着目し, 研究が進められている.本研究は, 間作のこれらの利点を生かしつつ, しかも労働力の少ないわが国で受け入れられるような技術の確立を目的とし, とくにダイズ・トウモロコシ間作を対象に栽培技術の合理化を図る上から重要な栽植様式をとり上げ, 畦ごとの構成単位から考えうるいくつかの栽植様式についてそれらの生育・収量の良否を推定しようとするものである.
著者
谷山 鉄郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会東海支部会報
巻号頁・発行日
no.113, pp.29-33, 1992-07-01

1990年8月2日, イラク軍のクウェートへの侵略は世界の人々をおどろかせた.それから6ヵ月もたたない1991年1月17日, 米軍を主体とする多国籍軍がイラクを攻撃し, いわゆる湾岸戦争が始まった.わずか43日間, 1991年2月28日に湾岸戦争は終った.湾岸戦争は油田と砂漠上であること, さらに, ペルシャ湾への原油の大量流出や多数の油井火災による著しい環境汚染をもたらした.1990年11月29日の国連安全保障理事会の決議は, (1)イラクのクウェートからの即時, 完全, 無条件撤退, (2)クウェートに合法的な政府を回復, (3)国外のアメリカ市民の保護, (4)米国の国家安全保障にとって極めて重大な地域の安全保障と安定の四つの目的を達成するためのもので, 米指導者の解釈で広範な軍事作戦を遂行する権限とイラクの戦闘能力完全破壊の正当性が与えられた.1991年1月15日以降「必要なあらゆる手段」を取ることを米指導者は表明した.このようにして2日後の1月17日, 現地時間午前3時, 米軍を主力とする7ヵ月国からなる戦闘機668機が史上最大ともいえる激しい空爆を開始, 十数時間のうちに1, 000回も出撃, また海上からはトマホーク・ミサイルが100発以上発射され, いわゆる湾岸戦争が始まった.43日間の死者は軍・民間人で11万から33万5, 000人, 1日当たり2, 500から3, 000人のイラク人が死亡したと推定されている.
著者
徐 会連 王 効挙 王 紀華 梅村 弘
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.335-336, 1997-10-18

EM希釈液を吸わせたスイートコーンの切断葉を用い, 葉水分の損失と蒸散速度の低下特徴から気孔が葉失水に対する感受性を検討した。EM液を吸わせた葉身には気孔が開く時大きく開いて, 閉じる時ちゃんと閉まることがわかった。
著者
寺井 利久 池田 貢介 三好 祐二 泉 省吾 神田 茂生 西野 敏勝 入口 義春 原 英雄 鳥居 謙吾 寺島 正彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.62, pp.27-30, 1996-05-15

長崎県北中山間地域である波佐見町における現地実証により耕転一鎮圧一播種方式の乾田直播の現地適用性とその補完技術を検討した。1.播種量は乾籾3,5程度でよかった。播種深度を3〜4?に設定できるため,ヒノヒカリでも極端な倒伏は認められず,本品種の乾田直播栽培の可能性が示唆された。収量性は1993年の低温及び1994年の高温下でも比較的高く,異常気象にも十分対応可能であり,この方法による乾田直播の現地適用性が認められた。2.播種時の降雨を想定し,乾田直播を補完する技術としての乳苗移植栽培は減収したものの,準備した催芽籾を無駄にすることなく,十分に補完できる技術としてその可能性が示唆された。3.漏水を考慮すれば,基肥は入水後,稲の2葉期頃に施肥することが可能で,乾田直播の現地での定着にはほ場の団地化並びに代掻を伴う移植とのローテーションが必要であるものと考えられた。